【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第3話第3話 褚燕様ガチで強かった。なんでこの世界は女性ばかり強いのですか?orz褚燕と自己紹介をした少女は、その場に集結していた村の男性たちを落ち着かせ、丁原の軍勢が敵ではないことを説明。警戒は溶けていないものの多少は安心したのか、彼らはぞろぞろと帰っていった。丁原も朱厳の元へ伝令を出し、攻撃の中止、ならびにそのまま村の「外」に対し警戒するように伝えた。自身の連れてきた軍勢にも朱厳と合流するように命じ、丁原自身は数人の親衛隊と残る。「さて、褚燕とか言ったな。お前には色々と説明して欲しいことがあるのだが?」人が少なくなった村の一角で、丁原は褚燕と名乗った少女に言った。「ええ、こちらが知っていることをお話いたします。ただ、このような屋外では失礼に当たります。窮屈ではありますが、どうぞ我が家へお越しください。」「ふっ、私は外でも構わんが…まあ良い。そちらの好意に甘えるとしよう。おい、高順。お前がついて来い。」この言葉に言われた本人、高順が驚き声を上げる。「は?私だけですか?」「そうだ、あまり多人数でいっても警戒されるだけだろ?それに今この場に残ってる中で一番腕が立つのはお前だ。回りの者も文句あるまい?」と、話を振られた幾人かの親衛隊は皆一様にうなずき、その通りです。と苦笑しつつ答える。「はは、別にお前らの腕が悪いといってるわけではないぞ。この中で、というだけのことだ。ああ、朱厳にも伝えておいてくれ。」「ははっ。何卒お気をつけて。」と、高順を除いた親衛隊の者たちは拱手をし、そのまま朱厳の待機する村の外へ向かっていった。「……。」「おい、高順。何をボサっとしてる。早く行くぞ。」「はぁ…。」あいつら、少しくらい反論してくれよ…。褚燕に案内されて歩いていく二人。たどり着いた先は「ほほう、個人の持ち物としてはそこそこ大きな家だな。」と丁原が感心するほど立派な家だった。この村の規模も思った以上に大きく、最初800前後の人数が生活していると聞いていたのだがもう少し多い1000人ほどだな、と高順は考えていた。褚燕に聞いたところ、やはり1000人前後が生活を営んでるという。「数ヶ月前まではもっと多かったのですが…。さあ、どうぞ。」そして、そのまま家に上がりこもうとしたところその家の門に立っていた、おそらく門番だろう。その門番が「申し訳ありませんが、武器をお預け願いたい。」と言ってきた。丁原たちがもしも褚燕に害意を持っていたら、ということを危ぶんでの発言だろうが、丁原の立場としては「武器の無い状況で襲われたらどうする?」ということになる。「うーむ、参ったな…。」武器を渡すかどうか悩むが、そこに褚燕が一言「この方たちなら大丈夫です。このまま入っていただきます。」と言った。「そんな、彼らがもし褚燕様に」「大丈夫です。この方たちは敵ではありません。もしも彼らが本気になれば、我々はもう生きてはいませんよ?」と、一言で切って捨てた。門番としても、そこまで言われれば反論できず小声で、解りました、と呟くのみであった。「ごめんなさい、私の身の安全を考えての発言だと解っています。ただ、彼らについてはそのような心配は不要です。…では、どうぞ。」と、丁原と高順を促して褚燕は進んでいった。褚燕の家は外観から見ても立派なものだったが、内側もまた立派だった。調度品やら絨毯やらが、豪華極まりない。丁原の政務室よりもよほど品の良いものばかりだ。これが本当に彼女の家なら、褚燕、或いは彼女の一族は相当な名士なのかもしれない。そして、通された部屋もまた豪華な調度品やら何やら。褚燕が丁原たちに、どうぞお座りください、と促して椅子に腰をかける。丁原は違和感無くそのまま褚燕の目の前に座った。高順はそのまま丁原の後ろで直立不動の姿勢で立っている。「あの、お連れの方もお座りいただければ。」褚燕は気を利かせるものの丁原に「彼に気遣いは不要です。」とだけ言い、事情の説明を求めた。何故、この村が賊の住処として報告されたか、ということを。