【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第13話陳留の南へと進む曹操軍5000。その構成はほぼ全てが騎兵である。状況が状況のため速度重視の姿勢だ。この速度で行けばすぐに凪たちと合流できるかもしれない。向こうが陳留へ避難する為に動いてくれていれば、だが。先頭を走るのは曹操。その両隣に夏侯姉妹。どこかそこら辺を高順。と言っても、虹黒の体格が他の馬に比べ数段大きいので目立つことこの上ない。兵士達も「何だあの馬・・・」といった表情で見ていたし、夏侯惇も「うう、いいなぁ・・・」とか呟いていた。曹操も、正直驚いていた。曹操軍の騎兵は基本的に軽騎兵である。兵は神速を貴ぶ。の考えでこれはこの時代の基本形。そして、今現在もかなりの速度で駆けているのに虹黒は平然とついて来る。あれほどの巨馬を乗りこなす高順も大したものだと思うのだが、馬の操り方が自分では真似ができそうに無い。手綱をつけてるくせに、それに全く触らない。馬を引くときには使っていたようだが、虹黒に騎乗して以降1度だって手綱を握っていないのだ。それどころか今は腕を組んでいるのみ。まるで高順の意思を虹黒が読み取っているのではないか?と思えるほどだった。(ふふ、春蘭が一目で惚れこんだというのも解る気はするわね。)さて、それは置いておいて・・・高順の話によると村の人々は「逃げる気はあるかもしれないが、村の外に出るのを恐れて動いていないかもしれない」ということだった。向こうが自発的に動いていれば保護できる可能性が高まるのだが・・・もし動いていなければ。最悪の状況になり得る、という予測もしておかなくてはいけない。「秋蘭!」曹操は隣にいる夏侯淵を呼ぶ。「ははっ!」「あなたに右翼の騎兵1500を預けるわ。先行しなさい。高順も連れて行って!」「心得ました!高順、聞こえたか!?」「ああ、聞こえた!しかし、虹黒じゃ追いつけんかもしれませんよ!?」「ならば最後尾の者に付いて来い!・・・はっ!」夏侯淵が馬を加速させ、右翼の騎兵部隊と高順がそれに続く。少しでも早く、救うべき命を救うために。~~~数十分前・そこから更に10里ほど南~~~150人ほどの集団が陳留を目指している。どうしても怪我人や老人、子供といった体力の無いものたちばかりなので進む足が遅い。休憩しては進み、また休憩しては進みということを延々と繰り返している。そしてその最後尾には凪達3人娘がいた。、「くそ、まだ陳留は見えないか。」「当たり前や、普通に歩いて3日ほど。馬があればその半分ほどで済むやろうけどな。こっちゃ怪我人ばっか、馬にも乗れんのばっかやで?」「進むのが遅いのは仕方ないの。」「ああ、そうだな・・・。」前を進むのはは凪達が住んでいる村の人々だった。村長と3人娘が説得して、怖がる村人達を外に連れ出したのだ。他の村に逃げるのを考えないでもなかったが、それではその村を巻き込んでしまうし防衛力も期待できない。幸い、曹操という新しい太守は英明で有名だ。なんとか陳留までたどり着ければ受け入れてもらえるだろう。「せやけどなぁ、追い出しといてなんやけど。高順兄さんにも手伝ってもらうべきやったかもな。」「それは・・・そうだが。高順殿は我々の村とは無関係だ。巻き込んでしまうわけにも行かないだろう?」真桜の言葉に凪が反論する。「それはそうだけど。でも、死んだ人のために墓を作ってくれたり、なんとか皆を助けようとして何か考えてたみたいだったの。」「な、なんだ。私1人が追い出したような言い方をして。2人だって早く村を離れるように言ってただろう?」沙和にまで攻撃されて凪は幾分拗ねたようなものの言い方をする。「私だって、高順殿に手助けしてもらえたら・・・心強いさ。だが、それでも・・・。」「あーはいはい、解った解った。凪は頑固やなぁ。ま、うちも同意見やけどな。高順兄さんに手伝ってもろたら、心強いわ。」「あー、ずるいの!沙和だってそう思ってるの!」「いや、ずるいとかそういう問題ではないと思うが・・・おい、2人とも。また来たぞ。」凪の言葉に真桜が「ん?」と南へ視線を向ける。黄色い布を頭に巻いた・・・黄巾党が馬を駆って追いかけてくる。その数およそ70ほど。「・・・あー、ほんまや。懲りへんなぁ、あいつら。」「これで5回目なの・・・。」「追ってくる数が少ないのが救いだな。2人とも、気合を入れろ!」凪が手甲「閻王」を叩き合わせる。「まったく、さっきからあんな少ない数で。何考えてるの!」沙和が獲物の二刀を構えて南を見据える。「どうせ本隊が来るまでの時間稼ぎしとるんやろ!うちらみたいな少人数放っとけちゅーねん!」真桜が螺旋槍を地面に突き刺す。「ふう、我々を殲滅して見せしめにして周りの村々も従わせようと。そのつもりなのだろう。」「せやな。けど・・・うちらを甘く見たこと後悔させたるっ!」「沙和だって負けないの!」黄巾騎兵はすぐそこまで迫っている。村の人々を守るために何としてもここで食い止めなければ。それから数十分後、凪たちは黄巾騎兵を全滅させ、10数頭の馬を手に入れた。今まで何度も同じように馬を得ていたが、駄馬ばかりで使い道が無かったのだ。今回はごく普通の馬を10頭ほど得られた。幸いと言ってもいい。問題は自分たち以外に乗馬できる村人がほとんどいないということだった。「うーん、馬乗れるんうちらだけやなぁ。」「そうだな。後ろからせっついたところでこれ以上速度が上がるわけでも無い。」「速度もそうだけど、食料と水も心配なの・・・。」黄巾から奪った馬に乗った3人が同時に深いため息をついた。「ともかく、あの上り坂を超えれば一呼吸つける。それまでは頑張ってもらわないと。」あの上り坂、というのは前に凪達が高順と上った坂とはまた別の坂である。