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No.11047の一覧
[0] 【ネタ】しにたがりなるいずさん 第一部完+番外編 (ゼロ魔)[あぶく](2011/05/23 00:59)
[1] しにたがりなるいずさん 2[あぶく](2010/04/25 20:18)
[2] しにたがりなるいずさん 3[あぶく](2010/04/25 20:18)
[3] しにたがりなるいずさん 4[あぶく](2010/04/25 20:19)
[4] しにたがりなるいずさん 5 前[あぶく](2009/11/15 22:25)
[5] しにたがりなるいずさん 5 後[あぶく](2010/04/25 20:20)
[6] しにたがりなるいずさん 6 前[あぶく](2010/04/25 20:20)
[7] しにたがりなるいずさん 6 中[あぶく](2010/08/29 14:57)
[8] しにたがりなるいずさん 6 後[あぶく](2010/09/12 16:59)
[9] しにたがりなるいずさん 7の1[あぶく](2011/01/30 18:19)
[10] しにたがりなるいずさん 7の2[あぶく](2011/01/30 18:19)
[11] しにたがりなるいずさん 7の3[あぶく](2011/03/07 23:53)
[12] しにたがりなるいずさん 7の4[あぶく](2011/05/01 22:04)
[13] しにたがりなるいずさん 番外編[あぶく](2011/05/23 01:01)
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[11047] しにたがりなるいずさん 2
Name: あぶく◆0150983c ID:966ae0c1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/25 20:18
 夢を見ていた。

 小さな舟の上に幼い私がいる。泣きじゃくる私。ふと顔を上げると、体の上に覆い被さってくる男の人の影が見えた。
 やさしい声が囁く。
(いいんだよ、ルイズ。そんなに怯えないで――)
 私はその優しさに、小鳥のように胸を震わせる。
 この人なら、と思う。この人なら私の望みを叶えてくれるんじゃないだろうか、と。
 だから、近づいてくるその大きな手に願いを告げた。
(ししゃくさま、わたし、わたし――)



「死にたいの」

「え゛」



 目を開けると其処には使い魔がいた。寝台に眠る私の顔を覗き込む、黒い瞳。
 何をしているのだろう? 肩口に置かれた両手を不思議に思っていると、少年はばっと体を起こして退く。なにやら、違うんだ、とか言っているけど、何が違うのかよくわからない。
 私は、のそのそと起き上がった。寝起きでぼーっとしたまま、なぜか濡れていたまなじりを手の甲で拭う。まだ日は昇っていない。けれど東の空は既に少し明るくなっていた。

――ああ、また一日が始まるのね。

 ふう、と息を吐く。
 その間、なにやら焦ったようにわめいていた使い魔は――いつの間にか部屋の片隅で正座になっていた。

「何か叱られるようなことでもしたの?」
「えっ!? イ、イエ、何デモナイデス! 今日モ良イオ天気デスネ、ゴ主人様」
「そうね。――で、なんであんたは此処にいるわけ?」
「ギクッ」

 何言ってんのよ?
 視線をさ迷わせる使い魔を胡乱げに睨む。あんた、まさか――

「ツェルプストーの部屋と間違えたとか?」
「……」

 妙な間をたっぷりと空けた後、使い魔はコクリと頷いた。ドジねえ、と思っていると、その背中のインテリジェンスソードがなにやらガチャガチャ。

「…………なあ、相棒。俺は剣だからよくわかんねーけどよ。本当に、ホントーに、その『選択(こたえ)』でよかったのか?」
「じゃあどーすりゃよかったんだよっ!!?」

 突然泣き顔で叫び出す使い魔。近所迷惑だからやめなさいよね。

 朝から騒々しい使い魔に、気づけば私も一日の始まりの憂鬱を忘れていた。






*** しにたがりなるいずさん 2 ***






 その翌日の晩のことだった。
 そろそろ寝ようかしら、と思っていると、アンリエッタ姫殿下が自室に遊びに来た。昼間公務で学院に来られていたのは知っているけど――
 とりあえず椅子が学習机用のものしかないので、寝台に腰掛けていただく。

「自室に人を招くことがないので、申し訳ございません」
「あら。じゃあ、私が初めてのお客様なの? 光栄だわ」
「そうですね、お招きした覚えはないですけど」
「……ルイズ、つれないですわ。私達、幼なじみですのに」