褚燕もどう言えばいいものかと悩んでいるようだったが、やはり隠し事はしないほうがいいかと思い直し、全て伝えることにした。「まず、何故我々が賊とされてしまったかですが…。正直に言って濡れ衣でしかないんです。」「ほう、濡れ衣?」「はい。事の発端は3年以上前になります。」それから褚燕は淡々と説明を続けた。晋陽の太守が今の太守に変わってから、段々と税の値を吊り上げていったということ。ありもしない橋の修繕費、神像への供物。些細な理由をつけては税を取り立てていったのだ、と。それはこの村に限ったことではなく、他の地域に対してもそうなのだという。1年前に褚燕の父親が他の村々との連名で太守に税を下げて欲しいという嘆願書を出したが無視され、それどころか漢朝の決定に逆らったとして連行され処刑されたということ。そして、叔父の張牛角が不満を持ちこの当たりの村落を纏め上げようとしていること。おとなしく聞いていた丁腹と高順だったが、怒りがこみ上げてきていた。丁原にとってはそんな事があったというのは初耳だったし、高順にとってもその話は聞くだけで胸糞の悪くなるような話だった。税を上げるのならば刺史である自分に「こんな理由で、どう使用するから、どれだけの期間、税を上げたい」とか、そういった相談があって当然だ。それもせず、勝手に税を上げて、民からの意見を聞かず一方的に罪人扱いをして処刑だと?「ふざけおって!!」丁原が目の前の机に拳を叩きつけ、真っ二つに粉砕した。「………。」「あ。」「丁原様…。」 三者三様の反応だった。「おい、高順。」割れた机をそのままに、後ろに振り返り丁原は高順に語りかける。「はい、何でしょう。」「お前から何か聞きたいことはあるか?」丁原にとっては、晋陽太守が自身の利益のためだけに動いている、という情報を察知しただけで十分だったようだ。あとは調べを進めて徹底的に追い詰めてやる。とでも思っているだろう。「しかし、私のような立場で疑問を口にするのは。」「構わん。少しくらいのことなら私は気にしないし、私に対しての無礼はいつものことだろうが。隣に座らせるつもりは無いけどな。」この言葉に高順は苦笑し、それならと思い自分の疑問を口にする。「褚燕様、私からもいくつか聞いてよろしいでしょうか?」「ええ。かまいませんよ。それと褚燕、と呼び捨てでも構いませんよ?」「さすがにそれは。では褚燕様、あなたの叔父の、張牛角…と言いましたか?性が違いますがこれは?」「それは、慣わしです。」「慣わし?」「はい。我々の元の出はここからも遠い黒山というところです。私の一族は代々そこで生活を営んでいました。ですが一族の数が多くなって、各地に散っていったのです。」「晋陽各地に?」「いえ、上党にもいると思います。そして、この辺りで根を張ったのが我々や叔父の一族なんですが…。代々の慣わしで、男子であっても女子であっても成人するか、子を成すまでは張性を名乗らないんです。」「成人するまでですか?ですがそれは・・・。」「さきほど、父が・・・処刑されたと言いましたね。私も処刑されるはずだったのでしょうけど、褚性を名乗っていたので連座せず、命拾いをいたしました。過去にも似たようなことがあったそうです。」褚燕が辛そうな表情で話す。褚燕は年の頃12,3といったところだ。この年頃なのに、泣きもせずよく我慢して話せるものだなと感心しつつ、悪いことを聞いてしまった、と後悔する気持ちがない交ぜになる。「いや、申し訳ないことを聞きました。お許しを。」「いえ。・・・ほかに何か?」「それではもう1つ。叔父の張牛角ですが。彼がこの騒ぎの1つの本題である賊の頭領なのですね?」「・・・!」「ほう?」褚燕の表情が心なしか蒼くなり、丁原が感心したような声を上げる。「高順、何故そう思う?遠慮をする必要はない。思ったことを言え。」高順は褚燕を見つつ、辛いな、と思いながらも自分の考えを喋り始める。「まず1つ。この村は被害を出しておらず、生活を見るに・・・賊ではないようです。ただ、他の村には被害が出ているという報告もありますね。この村も賊の住処として教えられた以上、何らかの繋がりがあるのでは?と。」「ふむ。」「この村の西と北に1つずつ規模の大きな村があると聞いています。