【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第74話 寿春攻略戦その2。「馬鹿な!?」楊醜の報告に黄蓋は立ち上がった。「そんな筈は無い! 荊州の袁術軍は援軍を出せないと」「だが事実。どうする、高順?」楊醜の問いに高順はすぐに決断して立ち上がる。「兵たちに伝えろ。それと東の孫策殿と北の孫権殿の陣に使者を出せ。今すぐだ!」「応!」楊醜はその場から去っていく。「影」を動員して各陣に伝えてくれるだろう。「黄蓋殿は」「解っておる、すぐに戻り部隊を反転させる。それと、牽制に一部ここに残すとしよう。しかし5万か・・・」南側の孫策軍兵力は約4万。将兵の能力はこちらが上回っているとは言え前後を挟まれた格好になり、しかも西側の城門を開けているのでそこから袁術が兵を繰り出してくる事も予想される。兵の抵抗が薄かったのも、多分だがこちらを引き込んでから北・南・西から兵を出して挟撃する事を目標としていたのだろう。「黄蓋殿、俺は皆に話しを伝えに行きます。失礼。」「おう、気をつけろよ!」2人は同時に陣幕から出て行った。高順はまず、李典の元へいき事情を説明。巨石投擲型の投石器で「南城門」を塞ぐように命令を下した。徐州で使った城門塞ぎである。これで南門から袁術軍は出入りできなくなり多少は楽になる。加えて、ほぼ全ての拡散型投石機と作成しておいた馬防柵を西側に向けるようにも命令しておいた。だが、李典はあまり乗り気ではない。「ええんか? 西に陣を向けるんはともかく誤差修正とかもやってたら時間もかかるし、ないとは思うけど下手したら石が民家に」「構うな」李典の言葉に、高順は断固とした口調で言う。だが、表情は何処となく苦しそうで李典としてもそこに救いを求めるしかない。あの高順が民に被害をもたらすような真似を容認するというのだから、自分達は相当に追い込まれてるというわけか。高順の表情が後味の悪い結果を示している気がした。「解った。なら、やれるだけやってみまっさ」「頼んだ。」高順は慌しく駆けて行く。西へと部隊を展開し、状況次第で南に向かうだろう。高順を見送った後、李典は珍しく真面目な表情で投石機を見つめた。(つまり、なるだけ少ない回数で城門塞げばええんや。・・・やったるわい、この李曼成(まんせい、曼成は李典の字)の腕の見せ所や!)李典は気合を入れて自ら投石器の位置調節に向かった。高順からの使者の報告を受けた孫策と周喩はすぐに対応を話し始めた。嘘か真かを調べるべきかもしれないが高順が自分達に嘘をつく意味がないし、本当に南20里程に接近しているのなら急がなくてはいけない。「冥琳(めいりん、周喩の真名)、貴方はどう思う?」孫策の問いに、周喩は特に迷うでもなくすらすらと答える。「恐らくは事実ね。出てきたのは荊州、江夏に勢力を広げていた袁術軍の楽就(がくしゅう)。すぐ南と言うことはこうなる事を予見して出てきていたと考えるべきよ。」「ってことは。荊州のほうは?」「空っぽね。荊州に送り込んでいた袁術勢力を全て呼び戻しているわ。そうでなければ5万の兵が集まるわけがない。」「ちっ。やってくれるじゃない・・・。」「やってくれたのは袁術ではないわ、張勲よ。」やれやれ、と周喩は頭を振って自分の考えの軌道をずらす事にした。まず孫権殿。あの人にも高順からの使者は向かったというが、彼女ならば下手な手は打つまい。孫策もそれを理解しているし、何より老練な韓当殿が脇を固めてくれているので不安はない。そして、こちらからも誰かを増援として南側に送るべきだろう。黄蓋殿と高順がいるとはいえ、南、そしてがら空きの西から軍勢を繰り出してくるはず。それが北へ向かうか南へ向かうか。