【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第34話 晋陽的日常?高順は闇の中にいる。そこがどこか、というのは解らないだが自分は死んだのか?と思っている。闇の中を浮いているような、妙な浮遊感。その浮遊感に逆らう事もできず漂っているような、そんな印象を受ける。進む事も引くことも出来ない闇の中を延々と、漂う。「やっぱ、死んだのかな。俺・・・。」誰に聞こえる訳でもない言葉をぽつり、と呟く。その瞬間・・・声が聞こえてきた。「勝手に死ぬんじゃないわよ。」「・・・は?」女性の声。聞き覚えがある。最後にこの声を聞いたのはいつだったか。「言ったでしょ?生き急ぐような真似をしないで、って。」尚も誰かの言葉が耳に届く。この声は・・・。「郝・・・萌・・・?」高順は2度と会えない少女の名を口にする。呂布隊との戦いの最中に戦死した少女。また会おうという約束を果たしきれなかった人。「さぁ、目を開けて。貴方を待っている人が多くいるの。まだ貴方は「こちら」に来るべきではないのよ?」「おい、待ってくれ。こちらって何だよ?俺はやっぱり・・・。」質問を試みるが、郝萌の声は応えない。その代わり、闇に光が差して行く。その光は次第に大きくなって―――「か、郝萌っ・・・。おいっ!」高順を包み込んだ。「郝萌っ!!!」郝萌(かくぼう)の名を叫び、高順は飛び起きた。「・・・あ、あれ?」寝ぼけた頭で高順は考える。今の光景は一体。郝萌の声は一体なんだった?それ以前に俺は生きているのか。確か胸から腹に斬り付けられた筈だ、と自分の胸をさすってみる。その瞬間、激痛が走る。「いぎっ・・・。」痛みに高順は悶えた。というかここはどこなのだ。辺りを見回すと、窓からは月が見えて・・・どうも夜中らしい。ここはどこかの一室。自分は寝台(ベッド)に寝かしつけられて、寝ていた・・・いや、意識を失っていたというべきか。どうも死んだ訳ではないようだな、と思い直す。確か自分は晋陽制圧戦で傷を負った筈だ・・・その後はどうなったのだろう?生きているという事は成功したのだろうか?そうなるとここは晋陽城内?解らない事ばかりだ。「誰かに聞きに行ったほうが・・・いつっ・・・。」血を多く失ったのか頭がぼんやりとして上手く考えが纏まらない。と、そこで部屋の扉がガチャリと音を立てて開いた。その向こうには包帯やら薬箱やらを持っている楽進の姿。「・・・隊長?」信じられないものでも見たかのように、呆然としている。「ん・・・?ああ、楽進?無事だっt「隊長ーーーー!」ぎにゃああああああああああああああっ!?」持っていたものをその場に放り捨て、楽進は高順に思い切り抱きついた。「良かった・・・本当に良かった!このまま2度と目を覚まさ、ない・・・?」「・・・(がくりっ」「・・・え、あれ?た、隊長!?」そう、楽進は嬉しさのあまり抱きついたのだ。「力の加減をせず、思い切り。」彼女の馬鹿力で抱き締められたせいで、高順の身体中に激痛が走る。その激痛に対しての自己防衛本能が働いて、高順はまたしても気絶した。「隊長?隊長ーーーー!?」深夜の晋陽に楽進の悲鳴が木霊する・・・。その数時間後、趙雲含め、自分の部下を全員部屋に呼んだ高順は事の次第を聞いていた。自分が気絶した後、黒山軍は城門を突破。城壁上の敵部隊もこれまでか、と降伏。そのおかげで乱戦に巻き込まれず自分は助かったようだ。残存した晋陽兵は太守とその取り巻きと共に政庁に立て篭もるが、状況を打破する手段などあるはずも無い。それを見越した褚燕は降伏勧告を行った。「このような状況を作り出した原因。民を愚かな政で苦しめた太守と取り巻きを差し出すように。そうすれば兵の罪は一切問わない。身柄の安全を保障する。」と。事実、褚燕は降伏した晋陽兵を丁重に扱っていた。