二歳になった。
最近ようやく一人でいろんな事が出来るようになった。
グッバイ、過去のダメなオレ!
こんにちは、新しい自分!
……母さん(オレはそう呼ぶことにした)はもっとオレの世話をしたがってたみたいだけどね。
悪いと思いつつもこればかりは勘弁してほしい。
さすがに、これ以上は世話になれない。
そのうち、オレの羞恥心とか自尊心とかが、
リミットブレイクどころか天元突破してしまいそうだ。
第一話「母親」
この2年でわかったことを話そう。
まず今は海賊王ゴールド・ロジャーの一言に端を発した。
ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)をめぐる、海賊達が跋扈する大海賊時代だ。
そしてオレは西の海(ウエストブルー)のオハラという島に住んでいる。
西の海とは世界を両断する赤い土の大陸(レッドライン)と偉大なる航路(グランドライン)によって四分された海の一つで、そしてオハラは考古学の聖地として有名な島らしい。
初めて外に出た時はビビった。なんせメチャクチャでかい樹があったからだ。
なんでも樹齢五千年の大樹で「全知の樹」というらしい。
そしてその内部には世界最大最古の文献の貯蔵を誇る図書館があって、母さんもここで働いている。
母さんはそのことを誇りに思っているみたいだ。
最近やっと母さんが本格的に仕事に復帰した。
母さんは図書館での仕事が好きなようなのでとてもよかった。
そして自分のことだ。
この2年間でオレは何とか順調に育った。
一度大風邪を引いて死にそうになったが気合いで乗り切った。
幼い時の風邪はヤバい。
今でこそ軽いノリで話せるが。当時は本気で死ぬかと思った。
話によると感染症らしく早期発見で軽く済んだらしい。
ヤバいかも………。と思ったので全力で訴えた。
演技力の勝利だ。
それから文字を修得した。
これはには驚いた。
二歳で文字の読み書きをマスターしたからではない。
オレは言葉は理解出来るのに文字が書けなかったのだ。
さらにいえば知識の方もわかっているのはどうやら自我の形成に最低限必要な物だけらしい。
うーん謎だ。
とりあえず、本を読んで知識をつけることにする。
そうすれば自分に関することも少しはわかるかもしれない。
でも今すぐは止めておく。
オレの異常性が浮き彫りになるのはマズいだろう。
そして最後は今隣で眠っている、
ニコ・ロビンって名前の黒髪の可愛らしい女の子だ。
ロビンとは一歳の時に知り合った。
いわゆる幼なじみというやつだ。
母さんとロビンの母親のオルビアさんとが仲が良いらしく。
ロビンとはいつも一緒にいる。
ロビン個人については、驚くほど聡明な子どもだと言える。
わずか二歳にして文字を理解して簡単な本まで読めるのだ。
俗に言う天才と言うやつだろう。
母親のオルビアさんは艶やかな白髪が目を引く、
まるでモデルのようにすらっとした美人さんだ。
………だが、ウチと同じで父親がいないらしい。
オレの父親も含めて、本当に……バカな奴らだ。
こんな美人さんがいるなら意地でも生き残れっての!!
まぁ、彼らに文句を言っても仕方がないのはわかっている。
生きていて欲しかったけど、残酷なことに過去はやり直せないものなのだ。
母さんとオルビアさんは仲が良い。
だからオルビアさんが来るときはいつもは和やかな雰囲気になるのなのだが、今日はなんだか毛色が違った。
どうやら口論をしているようだ。
「あなた本当ににそれで良いの!?」
「えぇ、もう決めたことだわ」
母さんの責め立てるような声。
しかし、その言葉には非難と言うよりも目の前の友を案じるような響きがある。
そんな母さんにオルビアさんはどこか達観したように答えた。
しかし、その姿からは確かな動揺が読みとれる。
「……あなたは良くても、ロビンちゃんのことはどうするのよ?」
「親戚にあづけるわ」
「……言わせてもらいますけどあなたの親戚は正直信頼出来ません。
ロビンちゃんのことを考えるなら絶対に残りなさい」
「ロビンなら……大丈夫よ」
絞り出すような、最大限の気力をふりしぼったような声だ。
しかし、その声に自信は感じられず、言葉に対する後悔のようなものを感じているように思えた。
「………大した信頼ね。………その選択にためらいはないの?」
母さんはそんなオルビアさんの様子にきっと気づいているはずだ。
しかし、挑発のように言葉を重ねる。
「………えぇ」
俯きながらも、オルビアさんは言葉を成した。
「……………………」
「……………………」
二人の間を冷たい沈黙が支配する。
二人の声が消えたために、部屋には時計の音だけがやたら大きく響いた。
「もう一度聞きます。あなた本当にそれでいいの?」
「……………………えぇ」
強い口調で母さんは言う。
オレは母さんのあんな姿初めて見た。
