その後のことだが……。
全身至る所に打撲、切り傷に擦過傷、他に肉離れや靭帯断裂などを怪我を、そしてなにより重い『過労』と診断された恭也には、最新の医療技術が惜しみなく施された。なにしろ、時空管理局ミッドチルダ地上本部の歴史に残るであろう大事件、その難局を打開するのに最重要の役目を果たした人物である。
その甲斐あって、事件の日が明けて昼頃には、少なくとも身体的には元通りとなっていた。にもかかわらず起きる気がしないのは、『神速』の使い過ぎで頭痛が引かないためでも、あちこちの疲労が抜けないためでもない。
こうして独りで病室にいると、初めて人を殺した感触が蘇るのだ。怖い、というわけではない、と思う。後悔している、というわけでもない、と思う。
ただあえて名前を付けるとすれば、後悔が最も近かった。奴の言葉ではないが、惜しいと思った。あれだけの魔導師、あれだけの軍人と、あんな出会いしかできなかったことが。あんな別れしかできなかったのは、自分が弱かったから。……いや、それは傲慢な考えだぞ。
答えの出ない思考の海を、そうと知りつつ泳いでいると、デバイスを通じてクイント・ナカジマから念話が入った。
<高町クン、起きた? 今大丈夫?>
「あ、はい。問題ありません」
と、念話を使うのも随分久しぶり(のような気がしたが実際はほんの数日ぶりだが)なので、ついつい声で返事をしてしまった、のだが……。
「オハヨー。……って、もう昼過ぎだけどね」
「調子はどうだ、高町」
「昨日は本当にお疲れ様」
病室の扉が開いて、入ってきたのはクイント、ゼスト、メガーヌの三人だった。
声が聞こえるところにいるなら、初めからそうして下さい。と言いたい恭也だったが、そんな距離にいたのに気付かなかったのが悔しかったので、平静を取り繕う。
……ちなみに、しばらくの間だが地上本部ではどんなことでも魔法を使うブーム、とやらが流行ったものらしい。要は魔法が使えなかった憂さ晴らしなのだろう。全くもってどうでも良い話だが。
「それで、何か御用ですか?」
「いや、すぐではないが、事件についての報告書を書かなければならんだろう。それで、事件に関わった面子で、デブリーフィングをやろうと思ってな」
なるほど、と恭也は思う。考えるのに膿み始めていたから、渡りに船というものだ。なにより、突撃銃の銃弾を数発受けるという、自分より遥かに重い怪我を負った上官にこう言われたら、「すぐに用意します」と言う以外にない。
「お店はウチの旦那が確保してるから。ニッポン風の料理を出すお店だって」
「……は?」
「会計のことなら気にするな。レジアスが出すと言ってたからな」
「ちゃんと録音もしております、隊長」
……つまりは、そういうわけらしかった。
PTSD――心的外傷後ストレス障害というものがある。
災害や犯罪、戦闘など、ショッキングな出来事を体験した人間が患うことのある神経症で、睡眠障害や無気力、トラウマのフラッシュバックなど、日常生活を脅かす症状を発する疾患のことである。
地球では、ベトナム戦争の帰還兵の多くが羅患し、大きな社会問題化したこともある。それを軽減するには、いきなり日常に戻すようなことはしてはならない。ある程度の期間、同じ立場の者達同士、リラックスできる環境で互いの経験を咀嚼させるのが重要だと言う。
恭也は子供の頃から御神流の戦闘訓練を行っていたし、そういった問題に対する耐性は一般人の比ではない。が、なにぶんデリケートな問題でもある。
美沙斗は甥を心配して、ただでさえ随分無茶しているのだが、更に職場に無理を重ねてでも恭也の様子を確かめるべきか、と思っていたのだが。
「生きて逮捕が建前の管理局だが、そういうノウハウもないではない」
と、ゼストは力強く請け負った。
それが今朝、地上本部の演習場で、二人が互いの腕を確かめ合った時のこと。
というわけで、冗談めかしてはいても内心は真剣そのもので、ゼストはこの宴会をセッティングさせたのだった。
四人は、ようやく開通した首都環状レールウェイを乗り継いで、自分たちがやったこと、勝ち得たもの、守り通した人々を遠目に眺めつつ、夕刻近くにゲンヤが予約した店に到着した。
美沙斗との約束事をゼストは特に語らなかったが、散歩のようにのんびりした歩調の中になにかを感じ取ったか、胸に灯る誇らしい気持ちを自覚して、頭にモヤが掛かったような気分を恭也はいつの間にか忘れることができた。
そうなると現金なもので、思い出したかのように非常な空腹を覚える。だが、アボガドの軍艦巻きも正直どうかと思う恭也としては、異世界のニホンリョウリとやらに大きな不安を抱かざるを得ない。
と思ったのだが、実際に出てきた料理はなかなかどうして、見たことない具材が混じりつつもきちんとしたものだった。創作和食、というところか。
「いよう、高町の。こっちの料理は、気に入ってもらえたかい?」
「ああ、ゲンヤさん。申し分ありません。まさか刺身まであるとは……」
もっともそうなると、博多まで遠征して東京ラーメンを食すような(父である士郎が実際そういう気紛れな男だった)、それはそれで微妙な気分になるのだが。
ゲンヤは「そうかい」と嬉しそうに言うと、
「そりゃあ、今朝一番の貨物便で届いたもんだそうだ。それを食えるのも、お前さんらのお陰ってこった」
こちらを立ててくれるその心遣いが、素直に嬉しい。店主らしき初老の男性が、恭也を見て丁寧にお辞儀をした。自分一人の手柄を気取るつもりなど毛頭ないが、やはり誇らしい。
「そういやあ、あの綺麗な、ゲフンゲフン! あー、お前の姉ちゃん、もう帰っちまったんだってな?」
わざとらしい咳払いをした横顔には、一筋の冷や汗。どこからか(どこからかは言うまでもあるまい)ピリピリとした殺気を感じて、恭也さえも思わず目を逸らした。すると視界に入ったのは、何故か悄然としている、確か狙撃班の少年が一名。……はて?
