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No.11290の一覧
[0] 【完結】幼なじみは悪魔の子 (ワンピース オリ主)  [くろくま](2012/05/21 00:49)
[1] 第一部 プロローグ 「異端児」 [くろくま](2010/03/27 22:21)
[2] 第一話 「母親」  [くろくま](2010/01/15 22:03)
[3] 第二話 「慈愛」 [くろくま](2010/01/15 22:06)
[4] 第三話 「訪問者」[くろくま](2009/11/16 22:22)
[5] 第四話 「悪魔の実」[くろくま](2009/10/31 10:08)
[6] 第五話 「日常」[くろくま](2009/10/31 10:15)
[7] 第六話 「別れ」[くろくま](2009/10/30 22:56)
[8] 第七話 「血筋」[くろくま](2009/09/10 19:51)
[9] 第八話 「秘密」[くろくま](2009/09/11 20:04)
[10] 第九話 「どうでもいい」[くろくま](2009/09/11 20:13)
[11] 第十話 「チェックメイト」[くろくま](2009/09/11 20:26)
[12] 第十一話 「最高手」[くろくま](2010/03/13 12:44)
[13] 第十二話 「悪魔の証明」[くろくま](2009/09/11 20:31)
[14] 第十三話 「お母さん」[くろくま](2009/09/11 20:40)
[15] 第十四話 「ハグワール・D・サウロ」[くろくま](2009/09/09 19:55)
[16] 最終話 「if」 第一部 完結[くろくま](2009/09/13 00:55)
[17] 第二部 プロローグ 「二人の行き先」[くろくま](2009/11/16 22:34)
[18] 第一話 「コーヒーと温もり」[くろくま](2009/11/16 22:37)
[19] 第二話 「老婆と小金」[くろくま](2009/11/16 22:47)
[20] 第三話 「遺跡と猛獣」[くろくま](2009/09/22 00:15)
[21] 第四話 「意地と酒」 《修正》[くろくま](2010/07/24 09:10)
[22] 第五話 「意地と賞金稼ぎ」 《修正》[くろくま](2010/07/24 09:06)
[23] 第六話 「意地と残酷な甘さ」 《修正》[くろくま](2010/07/24 09:02)
[24] 第七話 「羅針盤と父の足跡」[くろくま](2009/09/27 02:03)
[25] 第八話 「クジラと舟唄」 [くろくま](2009/10/02 00:50)
[26] 第九話 「選択と不確かな推測」[くろくま](2009/10/05 19:31)
[27] 第十話 「オカマと何かの縁」[くろくま](2009/12/20 00:51)
[28] 第十一話 「オカマとコイントス」[くろくま](2009/12/20 00:52)
[29] 第十二話 「オカマと鬨の声」[くろくま](2009/12/20 00:54)
[30] 第十三話 「オカマと友達」[くろくま](2009/12/20 00:57)
[31] 第十四話 「オカマと人の道」[くろくま](2009/12/20 01:02)
[32] 第十五話 「オカマと友情」[くろくま](2009/12/20 01:02)
[33] 最終話 「洞窟と水面」 第二部 完結[くろくま](2009/11/04 22:58)
[34] 第三部 プロローグ 「コードネーム」[くろくま](2010/01/11 11:13)
[35] 第一話 「再びのオカマ」[くろくま](2010/01/11 11:23)
[36] 第二話 「歯車」[くろくま](2010/01/11 11:29)
[37] 第三話 「あいまいな境界線」[くろくま](2010/01/11 11:46)
[38] 第四話 「裏切り者たち」[くろくま](2010/01/11 11:50)
[39] 第五話 「共同任務」[くろくま](2010/01/11 12:00)
[40] 第六話 「歓迎の町の開幕」[くろくま](2010/01/11 12:16)
[41] 第七話 「歓迎の町の邂逅」[くろくま](2010/01/21 23:38)
[42] 第八話 「旗」[くろくま](2010/02/21 22:04)
[43] 第九話 「虚像」[くろくま](2010/02/07 23:53)
[44] 第十話 「ユートピア」[くろくま](2010/05/30 00:25)
[45] 第十一話 「ようこそカジノへ」[くろくま](2010/04/08 21:09)
[46] 第十二話 「リベンジ」 《修正》[くろくま](2010/03/10 13:42)
[47] 第十三話 「07:00」[くろくま](2010/03/10 17:34)
[48] 第十四話 「困惑」[くろくま](2010/03/10 17:39)
[49] 第十五話 「決戦はアルバーナ」[くろくま](2010/03/10 17:29)
[50] 第十六話 「それぞれの戦い」[くろくま](2010/03/14 20:12)
[51] 第十七話 「男の意地と小さな友情」[くろくま](2010/03/14 20:40)
[52] 第十八話 「天候を操る女と鉄を斬る男」[くろくま](2010/03/27 21:45)
[53] 第十九話 「希望」[くろくま](2010/03/29 21:40)
