【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第6話「しっかし、この作戦で上手くいくのかなぁ。」郝萌がそんなことを口にする。「なんだ、まだ不満があるのか?」「そりゃあねぇ・・・ぽっと出の・・・戯志才と程立だっけ?いきなり指図されるような形になったしぃ・・・。」「良いじゃないか。それで生き残れるかもしれないんだからさ。」不満を口にする郝萌と、それを宥める高順。彼らの今いる場所は褚燕の村より東・・・いや、どちらかと言えば東北になるか・・。2里ほど離れた丘のすぐ近く。丘と言っても「小高い」程度で、周りが岩場になっている。徒歩の盗賊から徒歩の趙雲達がなんとか逃げ切れたのは、こういった大人数が一度に通りにくい場所を利用したからだ。それがこんな形で役に立つとは高順は勿論趙雲達も思いもしなかっただろう。今この場所には彼らのほかに騎兵200ほどと輜重隊100ほどが待機している。その中には趙雲もいる。あれからすでに3日が経過していた。本来ならすぐに晋陽軍の総攻撃が始まっていたのだろうが、それが遅れていた。そうなった理由は戯志才と程立の立てた作戦。彼女達の策は単純なものだった。まず、最初の戦いで捕虜にしていた晋陽兵に偽情報を掴ませて帰陣させる。その内容は「近日中に丁原が軍勢を率いてここに来る。」という、ただそれだけ。明確な日時も解らなければ、どれだけの兵士を率いてくるかも解らない。自分達に攻撃を仕掛けてくるのは解りきっていることだが・・・これを知らされた晋陽兵士は混乱した。更に追加で「丁原が朱厳に伝令を出していた。内容は「自分が着陣するまでに降伏したものは許す。降伏しなかった者は全員殺す」という苛烈なものだ」という内容の情報。これだけでは終わらない。「黒山賊は既に丁原が殲滅した」とか「すでに晋陽に攻め入ったらしい」とか、嘘か本当か判別しにくい情報まで流す。これらの情報で更に晋陽側は混乱をした。指揮官が不当な交代をし、更に色々な情報が飛び交い何が嘘で何が本当かわからない。実は高順たちも丁原が実際にこちらに向かっているということを知らなかった。すぐそこまで伝令が向かってきており、朱厳もその情報を知るのはこの後である。なので黒山賊が殲滅されたのは事実だが・・・それを知る者は丁原と、彼女の率いる軍勢だけだった。そういう意味では戯志才と程立の流した偽情報は全て「嘘」だったのである。そして、その日のうちに彼女達は足の速い騎兵全てと、歩兵としての輜重隊50ずつを村の外へ出すことを提案してきた。勿論夜影にまぎれて、である。まず、輜重隊50と騎兵200を村の東側、つまり高順たちの今いる場所に少しずつ送る。この場所は村からでも見えにくい場所だ。村人が、逃走していた趙雲達を発見するのが遅れた理由もそこにある。そして斥候を放ち、村の西側に同じように隠れる場所が無いかどうかを探す。もしあったらそこにも輜重隊50と騎兵200を同じように配置する。運よく西側にも同じような場所があったが、東側よりも位置が遠いのが問題だった。だがその問題は朱厳本陣の奮戦でなんとかなる、と戯志才達は考えた。朱厳率いる歩兵500と村人500で村の南に下がり応戦。その途中には多くの罠がある。侵入してくる可能性は低いと思うが、東と西の入り口を封鎖。北からのみ侵入できるようにもって行けばいい。その裏工作をするのは褚燕と彼女の個人的な部下達だ。褚燕はその時まで喋らなかったが、彼女の言う「個人的な部下」は彼女の一族に古くから仕える人々で、個人戦闘力はそれほどではないが密偵・撹乱など裏の仕事で高い能力を発揮する人々らしい。