負傷者がいれば手当てもするし、戦死者も黒山兵と同じように平等に弔ってもいる。自分の身の安全を保障され無い事に太守+αは反発するが、勝ち目の無い戦いなのがわかり切っている。追い詰められた彼らは「身代金ならば幾らでも払うから、見逃してほしい。」と打診をしてきた。当然褚燕はそれを拒否。「今まで民草から奪ってきたものを全て返せるとでも言うのか!」と遣わされて来た使者を切り捨てかねないほどの怒りを見せた。それを知った太守は兵士達に何とか血路を開かせようと攻撃命令を出すが、そんな命令を聞くものは何処にもいない。逆に兵士達に縛り上げられて褚燕の元へと突き出される羽目になる。褚燕は縛り上げられた彼らを見てただ一言。「斬れ。」とだけ命令を出した。突き出されたものを全て斬罪にして、首は晋陽の広場にて晒されることになった。そこまでは、誰もが思わないほどに早く終わったらしいのだが大変なのはその後だったようだ。褚燕自身はここで満足したのだが、回りの者が褚燕に「晋陽をこのまま治めて欲しい」と言いだしたのだとか。それは当然のことなのだろう。自分の意思で立ち上がり、戦うことを決意したのは褚燕だ。自分のやった事に自分が責任を取るのは当たり前だ。周りの声に押され、褚燕は仕方ないと思いつつも晋陽を治める事にした。その時に名を「張燕」と改めたのだという。問題は民が納得するかどうかだが張燕はこれまでよりも税を低く、そして戦災を蒙った人々は3ヶ月ほど税を徴収しないという事を発表。これまでの悪政に倦(う)んでいた民衆も、張燕を好意的に受け止めたようで特に混乱も無かったのだ。張燕は重傷を負った高順のことも気にかけていたようだが、太守代理として政務を処理する立場になったために現在凄まじく忙しい状況なのだそうな。そして、張燕が晋陽を治めるようになって3日。つまり今だが、ここ・・・晋陽政庁のある一室にて高順が目を覚ましたということになる。「なるほどね・・・皆、ご苦労様。」寝台で身体を起こして聞いていた高順は皆をねぎらった。内心ではこの戦いで一番働いてないのは自分だなぁ、と恥じ入ってしまいそうになっている。見たところ、誰も怪我をしてないようだしそれは一安心と言ったところだろうか。皆心配してくれていたようだが、怒ってもいたらしい。全員部屋に入ってくるなり「なんであんな無茶をした!」と本気で叱られてしまった。怒られた瞬間に正座かつ土下座をして「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」と謝っていた高順も何だか情けないのだけれど・・・。さて、ここで高順は約束を果たす事にした。「給金」を渡したのである。3人娘、沙摩柯、趙雲。閻柔と田豫も呼ばれており、それには本人たちも「自分達が貰っていいんすか!?」と驚いている。高順は頷き「2人にも迷惑かけてるんですから当然です。むしろ受け取ってくれなかったら泣く。」と意味の解らない説得をしていた。2人とも大変喜んでいたのだが・・・趙雲が少し不満があったようだ。「高順殿・・・頂いておいて何ですが、私の分が少なくありませぬか・・・?」趙雲は他の者が貰った額(高順は給料を渡すときに竹板にどれだけの額か記載して渡している。給与明細のようなものだと思えばいいらしい)と見比べて不満を口にした。これに関しては高順のほうにも言い分がある。青釭の刀を譲ったというのもそうだが、彼女は高順の部下ではなく協力者と言う立場だ。今まで奢らされていた分も差し引いて、他の者に比べれば少々減額している。と言いながらも決して不当な額ではない。今回高順が皆に渡した額は、本来彼女達が貰う金額の約半年分に相当する。迷惑をかけ通しだった事。払うのを忘れていた事。干禁との約束。それら諸々合わせた、いわばボーナスのようなものだ。