【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第131話曹・孫連合は、当初の予定通りに官渡へと入っていた。途中で異民族部隊との小規模な戦が幾度か発生していたが、威力偵察のようなもので直ぐに撤退、様子見のようなものばかりであった。この動きに呼応するように、華北の大半を荒らしまわっていた異民族が嘗ての袁紹のように黄河を渡り官渡北方へと進軍して来たが、この時は上流の何処かで雨期であったのか黄河が微妙に増水。官渡方面に渡ろうとした際に一部の異民族が流されている。これは程昱が李典に「一時的に水嵩を上げる程度のもので、何処かで堤防作れないでしょうかー。」と頼み込み、李典が「しゃーないなー」と配下を動員して堤防を作成させている。速度が異様に速かったのだが、そこは高順が「その手の話なら俺を通して欲しいなぁ」と文句を言いつつ更に兵を動員した為、更に建設速度が速まった、と。李典配下にはこういった建築関係、というより李典の仕事を手伝って設計云々に携わる者が多かったので元々速かったわけだが。それを、頃合を見計らって堤防を破壊すれば、という事になるのだが、そのタイミングは完全に「勘」でしかない。下手をするとただ大量の水が流れていくだけか、最悪味方が流されるかになる。なのだが、程昱は「戦場は官渡付近。そうなれば北方・西方異民族が南下する事になるでしょうねー」と、この後の動きを読んでいる。「彼らは自分達の方が強いと考え、実際にそうだから警戒も何もせずまっすぐ南に向かうだろう」とも考えている。曹操は、自分達西方軍が到着するまでは自ら攻撃はしないだろう。それだけの戦力は無い。なら官渡付近で留まる。最悪その北方にある陽武で留まる。もし黄河が氾濫をしても官渡に被害はほとんど無い。一応、黄河からの支流に渠水(きょすい)と呼ばれるものがあり、それは官渡の西から東へと真っ直ぐ流れている。曹操は袁紹との戦の折に、この渠水を決壊させて官渡の西側を底なし沼のような状態にしているが・・・。このような事から、異民族の軍は袁紹同様に北側から東側にかけて布陣せざるを得ない。そうなれば、異民族軍は嘗ての袁紹のように白馬津・延津から南進して南坂・酸棗(さんそう。反董卓連合の連合軍が集結した場所)から陽武へと到る。程昱はそこまで読みきり「どんな状況で堤防を決壊させても、異民族に対して相応の効果を出せる」と判断したのだろう。問題は、戦場が湿地帯になり、更に下流に住む人々の生活に打撃を与えてしまう事だが、これくらいは仕方が無いと割り切るしかなさそうだった。湿地帯になる問題は時間が解決するか、そこ以外を戦場にする事で多少はマシになるし、ここで異民族を止めないと下流どころか漢土全域が蹂躙されるのだから。この目論見はある程度の効果を発揮し、決して少なくない数の異民族軍兵が水流に呑まれて消えて行った。ただし、程昱と護衛として残留した劉封は戦闘に間に合わなかったが、それに見合うだけの戦果であった。こういった事があったせいか、異民族軍は官渡の北方で停止。西方軍が合流しなければ戦いを挑むことも出来ない曹・孫連合も官渡に陣を敷き、睨みあいとなる。そして睨み合いから数週間、夏侯淵・孫権・関羽ら率いる西方軍は無事に官渡へと到達。異民族の総兵数は50万前後、曹・孫・関の・・・三国連合と言うべきか、連合軍の総兵力は40万前後。異民族にとっては未だ有利な状況に見えるが、内実はそこまで良くも無い。西方と北方異民族の仲自体が友好的とは言えない。各地を蹂躙して物資を調達しているが、数十万規模で人が動くために物資の補給が上手く行かない。三国連合にしても、やはり食料などの物資には不安がある。曹操らが兵の不安を抑える為に兵を巡察し「西からの援軍が到着したら、直ぐにでも敵を打ち破ってみせる」と豪語していた事もあって、西方軍が到着してすぐに「決戦は近い」という流れになった。それでも色々と用意する事があるので数日間は待ったが、援軍到着で上がった士気も時間が経てば下がっていく。曹操・孫策・関羽の三者は会議を行い(関羽が一勢力として認められたのにはそれなりの事情がある)結果「もうこれ以上時間をかける事は出来ない」と判断。正式に決戦の日取りを確定させるのであった。その頃の高順は、と言えば・・・。「ごはん」「よーし、何故あんたが来たのか説明していただきましょうか?」呂布やら陳宮やらの相手をしていた。最初、高順は呂布が関羽軍に居ることを全く知らなかった。知ったのはつい先ほどである。今までは静かに暮らしていたらしいが、どうにも関羽軍の戦力が足りないという事で一時的に武将として復帰した、というのが陳宮の説明だ。本人が言い出したわけでもなく、関羽から乞われる格好での参戦だ、とも言う。そりゃ一勢力として軍議に参加できる訳だわ、と高順も妙に納得したが問題はそこではない。「何故に関羽軍のあんたが、一応は孫家の将である俺の陣に来ましたか?」「ごはん」「・・・」「おいしいごはん」「恋殿は美味しい食事を提供してもらえるという話を聞いてやって来ただけなのです! そうでなければこんな所には来ませんぞっ」「どっからそんな話が出たんだよ、つうかこんな所扱いかよ俺達の陣」確かに、高順の陣所では割と豪勢な食事を出していた。