【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第92話「あのー、蛮族王って。」雲南、王座の間。孟獲の目の前に居る高順は「何ですかソレは」みたいな顔で、その呼び名を口にした孟獲に質問をしていた。「その説明は後にして・・・先ずは、自己紹介を。改めまして、お初にお目にかかります。私は・・・一応、現在は孟獲です。」「現在? それはどういう意味です」「そうですね・・・少し長くなりますが、説明をさせていただきます。」私は、と言いかけた瞬間、誰かが扉を「どん!」と勢い良く開けた。「姉ー! ・・・お?」その扉の向こうに居たのは、孟獲同様、緑色の髪をした幼女だった。頭の上に、象のような置物だかぬいぐるみだかを乗せ、何故か虎・・・猫? の耳がついている。「あら、美以。駄目ですよ、お客様がいらっしゃるのに。」孟獲に美以、と呼ばれた幼女は「むぅー」とふくれっ面をする。「「しょく」の連中を追い返したのにゃっ。それを言いに来ただけなのにゃー。」「・・・そう、ご苦労様。」ご苦労様、という言葉に気を良くしたか、美以と呼ばれた娘は嬉しそうに孟獲の背中に抱きついた。「あ、こらっ・・・。」「はたらきに応じたほうびと思うのにゃっ。・・・ところで、こいつら誰なのにゃ?」美以は、高順達を指差した。いきなりのことで呆気に取られた高順達であるが、すぐに「こちらは?」と孟獲に説明を求める。彼女は困ったように「この子は私の妹でして・・・」と笑う。「美以。この方達は私のお客様。無礼をしないように」「にゃはは、姉はしんぱいしょーなのにゃ。みぃは、みぃと言うのにゃ。よろしくしてやるにゃっ。」「・・・そ、そうか。俺は高順。よろしくされておこう。」こうじゅん? と美以は首を傾げて、すぐに思い出たのだろう。高順を指差して、「おー。あの「ばんぞくおー」なのにゃ!」と大はしゃぎ。孟獲はこほん、と咳払いをして「では、1つずつ説明をさせていただきますね」と話を戻す。美以がおんぶ状態で孟獲の背中に捕まっているので、絵面はなんだかほのぼの状態だが。礼儀とかに拘る人間なら怒っていたかもしれないが、蹋頓は「あらあら」と笑っていて、沙摩柯も苦笑するのみ。孟獲は「少し失礼を」と言いつつ、高順達が来たときの為にと整えておいた椅子に座り、皆様もどうぞ、と勧めて自分も席に着いた。傷が痛むのだろうか、時折表情を歪める。彼女に膝の上には、無邪気にも美以が座り込んでいる。高順らも勧められるままに座った。「まず、正確に言えば私は孟獲ではありません。私の本来の名は孟節。代理という形で孟獲となっただけです。」「代理? 代理とはどういう意味です。」「孟獲、と言う名は世襲です。その時、孟家で一番力のある者。武でも、智でも、何かが抜きん出た者が受け継ぐもの。・・・本当は、美以、この子が受け継ぐものなのです。」「にゃ?」孟獲・・・いや、孟節の膝の上に乗っている美以は、意味が解らなさそうに首をかしげている。「私は、母に後継者と定められてはいません。後継者は美以なのです。ただ、この子はまだ幼い。あと8、いえ、5年は待たなくては・・・」だから、代理か。と高順は納得した。そう言えば、張燕様もある意味では世襲だったなぁ、元気にしているだろうか、と少しだけ思い出す。「では、先代の孟獲王は・・・」「つい数ヶ月前でしょうか。北の蜀が攻めてきまして・・・その時に。」孟節は少し肩を落とした。「そうですか・・・ん、蜀? という事は、やはり劉備ですか?」孟節は、いいえ、と首を横に振って否定。「劉は劉でも劉璋です。高順様はご存じ無いかもしれませんが、彼が北の張魯と争っていましてね」「ああ、五斗米道でしたか。宗教勢力ですね?」「はい。劉璋の父、劉焉と張魯は友好的な立場でした。劉焉のお陰で張魯は漢中に勢力を立てたも同然ですから・・・しかし、劉璋の代になってから、張魯は従わなくなりました。業を煮やした劉璋は張魯の家族を捕らえて処刑、軍事衝突を始めたのです」なるほど、と高順は頷いた。