久しぶりの投稿です。少し余裕ができたので。
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「では、再会を祝して」
「かんぱーい!」
アタシとルーティは、手に持ったコップを軽く上げて、それから一気に中身を飲みほした。
ルーティは「ぷはー!」とオヤジ臭い仕草で口を拭うと、
「ホントに久しぶりよねー。あんた今まで何してたの?」
店の人に飲み物のおかわりを頼んで聞いてきた。
ルーティ・カトレット・ジルクリスト。ポルトガの大会の決勝戦で戦ったエミリオの姉である。テイルズ・オブ・ディスティニーではヒロイン、続編のディスティニー2では主人公の母親だった人物と同じ存在なのではないだろうか。クラースさんみたいに。
そして彼女の相棒の赤毛の女戦士が、マリー・エージェント。これまたディスティニーのパーティーメンバーと同じ人物である。その作品においても、マリーさんはルーティの相棒だった。
ちなみにマリーさん、記憶喪失だそうだ。ここもゲームと同じである。ゲームでは中盤で記憶を取り戻すが、何と彼女、既婚者だった。このマリーさんはどうなんだろうか?
今、アタシ達がいるのはアレクサンドリアの飲み屋である。と言っても、アタシは酒を飲んでいないし、ルーティも飲んでいない。飲んでいるのはマリーさんである。
妹はお酒に興味があったようだが、今まで飲んだ事がないならやめた方がいいとクレシェッドに止められて断念。クレシェッドも酒は飲めないのか、それとも神官という立場上の理由からか、酒は頼んでいない。フィーノは普通にワインを頼んで、「子供がそんなもの飲むんじゃありません!」とクレシェッドにきつく叱られ、ミルクである。
フィーノは「ワインなんて今までもさんざん飲んでるっつうの」と不満そうだったが、言っても無駄だと思ったんだろう、大人しくミルクを飲んでいる。
「驚きました。姉さんに、ポルトガの友人がいるなんて」
フレッシュジュースを飲みながら、妹が興味深々と言う顔でルーティを見る。
「わたしもびっくりよー。アデルにこんなところで再会したこともそうだけど、アデルの妹にも会えるなんて」
ルーティは機嫌がいいらしく、声を弾ませながら言う。
「しかも、アデルから話は聞いてたけど、ホントに美人じゃない。アデルが自慢する気持ち、分かるわー」
ルーティの言葉に、アタシはにやりと笑った。内心、鼻高々だったり。
アタシは爺ちゃんが亡くなる前に、何回かポルトガに行っているのである。最初に行った時に会えなかったルーティにも、二回目に行った時に会えたのだ。
最初に行った時に会えなかったのは、回復魔法の勉強のために城に行っていたかららしい。
父が宮廷魔道師ということで王宮にコネのあった彼女は、とある人物の目に留まることとなった。その人の名は、アトワイト・エックス。宮廷魔道師である。
テイルズ・オブ・ディスティニー、およびディスティニー2の主要人物だ。ディスティニーは彼女自身ではなく、彼女の人格が搭載されたソーディアンが出ていたのだが。
ルーティの才能を見出したアトワイトは、ルーティに魔法の手ほどきをしたのだとか。ルーティはメキメキと力をつけていった。また、城の兵士たちにも剣の手ほどきを受け、かなりの実力者になった。
さすがに、弟のエミリオには勝てなかったが。
いやあ、懐かしい。アタシとエミリオ、ルーティでよく遊んだものだ。と言っても、アタシ達がやっていたのは大抵チャンバラだったり。当っても痛くない模造剣を使って試合をするのである。そこに、遊びに来たディクルも加わったりして。
乗馬を教えてもらったりもした。教えてくれたのはディクルである。エミリオはいつまでもうまくならないアタシを見て、鼻で笑っていた。仕返しに、お弁当のサンドイッチにタバスコをたっぷりかけてやり、怒り狂ったエミリオと鬼ごっこになったりして。
そんなアタシ達を見て、爺ちゃんやシャルティエさんは笑っていた。この二人にも稽古をつけてもらって、実に充実した時間だった。
「エミリオが怒ってたわよ。一年以上連絡がないって」
ルーティの言葉を聞き、アタシはジュースを気管に入れてしまい、むせた。
そうか、やはりか、怒っているのか。ポルトガに行かなくて正解だったかもしれない。
「いや、色々あって」
「それにしても、何の音沙汰もないっていうのはどうかと思うわよ?