牽制として北に出てくる・・・いや、主力は南に向けてくるか。そうすれば5万の軍勢とで南の我が軍を挟撃する格好になりうる。「雪蓮(しぇれん、孫策の真名)、程普殿に1万の兵を率いて南に出てもらうわ。それでも兵数はこちらが少ないけど、彼らなら問題はないでしょう。」「まあね。しっかし・・・張勲もいやらしいことしてくれたわねえ・・・」「ああ。道理で守備が脆いと思った。こちらを引き込んで南からの軍勢を使って後背を突くつもりだった・・・かしら。」「多分ね・・・ふふ。珍しいわね、冥琳の読みが外れるなんて。」「私とて人の身。往々にして間違いもあるさ。」周喩は確かに読みが外れた、と感じていた。実は彼女は袁術を逃がすつもりだった。別に温情をかけたとかそういう事ではない。袁術を荊州の袁術領に逃がして、それを名目に荊州へと攻め入るつもりだったのだ。劉表は袁術に自身の領地を侵されても動くことが出来なかった。彼は豪族連中の顔色を窺って方針を決めなくてはならない立場で、君主としての基盤は脆弱そのものである。江夏へとわざと逃がして、それを理由に江夏へ攻め入る。それから一気に荊州へとなだれ込む・・・というのが大まかな構想である。それが崩された、ということだ。もっとも、荊州に攻め入る理由など幾らでも後付けできるし、今現状で攻め入る理由が無いでもない。孫家の先代・・・つまり孫堅だが、彼女は劉表との抗争の中で戦死している。実際に手を下したのは黄祖(こうそ)だが、彼は袁術との戦いで戦死。だが彼に策を授けた蒯良(かいりょう)という軍師は健在で、それを理由に荊州へ攻め入る事だって可能だ。今回は当てが外れてしまったわけだが、数ある策の内1つが潰れただけでまだまだ手のうちようはある。「ところで冥琳。」「ん・・・何だ。」「高順と祭(さい、黄蓋の真名)、うまくやれると思う?」「ふっ・・・解っていて聞くものではないわ、雪蓮。」孫家の誇る勇将と陥陣営がそう簡単に負けるものか。と周喩は自信満々であった。袁術はというと。「七乃! なぜ勝手に荊州から軍勢を引き上げさせたのじゃー!?」袁術の癇癪が爆発していた。しかし、それを張勲はあっさり受け流す。「えー。だってぇ、これくらいしてもまだまだ不利なんですよぉ? それに、軍勢を集中しないと各個撃破されちゃうだけですもん。」「ぬぬぬぅ。じゃが、荊州はどうなるのじゃ?」「そのまま劉表さんに返しましたよぉ? 領地を返還するから後ろから攻撃しないでね♪ みたいな。でも、これだけ速く話を纏めたんですから褒めてくださいねー。」「むむむむ。」実は張勲は、紀霊が敗れて袁胤が逃げ戻ってきたのを見て内心「まずいなぁ」と感じてすぐに劉表と楽就のもとへと使いを出していた。楽就には「出来る限りの食料と軍勢をかき集めて寿春まで戻ってきてね」で、劉表には「自分達寿春へ帰ります。領地はそのまま返還しちゃいますから後ろから攻撃しないでね♪」である。逃げ場を失うのは得策ではないが、荊州まで逃げたとしても孫策と劉表に挟み撃ちを受けるだけと言うのがわかっていたからこその動きだった。楽就としては従わないわけにも行かないし、劉表としてもこれがイマイチ事実かどうかを計りかねていた。更に追い討ちとして「早く答えをくれないと江夏を焼き払っちゃうぞ☆」と脅迫そのものな手紙まで送った。そんなことをされては堪らない、と劉表はすぐに豪族に働きかけて答えを迫った。軍勢を戦争で動かす訳でもないし、無血で領地が戻ってくるのであればと劉表配下の豪族達もGOサインを出したのである。それが今実を結んで南を攻めている孫策軍の部隊を襲撃することができる、という状況だ。そして、袁術軍の武将は袁術含めて今初めてソレを知ったのであった。「しかし・・・知っているのなら一言くらい。」