【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第106話。寿春、孫暠宅にて。「貴様ら・・・」孫暠は爲覧(ぎらん)・戴員(たいうん)を睨み付ける。「今この時期に孫策殿を殺せというのか。そんな事をすれば尚更曹操に勝てぬであろうが!」激怒し目をいからせて叫ぶ孫暠に、周りを固めている連中は「ひぃっ」と悲鳴を上げる。しかし、爲覧達は恐れもしない。「いえいえ、それは間違いですな。宜しいですか、よくお聞きくだされ」「何?」「貴方様が今仰られたように、孫家では曹操には勝てませぬ。孫策殿がおられようとおられまいと」「ぬっ・・・」それは孫暠も感じている事で、だからこそ降伏して孫家を残せと主張している。孫策は孫家の中では革新派(保守的な面も強いが)に位置し、孫暠は家を残すことを第一、という保守派に属する。そこに、孫策からは認められずに不遇であると思っている者が集まり、対抗勢力のような形となっている訳だ。「ゆえに、孫策殿を除けば年長の貴方が孫家の総領となれましょう。孫権殿には孫策殿のような武勲もなければ経験も浅い。」「孫権殿が孫家を率いても危ないばかり。ですが、先見の明ある孫暠様なれば、曹操の配下となっても孫家も、江南の民も長らく安泰でしょうな」孫策と孫権が同意見である以上、孫権が後を継いでもやはり曹操と戦うことになるのだろう。「だが、どうしろと言うのだ。孫策殿を暗殺しろとでも言うのか?」「有体に言えばその通りでございます。」「何!?」「その為の手管も用意してありますれば・・・」暗殺、の発言に怖じる周りの文官を尻目に、戴員がパンパンと手を叩き、それと同時に幾人もの武装兵士が部屋に入ってきた。「・・・そ奴らは何だ」一瞥して、孫暠が戴員に問う。「許貢をご存知で?」「許貢? 孫策殿に殺された呉郡の太守だったな。」「はい、これらはその許貢の食客にございます。これらは孫策殿に復讐をしたい。我らは孫策殿を除きたい・・・利害は一致すると思いませんかな?」「もう1つ申せば、彼らは曹操の軍にも繋がっております。例え失敗しても、その伝手を頼れば曹操殿にも降りやすいかと・・・」「・・・・・・」「さぁ、孫暠様。民の為、孫家の為・・・ご決断を」「それは・・・・・・。」昔から、クーデター、内戦を起こす者と言うのは決まって「このままではいけない、自分が率いなければならない」「自分達が立たねばならない」と理想を持って動く。それが失敗すれば反逆者であり、成功すればどれだけ非道であっても歴史の勝者となりえる。成功したとして、その後が不味ければ同じような目に合うものだが・・・孫暠も「このままではいけない」と思う人物。孫策は暴君ではなく、むしろ民にとっては親しみやすい人物なだけに孫暠が立つべき理由は少ない。それでも、このまま戦となって負ければ民に膨大な被害が出る、そして孫家が滅亡する、という事が孫暠の懸念である。孫暠の不幸、それは唆されたとはいえ「自分が孫家を率いなければならない」と、思い込んでしまった事にある。「良いだろう。だが、お前達にも手伝って貰うぞ」「おお、よくぞご決断なされた。すでに兵も集めておりますれば」畏まる爲覧らの、曖昧な表情に孫暠は僅かな苛立ちを感じた。だが、彼にはもう1つの思惑があった。(ふん、俺を利用しているのは見え見えだが・・・しかし。)どちらが勝ち、負けるか・・・結果がどんな形であれ、どちらかの派閥は一掃され孫家は1つになる。或いはなり易くする為の土台にはなる。彼は、孫権はともかくも孫策を嫌ってはいないのだ。~~~高順の部屋~~~「まさか、見舞いとはいえ単独でお越しになるとは」「内密の話なのでな。建前だが」「建前って・・・」寝台で寝転がっている高順、そしてその隣で椅子に腰掛けている周瑜。彼女が事前に見舞いに来るとかそういう話も無しに、急にやって来た事は高順にとって良い話・・・とはならないだろう。大抵、仕事を任されるとかそんな話に違いない。