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No.3907の一覧
[0] 然もないと [さもない](2010/05/22 20:06)
[1] 2話[さもない](2009/08/13 15:28)
[2] 3話[さもない](2009/01/30 21:51)
[3] サブシナリオ[さもない](2009/01/31 08:22)
[4] 4話[さもない](2009/02/13 09:01)
[5] 5話(上)[さもない](2009/02/21 16:05)
[6] 5話(下)[さもない](2008/11/21 19:13)
[7] 6話(上)[さもない](2008/11/11 17:35)
[8] サブシナリオ2[さもない](2009/02/19 10:18)
[9] 6話(下)[さもない](2008/10/19 00:38)
[10] 7話(上)[さもない](2009/02/13 13:02)
[11] 7話(下)[さもない](2008/11/11 23:25)
[12] サブシナリオ3[さもない](2008/11/03 11:55)
[13] 8話(上)[さもない](2009/04/24 20:14)
[14] 8話(中)[さもない](2008/11/22 11:28)
[15] 8話(中 その2)[さもない](2009/01/30 13:11)
[16] 8話(下)[さもない](2009/03/08 20:56)
[17] サブシナリオ4[さもない](2009/02/21 18:44)
[18] 9話(上)[さもない](2009/02/28 10:48)
[19] 9話(下)[さもない](2009/02/28 07:51)
[20] サブシナリオ5[さもない](2009/03/08 21:17)
[21] サブシナリオ6[さもない](2009/04/25 07:38)
[22] 10話(上)[さもない](2009/04/25 07:13)
[23] 10話(中)[さもない](2009/07/26 20:57)
[24] 10話(下)[さもない](2009/10/08 09:45)
[25] サブシナリオ7[さもない](2009/08/13 17:54)
[26] 11話[さもない](2009/10/02 14:58)
[27] サブシナリオ8[さもない](2010/06/04 20:00)
[28] サブシナリオ9[さもない](2010/06/04 21:20)
[30] 12話[さもない](2010/07/15 07:39)
[31] サブシナリオ10[さもない](2010/07/17 10:10)
[32] 13話(上)[さもない](2010/10/06 22:05)
[33] 13話(中)[さもない](2011/01/25 18:35)
[34] 13話(下)[さもない](2011/02/12 07:12)
[35] 14話[さもない](2011/02/12 07:11)
[36] サブシナリオ11[さもない](2011/03/27 19:27)
[37] 未完[さもない](2012/04/04 21:58)
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[3907] 5話(下)
Name: さもない◆8608f9fe ID:94a36a62 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/11/21 19:13
目の前には申し訳なさそうにスバル達の授業を開く事になったと告げるアティさん。俺が帰った後、ミスミ様に切り出されたそうだ。
ほぼ確信していたからから特に何も思わないが、一応驚いておくフリをする。さすがに無反応は変だし。

そして、昼間散々振り回された仕返しに、傷付いているのを無理をして隠しているが微妙に隠しきれてない憎い演出をする。
ウィル本来の性格と物静かな姿勢も相まって中々イイ仕事をしてしまってようである。自分でもキモイことやっていると鳥肌がたった程だ。

十分に慌てふたむけ!と内心高笑いしてやった。………が、やりすぎた。

ありえない程落ち込んでいる。朝の比じゃない。見ててこっちが悲しくなりそうな顔している。「本当に、ごめんなさい…」と消え入りそうな声で謝罪された。

ナンダ、コレハ。

罪の意識に苛まれる。うわサイテーとへべれけの声が俺の心を抉る。ってちょっと待て!?何してやがるんだあの飲んだくれは!?
気になってしょうがなかったが、今は目の前に居るアティさんを、この空気をどうにかしなくては。
気にしないでください大丈夫ですからと明るく振る舞う。

これならば……と思ったが、いつもと違い不自然なまでに明るい俺に何を思ったのか、無理矢理作った様な笑顔で「ありかどうございます」と言われた。
顔を俯かせ甲板を出て行くアティさん。俺はただ見送るだけしか出来なかった。

ナンテコトヲ………。

自責の念に心が潰されそうだった。後悔先に立たず。胸が痛い。痛過ぎる。

一部始終見ていたと思われるスカーレルがそっと俺の隣に立ち、「先生の気持ちも解って上げて頂戴」と言った。しみじみと。
素で泣きそうになった。




翌日。アティさんに言われた通り授業が開かれる。

青空教室。俺が「レックス」の際に経験した記念すべきその一回目は……ブチ壊しだった。
パナシェ泣くしスバル言う事聞かないしマルルゥ抗議するしアリーゼはすごい目で俺睨むし。
アリーゼが小さく呟いた「嘘吐き」の一言で俺は一発KO。涙ぐんで震えていたそのか細い声に殺られ、俺はその時間再起動することはなかった。

あの時の様な悲劇を繰り返してはならない!俺が傷付くなどありえないが、アティさんの場合は………。
これ以上アティさんの悲しそうな顔見たら死ねる。俺の良心がすり潰される。果てる。冗談抜きで果てる。なんとしてでも成功させなくては!
アティさんと気まずくて朝何も話せなかった俺は一人意気込んだ。



