オレはロビンを抱えて走った。
振り向くことは無かった。
出来なかった。
何も考えないようにしてただ前に進む。
サウロの言うイカダの位置にはここから少しある。
孤状になっている岸の先だ。
「……クレスっ!!……サウロが!!」
「大丈夫だ……きっと、大丈夫だから……!!」
自分で言っといてなんて無責任な発言だと憤る。
だけど、こうでも言わなければオレ自身もどうにかなりそうだった。
そして、必死で走り岸へとたどり着く。
「なっ!!」
そこには最悪の人物がいた。
サウロを氷づけにしたクザンだ。
追い抜かされた記憶は無い。
ロビンを抱えながらとは言え全力で走った。
どうやって…と思い周りを見渡す。
海が凍っていた。
クザンはオレが最短距離で進むよりも速い。
直線距離をやって来たのだ。
オレはロビンを降ろし、
クザンから隠すように構える。
「ロビン……逃げろ!!
コイツはオレが何とかする……!!」
「いやっ!!クレスまでいなくなるなんてダメっ!!」
「………そう騒ぐんじゃない、
別にお前達をどうこうしに来たわけじゃない
それにお前が攻撃をおこなえば、おれも黙っているわけにはいかない」
「……なら、何でここに?」
「徹底した正義は……時に人を狂気に変える。
───サウロの守った“種”は一体何に育つのか
……お前達をこの島から逃がすことにした」
何をふざけたことを……!!
だが、オレは今にも飛びかかろうとするのを抑える。
コイツには勝てないのは分かってる。
それに……信用するつもりはないが、
クザンの後ろには小舟と海に氷によってひかれた2本のラインがあった。
「お前らが誰を恨もうとも勝手だが、
今は命があっただけよかったと思え……
この先は……なるべく地味に生きるんだ」
オレとロビンを憐れむような口調だった。
「氷のラインを引いておいた
小舟でまっすぐに進めば陸に辿り着く
────そして覚えとけ
おれは味方じゃねェ…お前らが何かをやらかせば番に捕らえに行く“敵”だ」
「……島にお母さんが……!!」
「誰も助からねェよ……
辛くて死にたきゃ────それも、自由だ」
オレはロビンの手を引きクザンの横を通り過ぎる。
ロビンもオレの意思を感じ取ったのか、
涙をこらえながらも自分の足で歩いた。
「……これからロビンと歩む道で、
“敵”が現れたなら、───倒す」
「好きにしろ……お前が何を思おうとも自由だ」
小さな小舟はその身には大きすぎる大海へと出る。
オレは無言で船を漕いだ。
ロビンも自分の膝を抱き何も言わない。
背後には燃え落ちる故郷。
そこに大切なものがたくさんあるのに
まるで他人事のようだった。
様々な思い出がよみがえる。
───ロビンちゃーん!!お誕生日おめでとう!!!
───だからお願い、このまま私の息子でいてちょうだい
───もう、照れなくてもいいじゃない親子なんだから
───良い顔だ、それでこそ男だ
───誇れ!!!ロビン!!クレス!!オハラは立派だでよ!!
───あなた達の未来を私達が諦めるわけにはいかない!!!
───笑ったらええでよ!!苦しい時は笑ったらええ
「「デレシシ」」
沈黙を破ったのは二人同時だった。
オレはロビンと顔を見合わせた。
「「デレシシ!!!」」
二人してサウロの変な笑いをまねる。
辛いことを忘れるように……
悲しいことを覆い隠すように……
笑いつづけていくうちに
ロビンが咳き込んだ……無理に笑ってのどを痛めたのだろう。
でも、オレは止めなかった。
幸せなら笑う
ならば、笑っていればその間は幸せだ
オレも嫌いじゃないバカらしい理屈だ。
オレも笑う。
のどがかすれて痛い。
でも、やめなかった。
でも……長くは続かなかった。
笑った声は嗚咽に変わり。
やがて、泣き声に変わった。
泣きじゃくるロビンを抱きしめる。
励ましの言葉なんて甘い言葉
かける気にもならなかった。
─────ならば聞こう、目の前に理不尽が現れたらどうする?
─────立ち向かう。どんな相手だろうといつか必ず倒す。
たとえ、それが不可能でもオレはあきらめない!!