「傷の具合はどうなのだ?」「ま、ボチボチですよ。戦の準備はどうですか?」「ふっ、ボチボチ、さ。」「着実に、ってことですね。どこが主戦場となるのやら」それならお前の傷も着実と言うことになるぞ? と周瑜は苦笑し「私の見立てでは、長江の赤壁となる。開戦は・・・あと2ヶ月か3ヶ月ほどかかるか」と答えた。「赤壁ですか。互いの戦力はどんなものでしょうね・・・」「曹操は20万ほどの兵を繰り出してくるだろう。我ら孫家は10万の軍勢を出す。」「2分の1の戦力ですか?」「それで大丈夫なのか、という顔だな? 案ずるな。兵力で劣っても戦力で負けているというつもりは無い。長時間の対陣はこちらに有利ですらある」「南船北馬、ですね。荊州はともかく、北方・・・曹操の引き連れてきた主力部隊が役に立たない、と。馬の上に居るのは得意でも、船に乗って波に揺られて、は辛いでしょうね」「そういう事だ。ふむ、判っているじゃないか?」「ま、これくらいは。・・・で? 本題は何でしょう?」高順が面白くなさそうに、周瑜を促す。「む?」「さっき内密云々って言ったじゃないですか。これくらいが内密とは思えませんよ。・・・無茶振りしにきたんでしょーが。聞くだけ聞きますよ。過労死するのは嫌ですけどっ!」「お見通しか・・・そうだな、お前には過労死しろと言ってるも同然だ。すまんな」「え、正解!?」ふう、と周瑜は溜息を吐いてから切り出し始めた。「高順、お前は劉備をどう見る」「嫌い」即答に、思わず周瑜は「ぷっ」と噴出した。「いや、そういう意味ではない。言い方が悪かったか・・・この戦いにどう絡んでくると見る?」「孫家が勝てそうなら美味しいところを掻っ攫う、つまり勝ち馬に乗る。勝てそうにない、膠着しそうなら一足先に撤退して、曹・孫が動けないうちに独自に領土拡張に乗り出す。」「・・・。随分な評価だ、と言いたいが・・・厄介なことに私も雪蓮も、そして馬騰殿も同じ意見なのだ。」「へぇ?」寝転んでいた高順は起き上がる。「既に帰還したが、諸葛亮が申告した劉備軍の兵力はどれくらいだったと思う。」「その場に居なかったので何とも。・・・2千とか5千?」「1万だ」はぁ? と高順が聞き返す。「1万さ。随分低く見積もった数だと思わないか?」「俺の予測よりは多い申告ですねえ。もっと少なく見積もるかと思ってたのに。まぁ、実際は2万くらい居るでしょうね」「何故そう思う?」「何故って、そりゃ。江夏には劉琦軍がいますからねえ。実際にその城入ったわけじゃないですが、それくらいはいるでしょうよ」「やはりそれくらいはいると見るべきか。」ふーむ、と周瑜は腕組みをする。「それで、俺にどんな嫌がらせをしたいわけです?」「む・・・案外嫌味だな、お前は」「こんだけ無茶させられて嫌味1つで済ますんですからまだマシじゃないですかね?」「ふふっ・・・違いない。だが、私が雪蓮に無茶をさせられる気分が少しは解っただろう? 私はお前以上に働かされている自負があるぞ」「うっわ、そっちのが嫌味だ・・・」「褒められた、と曲解解釈をしておこう。本題だ。まだ開戦するには時間が少々かかるが、お前には零陵(れいりょう)と武陵(ぶりょう)を落として欲しい」「は? 零陵と武陵・・・? 寿春に程近い長沙と桂陽でなくて? 交州から見れば繋がりますけど、便が悪くないですか?」「ああ。長沙と桂陽は放置だ。劉備にくれてやる。長沙と桂陽のほうが都市の規模が大きいからな。」はあ、そりゃまた剛毅な・・・と高順はポカーンとしている。「理由はあってな。先ほどお前は劉備は兵力を隠している、と言っただろう」「ええ、まあ。」「が、奴らは嘘を言って無くてな。劉備自身の兵力は本当に1万程度だろう。我らも劉備も「劉琦の所持戦力」には一言も言及していない」「はぁ。」「そして、お前が言うとおり・・・劉琦か劉備か、どちらかの兵を赤壁に派遣し、残った片方の1万で、長沙を初めとした荊州南部を切り取りに来るだろう。我らが動けないうちにな。勝敗に関係なく、だ。」