「ああ、いえ。姉ではなく、叔母なんですが……」
多分あなたより年上ですが、とは言わない。そんな命知らずなことは。
ともあれ、「若い!」とか「嘘だろぉ?」などと男性諸君を中心に(この場にいるのは殆ど男子だが)どよめきが走る。そもそも恭也も老けて見られるタイプなので、その叔母ってどんだけ!? というわけだ。
驚きの表情を浮かべていないのは、事前に知っていたゼスト隊の面々と、わざとらしくお品書きを見ているゲンヤぐらいのものだった。中でも一際驚いているのは、先程の若者――首都航空隊の若きエリート、ティーダ・ランスター一等空士。
……ああ、なるほど。と、朴念仁の恭也でも、ここまでくると想像はつく。なので、多分君より年上の娘がいるが、とオブラートで厳重に梱包して恭也は告げた。
「ま、マジですか……」
それ以上言葉が出ない彼を、同じ部隊らしい男たちがやんややんやと囃し立てた。
なんにせよ、宴会が始まって早々の、このテンションである。
この後、ほぼ全員に一杯ずつ酒を注がれ、海鳴の某女子寮で鍛えられていなければ沈んでいたなあ、と恭也が思い始めた頃、実際にデブリーフィングらしい話も出てきた。……少々、酔の醒める話が。
「俺の同期の捜査官で、今朝に奴等の取調べをした野郎がいるんだが……」
と、ゲンヤは話し始める。
それは奴等――アイゼナハ解放軍の、真の目的。
――そりゃあ、俺たちだって、大佐だって、アンタ等が素直にこっちの要求を呑むなんて思ってなかったさ。
それを証言したのは、奴等の副官であり、長であるトラビ・ザクセンリンク元大佐が死亡した今は、最も重要な被疑者となっているホルヒ・アウトウニオンだった。
上官の死亡に一時錯乱状態に陥っていた彼だが、すぐさま正気を取り戻したのはたゆまぬ訓練の賜物か、それともそれも、上官を思う故なのか。ともあれ、ふてぶてしくもタバコをねだりながら、彼は語ったという。
――だが、こっちの警告を無視して魔法を使ったら、たとえ爆弾を無力化できたとしても、その時点で人質を見捨てたということになる。
――魔法を使わず無理やり鎮圧しようとして、俺たちに爆弾を使わせたら、事件に対処できなかったってことになる。
――どっちに転んでも、管理局は信用を失う。そうなれば、各管理世界は管理局法の批准をやめて、抑止力に質量兵器の保有を始めるかもしれない。
もしそうなれば、管理世界に組み込まれて間もないアイゼナハは、真っ先にその流れに乗るはずだ。そうなれば、自分たちのような質量兵器しか使えないために放逐された軍人達も、復職できるだろう、というわけだ。
だが、「管理局を甘く見たな」と言われると、ホルヒもまったくだ、と頷いた。
――だから本当は、アンタら自身が管理局法を改正して事件を解決しようとするだろうと、思ったんだがねえ……。
「どっちにせよお前らは死ぬじゃないか」と言われると、
――覚悟の上さ。
と断言したという。事実、他数名の犯人にも同様の取調べを行ったのだが、全員同様のことを証言したそうだ。
そこまで聞くと、ゼストも含めて全員が寒気を覚えた。
特に恭也がそうで、彼はレジアスに、管理外世界に助力を求めるように進言している。もしそれにレジアスが乗り、その上層部、更に本局もそれを認めたら、管理局法の改正という運びになっていただろう。
たまたま数ヶ月前入局した高町恭也という人材がおり、たまたま恭也の親族に御神美沙斗という、近接戦の達人がいたから良かったものの、そうでなければ間違いなく彼等の目論見は成就していたはずだ。
そうした証言がすんなり得られたように、アイゼナハ解放軍の面々は総じて捜査に協力的だった。そもそも管理局には、魔法や薬物で人間の記憶を丸裸にしたり、他の媒体に転写したりすることが、犯罪捜査の名目の元、ある程度確立されている。倫理の問題もあるためそうそう許可は下りないが、ともあれそんな相手に黙秘も偽証も無駄、というわけだ。
だが、管理局としては最も知りたい真実、つまり、管理局の数世代先を行く技術が注がれた、あの爆弾のことだが。
――それは大佐しか知らない。
ということだそうだ。人権上の問題が少ないトラビ元大佐はすぐに記憶を洗い出されたのだが、幾つか記憶操作を受けたような形跡が見られるということだ。
今後、更に事実関係の把握、記憶の詳細な解析が進められる予定だが、「結局、わからねえような気がするな」というのが、同期の言葉を聞いての、それがゲンヤの感想だった。
果たしてこれで、事件が解決したと、言えるのか、どうか。
「だが、お前は、いや、俺たちの全員が、成すべき事を成した。そうじゃないか?」
それからまた乾杯の輪が広がって、そのゼストの言葉が、恭也がその日覚えている最後の記憶となった。
余談になるが、結局、アイゼナハ解放軍は一人の死者も出さず(間接的には首をくくった事業主がいたかもしれないが)、人質に対しても紳士的な態度を通したということで、彼等を英雄視する者は後を立たなかった。事件中、何度かマスコミにも露出していたことで顔の売れていたホルヒ元少佐については、犯罪者ではなく革命家と呼ぶべき、とさえ主張する者もいた。
その是非はともかくとして、彼等が捜査に協力的な姿勢を見せたこともあって、一生檻の中がほぼ確定しつつも、比較的待遇の良い拘置所に入れられることとなる。
その中で、彼は事件の詳細を記した本を執筆する。
事件の解決に非常な貢献をした管理局員が、極めて事実に忠実である、と証言したこともあって、各世界の地上本部や本局、インフラを司る機関に必ずと言って良いほど買い求められた。
それもあって本はベストセラー。やがてドラマとなり、映画となり、歴史そのものとなり、そして管理世界アイゼナハの観光資源として、失業者の雇用問題に多少の貢献したという。
……世の中、わからないものである。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
そんな調子でゼスト隊と行動を共にして、恭也がミッド地上を離れたのは一週間後のこと。
恭也が管理局入りして丸三ヶ月が経ち、第97管理外世界――地球は日本では桜が満開の季節となっていた。
「じゃあ、恭也さん、こっちに戻って来れるんだ?」
お姉ちゃん喜ぶだろうな、と喜色満面に言ったのは、月村すずか。
「うん! あっちでの事件も解決して、しばらく休暇も取れるんだって。……まだ何日か掛かるみたいだけど」
こちらも嬉しそうに、高町なのはが答えた。
明日からは共通の親友である八神はやても、一緒に学校に通うということになっている。立て続けのグッドニュースに、少女達のテンションはひたすらに上昇していた。
「なら、恭也さんもちゃんと誘わないとね」
アリサ・バニングスが誘うと言ったのは、次の土曜にと企画したお花見のことだ。彼女は当然のように、恭也の妹であるなのはに「誘っておいてね」と言おうとしたのだが、
「私がッ! ……その、言ってもいいかな?」
つい張り上げてしまった声に、恥ずかしげに俯きながら、フェイト・テスタロッサが問いかけた。
恭也がミッド地上にまで駆り出された今回の事件には、彼女の母親が開発した技術が流用されている。そのことを非常に気にしているフェイトが、気に病まないはずもない。だからこそ、自分で誘いたかった。最も、実際のところはクロノに伝言を頼むしかないのだが。
親友の思いを誰よりも心得ているなのはは、「うん、お願いね」と快く頷いたのだった。
そして、少女たちはそれぞれ親しくしている人間に、お誘いの電話を掛け始める。
<――え、お花見? おー、それはええね。……でもな、うちも今一足先に桜を楽しんどるんよ?>
……その後、親友が目覚めた新たな趣味に、なのはとアリサが絶句するのとほぼ同じ頃。
時空管理局本局でも、動き始めた女性が二人……。
何故か薄暗い自身の執務室で、熱弁を振るうのは管理局本局運用部、レティ・ロウラン提督。
恭也の今回は働きは、いくら褒めても褒めすぎるというものはない、と彼女は言う。
だが、恭也の魔導師適性は、相変わらず低い。魔力ランクが低い以上、これでは武装局員としては、階級も収入も上がりにくいだろう。
