【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第75話 寿春攻略戦その3。高順・黄蓋隊は寿春西門へと移動した。南門の出入りはまず不可能だし、そこにいても仕方がない。ここで、高順と黄蓋は今後の対策を立てることになるのだが。~~~黄蓋の陣幕にて~~~『間者を潜入させた?』高順と黄蓋の声が重なった。これから先、西側の部隊はどう動くか、という打ち合わせを行っていたのだが二人して「考えがある」ということでそれを言ったのだ。「ワシは李典が踏ん張っておる間に周泰を紛れ込ませたのじゃがな。」「俺は西側の部隊が撤退する際に「影」を数十人・・・。」『・・・・・・』二人とも「しまった・・・」と肩を落とした。何故か、と言えば両者とも事前に相談をしていなかったのである。ぶっちゃければ独断専行。周泰も「影」もお互いが忍び込んでいることを知らない。例えば「食料庫燃やしてね」という命令があって両者がかち合えばどうなるだろうか。高順は、実際に食料庫襲撃を命じており、民が飢えているのに食料を燃やすというのは嫌な選択であったが、結局「孫策さんにたかられるよな?」という結論に達して妥協する事にした。食料を手配して送られてくるまでの間は孫策も炊き出しを行うだろうし、自分の部隊からも食料を捻出させるつもりだ。それは良いとして、二者が放った間諜が「怪しい奴!」ということで対峙して無用な混乱が発生する可能性だってある。「高順、お主「影」とやらに何を命じたのだ?」「食料庫を襲撃。周泰さんは?」「・・・周泰は食料庫の焼き討ち。」『・・・・・・はぁ~~~・・・」盛大な溜息。「お互いがかち合わないことを祈るのみじゃな・・・。」「・・・ええ。」案外に考えなしな二人であった。「ま、それはともかく・・・すまなんだな、高順」「はい?」「捕虜の事さ。ワシの部隊だけでは食糧を賄いきれんとはいえ・・・お主にばかり負担をかけてしまっておるな。」「ああ・・・あれですか。」高順は笑う。「確かに負担は負担ですけどね。あれだけ「美味い美味い」と言って食べてくれれば・・・ねぇ?」「ふふ、そうじゃな。楊奉じゃったか? 将軍級なのに涙を流しながら食べていたというのは。」黄蓋はからからと笑う。「そうですよ。いきなり「白旗大降伏!」とかいって土下座してくるし、将軍なのにお腹空かせてるしで・・・袁術軍はどうなっているのやら。」正直言ってあそこまで美味しそうに、そして涙を流して嬉しそうにご飯をかっ込む姿は悲しいものがある。将軍級であれだ。兵士などもっと嬉しそうであった。そのうちの一人が「捕虜になったほうがきっちり飯食えるなんてな・・・」と言うのを聞いて、更に悲しい気持ちにさせられたりもした。どれだけ兵士を飢えさせているのか、という袁術への怒りも湧き上がってきている。だから、食料庫を燃やせという命令もかなり辛いものがあった。そもそも燃やすほどの食料があるかどうかも不明ではあるが。そういった内心の苦悩は高順の周りの人も察していたし、黄蓋もなんとなく理解している。「ま、そこまで背負い込む必要はないわさ。お主一人でできることなど知れておるしな。」先ずは勝つことよ。と黄蓋は立ち上がり高順の肩を叩いた。「さて、間者を潜入させた事を策殿に知らせておかねばな。」と黄蓋は陣幕を出て行った。各陣に、黄蓋と高順隊の間者が潜入したことが知らされた。本来は夜に実行するべきなのだが、高順も黄蓋も夜中だと袁術に逃げられる可能性を考慮して「孫策が攻めたと同時に行動に移すように」と言い含めていた。「影」も周泰もその辺りは抜かりなくやってくれるだろう。問題はかちあった時だけだ。流石に周泰は「影」の人々一人ずつの顔など知らないが「影」のほうであれば何人かは周泰の事を知っているだろう。そこに賭けるか、と思うほかは無い。翌早朝、孫策軍全部隊が同時に攻撃を開始。孫策が前線に向かい、兵に混じって突撃。その姿に兵も勇気付けられたか、凄まじいまでの猛攻であった。(後で周喩に叱られたらしい「始まったみたいです・・・。」孫策軍の全面攻勢に周泰は「急がなくては!」と兵士の首をへし折った。彼女は既に食料庫に忍び込んでおり、守備兵を始末して回っていたのだ。後は携帯用の油を撒いてから火を起こせばそれで任務終了。あとは何とかして帰還するだけだ。しかし、随分と簡単ではあった。気のせいかもしれないが守備兵の数も妙に少なかったし・・・。周泰は全ての兵を始末してから油を撒き始めたが、不意に気配を感じて手を止めた。その気配は一瞬で消えたが、妙な揺らぎを感じている。彼女は背負っている刀「魂切」の柄に手をかけて辺りを注意深く見回した。「・・・誰です。」周泰は殺気を押し殺しながら呟いた。暫くして、気配の1つが降り立ってくる。「あんただったか。」「・・・?」声の主は楊醜であった。と言っても一方的に知っているだけで、周泰は楊醜の事を知らなかったりする。「あのー、どなたですか? 袁術側の人だと思っていたんですが。」「ああ。俺は楊醜。高順の部下さ。あんたも食料庫の焼き討ちに来たんだろ?」「高順さんの・・・それは失礼しました。仰る通り、焼き討ちが任務です。」刀から手を離し「ぺこり」と頭を下げる周泰。「よかったのか、ホイホイ信じて。俺が嘘をついてる可能性だってあるんだぜ?」「高順さんの部下に密偵方がいる、ということは何度かお聞きしていまして。確か青いツナギを着ていらっしゃる方がいるとか」周泰の言う通り、楊醜は青いツナギを着ている。戦場でその格好はどーなのアンタと言われそうだが彼曰く「生き様」らしい。「まあ、お互い派遣されてる事も知らなかったしな。あんた、これからどうするんだい?」「すぐに脱出して黄蓋様に合流するつもりですけど・・・。」これは楊醜らも同じ事である。