そして、その村の周りで被害が多発していませんでしたか?その2つの村のどちらかが張牛角の住処で、もう1つはこの騒ぎに乗じた、といったところでしょうか。」「・・・と、私の部下がこんなことを言っているが、実際のところはどうなのだ。褚燕?」「・・・。仰るとおりです。」褚燕は項垂れて、認めた。「やれやれ、もう1つの重要なところを隠すとは。感心しないな。」「申し訳ありません。隠し立てをする・・・いえ、隠していたのです。私は。」そして、まだ迷いがあるようだが、顔を上げる。「1つ、お願いがあります。隠し事をしていた私にこんなことを言う資格などないのは承知していますけど。」「言ってみろ。」「はい、叔父の、張牛角のことです。彼は、このあたりの黒山から出てきた者たちを1つに纏めるべきだ、常々そう言っていました。」こういった、役人の要求を突っぱねるためには力を結集するしかない。それには指導者が必要だ。そしてその指導者には自分が相応しい。周りの黒山出身のものは俺に従うべきだ。張牛角の言い分はこうだった。だが、それに反発したのがこの村を治める褚燕の父だった。褚燕の父は良識のある人物だったらしく、力ではなく言葉で意思を伝えるべきだ。上のものがそうだからと言って下にある我々までが力にたより続けては結局同じことだ、力に対して力で対抗するのは我々の仕事ではない とこう主張したのである。張牛角よりも褚燕の父親のほうがこの近辺では影響力があったようで、張牛角に賛同するものはその時点でほとんどいなかったのである。渋々、自分の意見を引っ込めて従う振りはしていたものの、やはり不満はあったようだ。だが3年前に太守が変わり、1年前に褚燕の父が処刑された。そのために、張牛角がまた同じことを言い出したのだ。褚燕の父の末路を知った人々の多くが張牛角に賛同し、彼の元へと集まっていった。残された褚燕も、最低限自衛のために村の人々を説得し武器などを持たせていたが、それを叔父のように、外へ向けるつもりは無かった。そして数ヶ月前に、叔父は従おうとしなかった近隣の村へ攻め入ったのだった。「その時に、叔父は見せしめだと申して村1つを焼き、住人を皆殺しにしたのです・・・。これでは晋陽太守と何も変わりません。」褚燕は辛そうに言う。「なるほどな。で、お願いというのは?」「叔父を・・・牛角を止めてください。本来ならば私の役目かもしれませんが、今となってはどうにも・・・。」丁原の後ろで聞いていた高順もそれはそうだろう、と考える。当初、張牛角の勢力にある兵数は3000程度という報告だった。おそらくは、今自分たちのいるこの村の人数も含まれる形での報告だ。そしてこの村にいる人数は約1000人。その人数を引けば張牛角の手元には2000程度。この村の全員が武器を取ったところで倍の数。手出しが出来るはずもない。だからこそ、自衛の為に男性が武器を持っているのだろう。褚燕は何も言わないが、この村はおそらく・・・晋陽に狙われている。晋陽の太守にとって、上司である丁原には黒山賊発生の元となったこの村には出来れば関わって欲しくなかった筈だ。何らかの間違いで、黒山賊が発生したのは自分のせいだと知られたら(政治的にも物理的にも)首を落とされるのが解りきっている。自分の手持ちの戦力で片を付けたいところだったが、規模の大きい戦いになるのは解っていたし、自力で鎮圧できる自信も無い。そこで自分の不利になることは言わず、彼ら全員が反乱を起こした賊である、と報告をした。そのまま一気に進み、一気に殲滅さえしてくれれば、自分の非は明るみに出ることなく、また自分の懐を潤すことが出来る。血の気の多い丁原ならば問題あるまい、という安易な考えだったに違いない。だが丁原は、血の気が多いのは事実だが決して人の話を聞かない愚鈍な人間ではなかった。そこが晋陽の太守にとっての盲点だったのだ。褚燕が自衛のために村の武装化を進めたのは、張牛角に対してではなく、晋陽軍に対してのものだったということだ。褚燕が本当のことを言ってるかどうかまでは解らなかったが、晋陽で今頃暢気にしてるであろうクソ太守にしても、全部が全部事実を報告したとは考えられない。