それほど急ではないものの幾度も続くので体力が無い者には相当に辛いはずだ。あれを越えれば残りの坂は1つだけ。本当ならそこも一気に超えて平坦な道に出てしまいたいが今の状況を考えるとそれも難しい。ここで、急に先頭を進んでいた人々の足が止まった。疲労しているのはわかるが、何故止まるのだろう?3人娘も不思議に思い、集団の先頭へと向かった。そして・・・そこで愕然としてしまった。いつの間にか、黄巾党が回り込んでいた。その数、およそ3千といったところ。もう1つの上り坂までは数里も無い。だが、その坂の下付近で黄色の布を頭に巻いた連中がひしめいている。不恰好ではあるものの、いくつかの旗が見える。その旗には「中黄太乙」だの「蒼天已死」だのと書かれている。それを見て3人は信じられない、と言いたげな表情になった。「いつの間に・・・。」あれだけの数が人知れず集まれるわけが無い。「いや・・・。まさか、このために騎馬隊で撹乱をし続けたというのか・・・。」凪の呟きに真桜が反応する。「ちゃうな・・・。連中、ずっとここで張っとったんや・・・!少しずつ騎馬こっちに差し向けて、こっち急かしたんやろ!」「じゃあ、皆で村を出ることを知ってたの・・・?」「或いはそう踏んどったんやろ!くそっ!」3人は武器を構え、こちらに向かって進んでくる黄巾党を押し留めようとする。「皆、戻るんだ!このままでは全滅するぞ!」凪の言葉に我に返ったのか、呆然としていた人々もあたふたと来た道を戻ろうとする。そこでまた異変が起こる。一番後ろにいた男が短刀を隣にいる子供に突きつけていたのだ。「な、何や!?って・・・何儀、お前何考えてるんや!?」真桜に何儀と呼ばれた男はにやりと笑って「こういう事だ。見て解らないか?」と言って笑い始める。「はっ、はははははは。誰も気づかないだなんてな。どいつもこいつも抜けてるぜ。」「どういう意味や・・・?」「こういうことだよ。」何儀は自分の服の腕部分を捲くった。そこには「黄天」という刺青。「お、お前・・・。」そういうことだったのか。3人は合点がいった。彼は生まれも育ちも自分たちと同じ村だ。それなのに。何儀は黄巾に通じていたか、あるいは最初からその一員だったのだろう。自分たちが村を出ることに決めたとき、何らかの形で伝えたのか。「見せしめに殺すつもりなの・・・!」「へっへっへ、そんなことをする必要はないんだよ。何故なら・・・あの周辺で黄巾に属してないのはお前らだけだったからなぁ。」「・・・!」このままでは不味い。全滅するのが眼に見えている。凪は数瞬迷い、これ以外に道は無いと思い至った。「皆、逃げろ!真桜、沙和。後を頼む!」「凪、いきなり何を・・・うわっ!?」凪は両手に気弾をつくり、何儀へと向ける。「おいおい、こっちは人質がいるんだぜ・・・。この餓鬼の命が惜しくねえのかっ!?」「惜しいに決まっている!」叫びつつ気弾を何儀に投げつけた。いや、正確には何儀の足元に。轟音と共に大量の土が舞い上がる。舞い上がった土は煙となって何儀の視界を遮った。「げほっ、くそ!・・・がぁっ!?」土煙を喰らって咳き込んでいた何儀だったが、その喉に沙和の刀「二天」が突き刺さり、何儀は即死した。人質となっていた子供を抱き上げて真桜が叫ぶ。「皆、逃げるんや!早く!」真桜の声に押されるように、逃走が始まった。真桜も沙和も、まともに歩けない老人達を抱えたり、肩を貸したりして少しでも距離を稼ごうと走り出す。だが、ここで凪の姿が見えないことに気がついた。「凪っ・・・どこや!どこ行った!?返事せえ、凪ーーー!」周りを見渡すが土煙に視界を遮られ近くの事しか解らない。「沙和ー!凪はおるんかっ!?」「こっちにはいないの!」「くそっ・・・!」探しに行きたいが両手に人を抱えてる今では無理だ。(何でもええ、死なんとってくれ・・・・!)真桜には祈ることしか出来ない。その時。凪は坂の下から進軍してくる3千を超える黄巾党に単身で挑んでいた。~~~黄巾が在陣している場所から1里北・夏侯淵軍~~~夏侯淵はここで部隊を止め、細作を放ち続け事細かな状況を聞き分け整理をしていた。この時点で夏侯淵が得た情報は「すぐ目の前に黄巾党3千ほどが在陣」「陳留方面へ逃げようとしていた集団が反転」「1人の拳士と思わしき少女が突撃、善戦するも捕らえられた」というもの。「くそ、間に合わなかったか・・・。」夏侯淵は手綱を握る手に力を込めて呻く。救いがあるとすれば、避難をしていた人々が追いつかれていない、ということくらいか。そこにまた細作から情報が送られてくる。「集団は逃げ切った模様。黄巾はそのままその場所に帯陣、動かず。見張りも無い模様。」もう時間としては夕方だ。追撃は諦めたのだろう。「高順、すまん。少しだけ間に合わなかったようだ。」先ほど追いついてきた高順に夏侯淵は頭を下げた。「いえ・・・夏侯淵殿のせいではありません。」夏侯淵のせいではない。もう少し俺が早く陳留に到着していればよかった。それだけだ・・・。高順は自分を責めた。早く助けてやりたい。そして、夏侯淵も同じことを思っている。しかしどうすれば良い。曹操の本隊残り3500が到着するのは夜半ごろ。今手元にある1500で攻撃を仕掛けても・・・負けることは無いだろうが、捕らえられた少女がどうなるかがわからない。また、後方へ逃げた集団も保護しなくてはいけない。なんとか、この坂を越えたもう1つの坂に布陣したいのだが・・・見張りが無いとは言え全軍で行っては直ぐにばれてしまう。脇道がないではないが・・・やはり時間がかかる。どうするべきか・・・。夏侯淵に思い浮かぶ策は1つしかない。「高順、お前はどうするべきだと思う?」判断に迷うわけではないが夏侯淵は隣にいる高順に聞いてみる。「挟み撃ちしかないでしょうね。曹操殿は黄巾の情報を欲しがっている。」ふむ、同じ考えか。「そうだな。