注意!
この話には、何やら考察っぽいものが書いてありますが、あくまでも「ぽいもの」であり、根拠のまったくない勝手なねつ造です。
また、その考察っぽいものに大げさな表現をしていますが、話の流れってことで勘弁してください。
お気を悪くなさらないで、「こんなこと書いてら~」って感じで流してください。
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この世界はドラクエの世界であると思う。少なくとも、その要素が強い世界である。
だが、天術はテイルズシリーズのものであり、テイルズのキャラにそっくりな人物とも知り合いである。
つまり、クラース・F・レスターがいたとしても、別に不思議ではないのである。
クラースさんが入れてくれた紅茶を飲みつつ、そんな事を考えていた。
「ずいぶんと若い娘さん達じゃないか」
「そうだろう? でも、だからと言って甘く見てはいけないよ?
彼女のおかげで行き詰っていたザオラルの術式考察が進みそうなんだ。
それに、知恵比べをしてみたんだけどね、見事にしてやられてしまったよ」
「あの術の研究が? あなたでも数年間考えてなかなか進まなかったのに?
それに知恵比べであなたにそこまで言わせるとは」
レオナルドさんとクラースさんは、茶を飲みつつそんな話をしている。
自己紹介はさっさと終わらせたのだが、自分達の世界に入り込んでしまって、アタシ達は現在カヤの外である。
「本がいっぱいだね」
二人の会話の邪魔にならないようにか、妹が声を落として言った。
妹にしてみれば、一つの部屋の壁が本で埋まっていて、さらに床にも積まれている光景というのは奇妙な光景なのだろう。
「学者だからね」
「学者って、分かんねえ」
フィーノの呆れた声が妙に耳に入ってくる。
「そんなもんでしょ。他の職業の人だって、色々あるだろうし」
学者だけが変な人、みたいに思われるのは心外である。学者は変人ではない。探究者だ。
偏屈と言われている頑固一徹の職人さんだって、自分の仕事に真摯なだけだろうし。
……偏見って、恐ろしい。
「あの」
二人の会話が途切れた時、妹が声をかけた。
「いや、申し訳ない」
クラースさんが頭を下げる。レオナルドさんも、申し訳なさそうに頭を下げた。
「つい先生に会って舞い上がってしまって。ないがしろにしてしまったようだ」
「いえいえ、お気になさらず」
実際、アタシは気にしていない。妹とフィーノは分からないが。
「質問、よろしいですか?」
「ああ、答えられることなら答えよう」
「クラースさんは、何を研究してらっしゃるんですか?」
テイルズ・オブ・ファンタジアにおいて、クラース・F・レスターはエルフ、ハーフエルフしか魔術が使えない現状を打破しようと、精霊召喚の理論を独自に研究していた。しかもそれがしっかり実用化できていたことから、彼の才能と努力がうかがえた。
しかし、ここのクラースさんとゲームの中の彼とでは無論違う。世界も違う。この世界では人間には魔法があり、天術とは形態が違えどそれなりの力を努力すれば得られる世界だ。
では、ここでいったいクラースさんが何を研究しているのか、非常に気になるのである。
しかも、レオナルドさんのお墨付き。先程の説明では、アカデメイアを首席で卒業し、そのままアカデメイアに残り研究を続け、その実績が認められて若くして助教授になったのだとか。
「ああ、私の研究対象か」
「はい。レオナルド・ダ・ヴィンチお墨付きの学者の研究です。当然、気になるでしょう?」
アタシの言葉に、クラースさんはのどを鳴らしてくっくっく、と笑った。
「よほどの学問バカだな。気に入った」
そう言うと、紅茶を一口、気を落ち着かせるように飲むと、
「そう言うなら、お前の魔法考察か何かを聞かせてみろ」
「え? アタシはそこまでは……」
「何かあるだろう? 魔法に対する疑問でも構わん。
お前が何か言わないなら、私も何も言わんぞ」
そう言ってシニカルな笑みをうかべた。
試されてるよ。よほどこの人の興味をひいてしまったらしい。
まいったなあ。理論を教えてもらってはいるけども、自分で研究するには至っていないのだ。いつかしたいとは思っていたが、刀の修業から旅に出るための準備まで、色々することがあったため、そこにまでいっていない。
とは言え、ここで黙っているわけにもいかないようだ。何でもいいというならと、アタシは口を開いた。
「『ラナルータ』という魔法がありますが」
「ああ、昼夜逆転魔法だな。今は失われた古代呪文らしいが、本当にそんなモノがあったかどうか、今でも論争が絶えないな」
「疑問に思ったことがあります。
例えば、昼にラナルータを使ったとして、当然夜になるわけですが、洗濯物を干していていきなり夜になってしまったりするということでしょうか? 夜寝ている時にラナルータを使われると、いきなり昼になっていると?」