本格的な戦になった場合にのみ使おうと決めていたらしいが、それが今だと判断したのだ。褚燕自身も本来はそういった戦い方をする手合いである。何度かこちらへ放たれた斥候を排除するのも彼女達がやっていたらしい。残りの輜重隊100と負傷者、そして村の非戦闘員は既に南に向かっている。そして、晋陽側というと・・・軍団長が交代したことと色々な情報に惑わされて逃亡する兵が後を絶たなかった。武器を捨て、上党軍へ降伏した者も少なくない。こういう事態では統率する者の技量と、兵士達が将を信頼しているか否かが分かれ目となる。武の才に恵まれていても、凶暴なだけの力自慢では統率力など無いに等しい。逃げようとする兵士を斬り捨て、見せしめにしたが余計に兵士達が逃げるだけの状況に陥った。そのために当初は3000近かった兵士も3日経った頃には2500程度にまで減っていたのだった。そこに追い討ちがかかる。夜中、多くの兵士が寝静まる中で放火騒ぎが起こった。褚燕の「個人的な部下」が侵入し、陣幕に手当たり次第に松明を投げ込んでいったのだ。将軍の陣幕にも投げ込まれ、すぐに消し止めたものの・・・ただでさえ低い士気が更に低下した。このままでは埒が明かない。日を置けば置くほど不利になる。そう考えた「自称将軍」は明朝、どのような状況であろうと全軍で突撃することを通達。兵士達も渋々といった感じで持ち場につき始めたが・・・戦意など何処を探しても無かった。そして、夜が明ける。褚燕の村と晋陽軍本陣の距離は約3里(1・3km前後)。その間には何1つ邪魔をする物は無いただの平地だ。「自称将軍」はおそらく、村に本隊が待ち構えているだろうと予測した。晋陽軍から見て南一直線に褚燕の村。南東、南西は岩場があり、そこに勢を隠しているだろう。特に南西側にはこちらから見て、小高い丘がある。村に攻め寄せれば東西から出撃して攻め込んだ部隊を挟撃しようというのだろうが・・・。どうせ、向こう側はこちらより戦力が少ないのだ。村の人間を動員したとしてたかが知れている。不審なのはこちらから放った斥候が誰一人帰還していないことだが・・・まあ良い。全戦力で攻め、1人残らず抹殺してくれる。晋陽軍2500、全軍が布陣する。「いいか、貴様ら。この戦いに勝てば褒美は思いのままだ。太守様も大層お喜びになるだろう。前任の無能と俺が違うことを見せてやる!・・・男は皆殺しにしろ!女は好きにしろ!行け!進めぇっ!」この言葉。賊とどう違うというのか。兵士達は鬨の声を上げるが・・・・・・こんな言葉で戦意が出るはずも無かった。「全軍突撃だーーーー!」威勢がいいのは自称将軍ただ1人。「来たか・・・!」晋陽軍が突撃を開始した。2500程度とはいえ、流石に迫力がある。岩場に隠れていた高順達に気づいているだろうが、こちらには一兵も攻めてこないようだ。おそらく、西側にも兵を寄越さないだろう。朱厳率いる本隊にのみ焦点を絞ったということか。「ふっ、読みとしては悪くない。悪くないが・・・我々を甘く見すぎているようですな。」晋陽軍の突撃を見守る高順の後ろから趙雲がそんな感想を漏らした。「伏兵に気づいているのならまずそちらを優先して叩くべきでしょうに。そう思いませぬかな?」「そりゃあね・・・。全軍で一気に落とす、というのも悪くないとは思うけど。どうにも向こう側の戦意が低いし、動きも遅い。本気で戦おうとしてるの、1割もいないんじゃないか?」もし本気で村を落とすのなら進軍速度も速いだろうし、こちらにも兵を派遣するだろう。