ここで首領なり幹部なり捕らえて他の拠点の有無は調べたいと思っていらっしゃるだろうな。」「ええ、そうなれば1人も逃がすことなく殲滅しなければならない。討ち逃せば拠点に逃げられてしまうかもしれない。」「そうなると、やはり挟み撃ちだな。しかし・・・。」「夏侯淵殿。こんなのは如何です?」高順は自分の出した策を夏侯淵に打ち明けた。それを聞いた夏侯淵は「ふむ、それしかないかな。」と判断。伝令を曹操本隊へ向かわせようとした。そこで、夏侯淵はある考えがふと脳裏に浮かんだ。高順に部隊を任せてみてはどうだろう?華琳様もおそらくは高順の武力、統率力を見たいと思っていらっしゃるだろう。彼の慧眼やら知力を華琳様を理解している。しかし、武力などの軍事能力についてはまだ解っていない。名も無い男に部隊を預けるつもりは無いが彼女の勝負勘がこう告げている。「任せたい」と。そこで、1つ条件を追加して伝令を出した。「高順に500ほどの兵士をつける。」その後、その話を聞かされた高順はがっくりと項垂れていたが・・・。彼に付けられる兵士も最初は「あんなどこから出てきたか解らないような男の下で!?」と不満を持っていたが夏侯淵の命令でもあるし、仕方なく従った。ちょうど、輜重隊(騎馬隊)も目的に沿う道具を積んでいる。馬の泣き声を押さえるために布で馬の口を固定。こうして、夏侯淵の率いる部隊と高順は(泣きそうになりつつ)目的の場所へと少しずつ進んでいった。~~~黄巾党の本陣~~~「ははは、中々良い女だなあ、ええ?」陣幕の中で凪の顔をじっくり凝視した男が上機嫌で酒を煽る。黄色い布を頭に巻いた男・・・おそらく波才という男だな。両手を後ろに縛られた凪はそんなことを考えていた。「あ、兄貴ぃ。俺・・・もう我慢できねえっす!」波才の側にいた数人の男が鼻息も荒くそんなことを言う。「まあそう言うな。俺達にはあの3人の女神様がいらっしゃるんだ。それ以外の女に目移りなんてするべきじゃねぇ。」「で、ですが兄貴!」「落ち着け黄邵。俺達は女に迫るとき無理やりなどはしねぇ。ははは、まぁこの女もあの方たちの歌を聴けばすぐに解る。そして直ぐに自分から・・・グフフのフ。」下卑た顔でおかしな笑みを浮かべる波才と、その取り巻きに凪は心からの嫌悪を感じた。(くそ、下品な奴らめ。)凪には自分のことより真桜や沙和、村の人々が無事に逃げおおせたかどうかのほうが心配だった。だが、力尽きた自分を取り囲んだ黄巾党に近隣の村の見知った若者が混じっていたことも驚きだった。どうやら自分が思っていた以上に彼らの影響は強いようだ。「はっはっは!ここまで上手くいくとは思わなかったけどなぁ!他の村も劉辟と龔都が押さえてるだろう!時間が経てば経つほど兵の数は膨れ上がる!」まったく、黄巾さまさまだよなぁ!と言いつつ更に酒を煽った。どうも、今すぐ自分に何かをしようと考えている訳ではないようだ。(3人の女神、か。)恐らく、その3人とやらが彼らの上に立つ存在・・・黄巾党の真の党首なのだろう。それに歌がどうこうとも言っていた。何のことかは解らなかったが、覚えておくとしよう。自分が生きてここを脱出できれば、この情報も何らかの役に立つはずだ。脱出できるかどうかまでは解らないが。上機嫌になって酒を煽り続ける波才と、周りの兵士達。「ああ・・・れんほーちゃん・・・ハァハァ。」「ち、ちーほうチャン・・・ハァハァ・・・」「てんほーたん・・・ハァ・・・ハァ・・・。」いや・・・別の意味でおかしくないか?と嫌悪感丸出しで引きまくる凪であった。~~~同時刻、曹操本陣~~~先ほどまで夏侯淵達がいた場所より更に南に曹操本隊は停止していた。細作を幾度か放ったが、どうも黄巾党は見張りもろくに付けず酒宴をしているらしい。まあ、もし見張りがいたとしても問題はない。全て始末すればいいだけだ。「ふむ、そろそろかしらね。」曹操は一人呟いた。高順と夏侯淵が考えた策というのは、挟み撃ち。である。ただ、時間差をつけたやり方でいくらしい。目的地の東西にはちょっとした獣道があるようで、そこを少しずつ進んで回り込むのだという。恐らく夏侯淵達も細作を放った結果見張りがいない。ということを掴んだのだろう。高順の部隊は南(真桜達が逃げた方角)。夏侯淵は西、そしてもう1つの部隊は東。隊を3つに分け、その2つを夏侯淵(実際に指揮をするのは西の部隊だが)、1つを高順が率いると言う。客将ですらない高順を、小なりとはいえ部隊の隊長として扱うのはどうかと思うが・・・。まだ見たことのない彼の武力を見られるのなら、それはそれでいいか、とも考える。高順の指揮があろうと無かろうと、自軍の兵士なら水準以上の活躍を見せる。挟み撃ちにするのならあまり差が無いと言えなくも無い。そう考えて許可を出した。これくらいなら誰でも考えられる策ではある。だがしかし。「私には仕えない、か。その割りに結果的に・・・私に有利に働くだろう処置を取るなんてね。」曹操はそんなことを考えていた。「華琳様ー!出撃はまだなんですかー!?」夏侯惇が待ちくたびれたせいか、普段の元気さを感じられない声で喚いているのが聞こえてくる。・・・前言撤回。考えられないのがここに1人いたわ・・・。曹操は涙が出たわけでもないのに目頭を押さえ、深くため息をついた。~~~同時刻、高順隊~~~高順は与えられた500人のうち、100人を村人の保護のために南へと送った。村人を保護したらすぐにこちらに合流するように伝えている。一番最初に突撃を仕掛けるのは彼らだ。彼らのやることは突撃、撹乱である。黄巾本陣に突撃を仕掛け、火矢をありったけ射ち込む。最初は混乱するだろうが、時間がたてば混乱も収まり反撃を試みる部隊も出てくるだろう。そこへ東側(夏侯淵のいない側)の部隊が攻撃を開始。更に時間差で夏侯淵の部隊も攻撃を開始する。