「ディクルう! 今日こそは貴様を叩きのめし、一族の雪辱をとげてやる!」
相手チームさんのリーダーは、血走った眼で剣の切っ先を向けていた。ディクルに。
おまえ、なんかしたんか?
結局、集まったチームは8チームのみ。いつもならもっと多く集まって、本戦前の予選をするそうなのだが、これでは予選なんぞできない。よって、このチーム全てが本戦出場決定である。
なんだか、いろんな視線がこちらを向いていて、気分的には針のむしろである。
いえ、ほんと、すみません。
そんな時、
「ああ、本当に三人で来たんだな」
昨日聞いた声がした。
そちらを振り向いてみると、トロンがいた。ほかにも、トロンと戦った武道家の兄ちゃんと、ディクルと戦った二刀流短剣使いの兄ちゃんがいた。
「団体戦に興味はなかったけどな、お前らが出るって聞いて、あわてて仲間を募ったんだ。
やられっぱなしはイヤだしな。
俺達、結構連携うまくいってんだ。昨日みたいにゃならないからな」
ほう? リベンジということか。
「アタシらだって負けないよ。かかってくる敵はなぎ倒す! ディクルが」
「俺一人か!」
「がんばれ」
「笑顔で押し付けるなよ!」
「ははは! 確かにいいチームだ」
今まで黙っていた武道家が、心底おかしそうに笑った。短剣使いも笑いをこらえている様子。
「トロンの誘いに乗って正解だった。あんたら見たいのと戦えるなんて、楽しみでしかたないしな!」
「同感だ。戦えるのを楽しみにしている」
そう言うや、三人は離れて行った。本番前の、ちょっとしたあいさつだったんだろう。
「ふん。マシなのもいるということか」
三人を見ながら、エミリオはえらそうな口調で言った。
こいつからしてみれば、ほとんどの人間が雑魚だろうよ。
そして、本戦が開始された。アタシらの出番はまだである。
とりあえず、試合を見ようかと思っていたのだが、
「つまらん試合を見たところで、何の肥しにもならん」
とエミリオが拒否したので、結局三人でティータイムになった。
いや、わかってますよ? 本当はちゃんと見ておかないといけないことぐらい。
エミリオは、
「注意しないといけないのは、おそらくさっきの奴らくらいだ。他は雑魚だから、放っておいてかまわん」
と言っていた。
つまり、トロン達の試合は見るけど、他は見ないということらしい。必要ないんだとか。
油断は禁物だと言ったのだが、
「見たところ大した奴らはいない。見ようが見まいが、結果は変わらん」
と、自信満々に言い切った。
いくら説得してもこれだったので、仕方なく付き合うことにしたのだ。
エミリオだけ放っておくと拗ねるかもしれないというディクルの言葉で、アタシらだけでも試合を見るというのは却下になったのである。
ちなみに、ディクルはコーヒー、エミリオは紅茶、アタシはまたココアである。
だから、アタシはコーヒーが飲みたいんだってば! エミリオだって紅茶飲んでるじゃん! なんでアタシだけココア?
差別だ。訴えるぞこのやろう。
そして、トロン達の試合の時がきた。
結果は、見事だった。
トロン達は三人、相手は五人だった。
試合が始まるや否や、トロンはいきなりイオを放った。個人戦の時と同じ戦法だが、これが結構効果がある。
相手チームは全員が吹っ飛ばされ、立っている者はいない。
そこに、武道家と短剣使いが飛び出す。二人は、起き上がろうとしている相手に攻撃を当て、一気に二人脱落させた。
何とか立ち上がり、体勢を立て直そうとした者がいたが、イオのダメージで思うように動けず、そこにトロンのメラがぶち当たる。こいつもリタイア。
残り二人は何とか体勢を立て直すと、トロンに向かって走り出した。どうやら、魔法が使えるトロンを先に何とかしようとしたらしい。
しかし、それを他の二人が許すはずがない。四人がにらみ合っているところに、トロンからの魔法攻撃が炸裂。
割とあっという間に、試合は終了した。
「トロン達すごかったじゃん」
「相手が弱すぎるだけだ」
トロン達をほめると、エミリオはあっさり言い放った。
「あいつらは昨日の個人戦に出ていたんだ。その際、どんな戦い方をするのかは見ていたはず。団体戦に出ているんだから、昨日の試合を見ていないなんてことはまずない。
あの魔法使いのとった戦法は、昨日の試合でもやっていたことだ。それなのに何の対策もとらず、結果があれだ。
無様、としか言いようがない」
「お前もうちょっと声落とせ。それかオブラートに包め」
すぐそこに負けたチームの方々がいらっしゃるんですが。ああ、エミリオの今の言葉で、ますます落ち込んじゃったよ。
「そこまでにしとけ。次は俺達だぞ」
一回戦最終試合。ついにアタシらの番である。