派遣しないとしても、指揮官に誰かが諌言するはずだ。誰も何も言わなかったのか。それとも回りの意見を聞こうとしない無能なのか。「どっちにしても。」2人の間に割り込むかのように郝萌が話しかけてくる。「向こうの指揮官が無能でこっちが助かるってだけよ。」「ははは、確かに。」郝萌の言葉に趙雲がさもありなん、といった感じで笑いながら頷いた。「戯志才と程立だったっけ。あの人たちの策がこうも簡単に決まるとも思ってなかった。大したもんよね。・・・高順、そろそろ攻め込むべきかな?」「いや、まだだな。まだ敵全軍がこの岩場を越えていない。まだ時間がかかるさ。・・・っておい。」「何よ?」高順の言葉に郝萌が首を傾げる。「今回、この部隊を率いるのは郝萌だろ。何で俺に聞くのさ?」そうなのだ。今回、部隊を率いるように言われたのは郝萌である。前に高順が部隊を率いたから次は郝萌。というわけではなく、これは丁原親衛隊に所属するものなら誰もが通る道だったりする。今回のこの戦いで朱厳に従う形で残された親衛隊は約半数。親衛隊に所属すると最低でも1人1回は小規模ながら部隊指揮をさせられるのである。これは丁原軍の武将、人材不足が顕著であるというのが原因だったりする。彼らの為でもあるし、主君である丁原、あるいは副将である朱厳がいればいいが、両者共にいない場合親衛隊が部隊の指揮をしなくてはならないのだ。そういった状況でも自分の意志で動けるように。少しでも早く慣れさせよう、と言うのが大きな理由だった。「えー、別にいいじゃない?周りの人の進言にも耳を傾けるべきなんでしょ?」「いや、そりゃそうだが。趙雲殿とか他に人がいるでしょ。」「なーによ。さっきから趙雲殿趙雲殿ってー。そんなにあたし頼りにならないー?」「なんでそういう話になるのさ!?つかその言い方じゃ俺が趙雲殿にべったりな感じになるだろ!」「違うの?」「違うわー!」「ふふふっ、二人とも。私の取り合いも結構ですがその前に為すべき事がありますぞ?」「「取り合ってない!!」」「おやおや、つれませんなぁ・・・。」こんな頭の緩いやりとりをしている3人だった。朱厳率いる部隊は良く戦っていた。正面で戦う朱厳が強かったのもあるが、兵たちも槍衾を展開し敵を寄せ付けない。火矢を使ってくるものもいたが、弓が得意な兵と村人の混成部隊で優先的に仕留めていく。何より褚燕とその部下による戦闘の効果が高かった。褚燕はともかく、部下達は戦闘力自体は然程高くない。彼らはそれを補うために上党軍から弩を借り受けていた。村の構造を熟知している彼らのゲリラ戦法で、少しずつ、だが確実に晋陽兵が討たれていく。また、褚燕自身の戦い方も晋陽兵にとっては恐怖の的だった。褚燕は流線型手甲をつけておりそれが彼女の武器なのだが・・・どちらかと言えば、関節技を多様していた。それも確実に殺す関節技。首を「へし折る」のである。手甲で攻撃をそらし、殴りつけ、ひるんだところに掴みかかり首を折る。腕や足の関節を極め無効化することもあったが、見せしめに首を折り戦意を鈍らせようという考えである。まだ幼い少女がそんな戦い方をする。晋陽兵は恐怖した。一進一退の戦いをしているように見えるが、攻めている側の晋陽兵が逆に押される場面も少なくない。どちらがどう有利かもわからぬまま戦いは続いていた。今村を攻めている晋陽兵は2200ほど。「自称将軍」は供回り300程度と共に本陣に控えていたが戦況が一向に有利に傾かないことを理解したのか、自分自身が出撃しようとしていた。「高順殿・・・。敵本陣が動きましたぞ。」