【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第38話 第2次晋陽攻防戦その3華雄は閻行を指差してカクカクと震え、対する閻行はニコニコと笑っている。驚きを隠せないままに華雄は馬を下りた。彼女を相手に馬上からなどとは、失礼に過ぎる。「な、何故。何故貴女が晋陽の、しかも反乱軍に!」「ええ、息子の無茶につき合わされましてね。」「息子・・・?」「昨日、貴女と手合わせをした子がいたでしょう。あれ、私の息子なのですよ。」「昨日って・・・まさか、高順が!?」「ええ、その高順です。あの子の起こした騒ぎに巻き込まれまして。順を可愛がってくれた礼をどうしてもしたくて、我侭をさせていただいたのですよ。」「・・・。」高順が、閻行様の息子・・・。そうか、だからどこかで見たことがあると思ったのか。確かに似ている。目元辺りなどがそっくりだ。「そうですか、高順が貴女の・・・ならば、あの強さも納得できる。」そこまで言って、華雄は一度振り返り、全軍に待機命令を出した。「絶対に動くな。手を出すな。」と。討伐軍にしてみれば一気に攻めるべきなのだが、華雄はそれを許さなかった。同じように、閻行も決着が付くまで動かないで、と自軍に通達を出す。晋陽側もどうしたものかと思っているが、2人は一騎打ちをするつもりらしい。そして、2人は隣り合わせになり肩を並べて歩き出した。「懐かしいですね。私が北宮玉らに人質に取られてからもう20年ほど。」「そうね、順が生まれる前の話だから・・・そう、もう20年近く経ったのね。あの頃のおはなちゃんと言ったら、目にいれても痛くないくらいに可愛かったのに。」「はは、今ではそんなものは欠片もありません。」「でもよく覚えているわね。20年近いと言うことは貴女・・・4・5歳の頃の話よ。」「それだけ印象的な事ですから。あなたが傷だらけになって、私を救ってくださった。稽古を付けていただいた事もよく覚えています。そして・・・。」立ち止まった華雄はいきなり金剛爆斧を地面に叩き付けた。ズゥン、と音がして砂埃を撒き散らす。「あなたが戦場で戦う姿に、戦う貴女の背中に憧れ私はこの斧を作った!」華雄の持つ金剛爆斧、そして閻行の持つ大斧・・・これは、姿形が良く似ている。「私の「引導断斧」に?それは光栄ね。」閻行も担いでいた引導断斧をゆっくりと構える。「ならば、解っているわね? その憧れた背中とやらに追いついてみなさい。そして追い越してみせなさい。貴女の20年をかけて磨かれた武を・・・私に見せなさい!」「言われるまでもなく!」両者は後方に飛びずさり、距離をとった。己の大斧を構えて、気合を入れる。華雄はこの時、胸中に熱いものを感じていた。あの閻行に挑める。20年も追い続けたあの涼州最強の、涼州の武そのものと謳われたほどの武に挑める。今も尚、涼州では閻行という人は武人の伝説のようなものだ。そんな人に勝てるかどうかなど解りはしない。いや、恐らくは勝てないのだろう。だが、それもどうでも良い。いつか挑みたいと想い焦がれていた人が自身の挑戦を真っ向から受けてくれると言ったのだから。華雄は一気に距離を詰めてこれが開始の合図とばかりに、閻行の首めがけて斧を打ち込む。だが、閻行も斧を縦に構えてあっさりとそれを止めた。それどころか、もう片方の手で斧の刃が無い所を掴んで華雄ごと持ち上げる。凄まじい膂力だが華雄はいささかも慌てることなく、閻行の顎に蹴りを入れた。「うっ・・・!」諸に喰らって閻行は後ずさり華雄はそれを見逃さず、全力で斬りかかっていく。それを城壁から見ていた高順は「昨日は手を抜いていたのか?」と思うほどの凄まじさであった。だが、閻行本人は涼しい顔をしてその全ての攻撃を防ぎ続ける。それがどれだけ続いたか。華雄は息が上がってきたのか呼吸が荒くなり始めた。(さすが、閻行様・・・。これだけの立て続けに攻撃しても崩せないか!)