「おかしいじゃないの!? 真に優秀な人間が認められないなんて!」
「……はあ、そうですね」
確かに、このままでは妹にあっさり階級を抜かれかねない。それは少しばかり気の毒かもしれないが、別に人の目を気にするような男ではないだろう。そう思うシグナムが、気のない返事をした。
「その点、特別捜査官の認定を受ければ話は違うわ。彼の格闘戦技術は希少技能として認められてしかるべしだし、事実、それは証明されたはずよ」
わからない話ではない。確かに、恭也のような戦闘者は、管理局では未来永劫現れない類だろう。『希少』ではある。だが、主の『蒐集行使』のようなスキルと、一緒の扱いをするようなものかどうかは……。とはいえ、それを戦う人間でもなく、魔導師としての力量も定かでないレティに説明するのは無理だろう、とも思う。
「それで、何故それを私に?」
「……シグナム。あなたも恭也さんと一緒にいたいわよね?」
「はあ、そうですね」
剣友的な意味で。
主を守るため、特別捜査官補佐の肩書きを得るつもりなので、確かにそうなれば行動を共にする機会も増えるだろう。
「だったら、今言ったことを恭也さんに伝えてきてくれるかしら? もちろん、リンディには内緒でね」
顔は笑顔なのに、目がまったく、いやその。
――自分は何か厄介ごとに巻き込まれようとしているのでは。シグナムは諦念の溜息を吐いた。
「――と、いうようなことをレティは考えているに違いないわ!」
だが「別に良いんじゃないですか」と、クロノは気のない素振り。
そんな息子を見て、艦船アースラ艦長、リンディ・ハラオウンは、「わかってないわねえ」と首を振った。
「彼はまだ若いの。魔力値だって、A……は無理でも、Bぐらいなら行ける可能性はあるわよ。それに、彼だったら工夫次第で、陸戦AやAAランクは取得できるわよ。……そもそも、あれだけの働きをしたんだもの。生身で質量兵器に打ち勝った戦闘力に見合った待遇をするべきだわ」
クロノにしても、AAA+というランクを持っているものの、魔力値そのものはそれほど高くない。それを考えれば、陸戦に限定すれば恭也もそれなりのランクは取れるだろう。
「大体、そういうことは人材を運用する運用部こそが、掛け合うべきじゃないの。適切な人材に適切な待遇を。本当に彼のことを思うなら、そうするべきだわ。……結局、レティは一部隊における魔導師ランクの総計規模の規制をすり抜ける、都合の良い手駒が欲しいだけなのよ」
それはちょっと否定できない、というか間違いない。とはいえ、それで恭也が不利益を被るかというと、それもないだろう。レティならば、今回のように恭也が最も能力を発揮できる場を提供し、多忙ではあろうが高給も約束するはずだ。
というか、レティとしては堪ったものじゃないだろう。高性能でかつ恭也にしか扱えない、どこぞの技術者が暴走して創り上げた破格のデバイスを、既に彼に投資しているわけだから。
「それに、管理外世界も警備する次元航行部隊にこそ、質量兵器に詳しい彼が必要だわ。なによりここにいたほうが、魔法戦の訓練もし易いはず。……もちろん、要請があれば貸出扱いで派遣するわよ。今回見たいにね。無理に特別捜査官の資格にこだわる必要なんかないわ」
母は嬉しそうだ。自分が管理局に引き込んだ恭也が、こうして認められたことが嬉しいのだろう。……少々思いもよらない形ではあったが。ともあれ、だからこそ恭也の本来の目的――魔法を覚えて強くなる――をサポートしてあげたいのだろう。
「それで、何故それを僕に?」
「……クロノ。あなたも恭也さんと一緒にいたいわよね?」
「はあ、そうですね」
戦力的な意味で。
それに、単純な魔力値で劣るクロノとしては、体術の技能ももっと高めたいところだ。目下成長を続けるフェイトをやり込めるぐらいには。
「だったら、今言ったことを恭也さんに伝えてきてくれるかしら? もちろん、レティには悟られないようにね」
母は嬉しそう、なのはいいのだが……どうにもはしゃいでいる風なのが玉に瑕、というか。
これもまた、友人同士の張り合いというか、じゃれ合いなのだろうか。当人同士に留めて欲しいものだが……。クロノは諦念の溜息を吐いた。
ミッドに派遣される直前、アースラが対応した事件で、恭也は飛行魔法を使う高位魔導師と交戦した。
結局、全く手出しできずに、決着を付けたのはクロノ達だった。それから飛行魔法を覚えようとしたのだが、なんとか習得したそれは、空戦魔導師であるヴィータどころか、魔法をまともに習い始めて間もないはやてにまで、紙飛行機やらカブト虫やらと酷評されるような出来映えだった。
それで諦めたわけではないが、何か他の方法を探さねばならないか、と思っていたわけだが、その答えは意外な人物が持っていたのだ。地上本部のストライカー級魔導師であるゼスト・グランガイツが頼みとする、クイント・ナカジマだ。
ゼスト隊の面々と過ごす間、なにをやってたかと言えば、もっぱら訓練と訓練、それから訓練だったわけだが、その中でクイントが見せたのが、大空へその身を運ぶ道を架ける魔法、『ウイングロード』だったというわけだ。
「……教えて欲しい? なんで? こんなことしなくたって、全然強いじゃない。……ぜんっぜん当たらないし」
というのが、辛くも引き分けに持ち込んだ後での、クイントの弁。
聞けばかなり彼女がアレンジしているようで、人に教えられるようなものじゃないのだそうだ。加えて、まだまだミッド式に比べて使い手の少ない近代ベルカ式の魔法だという。魔力容量の都合上、ベルカだのミッドだの以前の問題の恭也には難しいだろう、ということだ。
それを説き伏せてなんとか教えてもらったのだが、果たして出来たのは、老朽化した木造建築の床というか、冬の終わりの湖というか、ちょっと走ったら壊れる代物だった。……ちなみに恭也全力全開の踏み込みはコンクリートも踏み砕いたりする。
ともあれ、発想そのものは応用できそうだったので、色々工夫に工夫を重ねた結果が、
「これだ」
言いながら、恭也は虚空に浮かぶ六面体の足場を使って、自由自在に飛び跳ねた。
誰に見せているのかと言えば、シグナム……ではなく、同じくヴォルケンリッターが一人、ヴィータだった。当然恭也も好敵手であるシグナムを探したのだが、どうやらどこぞに呼び出されたのだという。まあいずれ来るだろう、と共に武装隊に出向していたというヴィータが退屈そうにしていたところを、半ば強引に誘ったのだった。
さしもの彼女もケチがつけられない出来映えか、ヴィータはじっと何かを考え込んでいる様子だ。恭也としても、それなりに自信はあった。なにしろ、本局に戻る直前ギリギリになってやっと間に合ったとはいえ、ゼスト隊の面々の監修を受けているのだ。
とはいえ、一度模擬戦で試したいところなのだが、ヴィータはそういうのがあまり好きではないようだし。と、恭也が考えていたところ、演習場の入り口から待ちわびた人影、シグナムが入ってきた。
彼女も何やら考え事をしている様子だったのだが、空に浮く恭也を見ると唖然となった。そして、見上げるシグナムと見下ろす恭也、二人の視線が交錯する。
「やらないか?」
と、恭也がもちろん模擬戦を申し込んだ瞬間だった。「ああ!」と応じる彼女の手に、相棒たる長剣が握られたのは。
……。
クロノが恭也を探して演習場にやって来たのは、丁度そんな時だった。そして彼もまた、空を征く恭也を見て瞠目した。
二人はおおよそ互角に打ち合っている、ように見える。恭也の生み出した足場は、シグナムの全力の一撃――紫電一閃を恭也が受け止めても、しっかりと彼の身体を支えていた。なるほど、恭也のバリア自体は実用に耐えるものではないが、それを立方体に展開することで強度を高めたか。
だがその分、魔力消費が激しいのか、同時に二つしか発動できないようだ。それでは相手に進行方向を教えるようなものだが、とクロノが思った瞬間だった。
「はぁぁぁぁあああああ!」
恭也の斬撃を受け止めた、と見せかけて退いたシグナムが、虚空に生み出された足場もろとも、恭也の脚を切り裂こうと返す刀で一閃――
「――くっ!」
辛くも爪先で飛び上がって躱す、が恭也の身体は無防備に投げ出され、自由落下を始める――!
