【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第11話 官渡初戦より一月。戦況は膠着していた。袁紹はあまり時間をかけたくなかったが、要塞を無力化する方向に切り替えて、攻城兵器を前面に押し出そうとした。曹操には投石機があって攻城兵器に対しての攻撃方法があるのだし、袁紹もそれを理解している。それでも尚、袁紹は力押しを選んだ。それは田豊の病状が日々悪化している、という報告があったからだ。なんとかして早めに終わらせて良い報告を持って帰ってやりたい。田豊一人の事にかまけて決着を急いでいる訳ではないのだが、それもまた彼女の理由の1つであった。別働隊を派遣して曹操の後方を脅かすという手もあるのだが、あの曹操が備えをしていないはずが無い。兵力を別個に分けても、そちらに対して本腰をいれて撃破されてしまえばそれはそれで意味が無い。それに、見たところ曹操側の兵糧は長期で続くほどのものでもない、という報告を受けている。まずは兵糧が切れるのを待つ。そうすれば、後方から兵糧・戦争物資が送られてくるだろう。そこを狙うか、それとも手薄になった都市を攻撃するための別働隊を派遣するか。この官渡で全面攻勢に出て曹操を討つ、というのが袁紹の考えであった。何せ、曹操はしぶとい。ここで勝てたとしても、許都に立て篭もりつつ戦力再編などは当然として、時間が経てばまた同じだけの・・・いや、それ以上の戦力を蓄えてくる手腕を持つ。しぶとい上に確かな手腕があるのだから、敵対する側としては本当に厄介な存在である。時間をかけたくはないが、時間をかけたほうがより勝利を得られる、というジレンマを感じつつも袁紹は待つしかなかった。曹操も短期決戦を望んでいるのだが、一気に攻めかかられては要塞が保たず、かといって時間をかけられてはジリ貧になる・・・と、こちらもジレンマを感じている。そんな時に、貪欲で金銭に執着があると評された許攸が動き出す。許攸はこのところ、自分が袁紹に軽んじられていると感じていた。感じていたどころではなく実際に疎んじられて遠ざけられていたのだが。原因は韓馥の一軒での独断専行。つまり、同様に逢紀と郭図も疎まれている。自分達は「袁紹殿の為に動いたのに」と不満を感じていたが、それは袁紹にも同じ事が言えた。彼らは頭の出来は多少良かっただろうが人の心の機微を察する事は全くできないタイプだ。寛容そうに見えた袁紹の心中に、彼らに対しての冷たい怒りがあることに全く気付いていないのだ。そこに加えて許攸の家族が汚職で不当に財貨を得ている、という事実が発覚。即罰せられる事はなかったが、このままでは袁紹に誅される、と今更ながらに危惧を抱いた。そこで許攸は逢紀と郭図を誘って共に曹操に寝返ろうではないか、と持ちかける。彼は洛陽時代に曹操と知り合っており、それが寝返りを決意させる理由の1つである。そんなことをあっさり持ちかける辺り、割と駄目なのだが・・・逢紀と郭図も、期待に違わず駄目な人々。あっさりとそれに乗った。彼らは自分達の才覚に自信を持っているし、人格とかを考えなければそこそこ優秀ではある。が、彼らは曹操という人間が目先の利と、思い上がった才能に慢心するような輩を嫌っているという事を知らない。誤解の無い様に言うと、曹操は無能だからと言う理由だけで人を斬り捨てたりはしない。無能ならば無能なりに分を弁えていればいい、という程度の考えはある。~~~夜中~~~「よし、行くぞお前ら」「偉そうに言うでないわ・・・」「まったくだ、我々が人払いをしておいたからこうやって陣を抜け出せるのだ。感謝せよ、許攸」「喧しいわ。」許攸・逢紀・郭図は夜中にこっそりと陣を抜け出した。兵を払い、馬に乗って一目散に南・・・官渡へと駆けて行く。(途中で何度か兵と鉢合わせしたが「厠だ!」と誤魔化した降伏するに当たって、彼らが手土産としたのは袁紹軍の最重要機密。