目の前にいる黄巾党は戦慣れもしていなければ錬度も低い。装備も悪い。対して曹操軍は夏侯姉妹、曹操が直々に訓練を行い、装備も質の良い物を選んでいる。数もこちらが多い。負ける要素は無い。だが、敵を逃がさないために包囲攻撃をする必要がある。その為、どうしても部隊を薄く広く布陣させなければならない。夏侯淵と高順の考えもそこにあったが「こちらの数を多く見せかけるために銅鑼を鳴らし続け、混乱を広め続ける。」という意見が一致している。そろそろ曹操本隊も到着した頃だろう。あとは足並みを揃えるだけだ。「あー、すいません。隊長代理。」兵士の1人が高順に話しかけてくる。「ん?どうしました?」「隊長代理を疑う訳じゃねーんですが・・・本当に上手くいくんですか?」「いかなければ困りますよ。大丈夫ですって。相手に「組織的な戦い方ができないように」すればいいんです。」「それってすごく難しいんですが・・・。」「確かにそうですけどね。ですが、混乱の度合いを広げ続けていれば、正規の訓練も受けてない連中です。すぐに瓦解しますよ。」「そういうもんなんですかねぇ・・・。」「それに、あなた方は曹操様の訓練を受けている精鋭部隊です。大丈夫ですよ。それと・・・皆さん、この戦いは殲滅戦です。嫌な気分にもなるでしょうが・・・1人も残さず殺してください。」「・・・うっす。解りました。」「もう少しで出撃します。皆さん、必要なものをきっちり持ってるかどうか今一度確認を。」「了解。」高順がすぐに出撃しない理由。それは真桜と沙和を待っていたからだった。村の人々にも手伝って欲しいことがある。それから10分ほどで保護に向かわせた部隊から伝令が駆けてきた。沙和と真桜も一緒に。「あれ・・・高順兄さんやんか!?なんで陳留の軍に混じって・・・?」「高順さん、もしかして陳留の軍人さんなの?」再会しての一番、彼女達はそんなことを言い出した。「違いますよ、曹操様に「皆のことを助けてー」とお願いしただけです。まぁ・・・色々あって一緒に出陣する羽目に陥りましたけどね。」高順は苦笑してこんなことを言った。「ほな、うちらのためにわざわざ陳留まで戻ったんか!?」「まぁ・・・そうなりますね。あのまま見捨てる真似なんて出来ませんしねー。」「・・・。」朗らかにこんなことを言う高順を2人は信じられない気持ちで見つめていた。こんな時代だ。人の命の価値など塵同然。それなのに、たった3日ほどの付き合いでしかないのに、彼は相当な無茶をしている。しかも、「巻き込みたくないから」と追い出したも同然の扱いをした自分たちのために。彼にとっては彼自身の命よりも行き摺りで関わった人の命のほうが優先されるようだ。もしかしたら、凪はそのあたりの性格を誰よりも早く察知したのかもしれない。そうでもなければあの無骨な凪が1日もせず真名を教えたことの説明がつかない。本当に、信じられない。「な、なぁ。高順兄さん・・・。」「はい?」「うちら、兄さんに謝らんと・・・。」「へ?何で?」真桜の言葉に高順が心底意外そうな表情をする。「だって、追い出したんやで?それなのに。」「どうして、こんなに良くしてくれるの?」「・・・?」よく解っていないらしい。「あー、その、なんて説明したらええやろ。3日程度の付き合いしかないのに、なんでうちらを助けるつもりになったん?て聞いてるんよ。」「はい?3日程度の付き合いをした人を助けちゃいけないですか?」この言葉に2人は勿論、周りにいた魏の兵士たちも唖然としていた。高順本人は「何をおかしなこと言ってるのやら。」と、自分たちに背を向けて黄巾の陣を注意深く見ている。「・・・は、ははは。」凄いわ、この人。うちらが思った以上に底抜けのお馬鹿さんで底無しのお人よしや。それも良い意味で。信じられんわ・・・。「あ・・・皆、ついたみたいなの。」100人ほどの兵に守られた人々がこちらに向かってくる。「よし。これで準備が整ったな。」「準備?」「ええ、黄巾と戦うための準備。沙和殿と真桜殿も手伝ってもらえます?」「勿論なの!」「当たり前や!」2人は当然のように頷いた。~~~数分後~~~「て訳です。皆さん、理解していただけました?」「ほいな。」「お任せなの!」高順は沙和と真桜に作戦の概要を伝え、必要な動具を持たせていた。問題は村の人たちだが、不安そうにしているものの100人ほどの兵士が護衛についているので、なんとか作戦に参加してくれることを了承した。「よし、行きますか。」この瞬間、今まで優しげだった高順の雰囲気が一気に変わる。「皆さん、お互いの間を空けずに、1つの塊となって突撃してください、一騎駆けは禁止です。」この言葉に全員が頷く。「ありがとうございます。それでは・・・出撃!」「おおーーーー!」虹黒に跨った高順が沙和と真桜、そして曹操軍400を引きつれ一気に坂を駆け下りていく。その後ろで、村人達と100人の兵が大きく叫び、銅鑼を鳴らし、出来る限りの大きな音を出し始めた。「火矢、構えっ!」高順の声と共に全兵が弓を構え黄巾の陣幕に狙いを定める。「撃てっ!」400もの火矢が陣地めがけて飛翔していく。幾つもの陣幕に火矢が刺さりたちまち火の手が上がる。ここまでは上手くいっているようだ。眠りこけていた黄巾兵士も起き始めたが、何が起こったのか全くわかっていない。火の手が上がり、どこかの軍が攻めてきた。ということは解っても狼狽するばかり。彼らにとっては信じられない光景だった。南の坂から少数の兵が一丸となって駆け下りてくる。先頭を走るのは信じられないほどの体躯の馬、それを乗りこなす男。その後ろには数百ほどの漆黒の鎧に身を包んだ騎兵部隊。幾度も矢を打ち込まれ、陣幕が燃え、兵士が射倒されていく。しかも、その後方から凄まじい音が鳴り響いている。まさか後続がいるというのか?次から次へ起こる「不測の事態」に黄巾党は混乱するばかりだった。