高順は趙雲の言葉に不快感など感じることも無かったが、李典や干禁がむっとしたような表情をしている。「ええやんか、貰えるだけ。」「そうなの、趙雲さんは貰えるだけありがたがるべきなの!文句言える立場じゃないの!」「う、むぅ・・・。」趙雲としては回りの者たちと同等に扱ってほしいだけだったのだがそれを言われると反論も出来ない。「なあ、高順。私の分が少し多くないか?1月分くらい多いのだが・・・。」沙摩柯は自分の竹板を見ながら取り繕うように口を挟む。他の者がどれどれ?と覗き込んだところ確かに多い。どういうことか、と問い詰められる前に高順は肩をすくめつつ答える。「ああ、それは臧覇ちゃんの分です。この頃、あまり遊んであげられませんでしたしね・・・。寂しがってるでしょうし、そのお金で服やら玩具やら買ってあげてくださいな。」「臧覇・・・そうか、あいつの分だったか。それなら良いんだ、すまない。しかし、物を買い与えられるよりは皆で遊びに連れて行ってやったほうが喜ぶと思うのだがな・・・。」「そうしてあげたいのは山々ですけどね。状況が状況だけにそれはしばらくできそうにないんです。討伐軍のこともあれば、俺の怪我のこともありますしね。」高順は自分の胸をつついた。「まあ、そういうことです。で、これからの方針なんだけど・・・。」言いかけた高順だったが、そこで扉を開けて部屋に乱入してくる人がいた。「順!」閻行である。そういえば彼女には誰も高順が目を覚ました事を伝えていなかった気がする。高順が皆に収集をかけたのは給料関係のことだったので失念していたらしい。「あ、母上・・・。ご心配をおk「この未熟者っ!」げぶはぁっ!?」『わーーー!?』高順に駆け寄り、拳打をかます閻行。吹き飛ぶ高順。そして叫ぶ沙摩柯達。丁原様もこんな感じだったなぁ、と薄れ行く意識の中で思い返しつつ高順は3度目の失神をするのであった。結局、高順が次に目を覚ましたのは次の日の朝。今度は閻行にクドクドと説教をされる羽目になった。曰く「周りにアレだけ心配をかけて、何も成長していない。」だの「修行が足りない」だの「あれくらいで気絶するとは何事ですか。私の若い頃などはあの程度の傷で失神などしたら良い笑い者でした!」etcetc・・・あの傷で失神するなと言うほうがきっとおかしいと思うのだが、反論したら更に叱られそうな気がするので高順は謝り続けていた。その中で、高順は更に閻行がチートな人なのだと確信する事になる。「大体、あなたは「気」も使えません。楽進さんを見習いなさい!彼女もまだ私に比べれば未熟ですが、良い筋をしています。教えを請うては如何ですか。」「・・・え?母上、楽進みたいに気を使えるんですか・・・?」初耳です母上、といった風情で聞き返す。「・・・それくらい当然でしょう?・・・まさか、順?あなた、私が馬やら牛やらを投げ飛ばすのを素でやってたと思って・・・?」「え?いえ、そんな事は無いですよ!?」「・・・。」「・・・・・・。」「できるんですけどね(ぼそり」「!!?」「ごほんっ。ともかくも順。貴方は昔に比べれば多少の強さを得たようですが・・・。その程度では討伐軍を相手取ることなど出来ないでしょう。趙雲さんや沙摩柯はまだしも、貴方は弱すぎる。」「・・・反論のしようもございません。」高順はその事について自覚していた。今回の戦いでもだが、呂布と戦ったときにも自分はあっさりと敗北した。それまでの戦いでも、高順はそれほどの貢献をしている訳ではない。黄巾の戦いではどちらかと言えば楽進の活躍の度合いが大きかった。烏丸戦では沙摩柯や趙雲、蹋頓の武力。公孫賛から与えられた兵の頑張りによって自分は生きながらえた。楽進を助けるための戦いでも、虹黒や曹操軍に頼らなければ自分は何も出来なかった。前回の晋陽軍との戦いもそうだ。