「お久しぶりねい!!! ジョーカーちゃんにサンデーちゃん!!! 今日はどうしたのう!!?」
アラバスタのとあるホテルの一室。そこに、クレスとロビンそしてベンサムの三人は居た。
「近くに寄ったからお前の顔を見に来た……と言いたいとこだが。悪いな。任務の受け渡しだ」
クレスがそう言い、ロビンがベンサムに書状を受け渡す。
「あらそう? でも、全然構ーわないわよう!!
でも、珍しいわねい? 書状の受け渡しくらいなら、別にあんた達がわざわざ出張る必要なんて無いんじゃなーい?」
「いや、そうでもないんだよ」
「指令に目を通してみて」
ロビンに促され、ベンサムは手渡された指令書に目を通す。
そこには、機械的な筆跡でこう書かれていた。
『Mr.2 ボンクレー。貴公に任務を与える。
今回の任務は、貴公の能力でとある要人をコピーすることだ。
詳細はこの指令書の受け渡し時に口頭にておこなう。』
「あん? つまりこの説明の為にやって来たのねい」
「いや、それだけじゃないぞ」
「続きを読んでみて」
『この任務は我が社にとって最重要任務となる。失敗は決して許されない。
なお、貴公のサポート役としてミス・オールサンデーを派遣する』
「あらそうなのう!!?」
「そういうことだ」
「あらん? でもこれだとジョーカーちゃんの名前が無いわよう?」
「まぁ、それは仕方ないだろ。オレの立場はミス・オールサンデーの私兵だからな」
クレスの立場はは公式にはロビン個人の私兵となっている。
指令書に名前が無いのは、正式にバロックワークスに所属している訳ではないためだ。
「じゃあ、今回はこの三人での任務になるのねい。あちしゾクゾクしちゃう!!! んー!! ノッッて来たわ!!! あちし回る!!!」
ベンサムはハイテンションで、いつものバレエっぽいポーズを取ると、つま先立ちでクルクルと回り出した。
うっとおしい事この上ないが、長い付き合いなので特に気にしない。
「で? 早くおーしーえーなさいよう!! その任務の事!!」
第五話 「共同任務」
アラバスタ王国の首都アルバーナには荘厳な宮殿がある。
周囲を城下町ごとそびえ立つ台地の上に造られ、高い城壁によって守られる、歴代の王が代々居を構えた四千年もの歴史を持つ由緒正しいき宮殿だ。
その、巨大なたたずまいは見る者全てに圧倒的な権威を見せつける。
しかし、一見華やかに見える王居だが、その外見とは裏腹にその内部での生活は国民たちと同じように切り詰められている。
まずは、切り詰められるところから切り詰めなければならない。これは、国王コブラの意向だ。
今までそうして己の身を削り国民達に尽くしてきたのだ。
だが、度重なる反乱によって国力は疲弊し、国力は相当衰えた。
もとより豊かではあるが、裕福な国では無かった。
代々に渡り善政を布いてきたおかげか、国民からの信頼も厚く国としては安定していたが、アラバスタの産業の全てはアラバスタの広大な自然の影響を受ける。
よって、国はいつもどこかしらに問題を抱えていた。
しかし、その全ては決して人には操る事の出来ない天候の導きなのだ。
そしてそれは、アラバスタという国が長年に渡り守り抜いて来た不文律でもある。
だが、その法則が破られた今、国は乱れていた。
「国王様。出立の準備が完了いたしました」
国王コブラは王宮の自室において、忠臣であるぺルからの報告を聞いた。
「うむ」
部下からの報告に、コブラは頷く。
その表情に刻まれるのは確かな威厳と隠された苦悩だ。
そんなコブラにぺルは沈痛な面持ちで続けた。
「申し訳ございません。今日は王妃様のご命日であるというのにこのような……」
「よいのだぺル。むしろお前達には感謝しているくらいだ」
コブラは窓から外の景色を眺める。
王居アルバーナは分厚い雲に覆われてた。本来なら天の恵みと感謝を捧げる筈の雨雲だ。
