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No.4219の一覧
[0] 王女様に憑依しちゃった(仮)[なんやかんや](2010/03/09 09:50)
[1] 王女様に憑依しちゃった(仮)一話[なんやかんや](2008/12/18 16:49)
[2] 王女様に憑依しちゃった(仮)二話[なんやかんや](2008/09/30 10:39)
[3] 王女様に憑依しちゃった(仮)三話[なんやかんや](2008/09/30 10:40)
[4] 王女様に憑依しちゃった(仮)四話[なんやかんや](2009/07/17 15:51)
[5] 王女様に憑依しちゃった(仮)五話[なんやかんや](2008/10/17 16:45)
[6] 王女様に憑依しちゃった(仮)六話[なんやかんや](2009/05/04 17:22)
[7] 王女様に憑依しちゃった(仮)終[なんやかんや](2008/11/14 15:56)
[8] 宰相閣下に憑依しちゃった!?一話[なんやかんや](2008/12/05 15:54)
[9] 宰相閣下に憑依しちゃった!?二話[なんやかんや](2008/12/18 16:48)
[10] 宰相閣下に憑依しちゃった!?三話[なんやかんや](2009/01/09 16:07)
[11] 宰相閣下に憑依しちゃった!?四話[なんやかんや](2009/07/17 15:51)
[12] 宰相閣下に憑依しちゃった!?五話[なんやかんや](2009/04/11 16:43)
[13] 宰相閣下に憑依しちゃった!?六話[なんやかんや](2009/04/11 16:44)
[14] 宰相閣下に憑依しちゃった!?七話[なんやかんや](2009/05/04 17:07)
[15] 宰相閣下に憑依しちゃった!?八話[なんやかんや](2009/05/23 16:04)
[16] 宰相閣下に憑依しちゃった!?九話[なんやかんや](2009/06/11 18:47)
[17] 宰相閣下に憑依しちゃった!?十話[なんやかんや](2009/07/17 15:50)
[18] 宰相閣下に憑依しちゃった!?十一話[なんやかんや](2009/08/30 12:03)
[19] 宰相閣下に憑依しちゃった!?十二話[なんやかんや](2010/03/09 09:51)
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[4219] 王女様に憑依しちゃった(仮)終
Name: なんやかんや◆5615cca5 ID:ae91f0b7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/11/14 15:56
炎が燃え上がり爆ぜた。天井の一部が燃えて落ちてくる。プチ・トロワはさながら地獄の業火に焼かれているようであった。

「王女を見つけ出せ!!急げ!!」

叫びはもはや命令というより自分自身に言い聞かせていると言った感じである。反乱を企てた彼らも既に三人のみであり、目的も目標も喪失していた。

「今更王女など、生きているのかさえ分からんのだぞ!!バール達に抑えられている可能性もだ!!」

「……くっ」

火が燃え上がった事でバール達の追撃は止まった。彼らも混乱している。火を放ったのは彼らではないという事なのだろう。だが、これだけの火事になれば、あちこちから兵が駆けつける。王女を押さえていない以上、捕まって殺されるか、戦って殺されるかしかない。だから、王女を見つけなければならないのだが、この炎の中生きているのかも分からない。

「王女を探すために逃げ回れというのか!!すぐにでも衛兵が駆けつけるだろう!!そのとき我らが戦わなくてどうするのだ!!シャルル様に仕えた我々が臆病に逃げ回って死んだなどと思われたらどうするというのだ!!」

「戦っても無駄死にになるだけだ!!」

「生きているかも分からない王女を捜す方が無駄だ!!」

時間がない。急いで王女を押さえなくてはと焦るが、付き従う二人のうち一方がそれに反対した。

「こんな議論で時間を無駄にしても意味はありません!リーダーの決定に従うべきでは?」

「そのリーダーとやらに従った結果がこれだ!!だから俺は反対だったんだ!!王女を人質に取るなどと言った事は!」

「……ですが、貴方もこの計画に参加した以上は従っていただかないと」

「その計画とやらはもう終わっている!」

「二人とも止めろ!!」

言い争う二人を静止する。不承不承と言った様子で二人は口論を止めた。

「……王女の部屋の方に向かう……あそこにいく道は一つのみだ……王女がいる可能性も高いし、戦闘になった時も戦いやすいだろう」

「分かりました」

「……わかった」

妥協案を示しなんとか同意を得る。あちらこちらで炎が燃え上がっているが幸いな事に目的の部屋に続く廊下はあまり燃えていない。道を塞ぐ瓦礫や炎は魔法で吹き飛ばして道を急ぐ。