クロノは咄嗟にフローターフィールド――魔法陣によって、特定空間に足場を形成する結界魔法の一種――を発動させようとしたが、その必要はなかったようだ。
恭也は無理やり体勢を整えると神速を発動、足、膝、腰、肩、腕と順に着地して、力を分散して衝撃を和らげる。ミカミリュウはこんな状況も考慮しているのか? とクロノは呆れるが、これは自衛隊でも教えられている、五接地転回法という着地法だ。どちらにしても芸達者なものであるが。
「まずは見事、と言っておこう。だが、なぜ自分の攻撃が読まれたかわかるか?」
シグナムがにやり、と意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「……いえ」
恭也としても、これでは移動方向が読まれることぐらいは考えていた。だからこそ、神速の域で脚の進みとほぼ同時に足場を展開していたはずなのだ。そして、高機能のデバイスは、タイムラグなしに恭也の思ったとおりのタイミングで魔法を発動していたはずだった。
シグナムにはちょっと悪いと思ったが、ここでちょっとクロノは口を出した。
「恭也さんの速度は大したものですが、足場を形成した魔力反応ですよ。それを読まれたんです」
例えば、少し前までただの女の子だったなのはは、もちろん動体視力も人並みだ。それでもフェイトの高速移動魔法である『ブリッツアクション』などに反応できるのは何故か。それは優秀なデバイスであるレイジングハートが、魔力反応を探知してなのはに教えているからだ。
恭也のように、全く魔力を使わずに高速移動する相手は、普通の魔導師では探知が難しい。シグナムやヴィータのような歴戦の魔導師や、近接戦の技能も満遍なく鍛えてあるクロノで、なんとか反応できる程度だ。
そうした恭也の利点が、足場魔法を発動することで消えてしまう、というわけである。
でもこの人なら、きっとなんとかするんじゃないか。と、また足場を展開して駆け上がる恭也を見ながら、クロノは思った。
母には悪いが、もう少しの間、恭也の進む道を黙って見ていた気がした。口出しするまでもなく、彼なら自分で、何か道を見つけるのではないか。そう思えた。
現に、今度は足場をフェイントに使って、シグナムに一撃を浴びせていた。そして彼女は一瞬だけ悔しげな表情をしたあと、獰猛な笑みを浮かべた。
……これはまた、限界まで模擬戦コースか。レティの方の使者は、その役目を完全に忘れているようだ。
ならば僕だって忘れたって構うまい。と、そっとクロノは演習場を出ようとしたのだが、
「あーーー!!」
その時、突如先ほどから考え事をしていたヴィータが、大声を上げた。突き出す指は、正六面体のブロック状の足場をぴょんぴょんと飛び跳ねる恭也を、はっきりと指していた。
「そうだ、マ○オだ!! それマリ○だろ!?」
そう、ヴィータは主の親友であるアリサから、様々な家庭用ゲームを借りていた。その中の一つに、かの有名な髭面のブラザーが活躍するものがあったのだった。
とはいえ、この場に彼女の他に、ゲームをやる人間がいない。だから、その意味が分かる人間は彼女の他に、……残念ながらいたのだ。凄腕のゲーマーでもある高町なのはと、恐らくはその才能を伝えたであろう高町士郎。二人を家族に持つ恭也には、そのイタリア系配管工のことがわかってしまったのだった。
……ポン。
わからないまでも、シグナムが恭也の肩を叩いた。そして、「というか、お前は模擬戦の最中に妙なことを言うな」と、ヴィータを叱りつける。今日は主であるはやてがいないから、一切遠慮がない。
「……そういえば、何か御用でしたか、クロノ執務官?」
すっかり興が殺がれた恭也が、納刀して問いかけた。
なんとなく出て行く間を逸したクロノは「ああ、いえ、その」と、なんと言ったものか口ごもる。その時、上手い具合にというか、彼の端末に通信が入った。
「ああ、フェイトか。クロノだ。……土曜日? その日はデスクワークだから、ちょっとした外出ぐらいなら付き合えるが。……艦長もエイミィも、確かそんなに忙しくはないな。……恭也さん? それなら丁度目の前にいるが……」
そんな具合で、少女たちの企画したお花見の連絡網は本局を駆け巡ったのだった。
……遠く離れた、そこはミッドチルダ地上本部。先頃、解決困難とされた、ミッドの歴史に残るであろうテロ事件を、殆ど犠牲者も出さず解決に導いた、レジアス・ゲイズ一佐の執務室。
「魔法と、技術の進歩と進化。素晴らしいものではあるが、しかし! それが故に我々を襲う危機や災害も十年前とは比べ物にならないほどに危険度を増している!」
その事件、管理局より更に数世代進んだ技術による事件。なにか一つの技術体系に依存した防衛思想は、それが無効化された時に対応できなくなるものだ。それは例えば、偏りのある生物相が、特定の災害や病によってあっという間に全滅するのに似ている。
地上世界の法の守護者……笑わせる! 事件が解決できたのは、管理外世界から来た魔導師、いや戦士のおかげだった。この世界では異端と言える、その技能によって。
「高町恭也! 魔法に依存しない戦士! ロストロギアを相手にする海の連中ではなく、刻々と変化する人を相手とするこの地上! 奴のような人材は、この地上本部にこそ必要なのだ!」
エキサイトして腕を振り上げるレジアス。その彼に、冷水を浴びせるように、友人であるゼストは言う。
「……レジアス。もう諦めろ」
おまえが言うか! と、レジアスは振り上げた拳を机に叩き付けた。
レジアスは自分に出来うる限りの破格の条件を提示し、友人にそれを伝えるように頼んだのだ。しかし、事後捜査で忙しい間にあれよあれよと一週間が過ぎ、恭也は本局に戻ってしまったのだ。
こうなると、もう地上本部に手は出せない。『海』の連中はいつもいつも、人材を占有する。いや、『陸』の上層部も悪い。今度のような事件はレアケースに過ぎないと、タカを括っている。どいつもこいつも、危機意識というものに欠けている!