兵糧集積所の場所であった。彼らは何とか官渡要塞に到着、兵士に捕獲・尋問され最初こそ疑われたものの、何とか曹操に謁見し「烏巣」という場所で袁紹軍の兵糧物資が管理されている事を語った。曹操は彼らの情報は信じたが、彼らを信頼はしなかった。今のまま袁紹の元にいれば勝利側にいられる可能性も高いのだし、このような戦況が不利なほうに寝返ってくるのは自分達の売り込み時を計っていた、と思われて仕方が無いのである。また、曹操は許攸とは旧知の仲であり、彼の人間性を知っている。今は流石にないだろうが、いずれ問題を起こすのが目に見えているし、その時に処断してしまえばいい・・・程度の認識である。道案内として彼ら全員を連れて行くことを告げると真っ青になって「どうかご慈悲を」みたいなことを言っていたが、適当に流した、ていうか捕らえた。さて、この情報を信じない者は多かったが程昱と、特に郭嘉が烏巣を襲撃するように言い募った。このまま篭城を続けていても後が無い、という事もあり、また郭嘉が熱心に勧めた事もあって曹操は出撃を決定。守備は夏侯姉妹に任せて、曹操は自分自身と張遼・干禁、典韋・許褚。温存していた親衛部隊も投入、全てを懸ける心積もりであった。そして、袁紹。「あの3人がいない?」「は、どこにも姿が見えません。兵が言うには厠がどうとか言って何処かに、と・・・。」袁紹の陣幕には、袁紹、顔良・文醜に、報告に来た審配。「厠ぁ? んなもんそこらへんで用を足せばすむじゃん。」「文ちゃん、下品・・・」文醜の発言に思いっきり嫌そうに言う顔良。袁紹は溜息をついた。「ふぅ、寝返りましたわね・・・」「へっ?」「いつかこうなるとは思っておりましたけど。」「寝返りって・・・どうしてそう思うんですか?」「それ以外考えられませんわ。まあ、いなくなって困る者でもありませんけど・・・」割と事も無げに言い切る袁紹であった。正直言うと、あの三謀臣の代わりはいる。崔琰や王修、荀諶などがそれにあたる。むしろ、人格も良く内政もこなせる分、こちらのほうが扱いを上にしたかったくらいだ。3人はポカーンとしていたが、すぐに審配が「って、憂慮するべき事態です! 奴らが寝返ったという事は」「こちらの機密を握られた・・・烏巣の事も知れ渡ったでしょうねぇ。」これまた事も無げに言い切る。「顔良さん、文醜さん、審配さん。忙しくなりますわよ。」「え・・・?」「曹操さんは間違いなく烏巣に攻めて来るでしょう。あの人の性格からして、一番大事な部分は絶対に逃がしませんわ。」「え・・・ええっ!? それって・・・」まさか、そうなることも織り込み済みで・・・?顔良の、後に続く言葉が出る前に袁紹は立ち上がった。「文醜さん、本陣守備に麹義さん、朱霊さん、王修さんを主将として残しますわ。官渡を攻める必要はありません。徹底的に守れ、と伝えなさい」「うっすっ!」「顔良さん、文醜さん、審配さん、そして私。1万の兵と共に烏巣へ行きます。機動力重視ですわ、急がせなさい!!」「はっ!」急ぎ足で駆けて行く3人を見送った後、袁紹も陣幕を出る。すっと空を見上げて見れば、星と満月が目に映る。(華琳さんの事です、率いてくるのは少数精鋭。今手元にある最強戦力を投入してくるでしょう。)自分の最強戦力は、顔・文の2人と多数の兵士。全戦力で烏巣へいかないのも、守備兵力で官渡要塞を叩かないのも、それを見越してだ。戦力を多数投入すれば、そちらを放置して少数兵力を叩きに来る。かといって自分が指示を出さず官渡へ出撃させても良い結果は出ると思わない。あの曹操がそれを考えないはずが無い。(投入される兵力は1万・・・恐らく、2万は無い。烏巣守備隊、そして今から率いる1万を含めれば4万近く・・・この戦力、いや・・・兵力差でなら)向こうは死に物狂いで来る。勝ちが決まったと慢心しかかっている自軍で、勝ちを得るために向かってくる曹操を抑えきれるだろうか。