 悪びれた様子もなく、ぷくぅ、と頬をふくらませる姫殿下。その仕草に幼い頃を思い出す。そういえば、昔からお忍びとか悪戯とか大好きだったわね。
 この方も私とはだいぶ違う人種だ。

 幼い頃の思い出話で盛り上がった後(半分以上私は忘れていたけど)、本題らしい相談を受けた。全てを聞いた後、どうすればいいのかしら? と問われたので答える。

「枢機卿に全てお話になれば良いんじゃないですか?」
「ルイズぅ」

 外見年齢五十代の灰色帽子に乙女の恋心が解るとは思えない、と訴える姫殿下。
 結局乙女の本意は、どうにかして誰にも知られずにブツを取り返したい、ということらしい。まあ、昔の手紙、それも恋文が他人の手に渡るのは嫌だというのは私にもわかるけど――あ、そっか。

「なら、私が取りに行きますわ」
「いいの!? ルイズ!!」
「初めからそのおつもりでしょう?」

 えへへ、と笑って誤魔化すアン。確か彼女の方が年上だったと思ったんだけど……。
 まあ、それはいいわ。というか――こんな絶好の機会を与えてくれた『おともだち』には、いくら感謝をしてもし足りないくらい。
 でも、ひとつ問題がある。
 常日頃、他人の迷惑がかからないように死ぬ方法を考えていた私には、それがはっきりとわかった。

「姫殿下。畏れながら――」

 つまり、公爵家の娘を護衛もなしに内乱中の国へ派遣するのは拙いということ――下手をすれば、私の実家が王家に叛旗を翻す。そうなれば、別のかたちで国が滅びるわ。

「そ、そうですわね。もちろん大切なおともだちに、そんな危険なことはさせません」
「有り難いお話ですわ。それでは護衛役の手配をお願いいたしますね」

 話がついたところで、帰っていただく。



――さあ、準備をしなきゃ

 少なくとも王子様と話をして手紙を受け取るのは大使である私の役目。そこまではちゃんと行き着かないとね。それと――
 一番大事な作業に取りかかる。このときのためにと用意しておいた、とっておきの上等な羊皮紙。上の姉に譲っていただいた羽ペンとお気に入りのインキを机の上に揃える。

――さて、どうしようかしら……。

 “王家に忠誠を誓う『貴族として』祖国の窮地を救う為に微力ながらも尽くしたいと思い『自ら』この御役目を申し出た”、とでも書き遺しておけば、家族も納得してくれるかな。
 私の父母も国家存亡の大事に、身内の情で徒に国を騒がすような人間ではないと思う――たぶん。



***



 翌朝、待ち合わせの場所には何故かクラスメートのグラモンがやってきた。護衛役(兼、最終的に手紙を運ぶ人間)がまさかコノ男? と思ったのだけど。
 なんでも昨晩の話を立ち聞きしていて、自分も参加したいと姫様に直接頼み込んだらしい。――使い魔といい姫様といいこいつといい、女子寮の警備ってどうなっているのかしらね。

「ねえ、グラモン。この任務が危険なことはわかっているわよね、」
「もちろんさ」
「じゃあ……もしかして、『平民』に負けて自棄になっている?」
「……ヴァリエール。君もナチュラルにひとの傷をえぐるね……。て、そう言えば、あいつは? 馬でも取りに行っているのかい?」
「使い魔のこと? まさか、連れて行かないわよ。あいつには食堂の仕事があるもの」
「え?」

 いや、でも――と何やら言っている頼りない同行者の様子に首を傾げていた私は、次に現れた人物を見て、思わず呟いていた。

「アン、ナイスだわ」
「は?」

 困惑したように首を傾げる青年貴族に、微笑み返して誤魔化す。

「お久しぶりです、子爵様」

 実家のご近所さん、ワルド子爵だった。小さい頃はよく遊んでいただいた。現在は魔法衛士隊の長を務めていらっしゃるはず――。

「ああ、すまない、すっかり無沙汰をしてしまったな。十年ぶり、かな?」
「ええ。こうして、お目にかかれて嬉しいですわ」
「そうか――もうすっかり大人になってしまったみたいだね、僕のちいさいルイズは」
「あら、そんなことはございません。ほら、今でもこうして簡単に持ち上げられてしまうんですから」