それを宥めながら、「すまんな」と、ゼストは胸中で呟いた。レジアスの話は聞いていたのだが、訓練と、あと訓練と、それから訓練とかで忘れていたのである。……と、ここにもバトルマニアが一匹。
…。
……。
………。
その日、レジアスは珍しく泥酔し、ゼストに支えられて帰宅したという。
「おお、オーリス。み、水を。……ぐ、ぐむぅうぅおぉぉおおお!」
……年頃の彼の娘は、一週間口を聞いてくれなかったそうな。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
そして、四月の第二土曜日。月村家の縁戚の地所で、花見の席が設けられた。
参加するのは、アースラスタッフを始めとする時空管理局の関係者と、高町家、ハラオウン家、八神家、月村家、バニングス家の面々で、総勢でなんと50人近くになる。
その日は恭也にとっても、実は特別の日だった。彼の研修期間が、丁度その日、終わることになっているのだ。
「――それでは、今日の良き日に、かんぱーーい!」
「「かんぱーい!!」」
開幕の音頭をとるリンディの挨拶が終わって、エイミィの「知っている人ばかりで固まらないで――」という言葉を無視して、恭也は友人の赤星と、月村すずかの姉である忍と3人で集まった。
二人共、恭也が呼んだのである。今日は、話すべきことがあったのだ。
「久しぶりだな、高町。いやー、お前もついに魔法使いになったかー」
ぶほっ、と緑茶を吹きそうになって恭也は咳き込んだ。
「なぜ知っている。というか、ついに、とはなんだ」
「あ、犯人あたしー。いや、ごめんごめん、てっきりもう知ってると思って」
月村がてへっと笑った。まあ元々話すつもりだったし、リンディの挨拶で時空管理局とかの単語も出ているので、今更なのだが。
赤星は、正直なんて言ったら良いかわからん、と苦笑い。
「まあお前のことだから、俺もそれほど驚いてないんだが」
「俺の事をなんだと……」
憮然とする恭也。だが、赤星はすぐに笑みを消して真剣な面持ちになった。
「もちろん、友人だと思ってるさ。……こんな大事なことを黙ってるような奴でもな」
「……すまん」
管理局入りするに先立って、家族や信用できる友人になら、魔法世界のことを話しても良いリンディから言われていた。しかし、当初は魔法を覚えることが目的で、何も管理局に永久就職するつもりもなかったから、誰にも話すつもりはなかった。とはいえ、魔法を覚えるのにいつまで掛かるかも知れないため、大学には退学届けを提出した。のだが、別の大学の赤星はともかく、同じ大学に通う忍には退学届けの理由も上手く話せず、結局洗いざらい話すことになってしまったというわけだ。
月村は、機械系は得意だし、自分も管理局に入れないかな、とかなりしつこく食い下がったが、その時は研修生で、もうじきやっと平局員となる恭也には、どうにもできない問題だった。
もしかしたら、リンディにお願いしたら、あるいは良いように計らってくれたかもしれない。だが、子どもじみた意地かもしれなぎが、それだけはしたくはなかった。
「でも、そうやって話すってことは、向こうに骨を埋めるつもりになったってことか?」
「そこまで大げさな話じゃないが、そうだな。向こうで俺にやれることがあるまでは、な」
「そっか、遠くに行っちゃうんだね、高町君……」
忍は泣きそうな顔を一瞬だけ覗かせると、すぐにいつも通りの笑顔になった。
「あーあ! 折角桃子さんに頼んで、高町君の退学手続きを休学手続きに変えてもらったのになー」
「……初耳だぞ」
でもありがとう、かーさん……。と、恭也は母をありがたく思った。その配慮と、それを言わないでおいてくれた気遣いが、有難い。
「まあ遠くに行くとは言っても、ちょくちょくは戻ってくるつもりだがな」
「そんなに簡単に行ったり来たり、出来るもんなのか?」
「本当はそうでもないんだが、なのはが義務教育の間はこっちの世界に住むつもりのようだから、ついでに一緒に戻ってくる、ということはできる」
だが、月村が言っているのはそういうことじゃないということぐらいは、朴念仁の恭也にもわかった。
「まあ、お前らが俺にとって大切な……存在だということは変わらない。なにかあったら、必ず助けになる」
「おう! お前も、なんかあったら言えよな?」
「……うん」
ありがとう、赤星。暇があったら美由希の相手をしてやってくれ。
すまない、月村。お前にはそれしか言えない。
「ほら、これからお世話になる人達に、挨拶周りとかあるんだろ?」
「ちゃんと上司の受け良くして、早く偉くなってね。……あたしを迎えに来れるぐらいに。――――恭也」
「……ああ、きっと。月む、――――忍」
「月村……」
「ごめん、赤星君。あたし、もう帰るね」
顔を逸らす直前、涙が流れているのを赤星は見てしまった。
「あ、ああ」
「だいじょーぶ! 言いたいことも半分ぐらいは言えたし、聞きたい言葉も……、半分ぐらいは聞けた。今は、これでよしとするよ!
そう言って振り返った顔は、涙目でもさっぱりとしていた。強いな、と赤星は心から思った。そして、自分の役目じゃないとわかりつつも、気の利いたことがなにも言えないのに腹が立つ。
「そうか。……じゃ、送っていくよ。俺も、聞きたい言葉は聞けたし」
「大切な、存在?」
恭也も慎重に言葉を選んだのだろうが、際どい台詞である。加えて二人とも、いわゆるイケメンというタイプではないが、美男子の部類で、文句なしに鍛え上げた肉体の持ち主だ。
だから、忍は冗談めかしてそう言ったのだが、
「ああ」
と、赤星は平然と頷いた。
「……恭也もそうだけど、赤星君も大概鈍いよね」
「その点であいつと比べられるのは、心外だ……」
「どうかなー?」
そして二人は会場を後にした。もう一人の大切な存在に、心の中でエールを送りながら。
恭也はまず、同じアースラスタッフで、武装局員で捜査スタッフのリーダー、ギャレットに挨拶をして、自身が志す道、希望する進路を伝えた。クロノはもちろんだが、直接的にお世話になったのは彼も同様なのだ。
そして、ギャレットは、「難しいだろうが、頑張れよ」という力強い励ましの言葉を送ってよこしたのだった。
一方、この花見の企画者+はやての、年少組五人娘はというと、
「さて、それじゃあボチボチばらけよっか!」
というアリサの号令の元、それぞれの親しい人、世話になった人間の元に向かって行ったのだった。
その中でも、フェイトが恭也と直接話したいらしい、と事前にクロノから聞いていた恭也は、周囲を見渡して誰かを探している格好の彼女に話しかけた。
「やあ、フェイトちゃん。今度のことは……」
と言いかけて、結局恭也は言葉が出なかった。
フェイトがミッドで起きた事件のこと、母親のことで悩んでいることは、美沙斗からも聞いていた。ミッド地上本部も、そのことでは一向に捜査が進まないらしく、焦れた挙句にフェイトの召喚を本局に求めたという。それでレジアスやゼストのことを責める気には、恭也はなれなかった。ただただ、やるせないと思うばかりだ。
結局それは、リンディは強硬に拒否したことで流れたという。そんなことをこの幼い少女の耳に入れるリンディではないが、それでもそういったことは、どうしても漏れてしまうものだ。まして、フェイトは極めて聡明な(非常に不幸なことにだ)少女である。わからないわけがない。
「あの! こちらこそ、ご迷惑を……」
対してフェイトも、事前にこれでもかというほど考えてきたのに、結局言葉にすることが出来なかった。お礼を言うのも、おこがましい気がした。でも謝るのも、やっぱりおこがましい気がした。
だからフェイトは、言葉に出来ない思いを抱えて、泣きそうな瞳をそれでも叱咤して、精一杯の気持ちを込めて恭也を見つめる。
