西の海のある海域にその船はあった。
四つの海とグランドラインにある170カ国以上の加盟国の結束を示す、
十字の四辺と中央に円形の描かれたマーク、
世界政府の旗を掲げた船だ。
その船上に政府直属の機関CP9の長官であるスパンダインはいた。
スパンダインは船上で大きな欠伸を漏らす。
彼にはこれから向かう土地に何の興味もなかった。
そこで何が起きようが、
何が在ろうが、
その地の人々がどうなろうが、
たとえ誰が死のうが、
そんな些細なことは心底どうでもよかった。
彼にとって重要なのは今回の仕事が自分に取ってどれだけ価値があり、
そしてどれだけ出世への足がかりとなるのか、
ただそれだけだった。
「しっかし、めんどくせーなー。
どうしておれ様がこんなくんだりまで来なきゃなんねぇんだよ。
ちゃんと出世すんだろうなこの仕事」
己の欲望を隠そうともせずに口にする。
そこには世界を束ねる政府の一員としての自覚は欠片も持ち合わせてなかった。
そんなスパンダインに直属の部下二人は何も言わない。
彼らにはスパンダインの思惑などどうでもいいことだ。
スパンダインとは違い彼らにとって重要なのは
ただ己の力を十分に振るえる機会のみだ。
それさえ満たしているのならば
、
自身より遥かに劣るであろう上司のもとで働く事も、
何に対して力を振るうかも、
どんな理由が在ろうとも、
そして、誰を殺そうとも、
スパンダインと同じく、どうでもいいことだった。
第九話 「どうでもいい」
サウロが漂着して四日立った。
オレは懲りもせずまた海岸へとやって来ていた。
オレ自身は別にどうでもいいことなのだが、
そのことをロビンに告げると寂しそうな表情をするので、
もの凄い罪悪感にとらわれて、
つい……一緒に行くことになってしまっている。
図書館での一件の後、
母さんとは少し溝のようなものが出来てしまった。
もちろんお互いに努力して歩みよろうとはしたけど、
まだぎこちないように感じる。
ロビンの方も同じだ。図書館の方にも近寄りがたくなってしまったみたいだ。
そのせい…と言うのもあるが、
オレたちは毎日サウロに会いに来ている。
今日はイカダができたそうで海にでる予定だったらしいのだが、
ロビンの為に延長してくれた。
こいつはやっぱり、良い奴だ。
「そういや、クレス、お前さん将来やりたいこととかあるんか?」
ロビンとサウロとでたわいない会話を交わしていた時
唐突にそんな話題を振られた。
「将来か……
そう言えば考えた事なんて無かったな……」
「なんと!デレシシ!!
ちびこいのに夢も見とらんのか?」
「うるせー」
夢や将来なんて考えたこと無かったな……
ただずっととこんな日々が続けばいいなんて考えてた。
「ねぇ………クレス」
ロビンがほんのりと頬を染め、ためらいがちに話しかてきた。
「将来やりたいことが事がなかったらね………一緒に……海にいかない?」
「えっ?」
「あの………嫌だったらいいんだよ…。
……もし、お母さんが帰ってきて、一緒に海に連れてって貰えたら
………クレスも一緒にこない…?」
ロビンはりんごのように真っ赤になってうつむいた。
そして、そわそわと上目遣いでオレの方をしきりに見る。
ロビンの仕草に一瞬オレの全身の時間が止まった。
………これってまさか、あれだろうか?
いや、とオレはその考えを打ち消した。
幼いロビンの事だ親愛の感情はあってもそういうことにはまだ早いだろう。
もしかしたら………とも思わなくも無いが、
まぁ、……いいだろう。
「……お前といくのも悪くはないな」
それは偽りざる本心だ。
将来オレもロビンも大人になったら一緒に海にでる。
オレはさしずめ用心棒と言ったところだろうか……。
個人的には遺跡に探検に行くなら歴史よりもお宝の方に興味がある。
トレジャーハンターなんかも悪くは無いかもしれないな。
「…ありがとう!!!クレス」
ぱぁっと花の咲いたような笑顔だ。
やばい……子猫の百倍くらい可愛い。
「デレシシ!!デレシシ!!デレシシシシ!!!