「呪文の性質上、そうなるかもしれん」
「それだと時間の概念、季節の移り変わりなどといったことが問題になってきそうなものですが。夜がわずか一時間で終わり、昼はその分長くなるとでも? それとも、昼の長さはそのままですか? それだと草花の成長、野生動物の生態のみならず、人間の生活そのものが壊れますよ」
「ふむ? そうかな?」
「人間は呪文を使われたことを察知してそれなりの対応をとればいい、と思われそうですが、他はそうもいきません。
植物に影響が出るということはそれを口にするすべてのものにも影響し、動物もまたしかり。人間の生活はどうしてもそれらに頼っているのですから、自分達が呪文に合わせても、立ち行かなくなります。
こう考えると、ある種の自滅呪文ですよ」
「なるほど、確かに」
アタシの話を聞いているクラースさんは、非常に楽しそうである。レオナルドさんもしかり。
妹は必死に考えているらしく頭に手をやって目をさまよわせているし、フィーノは考えるのを放棄したらしくつまらなそうに片肘をついて退屈そうだ。
「でもそれ以前に、ラナルータを使えば昼夜が逆転するということは、太陽の動きにもかかわってくるはずです。
いかに魔法とは言え、天体の運行を変えられるものでしょうか? それはもはや魔法ではなく、奇跡では?」
「さて、どうかな?」
「太陽は東から昇り西に沈む。これは昔から変わりのない事実。ラナルータを使うことによってその動きを早くするということでしょうか?
考えたのは、ラナルータが時間を操作しているのではないかということです」
「それこそ奇跡だろう?」
「無論、その通りです。ですが、天体の運行速度を変えるのと、時間を操作すること、困難なのはどちらも同じ。なら、時間操作のほうが可能性があると思ったんです。
昼から夜に、夜から昼に、時間を動かして昼夜を逆転させているのでは? ラナルータとは一定の時間を動かす時間操作呪文なのではと考えました」
アタシの言葉に、考え込むクラースさんとレオナルドさん。そして必死に考えているがちょっと分からないのか唸る妹に、「もうやめとけよ」と声をかけるフィーノ。
「時間操作なら、太陽の動き、時間概念の矛盾、動植物への影響は特にないでしょう。この呪文、おそらく術者以外のすべての時間を動かすんです。
いや、逆ですね。術者を時間の流れからいったん外に出して、一定の時間が過ぎてから元に戻す。これなら、術者以外に問題は起きない、世界に矛盾が起こらないでしょう。
時間に関しては、ロマリアのノアニールの例があります。人間の時間を止めてしまう呪い。エルフがそれを可能とするならば、エルフの術の模倣である魔法がそれを可能としていても不思議ではないはず」
「確かに」
「これでもまだ疑問は残ります。
時間の流れから出して一定時間が過ぎてから元に戻すということは、その術者はその間、時間から取り残されるということ。世界が半日の時間を経過させている間、その術者の半日分の時間はどうなるのか? 時間の流れに戻ってきた時に一気に半日分の時間が体の中で流れるのか、それともその分の時間経過は術者にはないのか。
どちらもはっきり言っておかしい現象です。ありえない。特に前者。一瞬で半日分の時間が流れるなんてことはあり得ないし、それはおそらく人間の体も精神も耐えられない。
あり得ないことであろうとも、可能性があるなら後者の半日分の時間経過はなかったことにされる、でしょうか。
ですがその場合、その術者は半日分時間が経っていない、老化していないということになります。寿命が延びてしまうのです。一日に満たないとはいえ。
仮にラナルータを連続で使っていたら? その術者は人間の寿命をはるかに超える時間を生きることすら可能となるでしょう。
もしかしたら、ラナルータとは本来そのような使い方をされていた可能性もあります」
一気に話して疲れたアタシは、紅茶を飲んで一息ついて、
「えっと、こんなもんでいいでしょうか?」
恐る恐る、窺うように尋ねた。だって怖いもん。向こうはどっぷり魔法学に浸った魔法学のプロ。アタシのこの考えは素人考え、嘲笑されても仕方がない。
笑われるのもバカにされるのも仕方がないとは思うのだが、それでもそんなことになったらショック受けるぞ。泣くぞ。
沈黙。ひたすらに沈黙。クラースさんとレオナルドさんは顔を見合わせ、一言も発しない。二人とも無表情。
やがて、クラースさんの肩が震えた。
ああ、笑っているのだと理解するのにしばらくかかった。
やっぱり笑われるのか、そう思った瞬間。
クラースさんが大笑いしだした。それにつられるように、レオナルドさんも大笑い。
まさに爆笑。
やっぱりこうなるんだああああああ!
