謎の男の登場に、みな警戒を隠すことなく相手を見つめる。
だがこの謎の男ジョニーは、警戒されていることなどお構いなしに、アタシたちの近くまでやってきて、その場に座り込んだ。
「さて、俺はそろそろ街に戻るよ」
クリスさんはそう言うと、お茶ありがとな、と言って足早にここから離れていった。ナイス判断である。
これから起こることがなんであれ、「一介の商人」が聞いていい話ではないだろう。下手に聞くと厄介なことになりかねない。だから、とっとと離れるのが上策である。
「もう一人の子も出てきたら?」
アタシの言葉に、ジョニーは嬉しそうに「ほう?」と声を漏らした。
「よく分かったな。気配絶つのはあいつの十八番なんだが」
そう言うや、持っていた楽器を素早くピンピンと弾き、
「お呼びでしょうか、若様」
それが合図だったらしく、一人の少女が現れた。
一言で表すなら、くノ一である。忍の服に身を包み、忍刀を背負っている。つややかな茶髪は後ろでひとまとめにしてあった。
普通の人なら、いや、それなりの訓練を受けた軍人などであっても、彼女が現れるのを察知するのは難しいのではないだろうか。今までそこにいなかったはずなのに、気が付かないうちに現れた、と驚愕すること必至である。
だがアタシは微弱ではあるが気配はつかめていたし、妹も見た所ちゃんと把握していたようだ。ディクルは、アタシが気づいている以上気づいていないはずがなく、フィーノやクレシェッドはマナの動きで察知していたはずである。
ガイル? あいつに関してはわからない。驚いてもいないし、落ち着いているから、分かっていたのだろう、多分。あいつも一流の戦士だし。
シグルドは言うまでもない。
少女は膝を地面についたかしこまった姿勢で、
「ご無礼をいたしましたこと、お詫び申し上げます。
わたしは藤林すずと申します。ジョニー様にお仕えする忍です」
「忍だって?」
ディクルが驚いた声を上げる。クレシェッドも目をまんまるにしてすずを見ているし、ガイルも呆けた顔で「え? マジで?」と言っている。
フィーノは特にリアクションはない。「ふうん? あっそ」と言っただけである。
なるほど。藤林すず、か。テイルズ・オブ・ファンタジアのパーティキャラの一人であったはずの少女とリンクする人物のようだ。
ジョニーとすずは、同じテイルズシリーズでも違う作品の人物ではあるが、どちらも和風の雰囲気があるところの出身である。この世界においては、二人は同郷のようだ。
そしてこの世界にも、和風と言っていい国が存在する。
「忍……。ジパングの誇る精鋭部隊だね」
アタシの言葉に、すずは何も言わず、そのままの体勢で沈黙している。
「なるほど」
妹はそう言うや、ジョニーの方に視線を向けた。
「あなたはジパングの方ですか。それも、それなりの地位の方でいらっしゃる……」
「おいおい、よしてくれよ」
妹の言葉に、ジョニーは慌てて待ったをかけた。
「そんなむず痒い言い方しないでくれ。俺自身、大した人間じゃないんだ」
そして、ちょっと困ったと言いたげな顔で、
「すず、そういうのはやめてくれって言ってるだろ」
と抗議するが、すずは表情一つ変えず、
「わたしは、本当のことを言ったまでです」
と、一言でぶった切ってしまった。
「ま、そういうのは置いといて」
アタシの言葉に、二人はアタシの方に目を向けた。
「ジパングで何が起きてるわけ?」
すると、ジョニーは、へえ、と関心したと言わんばかりにちょっと笑った。
「単刀直入、大いに結構。回りくどいのは俺も嫌いでね」
「うそつけ」
アタシの言葉に、今度こそジョニーは大笑いした。
「ま、話は早いほうがいいってのは本当だ。急いでるからな」
「だろうね」
「ジパングでも巨大な力を持つ何かが、猛威を振るっているということですね? それで、「勇者」の力を借りたいと」
ややムスッとした顔で、妹が言い放つ。顔に「面倒臭えなあ、ケッ!」と書いてあるように見えるのは、アタシの気のせいではないだろう、多分。
ちらっと他のメンツに目をやってみると、若干引きつった顔をしている。フィーノは妹と同じ思いらしく、「メンドクセー」とか言ってる。
フィーノはなんだかんだ言って真面目君なのだが、最近やさぐれ具合が大きくなってきてる気がする。
アタシだって色んな意味でやさぐれたいので、その気持はよく分かる。
お前元々やさぐれてるじゃねえか、とかいうツッコミがきそうだが、それは気にしない。
「噂とは大違いの「勇者様」だなあ」
「どんな噂かなんて興味ないですが、そちらの「勇者」像を勝手に押し付けないでください。私は私としてありのままに生きているだけです」
知ったこっちゃねえんだよ、このボケ! と小声で吐き捨て、妹はお茶をぐいっと一気に飲み干した。
妹のやさぐれ具合も半端じゃない域に達している。抑圧された状態で長い時間を過ごし、「自分自身」というものを持つことを許されなかったがゆえの反動だろうか。
幼いころは親の言うことを何でも聞く「いい子ちゃん」ほど、プッツンした時の破壊力はすさまじいらしいので、そういうことなのだろう。
さすがに今のは効いたらしく、ジョニーも顔をひきつらせた。すずは表情を全く変えず、感情を悟らせるようなこともない。さすが忍。
「ま、確かにその通りだな。申し訳なかった」
そう言い、ジョニーは頭を下げた。