そして、ちょこっと気になることが。
相手チームの一人が、こちらをめっさ睨んでるんですが。歯ぎしりしそうな勢いで。
アタシには覚えがないので、エミリオかディクルのどちらかだろう。エミリオなんか、敵いっぱい作ってそうな気がするし。これは偏見か。
ともあれ、アタシらと相手チームは闘技場の中央へ進む。
そして向かい合った時、
「ディクルう! 今日こそは貴様を叩きのめし、一族の雪辱をとげてやる!」
と、先程睨んでいたやつが言い放ったのである。
「あんたさ、何かしたわけ?」
ディクルってそんなに敵作るタイプには見えないのだが。
ディクルは「あ~」なんて投げやり気味な声を出しつつ、明後日のほうを見たりしていたが、やがて苦笑しつつ話し出した。
「俺個人じゃなくて、家っていうか、昔の話なんだけどな」
それは一番最初に開かれた武闘大会の時にさかのぼる。
ディクルの爺ちゃん、ディレイド・ハインストは、記念すべき第一回目の大会の、第一試合で戦うことになった。
そして、相手はとある貴族で、名はボロイア・ディルムッド。伯爵の地位を賜る、由緒正しきお家柄とか。
で、結果だけ言えば、この試合で勝ったのは、ディレイドだった。
ボロイアはそれに納得できなかった。ただ負けただけならそうでもなかったんだろうが、そうではなかったらしい。
一方的かつ、あっさりと負けたのである。試合開始してものの数秒。一切の反撃も、防御すらできず、誇り高きディルムッド家の当主は、あっさり退場することになってしまった。
しかも、第一回目の大会の、第一試合という、この上なく重要なところで。
それ以来、ディルムッドはハインストを目の敵としているらしい。
が、闇討ちなどという卑劣な手は使わない。それではディルムッドの恥はそそげない。
大会で、正々堂々、完膚なきまでに完全勝利を収めること。
それは、今の代にまで受け継がれ、ディクルは今まで出場した大会でも、この兄ちゃんにやたらと突っかかられていたらしい。
ハインストに勝つために、ディルムッドはかなりの厳しい修行を後継ぎに課しているようだが、今までその悲願がかなったことはない。
かなっていたら、今のこの兄ちゃんの反応はないだろうし。
「ディルムッド伯爵家、アーデン・ディルムッドの名にかけて、今日こそ貴様を打ち取ってみせる!」
威勢がいいなあ。ディクルの実力知ってるんだろうに。
アーデンの後ろに、あと二人いるのだが、こちらは完全に腰が引けている。
おそらく、あの二人はアーデンよりも地位は低いだろう。ディクルが団体戦に出るということが分かり、急いで集めたのかもしれない。たぶん、家に仕えている者とか、その子供とか。自分より低い地位の貴族ということもありうる。
なんにせよ、あの二人は使い物にならないっぽい。
「ディクル、アーデンの相手はあんたがして。
エミリオ、あとの二人はアタシらが片付けるよ」
「くだらん試合だ」
反対意見が出ないのなら、オーケーということだろう。
しかしこれでは、せっかく練習した連携の意味がない。仕方がないが。
「『ディルムッド騎士団』対『チーム・エミリオ』、始め!」
開始の合図と同時に、アーデンはディクルに向かってまっしぐら。アタシやエミリオのことなんて、視界の隅にもないようだ。
この隙を狙って攻撃すれば、あっさりリタイアしてくれそうだが、それだと後でアタシが恨まれる。ので、アーデンはディクルに任せ、アタシらは残りを何とかする。
アーデンは飛び出していったが、残りの二人はその場を動いていない。むしろ、後ずさっている。
チームワークという言葉はないのか、このチームは。団体戦の意味ないじゃん。
アタシ達二人は一気に距離を詰め、
「ひいっ!」「いやだあ!」
おびえる二人を、あっさりリタイアさせる。
正直、あまりいい気分はしない。
エミリオもそうらしく、仏頂面に拍車がかかっている。
で、ディクルの方はと言うと、
「試合終了! 『チーム・エミリオ』の勝利!」
こっちをやっている間に、あっさり終わってしまった。
「おのれ! 忌々しいハインストめ! 次こそは必ず!」
アーデンは、言いたいことを言うと、さっさとお供の二人を連れて行ってしまった。
最初から最後まで、ディクルしか目に入っていなかった様子。
見てはいなかったから何とも言えないが、少なくとも何の策もなしに突っ込んで倒せるほど、ディクルは甘い敵ではない。アーデンがどの程度かは結局わからなかったが、これでは少なくともしばらくの間、ディルムッド家の悲願は達成されることはないだろう。
がんばれ、アーデン・ディルムッド。君の未来は……どうなるかは知らんが、明るいといいね。