「しかし…誰が火を……?」

「私です」

誰に対してでもなく呟いた言葉、それに間髪入れずに返答がかえって来た。あわてて見やると、そこには王女が立っていた。……違う…

「火を放つよう命じたのは私ですわ」

一歩こちらに踏み出しながらそう言い放った。つい先ほどとはまるで違う雰囲気をまとっている。存在しているだけで自然と頭を下げる気になるような何かがあった。……いや、先ほど王女を捕まえた時も同じように感じる時もあるにはあった。しかし、今の様に息をするのも苦しくなるような威圧感は無かった。嘗てのシャルル大公にもジョゼフ王にもこんな印象を受けた事は無い。

「イザベラ…殿下が…」

自分自身の口から漏れた呟き声で我に返った。いつの間にかあとずさっていた。慌てて思考を切り替え、一歩前に出る。

「……イザベラ…殿下…我々に従っていただく」

知らず、敬語を使っていた。

「……そうですか……しかし、その前に聞いておかねばならない事があります……貴方方はこの行動に何を求めているのですか?何が目的なのですか?」

そう、王女は訪ねて来た。







「王宮に火を放つなど…そんなむちゃくちゃな…!」

若い衛兵がそう叫んでくる。まあ普通は当然の反応だろう。年かさの衛兵の方は驚いた様子を見せながらも反対するという事はないようだ。

「ここで、防衛をしていればすぐに他から援軍が来ます!そんな事をせずとも、」

「援軍はこない。というより誰かが意図的にこの反乱を周りから隠蔽している。だが、プチ・トロワが燃えているともなればさすがにそう言う訳にはいくまい」

「っ!……ですが、」

「分かりました」

若い衛兵の言葉を遮り、老兵がそう言った。余計な事で時間を取られるのは避けたかったこちらとしては有り難い。

「……」

プチ・トロワの構造を思い出しながらしばし黙考する。火を放つにしてもまさかこの部屋でするわけにはいかない。この部屋はなるべく燃えないようにしなければならない。少なくとも救援がくるまでは。さらに言えば煙の事も考える必要がある。火事の死因の多くは焼死や火傷ではなく一酸化中毒なのだから。もっとも小雨とはいえ雨が降り出しているしから燃えすぎてしまう事より火がつかない可能性を考えるべきかもしれない。また、プチ・トロワはお世辞にも気密性がいいとは言えないため(冬は非常に冷え込むため暖炉をガンガンに炊き込む事になる)、煙もそれほど問題にはならないと思う。

「ふむ……ここで護衛、および囮をする者と、火を放つ者とに分かれる必要があるか……」

侍女達を守るために戦力を残しておく必要がある。戦力の分散は痛いが他に手はない。そうなると問題はどう分けるかという事になる。下手に火を放てばこちらまで危うくなる以上、私は火を放つ方に参加しなければならない。護衛の方は盤石を期すために二人は欲しい。こちらの戦力はイザベラ、若い方の衛兵、年かさの衛兵と三人のみであるから……

「卿ら二人はここでサビーネ達の護衛をするのだ。私はプチ・トロワを移動し火を放つ」

「っ!いけません!!姫様!!」

「姫様がそのような危険を冒すなど!!」

案の定、反対の声が上がった。だが、それについて議論をしている場合ではない。反対の声を黙殺して老兵の方に向き直る。

「出入り口、壁を錬金で塞げばどの程度持ちこたえる事が出来るか?」

「……半時ほどならあるいは」

つまり三十分は持たないという事だろう。まあ、それだけ持てば十分か、と独り語散る。

「ふむ……分かった。では私が出て行った後、卿らは錬金で入り口を完全に塞ぎこの部屋を死守するのだ。」

「いけません!!」

「殿下はここで隠れていてください!火を放つ役は私がやります!!」

若い衛兵がそう提案して来た。だが、

「そう言うわけにはいかない。理由は三つある。一つはこの部屋の出来る限り戦力を減らすわけにはいかないという事。いくら魔法が使えるとはいえ正規の戦闘訓練を受けていない私は防衛戦力として不適当だ。故に経験のある二人はこの部屋の防衛にまわさねばならない。もう一つは機動力の問題だ。人数が増えればそれだけ機動力も隠密性も下がる。戦闘が目的ではない以上、火を放つ役は一人で十分だ。三つ目は、私なら仮に見つかっても命までとられる事はないという事だ。反乱者も他方も私の身柄は確保しておきたいと考えているはずだ。」