まあいい。奴は締め上げればすぐに洗いざらい吐くだろう。考えを纏めたところで、丁原は褚燕に問う。「褚燕、張牛角を止めて欲しいと言ったな。」「はい。」刺すような視線に怖じることなく、褚燕は丁原の眼を見つめ返して応えた。「私には奴と交渉をするつもりは無い。それを解って言っているのだな?」「・・・はい。」「今の返事、覚悟の上だな?」「無論です。」丁原は質問をしたのではなく、確認をした。褚燕の覚悟を聞いたのだった。要は「お前の叔父は止めてやろう。ただし命を取るという形でだ。賊にも、賊に加担した者にも見せる慈悲など私には無い」ということだ。褚燕もその意味を理解して、覚悟をして返事をしたのだ。しばらくの間、誰も、何も喋らなかった。「・・・ふぅ。」丁原がため息をついた。「解った、いいだろう。褚燕よ。お前の願いは聞き入れた。我々は後日発つ。詳しい事が決まったら伝令を寄越す。」この言葉に褚燕は頷く。では、と一言を残し丁原は部屋を出て行き、その後ろに高順も続く。一度だけ高順は振り向き、褚燕のほうへ一礼して―――慌てて丁原のあとを追いかけていったがまたすぐ戻ってきた。「机の修繕費出しますので後日請求を!」「え?」眼をぱちくりとさせる褚燕にまた一礼し、今度こそ高順は去っていった。館を出た2人はそのまま朱厳の陣へと向かう。幾人の村の住人とすれ違うが、その誰もが暗く沈んだ表情だった。気になった高順は丁原の後ろにつきつつも、周りに視線を巡らせる。荒れて、ひび割れた大地。その大地に水を撒き、鍬で掘り起こす人々。彼らの姿を見て、高順は何かできることはないだろうか・・・と考えていた。「おそらく、元々は農地だったのだろうな。」高順が周りを見ていることに気づいていた丁原が歩行速度を落とさず語りかけた。「何故彼らがこんな所でこんな事をしていると思う?」「晋陽の軍か、黒山賊に攻撃されたか。或いは・・・。搾取され、生活を維持できず、去っていった人々の残した土地。諦めきれないのではないでしょうか?」「まあ、そうだろうな。で、今お前は何を考えていた?」ぎくっ。「はい?何のことですか?」高順は白を切るが、丁原にとってはお見通しだったようだ。「とぼけるな。肥料を分けてやりたいとか、ここに軍勢残して開墾を手伝うとか出来ないだろうか?とか、甘っちょろいことを考えていたんだろう?」ぎくぎくっ。「あー・・・。」「あのな。そんな甘いことでどうする?農地が荒れて困ってるのはここだけじゃないぞ。お前は聖人君子か。誰も彼も助けることが出来ると思っているのか?馬鹿が。」「ですが、何らかの形で助けることは出来るのではないでしょうか。」「そりゃ、あるだろうな。」「ならば」高順も食い下がるが丁原としては取り合うつもりも無いのか冷淡に応えるのみだ。「馬鹿。今ここで助けてみろ。他からも「自分たちにも肥料をください、困ってるんですー」とか来るのは解り切ってる。損得を考えろ。心を開けば向こうも心を開くわけじゃないんだ。お前の考えていたのはただの自己満足でしかない。」「丁原様・・・。」「お前の気持ちは解らんでもない。しかしな、困ってる者全員を助けることなど出来るはずがないだろうが。諦めろ。」これは、丁原の本音だ。助けてやりたいのは山々だが、あれこれと助け続けていては先が見えない。損得がどうと言っていたが、それも人の上に立つ以上、切るべき所は切り捨て、拾うべきところを拾う、という考えなのだ。そうでなければこの先やっていくことはできんぞ、という高順への忠告である。その気持ちは解るのだが、だからと言って見捨てるということが高順には出来なかった。自分ひとりでは大したことが出来ないのもよく解ってはいたが。高順は考えた。なんとかこの村の力になりたい。褚燕は何も言わなかったが、税率を上げられ、取り立てられ、財政的にも苦しいだろうし何より食料も残りが少ないはずだ。だからこそ、村の人々の表情が晴れないのだ。自己満足でも構わない。自分の考えを纏め、口を開いた。「ならば、1つ提案があります。」「なんだ。」「この村のことです。」「おい、高順・・・。」