「ひっ! ひぃ!!」
半壊した海賊船の上で悲鳴が上がる。
散乱した木片に、まだ新しい赤いシミが付着した。
悲鳴を上げ、また一人海賊が崩れ落ちる。
その胸にはただ一点弾痕のような傷があった。
「殺しはせんよ。貴様なんぞ殺す価値もない」
男がいた。
整えられた髪に顔の左側にある巨大な傷が特徴的な男だ。
男は腕ををまるで刀のように一振りして指先についた血液をとばす。
「まぁ生きる価値があるかと言えばそうでもないのだがね。
………そうは思わないか?」
「ふざけんなこの化け物が!!!!」
海賊は怒りと共に手に持った銃の引き金を引く。
「………優雅ではないね」
放たれた弾丸は男へとまっすぐに飛び直撃する。
だが─────
「鉄塊」
───男を貫くこと無くはじかれた。
「まただ!!また鉄みたいに硬くなりやがった!!」
「クソがっ!!これが悪魔の実ってやつか!!」
「別に私は悪魔の実など口にしてはおらんよ。ただ───」
男はゆっくりと後ろに振り返り、腕を無造作に差し出した。
その直後、その腕に向けて巨大な鉄斧が振り下ろされる。
「────厳しい鍛錬の果てに身体を鉄の硬度まで高める術を身につけたのだよ」
斧を受け止めた腕から甲高い、
まるで金属同士がぶつかり合うような音が響いた。
「もういいだろう。こう見えても私は忙しい身なのだよ。
これからとある島に向かわねばならないのだ。
直ぐに終わらせるつもりだから、そうだね……
─────────────────────────せいぜい絶望したまえ」
第3話「訪問者」
「六式」というものがある。
海軍に伝わる体術で、
「剃」
「嵐脚」
「月歩」
「紙絵」
「鉄塊」
「指銃」
の六つからなる体技だ。
だがそれらを修めるには超人的な身体能力と苦行にも似た修練を必要とし、六つ全てを修めた者の戦闘力は海兵の軍団にも勝るらしい。
なぜオレがこんな話をするかというと……………
「やはり私の目には狂いはなかった。この体技は君のような男に相応しい
……………さぁ! 私と共に鍛錬を始めよう!!」
顔の左側に大きな傷のある厳ついオッサンに勧誘されているからだ。
誰だよアンタ?
別に六式なんて興味ねー
てな感じで無視して
今日の夕飯は何だろう?
ロビンはまた難しそうな本読んでんだろうな……
と思いながら家にたどり着いたら………
さっきのおっさんがテーブルで母さんとロビンと楽しそうにお茶を飲んでいた。
「あぁ、お邪魔しているよクレス君。
いやぁ……シルファー殿の煎れるお茶はまた格別だねぇ」
「なんでだよ!!?」
というか何時の間に先を越されたんだ?
「先程は悪かったね。
タイラーにそっくりな子供がいたのでつい興奮してしまったのだよ」
はっはっはと快活にオッサンは笑う。
話を聞くと父さんの知り合いらしい。
「おっと!こちらだけが君の名前を知っているというのも失礼な話だね」
するとオッサンは立ち上がり厳つい顔に似合わず優雅に一礼する。
「リベルだ。海軍本部の少将を勤めている。
君のお父さんの上司だった者だよ
……まぁ、今ではタイラーと階級は同じになってしまったがね」
「リベルさんはタイラーさんのお師匠さんだった人なのよ」
母さんが笑顔で補足する。相変わらず父さんの話をするときは嬉しそうだ。
「はい、クレスお茶」
呆然としているオレにロビンがお茶を差し出してくれる。
おをこぼさないように慎重に差し出す姿はものすごい可愛らしい。
……あぁお茶がうまい。
「ありがとう。ロビン」
「どういたしまして」
ロビンは嬉しそうにはにかんだ。
ああ、和む
「…………それにしても、
海軍の本部って言ったらグランドラインのど真ん中あるんですよね。
よくこんなとこまでやってこれましたね?」
オレは率直に疑問に思ったことを言ってみる。
オレが身につけた知識では、オレのいる西の海やほかの三つの海とは違ってグランドラインは魔境とも言うべき海である。
それに加えて凪の帯と言う大型の海王類の巣によって挟まれているので、よっぽどの事がない限りグランドラインから出る事は出来ないはずなのだ。
「なに、そう大変な事でもない。
この地へ向かう政府の船に護衛として乗せてもらったのだよ」
「……………………」
「政府の船だからってここまでこれるもんなんですか?」
「………我々には安全に凪の帯を渡る術があるのだよ。
もっともさすがに完全ではないがね」
「………海楼石ですか?」
「さすがはシルファー殿、博識ですな」
「海楼石?…………どっかで聞いた気が………」
「固形化した海と言われる鉱物のこと、
確か悪魔の実の能力を封じる力があるんだよ」
「ほぅ………。そちらのお嬢さんはその年でなかなかの聡明さだね」
「あっ……ありがとうございます」
「ふふ……ロビンちゃんは考古学者のたまごだものね」
「それはまた素晴らしい。君ならきっと立派な考古学者になれるはずだ」
「はい!がんばります!」
元気よく返事を返すロビン。
ロビンの夢は考古学者になってオルビアさんの手伝いをする事だそうだ。
やはりというべきかロビンはオルビアさんの影を追っている。
それを喜ぶべきなのか悲しむべきなのかわわからない
………だけどオレは応援しようと思っている。
まぁ、オレなんかが応援しなくてもロビンなら大丈夫だろう。
というかロビンなら後三、四年くらいで博士号の試験を突破しそうだ。
「……本題から逸れてしまったね。話を戻そうか。
私がグランドラインからここまでやって来たのは、奴との約束を果たすためだ」
「……約束……ですか?」
「あぁ、たわいないものだが、私には全てにおいて優先されるべきものだ」
リベルは滔々と懐かしむように語る。
「私が奴と約束したのは
この自由で野蛮な時代を生き抜けるように
────奴の息子を強く鍛えるというものだ」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「…………………へっ?」
えっ、オレっすか?
「タイラーさんがそんなことを…………」
「クレス強くなるの?」
「あぁ、かつてのタイラーのように私が師事するのだ間違いない」
「よかったわねロビンちゃん。クレスが強くなって私たちを守ってくれるわ」
「クレスありがとう。がんばって!!」
いや 、待って
……オレ一言も「やる」とは言ってないけど、
というかロビン止めて、その期待するような笑顔、
ものすごい断りづらくなるから。
「──実はこれはタイラーからの遺言のようなものなんだよ」
「タイラーさんっ!!」
「おばさま泣かないで!」
バカヤロー!!!
逃げ道塞ぎやがった。
オレここでやりませんとか言ったら最低じゃねぇか!!
「……とは言っても、本人がやると言ってくれなくては始まらないのだがね」
それを言うのが遅いわ!
そんな期待するような目を向けやがって、
この状況でオレの出せる答えなんて一つしか無いだろうが!!
かくしてオレはリベルから六式を習うことになってしまった。
……………これからどうなることやら
あとがき
オリキャラ登場です。
すいません。
六式です。
ごめんなさい。
実を言うと主人公に悪魔の実を食べさせることは、
………あまり考えていませんでした。
少なくとも幼少期の時点では、
………食べないかもしれません。