自分は勝利に貢献をしているわけではない。周りの人々のほうが貢献をしているのだ。閻行の言葉に高順は項垂れた。自分の弱さを思い出し、恥じ入っていた。きつい事を言った閻行にしても高順のことを過小評価しているわけではない。むしろひいき目があるかもしれない。真実、高順が上党に帰って来たときに閻行は「随分と逞しくなった」とその成長を内心で喜んでいたのだ。そもそも、高順の戦う相手が悪すぎる。晋陽兵はともかくも、何十万という兵士がぶつかる規模の黄巾戦に参加、西涼同様に勇猛を以って鳴る烏丸兵を相手にする。その上、飛将と呼ばれ大陸最強の名高い呂布に挑むとは。どれもこれも、高順が向こうに回すには分の悪い存在ばかりであった。そんな存在を相手取って、運もあっただろうが生き残ってきたことについては良くやったと褒めてやりたいところだ。高順を叱咤する閻行も、自分が言い過ぎていることは解っている。だが、教えてやらねばならない事は多くある。この息子のことを思うのならば、少しはきつく言ってやらなくてはならない。「そんな程度ではこれから厳しくなっていくだろう戦で生き残ることなど不可能です。ですから、貴方を一から鍛えなおします。」「は・・・はぃぃ!?」「そうですね、最低限、貴方を趙雲さんと互角に戦える程度に鍛えます。ちょうどいい機会ですから皆さんも一緒に鍛えましょう。討伐軍がやってくるまでにどれだけの時間があるかも解りませんが・・・。」「え、えーと。母上。皆にはやってもらいたいことがあるのですが・・・特に李典は、投石兵器を作成してもらいたいので・・・。」「・・・そうですか。数で勝るであろう官軍を相手にするには、そういった類のものは必要でしょうね。ですが、多少の時間は空くはずです。李典さんには軽めになりますがある程度の課題をこなしてもらいましょう。」「え、あの、それはいつから・・・。」高順は、幼い頃から母親に課せられた修行の数々を思い出して冷や汗をかきっぱなしだった。今でもどうやってあの地獄を潜り抜けたのかと思っているほどに、過酷な時代だった。「他の皆さんは今日から。貴方は傷が完治してから・・・と言いたいですが、良い機会です。楽進さんを呼んできますから待っていなさい。」そう言い残して閻行は部屋を出て行った。少しだけ時間が経って、楽進を連れて戻ってきたのだが、なんと閻行は楽進に「気で傷を癒す」技術を教えるのだという。一朝一夕でできるような技術ではないので、基礎中の基礎を教える程度だそうだが・・・。この技は、基礎さえ覚えてしまえば、気の総容量やどれだけの気を叩き込むか、で随分と変わってくるものらしい。何が何だか解らないらしかった楽進もそういった技術を教えてもらえる、ということで納得して修行をすることになった。当然のように実験台は傷の癒えていない高順である。干禁や趙雲達も閻行に引っ張られて修行をさせられることになったがそれは割愛。(母上、貴女は一体どれだけ・・・。あと、気を使えるのは一握りの才能ある人だと思います・・・。ちゅうか、最低ラインを趙雲さんレベルに設定って・・・立場が無いのでは。)心底思う高順だったが、それは言わないことにした。何か怖いので。それともう1つ。修行真っ最中に閻行は何かを思いついたようで、「これで多少はマシになりますか・・・。」と呟いていた。一体何を考えて、何を実行したのかは知らないが・・・後になって、楽進の癒術(修行)を受けている高順に「まあ、母に任せておきなさい。奥手な順にとっても二石一鳥です!」と唐突に言い出して困らせるのであった。その日の夜中、張燕は閻行の部屋を訪れた。張燕は閻行に対して恨み言を言いに来たのだ。彼女は、高順達に政務に参加してもらうつもりでいたし、資金援助、そして肥料の作成などを頼み込むつもりだった。