と楊弘は言うのだが張勲は「ほら、敵を騙すのなら味方から、って言葉に従ったんです☆」と相手にせず、心の中で「あっかんべー」をしていた。(ふーんだ。言えば誰かが孫策さんに密告しちゃうでしょ。そうはさせません)といった感じだ。張勲とて、この数でも孫策には勝てないということは解っている。あくまで時間稼ぎでしかないが・・・一度くらいなら苦戦させて追い返すことは出来るだろう、と張勲は読んでいる。その間に無傷の部隊と食料を持って一気に西に逃げる。荊州を通り抜けて益州あたりまで逃げても良い。傭兵とか山賊まがいの事をやって食料と兵を蓄えれば、まだ平和ボケしている西なら旗揚げしても何とか出来そうな気はする。孫策に勝てると思うほど自惚れたりはしないが、かといって向こうの読みどおりに動くのは面白くない。孫家と言う虎の一族からすれば自分達はただの雑魚のようなものでしょうけど、それでも油断すればチクリと刺されるくらいは覚悟するのです! と張勲は出撃する部隊の指揮を取るために門へと向かっていった。「隊長・・・南門は李典に任せて大丈夫なのでしょうか?」「ああ、大丈夫だ。もしもの為に兵を1千と閻柔さん・田豫さんを残しているし、黄蓋殿からも抑えの兵が出ている。上手くやれば門から出入りは出来なくなる。」楽進の問いに、高順は答えながら西へと意識を集中した。高順隊の大半は西へと向けて陣を向けており、投石器の移動や防柵の準備に入っている。南と北は黄蓋隊が防御を固めており、いますぐにどうにかなる訳ではない。恐らくだが東の本陣からもいくばくかは応援部隊が来るだろう。問題は今すぐ攻められれば相当な被害が出るということと、出張ってくる袁術軍の規模がイマイチつかめない、ということだ。少なければそれに越した事はないが、自分達の進退がかかっている状況なら、出せるだけの兵を繰り出してくる筈。趙雲も沙摩柯も同じように考えており、恐らくは北への牽制も含めて2万前後は来るだろうと予測していた。これは南門を使用不可能にして、という前提であり、全て李典にかかっていると言える。激戦が予想される南門から素直に出てくるか、それとも逃がす事前提で開けておいた西門から出てくるか。その予想がイマイチつかなかったのでこういう動きなのである。ただ、皆は李典の腕前を信頼しており、だからこそ西に向けて陣を展開していたのである。「よし、位置はそこ。後は投げたときの威力やけど・・・こればっかはな。」李典は兵に投石器の位置を調節させ、角度はこれで良し、としていた。あとは黄蓋隊の兵が引くのを待って石を投げつけるだけだ。しかし、一撃で成功できる訳はなく、どうしても最低限2発は打ち込まなければいけない。(その一撃目が城壁飛び越えて民家直撃とかせんかったらええんやけどな・・・ま、城壁の高さも高いしそんな心配はいらんかな?)「李典様、用意完了っス!」閻柔と田豫が黄蓋隊の後退を確認して声を揃えた。「おーし、ほならうちらも防御体制固めるんや。どでかいのかましたる!」「ほいさー!」城壁守備の袁術兵が盛んに矢を射かけてくるが、距離が遠くて当たる事はない。向こうが一気に出撃してこない限りは、そう恐れるほどのものではなかったりする。岩が設置された投石機に向かって、李典は合図を送る。その合図から数秒。巨石がぶぉんっ、と唸りをあげて寿春南門へと飛んでいった。付近にいた袁術兵は驚き、弓矢を捨てて逃げていく。そして、ずどぉんっ! と轟音を上げて城壁に着弾・・・だが、微妙に位置が外れて少し右よりに当たってしまった。「かぁ~っ! あれじゃ城門閉じれんな・・・もう1回や!」もう1度巨石を・・・と思ったところで、城門が開いた。袁術軍7千ほどの部隊が出撃してきたのである。