いや、抑えなければならない。その為に、惜しく無いといえ許攸ら三人を撒き餌としておびき寄せるのだ。それに、と袁紹はあることを思う。田豊の事だ。つい先日、田豊の容態が急激に悪化したとの報告が入っている。何とか勝利して勝利の二文字を聞かせてやりたい。先に到着したのは袁紹。彼女は各部隊に伝令を出して、曹操軍を兵糧集積所までは素通りさせるようにした。計4万ほどの軍勢なので、全てを集積場所に収容できる訳ではないのだが、曹操は精鋭部隊をもって一気に抜けてくるだろう。既に集積所には淳于瓊(じゅんうけい)・眭元進・(すいげんしん)・韓莒子(かんきょし)・呂威璜(りょいこう)といった元からの守備隊。そこに顔良・文醜・審配を配置して、袁紹は集積所入り口付近でじっと待つ。曹操はこういうときには遠慮なく、自分が前に出てくる。将兵の意気を上げるために、自身を危険な場所に晒すという事を平気で行える。そして、その予測は当たっている。曹操は神速を誇る張遼騎馬隊含む一万数千を率い、烏巣に迫っていた。許攸らを道案内として(無理やり)連れて来た曹操は「おかしい」と感じていた。集積所は森の中に配置されており、そこに兵が配備されている事は誰でも解る。森に入っても全く敵の襲撃が無いのだ。とにかく速攻戦で決めてしまいたい曹操にとっては好都合ではある。「・・・。」(いや、いないというのは違うわね。この、肌がピリピリする焼け付くような殺気・・・集積所で待っている?)少し考える曹操だが、すぐに前進命令を出した。勿論、許攸らを盾にして。もし嘘であれば殺すし、事実であれば彼らをダシにして堂々と通ればいい。脱走がばれていればそうもいかないだろうが・・・そこで死なせても全く惜しくは無い。「死にたくなければ嘘を言わずきっちり案内しろ」と脅したので嘘をつくことは無いだろう。そんな許攸を先導に、曹操たちは森を進む。特に妨害があるでもなく、そこまではあっさりと・・・そう、拍子抜けするほどあっさりと集積所に辿りついた。松明が何本かかけられており、ある程度の明るさを感じる。曹操らは木や草の陰に隠れつつ、やはりおかしいと考えていた。そして曹操は、いや、曹操だけではなく張遼や干禁も、これまでに感じていた殺気を更に鮮明に感じるようになっている。瞬間、今までは薄暗いと思っていた集積所が更に明るく照らされた。兵は一瞬恐慌状態に陥るも、曹操は「突き進め!」と攻撃命令を出す。上が怖じれば下も怖じる。こんな時は何も考えさせず攻めの命令をしてやった方がいいのだ。曹操の毅然とした態度に、兵もすぐに落ち着きを取り戻し、雄叫びを上げて集積所へと殺到していく。この辺り、さすがは曹操や夏侯惇が鍛え上げた精兵と言うべきかも知れない。そして、曹操もただ命令を出すだけではなく己が先頭に立って馬を駆けさせる。後ろで命令を出すだけの指導者に、兵は心服しない。一度二度は危ない場所に立たねば指導者とは言えない。もっとも、曹操は最初から勇猛である。彼女の強さも中々のものであり、自身を戦力の1つと見るからこそ先頭に立つことを恐れないのだ。走り出した以上、曹操は勝利のみへ邁進する。その曹操めがけて集積所の部隊がこちらへと向かってくる。(ふん、迎え撃つつもりね。でも、私を止められ・・・)自信満々に笑みすら浮かべていた曹操の表情が、目が、驚きに見開かれた。此方へと向かってくる部隊。その先頭にあの女がいた。黄金色の兜と鎧、宝刀を横薙ぎに構え、駿馬を駆り、一直線に駆け抜けてくるあの女。その女は、曹操を見据えて叫ぶ。「ま、さか・・・麗羽っ!」100人もいない部隊の先頭に立つ女の名は袁紹。彼女は守備を淳于瓊(じゅんうけい)らに任せ、何1つを省みることなく曹操へと向かって行ったのだった。~~~楽屋裏~~~ちょっと短いですあいつです(挨拶み、短いのにはちゃんと理由があるんだから! 誤解しないでよね!(何故ツンデレ冗談はおいといて、ちょっと前に「こんな展開での話を書いてください!」