ならば、次の一撃で最後にする。決心した華雄は一度退き息を整える。閻行は、汗こそかいているが息1つ乱していない。息を整えた華雄は、渾身の力をもって金剛爆斧を薙いだ。これが防がれればもう後がない、というほどの覚悟で。閻行はその一撃を避けず受け止めるつもりなのだろうか、一歩も動かず引導断斧を構えたまま。斧と斧がぶつかり、金属を叩き付け合う音が戦場に響く。だが、華雄の最大の一撃も防がれる。それだけの威力はあったようで、受け止めた閻行も弾かれたがそれだけだ。金剛爆斧に引きずられて、踏ん張った閻行の足が地面に跡を作る。「くっ・・・通用せず、か・・・!」呻く華雄だったが、閻行は感心したような面持ちである。「大したものね・・・息子にも見習わせたいものよ。さて、こちらの番かしら。」言うが速いか閻行は引導断斧を構えなおし、一足飛びで華雄との距離を詰める。「な、速いっ!・・・くぁっ!?」その速さに慌てて距離をとろうとする華雄だったが、左足に痛みを覚えた。「何時の間に・・・。」閻行は柄の部分で華雄の左足を打ち据えていた。死角でも何でもなかった、それなのに攻撃が目に移らなかったのだ。逃げられないと悟った華雄は、防御行動に切り替えて反撃のタイミングを掴もうとした。その華雄に、閻行は更に攻撃を繰り返す。その攻撃を華雄は受け止め続けるが、次第に傷が増えていく。当初こそ防御できていた攻撃が次第に捌き切れなくなっていく。いや、閻行はわざと華雄の斧に攻撃を当てているのだ。いつもで殺ろうと思えば出来るはずなのだから。何せ、攻撃の速さが違う。普通はどんな武器を使っていても、予備動作があるものだ。攻撃する前の構え、攻撃した後に武器を引き戻す動き。あれほどの大斧なのに、その動きが異様に速い。(何という人だ。攻撃速度が徐々に上がっている・・・!これですら全力ではないはずだ)討伐軍も、張燕軍も、この一騎打ちを棒立ちになって見つめていた。特に衝撃を受けたのは討伐軍に属する徐栄である。あの華雄様が手も足も出ない。呂布様はともかくも、張遼様と互角に戦える華雄様がああも一方的に。もしかして、あの女性は呂布様とも互角に戦えるのでは・・・?不味い、このまま放って置けば確実に華雄様が敗死する。焦った徐栄は密かに弓を構えるが、それを隣にいた樊稠が押し留めた。「何故止める、樊稠!」「止めねば撃つだろうが・・・それをしてみろ、勝てたとして華雄様はお前を一生お許しになられぬぞ。我が軍の士気にも係わる。それに、アレを見てみろ。」「・・・?」樊稠が城壁の上を指差す。そこには、徐栄を弓で狙っている高順の姿。そして城門前で布陣する趙雲も、弓を構えてこちらを睨んでいる。「撃てばお前も射抜かれるだろうな。」「それは・・・。・・・・・・くそっ。」徐栄もそれは理解しているらしく、悔しそうに弓を降ろした。閻行と華雄の勝負も終わりが近づいている。攻撃を捌けない華雄は致命傷はないが体中傷だらけで出血もしている。肩で息をして、相当辛いはずだがそれでも立っている。「はぁ、はぁっ・・・。」「よく耐えたわね。」様子を見ていた閻行だったが、次で最後と言わんばかりに大斧を上段に構える。「打ち下ろしで行きます。防いでみせなさい。」「う、くぅ・・・。」その言葉に、意識が朦朧としながらも華雄は釣られるように金剛爆斧を防御の型で構えた。それを見た閻行は、全力ではないが言ったとおりに大上段から引導断斧を振り下ろした。華雄も何とか薄れかかった意識を手繰り寄せて全力で受け止めようとする。だが、振り下ろしを受け止めた金剛爆斧が中ほどでぐにゃりと曲がりひしゃげていく。そのままぐんぐんと折れていく金剛爆斧が完全に真っ二つになった。身を引くことも出来ず、華雄は止めきれなかった引導断斧の一撃を右肩に喰らった。「がっ!?」刃で切り裂かれて、そのまま・・・と誰もが思ったのだが、閻行は振り下ろす前に刃のない方を向けて叩きつけていた。