まだこの話を続けるつもりか、と後ろを振り向いたが、高順の眼は真剣だった。「どうかお聞きください。」「・・・はぁ。解った。言うだけ言ってみろ。」「まず、この村に、戦力を残しては如何でしょう?」「はぁ?何故そんなことをする必要がある?」「ありますよ。自身の悪政を証言できる人々が残っているんですよ?晋陽側は彼らを消したいと思ってるはずではありませんか?」「それは解っている。ならばこそ早急に張牛角を討つ必要がある。それに、狙われていると言ってもこの村には自衛戦力・・・。」そこまで言ったところで丁原は、いや・・・なるほどな、と言い直した。「・・・。そうか。そうくるか。」「援軍は出さなかったのではなく、出せなかったのでは?我らに合流させるつもりが、向こうが思っていた以上に早く村に入られた為に、合流することが出来なくなったのです。」あくまで予想ですが、と断った上で話を続ける。「晋陽側はそのまま攻撃して欲しいと思ったでしょうが、そうはならなかった。丁原様が彼らの事情を聞きましたからね。そうなれば反乱を起こした「理由」を知られてしまいます。本当か嘘かはともかく、自分が疑われる。丁原様のいうクソ太守の目論見はここで崩れています。」「だから予定を変更した、か。では最初に言っていた晋陽の援軍は我々を監視する為の物だった?」「恐らくは。もし丁原様が彼らと話をしようとする素振りを見せたのなら、自分たちが攻撃を仕掛け戦端を開いていたのかもしれませんね。」「なるほどな。そうなれば・・・なし崩し的に戦いが開始されてしまい、殲滅戦になってしまうからな。」「はい。我らがこの村に入ったことは向こうでも掴んでいるでしょう。クソ太守にとっては我々全員がこの村を出て行くことを願っているはず。我々がいなくなれば残るのは500程度のこの村の戦力のみ。2000も出せば事足ります。」一度言葉を切り、更に続ける。「ここに1000程度の軍勢を残せば、晋陽側も迂闊に手を出せないはず。規模の大きい軍勢なら収集にも時間がかかるでしょうしね。そうやって時間を稼ぐ間に丁原様率いる本隊で黒山賊を討ち、帰還する。そうすれば」「太守が無用な搾取と減税の嘆願をした民を殺した。その事実を知る人々も生き残り、クソ太守を追い詰める布石になる、か。」「それだけではありません。もし攻撃をされたとしたら、「上党より来た援軍に何故攻撃をしたか。」という事と「戦力があるのに援軍を出さなかったのは何故か。」ということを追加する形で問い詰めることが出来ます。もし「そちらが余りに早く到着したので」とか言っても攻撃をされた場合、事実は変わりません。」ついでに、丁原様が民を助け、悪辣な政治を行った太守を断罪した。ということを喧伝すれば人気が高まるでしょう。とも付け加える。「ふ。は、ふはははは!なるほどな、いい所に気がつくじゃないか!」最後まで聞いていた丁原だったが、いきなり笑い始めた。これは良い、と言いつつ大笑いする丁原に、その喜びようを見て唖然とする高順。まさか。まさかとは思うが。「丁原様・・・。もしかして、俺を試しました?」「ふふふ、さあ、どうかな?はっはっは!私のことがついでか、これは良い。ふふふ、そこまでは考え・・・はは、はっははは!」どうも、自分の人気のことまでは考えが行ってなかったようだ。最初に言ったところに気がついてるなら、自分の声望に繋がる位は理解していると思っていたのだが、どうもその辺りのことは気にしてなかったらしい。(相変わらずこういうことには無頓着だなぁ・・・)心の中で呟く高順だった。「ふふ、いいだろう。ここに歩兵600、騎兵400。あと輜重隊を200ほど残す。」すこし落ち着いたのか、それとも機嫌が良くなったのか。おそらくその両方だろうが、丁原は笑顔で話す。「あ、ありがとうございます!」「気にするな。あと、主将に治心を残す。暴れることが出来なくなるかもしれんから不満はあるだろうがな。ふふ、賊よりも官軍のほうが骨があるといって喜ぶかも知れんな。肥料についても許可を出そう。与える名目は考えてあるのだろ?」参ったな、お見通しか。と、高順は人差し指で頬をかく。丁原はにやりと笑うのみだったが「ああ、あと開墾云々はお前が朱厳に直接言え。