「ここまでは良し。・・・全兵、突撃!」「うおおおおぉぉーっ!」高順が片手に三刃戟を構え、虹黒は更に速度を上げる。虹黒は逃げ惑う兵を撥ね飛ばし、高順も同じく逃げることしか出来ない兵をたたんで行く。「うちらも負けてられんで、沙和ぁっ!」「解ってるの!」真桜と沙和、そして兵士達が横一列になって陣を切り裂く。そこへ、なんとか抵抗をしようと幾人かの兵士が槍や刀を構えて高順に向かってきた。「死ねやこらあああっ!」「・・・ふっ!」並んで突撃してきた兵2人を、高順は三刃戟で一気に貫いた。ズドォッ!という音が響き、貫かれた兵達は何が起こったのかも解らないまま即死した。人を殺す感覚に未だ慣れていない高順は少し顔を顰める。そして、2人を貫いたままの三刃戟をそのまま持ち上げていく。ギ、ギシィ・・・と戟がしなる音が聞こえてくる。それはそうだ、大人2人を貫いたまま持ち上げているのだから。今の高順の姿は、敵から見れば恐ろしいものに映っただろう。炎に照らされた漆黒の巨馬。返り血を浴び、兵を貫いたままの戟を持ち上げ、殺意の篭った眼差しでこちらを見下ろす男。黄巾兵には高順が悪鬼羅刹に見えたに違いない。彼の姿に黄巾兵は戦意を無くし背中を見せて逃げていく。そして、彼に付き従っている兵たちはその姿に更に戦意を高めていく。「追撃です、一人も漏らさず討ち取ってください。」「はいっ!」兵たちは応えて更に追撃を仕掛けていく。「・・・やれやれ。これじゃ、松明は要らなかったかな?」実を言うと、まだ手を残していたのである。陣幕が燃え上がった後、油を塗りこんだ松明に火をつけ、更に他の陣幕を焼く。ということを考えていたのだが。黄巾兵が思った以上にあっさり崩れたせいで使う意味もなくなってしまった。まあ、いいか。高順は一人ごちて、追撃を開始した。戦いは一方的なものになりはじめていた。中央部にいた波才が何とかして態勢を整えようとしても前線から逃げてきた兵士達のせいで上手く身動きが取れないのだ。訓練を受けていない非正規部隊の弱みが吹き出てきた。そうしているうちにも多くの兵士が討たれている。降伏をしようとした者もいたが、有無を言わさず殺されているようだ。波才は判断した。こうなったら東西に分かれて逃げるしかない。「おい、黄邵!その女を連れて来いっ!とっとと逃げるんだよ!」陣幕の中で震えている黄邵に怒鳴って命令をする「ああああ、あ、兄貴・・・。でも俺、脚震えて・・・!」「ふっざけんじゃねえ!とっとと来いっていってんだ!」そのとき、伝令が飛び込んできた。「た、大変です、波才様ぁっ!」「何だ、どうしたってんだ!?」「とと、東西からも敵兵が・・・!数はわかりません!」「何ぃぃぃっ!?」波才は慌てて陣幕の外へ出て周りを見渡す。・・・本当だ。本当に両側から兵士が出てきやがった。どういうことなんだ!?「ええい、くそっ。」悪態をついて陣幕の中にいた凪を連れてくる。「女、お前は人質だ。来いっ!」「グッ・・・。」布で口を巻かれ、腕を幾重にも縛られた凪を引っ張り、波才は北へ逃げ始めた。すでに無駄な行いだということも知らず。夏侯淵の放った矢が寸分違わず黄巾兵の頭を射抜いていく。「ふむ、どうやら上手く行った様だ。」高順隊の突撃が随分敵の士気を挫いてくれたらしい。これならば奇襲をする必要はなかったな、夏侯淵は考えつつ更に敵兵を一人射抜いた。本来は「時期を見計らって突撃する」だったのに、自分たちが行動を開始した頃には「逃げようと向かってきた敵を一掃する」になっている。高順はどんな戦い方をしたのやら。「夏侯淵様、この辺りの敵は掃討したようです!」部下の言葉に夏侯淵は周りも見渡す。黄巾兵の死骸ばかりだ。こちらの被害はほとんど出ていない。「東の部隊はどうだ。苦戦しているか?」「いえ、こちらよりは時間がかかっているようですが目立った損害は無いとの事!」「そうか、だが油断をするな。我々はこれより他2隊と合流。北へ向かう。1人も残さず斬れ!」「はっ!」さて、仕上げだな。そんなことを考えた瞬間、高順隊が目の前を通っていった。「ふふ、案外やるじゃないか。それに・・・」高順の隣にいた2人の少女。名前も素性も知らないが中々の手練だな。夏侯淵は馬首を北に向けた。「我々も続く。遅れるなよ!」波才は凪を連れて北へ逃げていた。部下の事など知ったことではない。自分さえ生きていればいい。群がってくる部下を殴り、蹴り捨て、更に北へと逃げていく。お前達は壁だ。俺が逃げるための時間を稼げ。そう叫び、走り続ける。「ひぃ、ひぃ・・・。こ、この坂さえ越えれば逃げられる。この坂さえ・・・。あと数十歩だ。あと少しだ。」うわ言のように呟く波才だったが・・・坂を越えた瞬間絶句した。目の前にはどこの官軍か知らないが、3000以上もの軍勢がいる。その距離は半里程度(200メートル前後)周りは暗いが、篝火を炊いてあるためかある程度のことは見える。「なんてこった・・・。」東西南北。どの方向にも最初から逃げ場など無かったのだ。そして、目の前にいる軍勢の旗には「曹」の1文字。「くそっ・・・!」波才は南へ向き直り、包囲の薄いところを探そうとしたが、それももう間に合わないことを知った。漆黒の巨馬に跨った男が。それに付き従うかのように進んでくる騎兵が。今まで自分の後ろにいた兵士達を1人ずつ、だが確実に屠りながらこちらへと向かってくる。「どこへ行くのかしら?」波才の後ろから声が聞こえてくる。慌てて波才は振り向いた。そこにいたのは鎌を手にした小柄な少女。その隣には歪な形をした大刀を構えた少女。そして、後ろには数千の騎兵。「く、来るなっ!」波才は凪の首に刀の刃を押し当てる。「て、てめぇ、一体何者なんだ!どうして俺がこんな目にあわなきゃいけねえんだよ!?」目の前にいる少女は無様な姿を嘲笑うかのような笑みを浮かべて言い放つ。