説得の理由としては若干弱い気もするが強引に話を打ち切る。あえて口に出して言わなかったが最大の理由は他にある。構造や状況を性格に把握していなければ火を放つ役は任せられないという事だ。

「……しかし、」

「十分経っても何もなければそちらで火を放て。それでは幸運を祈る」

ドアに手をかけ部屋を出ようとした時、見習い兵の少年が口を開いた。

「あ、あの、わたしがお供します!」

「は?」

予想外の言葉に一瞬硬直した。見習いはおとなしくしているよう言おうとして、この身が少年とそれほど、いや、それ以上に幼い事に気がついた。反論は難しい。

「……しかし、危険だ」

「王女殿下だけを危険にさらすなど僕、い、いや私の名誉に関わります!それに私は危険など恐れません!!ご安心ください、殿下は私が命に代えてもお守りしますから!」

「……はあ、分かった。ただし条件がある。私の指示に確実に従う事だ」

「っは、はい!!私の名誉と命にかけて!!」

命にかけて、という言葉は気に入らなかったが、ここで承諾しておかないと二人の衛兵や侍女達からも猛反発を食らいそうだったので渋々ながらも了解した。少年、といってもこの身よりは年が上だが、と一緒に部屋を出た。

「では、付いてこい。静かにだ」

「はい」

プチ・トロワ、その構造を思い出しながら駆け出した。







突然、衛兵が攻撃して来た時は何が何なのか分からなかった。だが、王女殿下は瞬時に事態を推測してみせた。

(すごい……)

それだけでも十分にすごいのだが、殿下は自分よりも幼いのだ。九歳になったばかりと聞いている。十六歳になった自分にもそんな事が出来るとは思えない。その上、魔法も相当使えるらしい。傷ついた侍女をあっという間に治してしまった。自分に出来るかと言われれば確実に無理である。無能王の娘と嘲る噂話も聞いた事があったが、全くそんな事はない。プチ・トロワで見習いとして勤務するようになってから聞いた殿下の数々の逸話、そして今、目の前で皆を励ましている姿をからは、非常に聡明で慈愛に満ちている事が分かる。

(王女殿下をお守りするために僕も……戦えるんだ……)

戦いは怖くない。むしろ、少年は喜びすら感じていた。幼い頃からの夢、いつか騎士になって貴婦人や弱き者を救うという男ならば誰もが見るような夢。まして、救う対象は可愛らしい姫君である。彼の心は震えていた。

「卿ら二人はここでサビーネ達の護衛をするのだ。私はプチ・トロワを移動し火を放つ」

と、王女殿下の言葉に頭が真っ白になった。本来戦うべき衛兵ではなく王女殿下が戦いに出るというあまりに異常な発言である。二人の衛兵が止めようとするが聞き入れない。さらに同行すると言っても断っていた。

(そ、そんな……)

危険にすぎる。そう思って止めようとして、不意に気がついた。だから、

「あ、あの、わたしがお供します!」

王女殿下に向かってそう言った。初め渋るような様子を見せもしたが、了承を得、共に走り出した。

「錬金はどの程度出来る?」

しばらく無言で移動した後、殿下がそう尋ねて来た。

「あまり得意ではないですが、ラインクラス位なら……」

突然の質問に驚きながらも答える。

「ふむ……ではここからそこまでと、あそこからむこうまでの壁を錬金で砂状に出来るか?」

「えっ、は、はい!」

「では頼む。手早くだ。」

王女殿下はそう言って壁やら床やらに魔法をかけている。少年も慌てて行動を開始した。

(でも、いったいなんなんだろう……)

広い範囲ではない。作業自体はすぐに終わった。すぐさま別の場所に移動して、再び錬金をすると言った事を何度か繰り返した。

(つ、疲れた…)

肉体的には問題ないが精神力を相当に使っている。これ以上錬金の魔法を使えばろくに戦う事も出来なくなる。

「あの、これはいったい……?」

「ん……準備はできた」

王女殿下の言葉に戸惑っていると、彼女は杖を取り出し床に向けた。床をよく見ると濡れたような線が伸びている。次の瞬間、杖先に火が灯り、床の線が一気に燃え上がっていく。そのまま火は走っていき、通路の曲がり角で爆発した。