[54] 第二十話 「馬鹿」[くろくま](2010/04/11 18:48)
[55] 第二十一話 「奇跡」[くろくま](2010/04/12 20:54)
[56] 最終話 「これから」 第三部 完結[くろくま](2010/05/14 21:18)
[57] 第四部 プロローグ 「密航者二人」[くろくま](2010/05/03 00:18)
[58] 第一話 「サルベージ」[くろくま](2010/05/10 23:34)
[59] 第二話 「嘲りの町」[くろくま](2010/05/20 21:07)
[60] 第三話 「幻想」[くろくま](2010/05/28 21:31)
[61] 第四話 「ロマン」[くろくま](2010/05/31 18:03)
[62] 第五話 「雲の上」[くろくま](2010/06/05 10:08)
[63] 第六話 「神の国 スカイピア」[くろくま](2010/06/15 17:29)
[64] 第七話 「序曲(オーバーチュア)」[くろくま](2010/06/24 20:49)
[65] 第八話 「海賊クレスVS空の主」[くろくま](2010/06/26 23:44)
[66] 第九話 「海賊クレスVS 戦士カマキリ」[くろくま](2010/06/30 22:42)
[67] 第十話 「海賊クレスVS神エネル」[くろくま](2010/07/06 05:51)
[68] 第十一話 「不思議洞窟の冒険」[くろくま](2010/07/08 21:18)
[69] 第十二話 「神曲(ディビ―ナコメイディア)」[くろくま](2010/07/17 22:02)
[70] 第十三話 「二重奏(デュエット)」[くろくま](2010/07/24 15:38)
[71] 第十四話 「島の歌声(ラブソング)」[くろくま](2010/08/07 19:39)
[72] 第十五話 「鐘を鳴らして」[くろくま](2010/08/10 12:32)
[73] 間話 「海兵たち」[くろくま](2010/08/10 17:43)
[74] 第十六話 「ゲーム」[くろくま](2010/08/26 05:17)
[75] 第十七話 「昂揚」[くろくま](2010/08/29 07:53)
[76] 第十八話 「偶然」[くろくま](2010/09/06 12:51)
[77] 第十九話 「奥義」[くろくま](2010/09/14 21:18)
[78] 最終話 「過去の足音」 第四部 完結[くろくま](2010/09/21 20:00)
[79] 第五部 プロローグ 「罪と罰」[くろくま](2010/09/30 18:16)
[80] 第一話 「理由」[くろくま](2010/10/06 19:55)
[81] 第二話 「水の都 ウォーターセブン」[くろくま](2010/10/11 19:42)
[82] 第三話 「憂さ晴らし」[くろくま](2010/10/26 20:51)
[83] 第四話 「異変」[くろくま](2010/10/26 20:57)
[84] 第五話 「背後」[くろくま](2010/11/06 09:48)
[85] 第六話 「エル・クレスVSロブ・ルッチ」[くろくま](2010/11/14 11:36)
[86] 第七話 「隠された真実」[くろくま](2010/11/29 03:09)
[87] 第八話 「対峙する二人」[くろくま](2010/12/20 22:29)
[88] 第九話 「甘い毒」[くろくま](2010/12/20 23:03)
[89] 第十話 「記憶の中」[くろくま](2011/01/03 02:35)
[90] 第十一話 「嵐の中で」[くろくま](2011/02/13 14:47)
[91] 第十二話 「仲間」[くろくま](2011/03/20 21:48)
[92] 第十三話 「生ける伝説」[くろくま](2011/05/04 00:27)
[93] 第十四話 「READY」[くろくま](2011/07/16 13:25)
[94] 第十五話 「BRAND NEW WORLD」[くろくま](2011/08/15 18:04)
[95] 第十六話 「開戦」[くろくま](2011/08/20 11:28)
[96] 第十七話 「師弟」[くろくま](2011/09/24 15:53)
[97] 第十八話 「時幻虚己(クロノ・クロック)」[くろくま](2011/11/13 16:20)
[98] 第十九話 「狭間」[くろくま](2011/12/25 06:18)
[99] 第二十話 「六王銃」[くろくま](2012/01/30 02:47)
[100] 第二十一話 「約束」[くろくま](2012/02/22 02:37)
[101] 第二十二話 「オハラの悪魔達」[くろくま](2012/04/08 17:34)
[102] 最終話 「幼なじみは悪魔の子」 第五部 完結[くろくま](2012/08/13 19:07)
[103] オリキャラ紹介 [くろくま](2012/05/21 00:53)
[104] 番外編 「クリスマスな話」[くろくま](2009/12/24 12:02)
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[11290] 第十一話 「嵐の中で」
Name: くろくま◆e1a6eab8 ID:255fd99a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/13 14:47