入ったのだから出ないといけないのだが、西門に展開している高順以外は自分達を知らない。「そうか・・・。ん、良い事思いついた。」「・・・良い事?」「ああ。協力して何処か守りの薄い城門を開けようぜ。その方がお互い生き残れる確率も高いってもんだ」~~~西門~~~「粘るのぉ・・・」黄蓋は城壁から矢を射かけてくる敵兵を撃ち抜きつつ呟いた。撃っても撃っても沸いてくる。もう勝負は付いたも同然だというのに。諦めていないのか、それとも自棄になっているのか。袁術に忠誠を誓っているわけでもなかろうに、と思いつつも容赦をせずに射倒していく。(降伏勧告を行うべきだが、まだ敗北が決定的ではないところでやっても・・・しかし、将兵共に腹を空かせて・・・むぅ。)高順隊も同じく矢を撃ち込んでいるが、こちらは微妙にやる気が無い様に見える。本気で攻めるなら投石器を使うだろうし、西攻城部隊に限っては城門破砕槌も使用していない。これは黄蓋と高順の話し合いの結果決まったことであり、やる気が無いということではなかった。「北と東の部隊は全力で攻めるだろうから、こちらはわざと緩い攻めで行こう」と。そうすれば城壁、或いは門を守る兵が他の場所の応援に行って周泰らも出やすくなる。食料庫が燃えれば更に混乱が広がるだろうし、全体的に兵の士気も落ちて自分から門を開けてくるかもしれない。こんな攻めを続けて数時間。黄蓋は一瞬、だが確かに袁術側に広まった動揺らしきものを感じた。これは歴戦の勇士である黄蓋だからこそ明確に感じ取れただけで、高順や趙雲達ですらおぼろげに・・・程度だ。まして西側にいる他の武将が感じ取れたわけがない。そして、そんな好機を黄蓋が見逃す訳がない。「高順に伝えよ。攻め時じゃ、と。それだけで解る!」黄蓋は伝令を呼んでそれだけを命じ、伝令はすぐに高順の陣へと向かって走っていく。これで、攻撃準備が整った。「さあ、行くとするかの。そろそろ若い奴らも暴れたがっておるだろうしなぁ。」黄蓋は「とんとん」と自分の肩を2・3度叩いてから弓を構え直した。「・・・そっか。黄蓋さんに解りました、と伝えてください」「はっ!」高順の返事を聞いた伝令が、再び黄蓋の陣へと戻っていく。「大将、いよいよっすね」伝令が帰って行くのを見届けてから、周倉が高順に話しかけた。「ん。そういうことだから配置に。・・・ほんと、大丈夫なの?」「へ? 何がっすか?」周倉は何が? と頭をポリポリ掻いている。「城壁昇り。」「あー。大丈夫っすよぅ。前言ったとおり右足がずり落ちる前に左足で壁蹴り上がればいいんすから!」「・・・・・・そ、そっか。じゃ、任せる・・・」「ういっす!」高順の言葉に周倉は頷くが、高順からすれば「そんな事できるの貴方だけですよ・・・」と思っていた。寿春城にて。「どどどどどどどどうするのじゃあ、七乃ー!?(ななの。張勲の真名)」袁術の叫びが太守の間で木霊していた。もう何度聞いたか解らない言葉を耳にして張勲は「もう、今度こそ本当にどうしようもないですよ♪」と、のたまう。実際に、もう挽回の余地は殆どない。楽就との共同作戦も失敗。西門から出撃した部隊もあっさり降伏。食料庫は焼き討ちされてしまうし、今までは緩やかだった西側の攻撃軍も勢い盛んに攻めてくる。既に親衛隊の大半を動員して何とか保っているが、食料が無ければただでさえ低い士気がどん底になるだろう。城を守る部隊は居らず、いるのは女官や文官のみ。これでは打つ手などあるわけが無かった。時期を見計らって逃げる事しかできそうに無いのだが、全門を攻められて塞がれている以上、逃げ場所もない。「ど、どこかに抜け道とかは無いのかえ!?」「そんなのあったらとっくに使ってますよぅ。もう、そんな事も解らないだなんて能天気なんだから♪」でも、速く逃げの算段固めないとなぁ、くらいは考えている。城門突破に気を取られているうちに変装して、あと伝国の玉璽を持って。ここに押し込まれる前に脱出、どこかに身を隠す。城は陥落するだろうけど、その陥落のどさくさに紛れてなんとか国外に脱出。お嬢様は嫌がるだろうけど、北の袁紹さんを頼るとか・・・。よし、そうと決まれば。「さあ、お嬢様。ちょっとお着替えしましょうね~。」「え、着替えって・・・何をするつもりなのじゃちょっと離せー!?」「全兵、周倉を援護。敵弓兵は全て射倒せ!」高順の号令一過、兵は弓を構えて城壁上の敵兵に狙いを定めて矢を放つ。黄蓋隊も前進、破砕槌を押し出して今までの緩やかな攻めが嘘のように動いている。梯子をかけて登っていこうとする兵が射抜かれ、かと思えば射抜いた弓兵が黄蓋隊の弓兵に射抜かれる。お互いの兵が矢で撃たれ倒れていくが、士気の低い袁術側の兵は及び腰で、逃げに入っているものも少なくない。高順隊の先頭を走る周倉を狙っている弓兵も多かったが、それらは楽進の気弾や沙摩柯の強弓で優先的に倒されていく。城壁まで迫った周倉は走る速度を緩めず、そのまま城壁に足をかけた。「ぬぅおおりゃああぁああぁああっっ!!!」雄叫びと共に、一気に駆け上がっていく。「・・・本当に駆け登ってるよ」高順だけでなく、ソレを見ていた殆どの人が思ったことだがそれは置いて、周倉は足がずり落ちる前にもう片方の足を踏み出す。水の上を走る無茶な行いを実践するトカゲか何かが実際にいたと思うが、それと同じ・・・いや、全然違うが、とにかく周倉は本気で城壁を走って登っていく。「く、なんだアイツは! 狙え、撃て・・・ってもう来たあああ!!!」城壁守備隊の部隊長の一人だろうか。叫んで矢を射こもうとするが、それよりも速く周倉は昇りきって城壁守備隊の中へと踊りこんだ。「よいさぁっ!」「げはあっ!」長斧を両手に持ち、その場で勢いをつけて回転。何人かの袁術兵が巻き込まれ、斬り倒される。