赤壁で睨み合っているうちは両軍共に戦力を割けない。その間隙を狙ってくるという事だ。「いや、それは・・・2つほど聞いても?」「ん? 構わんぞ」「俺達は赤壁に従軍しなくて良いんですか? で、譲ったのは良いとしてなんで零陵と武陵を狙うんです?」「赤壁は水上戦だ。本当ならお前達にも船戦を覚えてもらう予定だったが、そうなる前に南方攻略になったのでな・・・先ほどの南船北馬、さ。そうなるとお前達が遊休戦力になる。勿体無い、では言葉が悪いがな」「む・・・確かに。・・・あ、やっぱりこれこき使われる流れか!?」「否定できないのが悲しいところだ。2つ目に、劉備の狙いは解っている。益州だ。」「えーと。・・・ああ、そう言えば零陵と武陵は益州に通じていますね。道を塞ぐ、と?」「お前達と孫権殿に益州攻略をさせる、というのは何度も言っているが、そうなれば・・・苦境に嵌れば劉璋は近場に居る誰かに助力を願うだろう。単独で張魯を降せんのに、南から我々が攻めてきてはな。」「うーん・・・近場に居る同じ劉姓なら助けを求めやすい・・・? なるほどね。」「益州入りをしたくても名分が無い劉備にとっては渡りに船だ。となれば・・・解るだろう」「ええ、よく解りましたよ・・・はぁ、もう少し休みたいのですけどね。なんでこんなに働かないといけないの・・・」高順は胸をさすってぼやく。左手は回復傾向だが、胸の傷の治りはイマイチで休みたいというのが本心である。「はぁ、早く隠居したい。できないけど。」「隠居、か。お前に隠居をされるとこちらが困る。そういった発言は謹んで貰いたいな」割と本気で言っているらしい周瑜だが、高順はそれを冗談として受け取った。「困ると言われましても。別に俺が居なくても孫家は」「問題ないとでも?」高順の、どちらかと言えば自虐的とも取れる発言に、周瑜は困った様な表情を見せた。「違うんですか?」「大違いさ。謙遜するのは良いが、過ぎるのも過小評価も困りものだ。お前の立ち位置、これまでの働きの結果。それは孫家にとって大きな力の1つなのだよ」「そこまで大きな事、しましたっけ?」「お前と言う奴は・・・。はぁ、山越に武凌蛮に孟獲。俗に言う異民族だが、お前が対策をしてくれている事がどれだけ助かっているか。」「あぁ、そういう意味ですか。でもおかしいですよアレ。そんなに慕われる要素があるとは思えないのですけどね。」「異民族でも差別せず、個人で兵として養い、何かあればその家族に厚い保障をする。そんな真似をする奴がお前以外にいるものかな?」そりゃいるでしょう。と公孫賛を思い出しつつ言う高順。周瑜は、いるかもしれないが、と前置きをしてから「ここまで大規模にやっているのはお前だけだろう」と言いきった。「お前も知っているだろうが、異民族には悲惨な生活をしている者は数多い。漢民族も大差ないが、それらにも差別される事だってある。」「・・・弱者は自分よりも弱い者を苛めようとしますからね。」「そんな中で、真っ当に扱ってくれる者がいて、兵として戦い戦死する事もあるが―――家族の生活も保障されている、という話があったなら・・・どうだ、大抵の者なら食いつくと思わないか」むしろ、昔の高順はそれを狙っていたものだ。だが、そこから先はさして考えていない。「異民族同士の、表立った交流があったかは知らないが、一部の者は横同士で繋がっていたかもしれんだろう。お前の噂が徐々に広がっていった筈だ。そんな人物が近くに居たなら? ある程度面識を持ちたい、繋がりを持ちたい、と思うのは人情ではないかな?」「うーん・・・そういうもんですかねぇ?」「そういうものさ。山越・武凌蛮などは解りやすい例だな。高順という人間がいてこそ、孫家は異民族への対応を誤らず、そして然程考える必要が無かった。お前が居なければ・・・外に打って出る等出来ないだろうさ。」この言葉に嘘偽りは無かった。実際、現状で異民族への対応が重なっていれば曹操との対決に「こちらから乗り込んでやっても構わんぞ」というような意見など出ている訳が無いのだ。