【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第110話。曹操軍、来襲。そんな知らせを受け、孫策は「ついに来たわね」と周瑜に出撃命令を出した。曹操が烏林にて布陣、孫家との対決を赤壁に定めた事を確認してからの事だ。出撃態勢は整っており、後は開戦するのみ。しかし、孫策は最初から出るつもりは無い。最初期は周瑜に大都督として指揮を執らせ、決戦となったら自分が出張る。何せ曹操本体が出陣していない。勿体ぶっているのか余裕の表れなのかは知らないが、長期戦にしたほうが勝ちを拾いやすくなるし、周瑜本人が「戦を長引かせる。1日2日で終わらせはせんよ。」と豪語している。孫策への援軍としてやって来た劉備軍は数が8千程度。率いるのは劉備と諸葛亮で、将兵の編成については孫策や周瑜の読み通りであった。彼女たちも陣を敷いているが、主戦場からは少し離れた場所であり、士気もさほど高くない。孫策らも全く当てにしておらず、後に周瑜が船団を率いて出陣した折に劉備の陣を横切っていくのだが、まるで歯牙にもかけず・・・明確に言ってしまえば、眼中に無い扱いであった。~~~交州へ向かう道中~~~「ついに、ついに隊長が将軍職に・・・」真桜にも早く教えてやりたい、と馬上の楽進は心底感慨深そうに言った。高順隊結成の最初期からいる彼女は、本当に嬉しそうである。「いや、しかし・・・こうなると、これからは隊長、ではなく将軍、と呼んだほうが・・・?」「今までどおりで良いって」高順は、真剣に悩む楽進に苦笑しつつ答えた。「皆も変に畏まったりしないで欲しいね。それに、将軍なら趙雲殿もだ。俺だけ特別視しないでくれよ」「ほほう、我らにそのような遠慮など不要と。」「そりゃそうでしょう。いきなり態度変えられても、こっちも困る」そういうわけだから、宜しくね。と高順は肩をすくめた。高順隊は、馬騰の部隊と共に交州へと向かっている。今回は、馬騰をメインに据えての軍事行動であり、指揮権は全て馬騰にある。高順隊が下風に立つような感じだが、今回は仕方が無い、と高順以外の人々はそのように考えている(高順本人は全く気にしていない馬騰が鍛え上げた孫家騎馬隊はそのまま寿春へと残し、ここにあるのは西涼残党4千ほどと、高順率いる6千ほど。1万弱だが、交州の兵も含めれば1万を越えるし、何より武将の質が良すぎるので、多少の数の優位は問題の無いレベルだ。今回に限ってだがこの部隊は新生西涼軍というべき布陣で、よほどのことが無い限りは負けたりもしないだろう。「ところでさ、高順」「何ですか、馬超殿」高順の隣にいる馬超が心配そうに、高順の顔を覗き込む。高順は、左目の視力が落ち、左手も長羽織を羽織って見えないようにしている。事情を知らない人から見たら妙な格好なのだろう。それに、時折だが虹黒の背からずり落ちそうになったりして、まだ上手く感覚が掴めていないようだ。左目はあまり見えていないし、左手も使い物にならない。バランスの取り方に苦労しているのだ。従軍している現在もだが、寿春で静養している間もそれなりに修練していたのだが、一朝一夕と言うわけにはいかないらしい。「お前、身体は大丈夫なのか? たまに苦しそうにしてるけど」「はは・・・大丈夫、とは言い切れませんね。ただ、いつまでもノンビリというわけにも行きませんからね」「それなら従軍しないほうが良かったんじゃないか?」「そういうわけにも行きません。それに、指揮を執るだけですしね。」「・・・まあ、それなら良いけど。無茶だけはしないでくれよ?」「娘の言うとおりです。無茶をされては困りますよ、高順君。」「解ってますよ。」馬超・馬騰の言に返事をする高順だが、馬騰はじぃっと高順を見つめている。彼女には、高順がかなり無理をしていると言う事が解っている。馬騰は、高順が前までと言わずとも体捌きなどの感覚を思い出せるようにと訓練に付き合っていたので、それも当然だ。華陀がいれば心強いのだが、これから多くの死傷者が出るであろう赤壁を無視していくことも出来ない、と今回は別行動。