ただ、それは決戦が近いのだから兵には良い物を食べさせて満足な腹を作ってやろうと言う高順の意向によるものだ。別勢力の、しかも主君の仇である呂布に食事を提供する謂れは高順には無いのである。無いのだが・・・「ごはん、だめ?」(ぬ、くくっ・・・)(ニヤニヤ)首を傾げる呂布、そしてそれを見て硬直する高順。更に周りでそれを見てほっこり且つニヨニヨする趙雲ら。どうにも呂布の仕草と言うか言動が、彼らにとっては「犬」に思えて仕方ない。多分尻尾があったら、ふっさふっさと揺れているのだろうなあ・・・くらいに感情が分かり易い。「ご飯、と言われてもねぇ・・・」「おにぎりがいい」「おにぎり?」高順の反応に、呂布はコクコクと頷いた。「高順の握ってくれたおにぎり。おみそしる」「おにぎり・・・」もっと豪勢な食事を求めて来たのだと思っていた高順だが、それは違ったらしい。呂布は、高順が昔に握ってくれたおにぎりと、それまで口にした事の無い味噌汁の味が忘れられなかったのだろう。高順は溜息一つついてから、左手の義手をゴリゴリと音を立てて外す。「あっ」「生憎左手は、半分以上失われていてね。・・・もう、握り飯は作れないんだ」義手を持った右手と、言葉通りに喪われた左手を交互に見て、呂布は肩を落とした。その様、まさに犬。それも、ご飯を貰えると期待していたのにお預けを食らったような落ち込み方をする犬。(ぬぅ・・・)←高順の反応(こ、これはまた威力の高い・・・)←趙雲の反応ションボリして本気で落ち込む呂布の姿に、それを見ていた全ての人々が同じような連想をしていた。あと、陳宮は密かに忠誠心を鼻から垂れ流していた。そんな呂布を見かねたのか、義手を填め直した高順は「ちょっと待ってろ」と言って、何処かに行ってしまった。呂布は素直に待っていたが、しばらくして帰ってきた高順と、その後ろに従っている兵士の手にしている物を見て顔を輝かせた。「豚肉を焼いたのと、握ってはいないが飯だ。・・・食いすぎるなよ?」(ぶんぶんぶん(すげえ勢いで頷く呂布「あと、それ食べたら大人しく自分の陣に帰ってくれよ」と言い捨てて高順は兵士に言って陳宮にも同じ物を饗する。「べっ、別にお前の施しを受けるつもりなんかっ」「そう言うな。食わんと大きくならんぞ? 明確に言えば背と胸」「うるさいのですっ!!」ピーピー喚きつつ「ちんきゅーきーっく!」と高順に蹴りを入れる陳宮を見て、周倉を除く皆が「変わらないなあ」と笑う。周倉は「こらこのクソガキ! 大将に何しやがる!!」と引っ張り上げようとするが、高順は笑いながらそれを制した。「変わらんな。ま、それでこそお前だよ。そう簡単に死なないとは思っていたが、無事で何よりだ」呂布をちゃんと守るんだぞ、と高順は陳宮の頭をグリグリと撫でる。「ふ、ふんっ! お前に言われるまでも・・・無い、のですっ」少しだけ声が上擦っている。呂布軍在籍の時は犬猿、というか子供じみた喧嘩をしていた二人だったが、何だかんだで仲は悪くなかった。一つだけ不幸があるとすれば、高順は陳宮が郝萌(かくぼう)を死なせたという事実を知らないままだ。いや、知らないほうが幸せだったのかもしれない。結局、高順はそれを知らないままだったのだから。このような状況だったが、客は他にも居た。関羽の軍からは呂布や、他にも厳顔と黄忠が居る。「美味しいお酒を」「振舞うと聞いて来た!」「あんたら関羽軍重鎮でしょうが!? 美味しい酒や食事なんていくらでも食えるでしょ!!?」こんな感じである。孫策の軍からは太史慈や魯粛。「おう、高順ー」「へへ、お久しぶり」「おお。二人とも来てくれたか。酒も飯もあるから好きにやってくれ。・・・ところで太史慈さん?」「何か用かな(グビグビと酒を呑みつつ」「臧覇ちゃんに手出しましたか?」「まだ出してない」「そうですかありがとう、いつか手を出す発言凄いですね」「それほど・・・あっ」「てめえこの野郎! 臧覇ちゃんに手ぇ出すなっつてんだろうがあああああっ」「いやまだだって! まだ出してない!」「いつか出すって意味だろうそれはっ!そこに直れーーー!」「うわあああああ助けてええええええっ!!?」再開して早々、少女を巡り(?)追いかけっこを発動する馬鹿二人。魯粛は(そら、まだとか言ったらそうなるに決まってるでしょうよ・・・)と思いつつ、追いかけっこを酒の肴にしているのだった。後の話になるが、太史慈は沙摩柯に「臧覇に手を出すのなら・・・親である私を倒してからにしてもらおうか?」と怖い笑顔で囁かれ「勝てるわけねぇーっ!?」と叫んだとか。意外や意外、沙摩柯も割と親馬鹿であった。魏からも高順に客人がいる。まず、満寵。彼女はもう将軍になったらしく、何人か引き連れていた。本人はお供など不要と思っていたらしいが、立場上一人になる事が出来ず、そこは申し訳ないと謝っていたが。用事は、と言えば長坂で拾った仮面を返しに来たのだが、高順はそれを「もうそれは満寵殿の物で良いさ」と断り、逆に剣を二振りほど贈っている。孫家、次いで北方・西方異民族相手の連戦。そしてそこから小競り合いを続け、たいした補給も受けられずに官渡まで来たようで、鎧も剣もボロボロだった。