さわやかな朝。いつものように早起きして鍛錬。その後朝食の準備。
レオナルドさんに泊めてもらったのだが、勝手に人様の家の食料を使っていいのかと言われそうなことをする。昨日のうちに許可もらったからオッケー。
たま~に、白米に味噌汁のご飯が無性に食べたくなることがあるのだが、前世の記憶って奴のせいだと思う。
残念なことに、その手のご飯はこの世界には基本、ない。あるならジパングではないだろうか。
ジパングって、昔の日本みたいなところらしいし。鎖国してるらしく、他国との交流はないみたいだけれど。
何でもいいが、ジパングって『東方見聞録』かと、知った時に内心ツッコミを入れた。この世界にはマルコ・ポーロがいるのかと。
残念だなあ。本当に。いつか行ってみたいもんである。
で、結局パンなのである。サラダにスクランブルエッグ。ついでに温かいスープとヨーグルト。
好きだけどさ。この手の食事も。
そんなこんなで食事の用意をしていると、二階から誰かが降りてくる音がした。
「おはよー」
「……おはよう」
降りてきたのはフィーノである。足音で分かってはいたのだが。
昨日のことがあってなんとなく顔をあわせずらいのか、明後日の方向を向いて、見た目ややむっつりしている。
ふふふ、愛い奴め。
「昨日はよく眠れた?」
自分でもなんというか、意地の悪い質問と言うか。だって、あいつが寝るまで、手を握ってあげてて、寝てからもしばらくそのままそうしていたのだから。
「……ああ」
答えるまでに時間がややかかっているが、やはりこちらを見ない。
いや、何と言うか、弟みたいでかわいいなあ。
思いっきり抱きしめてやろうかという衝動を抑えつつ、
「顔、洗ってきな」
フィーノはそれに言葉は返さず、無言のまま行ってしまった。
さて、ちょっと間をおいて降りてきたのは妹である。
「姉さん、おはよう!」
「おはよう」
朝から元気である。非常によろしい。
と言うか、機嫌がかなりいい。今にも踊りだしそうな上機嫌である。
「姉さん!」
洗面所に行こうとして足を止め、妹はアタシを特上の笑顔で見た。天使の笑顔である。
「みんな一緒に頑張ろうね!」
言うや否や、行ってしまった。
すまん妹よ。唐突過ぎて意味が分からない。昨日のこととかが関係あるんだろうけど。
妹なりに、色々と考えた言葉なんだろうから、グダグダ考えるのはよそうか。
最後に降りてきたのはレオナルドさんだが、すごい寝癖。恥ずかしそうに、慌てて洗面所にかけ込んでいった。
偉人の意外な一面を見た。戻ってき時にはもう治ってたけど。
ご飯を食べたら、すぐにアカデメイアに行くことになった。
「ぜひ紹介したい人物がいるんです! 私の教え子の一人なんですが、現在アカデメイアで教鞭をとっている人物です」
よほど自慢の教え子なのか、レオナルドさんはとてもいい笑顔だった。
この人がそれほど言うんだから、よほど優秀な人なんだろう。今から会うのが楽しみだ。
そしてレオナルドさんの家を出て、アカデメイアへ向かう途中、レオナルドさんは何度も声をかけられていた。
「おはよう、レオナルドさん!」
「レオナルドさん、欲しがってたもんが手に入ったから、今度よって行ってくれよ!」
「おはようございます! マエストロ・レオナルド!」
「レオナルド先生! おはようございます!」
老若男女いろんな人から好意的に声をかけられる。レオナルドさんはそれに丁寧に頭を下げたり手を振ったり言葉を返したり。
ここではかなり人気のある人物らしい。アカデメイアの巨匠、さすがです。
アカデメイアはダーマの中心からずれた所に在った。てっきり中心にあると思っていたのだが。
何でも創始者が、「誰もが気兼ねなく来れる開かれた学問の場」を目指し、あえて中心に創らなかったそうな。中心地だとどうしても下町なんかの身分が低かったりする人が来にくかったりすると考えたからだそうな。
だからアカデメイアがあるのは、そういう上流階級が住む所からは離れたところにあるそうである。
で、あっさりアカデメイアに到着した。
感動。
ついてそうそうなんだと思われそうだが、アカデメイアの入り口である門をくぐり抜け、広い敷地に様々な建物があり、多くの人々が行きかう光景は、「アタシはアカデメイアに来たんだ!」というこの上ない感動をもたらしたのだ。
行きかう人々は本を手に持つ人、談笑する人たち、アカデメイアの教師だと思われる年配の方々など、実にバラエティに富んでいた。
この人たちみんな、ここで学んだり教えたりしてるんだ! 本当に感動!
「姉さん? 姉さん!」
「おいこら! 意識飛ばすな戻って来い!」
妹に揺さぶられ、フィーノに手を引っ張られて、アタシは夢から覚めたような心地になった。
あ、シグルドの奴ため息ついてやがる。いいじゃないか、アタシは今、憧れの地にいるのだから。
「お前いい加減にしろよ! 何でそんなんなるんだよ!」
「アカデメイアにいるから」
そうとしか言いようがない。
アタシの答えに、フィーノは一瞬言葉に詰まり、深々とため息をついた。なんか失礼な。
まあ、元気でいいか。いつものフィーノのようだし。変に気を使うのはかえって失礼。アタシは自分の思うようにやる!