「私は陳留太守、曹操。賊を討つのに理由などいるのかしら?」「そ、曹操。陳留太守直々だと・・・馬鹿な!?何故だ、こんな早く嗅ぎつけられるなんて!」「さあ、何故かしらね?」曹操は手にした鎌を波才に向ける。「降伏したほうが身のためよ?もう完全に逃げ場は無くなったようだしね。」その言葉を聞いた波才がまた回りを見回す。前には曹操、横には騎兵部隊。後ろにも部下達を一人残さず抹殺した曹操軍の別働隊。「う、ううっ。」たまらず1歩ずつ下がる波才。そして1歩ずつ間合いを詰めていく曹操。その時、何に気づいたか。曹操は少し楽しそうな笑みを浮かべた。曹操は波才の後ろにいる者に語りかけた。「あら。秋蘭に高順。随分と早かったわね。」「これでも遅いと思ったくらいですが。」「これで遅いって・・・俺には基準が解りませんよ・・・。」波才のことなどまるで目に入らぬように話しかける。曹操は下馬していた高順の近くにいた2人の少女にも注目していた。戦闘に参加した以上、腕に多少なりとも覚えがあったのだろう。返り血を浴び、武器も赤く染まっているということはそれだけの戦いをした証拠でもある。見込みがあれば誘ってみるか。そこで一旦思考を戻し、更に波才に詰め寄っていく。「ああ、待たせて御免なさいね。で?降伏するの?しないの?」「うっせえ!人質がどうなっても良いのか、ええ!?」波才は凪の首筋に当てた刀に力を込める。「・・・!」全員の動きが止まる。それを見た波才は下卑た笑みを浮かべ、勝ち誇ったかのように続ける。「へっへっへ。さあ、とっとと道を開けろ。俺はこんなところで死ぬ男じゃねぇ!」ここで凪が噛まされていた布を自身の肩に当てこすり、なんとか布を外そうともがき始めた。「な、何しやがる!?」暴れる凪と押さえ込もうとする波才。それを見て、真桜と沙和が飛びかかろうとする。だが、凪の首を押さえた波才はまたも刀を凪の顔へと近づける。「くっ・・・。」「へ、へへ・・・妙な動きするんじゃねえぞ。ええ?」「か、構わない。皆、この男を討ってくれ!」「なっ!?」波才は驚いて凪を見つめる。確かに口布を当てて喋れなくしてあったはずだ。しかし、凪の口元には布が無い。その代わりに頬に一筋の切り傷があり、そこから血を流していた。今の騒ぎで自分から刀に近づき、布を切り裂いたのだろう。「早く!この男を逃がすべきじゃない!」「く、このっ・・・」高順はここで、隣にいた夏侯淵の服の裾を少しだけ引っ張った。夏侯淵は最初、何のつもりだ?と考えたが、高順の手の動きが「自分の後ろに下がって」と示していることに気がついた。(・・・なるほどな。)高順の考えを読んだ夏侯淵は少しずつ高順の後ろに下がった。飛びかかろうと前に進んだ真桜と沙和も少しずつ後ろに下がる。そして、虹黒も高順の横に歩を進める。ただ高順の後ろに隠れるだけではすぐに動きも見えただろう。だが、虹黒や真桜たちが盾になり、波才の目からは完全に夏侯淵の姿が映らなくなった。それを確認したうえで高順は息を整えた。自信は無いが、やってみるか。「やりなよ。」高順のこの言葉で場が一瞬で静まった。「こ、高順兄さん。何言い出すねん!?」真桜が静止しようとするが高順は気にする風でもなく続けた。「本人がやれといってるんだ。やればいいだろ?」「う、うぐぐ・・・。」「だが、覚悟しておけよ?もしこれ以上その人を傷つけようとしたら・・・。」高順は殺気を膨らませる。「さあ、やってみろ。お前の覚悟を見せてみろ!」「くそお、馬鹿にしやがってえええええっ!」殺気に当てられ錯乱した波才は本当に刀を振り上げた。その隙を夏侯淵は見逃さなかった。高順の肩のすぐ上で弓を構える。この距離だ、当てれぬわけは無い。気合を込め、一矢を放つ。その矢は夏侯淵の狙い通り、肩を抜いた。「ぎゃあああああああああ!?」肩を射抜かれた波才は痛みのあまり刀を落とす。自由を取り戻した凪がそのまま上段蹴りで波才の顎を蹴り飛ばした。「くけっ・・・」妙な声を上げて波才は昏倒した。曹操が波才へ近寄り、首元に手を当ててみる。「ふむ、息はあるようね。」そして、波才の口の中を調べる。「か、華琳様!?一体何を!そのようなこと私に命じてくだされば!」それを見た夏侯惇が驚きのあまり声を上げる。「毒が無いか調べるだけよ。あなたに任せたら歯を全部折ってしまうでしょ?」「あう・・・。」「・・・毒も無し、と。皆、ご苦労様。秋蘭、この男が自決しないように猿轡をかませておいて。」「ははっ。」夏侯淵は拱手すると、気絶した波才を引っ張って兵士達と本陣のほうへ向かっていった。さてと。高順は短刀で凪の腕を縛り付けていた縄を切り落とした。真桜と沙和は凪に抱きついて「無事で良かったの!」とか「あいつらに酷いことされへんかったか!?大丈夫なんか!?」とか言っている。「ああ、大丈夫だ。って、そんな思い切り抱きつくな。苦しいじゃないか。」「せやけどなぁ・・・高順兄さん?さっきのアレはどういうことやねん?」真桜は高順に抗議の声を上げる。「そうなの!演技でもあれはやりすぎなの!」「か、勘弁してくださいよ・・・俺もやりすぎだとは思いましたけど。」はぁ~、とため息をついて、座ろうとしたが何かを思い出したのか、布と水筒を取り出した。布を水で濡らして凪に近づいていく。「ちょっと良いです?」「え?何を・・・うわっぷ!?」布で凪の顔の傷を拭きだしたのである。「よし、これで、っと。」今度は別の布を酒で濡らし、また拭き始める。高順は酒は飲まないが、こういった時のために消毒用として酒を持ち歩いている。「あ、あの。いいですから!これくらい平気です!」凪が暴れようとするが、高順はそれを押し留めた。「はいはい、少し染みますが雑菌が入ったら厄介ですからね。消毒するだけです。2人も凪殿抑えててくださいね。」「え、消毒って・・・って、真桜、沙和?」