「なっ!」

「効率的に燃え上がるようにいくつか細工をしてある。簡単に消す事は出来ない……隠れるぞ。これを見て反乱者達がこちらに集まるはずだ」

促されるままに廊下の陰に移動した。殿下は隠れると言ったが少し気をつければ簡単に見つかってしまう場所だ。反乱者達をやり過ごすというには心もとなさ過ぎる。

「あの、隠れるならもっと別の場所に……」

「いや、ここで十分だ。彼らは相当動揺しているだろうから気がつくまい。それより何でそんなに距離をとっている?ただでさえ場所は狭い。もっとこっちに来い」

「え、あ、いや、でも…」

王女殿下の言葉に返答を詰まらせていると、業を煮やしたのか服を掴んで引っ張られた。急な事に体勢を崩して、王女殿下に寄りかかる格好になってしまった。

「わわわ、も、申し訳ありま」

「静かにしろ」

慌てて謝罪の言葉を述べようとしたが手で口を塞がれた。口を開くのを止めると手は離れた。

(あ、……残念だ……って、僕はいったい何を考えているんだ!王女殿下にそんな事!!……でも、王女様の手小さかったな……って駄目だ、そんな事考えちゃ!……冷静になれ、僕!王女様を今お守り出来るのは僕しかいないんだぞ!それに恐れ多くも王女様にこ……って何を考えているんだ、僕は、僕はああああ!!)

「…心配する必要はない。何かあっても私が守るから大丈夫だ」

こちらの苦悩を勘違いしたのか殿下はそう言った。立場が逆である。先ほど命をかけて守ると言ったのにまるで本気にしていないらしい。

(いやいや、違うんです、殿下!命は惜しくはないし、殿下のためなら全く問題なしで……っていうかどう考えても間違ってるよ……王女殿下が騎士を守るのも、九歳の女の子に十六の僕が守られるのも……)

勘違いされたままにしておく事は出来ない。訂正をしようと殿下に向かって口を開こうとしたところで、顔に痣が出来ている事に気がついた。思わず手を伸ばして触れると、ビクリと反応した。

「痛むのですか?……よろしかったら、私が治癒を……」

「大丈夫、いや……頼む」

王女殿下は初め断ろうとした様子を見せたが、結局了解の意を見せた。こちらに顔を近づけてくる。

(うわ、わ!体が……殿下の…駄目だ、そんな事考えちゃ!)

体が接触するほど近づいてきた事に動揺しながらなんとか呪文を唱えた。治癒は得意ではないが、懸命に精神力を込めるとゆっくりとではあるが腫れが引いていく。跡が残る事はないだろう。その事に少年は密かに安堵した。と、唐突に体を引かれた。その数瞬後、複数人の怒鳴り声と足音が聞こえてきた。

「で、殿下」

「大丈夫だ。彼らが私たちに気がつく事はない」

そうささやき声で言い交わした直後三人の男の影がすぐ脇を通り過ぎた。見つからなかったようだ。緊張が解けてほっとしていると、殿下が口を開いた。

「ここでしばらく待っていろ」

「は、あの」

何かを言う前に殿下はするりと通路に出て走り出した。






やはり、反乱者達はこの道を通って行こうとしている。王女がいる可能性が一番高いのは王女の寝室かその辺りだと反乱者達は認識している事に間違いはないようだ。そして、予想通りマザランの私兵は完全に動きが止まっている。完全に秘密裏にこの事態を解決するという目的が果たせなくなったことで、彼らは動けなくなっているはずだし、口封じをしようとも思わないだろう。つまり、イザベラの寝室に向かっている三人の反乱者達を無力化すればこれ以上死傷者が出る事はない。三人が通り過ぎるのを待ってから見習いの少年にここで待機するように言いつけ彼らを追う。そして彼らに向かい、