異民族への対策に回さずに済んだ労力・資源。失わずに済んだ人的被害に多大な時間。それらを鑑みれば、高順の働きと言うものは決して軽くない。「私個人としては、お前を休ませてやりたいところではある。しかしながら、孫家の事を考えれば・・・公としては、お前をいつまでも休ませているのが勿体無いのだよ」高順を隠居させると、色々と五月蝿い人も多いからな・・・と、周瑜は孫権やら誰やらの事を思い返す。「・・・・・・・・・・・・。うぅぅぅぅ。働きすぎたからまだまだ働かせるって一体。」「すまないな・・・それと、もう1つ理由があるのだ。馬騰殿の一時的な領地を作成しておきたい。」「へ? 馬騰殿の領地って・・・?」「うむ。あのお方のおかげで騎馬隊は育って来ている。だが、赤壁で戦うとなればそれも遊休戦力。それに、だ。いつまでも寿春に居ては馬騰殿も肩身が狭い。これでは同盟であるという形になり得ないのだよ」「あー・・・だからその2都市を暫定的に馬騰殿の領地として?」「そうだ。上手い具合に、その南方がお前の統治する交州と。馬騰殿を支える役割、劉備の牽制。」「それに加えて益州の攻略ですか・・・そーいうのって重臣にやらせるべきだと思いますよ! 具体的に言えば程普殿とか!」あー嫌だ、なんでこんなに忙しくなるのさ・・・と、高順は本気で嫌そうな顔をする。周瑜も悪いと思っており「すまない・・・」と苦しそうであった。何と言い繕っても、高順を働かせすぎているのは周瑜か、或いは孫策である。機動力・攻撃力に長けており、城攻めも・・・使いやすいというのも理由だが、高順隊以外に、多方面に水準以上の能力を発揮できる部隊は少ない。だから高順の肩に余計な負担が圧し掛かってきてしまうのだ。しばらく、重苦しい雰囲気が室内を満たす。どれだけ時間が経ったのか、諦めたかのように高順が嘆息する。「出撃までに胸の傷が治ってくれれば良いのですけど。」「良いのか?」「良いことはないですが、劉備に美味しいところを持っていかれるのも嫌なんですよね。それに、せっかく成都攻めの下地を整えているのにその成果を奪われたら、頑張ってくれた人たちに申し訳が無い」指揮を執るだけに留めれば、なんとかなるでしょー・・・と辛そうである。「解った・・・感謝するぞ、高順。開戦前後で一度交州へ戻り、そこから北上してくれ。馬騰殿の部隊も同行させる。」「了解。じゃ、馬騰殿に総大将となって貰って、指揮を執っていただきましょう。その方が良いですよね?」「勿論だ。では、今日は帰るとしよう。細かい打ち合わせは後日にな。私が言えた義理ではないが、胸の傷を労われよ」「はは、全くですよ・・・。」「それと、孫家の待遇に不満があるのなら劉備の元に行ってみるか? 給料は安く、今以上にこき使われること請け合いだぞ」「それだけは勘弁してくださいチクショウ!」無駄にからかわれただけのような気もしたが、とりあえず周瑜が去ってから、高順は天井裏に潜む楊醜(ようしゅう)と眭固(すいこ)を呼んだ。両者、音も無く室内に降り立つ。「何か用事かな?」「どちらかに江夏に行って貰いたいんだ。劉琦・劉備の軍勢、どちらが本隊、主力なのか。どう動くのか調べてくれ。それと、交州に行き劉巴さんに零陵・武陵攻略の為の準備を行って欲しい、と。」「良いだろう。他に何か?」「そうだな・・・あと、蹋頓さんにも「皆元気でやってるから心配しないでねー」と伝えてくれ。」「応。じゃあな」二人が消えた後、高順は「ふぅ」と息をついた。なんでこんなに忙しいかなぁ。そして1ヶ月。まあ、傷も大分良くなったかな? と高順は自由に行動を始めていた。胸の傷は痛むものの、別に戦闘をするわけでもなく、傷のこともあって軍務は免除されている。実はそれほど良くなっては居ないが、最初に比べれば大分傷が治っているのは確かだ。しかし、それは外見上のことで内部はきっちりダメージが残っていて周りからは「絶対無理をするな」と耳たこレベルな回数で言われている。