「こんにちわー、ちょっと剣を見たいんですけど」
エルフ?
肌は白くすべすべしてそうで、
髪は輝くような黄金で肩ほどまで伸ばし、
先のとがった長い耳をしている。
服装は平凡な布の服ではあるが
顔立ちは、まだ幼さなくも美麗、
歳は俺と同じぐらいで十に満たないように見える。
しかし、エルフの寿命は約四百年と言われるから、見た目通りの年齢なのかは、わからない」
「いらっしゃいませ」
始めて見た。
エルフを見ると、此処がファンタジー世界だってことがしみじみと感じられる。
本当に耳尖がっているんだなー
「君、店主はいないの?」
「今親父は、留守だから俺が代理ですけど」
「こんな子供一人置いて、外出するなんて、店主は適当な人のようね」
なんかムカッとくるな。
お前も俺とそう変わらない年齢だろ。
まぁ相手は客だし、我慢するか。
「ちょっと商品見せてもらっても良いかしら?」
「はい、どうぞ。あっ、でも、その前に紹介状ありますか?」
一応、親父は大陸でも有数の腕前を持っているから、一見さんお断りで紹介状が無ければ買い物できないようにしている。
置いている剣も全て魔法が付与しているため、かなりの高額である。
ある程度実力が無ければ買うことが出来ない。
「………紹介状?」
「はい、紹介状です」
エルフは困惑した顔を見せる。
こいつ、紹介状持ってないな。
「どうしても無いと駄目?」
「はい、無いと駄目です」
「どうやったら、もらえるのかしら?」
「冒険者ギルドとかで、ある程度実力が認められたらもらえますけど」
大体Cクラスの冒険者がギルドオーナーに希望を出せばもらえることになっている。
Cクラス以上の冒険者は全体の六分の一程度で、かなりの実力者。
すぐに成れる様なものではない。
「………書きなさい」
「は?」
「あなたが、私に、紹介状を、書けば良いじゃない」
「え、何言ってんの?」
「私のプライドが懸かっているの。紹介状が必要なら、あなたが書けば良いじゃない?」
「いやいやいや、ありえないし。そもそも、何でエルフが剣なんて欲しがるんだよ」
何だこの客は?
いや、紹介状無しなら客じゃないけど。
エルフって虚弱な代わりに魔力が強力な種族だから、武器とか欲しがらないはず。
弓ぐらいしか使わないだろ?
「………例えばの話なんだけど、仮に、私の友達が、ま、魔法を使えなかったらどうすれば良いと思う?」
エルフは遠い目をしながらつぶやく。
その真剣な物言いから、例えばの話でも、仮の話でも、友達の話でもないことがわかる。
「弓でも使えば?」
「弓も使えなかったら?」
エルフは決して俺と目を合わせようとしない。
こいつ、魔法も弓も使えないのか?
エルフとしてそれはどうなんだ?
「な、内職でもすれば?」
「駄目なのよ、それじゃあ。それでは宿命のライバルに勝てないわ!私は奴を見返さなければいけないの」
「宿命のライバル?」
「えぇ、私が魔法を使えないからといって何かと見下してくる奴よ。魔法も弓も駄目なら、剣しかないわ」
「向こうの通りにリーズナブルな武器屋があるから」
魔法は付与していないけれど、安価で質が良い武器を揃えているはずだ。
低クラスなら向こうの店で買い物したほうが良いと思う。
「何言ってるのあなた!私はエルフなのよ。華奢なのよ。重い武器を振り回せるはずがないじゃない。重さと力で叩き斬る剣ではなくて、技と速さで斬る剣が必要なの」
まぁ、確かに日本刀はこの店にしか置いていない。
門外不出の秘伝というやつだ。
「うーん、でもある程度の実力者じゃないと家の剣扱いきれないと思うぞ」
「大丈夫よ、自慢じゃないけど私はコボルトに一対一で勝ったことがあるわ」
本当に、自慢にならない!
コボルト、それはゴブリンの下級職のようなもので、子供でも倒せる。
まぁ実際、子供だから、友達同士の武勇伝にはなるだろう。
彼女は微妙な武勇伝を自慢げに語った後、勝手に、棚に置いてある武器を取り、
状態を確かめようと、値札を見て、
「はぁ!なによこれ、金二百枚?普通、鋼の剣で金三十枚でしょ。高すぎるわよ!」
彼女は、ぼったくりだ、ぼったくりだ、と騒ぎ始める。
まぁ、その気持ちもわからないでもない。
金貨一枚、日本円で一万円ぐらいの価値だ。
普通の四人家族が一年と半年は暮らせる額。
剣一本、二百万円なんて受け入れられないだろう。
でもそれがこの店で一番安い剣だったりする。
彼女が持っている剣は、鋼の剣より高価な日本刀であり、硬化、軽量化、そして切れ味を良くする魔法付与がかけられている。
そしてメイドイン俺!
割と妥当な価格だ。
一流の冒険者なら普通に買う。
ちなみにこの世界の通貨は銅貨と銀貨と金貨の三種類である。
交換比率は、銅貨一万枚=銀貨百枚=金貨一枚
また、剣の流通価格は、
こんぼう、銀貨十枚
銅の剣、金貨一枚
鉄の剣、金貨十枚
鋼の剣、金貨三十枚
ぐらいになっている。
初心者の冒険者や村の自警団は銅の剣を使う。
一般的な警備隊やCやDクラスの冒険者は鉄の剣を使う。
鋼の剣は少なくとも、日々の生活に困っていない中級以上の冒険者や軍の精鋭が所有している。
消耗品の剣に大金をかけるのは難しいのである。
「一応魔法付与してある剣だからな、そんなもんだよ。それよりお前の予算はいくらぐらいなんだ?」
こいつ、家の秘伝の日本刀が鋼の剣と同じぐらいの値段だとでも思っていたのか?