「くそっ」至近距離で矢を放つ者もいたが、周倉はそれより早く袁術兵の死骸を掴んで盾にする。「甘ぇっ!」「なっ・・・ぐおおっ!?」「賊の戦い方を舐めるんじゃねえよ!」怯んだ隙に周倉が突進、太ももに括り付けていた小型の斧を投げつけ、更に距離を詰めて敵の頭をかち割っていく。そして。「今です!」周倉が背を向けている反対方向に、今度は周泰が出現。城門を守る部隊は、黄蓋と高順が全力で攻めた隙を見て、周泰と楊醜(影部隊)が背後から襲撃、混乱中。その混乱を突けば破砕槌も突破をしやすいだろうし、事実防衛力が弱っている。此処は任せて置けば安心、と周泰は階段を駆けて敵兵を斬り飛ばしながら進んできたのである。「んお? 周泰じゃねーか!」「皆さんが突入しやすくする為に頑張るのです!」「楊醜とかは無事なのかよ?「はい、最初は知りませんでしたが、うまく行ったのです。」「そっかぁ。なら案ずる事は無ぇやな。気合入れて行くぜ!」「了解です!」周倉・周泰は城壁上で暴れ周り、次々に兵士を薙ぎ倒していく。「うむ、今のうちじゃ。更に激しく攻めよ、今ならば容易く城壁を制圧できよう!」黄蓋はそう言いながら自分自身で城壁を越えようと前進。当然のように兵は従い、更に袁術側への重圧を加えていく。高順隊も負けじと前に出て、高順自身が梯子をスルスルと上って城壁へと登っていく。城壁に展開していた袁術軍は周泰、周倉を抑えられず、更に黄蓋・高順の部隊が次々に現れたことで支えきれなくなる。まだ守ろうと踏みとどまる兵もいたのだが、大半が防衛を諦めて寿春政庁へ撤退するか、或いは降伏。これと同じ頃に北門・東門も制圧され、若干の守備隊を残して即座に政庁を包囲。殆どの兵が降伏か政庁に撤退して立て篭もる構えを見せたので、市外戦に発展する事は無かった。孫策は攻める前から「民に対して攻撃、略奪は禁止」と布告していたので、これはこれで都合が良いといえる。李典は城をジーっと見つめていた。中々堅固な造りであるが、それが活かせていない。もうちょい兵士にやる気あって、まともな武将が陣頭指揮とっとれば多少は違ったんやないかなぁ、と思う。兵士にやる気がなかったのは食糧不足と、一番上に対しての信頼のなさだろう。まともな武将がいない、とは思わないが、その武将が腹を空かせている状態では・・・。さて、考えるのはそこまでにして、と李典は螺旋槍を握り締める。そろそろ城への突入が開始される。突入部隊は各部隊精鋭(と言ったら高順が「じゃあ俺外れないと・・・」と言って楽進にシバかれていた)が揃えられている。他の将兵は逃げた兵を捕らえたり、或いは逃げようとする者を捕縛する。孫家は名のある武将ほとんどを投入しており、高順隊も高順・楽進・趙雲・李典。そこに兵が2000ほど投入される。他の者は市街地に潜んでいるかもしれない兵士の捕縛か殲滅が主任務。余談だが、城内突入の為に武器を必要とした高順に武器を貸したのは周倉であった。曰く「俺のお古でよかったら貸しまスよ!」と、渡されたのだが・・・形状はバトルアックス(柄の両側に斧刃が付いている)。しかし、その刃の部分がちょっと刃こぼれしてるわ、赤茶けた錆が付いてるわで、ハッタリの効き過ぎた鎧を着用している高順がそれを持つと、かなり怖い。どこぞのゲームに出てきそうな大魔王とか、そんな風貌なのである。背景に「ゴゴゴゴゴゴ・・・」とか「オオオオオォォオォ・・・」とか効果音が付きそうな勢いだ。柄が短く、バトルアックスとは言えそこそこ取り回しが良くて狭い場所でも使えそうである。これを見た趙雲がさらりと「夜中に会えば私でも逃げますな」と言った為、高順も素で凹んだとか。そんな幕間を挟みつつ(またしても)孫策が先頭に立って「突撃ーーー!」と号令。孫策軍は一気に寿春城内へと雪崩れ込んだ。「ななななななななな、ななにょー! どうするのじゃ、もう逃げられんではないかーーー!?」あ、お嬢様噛んだ、と心の中で突っ込みを入れつつ「孫策さんが来る前に逃げれると思ったんだけどなぁ」と張勲も困っていた。変装をしているとは言え兵士達に見つかれば「逃げようとしているぞ!」になるので隙を見ながらにしたのが逆に仇になったらしい。「仕方ありません、こうなったら」「こうなったら?」「隠し通路はないですけど、地下に隠し部屋はあります。そこに隠れましょう!」「無闇に殺すな、抵抗する者だけを斬り捨てればいいわ!」孫策は声を大にして、向かってくる敵兵の首を斬り飛ばした。血が全身にかかっているが、これは今までの戦闘が激しかっただけで、自分自身は血を一滴も流していない。孫策は戦えば戦うほどに剣閃が鋭くなるという性質で、今回はソレが遺憾なく発揮された戦いだった。中庭、兵士詰め所、宝物庫・・・主要な場所を瞬く間に陥落させ、兵士を降伏させ、非戦闘員は広めの食堂やらに適当に詰めていく。高順隊の面々もきっちり働いているのだが「ぎゃあああ!? 何か怖いのがいるーーーー!?」だの「ひええっ、ゆ、赦して! 後生ですから命だけはぁっ・・・」と、大して戦ってもいないのにほとんどが降伏してくる。そりゃ、あんな尖った黒い鎧を着たでっかいのが少し重たげに、ゆっくり戦斧を構えて迫ってくるのを見たら普通にそうなるだろう。戦いが無かった訳ではなく、幾人かの袁術親衛隊が斬りかかって来たので返り討ちにはしている。おかげで斧に鮮血が・・・。・・・これも理由の1つっぽい。と、そこで趙雲が青釭の刀を手に近寄ってきた。「高順殿、食堂付近の制圧は終わりましたぞ。」「ご苦労様です。李典と楽進はどうしました?」「地下にあるという食料集積庫に向かったようですな。孫策殿は太守の間へ向かったようですが・・・どうも、袁術が見当たらぬ、と。」「ふーん・・・どっかに隠れてるのかね。それとも逃げたか。」「さて? して、我々はどうします?」