高順は指揮を執るだけ、と言っているが性格上、それだけでは収まらないだろうな・・・という事を見越している。誰か、この青年を引き止められる存在はいないだろうか、とも思う。彼を諫止できる人、というのが今現状では少ない。皆、自分の部隊の統率に手一杯の筈で、できるとしたら・・・(蹋頓さんか、沙摩柯さんくらいでしょうね・・・。)交阯にいるであろう女性を思い返して、あの人なら高順君を上手く押し留めることが出切るでしょうね、と考えている。高順も「蹋頓さんに会えるなー」と嬉しそうである。さて、交阯までの道のりは何ら問題は無かった。問題があったとするなら、交阯に到着してからである。蹋頓や劉巴、そして益州各地で買い付けた米を搬入に来ていた李典、麗羽一派。高順らが帰還した時、一時的にだが南中に派遣された人々以外が交阯に集っていた。一応、高順は交阯太守であり、劉巴は彼の帰還に騎馬・軍楽隊を派遣してその威容を見せ付けている。やられた高順は「やめてください恥ずかしいですから!」と言わんばかりの態度であった。~~~政庁~~~蹋頓や李典などが「お帰りなさい」と笑顔で高順らを出迎える。高順と趙雲が将軍になった事を聞き、蹋頓は勿論、李典は大喜びであった。「やっとかぁ・・・長かったでー!」と楽進と手を取り合わんばかりのはしゃぎっぷりだ。彼女は麗羽達と共に益州各地を回って、高順に言われた通りに米を大量に買い付けていた。漢中に近い剣閣などでは怪しまれて上手くいかなかったが、成都など、割合に張魯との交戦地域から遠い場所では次々に「米を売りたい」という連中が現れたものだ。南方、つまり孟・孫同盟の来襲が無いと判断したからだが、これは李典らが「孫家は今曹操と戦ってるねんでー」と吹聴(事実だが)し、その噂が大いに広まったせいでもある。実際に曹操が南に進撃した、という話が事実だと確認されており、李典の「向こうでは兵糧米が不足してるんや、うちらはそっちに米売り捌きに行きたいねん」という主張は疑われなかったのである。高順の言う通り、買い付けに使用する資金に糸目はつけなかったのだが、通常よりも高く売れるという話を聞きつけたのか、成都では名が知られているような部将までが米を売りに来た。どこから持って来たん? という問いに「主君に命令されて、城の備蓄米を持って来たのだ」というので、金に目が眩んだのか、それとも本当に劉璋の命令なのか。そこまでは解らなかったがそれでも李典は米を買い、せっせと米を蓄えて南中に運び、余剰分を交阯にも運び込んでいた。高順は李典らに「ご苦労様、良くやってくれた」と褒めたのだが「身体で労ってくれればええわ♪」と冗談なのか本気なのか良く解らない応じ方をされている。麗羽も「わたくしも頑張りましたわよ!」と主張してちょっとした騒動になったがともかく。高順は面頬を外し、蹋頓は彼の顔の傷が増えたのを見て「随分と男に磨きがかかりましたね」と言いながら高順の顔を撫でる。「傷が増えたっていうのは俺が不甲斐ないからだと思うのですが」と、情けなさそうな高順だが、蹋頓は首を振った。「あら、そんな事はありませんよ? うふふ、益々精悍になってきました」蹋頓は口に手を当ててしっとりと微笑む。周りの女性陣は心中で(い、良い雰囲気だ・・・)と僅かに嫉妬するがしかし、それも直ぐに終わる。蹋頓が高順の顔、というか左目をじぃっと見つめ、怪訝そうな顔をしているのだ。「・・・高順さん。」「はい?」「私に何か隠し事をしていますね?」「・・・。はい? 隠し事?」「ええ。例えば左目がほとんど見えていないとか」この言葉に、李典達が「はぁ!?」と反応する。「それに・・・ずっと見えないように羽織で隠している左手はどうなっているのでしょう?」「えっ・・・」あっさり見抜かれている、と高順は勿論、趙雲らも真っ青になった。高順は、実は・・・と切り出してから、説明をするつもりだったのに、先制攻撃を喰らったようなものだ。自分から言い出せばきっちり聞いてもらえたであろう事だが、あっさりと見抜かれてしまったせいで蹋頓に詰め寄られる、という状況になったのである。