この状況で出撃してくるのは相当に勇気がいっただろうが、むしろこの状況だからこそ出てきたのかもしれない。「り、李典様・・・どうするっスか!?」「慌てんなや。拡散型、よーい! ・・・てぇっ!」李典はいささかも動じることなく僅かに残されていた拡散型投石機を使用、袁術軍の前衛に石を浴びせかける。「弓隊も射ったれ、狙いなんぞつけんでええ! とにかく手数で相手の足を遅らせたるんや!」李典の命令を受けて、騎馬弓隊が応戦を開始。白兵距離まで近づかれたら突撃に切り替える手筈だ。相手に騎馬が多ければともかく、南門から出てきた袁術軍の編成は歩兵ばかり。(防柵ないんは痛いけど、黄蓋はんの部隊も守備に回っとるし問題はあらへん。時間稼いでもう一射や)何より、本命は今現在黄蓋が応戦している楽就部隊で、こちらは陽動だという事はわかっている。その証拠に、自分たちが今戦っている袁術軍の動きは鈍く、牽制程度にするつもりにしか見えないし、下手をすれば投石で逃げ場を失うので及び腰な面が見え隠れしている。もう1つ本命があるとすれば西側から来ると思われる部隊との挟み撃ちだが、それこそ高順がいる。趙雲に楽進もいる。多少の兵力差なら押し返すくらいの実力者ばかりなのだ。不安などない。李典は「前線が防いどる今のうちや、とっとと準備終えんかい!」と投石部隊に発破をかけ始めた。黄蓋。こちらは思った以上に苦戦していた。戦力差が倍以上なので、押し込まれているのだ。今まで城攻めの布陣であったし、急なことで満足に迎え撃つ陣形を整えることが出来なかった事が響いている。それでも、若い武将が「ここが手柄の立て時だ!」と兵に混じって奮戦しており、黄蓋隊の行う後方からの援護射撃がじわじわと効き始めている。このまま他からのちょっかいがなければ何とか押し返せる。時間を稼げば東の本陣からも増援は来るだろうし、後陣の李典も奮戦しているようだ。西の高順はまだ解らないが、よほどの武将が向こうにいなければ心配をする必要もない。戦力差はかなり厳しいということは解っている。恐らく1万近い兵数の差があると思われ、そこまで差があると高順でも苦戦は免れまい。「早くせねばな・・・。」黄蓋は僅かに焦りながらも、矢を放ち続けた。高順隊。こちらは弓兵が多数配置されている城壁に近づかないようにして、高順隊は移動。防御陣の構築をしていたが専門の工作兵などはいないので、ある程度のところで見切りをつけた。高順隊は、黄蓋隊よりも西に向かい袁術軍の迎撃。本来は戦力を結集して確固撃破と言うのが望ましいのだが、相手が相手なので戦力を分散させても多少は問題ないだろうということだ。ところで、西門から袁術軍が出てくると決まったわけではないのだが、それでも高順隊は西に向かっている。「意味は無いかもしれないが」と向かっているのだが、南からの楽就隊を城内に招き入れて防御を強化する・・・という事を主軸に置いて、袁術軍が動いたのでは? という事もあった。南からの出入りが困難なら、がら空きの西から。そして、その西から迎えの部隊を寄越すという「挟み撃ち」だと考えたのである。これくらい誰でも考えられるし高順のように動くだろうが、迎え撃つには戦力が必要になる。出撃してくる袁術軍に対して高順はその戦力が足りない。その為に投石器を多数移動させているのだが、これで足りるかどうか。あれこれと策は考えているのが、上手く行く事を願うばかりだ。さあ、袁術はどう動いてくるかな・・・と思ったところで眼前の門が開きだした。「・・・隊長。」「来たか・・・。前衛は周倉と趙雲さんに任せてある。あとは指示通りに!」後衛の高順・楽進隊は援護。前衛の趙雲・周倉は接近戦、という形だが、基本は矢を打ち込みつつ距離を取り疲弊を待つ。