 彼の腕の中で、そのすっかり逞しくなった首や体を眺める。そのとき――

「うわ、ゼロのルイズが笑ってる……」

 グラモンの呟きに、子爵様がいぶかしげに首を傾げた。

「ゼロ?」
「私の二つ名ですわ」

 由来を聞いて、子爵様は眉をひそめる。まあ、あんまり誇れる話でもないわよね。

「他者の努力が報われないさまを嘲うとは、紳士的とは言い難いな、」
「そ、それはその――」

 なにやらグラモンを睨みつけている子爵様。いや、そんなことはどうでもいいですから……。仕方なく私はその二の腕に触れて注意を惹いた。

「子爵様。そろそろ、いきましょ?」
「あ、ああ――そうだね、僕のルイズ、」



 ***



 目的地アルビオンへはラ・ロシェールという港町を経由することになる。私は子爵様のグリフォンに乗せていただいて、その町にたどり着いた。
 子爵様が船便を確認している間、宿で落ち着いていると、しばらくしてグラモンがやってくる。

「けっこう早く追いついたわね」
「……これでも、元帥、の、息子、だから、ね、」

 ぜえぜえ、と盛大に息切れしながら言う。本気で馬を駆けさせたのだろう、自慢の金髪から汗が滴っていた。

「――はい、お水」
「あ、ありがとう」
「子爵様がいるんだから、無理しなくて構わなかったのに」
「……ほんと、キツイな、君……でも、そうはいかないよ。姫殿下と直接約束したんだ」

 なんでも姫様に「おともだちを助けてくれ」と言われたらしい。
 姫様ったら……。
 誰彼構わず、フラグをまき散らすのはあまりよろしくないと思うわ。

「なにより、君に謝らないといけないからね、」
「……なにを?」
「二つ名のことだよ、」
「別に気にしてないわよ? 子爵様はああ仰っていたけど、いくら努力をしても結果が伴わなければ意味はないんだから」
「いや、しかしだね……それを言ったら、君は座学成績では常に学年トップだ。その結果を認めないのはフェアじゃない。そうだろう?」
「そうしたら、今度は『頭でっかち』のルイズになるだけじゃない。その方がいやよ」

 眉をひそめて言ったら、グラモンは吃驚したような顔で見返した。なによ?

「君でも冗談を言うんだな。ヴァリエール」
「なにそれ」

 よっぽど馬鹿にされている気がする、と唇を尖らすと、彼はさらに笑い出した。

「いや、すまない。僕は、いや、学院の連中は皆、どうやらほんとうに馬鹿だったみたいだ、こんなに魅力的な君に気づかないなんて」
「……はあ?」
「――君は知らないだろうけど、入学当時、僕らの学年の男子の中で一番話題になった女の子はツェルプストーとヴァリエール、君だったんだよ。けどツェルプストーと違って、君は話しかけても素っ気ないし、まるで振り向いてくれなかっただろう? それですっかり皆、いじけてしまったんだ。君は手に入らない、すっぱい葡萄なんだって――でも、そんな安いプライドなんて捨てて、もっとちゃんと話してみればよかった。そうすれば今の僕みたいにすぐに気づいただろうに、」

 入学当時、ねぇ。慣れない生活で毎日が欝だった気がするわ。ていうか……そっか、私、皆から浮いていたんだ。全然気づかなかったわ。

「本当に済まなかった。これまでの無礼を謝罪するよ。その上で――どうかもう一度君の友人となるチャンスをくれないか?」
「別に、かまわないけど、」
「ありがとう。じゃあ、改めて――僕はギーシュ・ド・グラモン、二つ名は青銅だ」
「……ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。二つ名は他に思いつかないし、ゼロのままでいいわ」

 流されるままに握手をしていると、頭上から、声がした。


「あ~ら、もしかしてお邪魔だったかしら?」


 見上げれば青い竜の背中から赤毛のクラスメートが顔を覗かせている。

「ツェルプストー。どうして此処に?」
「そりゃあ、もちろん。堅物のヴァリエールが朝も早くから男と出掛けたりするから、気になって追いかけてきたのよ――あなたも意外に隅に置けないわねぇ、」
「ねえ、それ全然理由になってないんだけど……。何しに来たのよ?」
「そうツンケンしないの――それより、ギーシュ。いいの? モンモランシーのことは」
「べ、別にこれは浮気なんかじゃないさ。僕は単にヴァリエールと友人になろうとしているだけだ」
「あ、ルイズでいいわよ、ギーシュ」