今日街に出ようと思ったのは、鎧が破損してしまったのでその修理を街の鍛冶屋に頼んだり、面頬を新規に作ったり、とそれなりの理由はあるし、それ自体に問題は無い。問題があるとすれば、完全武装(藤甲装備)の周倉がじーーーっと傍に張り付いている事だけだろう。「なぁ、周倉・・・俺、自由行動したいんだけど」「すれば良いと思うぜ」「あの、1人でって意味だけど」「そりゃ無理。」「そうですか・・・」そんなあっさり、と思わないでもないが本人が言うには「何かあったら不味いだろ?」だが、趙雲や楽進は部隊の訓練を受け負っている状態で、常に高順の傍にいない人々の意向も動いているようである。監視されてるみたいで落ち着かないが実際に監視みたいなものである。参ったなー、と言いながらも散歩を続けるが、どうも。「周倉、なんか・・・上手く言えないが、寿春ってこんな物騒な人多かったっけ?」高順は辺りを見回しながら、そんな事を言い出した。「そうっすねぇ、ちょうど1月ほど前から増えてる感じだなぁ。孫家が傭兵募ってんのかな? くらいにしか。別段、問題が起こってるわけじゃねーみたいだし。」にしてはどうにも柄の悪い人間が多い。時代から考えて治安が悪いのは珍しい事ではないのだが、寿春はもっと平和だったと思う。戦が近いと言うことで気が立っている者はいるだろうが、世紀末救世主伝説に(外見的に)出てきそうな人々は居なかった・・・と思いたい。「影」を外部に放ったのは間違いだったか、と高順は頭を掻いた。街の人々も出来れば近寄りたくないと思っているようだし、孫策ら孫家首脳陣なども気付いているとは思うが・・・と思っていたら人ごみの中に孫策の姿が見えた。こちらには気付いてないようだが、キョロキョロ周りを見回しつつ歩いているので怪しいことこの上ない。高順は人ごみを掻き分けて、堂々と孫策の傍まで歩いていって「孫策殿~~~?」と話しかけた。「ひゅいっ!? な、何よ、高順じゃない・・・驚かせないで欲しいわ」本気で高順に気付いていなかったらしく、驚かされた事を不満に思っているのか、口を尖らせる孫策。その手には酒が入っているであろう瓢箪がある。「で、孫策殿は城下街で何を? もうすぐ曹操と開戦するこの大事な時期に城下街で何を?? 街に危なそうな人々増えてる中で遊んでたのですか???」「だ、大事な事だからってそう何度も言わなくて良いじゃない・・・あ、そうだ」そーよ、見つかる前に二人とも連れて行けばいいのよ。共犯者にすれば見つかってもお小言少なそうだし。と、高順にとっては不吉極まりない単語を口にする孫策。「あの「そーと決まれば付き合ってもらうわよ、高順と周倉。だいじょぶだーいじょーぶ、ちょっとお出かけするだけだから♪」ちょっ・・・!」「え、そ、総大将!?」「きてくんないと「ぎゃー暴漢が私を攫おうとしてるー」って大声で叫ぶわよ?」『・・・・・・・・・りょーかい。』なんで孫家の総大将に脅迫されなければいけないのだろう。しかも誤魔化されているし。孫策は乗り気じゃない高順と周倉は無理やり引っ張られて行くのであった。それを見ていた10人ほどの集団が、各々苦々しそうな表情を見せていた。(ちぃ・・・余計なのが二人増えたぞ)(人ごみの中で殺せれば良かったが・・・クソッ、孫策の後ろを守るような位置にいやがる)(待てと言っただろうが。こんな所でやれば混乱が生じる。もし外しでもしてみろ、あの女は警戒を強めて二度と好機は回ってこんぞ)(どうする)(ふん、ほとんど供を連れていないこの状況を逃すものか。幸い、城に帰るつもりは無いようだ。人気の無い場所に行くのを待て。このまま追い、後ろの2人ごと殺してやる)(応援は必要だろう。我らの成功と同時に爲覧と戴員も動く。孫策を殺せば勝利も同然・・・念の為に兵を数百こちらに回すように伝えろ)(応)(では行くぞ)暗殺者が、孫策達の後を追い行動を始めていた。そこから時間経過。城内にて。「雪蓮は何処に行った!? この忙しい時にっ・・・」何処に行ったあの馬鹿君主! と肩をいからせて城内を探し回る周瑜。