だというのに、彼らを全員修行させるとか言い出して、計画をぶち壊されてしまったのだ。資金の事で高順を頼りにするのは悪いと思っているが、今現状で窮乏している晋陽の経済にとって、彼の資金力は旨みがある。使える物は何でも使わなければならないほど、物資・人員共に不足しているのだから、と文句を言いにきたのである。他にも言いたいことはあった。「閻行様・・・。いい加減にしていただけませんか・・・?」「あら、何を?」「何を?ではありませんっ!今の晋陽の状況を理解していただいているのですか?高順様たちに手伝っていただきたいことは山ほどあるというのに、修行だなんて!・・・はぁ、ぜぇぜぇ・・・。」ちょっと怒鳴っただけだが、それだけで張燕は息切れをしてしまう。彼女はこのところあまり寝ていない。それだけやる事が多いのだ。それならこんな場所に来ないで仕事をするように、と言われそうだが彼女にも言いたいことの1つや2つあるだろう。「ええ、理解していますとも。理解しているからこそあの子達を鍛えなおしているのです。」「それはもう少し待っていただけませんか?彼らの手を借りたいのですよ・・・。」「申し訳ありませんが、それは出来ません。少しでもあの子達の力量を上げなくては生き残れませんからね。今回は雑魚ばかりが相手でしたが、中央の官軍が晋陽兵と同じだと思いますか?錬度はともかくも、軍需物資・装備の点で大きな差があるはずです。」「それはそうですけれど・・・。」「だからこそ、です。」うう、と唸る張燕だった。高順達はあくまで協力者であって自分の正式な部下ではない。このような切迫した状態だから使う、ということもできるのだが彼らの力量を鍛え上げれば、という閻行の言葉もわからないではない。高順一党だけで、数百・・・もしかすると1000の兵に匹敵する力があるのだ。それが更に強くなるというのは悪い話ではないのだが・・・。「それに、お金の事でしたら問題はありません。折を見て私から順に打診しますよ。あの子も他の娘達に給料を渡さなくてはいけませんから、無茶は出来ませんけれどね。本人はお金の事には恬淡(てんたん)とした性分ですから、あまり惜しみはしないでしょう。」「それは・・・いえ、ありがとうございます。それと、まだ言いたい事はあるんです。」「はい?」「私の「影」に、何をさせたんですか?1人だけどうしても貸して欲しいというからお貸ししましたけど・・・。」張燕は訝しげに閻行を見た。この「影」の話しは、先述の閻行の企み(?)に繋がる話であったりする。「ふふ、それは内緒です。ですが、悪い話ではありませんよ?」「悪いかどうかはともかく、一体どこに派遣したのですか。それは教えて頂いてもいいでしょう?」「・・・はぁ。解りました。ですが、皆には内緒ですからね?」閻行は仕方ないとばかりに、張燕に耳打ちした。「え・・・えぇっ・・・?そんな場所に行かせたのですか!?」「行かせましたね。」「影」が派遣された場所を聞いて張燕は脱力した。一体、目の前のこの女性の交友関係はどうなっているのだろうか?「はぁ・・・もう良いです。」張燕はがっくりと肩を落とした。何を言っても駄目な気がする、この人は。ただ、もう1つだけ聞きたいことがあった。前にはぐらかされたあの事だ。前線に立つのが好きなはずなのにわざわざ本陣守備に回ったりと、不自然な気はする。閻行の言うとおりに「若い者に苦労をさせろ。」というのは偽りの無い考えだとも思うのだが、それ以外に思うところもあるのではないか?と思ってしまうのだ。今回は邪魔が入ることは無いだろう。「では、これで最後です・・・。前にもお聞きしましたが、何故貴方ほどのお人が上党で一市民として過ごしておられたのですか?閻行様ほどのお方であればどの勢力でも将として・・・いや、勢力の長としてこの乱世に起つこともできた筈。」