右肩を強打されその勢いに耐え切ることが出来ず、華雄は右肩から地面に叩きつけられた。そのまま地に倒れ伏し、動かない。閻行は、倒れた華雄をじっと見ている。止めを刺そうと思えばいつでも出来るのだがそのつもりはないらしい。それほど時間がかかるでもなく、華雄はゆっくりとだが立ち上がった。右肩を左手で押さえ、叩きつけられた時に擦りむくか何かしたのだろう、頭からも血を流している。足も痛むのか、左足を多少引きずり気味にして僅かな距離だが閻行の前まで歩いていく。「く、ぅう・・・流石です。やは、り・・・私如きでは足元にも及びません、でした・・・。」息も荒く、華雄は言うが閻行は首を横に振った。「そんな事はないわ。本当に立派になった・・・。成長したわね、「華雄」」「・・・はは。初めて、名で・・・。」華雄は辛うじてそれだけを言って、前のめりに倒れるが閻行が抱きとめた。当然、華雄はまだ生きている。閻行は抱きかかえた華雄の頭をくしゃくしゃと撫でて、真っ二つになった金剛爆斧を回収。趙雲達に城内に退くように命令を出し、撤退させる。当然、討伐軍はそれを黙って見ているつもりはない。徐栄らが真っ先に突撃して華雄の身柄を取り戻そうとする。それは張燕側にも言えることで、突撃を開始したと同時に高順・干禁・閻柔部隊が城壁から矢を射かけ始めた。「ちっ・・・小賢しい!」徐栄は舌打ちしながらも矢の雨を掻い潜り、撤退していく部隊の殿(しんがり)を勤める閻行に向かっていく。閻行は、と言うと後ろから進んでくる徐栄など気にもしていない。戦う意義がないと思うのか、それと相手にする必要も無いと言いたいのか。「華雄様を返していただく!」叫んで猛然と槍を振り上げる徐栄だったが、その目の前に何かが飛来してきた。その「何か」は徐栄の槍、徐栄に従って突き進んできた周りの兵士達・・・多くの者を巻き込み、負傷、或いは死亡させた。徐栄も、槍を握っていた手にかなりの衝撃を受けて思わず槍を落としかけた。「くぅ・・・何だ、何が飛んできた!」城壁の上を睨む徐栄の目には、全身鎧に身を包んだ少女(楽進)が映った。石つぶてを飛ばしてきたのかと思ったのだが、よくよく考えたら、そんなに大量の石を投げる事等できる筈もない。その少女は、何かを振りかぶるように身を反らせて・・・その右手辺りの空気が不意に歪むのが徐栄には解った。「・・・! 不味い、皆下がれーーー!!」徐栄は叫んで一散に退く。少女の右手から放たれた何かは、大量の小さな空気の歪みとなって、討伐軍に襲い掛かった。その歪に撃たれて、更に兵が落ちていく。(駄目だ、これではあの閻行という女を追えない。李粛らも、矢の撃ち合いに集中してしまっている・・・。)反乱軍め。華雄様が言うとおり、油断ならない手練が多いらしい。閻行は明らかに場違いな強さだったが・・・あの全身鎧の女は一体何を飛ばしてきたというのだ。心中で毒づく徐栄だったが、それを今更言ったところで華雄の身柄が戻ってくる訳でもない。こうなれば現在南側に集結している全軍をもって、城をアリの這い出る隙間もないほどに囲んで・・・。算段を考えつつも退く徐栄の目に、更に信じがたいものが映った。彼女が退いている方向・・・南側だが、徐栄の目前にいた討伐軍本隊が、大量の石つぶてを喰らって混乱する姿。(投石機自体はそれほど多くの石を飛ばせる訳ではないが、放つ石のサイズがそれほど大きくないからそのように思うだけだ。何があったと馬を止め、城へと向き直る徐栄。よく見ていると城内から大量の石が飛ばされ、討伐軍を打って行く。「なっ・・・そんな、馬鹿な」一体何が起こっている。何か、大量の石を飛ばす何かが城内にあるというのか?これほどの戦いを見せる奴らがただの反乱軍?(くそっ、冗談じゃない。なにが弱小の反乱軍だ!十常侍め・・・!)決戦のつもりで意気込んで進軍してきた討伐軍だったが、投石機の放つ石つぶての多さと威力に混乱。