ふーむ、と高順は顎の部分に手を当てて考える。兵士は食堂を占拠して、捕虜とかはそこに詰め込んで・・・それに、袁術の顔を知らないし、探そうにも手がかりはない。もしかしたら捕虜の中にいるかもしれないが、そこらは孫家の人々に検分してもらえば良い話だ。「じゃ、李典と楽進の様子を見に行こう。もし苦戦してたら・・・無いよなぁ、やっぱり。」「無いでしょうな。それでは参りましょう。」二人は並んで地下へと向かった。~~~地下、食料庫~~~「ほへー、こない大きな造りとはなー・・・」「ああ。・・・なんだか、瓶が多いな。随分甘い匂いがする。蜂蜜か・・・?」李典と楽進は地下の食糧貯蔵庫に侵入していた。侵入と言っても邪魔者は排除し、兵士達にも捜索をさせている。隠れている者がいれば連行しなければいけない。「せやなぁ、蜂蜜の匂いや。・・・うっわ、ここいらの食料腐っとるし。高順兄さんがこれ見たらめっちゃ怒るやろなぁ」「そうだな。腐らせるほどに余ってるなら窮乏している人々に分けてやれ、くらいは言いそうだ。」ぶちぶちと文句を言う2人だが、ここで李典がちょっとした異変に気がついた。貯蔵庫の一角を見つめて不思議そうな表情で近づいていく。「・・・?」「む? どうしたんだ?」楽進が怪訝そうな表情で付いてくる。「・・・・・・んんー?」なんやおかしいなぁ、違和感があるんやけど・・・ここは地下で貯蔵庫だが、城の造りから言ってここはもう少し広い筈だ。この規模の貯蔵庫と他にあった地下部屋の大きさから考えて、恐らくだが「ここから」城は作成されている。城を作った後に地下室を作った、というような造りではない。(そう仮定して、基本の造りがそーなると・・・さっきうちが外側から見てた大きさから考えたら、ここにもう1つくらい大部屋がありそうなんやけど)んー、と唸りながらそこらへんをこつこつと叩く李典。すると、少しだけその感触に違和感があった。こつこつ、と叩いた音が軽い。この裏に空間がある感じだ。「なあ、凪(なぎ、楽進の真名)。ちょい、ここ押してみ」「ん、何だ・・・どれ。」楽進は李典の指差した場所を人差し指と親指を当ててぐいぐいと押してみた。「・・・今、少しだが変な感じがしたな。この裏に隠し部屋、か?」「せやろ。けどなぁ、これうちらの独断で何とかして良いえもんちゃうやろーし。どないするかな。」「隊長を呼んで来ようか?」「せやなぁ、そのほうが良えわな・・・あ。噂をすればえろ・・・ちゃうか」言葉通り(?)、部屋に高順と趙雲が入ってきた。「やあ、順調そうだな、凪、真桜」高順は、あまり人前で真名を呼んだりはしないが、今は仲間内ということで普通に2人を真名で呼ぶ。「ちょうど良いところに。」「え?」楽進と李典は、二人に事情を説明。高順は特に迷うでもなく「じゃあ開けるか」と斧を構えた。「え、そないに簡単に決断してええん?」「良いよ。ここが逃走用の隠し通路に繋がってるとかのほうが問題だしね」よいせっ、と斧を叩きつける。べぎゃあっ! と音を立てて壁が崩れ、その向こうに通路が見えた。「大当たり、ってことか。じゃあ行こう」「お待ちください。どんな罠があるか解りません、ここは私が」行きかけようとする高順を押し留めて、楽進が先頭に立とうとするが、高順は「ああ、大丈夫大丈夫」と笑った。「何かあっても問題ない。俺が怪我するだけで済むしねぇ」「そ、そういう問題では・・・ああ、もうっ」ずかずかと進んでいく高順に、その背を追う楽進。趙雲も李典も「やれやれ」と苦笑して歩いていく。通路は狭く、人が2人並んで歩くことが出来ない。照明用の蝋燭と蝋燭立てが壁に吊るしてあるが、ソレは使用されていない。奥のほうに光が見えて、そこは部屋になっているのが見て取れた。その光のすぐ側には・・・。「なな、七乃! あっさり見つかってしまったぞ! しかも斧を持った珍妙不可思議な物体がこっちに来よる! なんとかせぬか!」「えぅぅ、無理ですよー!」と、抱き合う金髪の幼女と青髪の女性。袁術と張勲である。「・・・物体とか言われた。」寂しそうに言う高順だが「いや、それは仕方ないのでは。」と後に続く3人は考える。だって怖いし・・・。さて、その抱き合っている二人だが、格好は今までに捕らえて来た女官と同じものだ。しかし、ただの女官が隠し部屋に、それも2人きりで隠れているというのは考えにくく、袁術か、その袁術の縁者と思われる。女官の格好をしているといっても逃げるための変装かもしれない。高順もそれを理解しているが、もしそうでも断を下すのは自分ではない。下すとすれば、袁術に延々こき使われて利用されてきた孫策が行うべきで、それが孫策のやるべき仕事なのだ。民を蔑ろにした袁術には嫌悪感があるが、目の前の少女が袁術と断定できる訳もない。高順は「・・・適当に縛ってどこぞの個室に連れて行こう。見張りは凪と真桜。俺は孫家の人に伝えるか・・・」と決定。嫌がって暴れる袁術と張勲だが、趙雲らに敵うはずもなくあっさりと縛られた。趙雲が(何故か)嬉々として米俵の縛り方で2人を縛っていたが、高順は「絵面的にやばすぎるよなぁ・・・」とあまり係わり合わないように遠目から見ていたとか。高順達がそんな事をしている間に、孫策は最上階まで到達。太守の間を制圧して完全に寿春を占領した。ただ、袁術が何処にも見当たらず、城内制圧に同行した孫家の武将を総動員して行方を捜索。そんな中で黄蓋は「そういえば高順が捕虜を食堂に押し込めていると聞いたな」と思い出し高順を探していた。高順も、孫家の人に見てもらったほうが良いだろうな、と孫家の人々を探していたが、運良く途中でバッタリと出あった。「おお、探したぞ高順。捕虜の検分をさせて貰いたいのだが構わぬか?」「ちょうど良いところに・・・ちょっと見てもらいたい人が二人」同時に発言したが、黄蓋は即座に「どんな奴だ!?」