この辺りの流れは正史とそれほど変わらないらしい。「しかし、それが何故南に来るのです。北に戦力を集中させて・・・いや、陽平関と剣閣? 漢中から南下するにはそこを抜けないと。」「良くご存知ですね。その通り、彼らはそこに兵を駐屯させて防衛をしています。守るだけなら多くの兵を必要としないのでしょう。南に来た理由は・・・征服です。」聞くと、劉璋は兵力増強の為に南蛮に兵を送り、村々を焼き払い、民を強制的に連れて行くことをしたらしい。当然抵抗もしたし、使者を送って民を返せとも伝えたが、最初から話を聞くつもりなど無い劉璋から反乱者扱いをされる始末。反逆者、というのはとんでもない言いがかりで、彼らは元々この地に住んでいたのである。南蛮族と呼ばれて蔑まれてもいるが、漢民族とあまり変わらない暮らしをしている。他者からどう呼ばれようとそれほど気にしないし、こちらの生活を脅かさないのなら、と思っていたが、濡れ衣で攻撃されては堪ったものではない。更に、劉璋は雲南の北に多数砦を作らせて圧力もかけている。先代の孟獲は「このままでは不味い」と1万ほどの兵を率いて攻撃を仕掛け、幾つかの砦を奪還。しかし、その隙を突いて劉璋側の主力部隊が雲南に攻め寄せ、それを知った孟獲が引き返すも伏兵と主力部隊の挟み撃ち。本人も含めて軍勢が壊滅。そこからは孟節が臨時に指揮を取り、じっと防御を固めて劉璋の疲弊を待つことにしたのだが・・・幾度も攻められて、持ち堪えられない状況に追い詰められる。高順が同盟打診を打ち出したのは、そんな状況でのことだった。「そこで、さっきの質問になるのですが・・・なんで俺が蛮族王ですか?」「そうですね。種明かしをすると貴方の元にいる楊鋒です」「へ? 楊鋒? あの人が何か・・・」「彼女は私の友人でして。あの人はこの南蛮と呼ばれる地の1つ、銀冶二十一洞の洞主の一族。勢力が減退し、出稼ぎと称して旅に出てしまって・・・長年、連絡が無くて心配していたのですが、洛陽で貴方に仕えた頃に久々に手紙を出してくれたのですよ」「はぁ・・・。」そう言えばそんな話をどこかで聞いたな、と高順は思い返す。楊鋒は孟獲を捕らえた人だがあれは演義での話だったか。それが何故蛮族王とかに繋がるのだろう?「洛陽での募兵で集めたのは主に異民族だそうですね。徐州の激戦、呉への臣従、袁術とやらの戦い、山越の帰属、交趾へ来てからの善政並びに武凌蛮の取り込み・・・彼女は、何か貴方が大きな行動をするたびに手紙を寄越して、私に情報を伝えてくれていたのです」「・・・・・・。あの人、そんな事やってたのね・・・」別に知られて困るようなことではないとは言え・・・何だか釈然としないなぁ。と高順は脱力した。「異民族を取り込み、それを己の力として漢土を巡る・・・。そんな事をしている漢人は、私が知る限りでは貴方か、北方の馬騰くらいのものです。」公孫賛も含まれるのだが、孟節はそこまでは知らないらしい。「その馬騰にしても、羌と誼を通じている程度。烏丸、山越、武凌・・・羌や鮮卑も一部に含まれるかもしれませんが、大まかに分けてもそれだけの数の民族と通じている人は、本当に貴方一人だと思います。」「はぁ・・・そうなんですかね? って、え? それじゃ、蛮族王ってそういう理由で呼ばれてるんですか!?」「ええ。異民族王ではごろが悪いですし。蛮王でも良かったのかもしれません。・・・ああ、南中では、貴方の名声はかなりのものですよ『だって私が言いふらしましたので』」「・・・勘弁してください。」・・・どうも、噂が一人歩きした結果の呼び名と言うか、その場のノリと言うか。けっこうお茶目かつ無責任な事をキめる孟節であった。知らぬ間にそんなことになっていた高順には迷惑以外の何者でもない。「まあ、その件については後でじっくりお話するとして。同盟ですが、組んでいただけるので?」軽い頭痛を抑えつつ、高順は切り出した。今回ここに来たのは、その同盟を組むためだからだ。孟節もそれは解っており頷く。「はい、ただし・・・心苦しいのですが、幾つか条件を。」