相手城壁からの矢は届かない位置で牽制をしつつ投石。というものが高順の指示だった。そんな高順は楽進の隣にいる。「ところでさ・・・何をするつもりなの?」「はい。少し試したいことがありまして。成功すれば中々の威力になるかと。」「?」楽進は移動中、高順に「少し試したいことがあるのですが」と切り出して援護を願い出ていた。援護と言っても「体を押さえていて欲しい」ということで何だか良く解らない。しかも、今の布陣。簡単に記すと(門)■■■■■■ ■■■←袁術軍□ □←高順隊 □ □上2つの四角が趙雲、周倉。中段が高順・楽進。一番下が投石部隊・・・こんな感じであり、袁術軍は予想通りこちらの倍以上の兵力だ。趙雲、周倉が矢を射かけている間に楽進が何かをするようで、そのせいで部隊同士の間が空いている。基本は少しずつ後退してとにかく矢と石を撃ちまくり、近づかれたらこちらから突撃、とここらへんは李典と変わりはない。この時点で楽進は気を溜め始めており、腰をずっしりと低く構える。「で、どうするんだ?」「先ほど言った通り、私の体を後ろから押さえていてください。」「・・・?」あまり意味が解らず、高順は虹黒から降りて気を溜めている楽進の体を後ろからがっちりと押さえ込んだ。「これでいいのか?」「はい。いきます! ・・・ハァァアァッ!!」「お・・・おぉ!?」気迫と共に、気が更に凝縮されていく。楽進は両手を前に突き出して、どこぞのファイナルフラッシ○みたいな構えを取った。(まさか、気弾を撃ち込むのか? 黄巾の時は特大の気弾を城壁にぶち込んでいたけど・・・)体に充満した気が溢れ、真っ赤な色に変わりバチバチと音を立て、体を伝う。周りにいる兵士も虹黒も巻き込まれないように退避して・・・。「っておいちょっと待って!? これ、俺一人が巻き込まれる流れじゃないですかね!?」高順の叫びも無視され、楽進の掌に気が集まって赤く染まる。「くっ・・・お、押さえていて下さいね。吹き飛ばされるかもしれませんから!」「は、はひっ!?」既に前衛部隊では戦闘が始まっており、こちらまで攻め込んでこようとする兵も多い。楽進は自分達の目の前で密集している敵兵に向かって両掌を突き出した。「う、ぐっ・・・おおおおぉっ!」(掌から特大の気弾・・・いや、違う!?)一体何を、と思ったその瞬間。気を凝縮させた極大な「光の線」が一直線に袁術軍へと飛んでいった。袁術軍の先頭を駆けるのは韓暹という男だった。元々は賊だったが、何の縁か袁術に従い、その上一軍の将だ。目の前、両翼に展開する部隊が矢を射かけてきて、しかもこちらより射程が長い。このままでは一方的に射倒されるのみ、と韓暹は軍を率いて突進していた。南門からは張勲が出撃して楽就と連携して挟み撃ちに。西門の自分はそれを援護し、あるいは孫策軍への牽制を担う。ソレが任務であった。幸い、こちらのほうが兵が多いので両翼に牽制部隊を当てて、自分達はその向こうにあるがら空きの本陣を狙う。歩兵なので機動力はないが、近づいてしまえば数で押し込める。良く見ればその後ろには投石器があり、放っておけば厄介な事この上ない。とにかく攻め込んでいくしかない、と真っ先に突撃を仕掛ける韓暹。だからだろうか。楽進の放った気光を真っ先に喰らい、真っ先に戦死したのも韓暹であった。「えーと・・・。」楽進の体を押さえていた高順はどうコメントしていいものやら、と光線が通り抜けていった跡を見ていた。趙雲・周倉隊の間をすり抜けてこちらに突撃してきた袁術軍を、なんというかもうエネルギー波としか言いようがない技で撃ち抜いたのである。沙摩柯は「何だアレ・・・」と呆然としているし、蹋頓は「あらあら」と笑っている。(どう見てもかめはめ○とかそんなんだよ・・・)と高順が思ったのは言うまでもない。