趙雲が高順に呼びかける。「こちらでも確認しましたよ・・・。郝萌、そろそろ動く時間だぞ。」「う、うん・・・。」「なんだ、自信ないのか?」「うん・・・。だってさ、あたし達が突入時期誤ったら、って思うと・・・。皆の命預かってるって立場だし。」「大丈夫だって。俺達が突入したら西側のほうも突撃を開始する。見たとこ本陣の兵士はそう多くない。村からも幾ばくかの部隊が反転してくるだろうが・・・それまでに大将討ち取ればいいだけさ。」「そうですな、どうもやる気があるのは敵大将のみ。残りは無理に戦わされているようですから・・・敵将を討ちさえすればすぐに終わるでしょう。」「そういうこと。」それで終わる。心配するなって。と郝萌の肩をぽんっと叩く。「・・・そっか。わかった。やるだけやってみる。」「その意気だ。・・・そろそろ部隊に号令かけときなよ?」「うん。」返事をして、伝令を走らせる。「ふふ、お優しいですな?」「そーかなぁ。普通ですよ?」「いやいや、戦場であのような心遣いをなさるとは。ただ、私から見れば少々甘さが過ぎますかな?」「いま戦闘中ってわけでもないですしね。流石に斬り合いしてるときには無理。」「ははは。まあ、その甘さ・・・私は嫌いではありませぬな。ただ、ご注意を。高順殿がお優しいのは理解いたしましたが・・・その甘さがいつの日か御自身の身を危うくするやもしれませぬ。どうかご注意を。」「わかってますよ。まだ死にたくありませんしね・・・。」なら軍人にならなきゃ良かったんだけどね。こんな時代だ。戦いから無縁な場所なんて少ないだろうし。それを知ってるから母上も父上も俺を鍛えてくれたのだろう。武将として強くなって・・・徐州で起こるだろう戦を引っくり返せば。もしかして、とは思ってるんだけど。よく考えたら俺が呂布に仕えるかどうかすらわからんし。まだ上党にいないみたいだし。実際のところはまだまだわからんのだよなぁ・・・。それ以前に死ぬかもしれんし。「こーじゅん?こーじゅんてば!」「ひょわっ!?」「何呆けてんの?そろそろ出撃なんでしょ。気合を入れて、ほら!」そう言って郝萌が高順の背中をばしばし叩く。「そうだな・・・俺もまだまだ死にたくないし。」そのために人を殺さなければならんのは嫌だけどね。自称将軍は怒っていた。その怒りは自軍の兵士に対してのものだ。彼に言わせれば「俺が直々に指揮してやってるのに、何故あんな小さな村1つ落とせんのだ!!」である。指揮と言ってもただ突撃ーと言っただけだし、自分は300ほどの兵に囲まれているだけなのに。現在村を攻めている晋陽軍は彼が連れてきた1500の兵士含め2500ほど。だが、その1500も最初からやる気が無い。軍全体が「こんな戦やりたくないよ・・・」と、そういう考えなのだが彼にはその辺りがよくわかってないらしい。この数日間、周りで待機している兵も彼の乱暴さや喧しさに内心辟易としている。(早く上党軍攻めて来ないかなぁ、そしたらこいつ置いて逃げるのに)とか思うほどに。「ええい、もう良い!俺が敵将の首を直々にあげてやる!」そうなれば兵士も発奮するだろう、とか叫びながら単騎で突撃しようとしていた。周りの兵も内心うんざりしながら、嫌そうに馬を駆けさせたのだった。来た。高順は内心で敵将軍の頭の悪さに感謝していた。全軍突撃から数時間が経過していたが、晋陽軍は村側の守りを崩せないでいた。戦術としては悪くないのだが・・・自軍の統率も取れず、士気も上がらない状況で突撃したところで良い結果が出るとは思わない。その上こうも簡単に本陣を前方に動かすとは。