沙和と真桜が凪を両脇からがっちりと押さえつける。「にひひ、了解や。」「さあ、存分にどうぞなの!」「ちょ、待って・・・ひゃああああああっ!?痛い、痛いですって!高順殿ー!?」「染みるって言ったでしょ。おし、あとは軟膏をつけて・・・。はい、いいですよ。」「う、うううう・・・」凪が涙目で高順に抗議の視線を送る。が、途中で思い出したように「あ、あの・・・1度ならず2度まで助けていただいて。ありがとうございました。」と、頭を下げた。「え?はぁ。別に構いませんよ。兵を出してくださったのは曹操様です・・・し。」あ、やばっ。忘れてた。早く逃げないと・・・捕まりそうな気がする。いや捕まる。OK、俺は逃げる!だがその前に。高順はまた道具袋を漁り、翡翠璧1枚と銀の延べ棒2本を凪に手渡した。「へ?あの、これ・・・。」「陳留に行くにせよ、村に戻るにせよ、皆さんの当面の生活資金は必要でしょ?これだけあればしばらくは足りると思いますから!それじゃ俺はここで!」「え、そんな、助けていただいた上にこんな事まで・・・ってどこに行くんですか高順殿!?」「俺は風!俺は自由!」「何ですかそれ!?」高順は意味不明な言葉を叫びつつ虹黒に跨って東側へ逃亡した。「ああっ!逃げられた!?」いつの間にか曹操が側にいた。何故か縄を持って。・・・まさか、高順殿が逃げたのって・・・?かなりの距離を走った高順が後ろを振り返り「あばよとっつぁん!」と叫んだ。「何それ!?じゃなくて、春蘭!捕まえなさい!多少手荒なことをしても許すわ!兵を使っても構わない!」「はいっ!」夏侯惇が信じられない速度(しかも徒歩)で虹黒に追いすがる。「待ーーーてーーー!高順!虹黒ー!」「げぇっ!?追ってきたぁっ!?」下り坂とは言え馬を追い越すとかどんだけ脚力あるんだ!?虹黒を追い抜き、数十メートル先まで回りこみ、夏侯惇は大刀を構えた。「我が武を前に逃げられると思うな高順!今度こそ決着をつける!さあ、かかって・・・こ、い?」いつの間にか虹黒が目の前まで突進をしていた。「え、あ。ちょっと待て、普通こういう時は止まるだろ!何考えて・・・!」「ちょ、虹黒さんー!お願いだから止まってー!このままじゃ不味いってーーー!」まさか、私が目の前にいるときだけは高順は虹黒を制御できないというのか?「やばいやばい!惇さん避けてー!」「ふ、ふははは!この程度、何程のことも無い!さあ、虹黒!私の胸に飛び込んで来い!」「ブフゥッ!」「見事に受けきってみsごぶはあああああっ!?」「だー!?ほんとに飛び込んだよちょっと!?」ひゅるるるるるるる・・・と、飛んでいき、どしゃっ!と地面に激突する夏侯惇。「う、うくく・・・この私をこの程度でどうにかなど・・・え?」夏侯惇が顔を上げた瞬間。そこには虹黒の前脚があった。ごきゃばきゃどぎゃあっ!「のおおおおおおおっ!?」「ぎゃあああああ!踏んでる!踏んでる!?つうかそれはストンピングに近いって!!虹黒さん、そこまで嫌ってるの!?」夏侯惇の上を通り過ぎた虹黒はとどめとばかりに、後脚で思い切り、全くの躊躇をせず蹴り飛ばした。ひるるるるるるるるるるるる・・・・・・ズギョアッ!!哀れ、夏侯惇は曹操のすぐ目の前まで蹴り飛ばされて戻ってきたのだった。何があったのかと夏侯淵が戻ってくる。「あああああ、ごめんよーー!夏侯淵さん、あとで惇さんに謝っておいてーーー!」しばらく、目の前の状況についていけず皆唖然としていたが、夏侯淵は姉の惨状を目の当たりにして錯乱していた。「あ、姉者ー!?しっかりしろー!誰だ、誰にやられた!?私を残して死なないでくれ、姉者ーーーー!?」「わ、私は死なない・・・何度、でも蘇る、さ・・・ガファッ!」「姉者ーーー!?」「はぁ・・・。」唯でさえ痛い頭が余計に痛くなるのをこらえつつ、曹操は凪たち3人娘のほうへ向き直った。曹操は3人娘の戦いを見ていた。高順の膂力にも驚いたが、その隣で確実に敵を屠っていった2人の少女。高順に聞いた話が正しければ・・・眼鏡をかけた娘が于禁、大きな槍らしきものを持っているのが李典。今助け出されたのが楽進か。楽進に限って言えば、戦いを見たわけではない。だが、彼女は自分が殺されそうになっても全く怖じる事は無かった。人間など弱いものだ。普段は偉そうなことを言っても自分の身に危険が迫ったらそうは言っていられなくなる。危機に瀕したときにこそ、人の本質が良く判る。そして楽進は、その危機に己の意地、或いは意思を貫こうとした。大したものだ、と思う。「さて、あなた達。」「え?」曹操に呼びかけられた凪たちは不思議そうな顔をする。「私は陳留太守、曹操。貴方達の協力のおかげで黄巾党を殲滅できたわ。ありがとう。」「い、いえ。こちらこそ、皆を助けていただいて感謝しています。」凪が跪き、頭を下げた。沙和と真桜もつられて跪く。「そのような礼は不要よ。それより。貴方達の戦いを見せてもらったわ。中々見所がありそうね。」「え?そ、そのような事は。」「高順ではないけど、随分謙遜するのね。どう?私に仕えてみない?働きに見合った報酬は約束するわ。」夏侯淵は正直、今の曹操の言葉に驚きを隠せなかった。いつもであれば「仕えてみない?」ではなく「仕えなさい」だ。命令ではなく、個人の意思を確認したのである。もしかしたら高順に言われたことを気にしていたのかもしれない。「人を、自分の機能の一部としてしか考えていない。」という言葉を。曹操の言葉に、3人はしばらく顔を見合わせる。少しして、凪が意を決したように口を開く。「我々は―――」「ふぅぅ・・・こんだけ逃げれば安全、かな?」高順は一旦虹黒を停止させた。何里走ったかはよく解らないが、ここまで来れば・・・。いや、夏侯淵さんいるしなぁ。3日で500里、6日で千里の人だし。