が、世界は俺を嘲笑うかの様に授業を滅茶苦茶にした。



やはりスバルとパナシェのいざこざが発生してしまい、アティさんはそれを諫める。俺も手伝いその場はなんとか治まった。
が、マルルゥの出現が全てを変える。マルルゥが参政権を要求しスバルが他の不干渉を主張しパナシェが無罪を叫ぶ。カオスが広がっていく青空教室。
止むえまい。俺は決断し、全てを押さえ込む最終権力を発動させる。


「先生キレると半端ないぞ」


スバル達にしか聞こえない音量。だが、威力は絶大。スバル達は青い顔をして動きを止めた。
やったかと安堵しようとして


「―――静かにして下さい!!!」


同時に放たれたアティさんの怒鳴り声。
刷り込まれてしまっているアティさんに対する恐怖、初めて見るアティさんの怒った姿。それに耐えきれず、最も恐怖に敏感なワンちゃんは


「うわあああぁぁぁっ!!!!」


逃走した。


「って、おい!!?」


必死すぎだろっ!?ていうか、ボイコット!?
シャレ抜きの最悪の展開。血の気が引いてく。


振り向く

顔を青ざめる彼女―――顔をクシャクシャに歪める女の子

そして交差する俺と彼女の視線―――訴えかける様な山吹の眼

揺れる瞳―――涙



重なってしまった、今の彼女とあの時の少女。



「ぼ、僕、追いかけますっ!」

建前を作り、俺は全速力で彼女達から逃げ出した。






然もないと  5話(下)「自分の居場所って多分自分だけでは気付けないモノなんだと思う」






今現在。ユクレス村の外れ。パナシェの捜索続行中。超鬱な俺。死にたい。
激しい自己嫌悪。何故あんな事をしてしまったのか。アティさんが俺の事を心配してくれていたのは解っていた筈なのに。
最悪だ。女性にあんな顔をさせてしまうなんて。前とまるで変わっていない。アリーゼにしてしまった様に、同じ様に傷付けてしまった。……救えない、ホント救えない。

ふらふらと夢遊病患者の様に徘徊する。あはははと気味の悪い笑い声を上げながら。気を抜くと口から魂が昇っていきそうだ。
心の内は後悔と罪悪感で荒れ狂っていたが、逃げ出してしまったワンちゃんを連れて帰らなければならない。
誰がどうみても不審者な俺はおぼつかない足取りながら任務を遂行しようとする。二度とこんな事が起きない様にしなくては。もう遅いけどね。ははっ……。

しかも何より。アティさんは自分が悪いと勘違いしている。間違いない。疑い様もなく俺が悪いのに。
ああ、ダメだ。ホント死にたい。死んでしまいたい。誰か俺の息の根を止めてくれ。



「子供………?」



ピシッと、体が凍る。
声。背後。気配。無数。周囲展開。囲まれている。

気付かなかった?此処まで接近を許すまで?いや、自ら相手の縄張りへ飛び込んでしまった?
―――救え、ない。

知覚した声。もう聞くことはないだろうと思い忘れていた、しかし聞き間違えない様のない、間違えられない声。
常にアレの側に控えていたもの。コレ=アレの図式が成り立つもの。第2位警戒対象。

壊れた人形の様に首を回す。帝国軍――海軍の制服に身を包んだ軍人達。
そして、中央。褐色の肌。隆々とした筋肉の巨漢。ゴツイおっさん。

引き攣る顔面。笑みを作っている口が痙攣している。
胃が縮む。腹の病を患っている訳でないのに、腹は嫌な音を立てギシギシと痛み出す。


―――お久しぶりです、クマサン。


出来る事なら二度と会いたくありませんでした。


「どうします、隊長?」


あ、ああ、あああああぁ

頼む、やめてくれ。これ以上俺に現実を叩きつけないでくれ。

厄災を、俺に振りかざさないでくれ。

オネガイシマス―――


人垣が割れ姿を現す、1人の軍人。

切れ目の鋭い瞳。硬く尖っている漆黒の髪。

伸ばされている背筋。何事にも屈すまいとする意志を携えたその姿勢。

流れる様な曲線。細く、だが引き締まっている鍛え抜かれた肢体。

胸の膨らみ。疑い様のない、女。


女傑―――アズリア。



「話を聞かせてもらうぞ、少年?」



不敵の笑みを浮かべる目の前の、アレ。


―――ああ、本物だ。


グシャと、ありえない音が胃から鳴った。
同時に俺の意識はブラックアウト。視界は真っ黒に染まった。


―――ごめん。俺、やっぱ死にたくない。











覚醒し、まず最初に視界に入ったのはその他大勢の帝国軍人A。
夢ではなかったのかと、目の前の現実に絶望した。

屈強な軍人の群れに囲まれているこの状況。逃走はまず不可能。
というより、武器ない。隠し持っていたサモナイト石も存在しない。召喚術も使用不可。
ねこは……居る。俺の肩にとまり周りの軍人達を威嚇していた。
孤立無援。無一物。考えられる上でもかなり劣悪な現状である様だ。マジない。

くそぃ、何だよコレ。聞いてない。前はアリーゼに殺られた後、目を覚ましたら勝手に引き摺られててそのまま戦場に放り込まれた。
確かに此処で戦闘になりアリーゼも居て守りながら戦ったけど、こんな事態は予想外。メイメイさんの言う通り、未来が俺の知る物とは相違が生じている。なんてこったい。