恭也は、「君のせいじゃない」と声を大にして言ってやりたかった。だが、既に皆に言われていることだろうことは、考えるまでもなかった。だから、結局にも何も口にできず、
「あ……」
万感の思いを籠めて、恭也は黙ってフェイトの頭を撫ぜた。こんな少女が、妹の親友でいてくれることが、嬉しかった。
今まで感じたことのない、ごつごつとした手の感触に、フェイトは目を細めて涙腺が決壊しそうなのに耐えていた。恭也はそれでも、その小さな頭に載せる手を離そうとしなかった。
二人から離れたところでは、恭也と入れ違いにギャレット達に挨拶をしていたなのはが、じっと親友と兄、二人の様子を伺っていた。
「……不器用だなぁ、二人共」
そう呟くなのはは、じんわり潤んだ瞳で、それでも嬉しそうに微笑みを浮かべていた。
「本当に、そうだね」
「あれ? ユーノくん!」
一時は高町家に居候、というかペットになっていたユーノだが、最近は本局の無限書庫で働いているから、こうして会うのは久しぶりだった。
そして彼もまた、フェイトの境遇を痛ましく思い、彼女がこうして光の当たる道に出られたことを嬉しく思っている一人だ。優しげな表情で、なのはと喜びを分かち合う。
さて、そうしたやり取りに気付かない恭也ではない。フェイトと別れた恭也が、凄まじい仏頂面(単に照れ臭いだけ)で、二人のところへやってきた。
目が合うと、なのはが満面の笑顔になる。これが高町母やもう一人の愚妹だと、さぞや意地悪い笑みを浮かべるのだろうが、まあその笑みの無邪気なこと。それがまた、可愛いと言えなくもないわけで。
「――そういえば、ユーノ君も、こないだは大変だったそうだね」
ついっと目を逸らした恭也が、とてつもない仏頂面で(もはやユーノにすら表情の意味がわかる)、話しかけた。
そして、「はえ?」と疑問符を浮かべるなのはに、ざっと説明する。結界魔導師としても高い評価を受けているユーノは、先日の事件で、ミッド地上に貸し出されていたのだ。本局の人間ではなく、厳密には民間人だから、というのも、地上に派遣された理由の一つかもしれない。
それを知ったのは、恭也も実はつい先日のこと、本局に戻ってクロノに教えられたのである。
「まあ、事件の最後の数日だけだけどね。それに、結局現場の最外縁部で待機してただけだし……」
と謙遜するユーノだったが、恭也は首を振って、「お陰で心置きなく働けた」と断言した。
実際、事件後に改めて考えると、どれだけ多くの人間が事件に関わっていて、自分がどれだけの期待と重圧を背負っていたのか、思い知ることしきりだ。それに、結局ユーノような後方の人間とは顔を合わすことはなかったわけだが、事件の最中も現在も、そうした顔も知らない人間が働き続けているわけだ。
もしかすると、恭也にそれを考えさせるため、クロノはユーノのことを教えたのか、というのは、さすがに考えすぎか。
「そういえば、クロノ執務官のことを見かけないが……」
こういった席でも、あくまで敬称をつける恭也だ。まあ単に、公私の区別をつけるのに慣れていないというだけなのだが。
年上の恭也の馬鹿丁寧な態度に、クロノが若干居心地の悪さを感じていることを知っているなのはと、「君にも、もう少し目上の人間に対する敬意を払ってもらいたいものだが?」と嫌味を言われている(お断りだよ執務官殿!)ユーノが、人知れず苦笑をした頃、三人の食欲を刺激する、ソースが焼ける匂いが漂ってきた。
「……よし。はい! 焼きそば五人前、完成です」
「あー、ありがと、クロノ君。ごめんね、手伝ってもらっちゃって」
みるみる焼き上がったそれを手早く紙皿に盛りつけながら礼をする美由希に、クロノは「いえ」と手を、というかヘラを振ると、
「エイミィがふらふら出歩くのがいけないんですから」
誰かが持ち込んだ鉄板セットに、材料も揃っているからとエイミィが作り始めたのだが、注文を取るだけ取って、どこかへ行ってしまったのだ。
憤慨する少年に苦笑すると、美由希は話を逸らすように、
「でもクロノ君、なにするのも手際いいねえ。お姉さんはびっくりだよ」
「士官学校では、サバイバルもやりましたから」
とはいえ、話しながらも油を引き直し、もう具材を焼き始めている。その手並みに、「へえー、すごいねー」と、美由希はもう一度感嘆の息を吐いた。
「ん? 士官学校って言うと、なのはもそういうのやるのかな?」
「なのはは、武装隊の方ですから、僕とはコースが少し違うと思いますが、やると思いますよ」
「そ、そうなのか……」
美由希は絶句する。彼女の中では、なのははまだ小さな子供なのだ。そのなのはが、自分も兄にやらされたようなことをやるのかと思うと……。
「……甘いぞ、美由希。あれしきをサバイバルと言えるか」
そうした美由希の内心を読み切った恭也が、音もなく忍寄り、言った。
「わ! きょ、恭ちゃん……。と、なのは、ユーノ」
恭也は三つ編みを逆立てんばかりに驚愕する愚妹(未熟者め)に冷たい視線を向けると、さりげなく調理をクロノと交代する。
クロノから見ても、「さすが喫茶店の息子ですね」と言う手つきを披露しながら、恭也の脳裏にあるのは、まだ高町の姓になる前のこと。父と雪山に遭難寸前になった時のことだ。あの時なめた乾パンの氷砂糖。甘いものをあれほど美味しく思った記憶は、恭也にはない。全ては士郎の無謀無計画無鉄砲が原因なのも忘れ、あれを差し出された時は感謝と感激に咽びそうになったものだ。
そういう父とは違って、きちんと計画性のある恭也は、美由希との山篭りの折りも入念な準備を欠かさなかった。
「お前にあの味を味合わせてやれなくて、すまなかったな」
影のある笑みを浮かべる恭也。春まっさかりなのに、なぜか寒風が吹いた。
「さ、さすがにそこまではやらないと思いますよ」
言いながら、<10歳の女の子にそんなことをやらせるほど、時空管理局は冷徹な集団じゃないよ……>、とこっそりなのはに念話するクロノは、大した気配りの人である。
まあこれも、バリアジャケットさえあれば成層圏の単独飛行も可能なことがわかっているからこその、恭也なりのブラックジョークなのだが。……ちなみに当時、恭也は10に満たない年齢だったりする。
「と、あー、ごめんごめん。おまたせー!」
と、丁度会話が途切れた時、どこかへ言っていた通信主任、エイミィ・リミエッタが戻ってきた。彼女は調理をしているのが美由希でもクロノでもないことに驚いて代わろうとするも、恭也はそれを手振りで制した。
そして、ギャラリーが増えたのと興が乗ったのを良い事に、恭也は「美由希は料理が壊滅的でな」と、ぽつりと呟いた。
先ほど美由希と山篭りしたと言ったが、その時もそうだったのだ。
入念に支度をする恭也は、山では手に入らない米や味噌や塩等の調味料だけは、欠かさず持って行った。そして、それを美由希に、つまりは師範代として弟子に任せることもあるわけだ。そしてある年、美由希は米や味噌はさすがに間違えなかったが、塩と砂糖を間違えるという定番のお約束をしでかしたのである。山篭り中の主なタンパク源は川魚になるわけだが、塩味は欠かせない。まあ、急遽味噌焼きに変更して事なきを得る、……ことは出来なかった。今度は焼き魚を炭に変える、という芸当をしてのけたのである。
怒り狂った恭也は、その日の美由希の晩飯を砂糖のみとし、しばらくの間「カーボン」と呼んでやった。
「ま、また懐かしい人の恥部を……」
「ふむ。……ではもう少し新しい話をしようか」
その翌年のことだ。ちゃんと確かめろと厳しく厳しく厳s(以下略)、言い聞かせたにも関わらず、美由希は今度は塩を味の素と間違えるという神業をやってのけた。その晩の美由希の食事に関しては、言うまでもないだろう。
「とまあこういう生き物でしてね。私が料理をせざるを得なかったわけです」