「条件ですか。」「そちらからの条件は、蜀・劉璋のいる成都までの軍用路、通過時の兵の休息場所の確保、だと記憶しています。」「いかにも。」「こちらからの条件は・・・食料、物資の援助。守備兵の派兵・・・と言った所でしょうか。」「・・・」←むっさ無言な高順「・・・」←むっちゃ無言な蹋頓「・・・」←とりあえず無言の沙摩柯「にゃー。」←解ってない美以「いや、解っているのですよ!? ものすごく厚かましいお願いだというのは解っているんです!」三人の無言無表情に気圧されて(美以はこの際見なかったことにして)、孟節は叫んだ。(ふむぅ・・・)高順は、少しだけ考え込む。食料、物資。これは、長らく篭城をして、それらの品が底を尽きつつあるのだろう。自分で見たので解っているが、城門や市街に溢れる負傷者の数を見れば、医療物資にも事欠く状況だ。篭城を続けるにも、矢を作るための木材、篝火に使用する油。食料だって必要だ。派兵も守備能力の増加、そして、自分たちを攻めたら孫家にも手を出す事になるよ、ということだ。劉璋は北南に大敵を抱える事になる。南蛮だけならまだしもそこに孫家が乗り出してくれば、劉璋としては手が出しにくい事この上ない。問題は、高順にそこまでする理由があるか、ということだが・・・。しかしなぁ、と、高順は孟節の膝の上で丸まって「ねみゅねみゅ・・・」と眠りかかっている美以を見つめた。美以は孟節に「蜀の連中を追い返した」と言っていた。つまり、こんな年端も行かない子供まで戦に駆り出されているのが現状である。一応そこも聞いておかないと、と高順が決心をしたとき、ちょうど蹋頓が挙手をして「少し宜しいですか」と質問を投げかけた。「孟節様、先ほど美以ちゃんが、蜀の軍を追い返した・・・と仰っていましたね。」「え、はい。そうですが」「子供にまで戦わせるのが、貴方達のやり方ですか?」「・・・。うぅ」蹋頓の言葉に孟節は項垂れた。蹋頓は嫌味を言ったつもりは無いが、そんなやり方を容認できないとは思っている。「実は、負傷した大人よりも余程頼りになるんです。この子達は・・・」孟節は、自分の膝の上で丸まってる美以の頭を撫でながら申し訳なさそうに言う。「皆、同じような顔で・・・なんというか量産型っぽいですが、この子達だけで1万以上の兵。しかも、負傷したのは当然ですが、大の大人よりも余程強く・・・」「・・・。」南蛮の方々は揃いも揃って役立たずですか? それとも死ぬのですか? みたいな目で孟節を睨む蹋頓。「お願いですからそんな目で睨まないでください! 泣きますよ!? 大の大人が声をあげて泣きますよ!?」(そんな情けない事を、脅迫じみた言い方で言われても・・・)涙目になって叫ぶ孟獲改め孟節を見て、大丈夫なのかなぁ・・・と、不安になる高順であった。「で、結局どうするつもりなんだ?」沙摩柯も少し頭痛を感じているのか、疲れたような表情で高順に問う。「ん、同盟しますけど・・・ふぅむ。少し時間は欲しいですね」「良いのか? 向こうにばかり有利な条件だぞ?」「構いませんよ。劉璋を成都から叩き出せば雲南まで攻めてくることは出来んでしょう。それに、この状況を放っておくというのもねぇ・・・」「確かに同情はするが・・・甘すぎるぞ。孫策達も良い顔をせんだろうな」「はは。ま、そうでしょうね。ですが、全権委任とか言って丸投げしてきたのは向こうですからね。文句言ってきたら言い返すだけです。」「そうか。お前がそう言うなら、文句は言わないがな。」「そうしてください。・・・孟節殿」「はい。」「少し時間を頂いて宜しいですか? 返事は明日中にさせていただきます。」「・・・解りました。では、寝所を用意させます。こちらでお休みください。」~~~寝所にて~~~李典、周倉は「疲れたー・・・」とへとへとになり、その様子を見ていた沙摩柯も「やれやれ」と自分の寝所へ向かっていった。この寝所にいるのは高順と蹋頓のみ。「高順さん。あのような条件で同盟と言うのは・・・言いたくはありませんが、少し甘すぎませんか?」「むー。