満寵は最初遠慮していたが、結局受け取らされ「大切に使わせて頂きます」と礼を言ったが、高順は「むしろ使い潰してくれ。使われないままよりは、ボロボロになるまで使われた方が道具にとっても幸せだろうし」と返した。「それなら・・・使えなくなるまで、使い続けます。これで宜しいでしょう?」「うん。それなら良いよ」お互いに色々と話をしたかったが、満寵も「立場があって長々と居る事が出来なくて・・・戦が終わった後、ゆっくり話しましょう」と申し訳なさそうに帰って行った。他にも客は二人。その二人は高順のみならず、隊の面々も酷く喜ばせた。高順が陣幕に居ると、周倉が「大将、また客っすよ。会うんすよね?」と面会許可を得に来た。「誰だよ、それが解らんのに会うか会わないかなんて」「いやー、俺は知らねえ人だけど、趙の字達が「会えば解る」っつうもんで」「??? まあ良いか。通してくれ」「ういっす。」周倉が一旦外に出て「良いってよー」と声をかけてから、少ししてから、袴にさらし。その上に着物をらしき服を羽織っているだけの女性が入って来た。「おっすー。」張遼である。「ふぼぉっ!? ちょ、張遼さんっ」「なーんや、そんな驚かんでもえーやんかー」「驚くなっつうほうが無理です! ほら、座って座って。ああ、もう。来ると知らせてくれれば良いのに。むしろ居る場所教えてくれたらこっちから会いに行ったよ!」あたふたする高順を見て「変わらんなぁ、真名で呼んで良えって言うてるやん」と、張遼は笑う。高順が用意してくれた床几に腰掛け、張遼は「ふいー」と息をついた。「・・・あー」「えーと」「・・・」「・・・・・・」「・・・なはは、参ったなぁ」「へ?」「いやな、会ったらむっちゃ文句言ったろ思っとったんや。うちみたいな佳い女放ったらかしにしよってからに。」「ごめんなさい」即謝る高順である。「でも、あかんなぁ・・・星や凪、他の皆。順やんの顔見たら、なんか・・・言葉が上手く出て来ぃへん。言いたい事、沢山あった筈やのに」不思議なもんや、と張遼は目を閉じて頷いた。「そう、ですね。俺も言葉が出てきません。迎えに行けなかったのも、何言っても言い訳になるし」「せやな。ああ、そうや。きっちり産んだでぇ?」「・・・え、子供? 生まれたの? ちゃんと生まれてたの!?」「なっはっはっは! 当ったり前やろ、うちを誰や思てんねん? 娘やで、娘。可愛いでぇ?」「娘かー・・・あー、霞さんの子供だものなぁ。息子でも娘でもどっちでも嬉しいなぁ。他人の子供でも可愛いんだ、実の子供なんてそりゃもう・・・」「・・・他人の子ぉ? そういや星が言うとったなぁ・・・? 養子をじゃんじゃか迎えとるとか」「うっわ、何言っちゃってんのあの人!?」「いーやー? 別に怒ってへんでぇ? 子供仕込んだ女とその娘を放置して養子取ってたとか聞いても何とも思わんしぃ?」「すみませんごめんなさい!」またしても謝る(土下座)高順に、張遼は意地の悪い笑みを浮かべた。「ま、理由は聞いとるけどな。蹋頓はんの頼み聞いたり、境遇が酷いとか、行く当ての無い子を引き取ったんやろ」「え、ああ。まあ」「ふふん。少しの間とは言え放置されとったんや、これくらい言わせてもろても罰は当たらんやろ」「全面的に俺が悪いので反論も出来ません本当に申し訳ありません」「ほんま変わらんなぁ。安心するで。で、な。娘なんやけど。名は虎やねん。決めてもうてから言うのは何やけど、順やんの意見聞かせて欲しいなあ」「つまり・・・張虎?」「高虎やろ、常識的に考えて。母親の姓を名乗ってもええけどな」「ん、良い名だと思いますよ。・・・あー、会いたい、絶対に可愛いのが解ってるし、お父さんって呼ばれたい」「そらもう順やんの父やんも母やんもメロメロになっとるくらいやし。二人が世話見てくれるからウチも安心して外に出れるわ」「そうか・・・両親も生きていてくれたか。ま、不安は無かったけど。母上なんか死なすの無理だろってぐらいだよ」「おお、せやせや。その母やんの事なんやけどな。前にな、うちんとこの総大将の首を「コキャってきます」言うてへし折りに行こうとしてな」「・・・は? 曹猛徳の?」「せや。理由はあったけどコキャりに行ってくる、言いはって」「あれ? どこかで聞いたような・・・?」~~~成都、高順邸宅~~~「くちゅんっ」「あ? どーしたんだよお義母(おふくろ)。風邪?」「いえ、そうでは無いのですが・・・くしゅっ」「本当に大丈夫?」「ええ。くしゅんっ」「きつそうなら早く寝なよ・・・」~~~場面は戻って~~~「うちもマジでビビったわ。あの人、なんやかんやで成功させそうやん?」高順と張遼、二人で視線を上に向け、その光景を想像する。「普通にその光景が見える。その上無傷で帰還しそう」「せやろ!? でもそれってむっちゃ不味いやん? で、皆で止めようとしたんやけど、全員あっさり引きずって普通に行こうとするんやであの人」「と、止めたんですよ・・・ね?」「これアカンやつや、どないしよ!? 思うてたら、そこで娘が泣き出してな。そこで母やんがえっらい速さであやしに」「虎の泣き声で止めたんですか」「うん。そっから何度もコキャりに行こうとして、その度に娘が泣き喚くんや。