「やっぱもう少し離れたほうがいいよな・・・なんせあの曹操さんだしな。」思えば、虹黒には苦労のかけ通しだ。徐州の小沛を抜けて下邳に行くつもりだが、途中で休ませておこう。もう少し頼むな、と虹黒に喋りかけて更に駆けようとするが、虹黒は動こうとしない。それどころか馬首を西に向けた。「お、おいおい。まさか戻ろうとしてないよな?」流石にそれは困る、と冷や汗をかいた高順だったが、そこで馬が3頭こちらに駆けてくるのが見て取れた。乗っているのは・・・凪、沙和、真桜だ。凪がこちらに手を振っている。「高順殿ー!お待ちくださーい!」「・・・何だ?何であの3人がこっちに来るんだ?」訳がわからない。流れから言ってあの3人はあのまま曹操の部下になるはずだ。それがどうして?「ふいい、やっと追いついたで。」「こ、虹黒・・・早すぎるの・・・。おかげで馬がへとへとなのぉ~・・・。」「ふう、何とか追いつけてよかった。」3人が思い思いの言葉を口にする。「えーと、皆さん何でこんなとこに?・・・はっ、まさか俺を捕らえに!?」「え?」「お、俺は嫌ですよ!?絶対曹操殿には仕えませんって!」「・・・何か、勘違いなさっておられませんか?」凪の言葉に高順は「え?」という表情を見せた。「うちら、曹操はんに仕えてへんで?」「え?誘われたんじゃないんですか?」「誘われたけど、お断りしたの!」「何で!?絶対厚遇してくれますよ!?」「確かにそう言うとったけど・・・なぁ?」真桜は凪と沙和のほうへ振り返る。凪が進み出て、高順に向かって跪く。それに習い、沙和と真桜も。「え?何を・・・。」「我ら3名、高順殿に仕えたく参上いたしました!」「・・・虹黒、お前に仕えたいんだってさー。」思わず現実逃避をする高順であった。「ぶっ!?なんで虹黒なん!?」「いやいやいや!おかしいですから!貴方達ほどの人が俺を選ぶとかどういうこと!?将来性が無いとか見る目が無いとかそういうの以前の問題ですって!絶対間違えてます!」狼狽してしどろもどろになる高順。だが、凪達はそんな彼の姿を笑うことなく真剣な表情をする。「間違えてなどいません!」「そうなの!自分達で考えて、今ここにいるの!」「うちら、こう見えて本気やで?」いや、そりゃ嬉しいけどさ。この人たち仲間に出来れば俺の死亡フラグ、そうとうへし折れる確率高まりますよ。でも、なんだって俺なの?口に出さなくても、表情がそう言っていたのだろう。高順の疑問に返すかのように凪は言った。「2度も助けていただき、恩を返さず。それ即ち、信義にもとる。我々なりに考えた結果です。」「命を助けられたんはうちらだけやない。村の人々もや。皆を助けてくれたことも、理由の1つやで。」「その上、当面の生活費まで援助されてる。返さないといけない恩が一杯あるの!」一気にまくし立てる。「じゃあ、全部村の人たちに渡したの?」「はい。当然です!」言い切った凪に高順は呆然とした。・・・。馬鹿な子たちだなぁ。全部って。もし俺に断られたらどうするつもりだったんだろう?いや、なんとなく・・・「我々が仕える事を許してくださるまで何処までもついて行きます!」とか言い出すよなぁ、このノリだと。俺みたいに、死ぬことを恐れてるだけの下らない男に仕えたい、だってさ。・・・良い目してるよな、3人とも。こんな目で、こんなに必死に頼まれて。断れる訳無いじゃないか。果報者、っていうのは今の俺をさす言葉なのかもしれないなぁ。ふぅ、とため息をついた高順を跪いたまま見つめている3人。そのまま背を向け、虹黒の鞍に引っ掛けてある道具袋から何かを取り出した。それは3つの袋だった。少し動かすたびにジャラジャラと音がする。高順はその袋を1つずつ、手渡していく。「これって・・・?」「給料です、3人の。」「給、料。」「それじゃ・・・!」「歓迎しますよ。これからよろしく。」『は・・・はいっ!』高順の言葉に3人は嬉しそうに頷くのだった。これ以降、3人は高順の部下として歴史に名を連ねることになる。色々な経緯があって彼女達は一軍の将としても名を残すが・・・。最後まで高順の部下であることに拘り、最後までその姿勢を崩すことは無かった。余談ではあるが、曹操は波才から他の黄巾党の拠点を聞き出し、全て殲滅。本来歴史に出てくるはずの「潁川黄巾賊」はこのときに消滅した。1年後、黄巾の乱が起きたときに陳留付近で黄巾賊は決起するものの、纏め上げる存在がいなかったために小規模な部隊が各地に点在するだけ、という形になっていく。本来よりも早く自領の黄巾賊を殲滅したことで中央の官軍にとって有力な遊撃部隊として各地を転戦。その威名を知らしめることになる。青洲黄巾賊を吸収することで曹操はその武威を満天下に示す。歴史に曰く「魏武の強、ここより始まる。」。それが、この世界ではこの時既に「魏武の強」が始まったのである。正史よりも少しずつ、だが確実に違う方向へと向かい出す世界。別の、独立した世界へ進み始めた時代。無数の世界へと枝分かれしていく「外史」と呼ばれる世界の1つ。その1つの世界がようやく動き出した・・・その瞬間だった。~~~楽屋裏~~~・・・すいません、面白い要素何も無かったですね(吐血あいつです。さて、今回は「陳留へ避難するよ→げぇっ、黄巾!→凪さん捕らえられました→曹操軍、攻撃開始→勝ったYOママン→高順さんに仕えますが何か?」です。(要約しすぎ本当は2話になる予定でしたがあまり長いと結局晋陽編と同じくらいの話数に・・・・無理やり詰め込みましたとも、ええ。(そのせいでまたも文章が滅茶苦茶ですが、書いた分量が多いため結局は1・5話~2話くらいのものにwあと、戦いが一方的過ぎますね。黄巾も何をしたかったのやらwさて、ようやっと高順くん一行は徐州へ入ります。そこで彼らに加わるであろう仲間とは?申し訳ありませんが、もう少しだけお待ちください。それではまた!