やっぱそう思いますよねぇ・・・」蹋頓が口を尖らせて文句を言うが、彼女がそれをやっても可愛いだけである。「成都を取るまでの間ですよ。今ある脅威を独力でなんとも出来ないから助けを求めているだけです。その脅威を除けば戦力を置かなくてもいいでしょうしね」「それはそうですけど・・・助けを求めるのなら従属という手段もあるでしょう」「同盟を打診したのはこっちなんですけどね。それに、助力をしたなら主導権はこっち持ちです。その後の政治闘争は、そーいうのが好きな人にでもやらせてしまいましょ。その前に、やらなきゃならん事もありますしね」「やる事・・・ですか。」「ええ。まず、こちらに向かわせる予備兵3千に大量の資材と食料を持たせてから向かわせます。ちょっと遅くなりますけどね」「はい? 本当に!?」「本当も嘘もありませんよ。」高順が連れてきた兵士は約4千。そこに加えるので7千の援軍。高順隊の総兵力は1万2~3千なので、6割もの兵を雲南に派遣するという事になる。輜重も含んでの数字なのですべてが戦力という訳ではないが、それだけ孟獲との同盟と意味を重視しているのだ。「向こうの意図がどうであろうと最初から援兵する手筈だったのだフハハァー・・・は、まあ冗談として。・・・よいせっと」なんで悪役みたいな笑い声を上げたかは不明だが、ともかく高順は木簡を取り出す。違う内容の木簡を2枚書き上げており、それを明日沙摩柯に渡すつもりだ。「沙摩柯さんには伝令を2人用意してもらいます。1枚ずつ渡して、一人を黄蓋殿。もう1枚を趙雲殿。」「一応聞いておきますが内容は?」「黄蓋殿には「劉璋との衝突は不可避。しかし文句は言わせない!」で、趙雲殿は「出来るだけ多くの資材・食料を持たせる事。率いる武将は閻柔さんと田豫さん。ついでに麗羽さん一行も連れてきてね」と。」医療物資は大量に必要だろうが、華陀を呼んでいるから消費も抑えられるだろう。彼自身も薬の調合作成を行うので、一石二鳥か。余ったなら雲南の物資として置いておけば良い。麗羽らを呼ぶのは、彼女の運と言うか、物資調達能力を期待しての事だ。留守を預かるのは審配あたりだろう。戦力として考えるのなら顔良と文醜もかなりのもので、損は無い。あとは劉巴充てに「孫策殿に金銀贈っておいてねー」ということも書き加えてある。南蛮との同盟、その条件。それを聞けば孫策は不機嫌になるかもしれないが、全権委任とか言っちゃってるので文句は言いにくいだろう。これ見よがしに「それはそれとして、お受取りください」と書き添えておけば何とかなる。むしろ大喜び。孫策や周喩なら私心なくそれを受け取り、きっちりと目的を持って使用してくれるだろう。無駄な贈り物にはならない。あとは、蜀の連中を警戒させるために孫家の旗たてまくって、とか考えている高順。そんな高順とは裏腹に蹋頓は暇そうであるが・・・いつもだったら蹋頓が性的な意味で誘うところだが、流石に今回はソレをしない。こうやってあれこれと考えているところにソレをするのは野暮だし、ここ雲南には援軍として来たのだ。ヤるなら交趾ですればいいし、それまでにたっぷりと溜めて貰おう(NANIを?)。翌朝。高順と孟節(対外的には孟獲だが)は互いに書簡を交わし、正式に同盟を結ぶ。孫策にも伝令を出し、昨夜に言った通りの処置も行わせ、きっちりと認可を貰う事には成功する。ここで、孫家と・・・いや、どちらかと言えば高順と孟節の同盟が成立した。そんな中での一幕。「おい、ばんぞくおー!」「・・・せめて名前で呼んでいただけませんか、美以さん。」城の中庭。急造の天幕を大量に設置してあるこの場所には、住居を焼け出されたり、負傷をしている兵士達が雨露を凌ぐために集まっている。他の場所にも同様の条件で天幕を仮設してあるが、焼かれた居住区の修復をしなくてはならないので、数は多くない。城の中であっても空いているのなら使ってしまえ、という事だ。つい先ほども高順側が炊き出しを行って、食料を振舞っていたりする。ある程度片付けた後に、高順が美以に呼び止められたという状況だった。