と聞き返す。「青い髪の女性と、金髪の幼女ですが?」聞いた黄蓋はすぐに「どこだ、案内せい!」と高順の腕を引っ張って歩き出した。「いや、どこにいるか知らないのに歩き出されても!?」と高順は興奮する黄蓋を宥めて、部屋へと歩いていった。結果・・・二人は袁術と張勲と判明。そしてほんの30分と経たず、袁術らを閉じ込めた部屋には孫策、周喩、孫権・・・といった孫家の主要な面々が揃っていた。「あぅぅぅう・・・」完全に泣き出し、座り込んで震えている袁術と、その袁術と抱きあう張勲を孫策は立ったまま見下している。孫策は、同じく部屋にいた高順に「良く見つけてくれたわね。大手柄よ」と声をかけた。高順は「楽進と李典のおかげですよ。恩賞だったら2人にお願いしますね」と言って肩を竦める。「部下の功績は主の功績。胸を張りなさい」と孫策は少し苦笑してから、さて・・・と袁術と張勲に意識を向けた。「よくもまあ、生き恥を晒そうと思ったものよねぇ・・・。ここまで追い詰められる前に降伏しようとかそういうつもりは無かったわけ? どれだけの兵士が命をかけて、そして死んでいったと思う?」孫策の声色には殺気が篭っており、その殺気を裏付けるように鞘から剣を抜き放った。「ひええええっ!? わわ、妾を殺すというのかぁぁ!?」「とーぜんよ。今まで散っ々コキ使われてきたんだから、意趣返しくらい当然よ?」「なな、七乃七乃ぉ! 妾を助けるのじゃ!」「無理!」「なんじゃとー!? 七乃は妾の傅役ではないのか!?」「孫策さんには勝てませんよぅ!」「それでも妾を守るのが七乃の役目じゃろー!」「守ります! 後ろから見守っています!」「見ているだけ!?」ここまで来て漫才を繰り広げる二人だが、孫策は冷徹に「はいはい。そろそろ終わりにして良いかしら」と告げる。「いい、嫌じゃ嫌じゃ! 妾はまだ死にたくないぃ~~~!」「私もですぅ~!」ぎゃーぎゃー泣き喚く袁術と張勲。だが、孫策はまったく気にしない。「ざーんねん。だから殺すの♪ さぁ、そろそろ覚悟は良いかしら。具体的に言えば首と胴が離れる覚悟。」『ひぇぇぇぇぇ~~~~!!!』(あの、隊長・・・)(ん?)楽進が高順の鎧をちょんちょん、と突っついて小声で話しかける。(止めないんですか?)(俺にはそんな権限ないからね。それに、決断するのは孫策殿だしね)(それはそうですけど・・・)楽進はちら、と孫策のほうへと目を向ける。赦すつもりがあるのかどうか知らないが、このままでは本当に袁術たちの首と胴は離れるだろう。見苦しく命乞いをする二人を、孫家の面々・・・孫策・周喩・孫権・黄蓋と言った人々は冷たく見下ろしている。それはそうだろう。高順も対黄巾の時に譲った手柄を袁術に奪われた、ということを黄蓋から聞いているし、そういうことは珍しくもなかったのだろう。そうやってじっと耐えてきた孫策達に、横から口出しをするつもりも、そんな権利もないことを高順は理解している。民の、兵の、そして紀霊や楊奉の飢えっぷりを自分で見た高順にとって、袁術ははっきりと嫌うべき存在だ。丁原ですら民の生活は気にかけていたし、良く酒を買っていたが高い酒はあまり好まず安酒を飲んでばかりいた。「こうやって使わないと金っていうのは回らないからな」と丁原は言っていたがあれは自分が飲みたいだけでは? とか思っていたものだ。内心では半々くらいの気持ちだったかもしれない。あの、割ときっつい丁原様ですら民の生活を気にされていた。それなのにこの袁術は。と高順は袁術を睨んでいた。まだ子供だから多少は目を瞑らないといけないかもしれない。きっちりとした教育者に恵まれれば更正も可能かもしれない。だが、丁原・曹操・公孫賛・張燕・董卓・呂布・孫策・・・曹操は僅かだが、高順は実に多くの人々の間を渡ってきて、その誰もが民の生活にも目を向ける人々であった。今目の前にいる袁術は高順にとって初めて、大領を預かりながら民の生活を気にかけぬ暴政者。個人的な感情でしかないが、高順が孫策の立場であればまず袁術を処刑したであろう。楽進もこれほど露骨に殺意を見せる高順が珍しく、だからこそ小声で話しかけたのだ。しかし・・・袁術と張勲の命乞いを聞いていた孫策は不意にその殺気を和らげた。「もういいわ。なんか興醒めしちゃったし。」「・・・へ?」「逃げたいんでしょ? 勝手に逃げなさいよ。」孫策は剣を鞘に納める。「へ、に、逃げて良いのか?」「良いっつったでしょ。ただし! 条件が2つあるわ。それを聞けば許したげる。」「2つ?」「そ。先ずは1つ。私の領地にこれ以降金輪際、二度と入ってくるな。その時には本当に首と胴が永遠にお・別・れ・しちゃうから・・・」『ひっ・・・』お別れ、に思い切り力を込めて言う孫策に、抱き合ったままの袁術と張勲が悲鳴を上げた。「2つ目。袁術ちゃんに玉璽を預けてたわよね? あれ、返してくれる?」「ぎょ、玉璽とな!? あれ、妾にくれたんじゃないのかやっ」「んな訳ないでしょ。あれは兵を貸して貰うために質草にしただけ。兵は全部返したんだから玉璽を返すのも当然よ。」さあ、どうするの? と問い詰める孫策に、袁術は「ぅぅぅぅ~・・・」と渋りつつも懐から玉璽を差し出した。どうも持ち逃げするつもりだったようだ。孫策はそれを眺めた後に「ん、本物ね」と周喩に投げて寄越した。周喩も「ふむ、間違いないな」と呟く。「・・・ほら、何してんの。さっさとどこかに行きなさい。それとも・・・いっそ、ここで死ぬ? その方が生きるよりずっと楽よぉ・・・?」「ひええええっ! さ、さっさと逃げるのじゃ! 七乃ー!」「は、はい! さよ~ならぁ~~~~!」ぴゅーん! と信じられない速さで部屋を出て、2人はどこかに逃げ去っていった。「・・・良かったのかしら?」「さあ? でもまぁ、あのお馬鹿さん2人じゃ何もできないでしょ。