しかし、ダンスパウダーにより無理やり作られた雨雲から降り注ぐものは、アラバスタという国の血にも等しい。
この雨が王都のみに降り注ぐ度に、アラバスタが朽ちていく。
「いえ……。せめて、今日だけは心安らかにあって欲しい我々の願いでもあります」
「……そうか。ならば余計に礼を言わねばなるまい」
「コブラ様……」
ぺルはコブラの心を慮る。
現在の国内の混乱は決して、国王に責任は無い。
不確かな情報が錯綜する中で副官であるぺルはその事だけは確信していた。
それに、現在国王コブラが抱えている問題は内乱の事だけでは無い。
忠臣である護衛隊長のイガラムと王女であるビビの突然の失踪も国王コブラの苦悩の一つだ。
これは何も、コブラだけに限った問題では無い。
二人の事だ。なにか誰にも言えないような手がかりを掴み、王国のために動いているに違いない。
しかし、信頼と人望に厚い二人の失踪は王宮に確かな影を落とした。
ぺルはこれ以上言葉を重ねても無駄なだけだと悟り、事務的に連絡をおこなった。
「本日はチャカを王宮に残し、私と厳選した部下数人によるお忍びという形となります。申し訳ありませんが、警備の都合上あまり多くの時間は取れません」
「構わん。お前達の好意に感謝する」
国王からの言葉にぺルは身を低く下げた。
王妃ネフェルタリ・ティティは王宮から西にある葬祭殿において永き眠りについていた。
だがそれとは別に、国王たっての希望で首都アルバーナから少し離れた場所に位置する小高い丘に小さな墓石が建てられており、王妃の命日にはこの丘を訪れるのが恒例となっていた。
本来なら、堂々とそれも護衛をつける必要が無いくらいに気楽に迎える場所である筈なのに、今日は王宮の裏門から武器と警戒を持って出立した。
アルバーナの城下町に出るも、お忍びであるがため、馬車で雨の中を隠れるように移動した。
数年前までは、王族と国民達が垣根無く触れ合っていたのが嘘のようだった。
壊れていく祖国を目にしながらも何も手を打つ事が出来ない。それがぺルには歯がゆかった。
数刻の後に、目的地へと辿り着く。
丘は柔らかな風と花が咲き乱れる美しい場所だ。王妃はアラバスタが見渡せるこの場所を特に気に入っていた。
しかし、雨の降りしきる今日は視界を覆われ、花も雨によって涙を流すように濡れていた。
「どうやら、人影は無いようです」
偵察に行かせた部下からの報告を聞き、ぺルは国王へと告げる。
部下からの報告にぺルは胸を撫でおろしていた。
もし、ここに反乱軍がいれば今日の予定はは中止し引き返すしかなかった。
国王はぺルからの報告を受け、馬車から雨の降る外へと降り立った。
ぺルが国王を気遣い傘を差し出すが、王は首を横に振った。
「……今日は雨に打たれたい気分なのだ」
「……御心のままに」
丘を少し登れば、辺りは綺麗に整理された空間へと変わった。
「すまんが一人になる事は可能か?」
本来ならこの質問には首を横に振りたいところだ。
国王の身を案じれば、常に傍にいて周囲に目を光らせたい。
しかし、国王の心を気遣うのも臣下としての務めだ。
「少しの間なら可能です。入り口は兵士たちに見張らせ、私は上空から周囲の警戒を行います」
「……わかった」
途中まで臣下達の連れ添いで歩き、コブラは妻の墓前へと続く手前で一人となった。
墓の向うは崖となっていて、妻の好きだった景色が広がっていた。
臣下達は少し後方で待機している。もしこの身に何かあったとしても、臣下達は優秀だ。直ぐに駆けつけてくるだろう。
コブラは丘の上に造られた小さな───とても王族の墓とは思えない───墓石の前に雨に打たれる事にも構わずに立った。
「私は国王として失格なのかもしれんなァ……」
それは、臣下達の前では決して見せない夫としての顔だった。
「何者かによる謀りか知らんが……アラバスタの混乱を納められないのは王である私の責任だ」
