張り切って来たのはいいですが、
「なんか人少なくない?」
団体戦の出場者って、こんなもんですか?
目を覚ますと、異世界にいた。
ああ、まだ夢を見ているんだなあ、とか思ってそのまま顔を洗いに行く。
意識は寝ているのに、顔を洗ったりできるのは、もはや特技と言っていいかもしれない。
部屋にある洗面所で顔を洗う。そこで、一気に意識が覚醒した。
よかった、部屋に洗面所があって。あの状態で人に会っていたら、目も当てられない状態になっていた。
『ようやくお目覚めか、マスター』
「おはよう。ここどこだっけ? って、思っちゃったよ」
『無理もない。我々には、あまりに縁のないところだ』
「まったくだ」
シグルドをひっつかんで、部屋を出る。朝早いせいか、あまり人は見かけないが、それでも働いている人達はいる。
こんなお屋敷では、早朝から仕事がたくさんあるんだろう。ごくろうさまです。
庭に向かう。勝手に人様の家をうろうろするのはどうかと思うが、起きたら運動がアタシの日課だ。これをしないと落ち着かない。
途中で人に会って、あいさつされたり、どこに向かうのか聞かれたりしまくった。お客のことはちゃんと把握しておかないといけないわけですな。
庭でシグルドを振るう。
五人ほどの敵を想定し、斬る、よける。
はたから見たら間抜けなんじゃないかと思うが、気にしない。そんなん気にするほど神経細くないのだ。
どれくらいそうしていただろうか。
「アデル?」
「お? ディクル、おはよー」
ディクルが、剣を担いでやってきた。
剣を持ってじゃないのか、と思うかもしれないが、ディクルの剣はでかいので、担ぐことになるのである。
「特訓か。感心感心。しかし、朝早いな」
「早起きは三文の得。あんたこそ早いじゃんか」
「アデルほどじゃないな。しっかしその剣、変ってるな。そんなの見たの初めてだ」
ディクルは興味深々といった様子で、シグルドをじっと見る。
「アタシとしちゃ、その大剣のほうがすごいわ。なにそれ? 一撃必殺じゃん」
身の丈ほどもある剣を軽々と振り回すそのパワーに大いに呆れつつ、アタシはため息をつく。
それに対してディクルは苦笑し、
「これが性に合ってるんだよな。いろいろ試してみたけど、これが一番いい」
軽く剣を振った。
さすがにお互い真剣でやりあえないので、それぞれ分かれて特訓することとなった。
しかし、すごいなあいつ。重量武器をあんなに素早く、的確に扱えるとは。でかくて重いのって、その分小回りは効かないし、スピードは殺されるし、威力に反してデメリットも多いのだが。それを無視してもいいほどに、完璧に使いこなしている。
それを見て、こちらもやる気が出てきた。負けていられるか! と、気合を入れる。
メイドさんが呼びに来るまで、アタシらは剣を振っていた。
朝食。剣を振りまくって汗をかいたままではあれなので、ちょっとお風呂に入れさせてもらった。
服ももちろん変えてある。汗でぬれてたからね。
で、それらが終わってから部屋に案内してもらったのだが、そこでは爺ちゃん、エミリオ、シャルティエさんが、席に座って待っていた。
「ごめんごめん、遅くなっちゃったよ」
「すいません、シャルティエさん、バシェッドさん、エミリオ」
エミリオはふんっとそっぽを向く。
「朝食のことくらい考えていろ。朝から特訓するのは構わんが、それで時間が遅くなっては意味がない」
「すんません」
素直に謝る。ディクルも頭を下げ、謝っていた。
年下にこうも簡単に頭を下げられるって、すごいんじゃないか? とか思う。そこがこいつのいいところなんだろうが。
シャルティエさんは「熱心ですね、いいことです」と言って微笑んでいたし、爺ちゃんは、「元気じゃのお」と、うれしそうだった。
とがめる雰囲気はない。だが、これからは気をつけよう。
こんな機会、二度と訪れないと思うけど。
朝食は、大変おいしく頂きました。ごちそうさまです。
その後しばらくして、またシャルティエさんと爺ちゃんに連携の特訓をしてもらった。
最初とは比べ物にならないほどに、スムーズに動けた。お互い、昨日の個人戦で実力とか、動きとかはある程度知っているので、いったん合わさると、ジグソーパズルのピースのように、ぴったりとはまった。
「これで今日の団体戦はばっちりですね!」
というシャルティエさんの言葉に、かなり気を良くするアタシ。
しかしエミリオに、
「ふん。まだ勝てたわけでもないのに、気の早いことだ」
と、くぎを刺された。
うぐう。調子に乗ってすいません。
「でも実際、かなりいいチームワークになった。この調子で、勝ちにいくぞ」
すかさず、ディクルのフォロー。三人では最年長なんで、自然とこういう役回りが行くらしい。精神年齢、アタシのほうが高いはずなのにな……。
それはいいのだが、アタシとエミリオの頭を、ワシャワシャとなでるな。こいつ、年下に対して頭をなでる癖があるのか?
あ、エミリオがかなりうっとうしそうにしてる。なでているディクルの手を思いっきり叩いた。
「いってー」などと言いつつも、ディクルの顔はほころんでいて、実に楽しそうである。
『ふむ。ある意味、非常にお似合いの三人だな。これはこれで、いいチームワークだ』
どういう意味だシグルド。いや、悪い意味で言ってるんじゃないってのはわかるんだけど、つまり何を言いたい?