なんや赤ん坊なりに嫌な予感でもしたんかなぁ。」「なんともまあ。結局どうなったんです?」「家から出ようとするたびに泣くもんやから、母やんも「これは行くなと言ってるのでしょうかね・・・」って諦めはってな。いやー、子供も馬鹿にできへんなぁ」「そうでしたか。いや、本当に良かった。あの人が出てくると本気でどうしようも」「せやなあ。収拾つかへん、本気出されたら・・・っと。そろそろ行かんと」「え、もう?」「やー、もっと話したいんやけどな。星やら沙摩柯はんやら華雄姐さんとも話をしたいんや。それに、さっきの周倉やっけ、アレとも話しとこうかなーと」「はあ・・・まあ、それなら」「客はうちだけやないしな、待たせるんもかわいそうやし。ほな、またな」(・・・?)陣幕から出て行く張遼。彼女の「客は自分だけじゃない」という言葉に首を傾げつつそれを見送る。(て事は、また誰か来るって事? 他に誰が)誰か居たっけなあ・・・と考え込む高順だが、張遼と入れ替わりのように入ってきた楽進に「隊長?」と呼びかけられ、思考を中断した。「ん、どうかした?」「もう一人の客のことで。招き入れても宜しいでしょうか」「ん、良いよ」「ありがとうございます。・・・おい、入って良いぞ」楽進の呼びかけの後、外から李典の「ほら、早く入りぃな!」「ふええ・・・でもぉ」とかそんな遣り取りが聞こえた。そして、その声は高順にも聞き覚えのある声だ。「入ってくれ、沙和」その呼びかけに、沙和・・・于禁が、李典と楽進に背中を押されつつ恥かしそうに陣幕に入ってきた。「あー、うー。お、お久しぶり、なの」「本当にな。ほら、座ってくれ。凪も真桜もな」「はい」「ほいなー。ほら、さっさと座り」「うん・・・」ちょっと所在無げというか、落ち着きが無いというか。于禁は座ってからも少し気まずそうだ。そりゃそうだろう、と高順も思う。「うー・・・その、私、高順さんに謝らないといけないの」「ん?」「徐州で預かった人たち、半分以上死んじゃったの。折角信頼して預けてもらったのに・・・」「ああ・・・そうか。だが、俺も謝らないといけなくてな。助けにも行けず、ずっと放ったままで済まないと思っている。」凪と真桜の視線が痛くてなー、と高順はボソリと呟いたが、名指しされた二人は「そんな事してないだろ」とばかりに高順を睨んだ。「おお、怖い怖い。まあ、死んでしまったのは仕方がない。今までにも戦に駆り出されてその中で亡くなった者も居るだろう」「うん、ごめんね」「お前のせいじゃないよ。沙和、この戦いが終わってからで構わんが生きている者、亡くなった者の名簿を纏めて渡してくれるか? 生きている者、死んでしまった者に家族が居るなら保障をしないといかん」俺に渡せそうに無かったら、凪や真桜でも良い、という高順の言葉に、于禁は素直に首肯した。二人も良いよな? と同意を求められた楽進達も頷く。「ところでな、話を変えるが」「うん?」「魏での暮らしはどうだ、曹操はちゃんとお前を任用してくれているのか?」虐めとかそんなのを受けてないか? と高順は聞く。「うん、お姉様(張遼)の補佐って事で徐州に居るし・・・何で?」「そうか。それなら良いんだ。もし」「あー、こーじゅんにーさん?」「おう?」李典が話を遮る。「その話よりもな、アレ。アレ渡したほうがええんちゃう?」「アレ? ・・・・・・、あー。そうだそうだ。忘れてた。確かに渡しておいたほうが良いな。さっきの保障の話の時に思い出すべきだった」「なんや、もうボケが始まってんのかいな」「酷いっ!」「おい、真桜」楽進の窘めに、李典は「にしし」と笑うだけである。「まったく・・・ええと、確かここら辺にー」立ち上がり、高順は後方に置いてある物入れ用の大きい箱を開けてゴソゴソと何かを探し始めた。「??? アレって何なの?」「直ぐに解るさ」ハテナ顔の于禁。高順は目的の物を直ぐに見つけたらしく「あったあった」と戻って来た。その手には少しだけ大きめの袋が握られていて、高順はそれを「ほれ」と于禁に手渡した。「?????? コレって」「開けてみろ」何かゴツゴツした手触り、袋の中に何が入っているのかなあ、と于禁は紐を解いて中を見る。「えっ・・・!?」それを見て于禁は驚きの声を上げた。中身は宝石。高価そうな物が幾つか入っている。売るべき所に売れば2年くらいは普通に暮らしていけるだろう。「えっと・・コレ・・・何なの?」「何って。お前の給料だろ」「ふぇぇぇっ!? 給料!?」「そうだけど」「何で!??」「んー、何でと聞かれてもな」「沙和、それはな」楽進が説明をする。「本当なら払わなくても良いのだろうが、隊長が「いや、俺のせいでこうなったんだしなぁ・・・没収! っていうのも気が引けるなぁ・・・」と仰ってな」「はぁ・・・」「それから、毎月。お前に預けた兵のものも含めてずっと払うべき給料を貯めておられたんだ。一定の額になったら宝石に換えて、何時でも渡せるように、と」「え、でも・・・も、貰えないのっ!」私、もう魏の武将だし、と于禁は高順に返そうとした。「良いから受け取れ。・・・ああ、疑われるか。高順から別途給料を貰うとはどういう事なんだ、とか諜略か、とか」「うん、それもあるけど」「じゃあ曹操に渡せば良いさ。