「・・・説明をお願いしても良いですよね?」「はい・・・・・・。」高順、説明中・・・「成程、つまり、左目もほとんど見えず、左手も半ばが無い、と・・・」にっこりと笑いつつ言う蹋頓だが、その場に居た人々は全員「ああ、これは怒っている・・・」と感じていて、それは正解だった。「あー、あのー。面頬の左目の部分に眼鏡仕込んでみたらええんちゃう? 呂蒙みたく。それに、左手もうち頑張って義手作るさかい・・・」李典がおずおずと挙手して意見を言う。「お願いしますね、李典さん。ですがそれは良いのです、大事な事ではありません。問題は」「おおおお、俺が悪いんですごめんなさい!」蹋頓が言い終わる前に、周倉が土下座して詫びる。周倉は、高順が負傷した事について自分が守りきれなかった、と責任を感じている。「俺が、俺がもっときっちり役目果たしておけばこんな事には・・・」涙ぐんで謝罪する周倉だが、蹋頓は座って彼女の肩に手を置いた。「貴女のせいでもなければ、高順さんが悪いわけでもありません。貴女が役目を果たしているからこそ、高順さんは死なずに済んだのです。卑屈になってはいけません。さあ、お立ちください」「と、蹋頓さん・・・」誰に対しても割りと不遜な言葉遣いの周倉だが、流石に蹋頓だけは別である。怒ったときの彼女がどれほど恐ろしいか。どれだけ彼女が高順に愛されているかという事を周りから聞いて、自分達より一段高いところにいる、と認識しているからだ。取って代わろうという気分もないし、というかそんな事したら本気で怖いし。誰に対しても怖じない周倉だが、蹋頓だけには畏敬と畏怖を感じ、終生敬意を以って接していたとか。「さて・・・と、いう事なので少し寿春に行ってきます」『はあ!?』出し抜けにそんな事を言う蹋頓に、全員が唖然となった。「あ、あの・・・何故寿春に?」「ええ、少し野暮用です。今、孫策殿は赤壁とやらにいるのでしょう?」「野暮用って・・・え? 赤壁? 何を」「何って・・・それは、こう・・・」高順の問いに、笑顔で応える蹋頓。不味い、これは本気で怒っている。高順のみならず、趙雲らまでそれを察し、そして震え上がっていた。特に、高順が暗殺者に襲われた後の蹋頓の恐ろしさは、骨身に染みている。高順・馬騰一家・周倉(彼女はそれを聞いている)・麗羽一派は知らないが、あの趙雲ですら泣きかけになるほど恐れているのだから、どれだけ恐ろしいか。「孫策殿の首を「モギリ」と♪」「ぎゃあああああ!? 何恐ろしいこと言ってるんですか蹋頓さん!?」「大丈夫です、大丈夫。乱戦になった頃を狙えば上手く行きますから♪ これで孫家崩壊させて見せます♪」「そういう問題じゃないですよ! 大体成功させてどうするんですか、孫家崩壊って・・・! 孫権殿や周瑜殿だっているんですよ!?」「孫権? 周瑜? ひっ捕らえて薬漬けにして高順さんの言うことを聞くように「調教」すれば良い事です。良い○○隷になりますよ、あの人達は・・・」「に、にくっ・・・!?」 ふふ、うふふふふ・・・と薄ら笑いを浮かべる蹋頓。とんでもなく不穏な発言、そして呼び捨てにしている事からも本気どころかリミットゲージぶち抜きレベルの怒りである。震え上がる高順らを余所に、そうですよ、最初からそうすれば良かったのです・・・そうすれば、高順さんがここまで心身をすり減らすことにもならなかった筈・・・と繰言の止まらない蹋頓。「呂布や陳宮が劉備を甘やかしたのがそもそもの間違いだったのです。その上に賈詡が馬鹿なことを仕出かして・・・ふふふ、ふふふふふふ・・・」そのまま身を翻して、槍を手にずかずかと歩いていく。「ととととと、蹋頓さんオチツイテ! お願いだから!!!」「私はオチツイテいますよ? この怒りは、江南を孫家の血で真っ赤に染め上げるまでは収まりません・・・くくっ、くくくくくっ」(怖すぎだー!?)なんとか止めないと本気で取り返しがつかなくなる、と高順だけではなく、その場に居た人々全てが蹋頓を止めにかかり始めた。説得して泣いて笑って数時間後・・・「・・・解りました。そこまで仰るなら、今回は抑えましょう」(たす、助かった・・・!)