「火を放つよう命じたのは私ですわ」

そう言い放った。

「イザベラ…殿下が…」

中心に立っている男が呆然とした様子で呟くようにそう言い、あとずさった。が、すぐ気を取り直したのか一歩前に出て口を開いた。

「……イザベラ…殿下…我々に従っていただく」

「……そうですか……しかし、その前に聞いておかねばならない事があります……貴方方はこの行動に何を求めているのですか?何が目的なのですか?」

「何をぬけぬけと!貴様の父親がどれだけ我々シャルル派の者達を殺して来たのか考えた事があるのか!!」

右側の男、先ほどこの身を押さえていた者が叫び声を上げた。かすかに目を細めながら答える。

「では、自分たちの仲間が殺されたから自分たちも殺していいと、そうおっしゃる訳ですか?」

「だまれ!!失った事のない者が知ったような口をきくな!!これはシャルル様を不当に殺した貴様らに対する報いだ!!我らの忠義を侮辱する事は許さん!!」

「その報いのためには婦女子を人質にしても構わないし関係のない侍女、平民を巻き添えにしても構わないと……ずいぶんとご立派な忠義ですね。シャルル公も喜ばれるでしょう」

「っ!きさまぁ!!」

「よせ!」

「王女殿下!!」

こちらの言葉に激昂した男が杖をこちらに向けようとしたところで、中央の男が制止した。予想通りと思ったところで、背後からこちらに向かって見習い兵の少年が駆けてくる音に動揺する。今反乱者達が暴発すればこちらに有効な手段はない。慌てて向き直り、手振りで制止する。彼が立ち止まるのを確認してから向き直った。反乱者達も仕掛けてくる事はなく、こちらを向いて立っている。中央の男が口を開く。

「殿下、確かに私たちは卑怯な手段をとっています。しかし、多くのシャルル派が粛正された今、私たちには既に手段が残されていなかったのです……殿下、今ガリアではシャルル派に対する執拗なまでの弾圧が続いています。嘗てシャルル派であったというだけで不当に領地を没収される者、平民に落とされる者、そして殺される者は後を絶ちません。この状況を変えるために私たちは立ったのです。卑怯者と罵るならそれで構いません……私たちには名誉を失おうと犠牲を出そうと突き進む覚悟があるからです」

思った以上に冷静な様子だった。あるいは落ち着きを取り戻したのか。視線だけを上に向ける。

「……一つ……私にも覚悟があります。あなた方を殺してでも私を慕ってくれた者達を守るという覚悟が」

その言葉に、彼らは臨戦態勢をとった。だがもう遅い。

「それが、私のために死んだ者に対するせめてもの償いになるでしょうから!!」

同時に天井が爆ぜ、燃える木材や熱せられた石材が反乱者達の上に降り注いだ。

「っ!!」

悲鳴を上げる間すら与えずに、天井だった物は彼らを押しつぶした。轟音とともに床が揺れ、煙が舞い上がった。

穴の開いた天井から吹き込んでくる雨が火を鎮めていく。煙が晴れ上がるとそこには瓦礫の山があった。

「っ、殿下!!ご無事で」

少年が駆けて来た。そちらに向き直り、イザベラの部屋に戻り、衛兵や侍女達に終わったと告げるよう指示を出した。始め渋る様子を見せたが、もう脅威はないと強引に説得して部屋に向かわせる。それを、見送ってから、瓦礫の山に向かって数歩進んだ。



焼け落ちた天井から吹き込む雨が容赦なく体の熱を奪っていく。炎の勢いも弱まっている。戦闘は既に終わっている。しかし、その事実は安堵と喜びよりもむしろ虚しさと絶望をもたらしていた。

確かに戦いは終わった。だが、マリー、アリス、名も知らぬ衛兵、そして、その他にも多くの命が失われた。イザベラを守る為に死んだ者も多い。しかし、そのイザベラも……

もう居ないのだ。どんなにそれは嘘だと自分自身に言い聞かせても理性が、直感がそう告げていた。俺とイザベラを別れたままの不安定な状態で維持していた楔、ルーンは壊れてしまった。もう元には戻らない。

殆ど俺が殺した様なものだ。俺がイザベラの体を乗っ取った。俺がいなければ、こんなことにはならなかった。俺がいなければ、イザベラはモリエール夫人の誘いを承けてお茶会に参加していただろう。俺がいなければ、こんなことには巻き込まれなかった。俺がいなければ、侍女の死に彼女が絶望することはなかっただろう。俺はただイザベラを守りたかっただけなのに、彼女の為になるどころか彼女を殺してしまった。

「俺は、俺は……」

倒れ込む様に床に転がった。死のうか、そう思った。すぐ横に杖が転がっている。それを手にとって二言三言呟くだけでよい。とてもとても簡単なことのように感じた。

杖を手に取り呪文を呟き始めたところで、しかし、動きは止まった。

『………ひ……め…さ……ま………に…………げ……………』『王女様!!』

マリー、サビーネ、アリス、カリーヌ、リリーや衛兵達。彼らは或いは俺と同じように、イザベラを守るために戦った。そして、俺自身が彼女に言った言葉、伝えたかった事が脳裏をよぎった。