「おまい、ばんぞくおーと呼ばれてるからには強いんだろうにゃ!」「・・・いえ、そこまでは強くないですけど。」「にゃはは、けんそんするにゃ! 聞いてみたら、あのつよそーなしゅーそー(周倉)も組み伏せるそうだにゃ!」誰がそんな事を言ったのやら・・・と思う高順だが、言ったのは蹋頓で、しかも寝技的意味合いである。そんなことがお子ちゃまな美以に解るはずもないが、とにかく高順を強いと思っているらしかった。「というわけで、みぃにばんぞくおーの腕前を見せるのにゃ!」「え・・・えぇ?」「にゃははははっ!」美以は勝手に話を進め、独鈷杵(とっこしょ)っぽい得物を取り出した。普通、独鈷杵というものは棒状。中心に柄があって上下に刃が付いているのだが・・・美以の独鈷杵は片側だけに。しかも何故か猫の前足を模した形状。ぶっちゃければ肉球みたいなもんである。叩かれても痛いよりさきに気持ち良い、の一言が来そうな形状だ。「子供だとおもってゆだんすると酷い目にあうのにゃ!」「あー。いや、その。」どうしたもんかな、と戸惑う高順だが、何時の間にやら周りに人が集まっていた。「あら、高順さん。お稽古ですか?」「おいおい、うちらにゃ城門付近の投石機設営やら居住区の片付けやらさせて自分はサボりかいなー?」「何だ、子供相手に大人気ない奴だな。」「お、大将。今度は子供にまで手を出すんすか?」「何か色々酷い言葉が混じっていないか!?」いつもの人々が集まってくる。その中には孟節も混じっていた。「高順様。美以には気をつけてくださいね。」「はい?」「昨日も言いましたが、美以は見かけは小さくとも大人顔負けの実力者です。甘く見ていると痛い目に合いますよ」「へぇ・・・?」一応の警告だが、周倉はそれを笑い飛ばした。「なっはっは。うちらの大将がそんな事わからねーはずないって。言われなくてm「いくのにゃぁーっ!」ゴキッ!「オウフ」解ってなかったぁーーー!!?」一瞬の出来事だった。「いったたた・・・くぅぅ、首が折れたかと・・・」「あれほど用心しろと言われたでしょう?」「いや、あの速さにどう反応しろと。」額を独鈷で打たれた高順は一撃で敗北。油断していたといえばソレまでだが、かなり情けない。その情けない高順は蹋頓の膝枕で、濡れた布で額を冷やしている真っ最中。どうしても情けない。高順を打ちのめした美以は、今は周倉と手合わせをしている。「大将の無念は俺が晴らすぜっ!」「いい度胸なのにゃ!」「いや勝手に殺さないで頂きたい所存ですよ!?」な流れだ。2人の立会いは回りの者も見ているが、高順から見ても中々の好勝負だ。「しかし、あそこまでとは。速さもあったけど、腕力じゃ楽進と良い勝負だよ・・・」あれは本当に強い。試合を見ながらも高順は「蜀の連中を追い返したって言うのは、本当らしいな」と実感する。まだまだ荒削りだが、良い師匠が教えてやれば途方もなく強くなるだろう。そんな高順の胸中を見抜いたか、孟節が「高順様、少し・・・」と話かけてきた。「はい?」「実は、高順様にはもう1つだけ頼みがあるのです。これは、同盟条件ではなく、あれの姉としての頼みです。」「・・・聞きましょう。」孟節は寂しそうに、美以を見つめてから言った。「あの子の・・・次代の孟獲となる美以の後見をお願いしたいのです。蛮族王と称される貴方にしか頼めないことです。」「後見役? まだ貴方が健在であるというのに。俺に頼むべきことではないと思うのですがね。つうか蛮族王はヤメテクダサイ。」そんな呼び名が孫策に伝われば謀反をしようとしているとか言われるかもしれない。本人たちが信じなくても、馬鹿な連中が妙な事を吹き込む事もあり得るのだから。そもそも、王らしいことなんて何もやっていないですよ・・・と、高順は苦りきった表情で呟く。蹋頓は自分が口を挟むことは無い、と高順の額の布を水に漬け直してかけ直している。 それでも孟節は食い下がる。「私がいつどこで死ぬか解りません。その時、あれは本当に一人ぽっちになってしまう・・・。