止める為に費やす代償:高順さんが三日三晩蹋頓さんに付き合う。当然性的な意味も含め。ついでに李典と麗羽にも、働いてもらった報酬を身体で払う(あれ?高順が違う方向で死に掛ける話はともかく、早速李典が義手作成・面頬にレンズを付ける作業に入る。その間、暇になった人々は訓練だの何だのに時間を費やす。数日後。「どや、義手の出来は?」「おー・・・なんか、凄いことになってるな」高順は李典が作成した義手をはめて、出来を確かめている。どちらかと言えばガントレットといった感じだが、爪先が尖っていて貫手として使用できるように作ったらしい。手首の所にバネを仕込んでいるようだが、特に違和感は無い。「でも、手を開いたり閉じたり出来ないだろう。まあ、無いよりあったほうがいいのだろうけど・・・」「ぬっふっふ、そこんところは抜かり無しや!」「へ?」「高順にーさん、手首を自分の体側(内側)に勢いよく振ってみ?」「ふむ?」こき、と音を立てて手首を内側に向ける。すると、開かれた形だった義手が「くん」と握り手になったのである。「お、おおおおっ!?」「今度は外側に手首向けてみ?」「(こきんっ)おお、また手が開いた!?」「にっしっしっし。どや、悪くないやろー? これできっちり腕に固定できたら、今までどおりとは言わんでもまともに戦えるで! っと、次はこれな」李典は、手にした面頬を高順の顔に装着する。今まで使用していたものとは異なり、左目部分の穴がこれまでより大きく、そしてレンズが嵌め込まれている。面頬をつけた高順は、じぃっと遠くを見たり近くを見たりして出来を確かめる。「んー・・・少し度が合ってないかな」「そか、じゃあもちっと度がきついのを嵌めるで」義手の調整やら何やらで、少々の時間をかける事となるが、案の定と言うべきか。李典が義手にむだな機能を付けようとして混乱する事態になる。「指を螺旋槍みたいに回すのはどうや!」だの「拳の部分に棘つけようや!」だの「それが駄目なら腕の部分に3枚くらい刃ひっ付けるんは!?」だの。高順は心中で(俺はゲッターロ○か!?)と思ったそうな。そんなこんなで忙しい高順だが、彼はまた別の意味で忙しい。いや、性的ではなく、公務的な意味合いで、だ。劉巴に「今日中にこれだけの決済書を処理してください」と迫られ、馬騰からは「出撃時の編成などを事前に決めましょう。」と連れて行かれ。桂陽・武陵の順に攻めるのだが、野戦・攻城の編成である。今回は何度も言ったとおりに高順本人が前に出るつもりは無い。メインとなるのは高順一党の高順以外の武将と、馬超・馬岱である。高順以外と言っても、周倉は高順の護衛だが・・・今回は留守役を劉巴に一任して、主だった武将は全て南荊州攻略、及び成都攻撃に連れて行く事にしている。劉巴と蹋頓が兵力増強を行っており、当初は3千程度だった兵が5千ほどに増えている。それほど資金のかからない歩兵なのだが、山越など異民族を含めた増員で、即戦力と成り得る者を集めたらしかった。兵力に余裕が出来たし、守備だけなら残った人々でも大丈夫だ、という話で「それならこちらもフルメンバーでいけるな」という判断であった。もう1つ、高順は用事があって周倉と、何故か麗羽まで一緒に来たが、2人を連れて街へと出た。遊びに行ったわけではなく、三刃槍に代わる新しい武器の調達が目的だ。麗羽が着いて来たのも「なら、私の商店で探して頂ければ良いでしょう。高順さんは出資者ですから気兼ねする必要もありませんわ」と言う事だ。商店と言うか、規模から言えば商会レベルだが、確かに探し物をするには良いか、と麗羽の案内で街を歩いていく。元々の重さは11kgほどの三尖刀をベースとしているが、新たに鋳造し直して、さらに研いだり金属部分を増やしたり、と改良を施し続けた結果、当初15㎏だったものが20Kg以上の重さになっている。全盛期(まだ若いのだからおかしな話だが)に比べて体調の思わしくない高順は、もう少し軽く扱いやすいサブ武器を求めに行った訳だ。肩鎧に装着されている3本ほどの刀もあるが、これは丁原の遺した刀も含まれており極力使用したくない。