石の届かない位置まで退こうとするが総大将も居らず、また人数の多さが仇になって整然とした行動に移れない。結局、逃げ遅れた兵士が矢で射掛けられ、石つぶてを喰らって、小さくは無い損害を出しただけで退かざるを得なかった。そんなことをしている間に、閻行達は悠々と城門へ到達。負傷者はあったものの、目だった損害も特に無いまま撤退に成功した。大した衝突にはならなかったが、討伐軍に被害を出す事に成功。その上武将である華雄を生け捕った事で第2ラウンドは張燕側が完全に取る形になった。城壁に陣取っていた兵士達にはいくらか死傷者が出ていたが、今回の討伐軍の被害に比べれば小さなものである。ほっと胸をなでおろす高順に、楽進が近寄ってきた。「隊長、やりましたね。」「ああ、今回は完勝といわずともそれに近い結果だったかな。投石器があんなに対人戦で有効だなんて・・・あ、そうだ。聞きたい事があるのだけど良いかな。」「何でしょう?」「さっき見てたんだけど気弾を拡散させてなかったか?」「拡散?・・・あれですか。アレは咄嗟の思い付きだったのですけど、気を放つ前に握りつぶしたんです。」「へ?気って握りつぶせるものなの?」唖然として聞き返す高順に「さあ?」と楽進は首を傾げた。「前に、李典が行っていた投石器の試運転を見ていた時に何気に思いつきまして。ぶっつけ本番でやってみせたのですが、上手く行きました。」いや、ぶっつけ本番であんなことできるって・・・。やっぱ、母上の修行のせいかなぁ。皆滅茶苦茶腕が上がってるよ。晋陽に来るまでならそんな拡散気弾とか出来なかったでしょうに。「難を言えば、何処に飛ぶか解らない、狙いが定まらないと言ったところです。しかし、不特定多数の敵であれば有効だということですね。」思った以上の結果が出た事に楽進は概ね満足そうな表情だった。それに対して、高順は不安そうな表情である。気づいたのだろう、楽進は高順の顔を下から覗き込むようなしぐさを見せた。「あの、隊長・・・。何か、不安な事でも?」「ん・・・。いや、何でも「ないような顔には見えません。」・・・はい、ごめんなさい。」毎回思うが、何で皆は俺が嘘をつこうとするのをあっさりと見破るのだろう。直ぐに表情に出るのかな・・・ってそうじゃない。」「不安、ね。正直に言うと母上の事さ。」「お母様?」うん、と高順は頷く。「命令無視って言うか勝手に出撃。そのせいで1000人もの兵士を道連れにするところだったんだぞ?」「あ・・・。」「華雄が母上の思惑に乗ってくれたから上手く行ったけどね。下手すれば全滅だ。」これは、息子としても覚悟せにゃならんかなぁ、と呟く。手柄を立てたといっても軍機違反は軍機違反だ。張燕としても罰せざるを得ないだろう。きっちりとした規律を守れなければそこらの賊と変わりは無い。まだ討伐軍との戦いは続くのだから規律を保たなくては纏まりがなくなってしまう。。もしも張燕様が母上に刑罰を命じたなら、なんとかして取り成さなくては。その時は・・・覚悟するべきかな。その後、張燕側の主要人物は全員政庁に集まった。玉座には張燕。その目の前には正座をしている閻行。他の者達はその周りに控えているがどうなることやら、と内心穏やかではない。「皆様、ご苦労様でした。皆様のおかげで敵将華雄を捕らえ、昨日の敗北を覆すほどの戦果を上げることが出来ました。感謝いたします。・・・さて、閻行さん。」張燕は一度立ち上がり、穏やかに頭を下げた。だが、閻行を見る目は厳しい。「あなたには罰を与えなくてはなりません。命令無視、ならびに将兵を巻き添えに。そのような勝手を見過ごす事はできません。貴女が好き勝手に振る舞い、それを許すことは私も立場上できない事・・・理解していただけますね?」「ええ、当然ですね。」「良いでしょう。閻行様には死罪を。・・・と、言いたいのは山々ですが。閻行さんの抜け駆けが此度の勝ち戦の1つの原動力となったのは確かな事。