「人の上に跨る・・・。」そこまで言った閻行だったが、張燕が何かすっげぇ顔で睨んでいるのでやめておいた。「誤魔化さないでくださいね・・・!?」「やだ、張燕さん。顔が修羅ですよ?」「・・・(ゴゴゴゴゴゴ」「・・・喋りますから御免なさい睨まないでください怖いですよ。」「おかしな冗談を仰るからです・・・!」張燕の言うとおりである。閻行はこれまた仕方がないとでも言うように話し始めた。「私はね。もう順が生まれる十数年ほど前に西涼にて乱の渦中にいました・・・。」懐かしい話です、と呟きつつ閻行は話を続ける。乱に参加するきっかけになったのは、馬騰と韓遂という2人の女性と知り合ったのが発端だった。自分達の力を試したい。どこまで行けるのか、どれだけの事をできるのか、それを知りたい。馬鹿な理由ではあったと思うが、そんな志を持った彼女達は意気投合して西涼にて乱を引き起こした。「統率」の馬騰。「知」の韓遂。「武」の閻行。彼女らの巻き起こした乱は凄まじいものだった。西涼や長安を中心に、何度官軍と衝突した事か。幾度も幾度も死に掛かった。毎日のように敵の返り血を浴びて、身体が真っ赤に染まらぬ日も無かっただろう。何も考えずに暴れていられたあの日々が本当に懐かしい。自分はただの武辺者としてどれだけ戦えるのか。どこまでが自分の限界なのか。敵を殺して勝ち続ける事だけを考えていれば良かったあの日々。その凄まじい戦いぶりに、味方からは「戦場の支配者」と呼ばれ、敵である官軍からは「破壊者」などとも呼ばれていた。馬騰と韓遂とも良好な関係であり、いつか西涼に独立した国のようなものを作りたいものだ、とも話したことも覚えている。だが、そんな日々に暗い影を落とす人物がいた。彼女達が決起した時、他のメンバーも当然のように存在したのだ。辺章(へんしょう)・北宮玉(ほくきゅうぎょく)という男達である。彼らは名声が高く、西方の異民族を取り込んで兵力としていた。つまり、馬騰軍の主力部隊を作ったとも言える。当時は馬騰が盟主という訳ではなく、むしろ辺章が盟主のような扱いであった。しかし、統率者としても主君としても辺章より馬騰のほうが数段勝っていた。辺章は後方でじっとしているだけだが、官軍との戦いで前線に起って兵を指揮していたのは馬騰。いつの間にやら辺章達よりも馬騰らの名声のほうが高くなっていたのだ。1つの組織に2つの派閥が出来上がっていくという図面。当然のように馬騰側へ走る者が多かった。これが面白くない辺章は、馬騰・韓遂の主力武将である閻行を無理やりに自分の陣営に引き込もうとしたのだ。閻行は当たり前だと言わんばかりにこれを拒否。人質を取られそうになるものの、それを食い止めて何とか逃げ延びることに成功する。が、その際に重傷を負ってしまった。そして、それを知った馬騰と韓遂は「自分達は仲間なのに足の引っ張り合いをしてどうする。戦うべき敵は東にいるというのに、権力争いなどしているようでは先など見えない!」と激怒した。卑怯な行いで閻行を危地に陥らせようとしたことへの怒りも混じっていたのだろう。反乱軍の主導権争いに発展したこの内部抗争は、韓遂が辺章・北宮玉を暗殺することによって終結。反乱軍の性質が一気に変わることにもなった。この騒動で閻行は自分の力が彼らのような存在を引き付けたのだろうか・・・。と、大いに悩む事になった。行き過ぎた武力を持ったが故に、おかしな形になった。もう一歩で友人達と戦う羽目になり、罪の無い子を人質に取られかかったのだ。閻行はその後も馬騰の元で戦い続けたが自身の戦いの意義を見出せなくなっていった。だから、馬騰が西涼の支配権を漢王朝に認めさせた頃に彼女らの元を辞したのだ。馬騰らも「気にする必要は無い。」と引き止めてくれたが・・・。閻行は、元々人の上に立つつもりが無い。