ともあれ、「美由希も料理上手くなったわね~」と桃子から言われるようになるまでには、こうした兄の不断の努力があったのである。
エイミィが爆笑しているのを確認すると、恭也は満足そうに微笑した。
いつもは「お姉ちゃんをいじめちゃいけません」というなのはも、フォローのしようがなくて困った顔をしていた。
その後随分して、ようやっと回復したエイミィが料理を代わり、恭也と美由希は休憩に入った。
「もー、ひどいよ恭ちゃん」
「構わんだろう。今はもう、そんなことしないだろ」
したら許さないくせに……、と拗ねる美由希の頭に、恭也は軽く手を置いた。
「これからも、精進しろよ、料理。まあ、たまには、食べに帰ってやらんでもない」
――なのはと俺がこうなったからには、翠屋を継ぐのはお前しかいないんだから、な。
「……恭ちゃん?」
美由希は戸惑った顔をしたが、兄のいつもの仏頂面に何かを感じ入ったのか、「うん」と、しっかりと頷いた。
思えばこの三ヶ月というもの、随分と知り合いが増えた。
それは即ち、新たなしがらみ――恩義や借り、ができたということでもある。
始めはただ、強くなるため。自分にあるという魔法の力を使いこなせるようになり、一度完敗を喫した魔導師に、雪辱するためだった。だが、そうも言っていられない事件が起きた。どうやら、自分の能力は魔法世界でも通用するらしい。
そしてもう一つ。
――偉くなって、か。
そんな目標までできてしまった。
だが、全部叶えて、全部護って。鍛え覚えた御神の技は、きっとそのためのもの。
そのためにはまず、自分の決意を認めてもらわなければいけない。
「リンディ提督、レティ提督、このような席で申し訳ありませんが、聞いていただきたいことが、あります」
そう、この二人に。
「おお、どうした。進路相談か? それとも恋愛相談か?」
余計なのもいるが……。父の手には焼酎だか日本酒だかの入ったコップがある。恭也はその酔っ払いのことを意識から削除してやった。
リンディはうふふ、と微笑すると、
「それで、お話って?」
「ちなみにリンディは独身、未亡人よ。私は……、ひ・み・つ!」
レティは黒い笑みを浮かべると、なみなみとワインを注いだグラスを恭也に突き出した。目が据わっている。どうやら完全に出来上がっているらしい。真っ先に来るべきだったか? と諦めの溜息を吐いた後、一口、二口、なんとかむせずに嚥下する。
「……リンディ提督、レティ提督。お陰様で魔法も多少は使いこなすことができるようになり、研修期間も無事に終えることができそうです」
うん、とリンディは頷いた。ふぅん、とレティは鼻を鳴らして、恭也のグラスにまたとぽとぽとワインを注ぐ。……これで真剣な表情を保てるのはずるいと思う。
「お二人に、私がこれから志す道を、どうかお許しいただきたいと思います……」
と、恭也は語りだした。
質量兵器や管理外世界の捜査を担当する捜査官になりたいということ。対銃器との戦闘を想定した御神流なので、時として大っぴらに魔法が使えない管理外世界での活動には向いていると思うこと。
そのためには、引き続き次元航行部隊に所属することが向いているであろうこと。高位魔導師が多くいる本局なら、レティに用意してもらったデバイスを、より上手く扱えるよう訓練するのにも適しているであろうこと。
一方ならぬ世話を受けたレティには、また困難な事件があれば、いつでも出動を要請して貰いたいということ。それには、レティと友人であるリンディの下で働かせて貰えれば都合が良いだろうこと。
これらは全て、実はクロノと相談した上で決めたことだったりする。もちろん、恭也の希望や適正を鑑みているが、「どうも母さん達が張り合っているようで……」というクロノの苦慮も反映されている。
正直、一体自分の何を買って……、とも思うのだが、今はただ、二人の期待に精一杯応えよう、と恭也は思っていた。
「ええ、良いと思うわ。引き続き『アースラ』で、よろしくね」
「まあ、もしもって時に力を貸してもらえるなら、ね。精々、投資した分を返してもらいましょうか」
果たして、ようやっと正式な局員となった捜査官の卵の熱意と、中間管理職の執務官の配慮は、二人に通じたようだった。
「ゆくゆくは、……叶えばですが、自分の技能が管理局で役に立つのなら、教導官としてそれを伝えていければ、とも思ってます」
遠慮がちに、「まだまだ夢物語ですが」と付け加える恭也だったが、役に立てられるだろうという自負はある。近接系のシグナムが恭也と模擬戦をしたがることが、それを証明していると言える。
「向こうで御神流を教えるつもりか?」
「そこまで厳密に考えているわけじゃないが……」
だが、御神流の技の多くは、魔法やデバイスの助けがあれば、かなり似通ったことはできるのだ。そうした高レベルの近接戦闘技能を考案し、教えていけられれば……、とクロノに相談したところ、「それなら戦技教導官でしょう」と太鼓判を押されたのだった。
「なら、まず恭也君の剣術を、希少技能として申請してはどうかしら? 認められれば、教導官の道がぐんと近くなるわよ?」
「あら、それならまず、恭也さんの実力に見合った魔導師ランクを贈るべきでしょ?」
一度は収まったかと思えたが、レティとリンディの間でまたも火花が散り始めた。
「いえあの、俺は魔導師としてはまだまだですからランクなどは、まだ……」
と、冷や汗を流しながらまずリンディに。そして、
「それに希少技能というのも……。まだまだ未熟者ですし、俺は普通の人間ですよ」
とレティに。御神流は人間の潜在能力を限界まで引き出せるだけで、確かに才能による差はあるものの、基本的には誰にでもできる。――正確に言えば、その可能性があるものなのだ。
まあリンディとレティがあくまで自論にこだわろうとしているのは、恭也の優等生的な回答がちょっとつまらない、という二人のちょっとした稚気である。だから、恭也のその説明で、すぐに発言を納めた。……何故か恭也の後ろを、苦笑して見ながら。
「高町恭也。今の言葉の意味を説明してもらおう」
「あたしのはやてが、普通の人間じゃねーとか言ったか? あ?」
「あたし達の、よ」
チャキ、とレヴァンティンとグラーフアイゼンが鳴った。そしてクラールヴィントが、ペンダルフォルムとなって恭也の後頭部をツンツンと突く。その足元では、ザフィーラが唸り声を上げていた。
そして、離れたところでははやてが、「う、うちは確かに普通とちゃいますが……。よ、よ、よ」とか(嘘)泣きをしていた。
――ああ、そういえばはやてちゃんって……。
闇の書の蒐集機能がレアスキル認定されているのだったか。
当然勿論そんなつもりは全くもって欠片もないのだが、――正直、君は普通じゃないと思うぞ……? と、思う恭也である。口に出せるはずもないが。
ヴォルケンリッターとしても、恭也が悪意からした発言でないことぐらい、無論承知の上だ。だが、――貴様が普通とか抜かすか……? というのが、その逆鱗にふれた理由である。
「あーあー、泣ーかーしーたー!」
と、今にも先生に言いつけそうな口調で士郎が追い打ちをかけ、恭也の神経を逆撫でする。そちらに対して遠慮をする理由が全く思いつかなかったので、恭也は無言で飛針を投擲した。
旧い負傷により、戦士としては完全に故障した士郎だが、一瞬だけなら、身体の一部だけならば、問題なく動かせる。ほとんど視線も体勢も変えずに、手にしたフォークでそれを絡め取った。――うむ、悪くない速さと正確さ。暗器の扱いならもう自分を超えたか。が、狙いが正確すぎて、逆に防ぎ易い、減点1。だが、場所柄を弁えてちゃんと刃を落としてあるのを使った配慮はGOOD。……などと冷静に評価をする士郎は、やはりどこまでも逸般人である。
ともあれ、その場の人間の意識が士郎の方を向いた瞬間、恭也は神速を発動していたのだった。
「ちっ! いねえ!?