その上に華雄を生け捕ったという功績も見逃せません。ですから、以降の戦闘への参加を禁止、及び3ヶ月の自室謹慎を申し渡します。」張燕の出した結論は、正直に言って甘いものだった。だが、あの華雄に勝って、かつ生け捕りなどと言う芸当をこなせるのは他に趙雲くらいだろう。閻行の武力は頼りになるし、それを使用できなくするのは痛いが・・・。だが、閻行本人は不服そうな表情だ。自分のした事の意味を解っているからこそ、もっと重い刑罰を願っていたのかもしれない。「いいでしょう。ですが、それではあまりに温い。私の左目をもって、詫びと致します。」「え?」言いつつ、閻行は懐から小さな飛刀(投擲用の短剣)を取り出す。誰も止める間もなく、閻行は飛刀を己の左目へと突き入れた。だが、その刃は届かない。目に突き刺さる前に誰かが突き出した手のひらに刺さり、その刃は血で濡れる。手のひらを出したのは高順だった。「ならば、母を止める事のできなかった愚かな息子にも罪があって然るべき。」「・・・順、何のつもりですか。」少し冷ややかに言う閻行だったが、高順は「今言ったとおりですよ、母上。」とだけ返す。そして、飛刀が貫通して血まみれになった右の手のひらを張燕に示す。「これで、手打ちにしていただきたい。宜しいですか?」「え?え、はい・・・。」感謝します、と頭を下げた高順は、閻行を促して退室して行った。その場に残った人々は皆沈黙している。張燕にしても、「まさかこんな展開になるなんて」とまたも呆然としていた。閻行を止められなかったという意味では趙雲と沙摩柯も同罪だったりするのだが、閻行に強く押し切られては分が悪すぎる、ということを鑑みて不問とされた。廊下を進む高順と、その後ろについていく閻行。高順の右手は血まみれになっていて痛々しいことこの上ない。「順、貴方一体何のつもりで・・・。」質する閻行に、高順は振り向いてその頬を軽く叩いた。痛みはなく、叩かれた閻行も一瞬何が起こったのか理解できなかった。「貴方は一体何をしようとしたか解っておいでですか、母上。」「どういう意味です・・・。」「息子の目の前で「自分の目をくれてやる」とか言いますか、普通? 家族の立場になって考えてくださいよ。母上は何度も俺に無茶するなと言っておいて、本人が無茶をしたんですよ?」「・・・。」「折角、気を利かせて甘い処分で終わらせようとしてくれたのに。いいですか、2度とこんな真似しないでくださいね?」人差し指を突きつけて言う高順。閻行は黙って聞いていたが、突然笑い出した。「何故に笑いますか。」「いえ? ふふふ・・・貴方も言うようになったと思いましてね。そうですね、今回は私に非がありますからその言葉はしかと胸に刻みましょう。ではこちらからも。」先ほどの反撃とばかりに、閻行も高順の頬を叩いた。かなりの威力で。「ぶっ!?」「母を庇うためとはいえ、自分の手を怪我する馬鹿息子に言われたくはありません。自重なさい、順。傷物になるのは(以下省略」「だー!? また訳のわからんことを言い出したよこの人!?」ある意味いつも通りだった。~~~討伐軍本陣~~~張温は本陣陣幕で華雄が敗退し、捕らわれた事を報告するためにやってきた徐栄の言で知った。その上、少なからず兵に被害が出た事も。それを聞いた張温は頭を抱えた。「うぅ・・・な、何故私がこんな目にあわなければならんのだ・・・。」とまでぼやく。こんな目も何も、出撃せずに本陣でボケーッとしていたこの男が言う台詞ではない。頭にきて怒鳴りそうになった徐栄だったが、それを何とか収めて進言をする。「張温殿、このまま退いては反乱軍の名が増し、漢王朝の名が下がるばかり。此度はあのような戦いに対しての策を講じなかったゆえに・・・。」「大体、あの華雄を捕らえるなんて。一体どんな武将が反乱軍にいるのだ。今回は楽が出来ると思っていたのに・・・。」徐栄は進言するが、張温は全く聞いていない。