だが、文官武官がその周瑜を探してあちこちを走り回っている。「周瑜様、弓はともかく矢の数が足りませんっ!」「手漉きの者がいれば作成を手伝わせるように」「軍師殿、朝廷への使者の用意が出来ました!」「宜しい。直ぐに向かわせろ・・・ああ、もう。この忙しい時期に主君がいないなど・・・」やはり街に遊びに行ったか、とぎりぎりと歯軋りをする周瑜。開戦近しということであれこれと仕事が回ってくる中、やはり孫策は周瑜、というか周りの人々に仕事を押し付けて逃げたようである。このところ、どこからか知らないが流入してきたならず者の多さに住民から苦情が出るわ、本当に忙しい。ただ、その流入してくる人間の多さには不吉なものを覚えている。これほど短期間に寿春に・・・と思ってしまうのだ。戦が近いから仕官の口を求めて、なら問題なかろうが、どうにもそれが理由ではないという事は承知している。ならば呼び寄せた大本が居る筈だ、と周泰配下の密偵に調べてもらっているが、大本は中々尻尾を出さない。用心深いのか、それとも孫家の武将の誰かが通じているのか。自分でも調べたいが、他にやらなければならない事が多すぎて、今でさえ働きすぎな周瑜である。流石に無視できない状況になった、と周瑜はそういった連中破防法―――のような感じで検挙したいとも考えている。そういった色々な事への承認を孫策から得るのも仕事な訳だが・・・何故こういった状況であの女は逃げるのか。とにかく、孫策を探しに行かせた周泰の報告を待つしかない現状である。「まったく、何処に・・・。・・・?」城から下を見下ろした周瑜は、ある一角を見つめてふいと足を止めた。黒煙が上がっているのだ。(煙? 場所は・・・あそこは厨房など無いはずだ。)誰かが城内で焚き火? いや、それは・・・・・・。陸遜あたりならやりかねんな。だが、それにしては。「ん? ・・・待て・・・あそこは武器庫のある方角だったな・・・まさか」身を乗り出し、そこを凝視する周瑜。自分と同じく、異変に気付いた兵がわらわらと動いている。誰かの失火か、それとも曹軍の放った密偵の仕業か。或いは、孫家の中に居る「敵」が動き出したか。~~~孫策達に場面を戻し~~~孫策は街を出て、高順と周倉を人気の無い河原まで連れて行った。その河原で魚釣りをさせられたり、火を起こして焼き魚にしたりと言う一幕があったが、ここは前に高順・周倉が訓練をした際に通りかかった場所で、二人ともそれを覚えている。孫策は河原にポツリと存在する大きめの石の前でしゃがみ込み、酒で満たされた瓢箪と魚を石の前に置いて、目を閉じた。やはり誰かの墓だったのか。と、高順も周倉も孫策の瞑目が終わるのを待つ。周倉は「ここでヤんなくて良かったなぁ」とか思っていたが、どれほど時間が経過したのか、すっと孫策が立ち上がったので慌てて思考を打ち消した。「・・・んん?」周倉は不意に、チリチリとした何かを感じた。産毛が逆立つような、嫌な感じだ。もしかして、誰かが・・・?「これ、お墓なんですね。」「ん。母様のね」孫策の答えに「やはり孫堅か」と高順は頷いた。「前にも話したっけ? 無茶な人でね。戦場で子供育てるような人でさぁ・・・あはは、そのせいで私もこんな性格になっちゃったけど・・・って何よその顔」高順と周倉は「え~~~・・・」てな顔をしている。その性格は絶対に生まれつきだ、と主張するかのように。「何を言いたいかはさて置いて。でもま、熱意は本物だった。自分の力が何処まで通じるのか、通じるのであれば江南を制して、更にその先へ。」結局、その願いも野心も半端な所で終わって、それを受け継ぐ場所に来るまで時間がかかりすぎてしまったけど・・・と、孫策は過去に思いを馳せた。母が生きていればもっと早く回ってきたであろう大舞台。天下を決するに相応しい大戦がすぐ目の前まで迫っている。亡き孫堅の願いと想いと野心を受け継いで、そこに自分の覚悟も上乗せして、ようやくここまで来れたのだ。