「素晴らしい働きでした。イシスの女王として、心より礼を言います」
イシス城、謁見の間にて、アタシ達は女王からお言葉をいただいていた。敵の大将を倒した褒美だとか。
女王だけでなく、ポルトガ軍総大将のディムロス将軍からも言葉をいただいた。ポルトガの将軍の一人として並んでいるディトスさんは、とても嬉しそうだ。
もう夜である。だが、町の方は騒がしい。お祭りムード一色のようだ。
正直、女王のお言葉とかいいから遊びに行きたい。口には出さないけどさ。
ようやっと解放されたのは、かなり時間がたってからだった。
「あ~、肩こった」
首をぐるぐる回しながら言う。
「まあ、そう言うなよ。名誉なことなんだから」
そう言うディクルも、顔には面倒だったと書いてある。
「おい、んなことどうでもいいから、町行こうぜ!」
「さんせーい! ぱーっ! と行きましょうよ!」
フィーノの言葉に、ルーティが嬉しそうに便乗した。どうやら、みんな考えていたことは同じようである。
つまり、かたっくるしいのはいらないから遊びたい。
イシス上層部はポルトガとの政治的な駆け引きがあって忙しいうえに殺気だっているが、アタシ達には関係ないのである。
そういうのを処理していた大臣がいなくなって大変なようだが、それはそれで仕方がないだろう。
本当に、どこ行ったんだ大臣。
「っていうかさ、あんたアタシ達と一緒にいていいわけ?」
当然な顔をして一緒にいるが、ディクルはポルトガ軍である。アタシ達とは立場が違うんだから、仕事とかあると思うんだけど。
「そうです! ディクルさん、お仕事があるんじゃないですか?」
なんとなく、突き放したような言い方で、妹がディクルを睨む。
妹がこうも人に攻撃的になるなんて。やっぱり妹はディクルが嫌いなんだろうか?
当のディクルはというと、朗らかに笑いながら、
「いや、いいんだよ。親父にはアデル達と一緒にいろって言われてるし。仕事は他の奴に割り振ってあるみたいだし」
などと言うが、ディトスさん、それ、職権乱用じゃね? つまり、ディクルにアタシ達、というかアタシのボディーガードみたいなつもりで命令してんだろうし。
どこまでも過保護な人だな、ディトスさん。いやいいけどさ、好意は好意として受け取るし。
でもやっぱ、公私混同はダメだろ。
妹はその言葉が気に入らなかったらしく、拗ねた顔になっている。
フィーノはそれを見てなんかニヤニヤ笑ってるし、そんなフィーノをクレシェッドがたしなめている。
「ま、いいじゃないの。人数多い方が楽しいでしょ」
「ああ、賑やかなのはいいことだ」
ルーティの言葉に、マリーさんはニコニコと笑って言う。
ま、アタシとしてもディクルがいたら何か不都合があるわけではない。むしろ、一緒にいるのは嬉しい。友達だし。
そんなこんなで、みんなで街にくり出そうぜ! となった時。
『マスター! 南方の上空に、多数の反応があるぞ!』
「なに!」
シグルドの言葉に、アタシはさっと空を見た。だが、何も見えない。
「何も見えないけど」
『暗くて見えにくいんだろう。多数のモンスターと、おそらくこれは、ロマリアやユミルの森を襲ったのと同じ、ハーフエルフだ』
「なんだって?」
まさか、イシスの南方から北上してきていたモンスター軍団って、上空の敵を隠すための囮?
