注意です。
この話は、ポルトガ編が途中ですが、このままでは一年たっても二年たっても書けないと思い、ポルトガ編を強制終了し、いきなり数年後からはじまってます。
ポルトガ編の続きを楽しみにしてくださっていた方々には申し訳ありませんが、ポルトガ編は打ち切りとさせていただきます。このままでは本編を始められないと思うが故の、苦渋の選択です。
本当に申し訳ありません。どうか、ご了承ください。
失礼いたしました。では、本文をお楽しみいただければ、幸いです。
アタシは15歳になった。
シグルドと爺ちゃんとの修行、充実した毎日。
こんな日が、ずっと続くと思っていた。少なくとも、旅立ちの時までは。
終わりは、あまりにも唐突にやってきた。
爺ちゃんが死んだ。
15歳の誕生日の二日後、なかなか起きてこない爺ちゃんの様子を見に行ったら、ベッドに横になったまま、冷たくなっていた。
しばらく、動けなかった。
爺ちゃんが高齢であるということは分かっていた。こうなる可能性は、十分わかっていた。少なくとも、そのつもりだった。
救いは、爺ちゃんに苦しんだ様子がないことか。老衰で、眠ったまま死んでいったようだ。
シグルドは、しばらく黙っていたが、やがて机に封筒が置いてあると言った。
その封筒には、『アデルへ』と書かれていた。アタシあての手紙のようだ。
そこには、実にいろいろなことが書かれていた。
まず、最初に会った時のこと。爺ちゃんは、アタシがあの日あの時、あそこでピンチになることを知っていたというのだ。夢で見たらしい。最初はただの夢であると思っていたらしいが、何度も同じ夢を見、神のお告げだと思ったそうな。そして実際に夢の通りになり、爺ちゃんはアタシを引き取ったそうだ。
また、あたしを鍛えることも夢でちょくちょく見ていたらしいが、初めは躊躇していたそうだ。こんな子供にそんな事を教えなくてもよいだろうと。たとえオルテガの子供であろうとも。
だが、毎日鍛錬をし、そして天術を使うアタシを見て、ついに爺ちゃんはアタシを鍛える決心をしたそうだ。
子供であろうと、強くなろうとする決意と覚悟は本物。なら、それに応えてやるのが筋だろうと思ったとか。
そして、本物の孫のように思っていたこと、そのおかげでとても充実した毎日を送れたこと、それに対する感謝が書かれていた。自分はもう、そんな幸福な日々を送れないだろうと思っていたから、その幸せな毎日をくれてありがとうと。
爺ちゃんの過去については、一切書いていなかった。だが、それは別にいい。何もかも知る必要なんかないだろうし、爺ちゃんが書く必要がないと決めたことなんだから、それに対する文句などない。
最後に、「お前は勇者の娘でなく、アデルである。魔王を倒すとか、世界の平和など考えなくてもよい。オルテガの影にとらわれることなく、自らの信じた道を行け。
お前はオルテガではないのだ。妹もオルテガではないのだ。オルテガの生き様にとらわれることなく、自らの人生を生きよ」と書かれていた。
言われなくても、と思うが、実際のところ、アタシの心の中には常に『勇者オルテガ』の影があったことは事実だろう。
死んだ勇者。しかし、この後永遠に語り継がれるであろう英雄。故に、その影響力は計り知れず、その血をひくアタシや妹にのしかかる。この世にいないからこその影響力なのだ。
この手紙を見て、改めて思い知った。自分の中で、オルテガがどれだけの比重を占めていたかを。慕って、ではなくだ。
妹も、オルテガの呪縛のなかにいる。環境が環境なだけに、そこから抜け出せるのは不可能に近い。
重いな、勇者って。
そして、次の勇者は妹だ。少なくとも、周りはそう思っている。妹がどういうつもりなのかは分からないが。もう何年も会っていないから、今の妹が分からない。
爺ちゃん、アタシ、街を飛び出してからは爺ちゃんとシグルドしかいなかったんだよ。
爺ちゃん死んじゃったから、シグルドしかいなくなっちゃったよ。
「シグルド、シグルドは、いなくならないよね」
『当然だ。私はマスターの剣だ。いなくなったりするものか』
そうだ。確認しなくても分かってる。そう、大切なパートナーなんだから。でも、確かめずにはいられなかったんだ。なんだか不安で。
『マスター。泣きたいといは泣けばいい。どうせ誰も見ていない』
「ううん。涙は出ないよ。泣きたくないとかじゃないんだ。
ねえ、シグルド。アタシ、ダメな奴だねえ」
『まさか。泣くことだけが死者に対する弔いでもあるまい』
そうだね。悲しくないとかじゃないんだ。死んで何とも思ってないわけじゃないんだ。