 ウォーターセブンを襲う<アクア・ラグナ>の被害は過去最悪の様相を呈していた。
 風はうねりを上げ吹きすさび、満ち引きを繰り返す波は目に見える形で確実に強大になっていく。
 海は既に嵐に見舞われ、如何なる船も渡れる状態になかった。
 そんな大荒れの海を、もうもうと煙を上げながら海列車が進んで行く。
 柳のように波に逆らわない線路が海を切り開き、その上を蒸気機関によって車輪が回る。
 伝説の船大工によって作られた船は決して揺るがず、沈まない。
 いつだってそうだ。


 こちらから、海を渡り、向こうまで。


 海に浮かぶ船は必ずその約束を守り通した。
 繋がれ回る外輪と共に、如何なる理不尽をも跳ね除けるように、残酷なまでに約束を守った。
 
 船は進む。
 そして戻らない。

 船は頑なまでに、約束を守る。
 それが最高の船の証だから。 
 











 第十一話 「嵐の中で」













 歯車がかみ合い、時が刻まれるように。
 亡羊とした闇を払い、朝日が昇るように。
 静かに、だが確実に。
 カチリと、どん底のような闇から男は覚醒した。
 

「…………」


 無言のままに、体を起こした。
 直後に襲うのは、無数の手で拘束されるかのような倦怠感。
 筋肉は硬直して鉛のように重く、指先に感覚は無い。肌に張り付いたのはべた付いた血の感覚だ。
 体は明確な危険信号を発していた。しかし、その一切を無視して男は立ち上がった。
 暗転していた視界が、徐々に光を取り戻してゆく。
 取り戻した視界には、予想通りではあるものの、自分でも呆れそうな光景が広がっていた。


 ……少し、血を流しすぎたな。


 自嘲気味に男は鼻を鳴らした。
 先ほどまで男が横たわっていた床には、大量の、致死量一歩手前の血液が溜まっている。
 だが男はそれ以上に頓着することなく、ゆっくりと体の感覚を確かめるように各所を動かす。
 重度の貧血で一瞬目の前が眩み、倒れそうになったが、男は何事もなかったかのようにそのまま歩き始めた。
 コツコツと規則的な足音を地下室に響かせ、おもむろに血によってベタつき重くなった上着を脱ぎ捨てる。
 ぐちゃりと、水分を吸った上着は地面に落ちた。ボロキレ同然のそれはもはや不快なだけで意味をなさない。


「次は無いな」


 呟やかれた声に生気は無く、空寒く響くものの、その声には不屈の意志が灯っていた。
 鈍く燃える熾火のように、男の中に燻る想いは消えはしない。
 歩みを進め、地上へと出る階段を踏みしめた時に男は異変に気が付いた。
 男がいる地下倉庫の上が燃えている。CP9が証拠隠滅を図ったためだろう。
 見上げた階段の先からは、モノが焼ける臭いが嗅ぎとれた。


「ここに誘い込んだのは、そういうことか」


 男はこの地へと自身を誘い込まれた意味を悟った。
 この場所ならば、炎の脅威に晒されることもなく、なおかつ炎が壁となって外敵から身を守る。
 よく考えられた場所だ。


「まぁ、もういい。
 叱るのも、許すのも、全部後だ」


 もう止まるつもりなどなかった。
 目的は見えた。ならば走り続けるだけ。
 迷うことなく男は火の手の上がった上層へと登ってゆく。
 アクア・ラグナの影響により雨が降っているためか、炎の影響は小さくなっているが、その分煙が多い。ほとんど前が見えないぐらいだ。
 火事の際に危険なのは、炎よりも煙の方である。充満する煙は有毒であり、吸い続ければ死に至る。 
 巻き上がる黒煙はまさに煙幕となり、男を阻む壁となって立ちはだかっていた。
 また、この様子では瓦礫なども積みあがっている可能性もある。
 出口はない。
 しかし、男は眉ひとつ動かすこともなく前に進んだ。
 黒煙が覆いかぶさるように男に襲いかかろうとした瞬間、