今は亡き妻の墓前でコブラは雨に打たれ続ける。
「挙句の果てに、ビビやイガラムまで行方知らずだ。
娘に負担をかけるとは……父親としても失格なのだろう」
コブラがこうして無防備に雨に打たれている瞬間にも、アラバスタは雨を求めて枯れていく。
当然出来る限りの策は打った。しかし、現状はそれを上回るスピードで悪化していく。
それが、今のアラバスタだ。
「こうして、お前に会った第一声が愚痴では、……男としても失格なのかもしれん」
コブラは自嘲するように笑った。
妻の前で王としての仮面を捨てたコブラの笑みは、恒常的な不眠と疲れもあって、どこかやつれた男の笑みだった。
「だが……」
コブラの表情が変わる。
やつれた男からやさしき夫へ、やさしき夫から威厳あふれる王へ。
綿々と受け継がれる、アラバスタ王位を受け継ぐ者。
ネフェルタリ家第十二代国王コブラへと変わる。
「私は守ってみせる。この国を。
国とは人なのだ。その根幹である国民を守らずに何が王か……!!」
コブラは墓石へと背を向けた。
もう言葉は必要なかった。
次に訪れる時は、偽りでない本物の雨を取り返すと誓う。
コブラは威厳に満ちた一歩を踏み出す。
短いがこれで十分だ。これで王としてまた采配が振るえる。
国王は雨の中を構わずに進む。
「────もう行くのか? もう少しゆっくりしていけよ」
「!!?」
突如、誰もいない筈の背後から振りかけられた声。
コブラは驚き、もう振り返る必要はないと思っていた妻の墓前へと目を向ける。
「はじめまして国王様」
そこにいたのは、口元を覆面によって隠した男だ。
露出しているのは夜のような黒い瞳とパサついた黒髪だけだった。
「何者だ貴様……!!?」
「『何者だ』……か。
まぁそうだな……端的に言えば────」
男は腰元に下げられたサイドバックから、銃を取り出すとコブラに向けて構えた。
「────アンタ達の敵だ」
そして、男は引き金を引く。
撃鉄が降りる。
ぶれる事無く構えられた銃口から弾丸が放たれた。
◆ ◆ ◆
銃声より少し前。
その衝撃は突然兵士達を襲った。
王の護衛のために派遣された兵士達。
彼らは当然己の全力を持って警戒に当たっていた。
しかし、その衝撃は全くの想定外だった。
兵士達は辺りの警戒を怠っていなかったにも関わらず、全員が同時に崩れ落ちた。
誰一人として、その衝撃を受けた瞬間まで、気付かなかった。
それは確かな事実。何者かによる襲撃を受け、恐ろしく的確に関節を極められたのだ。
しかし、それも既に遅い。彼らは己に何が起こったのかを知った瞬間には既に手遅れだったのだから。
兵士たちは全員崩れ落ち、誰一人立ちあがれなかった。
◆ ◆ ◆
降りしきる雨の中、一発の銃声が響いた。
それは、雨の音にも消されること無く、不気味な響きとなってぺルの耳に届いた。
「まさか……!!」
ぺルは悪魔の実< “トリトリの実” モデル “隼(ファルコン)” >の能力者だ。
動物系のこの能力によって、ぺルは巨大な隼へと姿を変え、空から周囲の警戒を行っていた。
その時に聴いた銃声。ぺルはそれを最悪の事態と判断した。
「くっ……!!!」
巨大な羽をはばたかせ無理やり方向転換を果たす。
そして、己の全力を持って、国王のもとへと駆けつけた。
ぺルは己の愚行を呪う。
いつもとは少し違う国王の様子を思い、国王の方向を見ないように気を使った。今回はこれが仇となったのだ。
一瞬で最高速へと達し、隼は空を駆る。
風を切り裂くようなスピードで、瞬く間に国王の元へと辿り着いた。
「あれは……!!」
ぺルの目に映るのは、倒れ伏す兵士、膝をつく国王と、銃を構える覆面の男。
「コブラ様ァ!!!!」
それを見て、ぺルは両翼に吊り下げたガトリングガンの引き金を引いた。
ズドドドドドドド……!!!