ただ、お別れは涙しかいけないわけじゃない。
アタシは、爺ちゃんの遺体を海に流した。手紙にそう書いてあったからだ。
死期を悟っていた爺ちゃんは、ちゃんと言葉を残してくれていた。ほったらかしで逝くことはしなかった。それがうれしいんだ。
これからどうしようか。妹に会いに行ってみようか。
問題は会えるかどうかだけど。アタシが『オルテガの娘の片割れ』だとバレると、色々面倒くさそうなので、何者か隠したまま会えればいいんだけど。
シグルドに意見を聞いてみたら、「マスターに任せる」としか言わなかった。ふむ、まあ、これはアタシの問題だし、シグルドに聞くほうがおかしいか。
そうと決まれば行ってみよう。無理なら無理で、行ってみなければ始まらないし。
しかし、この塔を出るには地下の洞窟を抜けないといけないんだよな。爺ちゃんのルーラがあったから、今まで一度も洞窟抜けたことなかったよ。
外でモンスター相手に修行するときは、たいてい昼間の誰もいない草原か森だったからなあ。
洞窟の中はモンスターがいた。さすがに爺ちゃんも洞窟の中まではモンスターの一掃をしなかったらしい。その必要もないしね。使わないんだから。
基本的に楽だった。今までにない環境での戦闘ということはあったが、モンスター自体は大したことはない。
洞窟は一日で抜けた。ここからアリアハン王都まで二週間はかかる。
「あーあ。ルーラが使えたらなあ」
魔法の才能がないアタシでは、ルーラなんて使えない。よって、徒歩である。
ちゃんと野営の道具一式は持ってますよ。何の準備もせずに飛び出したりはしない。
『ないものねだりはせんことだ、マスター。なに、ルーラが使えん人間など、山のようにいるのだし』
そりゃあね。魔法なんか使わん、拳で勝負! なんて人、珍しくもなんともない。そんな人は自分の足で歩くか、馬なんかに乗って旅をする。
でもさ、やっぱりテクテク歩くのと、ぱっと飛んで行くのとでは違うよ。
アタシの不満が伝わったか、
『旅に出ればこんなのは日常茶飯事になるのだぞ。今のうちに慣れておけ』
と、若干苛立った口調で言われた。
で、それもそうかと納得し、テクテク歩いて二週間ほど。やっと王都に着いた。
ちゃんと野営の知識身につけといてよかった。夜はモンスターが活発になると習ったが、本当だったよ。何の準備もしなかったら、寝てる時に襲われてた可能性大。
聖水で五芒星を描き、さらに魔術文字でそれの周りを囲む。それで結界の出来上がり。かなり強力で、大抵のモンスターはそれでもう入ってこれない。
見張りはシグルドに頼んでおいた。ソーディアンって便利だ。こんな活躍のし方するなんて。
さて、妹に会いに行きますか。
適当にその辺の人に話しかける。さすがにあれから何年もたっているので、アタシのことを分かる人はそうそういまい。
だが、残念なことに、妹には会えないようだ。
勇者として着実に力をつけていっているらしい妹は、ぜひお会いしたいという輩が多くて困っていたらしく、国からの全面支援のもと、しっかりガードされているらしい。一般人が、そうホイホイと話しかけられる存在ではなくなってしまったようだ。
ずいぶんと遠くに行ってしまったな、妹よ。
そんなことを考えていると、ミーハーな勇者ファンが会えなくて落ち込んでいると思われたらしく、「元気だしなよ」と励まされてしまった。
よろしくない。妹の負担は増え続けているようだ。これは異様だ。
それでも、妹は頑張っているんだろう。誰に聞いても妹に関する悪いうわさはない。
正直、アタシがあのままここに残っていたらどうなっただろうか。ちょっと想像したくない。やめておこう。精神衛生上、それが好ましい。
声をかけることすら無理だろう。仕方なく、アタシは諦めた。下手なことしたら、かえって妹が迷惑するだろうし。
旅立つまで、後一年弱。それまで、アタシはこのアリアハン大陸を歩きまわることにした。ポルトガにキメラの翼で行ってもいいんだが、そんな気分にはなれないし。この大陸にいれば、妹のうわさは聞けるだろうし。
この一年を、旅立ちの準備に使うとしますか。
それから、アタシは大陸中を歩き回った。シグルドからは「無茶ではないか?」と言われたほどである。
いろんな町、村に行き、人が立ち寄らないようなところも行った。
基本的に塔から出ることがなかったため、結構新鮮だったり。
爺ちゃん、見てる? アタシ、爺ちゃんに恥じないように生きてるよ。もちろん、これからも。
そしてついに一年たった。
旅が、始まる。