『泣くな!』『生きていなければならない』

その思いに、その思いを、

「……ごめん……なさい……ごめん……」

涙が止まらない。俺が泣くなと言ったのに。それでも涙が止まらなかった。

死ぬ訳にはいけない。そんなわけにはいかない。この身を守るために命を落とした者達のためにも。そして、俺がイザベラに言った言葉を嘘にしないために。イザベラの夢を嘘にしないために。

『私は、私はみんなが、貴族も平民も平和に暮らせるような国を創りたいと思うの』

誰かが聞いたら夢見がちの少女の戯れ言としか扱われないであろう言葉。ルーンが壊れたためなのか、イザベラのその言葉は俺の記憶にもあった。それはマリーにイザベラが語った言葉。二人がいない今、その言葉が本当にあったという事を示せるのは俺しかいない。

『姫様ならきっと出来ますよ』

どんな思いもどんな理想もそれだけでは何にもならない。それは分かっている。現実を変えるためには何らかの力が必要だ。力を持たない者が世界に挑んだ所で敗北が待っているだけだ。だが、だからといって平和な世界を望んだ幼い少女が間違って言えるのか。俺は、絶対にそれが間違いだなど言わせはしない。無垢なる少女の願いに何の価値も無いなどとは、決して。だから、俺は……私は、私は……嘘があろうと……矛盾があろうと……罪があろうと……彼女の夢を……それがせめてもの……



気がつくと雨が止んでいた。足音が聞こえる。

「殿下!!」

甲高い女性の声、見やるとモリエール夫人を先頭に衛兵や貴族達が駆けてくる。

「姫様!!」

反対からは侍女達と衛兵が駆けて来ていた。カリーヌも駆けてくる。顔色が悪いがそれほど問題はないのだろう。

「よくまあ、ご無事で!!いったい何が!?どうして!?こんなに濡れてしまって!」

そう叫ぶモリエール婦人越しに蒼白な顔をしている男を見やる。ジュール・マザラン、この反乱を隠蔽しようとした人物……

「旧シャルル派の衛兵達による反乱がありました。」

その言葉に、モリエール夫人を始めとしてこの騒ぎに駆けつけた衛兵達がどよめいた。

「なんと言う事でしょう!?いったい!それで、どうなったのですか!?」

答える前に一瞬蒼白な顔の男を見やり、それから口を開いた。

「彼らは私を人質に取る事が目的だったようです……ですが、全員既に討ち死にしました。危うい事態もありましたがマザラン卿が早期に事態を知り、精鋭部隊を送り込んでいただいたおかげでなんとか助かる事ができました」

男の顔が呆然としたものに変わる。その彼に対しモリエール夫人が向き直った。

「どうして、こんな事態を黙っていたのですか!!」

「え、あ……」

「私が人質に取られた以上、下手に多くを動かせば反乱者達は自暴自棄になりかねません。マザラン卿はそれを恐れたのでしょう……」

「えっ」

呆然としているマザランに代わりそう弁護した。驚きの声を上げた少年の脇に立っている年かさの衛兵にしっかりと伝わるか疑問だが話を合わせるよう目配せをした。

「そう…でしたの……かわいそうに、さぞかし怖い思いをしたでしょうね……こんなに濡れて震えているではありませんか!……体を拭くものを持って来なさい。それとここは危険ですからグラン・トロワの方に移動します」

夫人がそう指示を出した。廊下を引っ張られるように歩く。と、また兵士達の集団が駆け上って来た。こちらに近づくと兵達は二手に分かれて道を作った。その中央を一人の男が歩いてくる。『無能王』ジョゼフ、この体、私の父親にしてガリアの国王。

「おお、無事であったか、イザベラよ」

心配していた様子をまるで感じさせる事なく彼はそう言った。

「さぞかし怖い思いをした事であろう……気を紛らわすためにでも……何か欲しいものはあるか?何でも与えよう」

うるさそうな娘を何か好きなものを与えて静かにさせておこう、そんな事を考えての言葉だろうか。しかし、その言葉は私に好都合だった。

「では、一つ……私をガリアの宰相に叙していただけますか、お父様」

私はそう言い放った。





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