言わなきゃよかった! いらない恥さらした! 穴があったら入りたい!
妹に抱きつきたい衝動にかられつつも、アタシは黙って二人を見ていた。
すると、
「なんなんですか! あなた達は!
姉さんは一生懸命話したんですよ! それを笑うなんて最低です!」
妹が顔を真っ赤に染め、机をダンッと拳で叩いた。
すると、二人は笑いをピタリと止め、
「違う違う! バカにしているわけじゃない!」
クラースさんが笑顔でそう言うや、
「あまりにも斬新な理論だったので、嬉しくて笑わずにはいられなかったんだ!」
レオナルドさんもそう言ってまた笑いの発作を止めるように口元に手をやった。
えっと……。
「アタシ、あの考え……」
あの考えがプロに受け入れられるものだったのかと聞きたかったのだが、それを言う前に、
「あれは素晴らしい考えだと思うよ! ぜひ研究してきちんとした形にして、学会に発表しなさい! いくらでも手伝うから!」
「久しぶりにいい話を聞いた。研究が行き詰っていてな、ちょっと最近イライラしていたんだ。だが、おかげでまた頑張れそうだ」
二人して笑顔でそう言ってきた。
ええー? ちょ、なんて言うか、めっちゃ嬉しい。
プロに絶賛されてしまった。素人考えなのに。
いやいや、舞い上がるな。アタシはきちんと研究の訓練をしたわけじゃない。アカデメイアのようなところで、理論の訓練はしていないのだ。素人にしては上出来、程度の感覚で言ってるんだ。
「ああ、姉さんがバカにされたわけじゃないんだ」
ほっとしたようにそう言うや、怒鳴ってすいませんでしたと謝る妹。二人は悪かったのはこっちだった、いきなり笑って申し訳なかったと、本当に申し訳なさそうに謝ってくれた。
「いいんです。ありがとうございます」
笑われた時はショックだったが、さっきの言葉でそんなモノは吹き飛んだ。
将来は思う存分研究するんだと決めているアタシにとって、いい励みになった。
「分かんねえ」
拗ねたように言うフィーノに、
「私もだよ」
フィーノを慰めるように言う妹。
二人はしばし見つめ合うと、力強く握手を交わした。
なんだか知らないが、妹とフィーノの間に、ある種の絆が結ばれたようである。
なんだかんだ言って、自分の考えを人に言うのは楽しいし。さっきも結構楽しかった。
まあ、とりあえずノルマはクリアしたと考えていいだろう。
アタシは、クラースさんの話を楽しみに待つことにした。
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最初の注意で書いてあった通り、この話の考察っぽいものはあくまでも勝手な自己解釈的なこじつけです。穴はいくらでもあります。
こいつ馬鹿だなあ、という感じで、生ぬるい目で見てやってください。
クラースさんは以前「出してほしい」と感想で書かれていたのと、作者がアデルと会わせて魔法談義させてみたいという願望からゲスト出演です。
次回はクラースさんのターン。(おそらく)