「ここがどれだけ偉大な場所か分かってるのか? 世界の頭脳の集結するところだぞ!」
「黙れ! この学問バカ!」
「何とでも言え!」
むしろ誇らしいわ!
なんやかんやありつつも、レオナルドさんの案内で、アタシ達は今、レオナルドさんが紹介したいと言っていた人物のところに向かっている。
そんな時、
「あれがこのアカデメイアが誇る大図書館ですよ」
レオナルドさんが指さした先、ひときわ大きな建物が目に入った。
「行くな!」
がしっと、フィーノに手を掴まれ、アタシはふらふらと図書館へ向かおうとしていたことに気付いた。
しまった! 無意識のうちに体が動いたか!
「恐るべき、図書館の魅力……!」
「お前だけだよ」
フィーノのツッコミが胸に痛いぜ。
「姉さん、楽しそうだね」
「心の底から」
何でか若干体を引いている妹が、何でか乾いた笑みをうかべて何故か疲れた口調で言った。
「疲れてる? どっか体悪いの?」
「大丈夫」
妹は笑顔でそういうが、小さな声で「疲れてるけど」と付け足した。聞こえないように言ったようだが、バッチリ聞こえている。
何で疲れてるんだろう? 何かしたっけ? 歩いたくらいで疲れるような、やわな体力してないはずだけど。
「ははは、気持ちは分かりますよ、アデルさん。
すぐそこに知識の宝庫があり、それを思う存分読み漁りたいという想い。私も、寝食忘れて何日も図書館にこもり、死にそうになっていたところを学生に助けられたことがあります」
あそこ司書さんもめったに来ないところなんですよねえ。学生が来てくれてなかったら今頃死んでますよと、笑顔で話すレオナルドさんに、妹とフィーノは変な生き物を見るような目を向ける。シグルドにいたっては、「気をつけないと……!」などと言ってるんだが、シグルドよ、何を気をつけるんだ。
アタシも爺ちゃんによく怒られた。夜遅くまで本を読み、寝ているかどうかを見に来た爺ちゃんに本を取り上げられ、枕をぬらしたことが何度あったか。
きっとアタシとこの人、同類なんだろうな。
無言でお互い見つめ合い、ただ熱く握手を交わした。お互いを同類だと認識し、心から認めあった瞬間だった。
「変な目で見られてるよ!」
「さっさと行くぞ!」
妹がレオナルドさんを、フィーノがアタシを引っ張りアタシ達を引き離した後、アタシ達は再び歩き始めた。
やがてある建物に入る。煉瓦造りの、年季の入った建物だった。
中もそれなりにくすんでおり、建てられてからそれなりの年月がたっていることが分かる。
「ここの二階に彼がいるんですよ」
案内板を見たら、ここは教授、助教授、講師などの部屋がある建物らしい。レオナルドさんの名前も、二階のところに会ったから、この人のここの部屋も二階にあるんだろう。
扉の間隔からして、一部屋がそれなりの広さを持っているようだ。
二階に上がり、それなりに歩いて、レオナルドさんは一つの部屋の前で止まった。
そこのネームプレートを見て、アタシは固まった。
そんなアタシに気付いていないのか、レオナルドさんはドアをノックしている。妹やフィーノにいぶかしげな眼で見られ、シグルドに「どうかしたのか?」と聞かれても、この驚愕の前にはなんの力もないだろう。
落ちつけ、落ち着くんだ自分! あれはただ、同じ名前なだけだ! 同姓同名の別人だ! 別に珍しい名前でもないだろう!
そんなアタシの心の声に反応するように、ドアが開く。
「やあ、クラース。今日はお客様を連れて来たよ。ぜひ君に会ってもらいたくて」
クラース、と呼ばれた人物は、ふうんと興味深そうに声を出し、
「あなたがそう言われるのなら、よほどの人物とお見受けする」
その声は、以前聞いたことのあるものだった。
どこで? ゲームで。
レオナルドさんがアタシ達を中へ入るように促す。
入った部屋は本がびっしりあって、何かのメモが散らかっていた。
「初めまして」
間違いなくハンサムと言っていい顔立ち。これなら、間違いなく女性が引く手あまただろう。だが体中にペイントを施し、手首足首そして腰に鳴子を結わえた奇妙ないで立ちが、それを台無しにしている。
何この特徴的すぎる特徴! こんな人そうそういない! と言うか、この人間違いなくとあるゲームで見たことあるんですが!
アタシの心の声などお構いなしに、彼は名乗った。
「私の名はクラース・F・レスター。アカデメイアで助教授の立場にあるものだ」
テイルズ・オブ・ファンタジア。テイルズシリーズの第一作目の傑作。
その主要登場人物でパーティメンバーの一人が、目の前にいた。
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驚いたこと。
このssが、これで四十話になったこと。
もうすぐ書き始めて一年になること。
みなさんのおかげです! 読んでくださった方、意見を下さった方、応援してくださった方、そして管理人様に、心から感謝を。
ありがとうございます。