的な・・・リクエストですか。それを受けてたなぁ、と思い出して書いてたんですが。そっちのが長くなった。(駄目受けたリクエストの1つに「賈詡と高順が仲違いしてなければ?」というものがありました。他にも1つあったと思います。それを脳内妄想ふるドライヴさせた結果。こんなんなりました(何【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 異伝。1・賈詡とは仲違いしてません。2・番外で書かれていた「賈詡と仲違いしてなければ?」とは別のifすとーりー。3・その他突っ込みどころ多数ありますが気づかない振りをしてあげてください。作者が喜びますから(ぉぃ4・つうか突っ込まれたら泣く(ぉぃ・・・5・シーンをかなり飛び飛びでやってますが、その辺りは皆様の脳内補完でお願いします。・・トホホ冀州、鄴(ぎょう)。今、この地には20万以上の軍勢が揃っていた。この兵士達は後数日ほどしたら南、つまり曹操領へと進撃する事になっている。そして、その鄴を治め、曹操との対決に臨む者・・・。その名は公孫賛と言った。鄴、城外にて。趙雲は燦燦と地を照らす太陽の光を避けるように、木陰に座って涼を取っていた。目を瞑り、何かを思い返すかのような複雑な表情である。と、そこへ草を踏み鳴らすような音が聞こえて趙雲は目を開けた。気配には気付いていたが、敵の筈も無いので目の前に来るまでは、と思っていたのである。視線の先には、体色の黒い傷だらけの巨馬と、その巨馬に跨る・・・黒い髑髏龍の兜と、同じく黒一色の頑強な鎧を着込んだ武将だった。その武将が巨馬から降りて近づいてくる。「随分と落ち着いているな、趙雲。」「ええ。ですが心は逸っておりますよ、沙摩柯殿。それに、虹黒・・・お前もだろう?」「ぶるるっ!」沙摩柯、と呼ばれた武将は兜を脱ぎ、「ふぅ」と溜息をついて趙雲の隣に腰掛けた。虹黒もそれに倣うかのようにすぐ側で足をたたんで落ち着き始めた。2人(+1匹)とも何も言わず、ただぼんやりと空を見上げていた。(3年、か。早いものだ・・・)趙雲は空の青さを見つめて、過去に思いを馳せた。3年前。徐州へやってきた劉備と敵対した呂布は、劉備からの挑発(商人から買い付けた馬500頭を奪われる)を受け、対決姿勢を打ち出した。劉備の篭る下邳(かひ)へと攻め入った呂布だったが、その隙を突いて曹操が8万もの軍勢を率いて徐州へ侵攻。瞬く間に小沛(しょうはい)を落とした曹操は、呂布を挟み撃ちにしてやろうと占領もそこそこに一気に下邳へと向かった。呂布側は当初それを知らず、曹操軍の姿を僅か数里後ろに察知した事でようやく事態を悟る。このまま城攻めなど継続できるはずも無く、かといって曹操軍に向かえば後ろから劉備が軍を出す。南の広陵では絶対に守りきれないし、西の小沛は既に陥落。そうなると土地を捨てて北へ逃げる以外に道が無い。折角得た地盤をまた失って流浪か・・・と高順は嘆息したが仕方が無い。幸いと言うべきか、高順一党はほぼ全員出撃していたので実害は殆どない。閻行だけは広陵に留まっていたが、誰も心配はしていない。なんたって最強の一人だし。ともかく、さっさと逃げないと挟み撃ちにされて壊滅させられる危険性が高くなる。賈詡は「どこに逃げるのよ!?」と言っていたが、高順・趙雲らには公孫賛という(ある意味)切り札がいた。彼女ならば元董卓軍でも気にせず迎え入れてくれるだろう、と。賈詡には賈詡の考えがあったが、とりあえずその提案に乗ることにしたらしい。下邳の囲みを解いた呂布軍は、呂布を先頭に一気に北へと逃げ出していく。殿を務めるのは高順隊。本来、彼らは野戦でならば張遼同様に先駆けをするに相応しい部隊なのだが、防衛力も他の部隊より高い。後ろから迫ってくる敵兵に、騎射で応戦できるからだ。率いる相手が曹操で、それが万を越す兵力であれば分は悪いが・・・。