自分の思うとおりに暴れたいという欲求があった。その欲求が自分の身の破滅に繋がりかかったのだ。それについて後悔をするわけではないが、行き過ぎた力はそれを御輿にしようとする人々を引き付ける。それを思い知ったのだ。それが全うな大義を持った人々であれば良い。だが辺章らのように、権力志向の塊である人々と係わり合いになるのも御免だ。圧政に対して立ち向かった張燕や黒山兵までがそんな存在だとは思わないが、自分たちは客将。活躍をしすぎても疎まれるだけだろう。一番解りやすいのは保身、ということであった。「いつの日か、私たちは張燕さんの下を去るでしょう。その時までに妙なしこりを残したくはない・・・。」「そう、ですか・・・。」閻行の言葉に張燕は頷いた。「張燕さんがそんな人々と同列とは思いませんけど・・・。ですが、覚えて置いてくださいね。・・・ふふ、そんな顔をしなくても大丈夫。討伐軍を追い返すくらいは力をお貸ししますから。」「はい・・・。」「あの子達も、あの子達なりに自分たちの戦いに筋を通そうとしています。息子達を邪険にしないでくださいね?」「しません!むしろ頼りにしています!」馬鹿にしないでほしい、と張燕は子供のように頬を膨らませて反論した。閻行にそんな過去があったとは知らなかったが、過去がどうあれ、それだけの事で態度を変えるつもりなどは無い。「あらあら。それはありがたいお言葉ですね。さて、納得していただけましたか?」「釈然としないものはありますけど、一応は。ただ、高順様たちにもお力を貸していただきたいのは事実です。お願いしますね?では、失礼します。」「ええ、伝えておきますよ。」張燕が出て行った後も閻行は少しだけ考えていた。高順・・・息子が自分と同じ道を辿るとは思わないし、思いたくも無い。自分に無い優しさを持っている息子は、あっさりと利用されてしまうだろう。馬騰の時と同じように、張燕を勝者にして漢王朝に晋陽の支配権を認めさせる。それができればまず成功と言っても良い。その為にちょっとした伝手も使わせてもらおう。あとの残りは息子と、それとお金なのだが・・・まあ、これも何とかなるか。ある程度の算段をつけたところで、閻行は寝ることにした。と、その前にもう1つ。「武器の手入れ・・・しておきますか。」また戦う事になるのだから、と自分の大斧を抱えて刃を磨き始める閻行だった。~~~楽屋裏~~~どうも、なんか咳が止まらないあいつです。一応、母上様が戦わない理由らしきことを言ってました。戦うのは好きでも、一方的に利用される事は好まない、な感じだったのですねえ。力を持つ者も、それなりの苦悩があるんだよ、というところでしょうか。先に言っておきますが、母上様は死にませんYO!私は嫌な話は書けないのです。母上的には「戦いはするけど、いつまでも張燕の思惑には乗ってあげないよ」という釘差しでも合ったのでしょうかね。高順君は最後まで面倒見るつもりかもしれないのですがwそして晋陽軍との野戦では全力で戦っていないよ、というのを仄めかす言葉が出てました。オカシイナァ。ナンデコンナコトニナッタノダロウ?しかし、辺章とか北宮玉とか・・・誰が知ってるんだろう、こんなマイナーw一応の説明をしますと、馬騰は最初からではなくて途中から乱に参加しています。最初は辺章が盟主、その下に韓遂がいまして・・・内部の権力抗争の末に韓遂が勝利、そこで馬騰を引き入れた、というのが史実でのお話だったと思います。このシナリオではかなり捻じ曲げていますから信じちゃ駄目です。ただ後世に伝わっている史実をおかしな改変しまくってるだけで何もかもが嘘じゃないですけどね(今更・・・さて、次回からようやく討伐に差し向けられる人が出てくると思います。誰なのでしょうね、察しのいい皆様ならば既に解っておられると思いますがwそれではまた。