 私が言うと、ツェルプストーがにんまりと、まるでバターをなめた猫のように笑った。

「ちょっと、ルイズぅ? 私のことは『ツェルプストー』で、どうしてこいつは『ギーシュ』なのよ?」
「友人だから?」

 ……ツェルプストーは、“と思ったら、バターではなくハシバミ草だった”みたいな顔に。

「……私は?」
「隣人よね?」
「…………」
「ハハ。ルイズ、君は本当に面白――ぐへっ!?」

 グラモン、じゃなくて、ギーシュが突然、奇声をあげて潰れる。大丈夫? いえ、それよりも――

「よお、手伝いに来たぜ。ルイズ!」

 ギーシュの背中の上、意気揚々とインテリジェンスソードを構える使い魔がいた。

「………………あんた、仕事は?」
「へ? え? な、なんで怒ってるんだよ?」
「当然でしょう。自分の役目(しごと)を放棄してこんなトコロで何をしているのよ」
「いや、俺はお前が心配で――」

――はあ? 何言っているのよ。

「まあまあ、待ちなさいよ、ルイズ、」

 不真面目な使い魔を睨みつけていると、ツェルプストー――ああ、はいはい、キュルケね――が、しょうがないわねぇ、と言わんばかりの口調で口を挟んだ。

「それを言うなら、彼はあなたの使い魔なんだから、あなたの傍にいるのが当然でしょう?」
「そ、そうだよ。俺はお前の使い魔なんだから!」

 詭弁の尻馬に乗る馬鹿をジト目で睨みつけていると、両肩にぽんと手が置かれた。誰よ!――て、

「ルイズ。君はずいぶん沢山友達ができたんだね、」
「子爵様、」

 背後に、微笑ましいと言いたげな笑みを浮かべた子爵様が立っていた。いや、友達じゃなくて使い魔で…………いいや、もうめんどくさい。

――ハア、なんだか鬱になってきた。


 どうやら姫様のお忍びと私達の明け方の出立に気づいたキュルケが、双方を結びつけて、おおよその事態に気づいたらしい。好奇心と推理力、それに行動力にも有り余っているらしい彼女は、そこで、私の使い魔とドラゴンの主であるクラスメートを巻き込んで追っかけてきた、というわけだ。
 ちなみに使い魔には、私が面倒事に巻き込まれていると吹き込んだっぽい。呆れた……なんでそんなことを……。



 しかたなく、夜、個室で子爵様とふたりきりになった私は彼にひとつ、お願いをした。

「彼らを置いていく?」
「ええ、こんな危険な旅に巻き込むわけにはいかないわ。ましてやキュルケ達は他国からの留学生なのよ」

 旅の目的は私と子爵様がいれば、十分果せる。

「君の使い魔も?」
「ええ。あいつには学院の仕事もあるから」
「……君は優しいんだね、」
「あら、当然でしょう。死ぬのは私ひとりで十分だわ」

 笑いながらそう告げると、子爵様は一瞬大いに顔をしかめた後、私の両腕を掴んだ。まるで泣く子を宥めるように、穏やかに笑いかける。懐かしいその顔――(近づいてくる、大きな手)――その手が私の頬と頤を撫でる――(覆い被さる、男の人の影)――それから、優しい声で囁いた。

「君は死なないさ。僕が必ず守るからね」

――え?

「子爵様が、私を殺すのではないの?」

 思わず尋ね返した瞬間、子爵様の手がぴたりと止まった。長い沈黙の後――とびっきり優しい顔で尋ねる。

「どうして、そう思うんだい?」
「いえ、だって――」

 その声に私はようやく自分が何を言ったのか、気がついた。

「ごめんなさい、嫌だわ。夢とごっちゃになっていたのね」
「夢? まさか、僕が君を殺す夢を見たとか?」
「いいえ、違うわ、そうじゃなくて――」

 私はため息をつく。なにをしているんだろう。
 どうも、長年の夢が叶いそうになって、浮かれていたみたいだ。昔の夢をそのまま当てはめて、子爵様が私のために来てくれたと思うなんて――『白馬の王子様』じゃあるまいし。
 でも、小さい頃は何故か本気でそう信じていたのよね……。