どうする?ドースル?
軍人の尋問に口を閉ざし、現状打開を模索する。まぁ、1番妥当なのはみんなが駆け付けてくれるのを待ち、その際に脱出。1番安全だ。
前も此処、竜骨の断層で戦闘になったのだ。何かしらの方法で帝国軍が此処に居るのを察知したのだろう。
懸念事項は、俺が帝国軍に囚われているのに気付いているかいないか。まぁ、恐らくは気付いていないだろうが。
帰ってこない俺を捜索し出すのにどれ程時間がかかるのか。このまま沈黙を続けてもあまり時間は稼げないだろう。もし、時間が掛かるのならば、待ち以外の方法を取るしかないかもしれない。………終わったかも。

「黙っちゃあ何も解んねぇだろうっ、ああぁ!!」

終始無言の俺に声を張り上げる……ええと、何だっけ?び…び………いいや、もうワカメと呼ぼう。
ワカメは睨んでも怒鳴っても黙り表情を崩さない俺に業を煮やしたのか、掴みかかろうとする。それを熊が止めようとするが、ワカメは卑下た笑みを浮かべあしらった。熊、そういう時は鉄拳制裁で黙らせろ。押しが弱い、押しが。


「やめろ、ビジュ」


その静止の声に舌打ちをし、大人しく言うことを聞くワカメ。そして唸り始める俺の胃腸。うぐっ、彼奴の存在を忘れていた……。
俺のすぐ前まで歩み寄るアレ――もといアズリア。終にエンカウントしてしまった。覚悟はしていたが………逃げたい。


悪夢が蘇る。
軍学校での初見から始まり退役するまで会う度に決闘を申し込まれ、此方が休暇中だろうが自室待機だろうが突っ込んでくるアレ。
真面目に戦え!さけんな、来んな!その応酬の毎日に俺は耐えられなくなり軍を退役。何時襲い掛かってくるやもしれないという警戒心、恐怖、ストレスからくる俺の体はボロボロ。安眠出来た日などなかった。自分でもよく耐えたと思う。
開放されたと清々しい気分の俺を門の前で待ち受けていたアレ。胃がはっきりとアレに拒絶反応を起こしたのはあの時だと思う。
「行くな!私はまだお前に勝っていない!だから行くな!!」喚き散らすアレ。誰のせいで退役したと思ってるんだ貴様。このバトルジャンキーがっ!!
剣を抜き俺を止めようと、いや息の根を止めようとするアレ。全力全開の逃走。あの時ほど速く駆け抜けた瞬間はないと断言出来る。
もう会うことはない、そう思っていたのに。この島での回合。繰り返されることになった悪夢と胃痛。

俺の人生の半分は奴の紫電絶華だった。そう錯覚してしまう程、アレは俺の心に深い爪痕を残した。


最後に会った「アレ」とあまり変わっていない目の前の人。
こっちの方はまだ落ち着いている様に見えるのが幸いか。でも、きっとアティさん見たら形振り構わず襲い掛かるんだろうな。アティさん、南無。
拘束されていない所を見るからに、きっと彼女の指示だろう。バトルジャンキーではあったが、こういう所はきちんとしていた。軍人として誇りを持っている彼女がただの子供を拘束するなど許す筈がない。こういう所は好意が持てるのだが……いや、アレは害でしかない。

俺が人質やらなんやら会話をし、私の知っている者ならば必ず来ると言ってそう締めくくった。え、何その信頼?必ず斬るとかそういうんじゃないの?これ、ホントにアズリア?

何かおかしくね?と訝しげに見遣る。何を考えているんだと少し混乱してしまった。
そして、不意に此方に顔を向けるアズリア。ビビる俺。

「私は帝国軍海戦隊第6部隊部隊長、アズリア・レヴィノス。貴様に聞きたい事がある」

なんやねん。俺に何もしないんじゃなかったのか。

「4日前、ある小隊が此処のはぐれ召喚獣と戦闘を行った。その際召喚獣ではなく、人間、それも子供にやられたという報告があってな」

「――――――」

………まずった。

「小隊が、たった1人の子供にやられたという事実。見過ごせるものではない」

「………それが僕だと?」

「それを聞きたい。貴様がやったのか、否か」

殺気籠もり出す空間。周囲の兵は静かにそれぞれの得物に手を添える。
オイオイ。いきなり何だそれは。俺がやったと言えば即襲い掛かるつもりか?だとしたら、笑えない。
正直に吐けという事なんだろうが、あまりにも物騒だ。威嚇ならもうちょっとスマートにやれ。

ふざけた事を考えながら、同時に頭をフル回転させる。
戦闘の際の混乱に乗じてみんなと合流するつもりだったが、甘かった。
もはや俺は完璧に警戒対象。やすやすと俺を合流させない心算だろう。武器もサモナイト石も持っていない今の俺には兵士1人にも勝てない。
更にアズリアは行わないと思うが、あのワカメが俺を人質にとる可能性がある。ていうか大。あのニヤニヤとしたムカつく顔は。
それだけは認められない。俺のせいでみんなが傷付くなど。嬲れらるなど絶対に却下だ。
………仕掛ける。この状況から抜け出す。


