「アイストーネード!」
「リデア! そっち行ったよ!」
「クレシェッド、下がって!」
「鬱陶しいのよ! ヒャダルコ!」
アタシは全員の位置を確認しつつ、モンスターたちを斬り捨てていく。そこにフィーノの術が炸裂したり、ルーティが援護してくれたり。
今現在、アレクサンドリアの南方に広がる砂漠一帯では、モンスターとの小競り合いの真っ最中だった。
ルーティ達と再会した翌日の朝、宿屋で寝ていたアタシ達は兵士たちの鳴らす騒音によって叩き起こされた。どうやらその騒音が、モンスターが来たという警報らしい。
急いで支度を整え、城へ行こうとしたところ、兵士たちについて来いと言われ、そしてここまで来て集まっていたモンスターたちと激突したのだ。
こちらの兵力はほとんどが志願兵。城を空けるわけにはいかないからだろう、兵士たちは大部分が残るようだ。
作戦も何もあったもんじゃない。志願兵たちは雄たけびをあげてモンスター達に突っ込んだ。モンスターもそれに応えるように荒々しく突っ込んでくる。
そうなると、後はごちゃごちゃの混戦。アタシ達は、お互いにはぐれないように気をつけつつ戦う。
ルーティとマリーさんは同じ宿に泊まっていたので、ここでも行動を共にし、協力して戦っている。マリーさんは斧でモンスター達を蹴散らしていき、ルーティが得意の氷系魔法と短剣を使いつつ、適度に補助魔法をかけて援護してくれる。
ルーティは天術を使わない。エルフの血をひいていないのだから当然なのだが、テイルズのイメージが強いため、なんとなく最初は違和感を感じていたのだ。もう慣れたが。
「ピオリム!」
クレシェッドが、スピードアップの補助魔法をかけてくれた。攻撃は基本的にしないが、こうして補助魔法をかけつつ、いざという時に回復するのが彼の役目である。
「サンキュー!」
礼を言いつつ、目の前にいたモンスターを一刀両断。そしてすぐさまそこから後ろに一気に飛び、
「くらえ! スプレッド!」
そこにフィーノの術が発動、モンスター達を水が飲みこみ、絶命させる。
さらに、それを見てひるんだモンスター達の所に妹が突撃、一気に数匹のモンスターを倒す。
なかなかイケてるんじゃないか? このコンビネーション。今のところ、クレシェッドの回復魔法のお世話になった奴はいない。ルーティとマリーさんもだ。
「あんた達、良い連携ね!」
ルーティがそう言いつつ、短剣でモンスターののどを切り裂いた。噴き出す鮮血を避けるように後退し、
「ヒャダイン!」
自慢の魔法で多くの敵を一気に凍らせる。
「ああ、見ていて実に気持ちがいいな!」
マリーさんもルーティに負けじと、次から次へとモンスターを仕留めていく。
他の志願兵たちを見てみると、どうやらアタシ達が一番活躍しているらしい事がよく分かる。
基本的に誰もが自分のことで手いっぱいで、周りを見る余裕がないようだ。その点、アタシ達は他の志願兵を援護したりもできている。
いや、中にはかなり強い志願兵もいたりするんだが、それでもあたし達が一番のようだ。
ルーティ達が志願兵の中でも一目置かれているような雰囲気があったのだが、あの二人がこの中で突出していたということだろう。
しばらくして、モンスターの勢いが落ちてきた。数もかなり減っており、この戦いに終止符が打たれるのも時間の問題のようだ。
その時。
「ドラゴンだあ!」
誰かがそう叫ぶのと同時に、凄まじい炎が志願兵たちを襲った。
ドラゴン。硬いうろこに覆われているためダメージを与えにくく、その攻撃力は絶大。モンスターの中でもトップクラスである。今までの雑魚とは違った奴だ。
全滅しかかっていたモンスター達は、ドラゴンを見て浮足立った志願兵に今までの反撃と言わんばかりに躍りかかる。
「あんな強力なモンスター、今まで出てきたことねえぞ!」
恐怖の感情が悲鳴となって出てきているのか、声が引きつっている。
『面白い。マスター!』
「おうさ! クレシェッド! ルカニかけて! 攻めるよ!」
なかなか歯ごたえのあるモンスターの登場に、シグルドは心なしか楽しそうだ。
「分かりました! ルカニ!」
「じゃ、私もルカニ!」
クレシェッドに続いて、ルーティが防御力ダウンの魔法をかける。
そこに、マリーさんが勇猛果敢に突撃した。そのマリーさんを援護するためか、妹がドラゴンの目のあたりにイオを炸裂させる。
目をやられて暴れるドラゴンに、フィーノが術を発動させる。風の呪文で体を切り裂くが、もともとの防御力が高いためか、ダブルルカニを喰らっているのにダメージは浅そうだ。それでも、動きは止まった。
「受けよ、無慈悲なる白銀の抱擁!」
アタシは詠唱しつつ魔力を高める。その一瞬の隙を突こうとモンスターが襲いかかってくるが、妹やルーティがそれを防いでくれる。フィーノはアタシの高まる魔力を感じたのだろう、アタシに合わせて魔力を高めた。クレシェッドはアタシの近くで待機している。いざという時は、風の魔法を使うつもりなのだろう、やはり魔力を高め、いつでも撃てる体制になっている。マリーさんは暴れているドラゴンの攻撃を巧みにかわし、足を集中攻撃。さすがのドラゴンもたまらなかったのか、その場から動けない。
そして、放つ!