「逃したか……。まずいな、地の利は奴にある」
「安心して。逃がさないわ」
最後に狼の唸り声が低く響いた。あたかも「やれやれ」とでも言うかのように。
その四人を、彼等の主が「ほどほどになー」と見送った。
「どうか、しましたか?」
若い子達は元気ねー、と残された年長組が苦笑いする中、どこか呆然としている士郎に向かって、リンディは問いかけた。
「ああ、いえ。……上手く言えないんですが、皆さんにはいくら感謝してもしきれません」
こんな大勢の人前で、息子が御神の技を見せたことに、士郎は驚きを隠せなかった。
御神の技は裏の世界のもの。不破は、更にその闇のもの。誰にも褒められず、剣に誇りを持つこともない。
昔、美由希が一度、その技を人に見せて嫌われ、泣きながら帰宅してきたことがあった。そう、他人から見れば卑怯な、実際は卑怯という概念さえない、ただの殺人術。
だが、御神の技を異端としない者たちが、ここにいた。
士郎も一時、警察官等に武術を教えていたことはあったが、御神流を教えていたわけではない。教えようとしてもとても身につくものではないし、そもそも殺人剣――いや殺人術を教えるわけにもいくまい。
その殺人術が、不破も御神もない文字通り別世界で、魔法の力と共に生まれ変わろうとしている。
「御神真刀流、さしずめ、魔剣術ってところか……」
それを息子がやろうとしている。不破の恭也が、殺人剣を活人剣としようとしている。
さぞや険しい道なのだろうが、痛快だな、と士郎は笑った。
血塗れた剣を、それでも大手を振るって場所。
そんな場所を息子が見つけたことが、ただただ嬉しかった。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
会場の近くに山肌を露出する結果を残した花見も閉幕し、、――5月。
『闇の書』事件からもうすぐ半年が経とうとする頃のこと。
恭也に遅れること約一月。なのは、フェイト、はやての3人も、仮配属期間も無事終了し、正式に時空管理局に入局した。
「えへへ。お兄ちゃん、似合う?」
そう言ってはにかむなのはは、武装隊の士官服である白いジャケットだ。……これがまた、似合うと言わざるを得ない雰囲気を醸し出しているわけで。
恭也はなのはの頭をポンっと撫でると、何枚か――何十枚か写真を撮った。これがここに恭也がいる理由、である。管理局の制服がわざわざ管理外世界に送られるわけもなく、そうなるとなのはの制服姿が見たい高町母が黙っているわけもないわけで、こうして頼まれたのだった。
「面倒な手続きが必要なのだが……」
などと渋々請け負ったのも忘れて、パシャパシャと真剣にシャッターを切る恭也は、やはり兄バカか。
「……こんなものか」
と言ったときには、デジカメのメモリは殆ど残っていなかった。
「それで、今日はどうするんだ?」
「うん。レイジングハートの補強調整が終わる予定だから取りに行って、調整後慣らしをして。それに折角本局に来たんだから、ユーノ君の様子も見ておきたいなー、って」
「そうか」
そしてその場は離れたのだが……。
「えー、とゆーわけで。久しぶりの集団戦です。ベルカ式騎士対ミッド式魔導師。5対5のチームバトル~!」
むやみに楽しそうに開幕の挨拶をするのは、はやてだ。
恭也が何故か呼び出しを受けて演習場に行ってみれば、この状況だった。
「どういう状況だこれは……」
そのぼやきに答えたのは、直前に入って来てやっと状況を知ったらしいなのはとユーノ。
「デバイスの調整後慣らしのはずが」
「模擬戦って感じらしい、です」
訊くまでもなかったか、と恭也は溜息を一つ。
「なんだ、人数合わんじゃないか」
なのはにユーノに、クロノと執務官候補生となったフェイトに使い魔のアルフ。特別捜査官候補生となったはやて、その補佐とな
ったヴォルケンリッター。そして自分で11名。既に回れ右しながら、恭也は指摘した。
「出来れば僕の代わりに出ていただけないかと……、この顔ぶれだと、僕は演習場の護りに集中したいので」
「……苦労をかけるな。ユーノ君」
なのはとの仲は応援せんが。
「まあ、何事も諦めが肝心かと」
しかめっ顔で溜息を吐くのはクロノだ。横ではザフィーラがゆっくりと首を振った。……彼らとは、今後とも仲良くできそうである。
「リーダーはミッドチームクロノくん。ベルカチーム八神はやて」
「恭也さんはクロスレンジで掻き回して下さい。フォワード組ははやてとシャマルの捕獲か撃墜を最優先。なのはは距離を取って火砲支援だ」
「了解」
こういうのはもう付き合わないようにしようと思ってたんだがな……。このレベルの集団魔法戦で出来ることなどたかが知れている。だが、散々の結果に終わった前回の集団戦から、どれだけ進歩したのか確かめるのも、また一興か。
その後、逃げの一手でシグナム、ヴィータの猛攻を凌ぎ切り、3人娘全力全開の砲撃をザフィーラを盾にしてやり過ごした恭也は、ただ一人殆ど無傷で模擬戦を終えるのだが……。
「ちょこまか逃げ回りやがって、台所に出るあいつみてーだな」
「結局、一太刀も浴びせられなかったか、つまらん」
「俺まで盾にするとはな。まあ、大したものだと言っておこうか」
何故か白い目で見られて、二度と参加しないと改めて決意するのだった。
あとがき(愚痴)
後日談ということで、これでお終いです。
ちなみにお花見はサウンドステージ第14話。最後の模擬戦は漫画版最終話のエピソードなので、そちらを知ってないと辛いかもしれません。
去年に書いたバージョンで一度書いていたものですが、細部と構成を変えてますのでご容赦を。本当はそれを節目として、「その3」や「その4」で書いたような事件を捜査官として解決していき、いずれはSTSまで、と思っていたのですが。遅筆ぶりからわかるように息切れしました。
ですので、こうして構成を変えて、切りの良いエピソードなのでこういった形にしました。
始めて書いたSSで、なんとか完結させられたので、まあこれで良しとしたいと思います。
しかしまあ、反省することしきりですね。
次回また書くことがあれば、もっと戦闘シーンを増やして、カップリングも考えて、砂糖を吐くような描写を入れて……。正直息切れした主な原因は、「こんなの読んで誰が喜ぶだろう?」って疑問に思っちゃったからですし。
あとは一回にまとめて投稿せずに、小出しに定期的に更新すれば、人目にも付き易いんでしょうか。