「普通に考えて在りえないでしょう。自分で言うのも何ですけど、僕ひょろいですよ?」

―――気付かれない様に、一瞬視線を周囲に走らせる。

「確かにな。だが、目撃した者の情報とお前の特徴が一致している」

―――俺がいるのは断層における三階層。この階層にはアズリア含め7人の障害。

「仕立ての良い服に帽子。そして護衛獣と思われるメイトルパの召喚獣」

―――これより上の階層には障害はなし。二階層、一階層には各3人。

「私の目の前に居る者と寸分狂いはないな」

「そうですね。確かに寸分狂いなし。すごい偶然です」

―――背後は上へと続く道。左手は岩盤。右手は崖。前方には障害。

「そういえば、僕似たような格好した子見ましたよ。それこそ寸分狂いのない」

―――囲まれている。が、右手の配置が手薄。

「ほう。だが押収させてもらった物の中に襲撃者が使役したのと同じサモナイト石があったが?」

―――十分だ。


「ただ持っていただけですよ。僕は扱えませんから」

俺はいけしゃあしゃあと言ってのけ、頭をガリガリと掻く。俺のそのふてぶてしい態度に腹を立てているのか帝国兵達は顔を歪めて睨んでくる。
冷静な判断、観察を怠った。アズリアさえもその自然体でいた俺の行動に疑問を持たなかった。
頭――帽子に忍び込ませていた無契約のサモナイト石を手の中に収める。


「盗んだんですよ。海賊達からサモナイト石と“海賊旗”。“誓約”の儀式も出来ない僕には意味なんてないんですけど」


眉を顰めるアズリア。海賊という言葉に反応したのか、俺の発言自体を訝しんだのか。どちらにせよ、既に気付けていない時点で嵌っている。

上空から降ってくる物体。相当の高度から落下するそれは、恐ろしい速度で目標へと向かう。

そして、炸裂する。



俺に。



「ぐあっ!?」

「「「「「「「!!?」」」」」」」

カーン!と俺を強襲した物体。声を上げる俺。驚愕する帝国軍兵士。
訓練を受け実戦を何度も経てきた兵士達はすぐに上方、空を見上げ脅威を警戒する。

有能であるが故の瞬時の判断。それは待っていた唯一の隙。

見上げたのと同時に俺は右面、崖の方向へ。落下してきたタライを回収。進行方向上の兵士にブン投げる。
顔面に迫ってくるタライ、それに視界を塞がれ兵士は俺を見失う。
駆け、跳ぶ。
兵士達が上空に何もないと気付いた時にはもう遅い。捕虜はその場から抜け出し、その身を崖へ投げだした。


「しまっ!?」

「ぶっ?!」

アズリアの驚愕の声とタライを顔面にもらった兵士の呻き声が響く。
じゃあな、とっつあんと心で呟きながら、俺は帽子からもう1つのサモナイト石を取り出す。

通常より遥かに小形のサモナイト石。釣りの際ソノラに上げた時気付いたその活用性。
携帯便利。何処でも格納可能。隠し持つのに最適なそのサモナイト石を俺は釣りまくり、それを万が一の為に帽子に忍び込ませていた。
更に海賊旗。カイルに好きに使って構わないと許可を得て、俺はそれを装備――腹巻にした。
幸運値上げるそれはもはや俺にとって必需品。邪魔にならない様腹に巻いていた。さすがにアズリア達もこれには気付かなかった様だ。まぁ、気付いたとしてもただの腹巻で終わるだろうが。

俺はその2つを用いて誓約の儀式を発動。そしてわざわざスカの組み合わせを選択し、自爆。仲間では無く警戒対象への攻撃にアズリア達は俺自ら行った事だとは露にも思わない。俺から注意を離し第三者の存在を警戒してしまった。
更に言えば、誓約の儀式による武具作成及び失敗はほとんど魔力が発生しない。発光はするが、スカにかんしては上空に光りが発生し何らかの物体が現れるので、アズリア達は俺の誓約の儀式にも気付けなかった。
後はこの通り。決定的な隙を生み出し、俺はまんまと逃げ果せになった。


寸分狂いなし、と。


二階層。落ちてくる俺に気付いた下層に居た兵士達。
まぁ、まだ完全に逃げ果せになった訳じゃあないけど、と兵士達を見据えそう呟く。

受身を取り着地。結構な高さから飛び降りたが、問題ない。
すぐに大きく後方へと下がり、同時に儀式を執行する。

「海賊旗――誓約――召喚」

速攻。反撃などさせない。圧し潰す。

三階層。落ちた俺を捉えるワカメ他。各々の飛び道具を構える。
二階層。剣と大剣を抜く兵士。詠唱に入る召喚士。
一階層。上へと続く階段へ向かう兵士達。

遅過ぎる。

「来い、『ドリトル』」

何者よりも速く召喚完成。
攻撃方向指示。指を向け、その一点を指し示す。
狙うは―――岩盤!!