――うぅ、鬱だわ。

 自覚すると途端に恥ずかしくなって、私は耳まで真っ赤にしながら顔を背けた。そのまま、子爵様の腕からするりと抜け出す。
 とりあえず、夜風にでも当たろう……。

 窓を開ける。






「――で? なにしてんのよ? 使い魔」
「え、えと、ちょっと窓掃除?」

 そのとき、室内から突風が吹いて、なぜか窓の外にぶら下がっていた使い魔は吹き飛ばされた。あああぁぁぁ、と夜の街に声を響かせながら、ものすごいオモロ顔で落ちていく少年――

――体張っているわねー。

 思わず私は憂鬱も忘れて、吹き出していた。



***



 翌日、宿で起きた傭兵の喧嘩に乗じて、皆を置いていく。偶々庭でいじけていた使い魔には気付かれてしまい、ついてこられちゃったけど、これはもう仕方ない。その後の道中も色々とアクシデントはあったけれど、偶然にも王子様と出会うことができたので全てよしとしよう。
 私は無事、目的の手紙を手にした。
 任務完了の達成感とともに、城の人々と最後の晩餐を味わう。
 明日の正午は総力戦だそうだ。さて、どうやって巻き込まれようかしら……

 実は無計画? いや、だってこの状況で死なないわけがないじゃない――って、誰に言い訳してんだろ、私……。



「――なあ、なんで皆、死にたがるんだ?」

 落ち着かない様子の使い魔が顔をしかめて近づいてきた。
 私は極上のワインを味わいながら――もちろん量は控えめに。こんなときに二日酔いなんて締まらないもの――答える。

「彼らは別に死にたがってわけじゃないわよ。名誉を守りたいだけ」
「名誉って――そんなに大事かよ、」
「さあ、どうかしらね」

 私は周囲で談笑する人々を見やる。これから一緒に死ぬのだと笑いあう人々。名誉のために、忠誠のために、友誼のために、仁義のためにと死を謳う人々。

――羨ましい? いいえ、そうでもないわね。

 あれでは……理屈が多すぎる。感情が、騒がしすぎる。
 死を希う心は、もっと純粋であるべきだわ。

 ほろ酔いの頭で浮かれたように思う。

 そうよ、私は自分の死に意味なんて欲しくない。
 ただ、死にたい。
 忠誠や義務や勇気や、そういうものとは無縁に。孤独で静かで豊かで、それでいて――――なにもない。
 そういうものがいい。

――なんて、ね。

 近づいてくる子爵様に目だけで微笑みかけながら、私はグラスを傾けた。
 どれほどかっこつけて、美辞麗句を並べても、それらが所詮、自己本位なわがままに過ぎないことはいやというほど知っていた。



***



「結婚式、ですか?」
「そう、皇太子に立ち会っていただくようお願いしてきたんだ、」
「え、と、いまからですか?」
「今日の正午には戦争が始まってしまうからね」

 はあ。――って、いえ、そもそも何故、私と子爵様が結婚する話に――ああ、そういえば、『そんな関係』でもあったっけ。

「子爵様。でも、『婚約(アレ)』は酔った父達の戯れ言ですわ」
「……君もそう願ってくれていると思ったのは僕の思い上がりだったのかな?」
「え? で、でででも、メリットが何もないでしょう?」

 動揺する私を、子爵様は朗らかに笑い飛ばした。

「愛にメリットなんて関係ないさ!僕はずっと君のことを愛している!いままでも、これからもね!それを始祖の下に誓う、ただそれだけさ!」
「……えっと、それはつまり、死んだ後も?」
「ああ、もちろん――え?」

 勢いよく肯いた後、子爵様はぎょっとしたように私を見た。私は、思わず一歩退く。

 死んだ後も? 私が死んでも、この人は生きている限り、永遠に私のことを想い続けるの? それって――



「……気持ち悪い」



――あ、口に出しちゃった。



***



「もちろん急な話だから、驚いてしまうのもわかる。ただ時間がないんだ。どうか信じて欲しい。この戦争が始まったら、僕は君を素晴らしい場所に連れて行こうと思っているんだ、」

 私の失言を紳士的にスルーして、子爵様は言った。

「ルイズ。いいかい、君はまだ気づいていないだろうけれど、君には才能があるんだ。素晴らしい、選ばれし才能がね。僕はそれを知っている。それを開花させる方法も――だから、僕と一緒に来てくれ。
――共にいこう、新しい世界へ」