「楽しそうじゃのお」
いや、アタシとエミリオは、若干イライラしてるよ? エミリオは若干じゃないか、かなりだ。
楽しそうなのは、一人だけのような気が。
そんなこんなで、闘技場に向かうことになった。
町は相変わらずのにぎわいだ。あ、向こうで大人の部の誰が勝つかで、トトカルチョしてる。その際に、「今回も優勝はディムロスだろ」とか、「今回勝つのはカーレルだ!」とか、「イクティノスも捨てがたいな」とか聞こえたんですが。
この国、マジでソーディアンチーム勢ぞろいか? 話には出ていないクレメンテとかいるの? リトラー総司令は? カーレルがいるなら、ハロルドもいるよねえ。
この国、ハンパねえ!
受付に来た。係りの人は、昨日爺ちゃんとシグルドが殺気を当てたお兄さんである。
昨日はすいませんでした、と心の中で謝る。
「すいません。子供の部団体戦のエントリーに来たのですが」
シャルティエさんが受付の人に話しかける。受付の人は、「何人ですか?」とか、「そちらの子達ですね」とか言って確認していく。
「では最後に、チーム名をお願いします」
「ええ?」
思わず声が出てしまった。だって、チーム名とか聞いてないし。
「そうですねえ。何にします?」
シャルティエさん、そんなにこやかに言わないでくださいよ。そんなの言われても困りますから!
「そうだった。団体戦って、チーム名決めとかないといけないんだった。忘れてた」
ディクル、てめえ! そんな大事なこと忘れるんじゃない!
「僕は知らないぞ、お前らで決めろ」
エミリオ! 一人だけさっさと逃げるな!
『ソーディアン・チーム、などどうだ?』
シグルド、それシャレにならないから! しかも自分のことを名前につけるって、それどういうことだ!
爺ちゃんに助けを求めて目を向けるも、ニコニコしてるだけで何の助け船も出してくれない。
ごっど! がっでむ! 味方はいない!
「チーム・エミリオ」
やけくそで、アタシはそんなことを口走った。
「なに!?」
反応したのは、エミリオである。
「チーム・エミリオ。いいじゃん別に。なんか文句ある? あるなら他の名前言ってよ。
言っとくけど、誰かの名前はもうなしね。そんな安直なこと、エミリオはしないよねえ?」
くけけけ。我ながら意地が悪いとは思うが、早々に自分は知らないとか言った報いである。
「いいんじゃないか? おれは賛成」
他に思いつかないんだろう、ディクルはあっさりこちら側になった。
「僕もいいと思いますよ」
シャルティエさんもゲット。爺ちゃんは黙ってニコニコしている。
さあ、どうするエミリオ? 味方はいないぞ?
「ふざけるな! なんでぼくの名前を使われなきゃいけないんだ!」
「だってえ、他にいいの思いつかないしい。いいじゃん別に減るもんじゃなし。分かりやすいしさあ」
わざと神経を逆なでする言い方をする。案の定、エミリオは顔を真っ赤にして、爆発寸前だ。
「つうわけで、決定! お兄さん! 『チーム・エミリオ』で登録よろしく!」
「まっ……!」
「分かりました。では、奥へどうぞ」
はい決定。エミリオの声は一歩遅かった。ふはは、ざまあみろ。
爺ちゃん、シャルティエさん、ついでにシグルドと別れ、闘技場の奥へ向かう。
その間中、エミリオは不機嫌オーラを撒き散らしていた。
で、控室に着いたのだが、あんまり人がいないのである。
団体戦なんだから、もっと人がいてもよさそんなものだが。なんだか、ガランとしている。
ぶっちゃけ寂しい。
「団体戦て、出場者少ないの?」
「いや? かなり多くのチームがエントリーするって聞いてる。本戦に出られるのは、そんなに多くないみたいだけど。
それにしても、少ないなあ」
ディクルが答えてくれたのだが、彼自身不思議そうにしている。
「これではつまらん」
うっぷん晴らしをしたいんだろう、エミリオが舌打ちをした。
はて、何故にこれほど少ないのか。
三人して首をかしげていると、
「あの三人だよ」「あいつら、本当に三人で組んできやがった」「冗談じゃなかったのかよ」「こっちが冗談じゃねえよ。勝てるかっての」「この人数の少なさ、あいつらが組むって話が広がったかららしいぜ」「あの試合恐ろしかったもんなあ」「あんな奴らとやれるかって? 同感」「どうせその場限りの冗談だと思ってたのに」「試合、イヤになってきた」
などという声が聞こえてきた。
ええっと……。つまりこの人数の少なさの原因は、アタシらか?
思わず三人で顔を見合わせる。ディクルの顔は若干引きつっていた。この話を持ってきたのはこいつだ。
ディクルは声を抑えることなく、堂々と三人で組む話を持ちかけてきた。そこに他意はない。ないんだろうが……。
結果として、アタシらが組むということを大っぴらにしたために、怖気づく参加予定者が続出。で、この寂しい控室、ということらしい。
「いって!」
とりあえず、ディクルはスネ蹴りの刑である。
楽しみにしていたのに、これではあんまり戦わないかもしれない。
同じことを思ったのか、エミリオも同じことをした。またディクルが悲鳴を上げる。
いや、ディクル一人のせいでないことは分かっている。だが、感情は納得しない。
この程度のこと、予測しておけよ。あんたとエミリオが組む時点で、もはや鬼のタッグだろ。アタシは別としてさ。
アタシとエミリオの視線に耐えられなくなったのか、ディクルは情けない顔で、
「屋台で好きなものいくらでも買ってやるから!」
などと言った。
お前はうだつの上がらないマイホームパパか。
ともあれ、この団体戦、思ったより早く終わりそうである。