「ドリルブロー」


その身を文字通りドリルへと変形し、ドリトルは俺が指し示した岩盤へと突き進む。
けたたましい音が断層一帯に響き、岩盤が抉り削られ破壊される。
帝国軍兵士全員が動きを止める。何をしているのかと、何が起こっているのだと混乱していた。

「っ!?総員退避!!そこから離れろっ!!!」

アズリアが気付いたが、遅い。
ドリトルは消え、元の世界へと送還され。


そして、断層――三階層は崩壊した。


「なぁぁああアアああああああああああ――――――――――」

「うあっ!っあ!い、あああーーーーーーーーー!!?!?!!?」

「な、何でっ――――――」

「うあああああああああああぁあああああああっっ!!!!!」

ある者は土砂に飲み込まれ、あう者は崩落に巻き込まれ、そしてある者は崩れ落ちた足場から宙へと投げ出される。
崩壊の範囲内に居た者全て、最下層へと叩きつけられた。






(………狙ったというのか、これをっ!!?)

断層の崩壊。起こりうる筈もなかった自然災害が、たった1人の人間の手によって引き起こされた。
目の前の光景にアズリアは愕然とする。先程まで自分の部下がいた地面がまるごと崩れ、二階層を巻き込んでいった。
今三階層に居るのは自分を含め3人。つまり、残りはギャレオとビジュのみ。他は全員反応出来ず下に落ちていった。
二階層は言うまでもなく全滅。一階層の者達は危うくも崩落の被害から逃れていた。

一瞬にして、部隊の半分が、戦力の半分が戦闘不能に陥れられた!?
何だ、それは!?大規模の召喚術を使った訳でも、大隊による一斉射撃を行った訳でもない!
だというのにっ!?

アズリアの中で驚愕が、疑念が渦を巻く。
信じられない。その念がアズリアの身を支配する。

「っ!」

下方。これを引き起こした張本人に目を向ける。
あの状態からの脱出、そしてこの崩落。偶然ではない。全て計算された行動。
でなければ、一連の行動の説明がつかない。誓約の儀式を囮に使ったのも、二階層の兵士と遠く離れた地点で着地したのも、距離を取り巻き込まれない様に崩壊を引き起こしたのも、全て!!

何故断層の脆い地点、そこをピンポイントで狙えたのか?何故そこを狙えば崩れると解ったのか?……いや、知っていた?
その場所を知らなければ最初からこの戦法(と言えるのか定かではないが)は成り立たない。
あの少年は、一体……!?

「……!!ギャレオ、ビジュ!下の者達と合流して崩落に巻き込まれた者達を救い出せ!!急げ!!」

「………は、はっ!!」

「…た、隊長っ!!あ、あのガキは、俺がっ!!」

「これは命令だ、ビジュ!行けっ!!」

「っ………!」

アズリアは呆然と立ち竦んでいるギャレオとビジュに指示を飛ばす。異を唱えるビジュだったが、アズリアの剣幕に従うしかなかった。
その場を飛び降り、アズリアは音も無く着地。ウィルと相対する。

「貴様、何者だ」

「ませてるガキです」

「ふざけるなっ………!」

剣を抜き、アズリアはウィルに向ける。
目の前に居る存在は危険だと、アズリアの本能が告げていた。

「いいんですか?僕なんかに構って?」

「何……?」

「あれだけ派手の音起きましたからね。来ますよ、みんな」

「っ!?」

それも計算の内?敵の戦力を削ぎ味方に自分の居場所を知らせる二段構え――撤退せざる得ない状況を作り出した!?
もはや、アズリアは戦慄するしかなかった。


「如何するんですか?此処で全滅するのか、離脱するのか。……早く決めた方がいいですよ。僕は圧倒的に後者を支持します」

飄々と語る目の前の少年。その言う通り、撤退するのが上策。いや、それしか手がない。
少年の言う味方はまだ不確定だが、十中八苦海賊共とこの島の召喚獣。そして……

(アティ……!!)

ビジュや他の部下達の報告からして間違いない。あの腑抜けたお人好しが、自分が認めた戦友が、今は自分の敵。
もうそれは動かない。受け入れるしかない。
そして、それらを踏まえれば決して敵の戦力は侮れる物ではない。今の部隊の現状で戦闘になれば全滅はほぼ確実。
撤退する。しなければいけない。


「……お前の言う通りだ。だが、それはこの場でお前を切り捨てた後でも十分可能だ」

アズリアは殺気をウィルに叩きつける。重心を低く保ち剣を構えた。
それをウィルは変わらない態度で平然と受け流した。

「でしょうね。だから、僕としては貴方にこの場をさっさと離れて欲しいんです。胃もさっきから痛みっぱなしですし」

こうも殺気を剥き出しにしているのに関わらずあの態度。まだ何か隠しているのではないかとアズリアは警戒せざるを得ない。
最初から斬りかかりに行くのを躊躇ったのもそれが原因。相手の真意が見えなかった。
腹を擦りながら「帰ってくださいお願いします」と懇願する目の前の存在。しかし、その間にも隙の1つも見せない。

(………狸がっ!!)

顔を歪め歯を噛み締める。時間が経てば経つほど向こうが有利になるのだ。つまり、今までのやり取りも含め既に向こうの術中に嵌っている。
まるで裏がとれず、そしてあしらわれていた。
アズリアは舌打ちをし、ギャレオ達を見遣る。埋まっている者達はほとんどは救助され、後は治療を残すのみ。
撤退するにせよ、まだ幾分かの時間が必要。ならば、もう関係ない。
―――罠だろうと何だろうと、全て切り伏せる!!