雨のように放たれる弾丸は、国王と覆面の男の間に突き刺さる。
放たれる弾丸に覆面の男は後ろに飛びのいた。
その隙に、ぺルは国王を安全な場所に避難させようと羽ばたく。
しかし、覆面の男はぺルを阻むように動く。男は後退の着地後、爆発的な速度で地面を蹴り、ぺルを阻む。
ぺルは国王の救出を断念し、男を迎え撃った。
男とぺルが交差する。一瞬の攻防。しかし、天秤はどちらにも傾かなかった。
「コブラ様お怪我は!!?」
ぺルは膝をつく国王を守るように<獣形態>から<人間形態>に姿を変え、立つ。
覆面の男はぺルを見ても表情を変えない。
男は手に持ったまだ温かい銃身を腰元のバッグにしまうと、ジリ……と地面を踏みしめるように足を滑らした。
「幸い怪我は無い。それよりもぺル。前の男を……!!」
「御意!!」
国王の命を受け、ぺルは覆面の男に向かい地面を蹴った。風のように男に接近し抜刀する。
間髪入れぬ、見事な攻撃。
しかし、男はぺルとの間合いを見切り、一歩後ろに下がるだけで、いとも簡単にその一撃を避けた。
「甘い!!」
しかし、ぺルはそこからさらに一歩踏み込んだ。
王国最強戦士ともてはやされるその実力は伊達では無い。
ぺルは踏み込んだ一歩を起点として回転する。抜刀の勢いをそのままに男に向けて先ほどよりも強烈な一撃を叩きこむ。
回避不能の横なぎの一閃。剣閃は男に吸い込まれるように向かい、
ガン!! という金属同士をぶつけあったような音がした。
「なにっ!!?」
ぺルの一撃は覆面の男の鋼鉄のように硬い腕によって受け止められていたのだ。
「へぇ……思った以上だ」
男はぺルの剣先を腕を振り払い反らす。
ぺルは得体の知れぬ男に警戒するように、剣を構え直した。
対峙する男は緩やかに、全身を動かすと突然ピタリと硬直する。
「思った以上に……」
男が言葉を発すると同時にぺルの全身がざわついた。
「────!?」
長年の鍛錬の賜物かぺルは感じたままに剣で身を守る。
一瞬にして男の姿が掻き消え、気がつけば握った剣に吹き飛びそうな程の衝撃が訪れた。
遅れて、その状況を把握する。男は一瞬にて眼前まで移動し一撃を繰り出したのだ。この時、ぺルが攻撃を受け止められたのは奇跡に近かった。
そして、男はギリギリ……と想像以上の膂力を持ってぺルを圧する。
「思った以上に───弱い」
なんてな……。と覆面越しに、二ヤリ……と笑う男。
挑発だと分かっていても、男の言葉に全身の血が沸騰する。
だが、ぺルは屈辱ともいえる男の言葉に冷静に耐える。
これは、自分一人だけの戦いでは無いのだ。後ろには守るべき王。そして、負けは許されない。
ぺルは男の一挙一動に集中し次の攻撃に備えた。
常時なら、空中へと舞い上がるのだが、王が後ろにいる状況ではそれは不可能だ。
同じく王を連れ離脱する事もだ。隙を見せれば一瞬で倒されるだろう。
男は強い。おそらくぺル自身よりも。だが、やるしかないのだ。
「大丈夫ですかぺル様!!」
そこに新たな声が生まれた。
声の主は王国の兵士だった。おそらく、銃声を聞きつけやって来たのだろう。
「ちっ……面倒な」
男は援軍がやって来たのを見ると後ろへと大きく飛びのいた。
そして、王妃の墓を飛び越え、切り立った崖の下へと姿を消した。
「くっ……!! 待て!! 貴様ァ!!」
男を追おうとするぺル。しかし、ぺルはその足を止めた。
男が単独である可能性は無い。軽率に動いて男の仲間が現れれば敵の思うつぼだった。
「ぺル様いったい何が!!?
それと何故国王様が何故ここにいらっしゃるのです!!? 」
駆けつけた兵士は困惑するようにぺルに尋ねる。
国王は公式には王宮にいる事になっている。
この兵士は何が起こったのかはよく分からないのだろう。
「話は後だ。まずはコブラ様を安全な場所へと避難させる」
「はっ!!」
兵士はコブラの元へと駆け寄ると丁寧に膝をつく国王を置きあがらせる。
「お怪我はございませんか国王様?」
「大丈夫だ。幸い怪我は無い」
兵士はコブラが起きあがったのを確認すると、不意にコブラの頬に触れた。
「?」
「申し訳ございません。頬に泥が付いておりました」
「そうか。ありがとう」
兵士からの答えにコブラは特に疑問を持つ事無く答えた。
「ぺルよ。すまぬが今からさっきの男を追ってくれないか?」
「しかし、コブラ様の安全がまだ……!!」
「私なら大丈夫だ。それよりも……さっきの男が気になる。出来る限りでいい。後を追い、情報を集めてくれ」
「はっ!!」
国王の命を受け、ぺルは悪魔の実の力によって巨大な隼へと姿を変え、空へと舞った。