自分で治心を納得させてみるのだな。」思い出したかのように付け加えるのだった。数日後、丁原が率いる4800(うち800は輜重)が、西に向けて出撃していった。褚燕は最初「兵士と食料を残す。村の防衛を手伝おう」と伝えてきた伝令の言葉を疑った。わざわざ自分から丁原の元まで足を運び、確認をするほどに。丁原自身から説明を受け事実だと知ったときに褚燕は驚きのあまり、その場で数分ほど固まってしまった。我に返った褚燕は、その場で平伏し、何度も何度も「ありがとうございます」と繰り返していた。丁原は苦笑しつつ兵士を護衛につけ送り返したが、そのときこっそり「礼ならば高順に。あいつが案を出したんです」と耳打ちした。残った朱厳率いる部隊はそのまま村に残り、柵などを作り防御を固める。やることが無い兵士は休ませていたが、しばらくして荒れた土地の開墾を交代制で手伝い始めた。褚燕は朱厳に礼を言おうと(そして高順に礼を言おうと)、朱厳の元までやって来るがそこでまた「やることの無い兵を開墾にまわして欲しいと嘆願してきたのは高順でしてな。」と返す。その合間に高順は朱厳の許可を得て上党へ使いを送り、相当な量の肥料を運ばせる。肥料がたどり着いた頃、ちょうど褚燕が自分の元まで礼を言う為に来ていたので「使ってくれ」とばかりに全て渡した。褚燕はまたも高順に驚かされる羽目になるのだが、疑問に思っていたことを口にした。「何故この村の為にそこまでしてくださるのですか?」と。「何故って?簡単です。この村が苦しい思いをしたのは直接には晋陽太守のせいです。しかし、彼の悪政に気がつかない我々にも非があるわけでしてね。」その罪滅ぼしですよ、と屈託無く笑うのだった。そんな彼に褚燕が何度と無く感謝したことは言うまでもない。その後、20日ほどが過ぎるが、上党軍と村の人々はおおむね仲良くやっていた。上党側が開墾の手伝いをしてもらっていたのもあるが、上党側が食料と肥料を提供したことが大きな理由だった。丁原が「すぐ終わらせる」と言いつつも「もしもの時のために」と糧食を多めに用意した為、余裕があったし、村の食糧事情も相当厳しいことが解っていたからである。その間兵士たちは開墾の手伝い、住民の手を借りて防衛力強化といった作業に余念が無かったが、1人だけ他と違うことをしている者がいた。高順である。もちろん、兵士と同じように鍬を振るい、落とし穴を掘ったりなどの作業はしていたが特別に許しを得て、ある人に稽古をつけてもらっていたのである。その相手は・・・・・・褚燕。場所は、村の広場よりも少し離れた位置にある公園のような場所。公園と言っても、木が植えてあり、野草を刈って更地にした程度のものだ。昼間は子供たちがこの辺りで走り回っているのだという。もっとも、彼らが稽古をするのは夕方から夜にかけてだから誰の迷惑にもならない。「遅いです!!」バキィッ!「ぐっはぁぁあっ!」「まだ遅いですよ!」ボキィッ!「く、くそ!」「さきほどよりも良くなりましたが・・・まだ!!」ボギャアッ!「グフゥッ!?」・・・・・・・・・・・・「いつつつつ・・・・・・死にそう。」水で濡らした布を頭にあてがう高順。「ご、ごめんなさい。」そして謝る褚燕。「あの、1つ質問があるのですけど。」「はい?何です?」「何故、私に稽古をつけて欲しい、と仰られたのです?」これは褚燕にとっては何故?と思うことだった。朱厳に手合わせをしてもらえばいいはずだし、他の兵士で暇な人をつかまえてつき合わせればいいはずなのに。「褚燕さんが強そうだったから?」「・・・私、そんなに強そうな外見してますか?」「普通ですよ?」「むー。」高順の知識として、褚燕が強いということを知ってのことだが、それを素直に言うことはさすがにまずい。高順はこの時代から見ればずっと未来の知識を持ってる存在である。三国志のことをそこそこに知ってる彼は褚燕がどういう人物なのか、というのを知識として知っていた。その強さを知るからこそ、手合わせを頼み込んだのだが・・・少々、強すぎた。何せ、動きが早いのだ。すばしっこいとか、そういうレベルじゃない。