案の定、逃げの一手を計る彼らに曹操、そして劉備の軍勢が迫る。騎射で応じるものの、曹操軍の先手は夏侯淵。そのすぐ後ろには夏侯惇、そして軍勢の相当前に位置するが曹操も出張っていた。どうやら、小回りの利く軽騎を軸とした布陣で来たようだ。それほど兵は多くないが、応射で高順隊の兵も僅かずつでも減らされていき、撤退速度が鈍っていく。彼らの前にいる呂布や張遼の部隊は前進していくのだが、高順隊は後ろから追いすがってくる曹・劉軍の攻撃で逸れもままならない。「・・・参ったな。」軍勢の最後尾にいた高順は困り果てたかのように呟いた。すぐ目の前にいる趙雲は「困った、程度の話ではありませんな」と応じるが、彼女がこの逆境を楽しんでいるように見えた。高順は「余裕だなぁ」と苦笑するがすぐに真顔に戻って「皆、聞いてくれ」と切り出した。「俺と、俺の直轄部隊・・・そうだな、100ほど・・・で逆撃する。その間に皆で逃げてくれ。」『却下。』「ひどいよ!?」楽進たちまで声をそろえてあっさり言うものだから、高順も思わず叫んでしまった。「そういうことは一番強くて生き残れる確率の高い者がやるべきです。」「せや、高順兄さんは2番か3番目やん。それでなくてもんな目立つかっこしとるんや、えー的やでぇ?」楽進と李典は遠慮なくズケズケと言う。「だからこそ、だけど。こんなにハッタリの効いた鎧着てるんだからさ、むしろ注目を集めて時間を稼げると思うんだよね。」「死ぬおつもりですか? そのような事、絶対に・・・」「いや・・・そんなつもりは無いけどね。遠からず死ぬよ・・・間違いなく。」「は・・・?」青い顔をして言う高順は、虹黒の速度を落とし、馬首を返す。皆に背中を見せた高順だが、その背には矢が4・5本突き刺さっていて、かなりの深手のようだった。あの鎧を貫く威力の矢を放てる者などそうはいない。おそらくは夏侯淵だろう。内側にひしゃげた鎧の破片などがそのまま背中に刺さっており、出血も痛みも酷い。先ほどまでは何とか我慢していたが、気を緩めればすぐに気絶してしまうかもしれない。「くっ」「皆、来るな! そのまま進んでっ!」同じく馬首を返そうとした趙雲達だが、高順の言葉に気圧されてそれができない。いや、ただ1人。蹋頓のみが馬首を返して高順の側まで戻っていった。それに釣られるように一騎、また一騎と馬首を返していく兵士達。すれ違う趙雲らに「ご武運を!」とか「どうかご無事で」と声をかけていき、戻っていく兵の数は総数300ほど。その多くが高順隊創設以来、彼に従った古参の兵士達であった。彼らはそのまま迫り来る曹・劉軍に突撃をしていく。「ちょ、趙雲さん・・・どうするの!?」「趙雲殿、私も隊長と共に・・・あの傷もまだ手遅れとはいえません、どうか!」干禁や楽進が言い募ってくるが、趙雲は歯を噛み締めながら「ならんっ!」と一喝した。「しかし!」「ならんと言ったぞ、楽進! 何かあったときの総指揮権は私が預かる事になっている。絶対に行くな、後ろを振り返るな!」ギリギリと歯噛みする趙雲の口の中に、生暖かい鉄の味が広がる。戻ることが出来るなら、一番に戻りたいくらいだった趙雲だが、彼女にはそれが出来なかった。高順から「俺に何かあったときは趙雲さんが指揮をしてください。皆も従ってねー。」と武将級の人々は幾度も聞かされている。「皆、前だけを見つめて進め! 生き残ることが勝利と思え!」「蹋頓さん・・・どうして来たんです。」「お邪魔でした?」高順の隣にいる蹋頓は薄らと笑った。「そうじゃなくて」「ふふ、貴方がいない生に執着はありませんから。」きっぱりと言い放つ蹋頓に、高順は溜息1つ。「蹋頓さんは男を見る目が無さすぎですよ・・・。」「そんな事はありません。」蹋頓は一度だけ自分の腹部を摩って、高順を見つめた。「例え誰に何といわれようと・・・私は胸を張って言うのでしょうね。「高順さんで良かった」と。