馬鹿2人くらいだったら見逃すわよ。」周喩に、孫策は笑いながら答える。孫権も同意見らしく「仕方ないですね」と言うのみである。「さあ、一休み・・・と行きたいところなんだけど。まだもう一仕事残っているわよ。」皆は解っている。と頷く。「各部隊は城下の治安維持をお願い。すぐに統治活動に移行するわ。周喩、孫権もよ。」「ああ。」「はいっ!」「黄蓋は負傷者の救護と、民への食料の炊き出し。高順、貴方も手伝ってあげて。」「応!」「了解です。」孫策は珍しくきっちりと指示を飛ばしていく。袁術を打ち倒し、その追放にも成功した孫策。まだ周りの勢力が多く楽観視は出来ないが、彼女を始めとした孫家の人々は確かな手ごたえを感じていた。自分達は、遅れに遅れてこの場所にたどり着いた。他の諸侯は既に後にした開始地点に、やっと立つことが出来た。孫策はあれこれと忙しく動き始めた人々の中にあって、少しだけ目を閉じて・・・今は、心の中だけに生きている母、孫堅に語りかける。(母様。やっと、やっとここまで来れたわ。本当なら、母様が生きていいればもっと、ずっと前に通り過ぎたはずの場所に。でも・・・)まだまだここからだ。絶対に巻き返してみせるわ。孫策が、いや、孫家が新たな、そして真なる大望を胸に乱世に名乗りをあげた・・・その瞬間と言えた。~~~ちょっぴり番外~~~夜中。袁術と張勲は未だに寿春市外に潜伏、裏道を歩いていた。出て行け、と言われ、このまま留まり続けていたら首を斬られる事もありうるのだが、それでも彼女達は寿春にいた。理由は簡単。単純に出られなかったのである。よくよく考えてみれば、全ての門が占領され、孫家の軍勢が守っている。南門はまだ復旧していない。最初から出られる筈がなかったのだ。この辺りは完全に孫策が失念しただけであるが。袁術と張勲は手を繋いでとぼとぼと歩いている。「七乃~・・・これからどうするのじゃあ・・・」「どうしましょうねぇ・・・お金もないし、門からも出られないし。首が離れるまでもなく餓死しちゃうかも・・・」「ううっ・・・この袁術ともあろうものが惨めなのじゃぁ・・・蜂蜜水が飲みたいのじゃぁ」「無理ですよぅ、袁術様。今の私達じゃ水を飲むお金すらないんですっ」「うぅぅううぅぅ・・・惨め過ぎるのじゃぁ~~~・・・」当て所なく彷徨う二人だが、ついに袁術が音を上げてその場にへたり込んでしまった。「もう、歩けないのじゃあ・・・」「そんなぁ、しっかりしてくださいよー」「嫌じゃ! 妾は腹が空いたぞ! 蜂蜜水も飲みたいのじゃ!!」お腹が空いても、蜂蜜水が飲みたくても、金がなければどうしようもない。ばたばたと暴れる袁術に張勲も困り果ててしまった。「ん? ・・・あれは。」そんな所へ通りかかったのは・・・高順。高順は「おい」と漫才2人組に声をかけた。「ぴぇっ!?」「ぴぇ? ・・・良いけど、何をしているんだ。出て行ったんじゃないのか? 金輪際、孫策殿の領地には入らないという約束だったろう。」「・・・? あのぉ」「何さ?」「どこかでお会いしましたっけ?」高順は「はぁ?」と思ったが、考えてみれば自分は今鎧を着けていない。そういえば、鎧を着た俺しか知らないっけ、と高順は思い直した。「さっき、珍妙不可思議とか物体とか言われた人だよ。鎧と斧持ってたアレ。」「・・・おお、アレか!」「アレですね、お嬢様!」アレで理解されるのも悲しいものがある。「別に良いけどね・・・で? 何でまだここにいるんだ。」「それは、そのー・・・出られなかったんです。」「・・・・・・。」聞いてみれば、城門は閉ざされて出るに出られなかったとか。話を聞いた高順も「なるほど、そういうことか」と納得してしまった。「なら、出られるように話をつけてあげるよ。付いて来なさい」高順は背を向けて歩き出そうとするが、ここで袁術の腹が「くぅぅぅ~」と音を立てた。「うう、七乃~ぉ・・・」高順は少しだけ振り向いて空腹か、と理解した。が、高順は珍しくこれに同情をしない。今まで袁術は民を飢えさせていた。少しくらい飢えて困窮した民の気持ちを知るべきなのだ。自分の行ってきた暴政のツケを自分の首で購わずに済んだ、という事でも感謝をするべきなのかもしれない。ちなみに高順が夜中に裏路地を歩いていたのは、治安活動の一環であり、また炊き出しを行っているので飢えて動けない人とかはいないだろうか? と探し回っている最中である。幸いにも、治安自体は現状で特に問題ない。なのでメインの仕事は炊き出しと、そこに人を連れて行くと言うことになる。「もう妾は動けんのじゃ、何とかするのじゃ!」「何とかって言われてもぉ・・・。」張勲は助けを求めるように高順を見るが、高順はそれをできるだけ無視した。「飯を食う暇があればさっさと出て行くべきだと思うけどね。見つかったのが他の人だったらすぐに首から上が無くなってただろうし。」ほらほら、早く立つ。と高順は急かすが袁術は動こうとせず文句ばかり垂れる。「何故妾がこんな目に会わなければならんのじゃっ。妾が何をしたと言うんぢゃぁー!」具体的に言えば、民を飢えさせて、でもって孫策殿を怒らせた。自業自得。と高順は心の中で突っ込みを入れる。「お嬢様、ガンバです! お嬢様はこんな事でへこたれる繊細な心をもってないんですから!」子供のように駄々をこねる袁術と、フォローになってないフォローで慰める張勲。実際に袁術は子供だし、駄々をこねるのも仕方がないといえば仕方がないのだろうが・・・やはり、周りの育て方が悪すぎたのかな? と高順は思う。(そういえば、この張勲って人が袁術の傅役とか言ってたな・・・言動を聞いていると腹黒っぽいし、この人の教育の仕方が悪かったのでは。)「・・・はぁ。もう良いよ。2人とも、ちょっと付いてこい」高順は袁術の首根っこを捕まえ、ぶら下げて持っていく。