「───さて、オレの幼なじみはどこへ行ったんだ?」


 
 時は止まり、男───エル・クレスの脚がうねりを上げた。






◆ ◆ ◆


 


 数刻前。


 アクア・ラグナの猛威は、とうとうウォーターセブンの街中にも甚大な被害を与え始めていた。
 上がり続けた水位はとうとう裏町を完全に飲み込むに至り、絶対安全だと思われていた造船ドック近くにまで打ち寄せている。
 今年のアクア・ラグナは異常だ。
 誰もが口を揃えたかのようにそう言う。
 迫りくる大自然の猛威に、小さき存在にすぎない人はどこまでも無力であった。
 そんな嵐の真っ只中のような街を、全速力でチョッパーは走っていた。


「どうしよう……見つからないよ」


 チョッパーの中には焦りがくすぶり始めていた。
 ナミに頼まれていたクレスの捜索がほとんど前進していなかったのだ。
 地価倉庫を探そうにも、船大工たちの話を聞けば、敷地内には数十もの地下室があった。
 おまけに屋敷には火が放たれ、雨によって炎が消えた後も煙が巻き上がり、瓦礫が積みあがっている。
 こんな状態では、地下へと向かいクレスを見つけ出すことは困難を極めていた。
 そんな時、ふと裏町へと目を移したチョッパーはあるものを見つけた。


「……イソギンチャク?」


 なぜかあれほど高かった水位が引き、普段は隠れている島の基盤ですら露呈した裏町。
 その裏町の中にある民家の煙突に、不自然な"足"が生け花のように生え、傍には三本の鞘が同じように突き刺さっている。
 眺めていると、バタバタと抜け出そうともがいているのが見えた。
 なんだろうと、しばし呆然とその様子を眺めていたチョッパーだったが、直後にその正体に気が付いた。


「ゾロォ!!」


 あんな刺さり方をする人間をチョッパーはゾロしか知らない。
 大慌てで裏町へと飛び移り、頭から突き刺さっているゾロのもとへと向かう。
 船大工たちが後ろで「危ないから戻れ!」と叫んでいたが、チョッパーは聞く耳を持たなかった。
 





◆ ◆ ◆






 それと同刻。


 ルフィとゾロを探し回っていたナミもまた、なぜか建物と建物の隙間に挟まりこんでいるルフィの姿を見つけ、裏町へと飛び込んでいた。
 船大工達の静止を振り切り、危険だと分かっている裏町をナミは走る。
 雨にぬれ、滑りやすくなった屋根の上をナミは駆け、ギリギリまでルフィのもとへと近づいた。
 

「ルフィ───ッ!!」


 そして叫んだ。
 こんな時に、呑気に壁に挟まっている船長に。
 ナミは伝えた。
 ロビンは自分たちを裏切ったわけではなかったのだ。
 仲間を助けるために、長年連れ添ったクレスを傷つけてまで止め、一人犠牲になることを選んだ。
 ロビンは仲間の為に死ぬつもりなのだ。
 伝えるうちに、ナミは涙を浮かべた。
 クレスを傷つけた刃は、それ以上にロビンの心を突き刺したはずだ。そしてこの先ロビンには過酷な運命しか待ち構えていない。


「やっぱり、ロビンはウソついてたのか?」


 ルフィはナミに問い返す。
 

「う゛ん!」


 力強くうなずいたナミに、ルフィは呟く。


「安心しろ……ロビンは死なせねェ……!!」

 
 だがその時、ルフィたちの後ろにはアクア・ラグナの脅威が襲いかかろうとしていた。
 数十メートルにまで巻き上がった大波が足元に広がる街をすべてを破壊し、地響きとともにウォーターセブンを飲み込んでいく。
 一刻も早く高い場所へと避難しなければ、飲み込まれていく裏町同様、命はない。
 海賊たちの様子を眺めていた船大工たちが、彼らの命を諦めた、その瞬間。
 