「はぁ。はーっ・・・う、うまくいきました。ぶっつけ本番でも何とかなるものですね」高順の腕にしがみ付くようにしてなんとか立っている楽進は満足そうである。「・・・待て、ぶっつけ本番?」「はい。前からできないだろうか、と思っていましたがどうしても途中で気が足りなくなって・・・ここまでのモノになるとは思いもしませんでした。」「ぶっつけで成功させるのか・・・しかし、大した威力だ。」高順の言葉通り、今の(便宜上)気光攻撃はとんでもない威力だった。何百か、もしかしたら千人くらいは死傷しているかもしれない。貫通力はそうでもないし、距離があればあるほど威力は低くなるらしく、門に届く前には気光は消滅している。密集していた場所に叩き込んだのだから被害が大きいのも当然だろう。ただ、楽進の消耗が激しすぎる。たった一撃で肩で息をしているし、高順に抱えていて貰わないと自力で立っていることもままならないほどに。寿命を削りかねないな・・・と、高順は不安になり、蹋頓を呼んだ。「蹋頓さん、楽進を後方に下げてしばらく様子を見てあげてください。」「了解です。さ、行きましょうか。」「で、ですが・・・私も戦わなければ」疲労しながらも戦おうとする楽進を「はいはい、いい子ですから体を休ませましょうね♪」と蹋頓は全く取り合わず楽進を後方へと拉致っていった。(・・・。まあ、あれくらい強引でちょうどいいよ、うん。あれくらいしないと言う事聞いてくれない人ばっかりだし。)「あぁぁあぁあ・・・」と力なく叫んで蹋頓に連れて行かれる楽進を見送って、高順は改めて袁術軍と向き合った。見れば、今の楽進の攻撃で袁術の兵は明らかに浮き足立っている。というか趙雲隊と周倉隊も微妙にビビッている。殺意の塊と言うか破壊力そのものというべき光が自分達の横を通り過ぎて言ったらビビリもするだろう。これは自分も前に出ていかないといけないかな、と高順は虹黒に乗って投石部隊も攻撃を開始するように命令を飛ばしておく。その間に弓を構え、一斉掃射ができるようにしてから駆け始めた。(しかしまぁ・・・本当に凄いな、この世界。兵の多寡よりも一人の武将の能力のほうが高いって言うのだから。・・・俺、一番役に立ってないよなぁ)格闘では楽進と同等くらいまでは鍛えたが、気という決定力はない。統率・武力では趙雲・蹋頓・沙摩柯には敵わず、周倉のような俊足もなければ李典のような何かを作成し、創り上げる才覚もない。家臣・・・いや、仲間よりも数段劣っているという考えなら劉備と大差ない。「流浪を続け、行き着く先で居場所を失い、更には領地経営でも上手く行かず・・・はぁ。」ぽそぽそと呟く声は馬蹄の音に掻き消され誰にも届きはしない。ただ虹黒が聞くのみである。さて、もう一度袁術軍。突撃していった韓暹が気の光に呑まれて戦死したのを見て、もう一人の将である楊奉は完全に腰が引けていた。敵の前衛部隊を囲んだと思ったら、さきほどの光に兵が巻き込まれ、後方に控えていた部隊も前進。更には投石機による攻撃を行ってくる。こちら側の兵が多いのだが、先ほどの攻撃で一部が戦意を喪失しているし、攻撃に向かった部隊もあっさり押し返されている。向こうは牽制程度のつもりでここにいるのかもしれないが、その牽制だけでどれだけの被害を被ったか。囲んでいるのはこちら側で、向こうは半分程度の兵力。それなのに決定打を与える事もできていない。こうなれば出来る事はただ一つだ、と楊奉は前線へ向かう。趙雲・周倉隊と並んで袁術軍を防ぐ高順の目前に、一騎駆けで武将らしき男が近づいてくる。高順は大抵部隊の先頭にいるし、武将という事がわかりやすい格好。武将の一騎駆け、しかもこの乱戦で・・・ということは自分を狙ってきたな、と槍を構えて迎撃をしようとする。