「はああああああああっ!!!」

「やっぱし………。ねこ!」

「ミャミャーーーーーッ!!!」

アズリアはウィル目掛けて駆け、ウィルは死角に待機させていたねこをアズリアに突進させる。

「っ!?」

自分の速度も利用された死角からのカウンター。もはや絶妙を通り越した変態の域のタイミング。間違いなく、必殺。

「っあああぁぁ!!」

だが、捌く。体を捻り剣を用いて受け流す。必殺を、捌ききる。

「疾ッ!!」

「!!?」

それすら――必殺を捌かれるのすら計算の上。
ウィルはアズリアが取った回避行動――目が離れたその一瞬で誓約の儀式を完了。手に収まった苦無を投擲する。

「ぐっ!!?」

この大きく崩れた体勢での回避は不可能。咄嗟に判断したアズリアは顔に迫る凶弾を左手で受け止めた。
掌に突き刺さり貫通する。焼ける様な痛みと伴って血が溢れ出す。左手が死んだ。

「ねこ!!」

「フシャーーーーー!!!」

「ちぃ!!」

更に、背後からねこの再襲。岩すらも砕く頭突きを交わし受け止める。
体勢が整わない故に反撃がままならない。アズリアは防戦一方を強いられる。


(終わりだ)

サモナイト石を前に突き出す。これは避けられない。
何百、何千と試合――いや、死合した「レックス」と「アズリア」。それによる対「アズリア」の戦闘経験。
それが彼女とてこの攻撃は交わせないと答えを叩きだしていた。

召喚光が発生する。

何か1つに特化していない「レックス」が、唯一誰にも負けはしないと自負するのがこの召喚速度。
通常の召喚師が3秒かかる召喚発動を、レックスはほぼタイムラグなしで終了させる。
全召喚術工程。魔力と精神力の融和。構築過程。詠唱省略に簡略化。それら全てを「剣」によって細部まで読み込んだ。
そして、何より戦闘におけるその召喚術の使用回数と、生きる確立を少しでも上げようとあらゆる道具を掻き集めて執行した誓約の儀式の回数。
召喚暴発すること何百回。スカを出すこと何千回。心配掛けた仲間に殴られることプライスレス。
くたばっても「剣」による力で蘇る、もはや人間止めた方がいいのではないかという、ド外道の荒業で万にも及ぶ召喚をこなし「レックス」は超高速召喚を身に着けた。
一度召喚し工程を理解したことのある召喚獣ならば、例外なく一瞬で呼び出すことが可能である。(最上級――Sランクの召喚術はランクが足りないので召喚自体不可)


その「レックス」であるウィルから繰り出される速攻の召喚術。
避ける暇も与えない。ウィルは勝利を確信した。

「ドリ―――」

召喚終了。後は放つのみ。


だが、そのトリガーを引く途中で、ウィルは信じられない光景を知覚する。


此方に背を向けているアズリア。体勢が崩れているにも関わらず、彼女はねこの一瞬の隙を突き高速の切り払いを放つ。
常人では到底不可能の攻撃方法。重心が後ろに傾いていると言うのに、腕の力と腹筋だけで剣を逆袈裟に切り上げた。
弾かれ吹き飛ぶねこ。アズリアはそれを見送ることなく切り上げた剣を瞬時に逆手に持ち返え。首を捻る。



漆黒の瞳が、ウィルを捉えていた。



「――――――ッッ!!?」


「あああああああああああああああああああっ!!!」


一閃!!!


切り上げを放った勢いそのままアズリアは剣を投擲する。
ウィルの召喚術を完成させ発射に至るまで一秒にも満たないその動作、しかしそれを以ってしてもアズリアの方が僅かに、速い。
予想外の行動による一瞬の硬直。本来致命的になど成り得ない零の空白。だがそれは今この戦場において――決定打。


剣が一直線に突き進み、ウィルを肉薄する。


「ツッッ!!?」

回避。ウィルもまた尋常ではない反応速度を以って、その不意の一撃を交わす。
だが、ウィルの頭が警報を鳴らす。視界に映る高速で迫る影。投擲と同時に駆け出していた漆黒。
迎撃不可能―――追撃から、逃れられないっ!!


「はあああああっ!!!!」


突撃そのまま前蹴り。突撃の速度も上乗せされたそれは、易々とウィルは後方へと吹き飛ばす。

「ぐっつ!!?」

両手でガード、炸裂する瞬間に後ろへ跳んだにも関わらず、とんでもない衝撃がウィルを襲う。
宙に舞い遥か後方へと吹き飛ばされ、そして背中で地を削り土煙を巻き上げる。
骨が軋み上げる両腕の痛みに耐え、回転。体を立ち上げる。脅威を視界に捉えようと顔を上げ―――



――――戦慄



岩盤に突き刺さった剣を回収し、既に眼前に迫っている脅威。

そして、構え。剣を持った右手を引いた突きの体勢。

それはただの突きではない、放たれればあらゆる防御を貫く数多の閃光。

防具を貫き、肉を抉り、体を食い散らす、神速の剣―――雷。

絶殺。


ウィルは静かに、そして冷静に、自分の詰みを悟った。


そして、放たれる。




――――紫電絶華――――





雷鳴が、血の花を撒き散らした













(ウィル君っ!!)