で、バシェッドさん、元気?」
それにアタシは正直に答えた。爺ちゃんは一年と半年以上前に死んでしまったこと、それから一年間アリアハン大陸を一人で旅したことを。
話を聞いていたルーティは、聞き終わると盛大にため息をついた。
「それ、まずいわよ」
「やっぱ、まずい?」
「そりゃそうよ。バシェッドさんが死んじゃったことを連絡しなかったのは特に」
うん、まずいとは思う。でも、その時はつい色々と頭から飛んじゃったんだよ。
「近いうちにポルトガに行きなさいよ? それで事情をちゃんと説明して、誠心誠意謝ること」
口調で分かるが、ルーティも怒っている。何で教えなかったのかと、何で自分達を頼らなかったのかと。
爺ちゃんが死んでしまった時、ちゃんとポルトガに行くべきだったのだ。だが、アタシはそれをしなかった。友人なら、しっかりと言わなくてはならなかったのに。
爺ちゃんが死んで、その時アタシはそれを一人で抱え込んでしまったのだ。いや、正確には、シグルドもだが。シグルドはいつでも近くにいてくれて、いつでもアタシを守ってくれる。アタシが抱え込んだ物を、一緒に持ってくれた。
なら、友人である彼らとも、そうするべきだったのだ。アタシがどれだけ爺ちゃんが好きか、みんな知っていた。彼ら自身も、爺ちゃんのことは好きだった。だからこそ、爺ちゃんが死んでしまった時、彼らにも言わなくてはならなかったのだ。
これは、友人である彼らに対する裏切りではないか。そう思い、合わせる顔がなくて、アタシはポルトガを避けていたのだ。だが、このままではいけないだろう。
「うん。いくよ、ポルトガ。ごめん、ルーティ」
頭を下げたアタシに、
「そう、そうやって、ちゃんとエミリオに謝りなさい」
ルーティは、優しく言ってくれた。
しばらく、静かな空気が漂った。周りは騒がしいが、アタシ達の席だけ切り離されているかのよう。
しばらくして、妹が「あの」とルーティに声をかけた。
「なに?」
「姉さんとの思い出、聞かせてくださいませんか」
ふっと、ルーティは笑った。そして、
「いいわよー。弟から聞いた、アデルが武闘大会子供の部に出た時の事とか、知ってること全部教えてあげるわ」
「ぜひ!」
身を乗り出して言う妹。
ああ、これはあれだな、自分と一緒に過ごしていない間、アタシがどうしていたか知りたいんだろうな。
ルーティと妹が昔話に花を咲かせ始めたので、アタシはずっと酒を飲み続けているマリーさんに話しかけた。
「マリーさん、いいですか?」
「なんだ?」
「この国の志願兵なんですけど」
そう言うと、マリーさんは「ああ」と言って、持っていたジョッキを机に置いた。
「ゴロツキのような連中ばかりだろう?」
「ええ、一応、国を守るための兵なのに……」
「あ、それ、オレも思った」
フィーノも同じことを思ったのか、話に参加してくる。
「国の管理がいき届いてねえよな。あの調子だとあいつら、犯罪は犯してねえにしても、騒ぎは起こしてるんじゃねえか?」
「ああ、酒屋で志願兵同士がケンカして、それに便乗して他の志願兵が暴れた事があるらしい」
マリーさんの言葉に、クレシェッドが「そんな……」と呟く。
「この国には、余裕がないからな」
「小競り合いがよく起こるからですか?」
「違う」
クレシェッドの言葉を、マリーさんはバッサリ切った。
「女王の統治が上手くいってないからだ」
「女王陛下の? 確か、イシスの女王陛下は……」
「アルシノエ、だったよな?」
クレシェッドの言葉に、フィーノが続ける。そこに、アタシも続いた。
「たしか、二年ほど前に即位したんだっけ? 先代女王にして現女王の姉君、クレオパトラが殺されたから」
マリーさんは真剣な顔で頷く。
「つまり、現女王であるアルシノエが上手く部下の手綱を握れていないから、それが下まで及んでいるってこと?」
「手綱を握れていないどころか、大臣のいい様にされているようだぞ? 今、この国で一番の権力を握っているのは女王ではなく、大臣だ」
ふむ、トップが腐っていると、それが下まで浸透していってしまう。現場の兵士たちも、その影響をもろに喰らっているのだろう。
「チェーザレが言ってたぜ、クレオパトラは名君だったって。今の女王は、器じゃねえともな」
「チェーザレ陛下がそのような事を?」
フィーノの言葉に、クレシェッドは驚きを隠せないようだ。だが、自分の部下の手綱も握れないような女王、陛下にとっては取るに足りない存在なんだろうな。
逆に、陛下が「名君だった」と言ったクレオパトラの方が気になる。一体どんな人物だったというのか。
クレオパトラ。前世世界において、世界三大美女の一人にして、古代エジプトの女王である。この世界でも、希代の美女として有名だった。
だが、二年前、彼女は殺された。寝室の中には、一匹の毒蛇。一国の女王の守りをかいくぐり、何者かが彼女を殺したのである。これには一時、世界がゆれた。
結局、この事件は魔王軍の仕業ということになった。こんな真似ができるのは、魔王軍だろうという考えからのようである。
その後を継いだのが、妹のアルシノエ。姉に劣らず美しい女性であり、イシス国民は皆諸手を挙げて歓迎したのだそうだが。
その彼女の統治が上手くいっていない。大臣に権力を掌握され、傀儡の女王となっている。
まさかとは思うが、クレオパトラを殺したのって、大臣だったりしないよな? あの陛下に「名君」と言わしめた女よりも、妹の方が御しやすいと踏み、暗殺したとか?