まるで自分ばかりが不幸を背負っているとばかりに暗い独り言を続ける。「くそぅ、くそぅ・・・。私が一体何をしたと言うのだ。」一番上がこれでは、下にやる気など出るはずもない。徐栄は心底からため息をついた。華雄様は随分苦労をなさっておられたのだなぁ、と今更ながらに思う。このやる気のない男を一時的にでも奮い立たせて、出撃させるところまで持って行ったのだ。自分に同じことが出来るとは思えないが、ここで引き下がる事はできない。華雄が今どんな目に合わされているか解らないのだ。傷だらけの身体をいいように弄ばれて(中略)、その上あの閻行という女の手で(略)。・・・ああああああっ、華雄さまぁぁぁぁあ!!!明らかに間違え抜いている妄想なのだが、速くお助けせねばと言う気持ちだけが進んでいく。「と、とにかく・・・。敵には相当な猛者がいるようです。しかし、助けのない篭城等そう長くは続かないものです。あの閻行や高順一党が強いのは解りましたが・・・。」徐栄の言う閻行、という言葉にずっと座って頭を抱えていた張温が反応して立ち上がった。「なに・・・閻行?閻行だとぉぉお!?」「は?知っておいでで。」「そ、その女は大斧を持っておったか!?」確かに閻行は大斧を持っていた。・・・いや待て、どうしてこの男が閻行を女だと知っている?「ええ。持っておりました。」立ち上がった張温の顔が見る見る青ざめていく。「私はあの女に何度も痛い目に合わされたのだ! 西涼で何度も反乱軍制圧のために進軍したが、そ、その度に・・・!」私は絶対に行かんぞ!そうだ、援軍を派遣してもらおう。と震える声で言いつつ、またしても張温は座り込んだ。「お待ちください!その閻行と、張温殿のいう閻行が同一人物とは限りません!」「お、お前はあの女と直に戦ったことがないからそのように安穏としていられる。とにかく、私は行かないぞ!」その上、陣を南に5里、いや10里下げようとまで言い出した。なんとか説得を続けようとした徐栄だったが、錯乱した張温に陣幕を追い出されてしまい・・・結局、すべてが徒労に終わった。その後数日ほど協議をしていた討伐軍だったが、まず降伏勧告を出してみようという、今更な消極策に出るのであった。~~~もう1度、晋陽城~~~手を傷つけた高順だったが楽進の癒術を受けて(手足も)完治とは言えないが、戦う分には問題がないくらいに回復していた。閻行が退屈しないようにと話をするために部屋に向かったり、町の警邏をしたりとそれなりに忙しい。戦時下ではあるが討伐軍は陣をかなり南に下げたようなので、直ぐ襲い掛かっては来ないだろう。警戒はしており、すぐに兵を動員できるようにはしているし高順達が警邏を行うのもそれに伴うものであったりする。そんな中で、警邏帰りに高順はこの数日で日課となった「ある人物」を訪ねて城内の一室を訪ねていた。その部屋にいるのは華雄である。高順は扉を叩いて「入ります。」と確認をして扉を開けた。「失礼しますよ、華雄姐さん。」「ん・・・ああ、高順か。よく来たな。」部屋の奥の寝台で横になっていた華雄。頭と右肩に包帯を幾重にも巻いた姿で身体を高順のほうへと向けた。そこまで歩いていき、高順は寝台の前の椅子に座った。「まだ傷は良くなりませんか。あ、これお土産です。」帰りに買って来た肉まんを袋ごと寝台のそばに置く。「すまんな。それほど痛みはないが本調子とは言えん。楽進とやらの癒術とかいうのはたいしたもんだ。・・・というか、こういう時は土産と言うか見舞いで、持ってくるのも果物ではないのか?」「果物持ってきたら「もっと精のつくものをくれ」と言いだしたのはそちらでしょう。怪我人なのに食欲多いですね。」軽口を叩きあう2人。捕虜である華雄の扱いはもっと酷くて当然だが閻行の知人であるし、敵であるとはいえ一軍の将を軽んじて扱うつもりはないという張燕の指示で厚遇といっていいほどの扱いを受けていた。色々な情報を聞きだそうという打算もあるが、それくらいは当然の事だろう。