「高順から貰ったけど私はもう魏の武将だから迷惑です。預かってください」とか言って」「「突き返そう思うたけど受け取ってくれへんかったし!」って言うとけばええかな? 「それに自分、魏に忠誠誓っとるんで!」って主張になるなぁ」「えうう・・・でも、でも。私、もう高順隊じゃないし」「ふふ、寂しい事を言ってくれる」「う・・・」高順は優しく笑い、于禁の目の前で彼女と同じ視線になるように座る。「良いか、これだけは忘れないでくれ。俺は一度も、お前に、お前に預けた人々にも除隊許可を出した覚えは無い」「・・・!」「今は良くても、魏に居辛くなる事があるかもしれん。その時は遠慮無く帰って来れば良い。その時俺が居なければ、他の面々でも良いさ。籍は置いておく」そう言われた于禁の肩に、楽進と李典が左右からぽむりと手を置いた。二人も、笑っている。「・・・う」「う?」「う、うぇぇぇぇええぇぇっ・・・凪ぢゃああん、真桜ぢゃん、ぐずっ、ごうじゅんずぁ~~~ん・・・」高順の言葉、仲良し二人の優しい態度に感極まって、ぶびびぶべぶりゃべりゃぁっと、涙鼻水を垂れ流して泣き始める于禁である。「うぉぉぉぉいっ!? 何も泣かんでもええやんっ!?」「らって、らってぇぇ~~~・・・」「ああああっ、もう。ほら、行くぞ沙和っ」おーんおんおんと、泣き止まない于禁を抱きかかえて、楽進と李典は陣幕から出て行った。飯でも食わせれば少しは収まるだろうし、彼女も他の面々と話はしたいだろう。予期せぬ来訪やら再会やら、何かと忙しい一日だな、と高順は一人感慨に耽る。張遼にも于禁にも会えた。またやりたい事は増えたが多少の落着になって、そこは一安心といったところだ。だが、コレは終わりではなかった。「高順さん、宜しいかしら?」「んお? 麗羽さん?」最後の最後に、麗羽がやって来た。「どうかしました? って言うか何処行ってたんですか? なんか今日殆ど姿を見てなかったので如何したのかと」「あら、心配をおかけしました?」クスクスと笑いながら、麗羽は「少し、商売をして来ただけでしてよ?」と答える。「商売・・・? 誰に?」「孫策さんと関羽さんと華琳さん」「へえ、あの3人・・・ぶふぅっ!? 何やってんの貴女」「ですから、商売を」「・・・詳しく」「はぁ」かくかくしかじか。麗羽の話を聞くと、確かにただの商売、というか・・・交渉である。関羽には「食料」を。孫策には「軽鎧や盾」など。曹操には「鎧・武器」・・・。軽も含め鎧だけで数万領。他にも矢、剣、刀、矛。そういった、戦に必要な物資を高順隊に必要な分は確保した上で、余った分を全て「無料」で提供してやった、と言うのだ。当然、南方や益州での仕入れに寄るもので、各国正式採用の品とは規格は違うが、そこは我慢するしかないだろう。関羽が食料だけ、というのは、益州では鉄の産出が多く、それに類する製造も秀でている。兵士に対しての武具の供給率が高く、その辺に困っていないという事情だ。他はその逆で、兵は多くても供給率は低い。その為にこういった物資の振り分けである。「だからって一人で行きますか!? 政治には関与したら駄目ってあれほど」「政治、ねえ。私は孫家の内外の政に口出しをしてきたわけではありませんの」「へ?」「まあ、順を追って説明致しますわ。まず関羽さんですが、これは見返りを期待していません。なので、返せる時で良い、という口約束」「また随分と豪快だね」「ただし、ある一つの権利を得ましてよ」「権利、ですか」「高順隊、あるいはそれに属する全ての人は関羽さんの領内を自由に行き来出来る、ですわ」「それ、凄い条件だと思うのですが・・・」「これが孫家・魏であればそうなのでしょうねえ。ですがこちらには関羽さんをどうこうしようという意思がありませんし、そんな無駄なことをしたくないですわ。無料で通行できるよ、くらいです」高順隊であるかどうかの証明は、結局楽進さんとか、顔を知られている人しか出来ませんし、煮詰めるのはまだ後でして、と関羽の件は締める。「次は華琳さんですが、私が来たことに驚いてましたわねえ」「そらそうでしょうよ」生きているか死んでいるか解らなかった麗羽が商人になっているわ、自分達の陣地に乗り込んでくるわ、堂々と商売の話をするわ。普通であれば激怒→叩き返される、となってもおかしくない。「たいした補給が出来ずじまいで困っていたようで。その辺りを突っついて差し上げたら・・・まあ、話は聞いてくれますわよ」「露骨過ぎる。で、曹操への条件は」「私、益州で正当な形で得た利権に塩鉄産業がありまして」「はぁ」「塩はともかく、産出される鉄をその時に応じた相場で且つ優先して購入しなさい、と」「ほほー・・・向こうにとっても悪くないですね、その取引」「あら、お分かりで?」「少しは。今、北方・西方民族に攻撃されて、外部の脅威が再確認されたわけで。そして魏国内部で鉄が産出される場所はそう多くない。青銅武器よりは鉄のほうが頼りになりますからね」「ご名答。そうなれば鉄製品の武具をこれまで以上に揃えたい。でも良い取引相手を探すのも手間がかかる。商人を総動員すれば難しくは無いでしょうが、卸やら何やらの手間がどうにもかかる。