先代孟獲、母が亡くなっても、あの子には私がいました。ですが・・・」「むう・・・。」情理で言えばどう見ても情に動く高順は、こういう手合いの話が苦手である。受けてしまうからだ。高順は助けを求めるような表情で蹋頓を見上げるが、彼女は肩を竦めるだけ。冷たい言い方をすると突き放している態度だ。こういう事は自身で決断をしてもらわなければ困る。どれが正解と言うものではないし、結果的に後悔をするかもしれない。それでも、自分で選び取った決断と結果はこの人の経験となって活きる。だからこそ、他者が口を差し挟む場所ではない。蹋頓はそれを態度で表していた。つもりだが、内心では高順がどう返事をするかも解っていた。後見役になったからと言って、孫家に睨まれる訳でも無し。それも同盟の条件でしたといえば済む事だ。高順は「はぁ~ぁ・・・」と溜息をついてから「解りました、解りましたよ! 受けますよ!」と半ば自棄気味に応えた。「ありがとうございます! 言質は取りました!」「え?」こんな脱力系の流れで、高順は孟獲(美以)の後見に就く。孟獲を高順に預けるという形になる後見は、人質としての役割もある。孫家には逆らいませんよ、というアピールだ。南蛮で「蛮族王」とか呼ばれておかしな形で声望の高い高順が孟獲を支援するとなれば、立場が不安定な孟獲の足場を固めることに繋がる。証拠に、孟節が意図的に「高順が孟獲の後見役になった」と噂を流した結果、多くの部族が(何故か高順に対しても)臣従を申し出てきたのである。その多くが、先代孟獲が亡くなった後に様子見と称して雲南と距離を置いたか、戦力補強の為に離れていった勢力だ。第一洞主、金環三結(きんかんさんけつ)。第二洞主、董荼那(とうとな)。禿竜洞、朶思大王(だしだいおう)。八納洞、木鹿大王(ぼくろくだいおう)。烏戈国、兀突骨(ごつとつこつ)。建寧太守、雍闓(ようがい)。永昌太守、呂凱(りょがい)。他にも高定(こうてい)や朱褒(しゅほう)といった蜀南方の郡太守も混じっている。主に名が挙がっているのはこれくらいだが、彼(女)らは、高順の名を聞いただけで「孟獲に忠誠を誓う」と自分からやって来たのである。高順の後ろに孫家がいることを知っているという事情もあるし、劉璋と孫策のどちらが仕え易く前途があるかと言えば、やはり孫策のほうが有利なのだ。孟節は結果に満足したのか、南蛮王代理の座から降りて美以に南蛮王・孟獲の位と名を継承させている。続々とやって来る各都市・各地の勢力を見つつ、高順は冷や汗を流す。「俺、南中ではどんな人間と思われてるんだろうか・・・」孟節の流した噂がせめてまともなものであって欲しい、と心の底から願う高順であった。おまけ。「ところで孟節殿。」「はい?」「普通にあの子の事を美以と呼んでいますが、真名ですよね? 良いんですか?」「ああ、ソレなら大丈夫です。漢土の風習を取り入れているとは言え、そこまで厳しい事も言いませんし。あの子も、自分のことを美以と呼んでいますし、高順様にそう呼ばれても気にしていないでしょう?」「むぅ。確かに・・・」言われ、高順は美以に目を向ける。「にゃはははははっ!」と、同じ年頃の3人の少女(後で知ったが、ミケ・トラ・シャムという真名らしい)を引っ張りまわして走り回る彼女を見れば、孟獲王というよりは美以、のほうがそれっぽく感じる。「まぁ、まだまだ子供ですからね。」「その子供に負けた俺の立場って・・・」~~~楽屋裏~~~油断しすぎですねあいつです。そろそろ西涼も進めるべきですが先ずこちら。ま、西涼はまたも3行で終わればいいので(オイ)・・・その後はどうしましょうかね。今回、多数の人々の名前がありましたが、雍闓とかは劉備死後の蜀に叛乱した太守、豪族です。なので劉璋と(本来は)関係のない方々ですね。呉の孫権と、その支配下、交州の主であった士燮の説得を受けての叛乱だったようですが・・・この話では孫策、交州の太守(?)である高順を見込んで降伏、という形になりましたね。呂凱は・・・まぁ、劉璋よりは孫策のほうがマシじゃね? と。