「郝萌、あと少しだ。号令をかけるのはお前だ、しっかりな?」「わかってる・・・!」晋陽軍があと少しで自分たちの目の前を通り過ぎる。あと少しだ。郝萌が心の中で数える。4・・・3・・・2・・・1・・・「今っ!突撃っっっ!!!」郝萌の号令を合図に上党騎馬隊200と歩兵(輜重)50が飛び出した。その突撃は移動している晋陽本陣からも見えた。「しょ、将軍!東より上党軍です!!数はおよそ200ほど!」「うるさい!見ればわか・・・」「西からも上党軍が現れました!その数200・・・?いや、もっと多い!?」「な、何っ・・・?400だと!?こちらよりも数が多い!くそ、退くぞ!貴様らは敵を食い止めろ!」「そんな、無理です!」「俺は将軍だぞ!貴様らは俺を守るのが仕事だろうが!?」「くそ、やってられるか!」「俺はもう嫌だ!降伏する!」「な、逃げるな!戦えい!」郝萌・趙雲・高順が先頭を走り、その後ろを二百数十の兵が追従していく。歩兵は少し離されているものの良くついてきている。誰の眼から見ても目の前の晋陽軍は混乱しているのが解った。もっとだ、もっと早く!もっと疾く!あと少しで弓が届く位置だ。郝萌が隣で「弓、用意!」と叫んでいる。その声にあわせ、趙雲と高順は同じタイミングで弓に矢を番えた。狙いは一本。敵将のみ!「・・・斉射用意!放てーーーっ!!」その言葉に従い騎兵部隊は矢を放つ。一寸遅れ、「向こう側」の上党軍も矢を撃ち始める。その射撃で晋陽軍の右翼・左翼共に数人の兵が倒れる。高順の放った矢も将軍の側にいた兵士の肩を射抜いていた。その場に倒れたがまだ死んではいないようだ。「ちっ、狙いを外したか!」「ふむ、私も外してしまいましたな。」趙雲も外したらしく、少し残念そうだった。(やっぱ、鐙いるかな・・・。重心がうまく取れんから狙いが・・・。って、そんな場合じゃないな!)「高順殿!奴らの動き、少しおかしくないか!?」「どこがおかしい・・・って、ん?」高順は何が?と思っていたが、確かに何かがおかしい。戦闘を走っていた将軍の周りの兵が我先に逃げていく。踏みとどまろうとしているのは20人もいない。何かの策か?と思ったが・・・どうも、本気で逃げてるようだ。「・・・趙雲殿。あれはおかしいというか単純に逃げてるだけでは?」「ふむ、やはりそう見えますかな?」ならば、と思い高順は側にいた郝萌に声をかける。「郝萌!予定通りに行くとは思わなかったが・・・。」「ええ、敵将のみに狙いをつける!皆、行くわよっ!」「ああ!」「心得た!」郝萌の号令に従って上党兵が逃げ惑う晋陽兵を無視して将軍に突撃を仕掛ける。向こうも逃げられないと悟ったかこちらに向かってくる。「郝萌!抜かるなよ!?」「言われなくても!」言いつつも高順は弓を構え、矢を放つ。その矢がきっちりと敵兵の首を射抜く。首を射抜かれた兵は「ぐがぁっ」と呻き、馬から落ちていった。射抜かれた時点でもそうだが、このような人馬入り乱れる乱戦時に馬から振り落とされれば助かることは無いだろう。(くそっ・・・やっぱ、気分のいいもんじゃないよな・・・。)前に人を死なせたときのように吐き気が襲ってくるということは無かったがそれでも複雑な気分だった。「・・・!高順殿!」「え?って、おわっ!?」隣を走る趙雲の槍が高順の目前を薙ぎ払う。カキィッ、という音と共に一本の矢が折れ、弾かれた。「注意不足ですぞ!」「あ、ああ・・・助かりました。」危ないところだった。もう少しで今自分が死なせた兵士と同じ運命を辿るところだった。「どれだけの腕を持とうと、油断は死に繋がる。ゆめゆめお忘れなきよう。」