自分も、そして曹操もこの大戦を望んでいる。後は進むだけだ。「母様の手から零れ落ちたものを、形が変わったかもしれないけど、友人・・・仲間達と私が拾い上げた。それの結果がどうなるか解りはしないけど・・・やすやすと手放したりはしないわよ。」孫策の心からの笑みを見せられ、高順もまた笑う。彼女は求めている。孫堅が望んだ以上のものを。渇望して止まなかった願いを果たし、それ以上の舞台へと出ることを。そして、母を超える事を。俺には真似できんね・・・と思った高順の視界に、何かが映った。茂みの中に人影のような、黒い影のようなもの・・・周倉が「総大将も大将も伏せろぉっ!」と怒鳴ったのは、それとほぼ同時だった。高順から見えたものは暗殺者の影。周倉の目にもそれが映り、彼女は無意識に腰に手を伸ばす。人差し指と中指、薬指と小指・・・それを両手。つまり、両手で4本の投擲用の小斧を引き抜いて1本の斧を孫策に向かって投げ飛ばす。(孫策にとっては後方で見えていないこの時には高順が孫策の肩を掴んで無理やり引き倒していたが、既に数本の矢が飛んできており内一本が高順の左手に刺さっている。高順は「いでぇぇぇっ!? せっかく治ってたのに!」とか叫んでいたが、それはともかく、斧は孫策の頭上を飛び・・・矢を向けていた何者かに命中。ぎぁぁっ、と悲鳴が響き、何かが倒れるような音がした。周倉は確認することもなく、殺気を感じた方向に次々と斧を投げつけて行き、それは全部命中したらしい。次の攻撃が来る前にもう一度、と言いたかったが投擲用途の斧は4本しかない。斧だけじゃなくて飛刀も持ってくりゃ良かったぜ、と愚痴りながら接近戦用の斧を構える周倉。「敵・・・暗殺者!?」最初は何が何だか理解できなかった孫策だが、今まで感じなかった殺気を複数感じ取り、得物を引き抜く。3人は背を向け合い、後ろを預けあいながら警戒をする。「随分気配を消すのが上手い奴らみたいね・・・! 周倉も良く気付いたわね!」「それっぽい感覚はあったけどな、勘違いで済ませるかもしれなかったぜ!」「つぅっ・・・残りの気配はどれくらいだ?」傷が痛むのだろう、ふらつきながらも高順も立ち上がる。「鈍いぜ大将。あと6つくらい・・・って上だ!」「上・・・!?」つられて上、というか斜め上を向く高順。そこにはいたのは木の上から弩で高順を狙う男。人間というのは死にそうな時や危険な状況に直面すると時、間の経過をゆっくり感じる事があったりする。今の高順もそんな状態(彼は死にかける事が多々ありすぎると思うのだが)で「あ、やべ。こりゃ死んだ。今回は無理っぽいなぁ、あはははー・・・」とあっさり諦める。自分が矢で貫かれると思っていた高順。間に合わない、と悟りつつも動いた孫策・周倉。覚悟した高順だがしかし、木の上にいる男の指にクナイらしき形状の投げ刃が突き刺さる。男は弩を落としバランスを崩して木の上から転げ落ち・・・る前に、追撃で放たれた気弾が命中し、すっ飛んでいった。「・・・何?」皆、クナイが飛んできた方向に視線を向ける。その視線の先には、刀を構えて突進していく周泰、その隣に居る見慣れない少女と付き従う数十の兵の姿。すぐ傍には、趙雲と楽進率いる騎馬隊も在った。~~~楽屋裏~~~ちょっと中途半端。あいつです(挨拶ぶっちゃけると爲覧も戴員も曹操軍と繋がってます。曹操個人はこいつら知りません。誰と繋がりがあるのやら・・・全く設定してませんけど。もしかしたら董昭あたりか。原作みたく孫家の領内に曹操軍としての暗殺者が入ってくるのもなー、ということでパイプ役と言うか、許貢残党はそれっぽい役割です。速攻で抹殺されるでしょうけどね(ぁさてさて、ここで高順くんジ・エンドなのか最後までいけるかは迷い中。まあ、ここで死んでも特に影響が無いような・・・しかし、この駄作が始まってもう2年近く。長くても数ヶ月で終わると思ってたのにどうしてこうなった・・・何とか今年中には終わらせたいものです。終われるといいなぁ(遠くを見つめ