それはともかく、高順はこの華雄という女性に、一種の親近感を覚えていた。幼い頃は閻行の娘・・・妹かもしれないが、そんな立場の人だったらしい。いろいろと話を聞いたが、彼女が戦災孤児だったりとか、馬騰がそういう孤児を引き取っていたりとか、そこで閻行と出会った事なども教えてくれた。華雄も、母同然に慕っている閻行の息子である高順に親近感を覚えたらしい。その為か、華雄は高順に「姐さん」扱いされても全く怒りはしない。年齢的にも違和感はなく、2人は僅かの間に本当の姉弟同然の仲になっていた。楽進や趙雲と言った、云わば高順一党と目される人々とも相性は悪くなく、良好な関係であったりもする。討伐側と反乱側という立場なのだが、そういったわだかまりを感じないのだろう。暫くしたらまた敵同士になるのかもしれないが、それはそれだ、と言うことである。「しかしなぁ、お前が高順だとは思いもしなかったよ。」「前に戦場で戦ったときもそんなこと言ってましたよね。何でですか?」「ああ。少し待て。」華雄が懐から1枚の少しボロボロになった紙を取り出して高順に渡す。見せられた高順は何かと思ってみていたが、少しして凄まじく微妙そうな表情を見せた。「その手配書を見てくれ。こいつをどう思う?」「凄く・・・微妙です。つか、何で目と腕が複数あって下半身が馬・・・あ、もしかして虹黒かこれ!?」高順は自分(っぽい存在)が書かれた手配書をまじまじと見つめている。「これ、誰が書いたんですか?」「陳宮というちびっ娘と呂布だ。」「呂布・・・。」その名前を聞いた高順の表情が険しくなる。「お前、確か丁原の部下だったのだよな。お前が手配された理由は・・・。」「ええ。呂布殿に斬りかかった。つまり官軍に挑んだということですね。」「そうか・・・。丁原の事は気の毒だった。あの人に罪はないのだがな。」華雄は力なく首を振った。「丁原様が反逆者とされた理由、知っておられるのですか?」「知っている。十常侍を知っているか?」「十常侍・・・!」「ああ。あの宦官共の企てさ。丁原というお人は十常侍を嫌っていたし、対立もしていたからな。」あいつらか。結局はあいつらなのか、くそっ。やはり、思ったとおりだった。晋陽の出来事で十常侍との確執が大きくなっていたのだ。「どうせ、自分達にとって邪魔になったという理由でしょうね・・・あの玉無し共め。」「実際その通りだ。それを思えば、呂布も不憫な立場さ。あいつも相当悩んでいたようだしなあ。」「不憫?」何が何だか解らない高順だったが、華雄は自分の知っている限りの事情を全て話した。呂布と董卓の関係。その董卓が人質として十常侍に捕らわれ、呂布や張遼も従わざるを得ないこと。呂布が丁原に対して恩を感じていた事も一応知っている。「怨むなとは言えない。ただ、誰にでも事情があって、その事情でやりたくなくてもやらざるを得ない、という事だってある。お前の立場で考えてみろ、楽進達が人質に取られて呂布と戦えといわれて・・・お前はそれを拒めるか?」華雄の言葉に、高順は悩むことなく言ってのける。「拒まないでしょうね。勝てる、勝てないに係わらず呂布殿に挑みますよ。」だからと言って、許すか許せないかと言われれば、やはりすぐに許すことは出来そうに無い。だが、あの宴会での呂布を知る高順には、呂布もまた悩んだのだろう・・・ということだけは理解できた。(やっぱり、辛いなぁ・・・。)呂布の心情を理解できるからこそ、高順も悩むのだった。そして、こんな話をしているその瞬間。洛陽では何進が十常侍に暗殺されているのだが・・・それを知る者は当事者以外殆どいなかった。~~~楽屋裏~~~メリークルシマセマス終わりました。あいつです(挨拶クリスマス終わったばかりなのにに何してるんでしょうね、私は。しっとマスクとして大活躍ですよ(何が?張温さんが凄まじく情けないですが、正史にしろ演義にしろパッと出て「さよならー」な人なのでご容赦を。