「ええ、感謝します。」その言葉に笑顔で返し、趙雲は自分に突撃してきた敵騎兵を一撃で「馬ごと」屠った。「・・・すごい。」「ふっ、この程度のこと造作もありませぬな。」いや、この程度って。槍を横薙ぎしただけで馬ごと吹き飛ばすってどれだけ膂力あるんですか趙雲さん。どう見ても10メートル以上は吹き飛んでったし。半端ない。晋陽の兵もほとんどが逃げ、将軍を守ろうと向かってきた兵士もある程度先頭を駆ける郝萌・趙雲・高順によって討たれた。「あまり強くないわ。これなら!」「油断するなって!」「油断してたのは高順のほうでしょ?一緒にしないでくれる!?」「ぬぅ・・・。」そんなことを言いつつも敵将が目前まで迫っていた。どうも郝萌に狙いをつけたらしく、一直線に彼女の元へ突っ込んでいく。郝萌も受けて立つつもりのようで速度を落とすことなく向かっていく。「そこの女っ!この俺様と勝負しろぉっ!」「望むところよっ!」「でぇいっ!」「んぅっ!」馬のすれ違いざまに敵将が槍を突き出し、郝萌は腰に帯びた剣を抜き、槍を下から切り上げる。馬上である上、よほどタイミングが合わなければできないような技だが郝萌は目立たないだけで優秀な武将だった。その一撃で槍の穂先が斬り飛ばされる。「くっ。ぐぅ・・・貴様よくも・・・」馬首を返しながら呻き、自称将軍も剣を抜く。郝萌も馬首を返し、さらに切り込もうとするが・・・。その時、郝萌の馬の頭に一本の矢が突き刺さった。「えっ!?」馬首を返そうとしていた郝萌の馬がそのまま力を失い勢いよく倒れ、郝萌が振り落とされる。自称将軍に従ってこちらに向かってきた兵の1人が弓で狙っていたのか。それとも流れ矢か。一騎打ちとは言ってもまだ周りで戦いが続いていたのでそこまでは解らなかった。「んぐ・・・げほっ!」「郝萌!くそ、まだ誰か残っていたか!?」郝萌は受身を取り損ねたのか背中を強打したらしい。仰向けに倒れ咳き込むばかりで立ち上がることが出来ない。これ幸いとばかりに自称将軍が剣を振りかざし駆けて来る。「はーっはっはっはぁっ!死ねえっ!」「ちっ!」高順が馬を駆けさせ、間に入ろうとするが・・・その必要は無かった。趙雲のほうが先に動いていたからだ。「高順殿!あなたは郝萌殿を!」「了解したっ!」応えつつも高順は馬の速度を緩めない。敵の兵士がほとんど討たれたとは言え、戦うことの出来ない郝萌がいつ狙われるか解らないのだ。高順は回りに眼を配らせる。敵の兵士がどこかに潜んでいないか。・・・いる。馬の死体の陰に隠れて郝萌を弓で狙っている兵士が!高順は弓を構え兵士を狙う。(くそ、振動が大きすぎて狙いが上手く定まらないが・・・!当たれ!)そう念じて矢を放つ。ひゅおっ、と空気を切り裂き矢が一直線に飛んでいく。直後、「ぐあっ!?」という叫びと共に兵士が弓を取り落とした。仕留める事は出来なかったが、腕に当てたらしい。充分だ、と安堵しつつ馬から下りて郝萌に駆け寄る。「おい、しっかりしろ!郝萌!生きてるか!?」「ぐ・・・ごほっ、勝手に・・・ころ、さないで・・・よ・・・けほっ」「なんとか生きてるな。よし、掴まれ。」「ん・・・あり、がと・・・」郝萌を抱え起こし「趙雲殿は?」と向き直る。彼女の腕ならば心配する必要は無いだろう。しかし、もしもということはあり得るのだ。心配してもしすぎというわけではない。だが、やはりその心配は必要が無かった。高順が向き直ったときにはすでに趙雲は自称将軍を討ち取っていたのだ。どんな内容の戦いだったかは知らないが、おそらく一方的な戦いだったのだろう。