~~~店~~~高順と周倉は麗羽に連れられて、店の内部、奥深くへと入り込んでいく。途中で店員などとすれ違うが、皆、麗羽を見て「お疲れ様です!」とか「どうぞお通りください!」など、VIP待遇である(当たり前ではある麗羽の後ろを歩いていくが客の数も多く、身動きが取り辛い。どうも、今で言うところのバーゲンセールを行っているらしい。生鮮食品やら服やらの大売出しのようだ。とくに交州は土地柄として暑いので、食品や飲料水の回転が速い。「大将、あいつってやっぱ凄いんすね」「だねえ。まあ、才覚がありすぎるんだけどね、あの人は・・・」才覚と言うか運と言うか・・・だが、運だけで成り上がる事は出来ない。その運を活かせる才覚が彼女にはあるんだよな、と高順は麗羽を見やる。羨ましいなぁ、俺もそういう才覚を持って生まれたかったね、と思ってしまうが無いものねだりをしても仕方が無い。歩いて行く事数十分「さ、着きましたわよ」と麗羽が倉庫らしき場所の前で立ち止まった。特に人気も無いが、事前に人払いをしていたのかも知れない。中は暗い筈だが、台に備え付けられた蝋燭が灯っていて、不自由は無さそうだ。「ここって・・・凄い事になってるな。何が置いてあるんです?」「ちょっとばかり表に出しにくい「ご禁制」の品ですわ」「おいおい、犯罪的な匂いのするものだったら押収して破棄するよ?」「あら、ご心配なく。南方から取り寄せたものの売れそうに無いと判断して収められている物が大半でしてよ?」「大半って? ・・・じゃあ、なんでご禁制なんですよ」「それは秘密ですわ。女には秘密の1つや2つあって然るべきですもの。ふふふ」言いながら、麗羽を鍵を開けて中へと入っていく。中はあれこれと乱雑に物が積まれていたり、または丁寧に仕舞ってある物など、雑多な物で溢れている。その一角に、武器が積まれている場所があった。「さ、どうぞ。好きなものを手にとって見てくださいな。私は少し別の物を探しておりますので」言って、麗羽は別の場所へと歩いて行った。それを見送ってから、高順と周倉は周りを見渡す。「すげー・・・本当に色々あるぜ。何だこりゃ・・・お、説明書きがあるな、何々・・・「鉞戟」(えつげき)? んー、俺の斧より有効そうだな」鉞戟を手にとって感触を確かめている周倉。彼女はこれを持って行くが、鉞というのは「まさかり」で、鉞戟は西洋でいえばポールアクスにあたる。周倉は鉞戟という名称は使わず、ずっと斧と呼び続けるが、決して間違いではない。他にも匕首(ひしゅ)など、投擲武器を見つけて大はしゃぎしている。「なんだってこんなに沢山・・・しかもそれ、けっこう良い武器だと思うけど。お、これは・・・?」尤もな疑問を挟みつつ、高順はある物を拾い上げた。鉄製のずっしりとした重みのある六角棒・・・いや、金砕棒(かなさいぼう)と言ったほうが良い代物だ。長さは3メートル弱で、重さは10㎏前後、といったところか。へぇ・・・? と、周りの品物に当たらないように適当に振ってみる高順。握り手の部分は円形。攻撃をする部分が六角状になっており、その先端は僅かに尖っている。刺突武器としても使用できそうだ。握りも良いし、槍よりも軽い。斬るよりも叩き付けるという、力任せのシンプルな攻撃手段のほうを得意とする高順にはうってつけと言えるかも知れない。刀や剣が駄目、というわけではないのだが、三刃槍を使い続けたせいでそうなってしまっている。「良い感じだ。これを買わせて貰おう、うん」何度も振ってみて、高順はこの金砕棒を随分気に入ったのか、既に買うつもりでいる。「しっかし、これが売れないのか・・・周倉が気に入った斧もだけど、馬上でなら良い武器だと思うのだけどね」んー、と棒と斧を見ながら高順が呟く。そこに、探し物が終わって戻ってきた・・・片手に木箱を持った麗羽が答えた。「簡単なことですわ。高かったことに加えて歩兵には人気がありませんのよ、その2つ」「あ、お帰り・・・って、人気無いの、これ?」「ええ。全て鉄製で高すぎたことに加えて、高順さんのように膂力が無いと、まともに振り回すこともできませんわ」「ふむー。