 何やら熱に浮かされたような口調で、子爵様は私に手を伸ばす。大きな手、けれど、その手は、私を――殺してはくれないのだ。
 私は落胆をこらえて――そうよルイズ、無理を言わないの。所詮こんなのは子供のわがままなんだから――子爵様の言葉を考える。

 私には才能がある、か。……そういえば、同じようなことをいつか誰かにも言われたわね。
 そして、そのときと同じ疑問が浮かんだ。
 それがなに? と。

「君がずっと願っていたことだろう。これでもう君はゼロじゃない。それどころか、君を馬鹿にし続けてきた連中を見返すことができるんだ、」
「子爵様。私は“もう”そんなものは望んでおりませんわ、」

 思ったよりもその口調は冷ややかなものになった。
 すると一瞬、子爵様の顔は怒りにかられる。けれど彼はそれを無理矢理飲み下し、とびっきり優しい顔を作った。

「なら、君の望みは何だい?」
「簡単ですわ。私はただ、静かに死にたい」
「は?」

 驚いたような顔に、やっぱりと思う。やっぱり、あの頃の私は彼に言わなかったのね。それとも、子供の戯言と真剣に受け止めてもらえなかっただけかしら。
 もう、どちらでも構わないけど。

 ぼんやりとそう考えていると、目の前の子爵様の顔が、歪んだ。

「……わけのわからないことを。その才能が、力がどれだけ貴重なものかわからないのか? その力があれば聖地に辿り着けるんだぞ!!」
「子爵様――?」
「もういい! 君が僕を拒絶するのなら、力づくでも連れて行くだけだ!!」

 叫んだ子爵様は、杖ではなく、その手を伸ばす。やっぱり、私に危害を加えるつもりはないのだろう。
 その大きな手が、私の首に触れることはない――なら、仕方ない。
 ごめんなさい、と笑って、私は杖を構える。

「貴方とは――逝かないわ」

 私の二つ名、ゼロの由来。どんなルーンを唱えても、必ず失敗する私の魔法。そしてそれは常に『爆発』というかたちを取る。だから私は――自分の喉に杖先を当てた。

「なっ――!?」

 これなら、はずしっこないもの。

「ウル――」
「ルイズ!!」

 最短のルーンを唱えようとしたそのときだった。横の壁が吹き飛んで、子爵様と私の間に、剣を構えた使い魔が現れる――

「サイト!?」
「ルイズ! 無事か!?」

 叫ぶ少年の顔を、私はルーンを唱えることも忘れて、不思議な思いで見つめた。



***



 魔法の余波で吹き飛ばされて気を失った私は、次に気づいたときにはもう空の上にいた。ドラゴンの背に乗っている。蒼髪のクラスメート、タバサの使い魔だ。キュルケやギーシュが土だらけの顔で覗き込んでいた。

――そう。迎えに来てくれたの。

 なんでも……子爵様は、反乱軍、レコン=キスタ側のスパイだったらしい。私に『プロポーズ』をしているあのとき、アルビオンの王子様が子爵様の『偏在』によって暗殺されたそうだ。偶々それを目撃したサイトは、あのとき、その裏切りを伝えるために来たとか。

 私はその話を聞き、思わず黙り込んでしまった。ひとつの可能性が頭を過ぎる。

――もしかしたら子爵様は……、

 止めよう。過ぎたことは過ぎたことだわ。
 重い息と共に首を振り、すでに遠く離れた霧の大陸を見る。

「――サイト、手を離して」
「ダメだ。お前まだちゃんと起きてないだろ、落ちたらどうすんだ」
「落ちたいところに落ちるわ。海の上なら尚いいわね」
「いや、無理だから。風にあおられるし、陸だろうが海だろうが潰れるから、」
「そう?」
「もういいから。……ちゃんと抱えててやるから寝てろよ」
「ん、わかったわよ――」

 まるでわがままな幼児を宥めるような口調が、ちょっと気に障ったけれど。眠気には抗いがたく、私は再び瞼を閉じた。






 眠りに落ちる間際、何かが唇に触れた。






*** しにたがりなるいずさん 2 ***






「しょうがないか。初恋って実らないものだものね、」

 目を閉じたまま呟いたら、私を抱きかかえていた使い魔がぶほっと吹き出すのがわかった。
 なによ、失礼ね――



――さようなら、ししゃくさま。わたしのしにがみに、なってくれなかったひと。






<了>






ふらぐいっぱい。ゆめいっぱい。

(210816)


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