その男も高順を武将と見たらしい。ただ、高順に向かってきた男は。「我が名は楊奉! うけてみよ、我が技を!」「む・・・見せてもらおうか」「目に物見よっ! 白旗大降伏っっ!(馬から飛び降りて土下座)」「はぁ!!?」あっさり降伏したのであった。武将が一騎駆けで真っ先に降伏。そんな事をされたらただでさえ低い士気がどん底になるのは当たり前。前衛で何とか戦っていた連中も逃げるか降伏してしまい、門付近に展開していた兵もあっさりと撤退してしまった。南門から出撃した張勲も李典の防御陣を抜けず、投石器の攻撃・西側から繰り出した兵があっさり敗北した事を知って撤退。楽就も黄蓋を倒せず、また東側から進撃してきた程普の猛攻を喰らい戦死。逃げ場を失った兵はどうする事もできずに降伏。西側がもう少し頑張っていれば、楽就の兵も寿春に入城できたのかもしれないが・・・。「な、なんだかなぁ・・・」まともな戦いもないまま終わってしまった事に、高順も困惑する事しきりだったとか。張勲の策は味方に足を引っ張られる形で失敗。南門も塞がれ、以降は黄蓋と高順は寿春西門付近で陣を張る。防御力強化も孫策軍の戦力を削る事もできないまま、袁術は完全に逃げ場を失ったのである。~~~楽屋裏~~~やりすぎた。あいつです(挨拶まさか楽進さんがファイナルフラッ○ュかますとは・・・一撃で楽進が戦闘不能になり、そのまま戦ったほうが最終的に倒せる敵数は多いだろうと思います。これ以降は先ず出てこない大技ですね。これは私事なのであまり関係ありませんが、うちの飼い猫が先週亡くなりました。精神的に落ち込んだこともあって、少し更新が遅くなってしまったのですが・・・言い訳にはなりませんな。次回で袁術編も終了。袁術の処分はどうしようかなぁ・・・(遠・・・死んでもらうか?(ぉ~~~番外、その頃の袁紹~~~袁紹・審配・顔良・文醜と、兵士が10名ほど。袁紹一行、と言っても差し支えないが、彼女らは現在華陀の世話(?)になっている。食費などは全て華陀が出しており、流石にこのままでは・・・と袁紹は「これを売って足しにしてくださいな」と袁家に代々伝わる宝刀を出したが、それは断られている。「それは受け取れない。それに、こちらもそれほど金に困ってるわけじゃないんだ」と。華陀は徐州を去る際に高順から多額の資金を渡されていて、ちょっと使い切れない額である。「蹋頓さんが死なずに済んだのは華陀のおかげだから」と無理やり渡されたものだったが、よく調べてみると金だけではなく高価な宝物まで詰め込んであった。この乱世にあって一人の命にそこまでの価値を見出すというのは珍しく思うのだが、ソレを本人に言えば「これでも安いくらいだ」とか返されるのであろう。袁紹としてもいつまでも世話になるわけにも行かないし、華陀に「皆の食い扶持が欲しいのですが、世話をしてくれる方に心当たりはありません?」と駄目元で頼んでみた所、彼は少し悩んで「・・・一人だけ、ない事もない」と言った。その心当たりを探すために・・・彼女達は現在、広陵(こうりょう)にいる。「ん・・・? 華陀、だと?」広陵政庁で、部下から「華陀という者が面会を願っておりますが」と聞かされた現在の広陵太守、陳羣(ちんぐん)は「はて、どこかで聞いたような?」と首をかしげた。「その華陀とやら、何者なのだ?」「何でも前太守様のご友人だ、と。」「高順様の・・・?」陳羣は顔を上げ、じっと天井に視線を彷徨わせて少ししてから「・・・ああ、思い出した。」と口にした。そういえば、高順様がそのようなことを言っていたな。どういう経緯でそうなったかは知らないが、高順様の友人であり恩人でもある、と。もし訪ねてきたら話を聞いてやって欲しい、とも。