「アブソリュート!」
絶対零度の氷が、ドラゴンの体を下から一気に貫いた。人間を三人はゆうに閉じ込めることが可能な大きさの氷の槍は、ドラゴンの体の中心をとらえた。
さらに、フィーノの術が襲いかかる。
「サンダーブレード!」
体を貫いている氷を中心に、雷撃がドラゴンを蹂躙する。これにはさすがのドラゴンも悲鳴を上げた。耳が痛いほどの咆哮が響く。
「マヒャド!」
ルーティの魔法が追い打ちをかける。凍りついたドラゴンは動かないが、それでもまだ生きているようだった。
そして、とどめは妹のイオラだった。開いた口の中にイオラの魔法球を放ち、体の中で爆発させたのだ。
ダーマでの勉強は無駄じゃなかったね、妹よ。ダーマで魔法の勉強してなかったら、あんな真似できなかっただろうし。
そんな事を考えていたら、
「バギマ!」
クレシェッドのバギマが、アタシに襲いかかろうとしていたモンスターを切り裂いた。
「サンキュー、クレシェッド」
モンスターに気付いていなかったわけではないが、クレシェッドがどうにかしてくれるだろうと思って特に何もしなかったのだ。いざという時はすぐにでも斬りかかれるし。
しかしクレシェッドはきちんとやってくれた。
クレシェッドはちょっと照れつつも、「どういたしまして」と嬉しそうだ。
ドラゴンがやられ、モンスター達は一気に退散し始めた。同時に、ドラゴンを倒したことで志願兵たちに勢いが戻った。
退散しない根性があるモンスターを倒していき、ドラゴンを倒した事が広がっていったのか、そこらじゅうで歓声が上がる。
モンスターがいなくなると、志願兵たちが我先にとこちらにやって来た。やれ「英雄」だ、「勇者」だと声をあげ、胴上げまでされてしまった。アタシ以外の面々も、それぞれが胴上げされている。
いやあ、照れるんですけど。悪い気はしないけどさ。
「素晴らしい!」
ようやっと胴上げから解放されると、兵士の一人が声をかけてきた。見たところ、隊長格のようだ。
「あんな凶悪なモンスターをものともせず倒してしまうとは! ぜひ、君達を表彰したい!」
え? いやいや、そこまでしてもらうのはちょっと気が引ける。断ろうかと思ったのだが、
「ほんと? じゃ、お言葉に甘えちゃうわ」
ルーティがそう言ってしまった。
「ルーティ、アタシそういうのイヤなんだけど」
「何言ってるのよ!」
アタシの言葉に、ルーティは目を釣り上げ、
「せっかく表彰してくれるって言ってんだから、ありがたくもらえばいいのよ。報奨金なんか出ちゃうかもしれないわよ!」
そう言うや、笑顔で隊長さんに向き合った。
ダメだこりゃ。頭の中が報奨金でいっぱいだ。
マリーさんを見ると、「仕方がないなあ」って感じの笑顔でこちらを見てきた。
「ま、いいんじゃねえの? 相手はドラゴンだったんだぜ? 並の奴じゃ、戦いにすらなんねえんだからさ」
「そりゃそうだけどさ」
フィーノの言葉に、アタシは口をとがらせた。
いやだってねえ、これでますます逃げ道が無くなるんだもん。妹が「アリアハンの勇者」だって分かったら、ここにいる奴ら全員分のプレッシャーを背負わないといけなくなるし。
「ここで表彰を受けておかないと、他の方々が納得しませんよ。あれだけの活躍をしたんだから、皆さんは」
「何で自分は違うみたいなこと言うかな、クレシェッド。あんたも功労者でしょ?」
アタシの言葉に、クレシェッドは苦笑した。
「僕は何もしていませんよ」
「何言ってんだよ。お前だって補助魔法掛けたり、こいつ守ったりしてたじゃねえか」
フィーノはクレシェッドの言い分が納得いかないのか、口調も荒く言い放つ。
フィーノの意見にはアタシも賛成する。クレシェッドだって一緒に戦っていたのだ。自分は何もしていないだなんて、言ってほしくない。