いつもの少し天然の入ったかわいらしい様子はそこには無く、なにやら憔悴しきったオルビアさんを必死に説得する姿があった。
「あなたのことはわかっているつもり。
今回の調査船にはあなたの力が必要で、あなたが行きたがる理由も知ってる。
……でも、それはオハラの学者としては正しいしけど、母親としては間違ってると思うの」
「……………」
「だから私は同じ子供のいる母親としてあなたには行って欲しくないの」
「……………」
「………オルビア、考え直してもらえないかしら?」
一転、やさしく母さんはオルビアさんを諭す。
──────母としてのの義務。
母さんの言っている事はどうしようもなく正しい。
「………それで…も、…それでも、……私は行きたいの。
ロビンのことは大好き……愛してる。……でも、でも! やっぱり!!」
「───ロビンちゃんを捨てる気なの?」
「っ!!」
投げかけた言葉。
それはオルビアさんの胸に鋭く突き刺さる。
「航海が無事に終わる保証なんてない。
いいえ、死ぬ確率の方が高い、敵は山のようにいる過酷な旅。
……あなたはそんな旅に娘を置いて行ってしまうの!?」
「………でも、…もう、…決めてしまったの」
今にも崩れそうな様子だった。
母親としての自分と学者としての自分との間で揺れる心にオルビアさんなりに答えをだしたようだ。
母さんがオルビアさんはこのオハラにおいても非常に優秀な学者だと言っていた。
よくはわからなかったが今までの話をまとめると、オルビアさんは何かの調査船にのるのらしい。
そこにはオルビアさんの力が必要なのだが、その旅路は非常に危険で死んでしまう可能性が高い。
口振りからすると、おそらく長期の旅なのだろう。
オルビアさんとしては苦渋の決断として船に乗ることにしたが、母さんはそれに反対だったらしい。
「………そう、…決めちゃったのね」
「………ごめんなさい」
「……このことはロビンちゃんには?」
「………話したわ」
「ロビンちゃんはなんて?」
「……いってらっしゃい。おかあさん、がんばって……って。
今にも泣きそうな笑顔で必死に……強がりを……言っていた…」
「……そう。……フフっ、あなたの娘らしいわね」
「………そんな……そんなことないわ……こんなダメなお母さんなのに……」
母さんは目を閉じてゆっくりと椅子の背もたれに体重を預ける。
「………わかりました。あなたを説得するのは止めにします」
「……ごめんなさい。シルファー」
「──────ただし条件があります。
まず、ロビンちゃんはウチで預かります。
アナタの親戚には悪いけど私は人を見る目には自信があります」
母さんは嘘や陰口を言う人間じゃない。
ロビンの親戚に関してはオレも知っている。
母さんの言う通り、あまりいいイメージは浮かばなかった。
「そしてアナタは絶対に、絶対に必ず生きて帰って来なさい。
どんな姿になっても、必ず、生きて帰りなさい
最後にこう言う時はごめんなさいじゃなくて、………… “ありがとう” よ」
それは、優しく柔らかで、全てを包み込むような、ほほ笑みだった。
「…………ありがとう、本当に……ありがとう、シルファー」
「……もう遅いわ、今日は泊まって行きなさい」
この時オレは二人の間に入ろうか迷っていた。
しかし、一瞬の逡巡の後にオレは入ることを止めた。
オレも母さんと同じでオルビアさんには行って欲しくない。
出来るならロビンの側にいて欲しかった。
でも……考えた結果オルビアさんがその答えを出したなら仕方がないとも思った。
当然納得はしていない。
親の都合に子供は関係ない。
でも………オルビアさんがあんなに苦しそうな様子で思い悩んだ末に決めた事ならオレのやるべきことは糾弾ではなく応援なのだと思う。
母さんもたぶん 同じ考えなのだろう。
テーブルに伏せるオルビアさんに母さんが優しく 語りかけた。
「……オルビア、あなたはダメなお母さんなんかじゃないわ。
遺跡の調査は、あなたがそうと決めた以上は絶対にやり遂げなさい。
ロビンちゃんは必ずそんなあなたを誇りに思ってくれるはず…。
それに、ロビンちゃんは私がしっかりと立派な女性に育てるから安心して、
だから涙を拭きなさい。────────お母さんなんだから」
この日から3日後オルビアさんは海へと旅立った。
ロビンとの別れぎわに見せた、ためらいや悲しみそして決意が入り混じった表情が印象的だった。
ロビンのほうはオルビアさんの乗った船が見えなくなるまで今にも泣きだしそうな笑顔だった。
船が見えなくなった途端泣き出したロビンをオレといっしょに抱きしめる母さんはとても温かかった。
このとき、ふと思った。
こんなに思い悩んだ果てにオルビアさんが調査したいものとは、────────いったい何なのだろうか?
あとがき
こりずに投稿させていただきました。
主人公の設定が少々特殊ですね。
原作とは少し変わりますご了承ください。