彼は雍闓の叛乱に加担せず蜀への忠義を通した人ですが、劉璋じゃねぇ・・・~~~ほぼ同時期、潼関~~~馬騰軍と曹操軍は激突。双方全力でぶつかっていた。長年の乱により鍛えられた馬騰軍は、数に勝る曹操軍相手に互角の戦いを見せている。数の差を中々覆せず日を追うごとに劣勢となって行き、馬騰側が篭っていた潼関の北砦を夏侯惇が奪取。最初こそ正面激突であったが、それでは埒が明かないと感じた曹操は、正面戦闘をなるだけ避けて南北の砦の攻略に注視している。馬騰も軍を二手に分けて南北の砦に援護をしていたが数の差を中々覆せず日を追うごとに劣勢となって行き、潼関の北砦を夏侯惇が奪取。曹操側としてはようやくに得られた状況好転の一手・・・と、思われていた。北砦。篭っていた馬玩らの要請により、韓遂が救援に向かったが一足遅かったらしい。数の差と、夏侯惇の攻撃を支えきれず、馬玩は撤退。砦は取られた馬玩は残兵を率いて韓遂と合流することになった。砦に篭っていた兵は2万ほどであったが、連日の戦闘で磨り減り韓遂の率いる兵とあわせれば2万にも満たない。合流自体はできたものの馬玩らは申し訳なさそうにしていた。彼らを組み込んだ韓遂は、かまわん。と一向に気にせず「さて、砦を囲むか」と部隊を前進させていく。ここで、成公英が待ったをかけた。「で、ですがこうなった以上、中央の馬騰様と合流するべきでは」「ん? 逆だ逆。これで良いんだ」「はい? これで良いって・・・」「我々の部隊は2万以下。砦に篭るのは夏侯惇・・・つまり、曹操側の主力部隊。兵数も多いだろうなぁ。」「それが解っていながらなぜ」「北砦にある兵数は3万か4万か。それだけ引き付ければ御の字。でもってその戦力を囲んでしまえば結果上々、さ。」さぁ、夏侯惇と、主力兵・・・少なからず前衛の薄くなった曹操が義姉上、馬超、龐徳の全力突撃をどういなすかなぁ? と韓遂は黒い笑顔を浮かべる。「え・・・ええ!?」「どうした、何を驚く?」「馬騰様、南の砦の援護に向かっておられたのでは? それに、馬超様たちまでって・・・」「行ったが、すぐに戻らせた。南に向かったのは馬岱だけだ。義姉上なら、私が横から口を挟まずとも突撃の機会を逸したりはしない」「で、ですが、曹操ですよ? 夏侯淵もいますし、ソレくらいの備えはしていますよ絶対!」「そうだろうな。だが、あの義姉上だぞ? 馬超と龐徳もいる。今言った通り曹操は南の砦にも手を出しているからな。正面戦闘は小競り合い程度しかない、と層を薄くしたのがそもそもの間違いだ。」以前の事だが、呂布は単騎で黄巾兵3万の軍勢を殲滅したと聞いた事がある。我が友、閻行でも3万は無理だが、ソレに近いことは可能だろう。そして義姉上ならば・・・と思考してまず大丈夫、という結論に達する。曹操にしても正面防御をする兵が少ないのは承知の上。その代わり、前衛では夏侯淵が守りを固め、徐晃、許褚、典韋といった勇猛の士が本陣を守る。武将一人の力量が千万の兵士を上回るこの世界では、これだけで鉄壁の守りと言えし、曹操本人もそれなりの武勇を持つ。多少の攻撃なら跳ね返してみせる・・・と思うのは決して間違いではない。「ふん。夏侯惇がいればともかく夏侯淵だけでは止めることは出来ん。曹操の周りを固める親衛隊はどうするかな? ・・・くくっ。」(こ、怖い・・・)先ほど以上に真っ黒な笑顔の韓遂に、心底震える成公英。「適当にけん制をして、奴らが砦から出にくくすればそれでいい。ある程度のとこで見切りをつけて撤退する。成公英、遅れるなよ」時を同じくして、馬騰は馬超・龐徳と数千の騎兵を従えて、守りの薄くなった曹操軍本陣へと突撃を開始していた。~~~楽屋裏~~~この世界では兵士の力量よりも武将の力量のほうが大事なんですよねぇ・・・張飛なら普通に1万の兵を倒しそうですし・・・力で兵を引っ張る事=統率が高い、がまかり通るなら呂布なんて最強です。夏侯惇も同じタイプなんでしょうね。馬騰さんの突撃は上手く行くのか行かないのか。潼関も終幕が近づいています。3行的意味で。(おい