「仲間でしょ? アタシ達」
その言葉にクレシェッドはしばらく茫然としていたが、嬉しそうに「はい」とだけ言った。
そんな事をしているうちに、隊長さんは部下を城に先に向かわせていた。報告に行かせたんだろう。
「近いうちに使いをよこそう。楽しみにしていてくれ」
隊長さんはそう言うや、「帰還する!」とよく通る声で叫んだ。
それから次の日に、本当に使いが来た。
なんと、あの隊長さん本人である。
話を聞くと、なんとなんと、女王が直々に表彰してくださるのだそうだ。
「これは大変な名誉だぞ!」
自分の事のように嬉しそうにしている隊長さん。
『それだけ、ドラゴンを倒したというのは大きなことだということだな』
そうみたいだね。確かに、ドラゴンなんてめったにお目にかかれないモンスターだ。出会った時点で死が決まったと言われるようなモンスターである。女王が直々に、というのもある意味当然なのかも。
「ドキドキするね、姉さん」
「そうだね」
傀儡の女王といっても、やはり国のトップ。会うのは緊張する。
城の中を案内されて歩く。そこにいる兵士達のアタシ達を見る目は、尊敬に満ちていた。
「気分いいわねー」
ルーティが他の人たちに聞こえない声で楽しそうに言う。
まあ、悪い気はしないよね。
そしてたどり着いた扉の前。ここがおそらく謁見の間だろう。
隊長さんが控えている兵士と話すと、兵士たちは「お通りください」と扉を開けた。
促されて中に入る。頭を垂れる前に見えた女王は、確かに絶世の美女と言うにふさわしい美貌だった。
「このたびの働き、まことに見事でした」
この声は女王の声だろう。非常に美しい声だ。あの容姿でこの声なら、男はひとたまりもないだろう。
その時、アタシは違和感を感じ、
『マスター! 空間転移だ! 邪悪な者が来るぞ!』
シグルドの声を聞くと同時に、動いた。
急に立ち上がったアタシにこの部屋にいる全員が驚いたらしく、突然の事態に動きが止まっていた人たちが我に返ってアタシを取り押さえようとした時。
高い、耳障りな金属音。
違和感を感じて飛び込んだ空間から出てきたハルヴァードが女王に届く前に、アタシの刀がそれを防いだ。
誰も何も言わない。あまりの事態に、思考が停止しているらしい。
武器を持って来ていて良かった。そうでなかったら、女王は死んでいたに違いない。
「女王を安全な場所に!」
アタシの声に我に返った兵士たちは、慌てて女王を玉座から離れたところに移動させる。
「ナニモンだ!」
フィーノが魔力を高める。
「あ、あの武器……!」
妹はあの武器の事を思い出したのか、青い顔で槍を抜き放った。多少の怯えはあるが、戦意喪失はしていないようだ。
アタシは一気に仲間達の下に戻った。
空間転移にハルヴァード。覚えがありすぎるキーワードに、アタシの意識がアラームを鳴らす。
「な、何なんですか? いったい……」
クレシェッドがアタシと妹のただならぬ様子に気付いたのか、上ずった声で言う。
その声に答えたかのようなタイミングで、空中に真ん中から先までしかなかったハルヴァードが動いた。黒い空間のゆがみが発生し、その中から一人の男が現れる。
「な、何よあいつ……!」
あいつの恐ろしさが分かるのだろう、短剣に手をかけつつも、その声は怯えていた。
「強いな」
斧を構え、マリーさんはアタシ達を守るように前に出た。
『あいつか!』
忌々しげに吐き捨てるシグルド。
そんなアタシ達を見て、そいつは嗤った。
「久しいなアデル」
バルバトス。再び、あいつが現れたのだ。
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テイルズキャラがドラクエの魔法を使っているのに違和感を覚えるでしょうが、このssの設定上、どうしてもこうなります。