なので、直接の取引・・・」「中間業者を要れない分、多少は安くしてやる、とかそんな感じですか」「ふふ、そこもご名答。ただ、魏の規格の物に合わせて作成するのなら、やはりそれに対しての手数料はかかってしまいます。魏に送る時に発生する輸送費用も、ね」「そこも安くしてやるから、ってところですか?」「さあ、どうでしょう? ですが、こちらが損をする形にはしておりませんし、向こうにとっても悪くない話。今は武具を無料で入手して、これから先に必要になるであろう物を、そこいらの商人を動員するよりは安く・・・ですからねぇ?」私としては、華琳さんのあの引きつった笑顔を見れただけで充分な収穫でしたわよ、と邪悪な笑みを浮かべる麗羽である。が、実際にこれは曹操にとっては決して悪くない話でもあった。麗羽が言うとおりの話でもあるが、鉄の取引については、直接益州に人脈のある商人に注文をしなければいけなかった。足元を見られる事も多々あるわけだが、魏国内で鉄を産出できる場所は少なく、直接の売買に依存してしまう事が多い。そこへ麗羽が殴りこみ「足元を見る事はしないが優先的に買い上げろ」と直接の交渉。また、高順には言っていなかったが、麗羽は予想産出量、加工・輸送にかかる費用などのデータも曹操に提示しているのである。産出量に関してはあくまで予想でしかないし、その他の費用もその時々によって変動する。それらを踏まえて、曹操はその場で決断。後にきっちりと文書を纏めさせて取引を「有効である」と認めているのである。しかも、曹操はそれを荀彧などの寵臣にも通達する徹底振りを見せた。信用してやるから、それに見合った結果を出せ、と言わんばかりの態度だが、麗羽は「良くってよ」とあっさり受け入れている。曹操は、麗羽がここまでの変貌を遂げているとは思っていなかった。官渡の時ですら半信半疑な面もあった。ここまで来れば、逆に「それだけの資質があったならもっと早く見せなさいよ」と文句を言いたいくらいだったのかもしれない。そうすれば、競い合う好敵手が孫策以外にも居た事になったのに、と。「さて、最後に孫策さんですが・・・まあ、難物でしたわねえ」~~~孫策の幕舎~~~「へぇ・・・? 交州から、ね。」「ふむ」孫策、そして周瑜。麗羽の出す条件に二人を首を傾げた。内密の話し合いであるので、彼女達と麗羽以外、幕舎には誰も居ない。「それが何故取引なのかしら? 私、いや孫家にとって利益のある話だけどね」「いえ、それが我々にとっても利益のある話でして。・・・孫策さん、貴女・・・私達を疎んじておられますわよね?」「・・・ふぅん、どうしてそう思うの?」「そう思うな、というのが無理でしょう。個人的に高順さんに感謝はしていても、孫家の統領としては疎ましく思うしかありませんわ」まあそうだろう、と周瑜も同意する。孫策を毒矢から守ってくれた事には孫家上位陣は誰もが高順に感謝しているだろう。だが、高順を重く用いれば必ず孫家股肱の臣ですら、一部であっても不満は出る。「外様ごときが偉そうに」と。孫策はそれに対して「能力ある者を重用して何がいけない」という態度を示したし、それの結果が交州を任せる・孫権のお守りという待遇には繋がった。しかし、高順はその枠を超えて能力(部下の力量に依るところが大きすぎるが)を示しすぎた。劉備の邪魔をした、というのを独力で成し遂げてしまう部分、最終的には孫権の判断になったが、個人でもそれをやりかねない力量を見せてしまった。しかも、南方の多くの部族と繋がりがあり信頼、あるいは信奉されてもいる。そうなると、孫家としては黙っていられない。高順本人にその気が無くても、お飾りのような形で祭り上げられ、南方部族の旗頭として独立するための戦いを引き起こしかねない、という危うい面が出てくるのだ。勿論、高順がそんな戦いを起こす事は無いと理解していても「勝手に旗頭にされてしまい」諸族が孫家に牙を向くという可能性を捨てきれなくなってしまう。例えば、高順が居なくてもその子が存在すればどうなるか? その子が幼い事を良いことに、専横をすれば? 南方部族を炊きつければ?そこに来て、西方・北方部族が巻き起こしたこの大戦だ。そういった人々から信頼されている高順が居るだけで南方過半を巻き込んだ戦になりかねない、という危惧。疎ましく思う、というよりも厄介な場所に行かせてしまった、という思いのほうが強いかもしれない。高順のように、徐々に時間をかけての同化ではなく、力に依る服従を成そうというのが孫家の考えである。そこに南方部族の信頼のある高順がいつまでも影響を残す場所に居られては困る。だが、高順には大きな恩があり無理やり所領を移動させる事を好ましいとは言えない。西方に、交州以上の良い領地があるか、と問われればそれも厳しい。一番なのは、高順本人がそれを察して自ら「どこか別の場所に行かせてくれ」という流れにする事だ。それはこの戦いが終わってからすぐ、取り掛からないといけない。本人の、そして孫家の為にも。そう思っていたら、麗羽がやって来た、という事になるわけだが・・・「麗羽。貴女、孫家の政治に関わらない事を条件に助命されたことを忘れたのかしら?」「忘れておりませんわよ? ただ、我々は自分の命が惜しいだけでして。交州に居るだけで粛清されると解っているのですから。」