どっちかと言えば値段のほうが足かせみたいな感じに思うけど」この時代、武器の主流金属は青銅で、鉄製品はかなり高い。鞴(ふいご)が漸くに発達してきて、鉄製武具も出回り始めているのだが、それでもまだまだ高価なものである。「蹋頓さんが兵を増やすというので、試験的に両方を数百ほど仕入れてみたのですけど結果は散々でしたわ。まあ、そちらの鉞戟は門番さんとか、施設の衛兵には人気がありましたけど」「やっぱり、高かった?」「ええ、そちらは純粋に値段の問題ですわね。金砕棒より軽く、長柄として使い易い、という評判でしたけど・・・やはり、高すぎたようでして」金砕棒のほうは大失敗でしたわ、と麗羽は言うものの、別に後悔をしているような口調ではない。この交州は海のシルクロードのようなもので、貿易の中継港である。その貿易で莫大な利益を叩き出しているのが麗羽であり、その資金が交州の治世、そして孫家の資金源の1つとなっている。麗羽自身の財産もとんでもない額なのだが、本人は稼いだ金額に満足しても、その金をどうこうするつもりも無い。稼いだ結果に満足するだけで、その後は割りとどうでも良い様な感じであり、その点は高順(彼自身はほとんどの金を国、あるいは公庫に入れているが)と似ているかもしれない。使うべき時を見逃さず、一気に放出するという事を辞さない、という点でも大いに似ている。商売でも損をすることはあるが、彼女曰く「どうやっても儲けの方が多い」ので、何かが間違っている気がしないでもない。が、金砕棒はともかくも鉞戟は使い易そうで、活用しないと言うのも勿体無い。衛兵の武装が充実するのは悪い話ではなく、金砕棒の方は自分の武器として予備を持っておきたいし、これ李典に渡せば鋳造して別の何かに転用してくれるかもな? と、高順はあっさり決断した。「よし、俺がこれ全部買い上げよう。」「はい!? こ、これ全部ですの!?」「うん。軍事費としてなら問題無いしね。武装が良くなるんだから問題無いし、使える兵がいたらそっちに回しても良いし。これを見たのはここで留守張ってた兵士ばっかでしょ?」「え、そ、そうですけど」「じゃあ、本隊の騎兵さんにも見せてあげて気に入ったなら支給するさ。余るかどうかは知らないけどね」値段纏めて、劉巴殿に領収書渡しておいてねー、と高順は機嫌よく金砕棒を担いで周倉と行ってしまった。「(領収書って?)・・・あ、もう、行ってしまいましたわ・・・」お忙しいお人ですこと、と麗羽は呟き、手に持つ木箱を揺らしてみる。「うふふ。蹋頓さんがこれを試してくださったおかげで、効果があるという事はわかりましたわ。自分で使っても良し、売っても良し・・・ふふふふ」木箱の中に入っている物は、沢山の小瓶。その瓶に詰められている液体は「媚薬」だ。以前、蹋頓が馬騰に渡した物と同一の品で、説明書きには「青龍・白虎の肝入り超強力媚薬」とある。当然、そんなもんが入っている訳は無いが、効果は折り紙つきであるようだ。実際に使用した蹋頓が「素晴らしい物ですが使いすぎは身体に毒です。これ無しではいられない、という事にもなりかねません」と、依存症に注意しろ、と警告をしている。念の為に、と華佗に毒が入っていないか調べてもらって「毒など、人体に不健康なものはない。」というお墨付きを貰ってもいる。一度使用したら期間を置いて、という事であれば使える、と麗羽も判断し、売るか、それとも自分で使用するか・・・というところだ。後に媚薬の話を聞きつけた趙雲や楽進も買い求めに来ており、胡散臭くはあっても蹋頓の評価通り「素晴らしい品」であったようだ。高順が購入した武器は衛兵や騎兵などに配布され、それでも余った分の幾許かが高順の予備の武器として残された。ただ、それでも余りが存在したので最初の考え通り、李典に「余り物だから使ってくれ」と渡したのだが・・・この余り物から李典が作成したのは、高順曰く「これスパイクシール○だろ!?」な肩、或いは腕にそのまま取り付け、敵を殴り飛ばす攻防一体の盾。もう1つは、左肩から手までをすっぽりと覆う形の肩鎧。