「ぎょえええっ!? 苦しっ、首が、首がっ!」「お嬢様ー!?」叫び声を無視して、高順が向かった先。そこは炊き出し場所であった。沢山の生活に困った人々の手には握り飯とお碗に一杯の味噌汁。皆、美味しそうにお握りをほお張り、味噌汁を啜っている。袁術とそう変わらない年頃の子供が、よほどお腹をすかせていたのだろうか。「おかーさん、もうたべちゃだめ?」とせがんで母親らしき女性を困らせている。母、子ともに服は汚れていて辛い暮らしをしていたであろうことを窺わせる。基本的に配給されるのは一個だけだが、それをたまたま聞いていた高順が近づいていき「お握り、美味しかったかい?」と子供の目線に合わせるようにしゃがみ込んで聞く。袁術の首根っこ押さえたままなので異様な光景になってしまっているが・・・。その子・・・女の子か男の子か解らないが、高順の言葉に、目を輝かせて答える。「うん! すごくおいしかった! あの、おみそしる? っていうのもあったかくておいしい!」 「そっかぁ。ふふふ、じゃあ、特別にもう一個お握りとお味噌汁をもらってきて良いよ。」「ほんとう!?」「ああ、本当だ。でも、あまり食べ過ぎないでくれよ。他の人の分が無くなっちゃうからね。」「うん! ありがとう、おにーちゃん!」子供は配給所まで歩いて行った。本当は特例とかを認めるわけにはいかないのだが、廬江でも同じことはあったし、こういうことも想定して食料を多く用意してきたので問題は少ないだろう。「あの、ありがとうございます・・・。」母親が頭を下げるが、高順は「ああ、いいんですよ」と笑う。「子供は国の宝ですよ。お腹の空く年頃でしょうしね。」気にしないでください、と笑いかけて、高順は少しだけその場を離れてから袁術を離した。その袁術はじっとこの光景を見つめて信じられないものを見た、という表情をしている。「これは・・・何なのじゃ?」「炊き出し。食糧の配給だよ」「そうではない! ・・・七乃、これは何なのじゃ? 何故、こんなにも」「え? えぇと、それはぁ~」「妾は聞いておらぬぞ! 何故、ここまで生活に苦しんでいる者が多いのじゃ!!」・・・はい?「・・・袁術さん、あんた、知らなかったのか? 民は飢えて食べるものが無かったんだ。紀霊さんや楊奉さん。兵士だって飢えていたんだぞ?」「何じゃとっ・・・七乃!」「あうあうあうあう・・・」何だろう、様子がおかしい。「えーと、張勲さん。事情を説明してもらえる?」「はぅぅぅ・・・それは、ですねえ。」話は1年ほど前。その時、その場には孫策がいなかったらしい。蜂蜜のほかに温州蜜柑を好んでいた袁術だが、それを運んでいる最中に市街地で馬車の荷台が石に蹴躓いて、荷台に山と積まれていた蜜柑がいくらか零れ落ちるということがあった。その一つを、ある子供が服の袖の中に1つ忍ばせて盗もうとしたそうな。この時、袁術はたまたま馬車の中からそれを見ており、降りていってそれを咎めた。その少年は、恥ずかしそうに蜜柑を差し出して「お母さんに食べさせてあげたかったんです」と答えたのだという。これを聞いた袁術は「・・・そなた、貧しい暮らしをしてるのかえ?」と聞いて、少年はそれに頷いた。母親と二人暮らしで、父親も兵士として従軍して戦死。働き手は自分しか居らず、苦労している・・・。そんな話も聞かされた。これを聞いた袁術、「そうか・・・」としょぼくれた。袁術自身、幼い頃に父母を無くして張勲が母親代わりである。なんとなく同情してしまった袁術は「・・・良いわ! 好きなだけ持っていけぃ!」と半ば自棄っぽい気前の良さを見せた。これのせいで、他の貧しい暮らしをしている子供たちまで蜜柑を持っていって、その荷台1つ分の蜜柑はなくなっている。この時に、袁術は張勲に質問している。「なぁ、七乃」「何ですか、お嬢様?」「妾は知らなんだ。妾とそう変わらぬ歳の者がああも貧しい暮らしをしているとは」それはそうだろう。袁術は基本的に外の世界を知らない。華やかな城の生活しか知らず、外の世界などほとんど見たことが無かった。それから、袁術はほんの僅かに変わった。蜂蜜を求める回数の多さは変わらなかったが、折に触れて「のう、民はまだ貧しいかや?」と張勲に聞くことが多くなったのである。ソレに対して「大丈夫ですよぅ、お嬢様の威徳は浅く狭く民に広まってますから♪」と、張勲は答えていたそうだが。「・・・つまり、あんたが原因の1つか」高順は三刃槍を張勲に向けた。「ひええええっ!?」びびった張勲はぺたり、と尻餅をついた。張勲が素直に「蜂蜜ばっかり買うから、そのせいで民の税金は増える一方」とか言えば、まだマシになった可能性がある。聞いた感じだと、袁術は散々わがままに育てられていたようだしまだ子供だから期待は出来なかったかもしれないけれど、その可能性を潰した育て方をするのは見逃せない。「た、助けてー!?」「あんたの育て方が悪いから袁術の性格が歪んだと。元凶は断つべきだよね・・・」冷たい表情で槍を握る手に力を込める高順。だが、そこに袁術が割って入った。「や、やめてたもれ!」「却下。退いて」「冷たい!? い、いや、退かぬぞ! 七乃は、妾のたった1人の友達で母親じゃ! 絶対に退かぬ、媚びぬ、顧みぬぅ!!」「お、お嬢様~~~・・・」いやそれ間違った使い方なんですけど・・・。という突っ込みはともかく。このただならぬ雰囲気に周りの人々がざわめく。一体何があったのだろう? とばかりにヒソヒソ話をするものもいる。この険悪な空気の中、先ほどお握りと味噌汁を貰いに行った子供が怖じもせず高順の服を「くいくい」と引っ張った。「ん・・・ん? さっきの子・・・どうしたのかな?」「おにーちゃん、よわいものいじめしたらだめなんだよ?」「え?」「よわいものいじめしたら、めっ、てしかられちゃうよ? おにーちゃんはやさしいひとだよね?」