あくまで商売、取引をしているだけ。政治の話と混ぜるのは止めて頂きたいですわぁ、と白々しく言う麗羽である。「この件に関して言えば、高順さんの名代として来ているだけですもの。高順隊は命惜しさに交州を去る。貴方達は莫大な利益を生み出す場所を直轄できる。それだけの事。私が物資を差し上げる事への見返り、安いと思いません?」「まあ、ね。でもそれは高順本人の承諾を得ているのかしらね」「そういった話をしないとな、とは仰ってましたわね。どこで話すとかは決めていませんでしたが、今の状況ならば話しやすいかと思い至りまして」「それでそんな条件を出す訳? 呆れるわ」「この戦で高順さんや私がどうなるか解りませんからねぇ。」大体、高順隊が戦闘に参加・或いは武勲への見返りに「交州よりもっと小さい所領に移してください」って言い出したらそれがおかしいでしょう、と麗羽が笑う。「武勲を立てたらそれに見合う褒章を与える。今までの働きに「じゃあ益州のどこか辺鄙な場所を与える、そこに移れ」では誰もが耳を疑うでしょうねえ」「ふん。・・・まあ、そこは良いわ。で? それ以外にも条件はあるのでしょう?」「ふふ、さすがは孫策さん。我々が退去する。そこに条件を付けて頂きたく」「どんな条件? 場合によっては拒否するけれど」「1つ目、退去するのに時間を頂きたいのです。5・・・いや、4年。2つ目、隊に属する者で、希望者が居れば我々の旅に付いて行っても良い」この条件に孫策は「ん?」と首を傾げ、周瑜も最初は怪訝な表情を見せ、少ししてから「成程な・・・」と納得した表情になった。「3つ目、隊に属する者の財産は、どのような些少な物でも保障され徴発の対象とならない。4つ目、目的地が例え孫家の所領外であれ手出し無用、完全な安全を保障する。5つ目、私が益州で正当に手に入れた塩鉄産業などを初めとした権益に手出しをしない」「・・・ええと」「これだけです。」「待ちなさい・・・貴女、高順隊を孫家から除外させるつもり?」「ええ」「何でよ!?」「先ほど申したでしょう。粛清されたくはないのだ、と」「だから、何でそうなるのよ」「言わなければいけません? ・・・高順さんが、あと2年・・・いや、1年も時間が残って居ないと言う事を」「はぁっ・・・?」「これまでに体に刻まれた疵、そして毒。そこに加えて今回の従軍。無理を重ね続けた彼には時間がほとんど残っておりません。体調が良くても、死がジリジリと迫っている」それが解っているから、必死に何とかしようと動いている。死が迫っているのに下半身だけは無駄に元気だから本人も困っていますけど、と他人に言えない様な事は心の中に仕舞う。「高順さんに遠慮はしても、本人の居ない高順隊に遠慮をする理由が孫家にはありません。何かがあってから、では我々が危ういのです」「だから先に自分の身の安全を保障しろ、って事?」そんなの、と言い掛けた孫策にこれまで殆ど喋らなかった周瑜が「よせ」と止めた。「なによ冥琳」「認めてやれ、と言っているんだ」「ええ・・・?」「少し、私に話をさせて貰う。良いな?」「え、うん・・・? どうしたのよ」「まあ、任せろ。・・・麗羽」「はい?」「お前、子を宿したか?」爆弾発言である。「ちょっ!?」「ええ、勘、或いは予感ですけど」「はぁっ!?」「お前の勘は良く当たるらしいな・・・だからか。どうしてそこまで、と思ったが自分達の身を、そして子を守りたいが故に、孫家に居れば危ういと。何故に退去期間を4年としたのかと不思議に思ったものだが」「本当なら6・7年は欲しかったですが、そこまで行くと南方部族がどう動くのか予測がつきませんので。4歳くらいなら、そこそこ環境が整えば旅になっても何とかなる、と思い至りまして」「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」「少し黙っていてくれ、雪蓮」「ふごぉほっ!? (殴り飛ばされ孫策轟沈」「で、だ。お前達が頼る勢力、おそらく馬騰殿か? それとも猛獲か・・・。そこらはあえて突っ込まないが」「そうしてくださいな」「もしも、こちらがそれを拒否したらどう動くつもりだ?」「全力を出すだけですけれど?」笑顔で言ってのける麗羽に、周瑜は「こいつめ」と口に出してしまった。「当然、条件を守っていただけるならそんな面倒な事を考えずに済みますわ?」この女は解っている。完全に理解している。だから去ってやる、と言っているわけだ。言い分を認めて、それを遵守してもらえるならそれで良し。しないのなら全力を以って孫家に牙を向く。高順の子を身篭った、彼のやり方をそのまま引継ぎ実行できるであろう女が言う全力を出す、というのは・・・。孫家が危惧する、南方過半を巻き込んだ戦いを起こす。此度の北方、西方異民族が引き起こした戦を南方でも再現してみせようか? という恫喝に等しい物がある。全力を出す、という一言だけでそこまで問う事も出来ないが、周瑜は苦りきった表情である。逆に、前述の条件さえ守ってくれれば、麗羽の側から何も危害を加える事は無い、考えるつもりも無いと言い切っている訳だが。ここは無駄な交渉をするべきではない、互いがそれなりに得られる物があるこの条件。