もしかしたらさっきみたいに一撃で終わらせたのかもしれない。「はぁ・・・本当おっかない人だよ。」自称将軍に従った兵もほとんど討たれるか、無力化されたようだ。趙雲も馬から下りてこちらに駆け寄ってくる。汗をかいてはいるが返り血は一滴もついていない。「あれだけの戦いで返り血なしとは。趙雲殿にとっては楽な戦いでしたかね?」「まさか。まあ、苦戦はしませんでしたな。そんなことより郝萌殿、大丈夫ですかな?」「え、ええ・・・ありがとう。」「いやいや。無事でなにより。さ、戦いは終わりました。あとは兵をまとめ帰還するだけですな。」そう言って村のほうへ向き直る。村のほうでも将軍が討たれたのを知ったのか晋陽兵は武器を捨て降伏をしはじめているようだった。戦いは終わったがこれからのほうが大変だ。村の復興もある。この件での後始末もある。さて、丁原様はどうするつもりかな。そこまで考えたところで高順は1つ大事なことを思い出した。まだこの場所で遣り残したことがあるだろう、と。「いえ、趙雲殿。まだあなたには1つ大きな仕事がありますよ?」この言葉に趙雲は少し驚き、「な、何か遣り残したことが?」と返す。「ええ、それはもうとっても大事なことが。」「しかし・・・今私がやることなど何1つ無いような?」「あるじゃないですか。名乗りです。」「あ・・・。」そう。名乗りである。流浪の武将というのはこうやって名を上げて行く。そうすれば武勇があるとか、或いは知略があるとかで評価され仕官する時などに有利になる。どこかの太守の下で義勇兵として戦い功績を挙げて、名を上げ、位の高い人々との繋がりを持つ。他の方法もあるが武官はそうやって自分にとって有利な状況を作る。どの時代でもどんな世界でも、それは代わることの無いルールの1つだ。趙雲は今、間違いなく功績を残したのだからここで名乗りを上げる権利がある。高順はそう言っているのだ。「いや、しかし・・・郝萌殿が彼奴の槍を叩き切ったことが有利に働いた事実もあるわけでして。」「それが無くてもあなたが勝ってましたよ。それで納得できないなら2人の功績にすればいいでしょう?郝萌はどうだ?」抱えている郝萌に問いかけてみる。「こほっ、うん、私もそう思う。って、あ、あたしも!?」「ああ、郝萌も趙雲殿も誇れることをしたんだ。堂々と胸を張ればいいんだよ。」「高順殿・・・。」「ふう。ま、郝萌はこんな状態で大きな声出せないでしょうけどね。趙雲殿がやりたくないなら俺がやっちゃいます。」「え?ちょ、ちょっと」趙雲が抗議しようとするが高順はすう、と息を吸い込み高らかに宣言する。「敵将!常山の昇り龍・趙子龍と上党の郝萌が討ち取った!」その場にいた上党兵が手にしていた武器を高く掲げ歓声を上げる。郝萌も趙雲もこんな展開になるとは思わず、あたふたとしていた。周りの人々が歓声を上げる中、高順もまた手にした槍を掲げる。趙雲たちが力を貸してくれた。敵の士気の低さ、行動の遅さにも救われた。褚燕も村人達も団結して協力してくれた。上党の皆も死力を尽くして戦った。幸運が重なった、というのが一番しっくりと来るかもしれない言い方ではあったものの。それでも。戦いは終わった。俺達は勝てた。生きて帰る事が出来るのだ、と。~~~楽屋裏~~~どうも、あいつです。やっと序章が終わりに近づいてまいりました。むしろこんだけ書いてやっと・・・というところに私の文才の無さがorzさてさて、高順君はこれからどうなるのか?まだ筆者にもワカリマセン(駄目あと1つ。1日2日で1話書き上げるのは流石に無茶だと思った。反省している|||orzご感想お待ちしております。