「とりあえず、あんたの話聞かせてくれる? こっちだって色々やらなきゃならないことがあるんだからさ」
アタシの言葉に、ジョニーは「しめた!」という顔で自分の膝をポンと叩いた。
「そう! お前さん達の目的にも関わってる話なんだ」
ジョニーの言葉に、お茶のおかわりを不機嫌そうに、ズズッと音を立てて飲みながら、妹は言い捨てた。
「オーブがあるわけですか。なるほど、なるほど。あなた方のお国で起きている悲劇を止められたら、オーブをくださるわけですね」
そう言いながら妹は、
「姉さんお茶のおかわりいる? あ、今の話どうする?」
と、後半部分に関してはどうでも良さそうに聞いてきた。
お国の一大事よりもお茶のおかわりのほうが重要らしい妹に、アタシも、
「おかわり頂戴。砂糖もお願い。ミルクはいいや。買いだめしておいて正解だよね、このお茶。美味しいし。
あ、今の話? 一応引き受けとく? オーブもらえるんでしょ」
ありがたくお茶をもらいながら答えた。
「ドライだな、お前さん達」
頭をポリポリ掻きながら、ジョニーは若干疲れた口調で呟いた。
「いつもこんなんかい? この二人は?」
ジョニーの言葉に男どもは無言だった。そちらに視線を向けていないので、どんな表情をしていたかは分からないが、ジョニーの微妙な顔からして、どんなリアクションを返したかはよく分かった。
よし、あいつら今度は全員嫌いな物フルコースにしてやる。
「あいつら全員、後でぶっちめる」
ぼそっとつぶやいた妹の言葉はどうやら、アタシにしか聞こえなかったようだ。特になんの反応もない。
『人間、変われば変わるものだな……』
シグルドには聞こえていたようだが、こいつに聞こえていたからといってなんの不都合もない。
いや、誰に聞かれていたからといって、何らかの不都合が起こることはないだろう。
確実に仲間たちからの報告で、各国上層部に色々と知られることにはなるだろうが、だからといって問題になるはずがないのだ。ちゃんと「勇者」としてオーブを集め、国を救っていってるのだから。
特にエスケープするわけでもなく、ちゃんと期待されている行動はとっているのだから、その時点で勇者がどのような言動を取ろうとも関係ないのである。
ロマリア国王陛下なんかは報告を聞いて大笑いしそうな気がする。レティシアは「あ、そうかい」の一言で済ませるだろうし。
「では、私「勇者」リデアとしては、あなたからの依頼を受けようと思います」
妹はわざとらしく「勇者」を強調して、不機嫌な顔を一変させ、素晴らしい笑顔で言い切った。
その変わり身の速さにでも驚いたか、ジョニーはしばらくアホのように妹を見つめた。
うん。素敵だ妹よ。アタシは妹の肩に手を置き、もう片方の手でサムズ・アップし、妹もそれに答えてサムズ・アップ。そして互いに素早く手を開いてガッチリと握り合った。
そんなことをしていると、大きな笑い声があたりに響いた。
「いや、いいなお前さん達本当に! こりゃいいや! 噂聞く限りじゃ、実はあんまり期待していなかったんだがなあ!」
「それはそれは。お気に召しましたか?」
ジョニーの、笑いすぎて苦しいと言わんばかりの様子に、妹はニコニコと笑いながら言い捨てた。
それに対してますます笑いを大きくし、
「そう! 気に入ったぜ。「勇者」リデアじゃなく、お前さん自身がな!」
「なにい!?」
ジョニーの言葉に反応したのは、何故かガイルだった。
「リデアちゃんを狙ってるのか! だが! お前なんぞにリデアちゃんは渡さブッ!?」
「黙っていてください、あなたは。話がややこしくなるでしょう」
やかましいガイルを黙らせたのはクレシェッドだった。槍で殴りつけたらしい。クレシェッドもいい笑顔である。
「ラリホー使えよ」
「こっちのほうが早いですから」
フィーノの言葉に、クレシェッドはしれっと答えた。
「魔力の無駄ですし」
あいつもなんだかんだで、いい性格になってきたな。
「お前のラリホーなら、一発だと思うんだけどな」
ディクルの言葉に、クレシェッドは、ありがとうございます、とだけ答えた。
「ま、こいつの場合自業自得か」
アタシ個人の印象では、ディクルってあんまり今みたいな発言しないような気がしていたのだが。「おいおい、大丈夫か?」と声かけるくらいはしそうなものだと思っていたのだけれど。
まあ、ガイルに対しては全員なんだか冷たいしな、このパーティ。アタシは最初のインパクトのせいだけど。他のメンツもそうなのだろうか?
「申し訳ありません、話が脱線しまして」
「話し続けようか」
妹が笑顔で頭を下げ、アタシは真顔で後に続く。
ジョニーは気にもしていないらしく、あいよ、と軽く答えた。
この様子だと、顔をひきつらせていたりしたのは、あいつなりの様子見だったようだ。
こちらに接触してくる奴がどんな対応してこようが、アタシ達には関係ないのだが。思うように行動するのみである。
「んじゃ、軽く事情を説明させてもらうぜ」
さて、やっと本題である。
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題名が思いつかない……! ネーミングセンス皆無な自分に絶望した!
元々です。申し訳ありません。
なんとか前の更新から一週間程度で投稿できました。また一週間後、あるいは二週間後には次を投稿したいです。