高順隊の面々には手を出さない、正当に得た権利も認める。孫家は交州全域を得て南方との交易の収支を直轄できる。これで手打ちに出来るならそれで良いか、と周瑜は判断する。「ならば、正式な手続きは戦が終わってからにしよう。」「そこに邪魔が入らない、無効なものにされないという保障は?」「雪蓮、私の名で正式な文書とするさ。文句を言う資格も与えんよ。きっちり条件を整える時間は必要になるが。そこはこれからの話だ」「構いませんわ。では、私はここいらで失礼します。高順さんにも話を通しておかなければなりませんので」「ご苦労。ああ、そうだ。少し聞きたいのだが良いか?」「はい?」「お前、この戦で我等は勝てると思うか?」「勝ちますわよ」はっきり断言する麗羽に、周瑜は「ほう。何故だ」と問う。「予感がしますもの。ただ、どれだけの被害が出るか、どれだけの人々が生きて帰れるか。そこまでは解りかねます。」「そうか。・・・・・・高順隊にどれほどの被害が出るかを考えているな? 被害が大きくなれば孫家に於ける高順隊の価値は大きく減少する。そうなると高順が生き残れても粛清されるかも、と考えているのだな」「さあ、どうなのでしょうね? ですが、高順さんの隊は孫家で上位の戦闘力を持つ。ならば一番の激戦区に投入される。」子供でも解りますわよ、そんな事。と麗羽は肩を竦めて、幕舎から出て行った。~~~回想終了~~~話を聞き終え、|||orz←こんな感じになっている高順はちょっと泣きそうであった。ただ、麗羽もこれは自分が悪いと思っている。その上、一部の事を高順に話していない。主に自分が妊娠した事とか価値が減少とか他にも。しかも、麗羽は「多分、私だけではありませんわね」と、こちらも予感めいたものがある。それが誰か、までは解らない。もしかしたら数人かもしれないし、もしかしたら成都にいる蹋頓以外全員かもしれない。だが、これを言うと高順にどんな影響が出るか解らない。後で良いだろう・・・と思って言わなかっただけである。「いや、確かにそういう話はしましたよ。でも行く前に一言欲しかった。みんなに説明しておかないとなあと思ってたのに。しかも期間勝手に決めちゃうとか酷すぎる」未だ |||orz こんなんなってる高順に、麗羽は「そう悲観するまでもありませんわよ」と言う。「行き先、というか頼り先自体は目星をつけていまして。馬騰さんの所に」「・・・ふぇ?」「そこくらいしか無いでしょう、普通に考えれば。」今回の戦の流れならば、馬騰は西涼の失地を取り戻せる。そうなると、荊南の領地は全て孫家に返還することとなるだろう。盟友といえど所詮外部勢力。馬家の失地回復が為されば、追い出して領内を一統、そして再度勢力同士の盟を結ぶことになるだろう。「大体、これくらいの事はご自分で考えてやっていただくべき事でしてよ。我々が孫家で半ば孤立しているのは周知でしょう? 3勢力の頭が揃っている今が絶好の機会でしたけど」「うー」「うー、じゃありません。どちらにせよ立ち退けと言われるのなら、いっそ潔くこちらから、と先手を打っただけです」「そっか・・・あ、待てよ? そうなると皆へ払う給料が足りなくなってくるんじゃ」「ああ、そこはご心配なく。私、涼州の都市である武威、そこから西方に伸びる交易路に入り込もうかと思いまして」「はい? でもあそこはまだ西羌の支配下で」「ええ。なのでこれからの戦で馬騰さんと連携していく必要がありましてね? そうなれば向こうにも行き場所がありますし、腕を撫した方々の活躍の場もあるでしょう」「うわぁ・・・。ん? じゃあ、馬騰殿が西涼平定にかける時間考えて、それ見越して4年とか期限決めたの? それまでなら益州の塩鉄と交州での交易でしっかり貯めて皆の給金確保出来るって事なの!??」「・・・(にやり」麗羽の笑顔に、高順は「怖っ! 麗羽さん本気で怖っ!」と叫んでしまうのであった。 数日後。決戦に向けての編成が決定される。されたのだが、その割り振りを聞いた瞬間。「マジで辞めてくださいお願いします」と頭を抱える高順の姿を見ることが出来たとか何とか。~~~楽屋裏~~~世界廃滅の為にも人心を得るためにもね(音楽活動)。 あいつです(土下寝挨拶皆様お久しぶりです、この3ヶ月の間色々ありましたね。ISISとかIPSとか32年間捏造して記者が退職したらしれっと訂正記事出して謝罪もしないとか。あと買い換えたばかりのPCのHDD壊れそうとか。助けて。すげぇお待たせしてしまいました。本当に申し訳ありません。ようやっと、最後の戦い前夜話が終わった感じです。何で書きたいことが増えた上でそこで悩むんだよ私。計画性の無さが響いてます。今年中に終われなくなったかなあ、本当に如何しよう・・・今回の話は「高順さん残り時間あと一年」「高順隊やっぱ孫家に居れないじゃねーか」「あと沙和さんいつでも帰ってこれるし」「ちゃんと生まれたことを報告できました」「呂布さんは相変わらず犬っぽい」「高順もげろマジもげろ」これを書くために何でこんな時間かかるんでしょうね。で、次回からは戦闘回、しかもあっさり終わるんじゃないかなあ、と予測しております。このお話の残りも僅か、最後まで御付き合い頂ければ幸いです。それではまた次回。