拳の動きが見えないわ、蹴られたと思ったときには既に体が吹き飛ばされてるとか。反撃すれば超反応で避けられ、また手痛い反撃を食らう。これでは手合わせも何もあったものじゃない。どうしたものか、と悩む高順に褚燕が遠慮がちに声をかける。「あの・・・。」「え、はい?何ですか?」「どうして自分の攻撃が当たらないのか?と思っておられます?」「よくお分かりで。・・・うーん、俺には才能が無いって事なんですかねー。」「才能が無い?高順様が?・・・・・・ぷっ、うふふふ・・・」こんな愚痴をこぼす高順に褚燕は何故か妙な面白さを感じてつい噴出してしまった。「ひどいなぁ、笑うなんて。」「ふふ、ごめんなさい。逆なんですよ?」「えー?」「才能はあると思いますよ。ただ、それを活かしきれてないだけと思います。」実際、褚燕は高順の武力に感心していた。手合わせで槍の攻撃を見せてもらっただけだが、槍で突く速さ、薙ぎ払う速さ、振り下ろす速さ。そのどれもが相当なものだと思っていた。当てられたことが無いので威力は解らないが、本気で当てられたら一撃で勝負がつくはずだ。自分も本気を出しているわけではないので実際に戦場で戦わなければ解らないものはある。「活かしきれてない、かぁ。」「ええ、高順様はなんと言うか・・・攻撃が素直すぎます。」「素直って?」「戦ってる最中に自分が狙ってるところをじっと見つめ続けてるんです。あれではすぐに避けられてしまいますよ?」そのまま攻撃を繰り出してくるのですから、避けるのは易いことです。とも付け加える。「高順様はまずその癖を直すべきです。あとは、実戦に出なければ何とも言えませんね。」「うーん、もっと別のところを狙うべきですか。」「うぅん・・・。簡単に言えば、相手の肩を見ながら足を打つ。足を見ながら胸を突く。とかそんなところでしょうか。」褚燕がフェイントという言葉を知っていたらそう言っただろう。「援軍が来ると思う場所に援軍を出さず、来ないだろうと思う場所に不意に援軍を繰り出す、か。」「はい?」「相手の意表をつく、とかそんな意味です。ああ、他にどんな所が悪いと感じました?」「動きに無駄が多いです。」「ぐはぁ」一言で切って捨てられた。「高順様の攻撃はとても早いです。私もさっきは来るのが解ってても避けるのに苦労しましたから。私の速度に体がついてこれるようになった、ということですね。」「おお、初めて褒められた!」「うふふっ。ただ、攻撃は早いですけど、どうも無駄があるように見受けられました。」「だから無駄が多い、ですか。たとえば?」「これは言葉では何とも言えませんけど・・・。」そうですね、と小首を傾げて考えてから褚燕は続ける。「高順様にちょっとした課題を出しましょう。これから毎日、ご自分の気が済むまで「突き・薙ぎ払い・振り下ろし」の3つだけを徹底的にこなしてください。」「3つだけ、ですか?」「はい。高順様は小手先の技術などに頼らない戦いをしたほうがよほど強いと思います。その3つの動作をとことんまで鍛え上げて、練り上げて・・・。技術など後からいくらでもついてきますよ。」「・・・そんなものなのでしょうか。」「どんな武器や戦い方でも、必要な動作を最大限まで鍛えることが出来ればまずは十分です。相手の意表も大事ですけど。高順様はまずそこから始めましょう。」「・・・わかりました。ですが明日からじゃ遅い。今からです。」「え?」「ありがとうございました、褚燕様。これから課題ををこなしてきます!」立ち上がり、高順はそのままどこかへ走って行った。これからまだ続けるつもりなのだろうか。褚燕は一人残される形になったが・・・。「おかしな人・・・。」と、苦笑交じりに呟き帰路に着いた。そして・・・晋陽の軍勢が村に攻撃を仕掛けてきたのは、その4日後のことだった。~~~楽屋裏~~~どうも、あいつです。少し長いかな?と思ったのですが・・・そんなことは無かったぜ!(むしろ文章考えるのに数日もかかってこの出来。吊るしかないというか、これだけ書いてもまだ黄巾に突入しない・・・・自分の文才の無さに絶望した!orz何度も読み返して誤字とかチェックしてるのに何故又見つかるのか・・・ご意見、ご感想お待ちしておりますっ。