「まずい」
「姉さん? どうかしたの?」
何の脈絡もなく話し始め、いきなり空を見始めたアタシに驚いたらしく、妹がいぶかしげに聞いてくる。妹だけでなく、他のみんなも同じような反応だ。
シグルドの声ってアタシにしか聞こえないからなあ。こういう時、不便。
アタシはシグルドから聞いたことをみんなに話した。みんな驚いて絶句していた。
「親父に知らせてくる!」
ディクルは急いでディトスさんの所に行った。
「空からって、それは手の打ちようがないんじゃないの?」
ルーティは南の空を見ながら、不安そうに言う。
「でも、空から来るという事が分かっているだけでも違いますよ。何の備えもなく空から強襲されたら、それこそどうしようもありませんから」
クレシェッドの言葉に、フィーノがうんうんと頷く。
「オレも一応飛べるけど、高度に限界があるからな。そんなに高くは飛べねえし、一人で行くのは無謀すぎるしな。なら、ここで迎え撃つのがいいんじゃねえか?」
しばらくするとディクルからの情報が回ったらしく、城の中があわただしくなった。
アタシ達はディクルが呼びに来たので、ついて行く。なんでも、ディムロス将軍が直々に話を聞きたいとのことだ。
そして案内されたのは、城の会議室の様なところ。中に入ると、すでにポルトガ軍の将軍や、イシスの偉いさん達が席についていた。
「ご苦労だった、ディクル」
ディトスさんの言葉に、ディクルはポルトガ式の敬礼を返す。
「空から敵が襲ってくる疑いがあるとか」
挨拶も何もなく、ディムロス将軍はいきなり本題に入った。もし本当なら早急に準備しなければならないため、余計な時間をかけていられないのだろう。
「はい、その通りです」
「なぜそう言えるんだ?」
アタシはシグルドを抜き、
「この剣はソーディアンという剣です。天界よりこの地に使わされたものであり、人格を持ち、言葉を話します。もっとも、ソーディアンの声を聞く事が出来るのは、マスターのみですが」
「その剣が、空より敵が来ると言ったのか?」
「はい。間違いありません」
アタシの言葉に部屋がざわめくが、ディムロス将軍の一言で静まる。
「聞いた事がある。わが国にはソーディアンの研究をしている者がいるからな」
ヒューゴさんだな。
「わかった。至急各部隊に連絡。空からの襲撃に備えろ!」
「あと、住民の避難ですな。街にいては危険です。イシス城への民衆の避難を要請します」
これはディトスさんだ。イシスの偉いさん達に言ったのだろう。イシスの人たちもすぐに頷き、すぐに手配を始めたようだった。
住民の避難は急ピッチで進められた。だが、イシス城下町の住民すべてをそう簡単にすべて避難させられるわけがない。
アタシは空を睨みつけながら、城門の近くで待機していた。妹も同じように空を見ているが、その顔には不安が見て取れる。
ディクルは相変わらず、アタシ達と一緒にいる。改めてディトスさんから命令を受けたようだ。
『やれやれ、一難去ってまた一難か』
シグルドが疲れたように言う。
「あんたがいてくれてよかったよ、シグルド」
『なに、我が身はソーディアン。当然の事をしたまでだ』
「本当に、そいつがいてくれて助かったわ。いなかった時の事なんて、考えたくもないわね」
苦虫をかみつぶしたかのような顔で言うルーティ。いなかった時の事を考えているらしい。
暗くて見えないが、そこには確実に脅威が迫っている。モンスターだけならまだいいのかもしれないが、ハーフエルフもいると言うのが問題だ。
ハーフエルフは天術が使える。空から天術の雨を降らされでもしたら、かなり不利だ。と言うか、確実にそういう戦法をとってくるだろう。
どうする? どうしたらいい? 分かっている分ましとはいえ、この圧倒的不利な状況を、どうやってひっくり返す? そんな戦法ととられた際、まともに戦えるのはフィーノくらいだ。
せめて、アタシも空を飛べたら。
そんな時だった。横にいた妹の体がまぶしく光り、次の瞬間、きれいさっぱり消えてしまったのだ。
え? ちょっと待て。
「リデアー!」
あちこち見まわすが、どこにもいない。みんなを見るが、みんなも何が何だかわからないと言う顔。
「どういうこったよ? なんであいつが消えるんだ?」
「まさか、魔王軍の仕業?」
フィーノとクレシェッドが混乱した様子であたりを見回す。
「シグルド!」
魔王軍の空間転移なども察知するシグルドなら何か分かるかもと思って見たら、シグルドはとても意外な言葉を口にした。
『大丈夫だマスター。妹君は魔王軍に連れ去られたわけではない。少しばかり、遠くに行っただけだ、すぐ戻る』
なんだって?
「シグルド、あんた、何知ってるの?」
『なに、心配はいらんということだ』
やけに自信満々のシグルド。こいつが大丈夫って言うのなら大丈夫なんだろうけど、結局どういう事なわけ?