いやでもなあ。あの陛下が、何度も言うがあの陛下がである。「名君」と言ったような人物が、そうやすやすと暗殺されるだろうか? それこそ大臣の動きを看破し、さっさと更迭するなり首を切るなりしそうなものだ。
やはり、違うか?
魔王軍なら話は簡単だ。バルバトスの例がある。あの空間転移の術があれば、城の守りなど問題になるまい。バルバトス自身が暗殺したということはないだろう。それなら毒蛇なんぞいらん。
いや待て? それこそ、魔王軍なら毒蛇使わないような。モンスターに襲わせて終わりだ。毒蛇を使うとか、面倒臭い。
うーん、まいった。こんがらがって来た。
まあ、いいか。魔王軍でも人間でも、アタシには関係ないし。
「一応、表面上は上手くいっている。女王は定期的に民衆の前に立ち、演説して鼓舞している。見た目の美しさから、民衆からの支持も熱いからな」
マリーさんはそう言うと、ジョッキの中身を一気に飲み干した。
つまり大臣は、女王アルシノエの美貌を使って国民の心をつかんでいるということか。傀儡の女王で人気を集め、その女王は自分が操る。
まあ、統治者にとっては、見た目も武器であることは確かである。誰だって、自分の国の代表は美しかったり、格好良かったりしていてほしいものだ。その点、陛下は余裕でクリアーしている。クレオパトラも、その美貌を統治に役立てていたはずだ。クレオパトラもまた、よく民衆の前に姿を見せていたらしいし。
「でも、この国の方々を見ていると、それほど国政が荒れているようには思えませんが」
クレシェッドの言葉に、フィーノはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「その大臣ってのも、バカじゃねえってこったろ。大臣が権力を掌握してるせいで城仕えの連中はやる気が落ちてるのかもしれねえが、政治手腕はまた別ってこったな」
「そうだな。特に民衆にとって苦しい政策をとるわけでもない。増税して私腹を肥やす、などということはしていないしな」
ワイロくらいは貰ってるかもしれないけどね。政治を担当する人間も、自分に都合のいい人間に変えてるんだろうし。
「で、お前たちはどのくらいここにいるつもりだ?」
「特に決めていませんよ」
アタシの言葉に、マリーさんは「そうか」とだけ言って、また酒を飲みだした。
「実際、オレらどのくらいここにいるんだ?」
「特に決めていませんが、あまり長居しすぎてもいけないのでは?」
二人の言葉に、アタシはしばし考え込み、
「まあ、しばらくはいようよ。小競り合いがしょっちゅう起こるんだから、それを利用してフォーメーションの訓練しよう。四人での練習、あんまり出来てないし」
アタシの言葉に、クレシェッドは「すいません」と、申し訳なさそうに頭を下げる。
「謝ることじゃないって。頼りにしてるよ、クレシェッド」
クレシェッドは「はい! 頑張ります!」と張り切って返事を返してきた。
頼りにしてるのは本当である。確かに回復魔法はベホイミ止まりだが、アタシや妹は基本的に前衛、回復の暇がなかったりする時が多いのだ。無論、クレシェッドに頼り切るつもりもないし、また、クレシェッドを甘えさせるつもりもない。ビシビシいく予定である。
横を見ると、妹がうれしそうにルーティの話を聞いている。マリーさんは本当においしそうに酒を飲み、フィーノがケーキをつつき、そのフィーノのほっぺたについたクリームをクレシェッドが拭いてやっている。
『平和だな』
シグルドの言葉が、この光景をよく表している。
この国はかなり内情がどろどろしているようだが、今この場所は実に平和だった。
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久しぶりなので文章が変かもしれません。
また返信ができません。ここで返事をさせていただきます。
感想、まことにありがとうございます。
HUMI様
痛いですか。確かにそうかもしれません。これか作者の中のリデアなんです、今のところ。すいません。
ふーか様
はい、空白の五年の間です。登場が唐突だったかもしれませんね。
はき様
誤字指摘、ありがとうございます。お金に関しては、この前の話の最後の所に書いておきました。「納得できん!」という場合は、申し訳ありません。
貴重なご意見、ありがとうございます。リデアもクレシェッドも、作者の中では今のところ、こうだという事です。ユミルの森の事があったとしても、いきなり急激に人が変わったりはしないかな、と。
言ってる事が的外れだったらすいません。
御神様
ルーティを出すなら、マリーさんもと思って出しましたが、マリーさんを深く掘り下げて描写はしないと思います。