もしそうだとしたら、甘い考えだ。
「金貨三枚」
「はぁっ!鉄の剣さえ買えねぇじゃねぇか!どうするつもりだったんだよ!」
こいつ家の店を馬鹿にしているのか?
それともこいつが世間知らずなだけか?
「………色気で、何とか」
「黙れ貧乳、手前みたいなつるぺたエルフに興奮するような奴はいねぇ!」
もし親父が興奮したら、俺は妹と共に家出をすることになるだろう。
いや、その前に親父は、お袋に埋められるだろうな。
「ひ、貧乳!?何よその言い方、私はお客様よ!それにまだ成長期!」
「金が無い奴は客じゃねぇ」
まぁ、子供のこいつが金貨三枚集めるのは苦労したんだろうけどな。
必要な金額の桁が二つ違うんだよ。
「くっ!なかなかの言われようね。わかったわ、これだけはやりたくなかったけど、剣の代金として、デ、デートしてあげるわ、特別よ、こんなチャンス二度とないわよ」
「いらねぇよ」
一回、二百万のデートってなんだよ。
高すぎるだろ。
「じゃあ、どうすれば良いって言うのよ!」
「そこまで剣が欲しいのか?」
「えぇ、絶対にゆずれないわ」
そういや、こいつってエルフなんだよな。
魔力の結晶や秘薬とかマジックソードを作るときに役に立つような素材を集められるかもしれない。
「お前さぁ、魔法の秘薬とかそういうの手に入れられるか?」
「当然よ。私に出来ないことはないわ」
肯定されたのに、不安を感じさせる答えだ。
こいつの強気は信用ならねぇ。
出来ない事、いっぱいありそうだし。
でも一応信用してみるか。
「ちょっと、待っていてくれ」
俺はエルフにそう告げて店の奥に入る。
庭に出て、倉庫の鍵を開け、
仕舞ってある俺の失敗作の剣達を調べる。
「うっわーたくさんあるわねぇ。一つくらい私にくれても良いんじゃない?」
「何で付いてきているんだよ!」
「え?面白そうだからだけど」
平然とした顔で答えられても困る。
まるで太陽は東から昇ると言うかのように、当然のことを言っているようだ。
くそっ、太陽は東から上るとは限らないんだぞ。
「もう、其処で良いからちょっと待っておけ」
エルフにそう告げて、俺は失敗作の山から目的のものを探す。
俺の剣は、五本に一本しか合格をもらえないから、ここにおいてある失敗作の量も多い。
悲しくなるほどに、
失敗作の山から目的の品を見つける。
銀の刃を持つ日本刀だ。
この剣は、性能の点では、文句が無かったのだが、おしゃれ心で刃紋を消してみたら、親父のこだわりに反してしまって、店に置いてもらえなった剣である。
「おい、これ一応さっきの剣と同じような性能だ。持っていって良いぞ」
俺はエルフに剣を渡す。
どうせ放って置いても倉庫の肥やしに成るだけだから、こいつも使われたほうが幸せだろうしな。
「え!くれるの、本当に?金貨二百枚よ。もう、返さないわよ」
エルフの耳がピコピコ動く。
あれって動くんだ。
少し気になる。
「い、いや、交換条件だ。後払いということで、マジックソードの素材になりそうな秘薬とか貴金属を定期的に探して持ってきてくれ」
「わかったわ、それぐらいどうってことないわよ。」
エルフは剣を抜いて、うわー、軽-いなどと言いながら振り回している。
危ないな、人の家の庭で剣を振り回すなよ。
まぁ、人のうれしそうな顔を見るのは悪くないけどさ。
三十分ほど経過し、
エルフは、剣を振り回すのに飽きたらしい。
俺のほうに寄って来て、顔を赤く染める
「あ、あのさ、あ、ありがとね!うんっ!ホントにありがとう」
俺に礼を言い、帰ろうとする。
「ちょっと待て、俺、まだお前の名前聞いてないんだけど」
一応さ、後払いってことにしているから、聞いとかないと不味いよな。
支払い放棄されたら困るし。
「え、名前?うん、いいよ。私はアリス、東のほうの森に住んでいるからよろしくね」
エルフの棲家って秘密じゃないのか?
森の中に結界を張って、住んでいるらしいが、
遊びに行っても良いということなのか?
いや、駄目だろ。
一応、隠れ里扱いされる場所だし、気軽に行く場所じゃない。
「ああ、俺のほうの名前はケンイチ。アリス、また店に来いよ」
翌日
「ねぇ、剣術の師匠してくれる人知らない?」
「知らねぇよ!」
あとがき
今回からタイトルをつけてみました。
実は最初の時点で決めてはいたのですが主人公がちっとも剣を作らず、困っていて、今回ようやく付けられました。
あと、主人公の名前を決めないまま話を進めるのも悪くないと思っていたのですが、登場人物が増えていくとややこしくなりそうなので思い切って決めました。
鍛冶屋っぽいことについて書くということで、少々調べてみたところ、聖剣の刀鍛冶という作品があるそうですね。
少し気になります。