「シグルド、なんだって?」
不安そうに聞いてくるディクルに、アタシは訳も分からないまま、とりあえず、
「心配いらないって……」
とだけ言った。これ以上言いようがない。シグルド話してくれないし。
「大丈夫って、ホントかよ?」
フィーノが疑わしそうな目で見て来るが、アタシのせいじゃないって。
「シグルド殿がそう言ってるのなら、大丈夫だとは思うんですが……。何が起こっているんです?」
「さあ? シグルドの奴、詳しいこと言ってくれなくて」
「何よケチねえ。教えてくれたっていいじゃない」
ルーティが目を吊り上げるが、シグルドは無反応。ルーティのいう通り、教えてくれたっていいじゃないか、こっちは本気で心配してるんだぞ。
いやまあ、こいつだって、アタシがいかに妹を大事に思っているのかは分かっているわけで。だからこいつがこういう反応するってことは本当に大丈夫なわけで。むしろ、言った通りすぐ戻ってくるんだろうけど。
そんな事を考えていると、またもや先程と同じ光が現れた。
その光から現れたのは、消えていた妹と、足に翼の生えた馬。
「姉さん!」
「リデア! 無事でよかった。所でその馬……」
すいません。この展開、覚えあります。
テイルズ・オブ・ファンタジアだ。今妹が持っている槍は神オーディーンのもの。人間が軽々しく使っていいものではないから返せと、オーディーンに仕えているヴァルキリーが呼び出したのだろう。
そしてこの馬。おそらくペガサス。ゲームでは、一時的に協力してくれたはずだ。空から来る敵を迎え撃つために、自分の背に乗り戦えと。
で、今ゲームと同じ状態が起きているわけだ。おそらくペガサスは妹が槍を返す代わりに、この危機的状況を打破すべく協力してくれるということなのだろう。
シグルドめ。妹を連れていったのがヴァルキリーだって分かってたな。こいつも天界の者、それくれい分かって当然か。
性格悪いっつうの。
アタシの思った通りの事を妹が説明し、みんなの顔に希望が現れた。
「それならアタシもついてくよ! リデア一人でなんて行かせられない!」
空中戦、相手は天術を使うとなれば、同じく天術を使えるアタシは戦力として申し分ないだろう。
というか、妹だけに任せるなんてできるか。アタシは、妹を守るために強くなると誓ったんだ。こんな一大事に、アタシが安全圏にいられるか。
「なら、その剣士と共に我に乗るがよい。二人くらいなら問題ない」
「オレもついてってやるよ。あんまり高いとこまではいけねえから、途中までだけどな」
フィーノの言葉に、ペガサスは「ふむ」と頷き、
「一時的にではあるが、我が力で飛ぶ力を強化してやろう。これなら、共に戦えるはずだ」
「マジかよ? おっしゃあ!」
フィーノは喜び勇んでほうきにまたがる。アタシと妹もペガサスに二人でまたがる。妹が前だ。槍をもつ妹が槍で攻撃しつつ、アタシも後ろから術で攻撃する。馬で戦うなら刀より槍の方がいいしね。
「んじゃ、俺は親父にこの事伝えて来る。無茶すんなよ。三人とも、無事で帰って来い」
ディクルはそう言うや、城の中に行ってしまった。そりゃ、ペガサスが助けてくれるっていうんだから、戦略練り直しだよね。
「ぶっ飛ばしてきなさい!」
「気をつけてな」
ルーティとマリーさんの言葉に、アタシ達は頷く。
「あなた方に、マーテルの加護があらん事を。力になれず申し訳ありませんが、ここで皆さんの無事を祈っております」
クレシェッドの言葉に、アタシは笑顔で「よろしく!」と言った。
「では、行くぞ!」
ペガサスはそう言うや、一気に飛びあがった。フィーノもそれに続く。
ぐんぐん上昇する。城の光が遠ざかり、みんながあっという間に見えなくなる。
フィーノがピューッと口笛を吹く。
「ほらフィーノ、気合入れな! もうすぐ戦闘だぞ」
「分かってるって!」
『マスター。後一分もしないうちに戦闘に入るぞ』
「おう!」
「見えた!」
空の向こう側、星の光に混じり、いくつもの魔力球が見える。なるほど、魔力の明かりも、星の光で誤魔化されるわけか。
敵もなかなか考えている。本気でシグルドがいてくれてよかった。すぐ近くまで接近されても、これでは分からなかっただろう。
「突入する! 準備はいいか?」
ペガサスの言葉に、アタシ達はいっせいに返した。
「いつでもオッケイ!」
「行けます!」
「さっさと行くぜえ!」
そして、アタシ達は一気に敵のもとへ突入した。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
ペガサスですが、オーディーンならスレイプニルですね、本来は。しかし、ゲームだと確かペガサスだったので、ペガサスにしました。