ヴィンドボナ魔法学院では、大事件が起こるわけでもなく、何時も変わらぬ平穏で退屈な日常が過ぎていったので、
トリステイン魔法学院での波乱万丈な生活と本当の天才であるコルベールとの出会いが待ち遠しかった。
そうこうしている内に夏が過ぎ秋が過ぎ、冬期休暇の季節になったので、学院を出て領地に一度帰った後アルビオンに向かった。
フネに砲弾とトリプルベース火薬の補給もしなければいけないし、部下に恩賞も与えなければならない。
そしてなにより重要なのが王統派の様子を確認しなければならないからだ。
原作では来年の春には滅亡寸前だったが、今回はレコンキスタの補給と経済力を削って、
逆に王党派には増強させているのでもう少し持つかもしれない。
いろいろ変更点はあると思うが、
どっちにしろ私の財布は潤っている。
ならば何も問題ない。
アルビオンに到着後に王党派に会ったが、対応が前回よりもかなり柔らかい感じがするので計画は上手く行っているようだ。
ウェールズ皇太子と会って状況を確認したところ、やはり王党派は不利なようだ。
だからこそ、空賊活動は感謝された。
奪ってきた物資と金をレコンキスタに使われることを考えたら、いろいろと愉快な想像ができるのだろう。
そして来年からトリステイン魔法学院に留学することを伝え、アンリエッタ王女への紹介状を貰える様に頼んだら、
快くOKしてくれて、従妹のアンリエッタをよろしく頼むと言われた。
そしてようやく待ちに待ったトリステイン魔法学院留学と原作が始まる季節になった。
新学年が始まるより早めに出発しトリスタニアに寄ってアンリエッタ王女と謁見した。
そして、ウェールズ皇太子の紹介状を見せると急に機嫌が良くなり、いろいろと彼のことを聞かれた後で、
手を握られて、ニッコリ微笑みながら
「もしよろしければ私の力にもなってくださいましね。」
と言われた。
すごく嫌な予感がビンビンしたが、現王女で未来のわが国の皇后のお願いを断るわけにもいかず、
しょうがないので社交辞令で
「非才の身ではありますが力の限り尽くします。」
と、言ってはみたものの、私にはこの女のために命を賭ける気には到底なれなかった。
その後、町の状況を観察してみると、ヴィンドボナの町と比較すると活気が無く品数が少なく、そして、値段も高かった。
想像していたよりもずっとトリステイン王国の経済状況が悪いみたいだ。
「やっぱり税金が高く、不正も多いのが原因なのかな?」
なんて考えつつ、ピエモンの秘薬店の近くの武器屋を探していた。
「まず初めにキーアイテムを自分で確保してから相手との関係によってそれをどう使うか決める。」
それが私の基本的な考えだ。
ルイズが始祖の力を引き継いだ虚無の使い手だとしても、私はルイズに従うつもりは全く無い。
現代知識と原作知識を持っている以上ブリミル教を信仰してなどいないので、
自分の望みと一緒なら協力するし、違うなら敵対するごく普通の貴族としての関係を築くつもりだ。
なので、切り札になるであろうアイテムを相手に無条件で委ねる事なんてできない。
サイトのガンダールヴとしての能力は、盾として使えるデルフリンガーの属性魔法吸収能力が無いと大きく下がる。
上手く利用できている間は貸し付けておいて、そろそろ邪魔になってきたかなと思えるころに回収すれば完璧だ。
研究で使うとかいくらでも口実はある。
さらに、この世界は6000年もの長きに渡り支配者層の入れ替わりが無く、
個人の才能が重要視される魔法以外の技術への投資もほとんど無いので、
他に行き場所のない余剰資金が流れ、美術品などが極めて高い価値を持つ。
だからこそ始祖ブリミルが使い魔であるガンダールヴに持たせたという魔法を吸収する剣であるデルフリンガーにどれほどの価値が出るか楽しみだ。
それに、デルフリンガーは、6000年もの長きに渡り存在しているので話し相手としてもちょうどいいし、
だからこそ私自身の護身用として早めに魔法吸収能力を思い出させるのもありだろう。
「属性魔法をエネルギーにしているんだから、属性魔法をかけまくったら思い出さないだろうか?」
そんなことを考えつつ剣の形をした銅の看板の店を見つけたので入っていった。
亭主らしき親父に
「剣を探している」
というと、
「貴族の坊ちゃまが剣をご入用で?」
と聞かれたので
「ブレイドの魔法の練習用だ」
などと話していると、
「おめえ、自分を見たことがあるのか?その体で剣を振る?…」
などと、デルフリンガーが話しかけてきた。口の悪いやつである。
親父が焦って止めようとしているのにかまわず
「へ~、インテリジェンスソードか。それはいくらだ?」
と聞いた。親父はその剣を取り出し、
「この剣はエキュー金貨で50新金貨で75ですが、見てのとおりボロイし安物なのでぼっちゃまにはもっとふさわしい剣が…」
などと言っていたが
「これでいい。インテリジェンスソードなんて研究材料にもできてちょうど良い」
と答え、50エキューを払った。
はっきり言うことでもないが運動は苦手である。
転生してからまともに運動なんてしていない。
そんなことする暇があったら、魔法の研究・領地経営・商売をやっていた。
普通のメイジは魔法があるから体なんて鍛えなくてもいいのだ。
前世でも防具が気持ち悪そうだから、剣道ではなく柔道を選択したぐらいだ。
なので、剣術なんてまったくできない。
デルフリンガーの言ったことも間違えでは無いだろう。
でも、頭にきたので、私が飽きるまでこれからしばらくの間、実験に付き合ってもらうことにする。
その後ようやくトリステイン魔法学院に到着した。
まずは学院長であるオスマンに挨拶した後で、自分の私室になる部屋を怪盗フーケであるミスロングビルに案内してもらった。
手荷物以外は別便で送っていたので、学院のメイドに手伝わせて部屋の整理をした。
終わった後で平民の間での良い噂を買うためにメイドに20エキューほどのチップを渡した。
平民一人当たり一年間に必要な生活費が120エキューなので、2か月分の生活費と同額をポンと渡した私は、それなりに肯定的に評価されるだろう。
特にトリステインでは貴族の比率が高すぎて平民の扱いが悪いから…
ガンダールヴであるサイトに良いイメージを植えつけたいので、彼とよく話すことになる平民たちの評判は大事である。
それに、平民たちには独自の情報網があるので、面白い情報でも手に入るかもしれないし安いものである。
そしてこれからゼロの使い魔の物語が始まる。
みなさん読んでくださってありがとうございます。
改訂版第2話で書いた予定通りに9月中に原作前編の改訂を終わらせることが出来ました。
次話からは怪盗フーケ編になります。これからもよろしくお願いします。