「……ちくしょう」
船はただ前に向かい、
決して戻ることなく進んだ。
最終話 「if」
「……ねぇ、もしもの話って好き?」
オハラの学者達は誰一人として逃げ出すこと無く文献を守った。
巻き上がる炎にも怯むことなく、ただ本を守り続けた。
だが……それももうここまでだ。
炎の勢いが強すぎて身動きすらとれなくなってしまった。
海軍の攻撃に曝され、樹齢五千年を誇る大樹“全知の樹”そのものが燃えてしまっているのだ。
もうまもなく、自身の重みに耐えきれず倒れてしまうのだろう。
そんな絶望的な状況で、シルファーはそんな雰囲気などまるで気にしない、食後の雑談でも始めるようないつもの様子で語りかけた。
「私は好き。
仮定なんて意味がないなんて思っていても、
つい想像してしまうの……」
シルファーの声に生き残った学者達が一人また一人とと己の動ける範囲でシルファーへと近づいていった。
「未来を想像するのが好き、
過去を思い返して幸せな未来には何が必要か考えるのも好き」
中央で語るシルファーにクローバーがスパンダインによって撃たれた傷を庇いながら近づいた。
「我々は皆、考古学者じゃ
過去に残された資料から研究を進め仮説を立てる。
そう言った意味では我々は想像の世界で生きておる、
仮定の話は皆得意分野じゃよ」
「もしもの仮定……
もしも、“空白の百年”の研究が禁止されていなかったら……
もしも、これからも幸せな生活が続いていたら……
…なんて仮定?」
オルビアもまたシルファーのもとへと加わった。
「そう、……私が今考えてるのは、
もし以前のまま幸せな生活が続いてたらって話」
学者達は皆シルファーの周りへと集結した。
しかし、 全員ではない。何人かは本を守るうちに力つきてしまった。
だがそのことを言う者は誰もいない。
「ロビンちゃんはきっと綺麗になる……オルビアに似てね」
「ふふ……ありがとう。
クレス君だっていい男になるわ、彼タイラー君にそっくりだもの」
「そうね……クレスは十分くらい立派に育ってくれたわ」
「ふんっ!!
だからあ奴は気に入らんのじゃ!!
年を重ねるほどにタイラーに似よって!!」
「まぁ、博士嫉妬ですか?」
「違うわ!!!」
「そう言えば知ってた?
ロビンちゃんきっとクレスの事好きよ」
「そうなの?
でも仕方ないかなぁ……クレス君確かに格好良かったもの」
「もしかして今日のこと?」
「………えぇ、一緒に戦ってくれたの。
クレス君のおかげで役人に勝つことが出来た、
その後に出てきた海兵には負けちゃったけど、
……こんな私の為に必死で戦ってくれたわ」
「もしかして惚れちゃった?」
「そうね……クレス君なら“あり”かも……」
「「「えぇー!!!!」」」
「み、認めんぞオルビア!!」
「そうよ、オルビア。
クレスはロビンちゃんのモノなんだからちゃんと許可を貰わなきゃ」
「いやいや、シルファーそう言う問題じゃないだろう」
絶望的な状況においても普段となんら変わらない穏やかな時間。
それは、オルビアが長きに渡り感じることの無かったものだ。
「………あの二人はどんな未来を描いたのかしら」
オルビアは少し悲しそうな表情で問いかけた。
「……ロビンちゃんはきっと考古学者になって世界中を調査して回るんじゃないかしら?」
「クレス君は?」
「クレスはロビンちゃんの護衛かな?
うーん、あの子は少し即物的だからトレジャーハンターを兼ねるかもしれないわ」
「……楽しそうな未来ね
………そんな未来を描いてくれたらいいのだけれど……」
「二人なら平気。
きっと友達もいっぱいつくって賑やかにやっていくわ」
「…そうね。
二人なら幸せに生きていける…そんな気がするわ」
シルファーは図書館内を見渡した。
何もかもが燃えていた。
以前の面影などまるで残っていない
全てが炎の中に消えていく。
全知の樹がバキバキと嫌な音を立て始めた。
もう間もなく自分は死んでしまうのだろう。
(もう少しだけあの子達といたかった……)
今まで過ごした日々が走馬燈のように甦る。
その中でも大部分を占めるのはやはり愛しい息子の事だった。
(タイラーさん……今更、もう少し生きていたいなんて思う私の事をどう思いますか……?)
シルファーは今は亡き夫を思った。
答えなんて返ってくる筈のない悲しい問いかけだった………
「──終わってしまうにはまだ早いんじゃないのか?」
夫のそんな声が聞こえた気がした……
全知の樹が音を立てて倒れる。
オハラの全ては人の手による炎によって焼き尽くされた………
考古学の生地“オハラ”の顛末は世界中をにぎわせた。
政府によって歪曲された情報は世界中を駆けめぐる。
その中でも特に話題となったのはわずか八歳という幼さで賞金首となった子供達のことだった。
オハラの悪魔達
ニコ・ロビン
懸賞金七千九百万ベリー
エル・クレス
懸賞金六千二百万ベリー
政府は幼子二人を追い続けた……
あとがき
終わってしまいましたね。
一応これで幼少期オハラ編は完結です。
今までお読みくださり誠にありがとうございました。
今は続きを考えてます。
この作品が皆様のよき暇つぶし程度になれば幸いです。
もしよろしければ、これからもよろしくお願いいたします。
実はチラ裏からの引っ越しを考えています。
もしよろしければ、ご意見をいただけませんでしょうか