張遼さんも、楽進さんも、きっと同じ事を言いますよ。」「そんな事は無いと思いますけどね・・・虹黒も、お前達も貧乏くじを引いたな」「ぶる?」高順は残った兵士達と虹黒にも声をかける。彼らも、「そんな事は無い」と笑っていた。すぐ目の前に迫ってきた敵兵を見据えて、高順は三刃槍を構える。死に掛かった体でどこまでやれるか解らないが、別にかまわない。「力の限り、やりますか。皆、奴らが怯える程度には暴れてやれ!」「ええ。思うが侭に往きましょう・・・!」「オウッ!!!」高順を先頭にした殿部隊は、曹操軍へと向かっていく。最初から生還する事を考えない高順隊300の突撃は敵陣の中へ突撃、凄まじい勢いで暴れまわった。先頭にいた夏侯淵の部隊を一部蹴散らした高順は、救援に来た夏侯惇との一騎打ちに及んでいる。だが、後方から態勢を立て直して高順隊を後ろから突いた夏侯淵の攻撃によって部隊は壊滅状態に陥った。その時に蹋頓は高順を幾多の矢から庇って死亡。高順は蹋頓の亡骸を抱きかかえたまま夏侯惇に首を斬り飛ばされ戦死するのだが、その際に最後の意地で彼女の左目を潰している。この戦闘中、傷を負った虹黒は高順が戦死した時点で戦闘が終結したので、結果的に命拾いをしている。が、首の無い高順と抱きかかえられたままの蹋頓、2人の遺体に寄り添って離れようとしない。夏侯惇は虹黒を得られて嬉しかったかもしれないが、虹黒は自分を捕獲しようとしてきた兵を蹴り飛ばしたり、噛み付いたりと抵抗。怪我負いの虹黒が疲労したところで、夏侯惇と夏侯淵が押さえ込んで何とか事なきを得たが、自分の背に夏侯惇を乗せず逆らい続けている。曹操は、高順の首を掲げて「陥陣営といえど、所詮はこの程度。我が覇道を遮るものは例外無くこうなる!」と喧伝している。その心中は(そこまでして己の意地を押し通すなんて。馬鹿な男・・・)と、寂しさを感じている。高順の事を覚えている満寵も(これが乱世の習い)と思いながらも、やはり心境としては複雑なものがあった。更に追撃を、と考えたがこれ以上北上すれば北海の孔融、その先にいる袁紹・公孫賛を刺激する事になりかねない。呂布を徐州から追い出しただけで満足するべきか、と曹操は軍を纏めて撤退を決定。高順や蹋頓の遺体を回収して、まだ占領をしていない広陵へと向かったのである。広陵の太守代理である陳羣は降伏準備を整えていた。高順は「影」に命じて降伏を呼びかけていて、陳羣はそれに従うつもりであった。その「影」にはもう1つ、閻行に「俺達は公孫賛殿を頼りに行くので、時期を見計らって脱出してくださいねー」と何だか良く解らない伝言を任せてある。一応形式だけ篭城をするつもりであった陳羣だが、曹操軍の降伏勧告に素直に従って開城。そのまま太守に任じられている。だが、陳羣には1つだけ赦せない事があった。曹操は自分に逆らった高順と蹋頓の首を市場で晒し者にした。「自分に逆らえばこうなる」という見せしめだが、既に降伏をしたにも拘らず死者を辱める行為に陳羣は激怒。陳羣は自分が処断される事を覚悟の上で、高順らの埋葬を願い出て曹操もそれを許可している。曹操からして晒し者にするのは気が進まない事柄なのだが、それでも勝者と敗者の区分をしっかりさせるためにやらなければいけないことで、恨まれるのも覚悟しての事だった。その覚悟通り陳羣は曹操に従って働きながらも、終生高順の首を晒した恨みを忘れる事はなかったという。続く(はずもない)~~~もう一回楽屋裏~~~これは、徐州で高順が戦死していたら? というifすとーりぃでございまつ。かなり飛び飛びの描写ですがご容赦を。1つずつ書くとそりゃもう文章量が大変な事にwこうなると、公孫賛くらいしか近場で頼れる人はいないのでしょうねぇ。公孫賛は優秀な配下が増えて嬉しいでしょうけど、高順の死が条件である事を思うと、素直に喜べないかもしれません。さて、後2話か3話で袁紹編終わらせます。何とか終われるといいなぁ・・・