「・・・うっ。」今度は高順が追い詰められた。こういう、純真な子の言葉ほど心に突き刺さる。高順は恥ずかしそうに槍を収めて、子供へと向き直った。完敗である。それを見た子供は、えへへ・・・と笑った。「あ、そうだ。おかーさんがね、おれいしてきなさいって。ありがとうございました。」子供は、先ほどの母親と同じように頭を下げた。見れば、その母親が半分ずつに割られたお握りと、味噌汁のお碗を持ってハラハラとこちらを見つめている。「む・・・そっか。あまり気にしなくて良いからね。お母さんの事、大切にするんだよ?」子供は「うん!」と元気良く頷いて母親の元へと帰って行った。血なまぐさい空気が薄らいだ事で、周りの人々も食事へと戻っていく。高順は自分の頭を「こつんっ」と殴った。自分が断を下すつもりは無い、と言っておきながら怒りのあまり張勲を斬りそうになった。自制しなくちゃなあ、と思いつつ、さて、と高順はもう一度袁術のほうへと体を向けた。袁術はまだ両手を広げたまま張勲の前に立って高順を睨んでいる。袁術を許せるか否か、と言われれば、やはり許せない。彼女は知らずとはいえ、民の暮らしを追い詰めていたのだから。だが、彼女は可能性を見せた。人として立ち直れる可能性を。本当にどうしようもない人間なら、自分が危険な思いをして他者を庇うことをしない。可能性があるのなら、そこに賭けてみたい。ここよりも甘えの利く時代に生を受けた高順の、そこは譲れない甘さで、考えの1つだった。「・・・まあ、出て行ってから再度入ってきたわけじゃないし。出られなかったのはこちらに不備があったからだし。」自分に言い訳をして、高順は配給所に入っていった。暫くして、お握り二つと味噌汁をお盆に載せて袁術の元へと戻っていき、それを渡した。「ほら、腹が減ってるんだろ。」「へっ・・・よ、良いのかえ?」「悪けりゃ持って来ないよ。食べなよ、体暖まるし。蜂蜜水は無いけどね。ほら、あんたも。」高順は、へたり込んでいる張勲にも渡す。「あ、ありがとうございますぅ・・・」「・・・ずずっ。むぅ、塩が利いてて美味しいのじゃ」高順は、食事を摂り終えた二人を連れて門の外まで送り出した。こんな現場を孫家の武将に見つかれば裏切りとか何とか言われかねないし、大問題だが「かまうものか」と思う。この二人が孫策の邪魔をできると思わないし、何か大それたことが出来るとも思えない。もう係わる事はほぼ無いだろう。ここまでしているのは自分の対応の不味さに反省しているからでもあった。袁術の去り際に、高順は「ちょっと待った」と引き止め、懐から袋を取り出して袁術に渡した。「何じゃ、これ?」「中身には金になりそうな宝玉が入っている。どこかでそれを売り払って金にしなよ。それと」今度は張勲に「護衛用だ」と腰に帯びていた刀を鞘ごと渡す。「ここまでして良いのかえ?」「こちらに不手際があったのは確かだからねぇ。その詫びだよ」詫びにしては随分とやり過ぎの感もある。「もう二度と、孫策殿の領地には入るなよ。庇いきれないからな。・・・張勲さん、あんたも変なことをその娘に吹き込まないように」「あぅ、善処します・・・」二人は何度も、見送る高順に頭を下げて寿春を去って行った。高順の危惧通り、この現場は同じく治安・炊き出し活動をしていた黄蓋に一部始終を見られて、或いは聞かれていた。黄蓋は別段疑うことはしないが、立場上孫策に全てを話している。一部の人々は「高順を罰するべき」と言うのだが、孫策は「ああ、そりゃ城門が閉じられていたら出られるわけ無いわよね」と納得した。資金を渡したのも、金がなくなって寿春に戻ってこないように手を打った、とも見れる。袁術が脅威とならないこともあって、利敵行為及び、叛乱にも繋がらない、として特にお咎めなし、と言うことになった。その代わりというべきか、この後、高順は意味も無くこき使われることが数度あってそれが孫策なりの「罰」であったかもしれない。「でも、あの袁術ちゃんにそんな側面があったなんてね・・・。」それを私に見せていれば、多少は扱いが違ったかもしれないのにねぇ。と孫策は苦笑する事しきりであったという。 ~~~楽屋裏~~~萌将伝届いた!(・・・。)な、何だ、このアダルティな3人は・・・馬岱? 張飛? 璃々!? 嫁にするしかnあいつです(オーバーヒートな挨拶通販特典の小冊子に書かれていた3人が素敵です。なんという素敵バディ。これは色々と妄想してXXX・・・ごめん嘘。(ぁぁしかし・・・萌将伝起動せず。( ゜д゜)・・・・・・真恋姫も最初起動しなかったんだよ・・・毎回起動しないからってサポートにメールするの面倒なんだよ・・・頼むよ本当に(涙つうことで買ったは良いが全くプレイできていない現状。んっがぐっぐ。そういやぁ、応援一覧どうなったんだろう。 前回言った通り今回で袁術編は終了です。無理やり詰め込んだせいで纏まりが・・・毎回か。なんとか救済措置を取って欲しいという声もありましたし、常に悪役じゃ可哀想な部分もあるので、ちょっとだけ良い人にして見ました。袁紹だって覚醒したし・・・と思った結果、大失敗ぽいですけど・・・何だろう、本編と同じくらい長かったような(ぁぁぁこれから、彼女達の出番は二度とないでしょうwちなみに、蜜柑の話は横山御大の三国志にも出ていたと思います。曹操も好きだったような記憶。真・恋姫原作にも袁術が子供に蜜柑を分けるお話があったので、陸績の話が元だと思います。今回の子供ネタもそれに倣ってパクr・・・げふんげふん、インスパイアインスパイア。さて、次回からは言った通り暫く拠点フェイズです。高順伝、長くなりすぎたのでさくっと終わらせるべきだと思うのですが・・・まだ書きたいことはあれこれ有りますよ。基本へ原作改悪ですけど。それでは、また次回。更新した。