駆ける。速く、もっと速くと、アティは焦る気持ち抑えることなしに森を1人駆け抜ける。
帝国軍の部隊の中にウィルが居たということを聞いたのはつい先程。そして、間もなく竜骨の断層のある場所から轟音が上がった。
それを耳にした瞬間、仲間に連絡もせず、アティはその場を駆け出した。静止の声も聞かずたった1人で。
どうしようもない不安がアティを襲う。果てしない後悔がアティを支配する。


昨夜、彼を傷付けた。彼の気持ちも考えなしに、彼の想いを裏切った。大丈夫、心配ないと、いつもの様に自分を困らせる事を言って受け入れてくれると、自分の都合を押し付けた。
無表情の、けれど感情を押し殺している彼の顔が思い出される。
日頃の自分を装うとする彼。手で肘を掴み、何かを抑え様とする彼。伏せられた目、小さく呟かれた「解りました」という了承の声。
一転して心配ないと努めて明るく振舞う姿。無理をしているのは明らかだった。

その後スカーレルに聞かされた言葉。

『あの子、時々遠い目であたし達を見るのよ。2人きりで会話してる時も、みんなと居る時も、ふと気付けば寂しそうに見詰めていてね』

『みんなで笑い合ってる中で、1人だけ離れて眩しそうに見てた。何でそんな顔するのか解らないけど……ただ、あの子が迷子みたいに見えたわ』

ハンマーで殴られたかの様な衝撃が全身を襲った。
知っていたのに。寂しさに涙を流していたのも、たった1人で月を見上げていたのも、知っていたのに。
私は、彼が決して強くない、何処にでも居る普通の子だと、知っていたのに!
自分の居場所を求め続けてるって、知っていた筈なのにっ!!

私はそれを忘れて、彼の思い遣りに甘えようとしていたんだ。
他人に迷惑をかけない様にする彼の、寂しさを押し殺して距離を取ろうとする彼の、その想いに甘えていたんだ。

自分より他人を優先させようとする彼の行動。素直にも、正直にもなろうとしない普段の装い。常に自分を押し殺す彼。

今日、表面上は取り繕っていたが内面は動揺していた私を彼は助けてくれた。私に思うことがある筈なのに。
そして、やってしまった失態。乱れた心が授業を滅茶苦茶にしてしまった。それさえも、彼がなんとかしようと駆け出していった。

絡み合った視線。彼は私に何を見ていたんだろう。何を求めていたんだろう。

私のせいだ。私が彼を追い込んだ。彼を、傷付けていた。
助けなくちゃ。謝らなくちゃ。叱ってあげなくちゃ。
一杯言いたいことがある。だから、無事でっ!


森を抜ける。やがて見えるのは至る所から骨が突き出している巨大な断層。
僅かに土煙が舞っており、そして崩落したと思われる箇所に群れる帝国軍。
まさか、あの中に?ウィルの安否にアティの顔が青褪めた。そして、アティが気付くのと同時に帝国軍もアティの存在に気付く。

「くっ、来たか!総員警戒!」

「出やがったな、赤髪ィ!!」

ギャレオが治療を続ける兵士に警戒を呼び掛け、ビジュは笑みを浮かべ己の武器をアティに向ける。
構っている暇はない!突破して、ウィル君を!アティは障害を退けようと杖を構えた。

「そこを退いて下さい!!」

サモナイト石を取り出し詠唱を開始。目の前の敵を相手にしなければいけないもどかしさを感じながら、

アティはそれを目にする。


「――――――――――」


断層の二段目。剣を構え疾走する女性兵。見間違える筈もない、旧友。アズリア。

その彼女が向かわんとする所。其処に居るのは自分の生徒。守らなくてはいけない、大切な存在。


時間の流れが緩慢になる。

アズリアの手がぶれ、閃光の様な突きが繰り出された。

剣は放たれ■■■を貫く。

それだけに終わらず、幾重もの剣閃が■■■に注がれ、そして血飛沫が上がる。

一閃される度に剣は赤く染まっていき、そして■■■を穿ってゆく。

乱れる刃は終局を迎え、その刺突を以ってして、


■■■を岩盤へと叩きつけた。


崩れ落ち、倒れるその体は、


もう、動かない。



「―――――――――――――――――――――――――」



何かが切れる音がした。













「はっ、はっ、はっ…………っ」

息を乱し、アズリアは前方の岩盤を見遣る。
叩きつけられ血で赤く染まった体は、もうピクリとも動かない。
紫電絶華。自分の奥義にして必殺。放てば、どんな強固な障害であろうと粉砕してきた。
ましてやあれは子供。防具も何も身に付けていないあの小さな体が受ければ、結果など見えている。

(だが、生きている……)

にも関わらずあの少年は死んではいない。他の誰でもないアズリア自身がそれを解っていた。
あの瞬間。体勢は崩れており回避はままならない状態。高速で迫る自分に対して、あの少年は

自らも前に出た。

腕が伸びきり最高速度、威力に到達する前に、中途半端の状態の突きをその身に受けたのだ。
高速で繰り出される乱れ突きの中に自ら飛び込む。確かにその行動により威力を殺されるのは事実。だがあの場ではそれが正解だとしても、実行出来るかは別問題。はっきり言って正気の沙汰ではない。異常である。

更にもう1つの要素。
本来ならば例え前に飛び込んできたとしても、防具を身に付けていないあの体を死に至らしめるのは可能である。
そう、本来ならば。

(毒針とはな………!)