「うおおおおおォオオ!!」


 咆哮とともに、ルフィの全身に力が灯る。
 その瞬間、ルフィが挟まっていた二つの建物がメキメキと悲鳴を上げ、やがてルフィの力に負け、地盤ごと無理やりに傾かされた。
 ルフィは倒壊した建物より飛び出し、ナミを掴み、安全地帯であろう大橋に向けて腕を伸ばした。

 




◆ ◆ ◆





「うわぁあ! どうしようゾロ、もうそこまで波が来てる!!」

「イデデデ! 無理やり引っ張るなチョッパー!」


 ゾロとチョッパーもまた、迫りくるアクア・ラグナの脅威に晒されていた。
 いったいどういった刺さり方をしたのか、いくらチョッパーが引っ張ってもゾロは抜け出すことが出来ない。
 それに加え、すぐ背後に迫りくる高波にチョッパーは完全にパニックに陥っていた。 


「待て、チョッパーお前、もしかして<鬼徹>を持ってるんじゃないのか?」

「えっ? この刀のこと? でもどうして?」


 疑問符を浮かべるチョッパー。
 ゾロは頭から煙突に突き刺さっていて、刀は見えないはずだった。


「そいつだけは妖刀だから分かるんだ。それを貸してくれ」


 運よく煙突より出ていた腕にチョッパーは刀を渡す。
 ゾロは力強く刀を握ると、チョッパーに向けて告げた。


「離れてろ、チョッパー」


 ゾロの指示に従い、煙突よりチョッパーが離れた瞬間、ゾロが妖刀<三代鬼徹>を一閃させる。


 ───三十六煩悩砲!!


 鋭い斬撃が空を駆ける。
 煙突全体に衝撃が走り、次の瞬間には、煙突は唐竹のように真っ二つになっていた。

 しかしゾロを待ち構えていたのは、大自然の猛威。
 ゾロは波の絶壁と化したアクア・ラグナに声を失う。
 

「ゾロ!」


 そんなゾロをチョッパーが掴む。
 ランブルボールによって本来ありえるはずのない変形を遂げたチョッパーは、<飛力強化(ジャンピングポイント)>によって高く舞い上がり、大橋へと向かった。






◆ ◆ ◆

 
 

  
 
 迫りくるアクア・ラグナの中、ルフィとナミ、そしてゾロとチョッパーの四人が同時に大橋に着地した。
 さすがのアクア・ラグナもこの場所までは届かないだろう。
 四人の様子を息をのみ見守っていた職人たちからも、歓声が上がった。
 命からがら、危機を乗り越えたルフィたちも喜びを分かち合おうとして、しかし、自分たちが巨大な影に覆われているのに気が付いた。
 アクア・ラグナの大波はすべての人間の予想を超えていたのだ。
 為す術もなく、四人は大波にのまれてしまった。
 だが、それでもまだ命運が途切れたわけではなかった。
 荒れ狂う波に向かい、四本のロープが伸びていた。


「パウリーさん!!」

 
 その四本のロープを握るのはパウリー。
 海賊たちを助けるために、パウリーは自らの危険をも顧みず大橋へと飛び降りたのだ。
 パウリーはロープの先に確かな手ごたえを感じ、渾身の力で引いた。


「うわぁっ!」


 ロープの先に繋がっていたのは、波に呑まれたルフィたち。
 パウリーによって文字通り、命を繋ぎとめられ、再び四人は大橋の上へと打ち上げられた。
 九死に一生を経たルフィが後ろを振り向こうとしたが、いやようなしに飛び込んできた轟音に倒れこんだナミを担ぎ上げ駆けだした。
 そんなルフィに、同じくチョッパーを担ぎ上げたゾロが続く。


「造船島まで走れ! また飲み込まれるぞ!」


 ルフィたちを助けるために危険を冒し大橋まで下りたパウリーもまた、身の危険を感じ造船島へと走り出す。
 波はあっという間にルフィたちの目前まで迫っていた。
 この波に呑まれれはどう考えても命はない。


「走れ! 走れ! 走れ!」


 自分を、仲間を、奮起させるようにルフィが叫ぶ。
 すぐそばに迫りくるアクア・ラグナはもはや破壊の権化と化している。
 あれほど巨大な大橋ですらアクア・ラグナの前に崩れ去っていく。
 必死で走るルフィたちだったが、無常なことに僅かにアクア・ラグナの方が早い。
 逃げる五人と波の間は徐々にだが確実に狭まっていた。
 その様子を遠方より見守っていた船大工たちは、波の進行速度が五人の速度より早いことを感じ、飲み込まれてしまう姿を幻視してしまう。
 そんな時だった。