飛んでいくぺルを見つめながら、コブラは先ほどの男の事を思い出す。
直感ではあったが、コブラは先ほどの男が反乱軍では無いだろうと考えていた。
そして、男はこう言った、『アンタ達の敵だ』と。
コブラは男の言いしえぬ不気味さに、何かが動き始めた予感がした……。
◆ ◆ ◆
「任務完了か」
覆面の男───クレスは、口元を覆っていた布をうっとおしそうにホテルの部屋の床に投げ捨てた。
部屋ではロビンとベンサムが既にいて、帰って来たのはクレスが最後だった。
「お疲れ様」
ホテルのソファーに座りこんだクレスにロビンが優しく声をかけた。
「ああ、お疲れさん」
「ジョーカーちゃん!! 思ったより遅かったじゃないのよーぅっ!?」
「ああ……王国騎士を撒くのに思ったより時間がかかった」
「あら、そうなの? ジョーカーちゃんだったら、倒すくらい訳無~いんじゃない?」
「いや、まだ動くにはいかないんだよ。それは余計な事だからな」
今回の任務は、アラバスタ王国の国王コブラをベンサムの “マネマネの実” の能力によってコピーさせるのが目的だった。
本来なら、王宮に潜入または国王の遠征の際に実行される筈であったが、国王のお忍びでの外出を運よく嗅ぎ付けた事によって急遽の変更となった。
王が襲撃を受けたという事実は重い。おそらく今回の事は、反乱軍を気にして、王国側でも極秘扱いとなるだろう。
そのため、護衛騎士の撃破などという余計な事は任務に入っていないのだ。
クレスがかいつまみ説明すると、ベンサムは納得した。
「ふと思ったんだけどねい」
ベンサムはそう前置きし続けた。
「あんた達ってドゥーしてバロックワークスなんかに入ったのよーう?」
「どうしたんだいきなり?」
「あちしは面白そうだったから組織に入ったんだけど、あんた達にはそんな理由は無さそうだからねい」
クレスとロビンが組織に入った理由。それは絶望的ともいえる “歴史の本文” の手がかりを求めてであった。
たとえ何を犠牲にしても手に入れたい世界中から忌憚される “夢” 。その夢はこの組織でしか届かなかった。
ベンサムの疑問にロビンが答えようとするよりも早く、クレスが口を開いた。
「オレ達がこの組織に入ったのは、……ココでしか叶えられない事があったからだよ」
「あら、そうなのう?」
「まぁな」
「じゃあ、それってなーんなのよう!!?」
興味深々のベンサムにクレスは呆れたように答えた。
「秘密だ。まぁ、そんな事よりも久々の再会なんだ。楽しくいいこうぜ」
「そう言えば、そうねいっ!! ジョーカーちゃん!! いい事言うじゃないの!! ん~ノッってきたわ!!! あちし踊る!!!」
「……いや、もうそれはいいよ」
◆ ◆ ◆
任務から数日が過ぎた。
その日、秘密結社バロックワークスの社長である “Mr.0” サ―・クロコダイルはレインディナーズの地下に造られた一室でパートナーからの報告に耳を傾けていた。
「なるほどな……確かに、それは問題だ」
クロコダイルの手元には簡潔にまとめられた報告書。
どんな組織においても最大のタブーとされる事柄に関する報告書だ。
「組織内偵からの情報によれば、結構いいところまで知っちゃったみたいね」
「涙ぐましい事だ……たった二人で、我が社を相手取れると思っていやがるとはな」
クロコダイルが右手で二枚の写真が添付された報告書を掴んだ。すると、資料は紙としての原型を留められずに見る見るうちに朽ちていく。
全てに渇きを与える “スナスナの実” を食したクロコダイルの魔手だ。
「ミス・オールサンデー」
「はい」
「Mr.5のペアに連絡。裏切り者を抹殺せよ」
「……そのように」
静かに、何の感情も見せない冷淡な声でロビンは答えた。
クレスはロビンとクロコダイルとのやり取りを、彼女達から少し離れた場所に設置されたソファーから眺めていた。
ロビンは別に特別な事をした訳ではない。正規の報告として社員から上がって来た情報を正しく報告したまでだ。
そう、王女達にとってのタイムリミットが来てしまったのだ。
(とうとう見つかっちまったか……。これで終わりなのか……王女様?)
クレスの夜のような瞳は何も映さない。
────そして、砂の王国をめぐる物語の幕が上がった。
あとがき
今回は微妙なオリ設定が入りました。
おそらくこれが今年最後の投稿になりそうです。
冬休み中に終わらせたかったのですが、思った通りに行かず申し訳ないです。
次から原作突入です。麦わらの一味も出ます。私としても楽しみです。