ここまで来るとギャグみたいなレベルの代物だが、李典が言うには「これで攻撃受けて右手武器で反撃すりゃええやん?」とか。その分しっかりと重いので運用局面は限られそうだが、むしろこの先端部分突き刺せば武器になるのでは? というほどの硬さはあるので、これもまた何とも言えない出来である。高順はスパイクシー○ド・肩鎧の両方を所持したまま出陣することになる。主に使用するのはスパイクであったが、近距離戦闘では意外と使い勝手が良く以降も愛用することになったとか。こんな流れで桂陽へと向けて、馬騰・高順隊率いる部隊は進発。麗羽らは南中の防衛に行く為に分かれたが、北へ向かうのは率いる馬騰一族。趙雲、高順・・・南中にいる閻柔、田豫を除けば、高順隊はほぼフルメンバーである。(この陣容でなら、まず負けることは無いだろうけど・・・さて、どうなりますか)上手くいけば良いけどなぁ、と高順は劉備らの横槍が入らないことを祈るのであった。~~~おまけ、同じ頃の赤壁~~~「大都督殿。黄蓋殿が夜襲に成功。ご命令の通り、一部の船舶を拿捕して帰還なさいました」「そうか、報告ご苦労。流石黄蓋殿だな」報告を聞き、周瑜は満足そうに頷いた。ふん、曹操・・・というより、北から連れてきた兵は未だに出さず、荊州水軍ばかりを繰り出すか。決して弱いわけではないが、向こうの現状の総大将は蔡瑁・・・悪くは無いが、黄蓋殿に対応できるわけも無い。(あとは曹操と孫策本人が出張る事と東南の風待ち・・・さぁ魏公殿。すでにおもてなしの用意は整っている。時間に遅れてくれるなよ。)周瑜は来る決戦を前に静かにほくそ笑むのであった。数日後。「のぅ、周瑜。」「? いかがなさいました、黄蓋殿」「船を奪ったり、小競り合いばかり、というのは・・・まぁ曹操が出てきてないのだ、決戦前の事として良いとしよう。」腕組みをして周瑜を睨んでいる黄蓋と、それが何か? と見つめ返す周瑜。「問題は劉備よ。使いもせずダラダラと遊ばせておくのはどうかと思うぞ」「劉備?」「おったじゃろ、ワシらとは別の場所に陣を張っておるがのう。奴らの戦力を温存させようてか?」「・・・はて?」何処にいただろうか? と眉根に人差し指を当てて本気で悩み始める周瑜。「周瑜。まさかとは思うがお主、知らなんだか?」「・・・。はい、全く気付いておりませんでした。まあ、問題ありません。放置で大丈夫です。むしろいない方が煩わしさが無い分マシかもしれません」「お主、それで良いのか・・・?」~~~楽屋裏~~~ナックルシールドの攻撃力はビームサーベルより高いけど命中率は低い。あいつです(挨拶一年戦争が終わるまでは主力として活躍するのですけどね。直ぐに0083になってガザCにとって代わられます。主人公は大抵ヴァル・ヴァロに乗ってる筈ですが(はい?関係ないですが「茨の園」を「漢の園」ってやると・・・あれ、あまり変わらない。さて、前回のアンケート、ご協力ありがとうございました。結論として「このェロリストどもめ!」な感じになったわけですが・・・もう本当に皆さんスキモノなんだから(?だが、書くと言った訳じゃないんだぜ・・・。周瑜が劉備に気付いていなかった、というのは蒼天でもそれっぽいところがありましたね。あれはアウトオブ眼中って感じでしたけどw次回からは南荊州侵攻ですね。大したイベントは無いと思いますが・・・趙範はもう気の毒なレベルですね。趙雲に未亡人宛がっても意味無いですし。普通に攻略されて終わるんじゃないでしょうか?金旋は・・・三国志演義で有名な忠臣(笑)である鞏志(きょうし)がいますな。孔明は「主君を裏切り他者に国(土地)を献じた存在」を不忠者呼ばわりしてましたが、何故か鞏志、そして益州を劉備に献じた法正・孟達(生きてれば張松も)は厚遇していますね。・・・なんで同じ事をした魏延は駄目なんだろう。反骨の相だからか(まだ言うか演義は面白いのですが、劉備や孔明は絶対的な善で、何をしても許されるっぽい感じで描かれるのが嫌ですね。あともう少しで益州攻略。その次に最終決戦になるのかな?最後の敵は誰になるか・・・