「─── 嵐脚“断雷十字” ───」






 未だ残り火と煙が燻る屋敷より、突如、風が舞い込んだ。
 その風は轟音が響く空間において、妙な静寂をもたらした。
 何人かが、その異常な風を感じ背後の屋敷へと振り向く。そして振り向かなかった人間同様驚愕した。
 瞬間、爆発的な衝撃が駆け抜けた。
 まるで静寂をもたらした風を追いかけるように、積みあがっていた瓦礫が天空に向け吹き上がったのだ。


「な、なんだ!」

「爆発ッ!? 何が起こった!!」


 視認した者はいれば、屋敷には十字状の斬撃痕が残されていることに気が付いただろう。
 そして、刻まれた斬撃痕より、赤く錆びた影が彗星のように飛び出した。
 その様子は造船島へと向け走るルフィたちからも確認できた。
 ルフィ、ゾロ、ナミ、チョッパー。その姿を見た四人の海賊たちは、その顔に安堵と喜びを浮かべる。
 


「そのまま走れ。何とかしてやる」



 上空への影は、ルフィたちの状況を一瞬で把握したのか、身を反転させ強靭な脚を振りぬいた。
 直後、無数の斬撃が雨のようにルフィたちを飲み込もうとするアクアラグナに降り注いだ。
 斬撃が波を切り刻む。
 波はまるで巨大な壁に遮られたかのように、ルフィたちに触れる寸前で次々と堰止められた。
 やがて、ルフィ達は安全地帯である造船島へとたどり着いた。押し寄せる大波を斬撃の弾幕が阻みきったのだ。


「ハァ……ハァ……」


 安全な場所に辿り着き、息を切らすルフィたちの前に、影が舞い降りる。
 ルフィはその名前を呼んだ。


「クレスッ!!」


 舞い降りた影───クレスは不気味なほど自然に微笑んで見せた。






◆ ◆ ◆





「酷い傷だ。……クレス、本当に大丈夫なのか?
 その……ロビンのナイフを調べたんだ。そしたら≪アカバラウオ≫の毒が塗ってあったんだけど」


 命からがらアクアラグナより逃げ切り、暫くした時。
 クレスの状態を見て、治療を申し出たチョッパーがためらいがちにクレスに問いかけた。


「ああ。軽く死にそうだが、問題ない」

「問題あるだろそれ!? 本当に大丈夫なのか?
 効力は薄められてるけど、数時間はまともに動けなくなる筈んだぞ?」

「毒なら血と一緒に出した。
 死ぬ寸前まで出し続けてやったから、もうほとんど残ってないだろ。出血の方は心配すんな、もう血は“止めてある”」

「えっ? それってどういう……」

 
 クレスの言葉にチョッパーしばし呆然としていたが、やがてある可能性に至った。
 クレスには一つ青雉との戦いでの、前科がある。
 <生命帰還>。身体を細胞単位で自在に操る技だ。


「もしかして……血液循環を操ったのか?」

「ああ、いつの間にか出来るようになってた。
 血液循環、体温調節みたいな内面的な事だけじゃなくて、今ならほら―――」


 クレスがチョッパーの前に腕を伸ばす。
 その様子に、チョッパーだけでなくルフィ達も注目する。
 するとその瞬間、クレスの人差し指の爪が、バネ仕掛けのナイフのように鋭く伸びた。


「うおおおお! かっけェ!」

「スゲェ! なんじゃそりゃ!」


 チョッパー、ルフィと、一味より歓声が上がった。


「とまァ、外面的なもんも出来るようになった訳だ」


 どうでもいい事のようにクレスは爪を元に戻し、一味全体に視線を向けた。
  

「さて、落ち着いたようだから……何から話そうか」


 クレスはゆっくり口を開いた。
 一味も流石にクレスの纏う空気が変わった事に気が付いた。
 話さなければならないことが多くあり、知らなければならないことも多くあった。


「まず聞くが、どのあたりまで知っている?」


 各々に地面に座る一味にクレスは問いかけた。
 そんなクレスに、ナミがアイスバーグより聴いた≪真実≫を告げる。
 

「……成程、驚いた。なら、事情の説明は不要だな」


 如何なる偶然か、生き残ったアイスバーグより一味は真実を知るに至っていたのだ。
 しかも既にサンジが行動を起こしており、ロビン救出のために動き出していると言う。
 手間が省けたと、クレスは息を吐く。