「ふむ・・・会うとしよう。」「宜しいのですか?」部下は少し怪訝そうな表情を見せた。「ああ、構わない。何か問題でも?」「・・・その。華陀という者は問題ないのですが・・・あー。お付の2人に大いに問題がありまして。」「問題?」「紐下着一丁の浅黒い筋肉男と、褌と角髪(みずら)の、これまた筋肉男がお姉ぇ言葉を駆使して・・・」「・・・。」高順様、お仕えした期間が短いせいかもしれませんが時折貴方の事が良く解りません。貴方の交友関係はどうなっておられるのでしょうか。どことなく遠くを見つめて少し現実逃避をする陳羣であった。応接室に通された華陀達より少し遅れて陳羣も入室。・・・部下の言った通り、確かに筋肉男が2人。(公序良俗に反していそうな・・・よく捕縛されなかったな)と思うのは普通の思考である。それはともかく。「私が太守の陳羣です。ようこそお越し下された。」「俺は華陀。医術を志す者だ。後ろの二人は・・・まあ、気にしなくても良いか。」「酷いではないかだぁりん!」「そうよぉ、酷すぎるわんっ!」「頼むから少し静かに・・・で、1つだけ聞きたいことがあるんだ。」「何ですかな?」「高順の居場所を知っていたら教えて欲しい。」「・・・。申し訳ないが、答えられない。」「何故? 言えない理由でもあるのか?」華陀の問いに陳羣は頭を振った。「そうではない。知らないのだ。南に向かった、ことしか解らない。」「む・・・」「高順様は曹操様に仕えたくはないから、と南に向かわれた。汝南を経由して。そこまでは知っているが、そこからは解らない。」楊州に行ったか、荊州に行ったか。もしかしたら益州か交州か。そこまでは掴んでいないのだ。掴んでいたら掴んでいたで曹操に詰問されるだろう。「そうか・・・。」「申し訳ない。しかし、なぜ高順様を探しておられる?」「ん? ああ、頼みたいことが1つと伝言を1つ預かっていてな。」「成程・・・。」陳羣は考え込む。彼が高順を探す事に協力するべきか、せぬべきか。後日、南へと向かう船上に、華陀と袁紹一行の姿があった。「船を手配してくれるとはなぁ・・・陳羣とやら、何を考えているのやら。」審配は揺れる水面を見つめて呟いていた。「さぁ。どちらにせよ助かったのは事実ですわ。」袁紹は肩を竦めた。陳羣は華陀に「楊州へ向かうのならば船を手配しよう。ただし、行きだけで帰りは自分達で何とかしてくれ」と言った。その数日後、港に呼ばれた華陀達の目の前には食料と大型の船が一隻。忙しい合間を縫って見送りまでしてくれる陳羣に皆頭を下げ、感謝したが・・・この時、陳羣は袁紹に気がついていた。彼女は官渡の戦いの結末を知っていたし、袁紹が行方不明であることも知っていた。もっとも、曹操は袁紹を捕縛するつもりがないらしく人相書きも捕縛命令も出ることはなかった。未だ北に残る影響力を考えれば、ここで捕縛するべきか? と思う陳羣だったがすぐに「まあいいか」と思い直した。命令があるわけでもなし、そこまでして尽くす理由もなし。むしろ、余計なことをすればこちらの首が飛ぶだろう。船に乗ろうとする華陀に陳羣は1つだけ、高順への伝言を頼んでいた。「もし、どうしても行き場が無いなら広陵へ還って来て欲しい。自分が曹操に取り成して少しでも良い条件を引き出してみせる」という内容だった。華陀は船上で「やれやれ、行き着く先で伝言を頼まれてばかりだな」と苦笑していた。もし楊州にいなければ、次は荊州か、それとも交州に行くか。その先々で伝言を頼まれる状況は・・・ありそうで怖いな。と再び苦笑する華陀であった。~~~もういっちょ楽屋裏~~~暫く出ていなかった華陀達の現況です。もう少しで高順と再開できるのでしょうか。そして完全に忘れ去られている馬超の運命は如何に(ぇ?