閻行母さんに恐怖感抱きすぎですし・・・トラウマでもあるのかもw華雄さんですが高順一党と割合仲が良いようです。こうすれば洛陽にも・・・ゲフンゲフン。さて、簡素な言い方ではありましたがようやく十常侍が動きました、次回ではその十常侍がアレになるんでしょうけど・・・降伏勧告を受ける張燕はどう出るでしょうか。何進を抹殺した後、十常侍の動きは?そして洛陽にいる二人の袁と孫策の動き。そして呂布が董卓を救い出せるのか・・・。いや、史実どおりなのでアレですが(アレ?それともう1つ。これで閻行さんの(戦場での)出番はほぼお終いです。ずうーっと後にもう1度あるかないか、という所ですか。年内にあと1回更新できるかな・・・まだまだ先の見えない高順伝。次回はどうなります事やら。それではまた次回お会いいたしましょう。(・・)ノシ~~~少し番外~~~晋陽城のとある一室でのお話。「張燕様、少し宜しいですか。」「何ですか、高順様?」それは高順と張燕の何気ない会話から発生した事柄だった。「少し前に、華雄姐さんを矢で狙った張楊という人がいましたよね。」「ええ、いますね。」「どういう人なんです?俺・・・と言うか、周りの皆も会ったことが無いような気がしましてね。もしかして、影の1人とか?」「影ではないのです。ただ、本人が余り人前で顔を見せたくないということで・・・。」この質問は高順のちょっとした興味本位での事である。華雄には弾かれてしまったが、あの弓矢の精度は中々のものだった。狙撃と言うのとは少し違うかもしれないが、上手く使えば結構な攻撃力になると思うのだ。「まあ、同じ仲間なのに顔を知らないのは不便かもしれないですね。張楊、出てきなさい。」何時の間にいたのか、張楊と呼ばれた男が高順の直ぐ後ろに立っていた。気配も全く感じない・・・相当な使い手であることがわかる。ただ・・・。「・・・なんで後ろに、って。」 ,,、‐''"~ ̄  ̄``''‐、、 / \ / ヽ / ヽ / / ~~` '' ‐- 、、 ,,__ __ ,,..、、 -‐ '' "~~\ ヽ | / __  ̄ __ ヽ | .| { ´ ‐- ....__ __... -‐ ` } .| .| 〉,,・^'' - .,, ~ i ~ __,,.- ^`・、.〈 | ./ ̄| /,/~ヽ、 `'' ‐--‐ ,.| 、‐-‐'' "~ _ノ~\,ヽ | ̄ヽ | (` | / ヽ,,_____`‐-、_、..,,___ノ八ヽ___,,.._-‐_'"´___,, ノ ヽ .|'´) | ←張楊 | }.| ./' \二二・二../ ヽ / ヽ、二・二二/ 'ヽ | { | .| //| .| / | |. \ | |ヽヽ| .| .| | .| / | |. \ | | | .| |ヽ.| | / .| |. ヽ .| .|./ .| | .| | / | | ヽ | | / ヽ .| | / .| | ヽ | | / .ヽ.| | / '二〈___〉二` ヽ | |./ | | `-;-′ | | iヽ|. ,,... -‐"`‐"`'‐- 、、 |/i | ヽ /...---‐‐‐‐‐----.ヽ / .| | ヽ. ,, -‐ ''"~ ~"'' ‐- 、 / | .| ヽ ! ./ .| ,,| ヽ. | ./ |、 |\. ヽ / /.| .|. \. ヽ、____ ___/ / .| ' `  ̄ ̄ ´ ' 「!!?」思い切りたじろぐ高順だったが、それにかまわず張燕はその男の紹介をする。「ご紹介いたします、彼が張楊です。」「・・・よろしくな、高順。」なんですか、この握手を断りそうというか後ろに立ったら即投げ飛ばされそうな人。多分、真名はゴル○とかそういう・・・「真名は東郷だ・・・。」「誰も聞いてないのに!?」こんだけ。ごめんなさい(笑