「で? だいたい想像はつくが、お前はここ数日何をやっていたんだ?」


 ゾロの問いに、クレスは姿を暗ましてからの自身の行動を話した。
 四人は多少は驚いていたものの、クレスの行動原理は理解していたので、すんなりと受けとめていた。
 

「ロビンが絡むと、相変わらず無茶すんのね」

「無茶はお互い様だ、航海士。
 お前らこそ、よく屋敷に来る気になったな」

「私たちだって、あんな別れ方されれば、多少の無茶を起こす気にもなるわよ」


 当然のようにナミは言う。周りの三人も同じようだ。
 クレスは一瞬だけ表情を崩した。だが、誰にも悟られる事なくいつもの表情に戻した。


「聞くが、お前達はこれからどうするつもりだ?」

「決まってるじゃねェか。ロビンを奪い返しに行くんだ」


 クレスの問いに、ルフィは即答した。

 
「……そうか」


 クレスはそれだけ呟くとゆっくりと立ち上がった。
 

「オレも同じ考えだった」
 
「なら、追い掛けるには船が必要だな」


 拳を鳴らしルフィは闘志を燃やした。
 だが、ここでも問題が立ちはだかった。
 今の海は如何なる船も運航不可能なほどに荒れているのだ。
 この波を唯一越えられるとすれば、伝説の船大工が作った<海列車>だけ。だが、その海列車もロビンを乗せエニエスロビーへと向かってしまった。 
 だが、助け船は意外なところより現れた。


「ウィ~~ヒック! そろいもそろって、命知らずのバカたれ共だね。全く、おめぇらは死ににいくようなもんさ」


 船を奪ってでも海に出ようとする一味の前に、酒瓶を傾けながらココロが歩み寄る。
 楽しげなでありながら、妙に理性を灯した目で、ココロは一味に告げた。


「出してやるよ、海列車」






◆ ◆ ◆






 そこはウォーターセブンのごみ処理場近くに作られた、煤汚れた秘密基地のような倉庫であった。
 海列車を出してやると言ったココロは、ロビン奪還に燃える一味をこの地へと案内した。
 そして、この場所にはココロの言葉通りのモノがあった。


 暴走海列車<ロケットマン>。

 試作品として作られた、サメのヘッドの海列車だ。
 開発段階において、どうしても速度を抑えきれずに「暴走」してしまうためにこうしてお蔵入りとなった逸品だと言う。
 もう12年も動かさないままであったが、この船がアクア・ラグナを超える事の出来る唯一の希望であった。


「速やそ~~~!!」


 デザインが気に入ったのか、ルフィとチョッパーは早速目を輝かせている。
 その後ろを海列車を眺めながらクレスが歩く。
 海列車は今の今まで運航していたかのように、熱を持っており、古びていながらも確かな力強さを感じた。


「良かったわね、クレス。これでロビンを追いかけられる」

「……ああ、そうだな」 


 嬉しそうなナミの声に、クレスは短く答えた。
 妙に淡白なクレスにナミが問い返す。


「どうしたの、そんな浮かない顔して? やっぱりロビンが心配なの?」

「まぁ、そんなとこだ」


 どこか考え込むようなクレスの前で、海列車の機関室の扉が開く。
 そこから工具箱を手に持ったアイスバーグが顔を出した。


「アイスのおっさん!」

「よく無事ったな、麦わら。
 海賊娘の言った通りだ。ここへはココロさんが連れて来たのか」

「命はあったようらね、アイスバーグ。おめェなにしてたんらい?」


 酒瓶を片手にココロがアイスバーグに近付く。
 アイスバーグはココロへと視線を向け、


「アンタと同じさ。───バカはほっとけねェもんだ」

「んががががが!」


 アイスバーグの言葉にココロは陽気に笑った。


「使え」

 
 アイスバーグは海列車を指し、ルフィに向け言った。


「整備はもう済んでる。水も石炭も積んで、今は蒸気を溜めているところだ。すぐにでも出発できるだろう」


 アイスバーグは重そうな工具箱を降ろすと、倉庫の木箱に座りこんだ。
 その顔は疲れが見えるものの、どこか誇らしげだ。
 職人の意地か、重体である筈なのに、完璧に整備をしきったのだろう。