いやあ、若いってのはええ、若いってのはええの!!」
「サ、サウロ!」
「照れんことないね、
おまえさん初めて会ったときより、今の顔のほうがいいでよ」
「……オイ、ロビンを口説くな」
「ク、クレス!!」
「デレシシシシシ!!!仲いいこたぁ良いことでよ。デレシシシシ!!!」
よく笑う男だ。
それでもこいつの笑う理由はけっこう好きだ。
幸せなら笑う
ならば、笑っていればその間は幸せだ
馬鹿らしいまでの理屈だが、そうゆうのは嫌いじゃない。
そして、それを実践しているサウロはすごい奴だと思う。
まぁ…この際、変な笑い方は愛嬌ということで置いておこう。
そのあと、ロビンについての話になった。
ロビンが幼くして考古学者であること。
オルビアさんの後を追って考古学者になろうと思ったこと。
ロビンはあまり他人に自分のことを話したがらない。
ロビンがここまで、饒舌に身の上を語るのは、
その分サウロに対し心を開いているからだろう。
そして話は、“空白の百年”に及んだ。
話の出始めはロビンを止めるべきかと悩んだが、
サウロ相手なら大丈夫だろうと、ロビンには何も言わなかった。
サウロは空白の百年については知っていたようで、
好奇心をみせるロビンをやんわりとたしなめた。
話の内容は物騒だったが、いつものような和やかな会話だ。
だが、歴史の本文をロビンの母親が探していると知ると、
サウロの様子がひどく焦ったようになった。
オレはどこかで達観していたのかも知れない。
たかが歴史だと高をくくっていた。
オレが考えているよりも世界の法はこの問題に厳しかったのだ。
それは、サウロの様子を見て悟った。
そして、サウロの焦りはオルビアさんの名前と
この島がオハラであると知った時にピークに達した。
サウロは過去の自分を責めるようにうろたえる。
さすがに様子がおかしい。
オレは何か嫌な予感がした。
サウロはただでさえ大きい声をさらに高めた。
その内容はオレに戦慄をあたえる。
――――――海軍がオハラの学者たちを消し去るためにやって来た
「久しぶりね、みんな………」
全知の樹内部に設立された図書館の入り口に懐かしい人物が立っていた。
罪人となったオルビアは故郷へとたどり着いたのだ。
「オルビアっ!!」
シルファーがオルビアへと感極まったように抱きついた。
「よく……無事で帰ってきたわね……」
「……シルファー」
オルビアは自分に子供のように抱きつく友人をそっとなでる。
涙が出そうなほどうれしかった。
だが、オルビアはシルファーをそっとひきはがす。
彼女には伝えなければならないことがあった。
オルビアは語る。
海軍の襲撃に遭い調査船に乗っていた自分以外が亡くなった。
そして、政府は殺された者たちの遺品からオハラの調査船だと割り出したのだ。
このままでは、オハラで学者と名乗る者全てが消されてしまうのだ。
オハラから脱出してほしい。
オルビアの切なる願いだった。
だが、オルビアの言葉を聞いて取り乱す者は一人としてこの場にはいなかった。
シルファーを含め学者たち全員があきらめとは別の感情を抱いていた。
それは、―――誇りだった。
オハラの学者としての誇り。
全知の樹に納められた“人類の財産”を守ることへの誇りだった。
「それよりも……気になっている事があるじゃろう?」
クローバーが迫る危険などまるで気にする様子もなくオルビアを気遣う。
オルビアが一番気になっているであろうロビンのことだ。
「………でも、会うわけには……」
しかし、オルビアの反応は鈍い・
オルビアは六年前に娘を半ば捨てるような形で旅に出たのだ。
いまさら、会う資格なんてあるとは思ってなかったのだ。
「そう思ってるのは、あなただけよ。
ロビンちゃんはとてもいい子に育ったわ
とても……お母さんに会いたがってる」
シルファーが悔やむオルビアの背中を押す。
「………元気なら、それで…」
オルビアは罪人だった。
世界中に指名手配されていて、一度は海軍に捕まった。
ロビンを“罪人の娘”にはするわけにはいかなかった。
「……………」
「……………」
だが、クローバーとシルファーは知っている。
おそらく……いや、間違いなくロビンにとっては、そんなことどうでもいいのだ。
ただ、会いたい。
そこにはどんな理由も必要はない。
シルファーがオルビアにそのことを伝えようとした時、
入口の扉が勢いよく開かれる。
慌ただしく中へ入って来た学者の一人が世界政府の船がやって来たことをつげた。
学者の言葉にオルビアは銃を持ち
シルファーとクローバーの静止の声をも聞かずに走り出した。
オレはロビンを追いかけ走る。
追いつくことも追い抜かすことも出来るが
ロビンのペースに合わせて走る。
きっかけはサウロの言葉だ
―――今すぐ町に行って異変がねぇか見てくるでよ。
もしかしたら、お前の母ちゃんも帰って来とるかもしれん!!!
オルビアさんが帰って来ている。
本来なら喜ばしいはずだ。
だが、どうしようもない不安が胸を渦巻きぬぐえない。
「くそっ!!」
苛立ちのままに声を出し。
冷静でない自分を見せつけ自身に認識させる。
ロビンは走り続ける。
体力のペース配分なんてまるで考えてないだろう。
ただ、目の前にあるオルビアさんに会える可能性を考えて走りつでける。
そのとき前方が騒がしくなった。
だが、走ることに夢中なロビンはそのことに気づかない。
やがて、前方の人だかりが割れるように開き
銃を手に持った白髪の女性があらわれた。
「なっ!!」
それはまさしくロビンが探し求めているオルビアさんだった。
六年ぶりに見るロビンに似た端正な顔立ち。
だが、その顔は前方だけを厳しく見据えている。
そしてロビンの方もそのことに気づかない。
ロビンとオルビアさんたった二人の親子は
お互いに気づくことなくすぐそばを通り抜けた……。
西の海のとある海域
「クザン中将!!」
「……何よ」
「もう間もなくオハラへと到着いたします」
クザンはサングラスの奥で無粋な部下をジロリと睨めつける。
「何それ………いちいち人が寝てるの起こしてまで言うことか、クラァ!!!」
海軍屈指の実力者であるクザンは部下からの報告をぞんざいに扱う。
彼の目前には、目的地である島があった。
だが、そのことにさしたる様子もなく、
彼はまた船の甲板に供えられた自分専用の椅子で居眠りを始めた。
あとがき
いよいよですね…
私自身もこれからの展開にはためらいがあります。
さぁ…どうしたものか……
サウロのセリフがおかしいかもしれません
申し訳ないです。