「だが、喜ぶのは生きられてからにしろ。
 この<ロケットマン>は<パッフィング・トム>以前の失敗作だ。振り落とされるなよ」

「それでもいいよ。ありがとう、アイスのおっさん!」


 ルフィは嬉しそうに心よりの礼を述べた。
 

「一つ聞くがいいか?」


 そんな時、クレスが口を開いた。
 アイスバーグはクレスへと視線を向け、何かを言いかけたが、結局「いいぞ」と短く返した。
 おそらく、ロビンと行動を共にしてきたクレスに何かを聞こうとしたが、今はその時ではないと思ったのだろう。


「この列車はどのくらいの速度が出せる?」

「さァな、取りつけた速度メーターを振り切っちまう事もしばしばだから、正確にどこまで出せるのかは分からねェ。ンマー、追いかける立場としては申し分ねェだろう」

「前を行く政府専用便に追いつくことは?」

「さすがにそれは無理だろう。スタート地点が違う」

「……そうか」


 つまり、ロビンを取り戻すための戦場は世界政府の中枢<エニエスロビー>となると言う事だ。
 僅かにクレスの表情が曇った。
 

「他に聞きたいことはあるか、エル・クレス?」

「いや、無い」


 そしてクレスは考え込むように口を閉ざした。
 先程よりどこか様子がおかしいクレスを不審に思い、ナミが再び何かを問いかけようとしたが、


「待ってくれ! 麦わら!!」


 その寸前で正面入り口にフランキー一家の姿が現れた。
 フランキー一家とはウソップを巡った、因縁がある。
 面倒になったと、一味が身構え、邪魔をするなら吹き飛ばすつもりでいると、意外なことにリーダー格の男が膝をついて頭を下げた。


「頼む! おれ達も連れて行ってくれ!
 エニエスロビーに行くってガレーラの奴らに聞いた! 
 俺達もアニキが連行されちまってるんだ! 追いかけてェけど、アクア・ラグナを越えられねェ! 
 頼む、バカな事言ってるって自分でもわかってる! だけどお願いだ! アニキを助けてェ! おれ達も乗せてくれッ!!」


 フランキー一家は、全員頭を下げた。
 理由は言葉通り、アニキ───フランキーの為だろう。おそらく全員が何かしらの恩を感じているのかもしれない。
 だが、フランキー一家と一味との間にどうしようもない確執がある。
 しかし、ルフィは、


「いいぞ、乗れ!」


 力強く告げ、決断を下した。
 フランキー一家は床にこすりつけるように再び頭を下げた。
 

「すまねェ! 恩に着る!!」


 そして涙で濡れた顔のまま、立ち上がり、走りだした。
 フランキー一家はキングブルで海に飛び出し、無理やりに海列車の後ろに掴まるらしく、一味に礼を述べながら準備の為に倉庫を出ていった。






◆ ◆ ◆






 そうして、全ての準備はそろった。
 気力は充実、食料も積み込み終わり、戦闘準備は万全だ。
 後は、エニエスロビーにて仲間を取り戻すため大暴れすればいいだけだ。


「それじゃ、行くか」


 一味はルフィを先頭に海列車へと乗り込もうとする。
 海列車の車両の扉へと手をかけるルフィ。
 だが、その瞬間、飛来したサバイバルナイフが扉に突き刺さった。
 

「なっ!?」


 驚き、ルフィはナイフの飛来した方向へと振り返る。
 そして目を疑った。
 だが、間違いは無かった。


「何のつもりだ、クレス!!」

 
 ナイフを投擲した腕をゆっくりと、クレスは下ろす。
 その視線は底冷えするように冷たい。何かを押し留めるようでありながらも、どこまでも残酷なものだ。


「悪いが、お前らを乗せるわけにはいかない」

「てめェ何をトチ狂ってやがる!」

「意味もなくやっている訳じゃないさ、ロロノア。
 お前らの気持ちも嬉しく思うし、嘘や偽りが無い事も分かる」


 剣呑な空気を察し、ゾロは刀に手をかけた。
 気にせずクレスは続ける。


「だからこそだ。
 お前らの存在は、メリットより、デメリットの方が大きいんだよ」


 クレスは凍りつかせたような無表情のまま、一味全員に告げた。
 





「お前らだけは、<エニエスロビー>に行かせる訳にはいかない」












あとがき
お久しぶりです。申し訳ないです。
リアルが忙しすぎてなかなか書き進める事ができませんでした。
なるべく時間を見つけ、書き続けたいと思います。
次も頑張りたいです。ありがとうございました。


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