アズリアの左手に突き刺さっている投具。今も焼ける様な痛みを発しているそれは、蛇毒針。
海賊旗と無のサモナイト石で生成されるそれは、喰らった敵に毒の追加効果を与える特殊武器。
これにより毒が回り、アズリアは本来の紫電絶華を放つことは出来なかった。今も体中に痛みが走り体が思う様に動かない。

毒により荒くなる息を抑え、アズリアは蛇毒針を引き抜く。
最後の最後までやってくれる。そう悪態をつきウィルの元へと進む。


「ッ!!?」


異変。膨大な魔力。それに当てられアズリアは足を止める。
魔力の発生地。其処へ咄嗟に目を向ければ、



碧の剣を携える白影が、此方へ迫ってきていた。



「―――――――ッ!!?」

「アズリアァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッツ!!!!!!!!!!!!!!」




反射的に地面を全力で蹴り、横に薙がれた「剣」を剣で受け止める。
瞬間、凄まじい魔力が放出され、アズリアは紙切れの様に吹き飛ばされた。

「うあああああああああああああああっっ!!?!?」

奇しくも先程のウィルと同じ様の飛び上がり、重力に従い落下。地についた後も地面を抉りながら尚突き進む。
そして岩盤に激突することでようやく勢いは止まり静止した。

「ぐっ……っあ!!うぐっ………!!!」

呻き声を上げながら、アズリアは剣を利用して立ち上がる。
前を見据える。白装束をはためかせる幽鬼。碧の魔力光が体から溢れ出ていた。
今は背をアズリアに向け、崩れ落ちたウィルに治療を施そうとしている。
その右手に握られているのは、「剣」。

「…………ア、ティ…!?」

先程の白装束の声は、紛れもなく彼女の物。
声に反応し、顔だけをアズリアに向けるアティ。今は碧の色に変わっている瞳がアズリアに明確な敵意を放っていた。

「アズリアッ……!!」

「………そう、か。貴様がそれを持って私に立ちはだかるかっ………!!」

「………………!!」

それぞれの激情を抑えきれず互いを睨み合う。
久方ぶりの知己との再会は、お互い敵となって相間見える形となった。

「必ず、その「剣」は取り返す…………ッ!!!」

その言葉を言い残し、アズリアは身を翻す。
在り得なかった筈の被害は被り、帝国軍は撤退した。






「ウィル、君…………」

真っ赤に染まった体。破れた服から覗く血にまみれた傷口。力なく垂れる体。閉じられた瞼。
見るも無残な姿が、1つの結果が其処に横たわっていた。

「う、ぁっ……!!あ、ぁぁ、あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」

招いてしまった1つの結果を、アティは抱き上げる。血が流れ、アティの腕を濡らしていく。小さな体は、温かさを感じさせてくれない。

「いや、いやぁっ!!目を、目を開けてください!!目を覚ましてっ!!」

叫びと共に膨大な魔力がアティから放出される。召喚光が発生し、「ピコリット」が姿を現す。
傷口を癒していくが、圧倒的に力が足りない。魔力は余りある程、だが完全に治療させるにはピコリット自身のキャパシティを超えていた。

「お願いっ!死なないでっ!!死な、ないでっ……!!こん、なの……こんなの、嫌ぁっ!!!」

今も尚血は流れていく。アティの顔が悲愴に歪み、涙が次々と溢れ出ていく。


「ウィル君っっ!!!!」







「はい、何ですか」

普通に起きた。


「……………………………………………………ぇ?」


「何か御用で?」

普段と変わらない様子で口を開く狸。いや、赤狸。

「…………ウィ、ウィル君っ!?生き、て…………生きてっ!?」

「ええ、生きてます。伊達に死に慣れて………いえ、何でもありません。忘れてください」

一瞬不穏な発言をかましたが、アティはそれに気付かず、より一層涙を溢れさせた。

「ウィ、ル、君………!ぁ、ああぁ……!!っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!!!!!!!!!」


その小さな体をアティは胸に掻き抱き、そして泣いた。閉じられた目から涙は止まらず、声にならない叫びが上がる。
間もなく沈み出した夕日が、彼女と彼を茜色に染め上げていた。







「大丈夫ですか………?」

「ええ。取り合えずは」

美女に抱きしめられるというかなり美味しい思いをして、今もアティさんの腕に支えれている。
ああ、こんな日が来るとは。カイル、俺ついにやったよ。女の胸の中で死ぬ。お前の言う浪漫を叶えたよ。生きてるけど。ていうかヘブン見たよ、ヘブン。滅茶苦茶柔らかかったデス。

「…良かったです。本当に、良かった………」

目の回りを赤くさせたアティさんが、そっと微笑む。目を潤ませているその顔はまた泣き出してしまいそうだ。……やばい、顔が熱い。超綺麗だ。そして、同時に泣かせてしまったことに途方もない罪悪感が…。

「まぁ、あのくらいじゃあ死にませんよ。死ぬ3歩手前くらいです。まだ余裕あります」

素で。

「馬鹿なこと言わないでください!!本当に死んじゃってもおかしくなかったんですよ!!本、当に………!」

そう言われてもなぁ。本当にまだ死ぬには僅かばかりの余裕がある。もうどれくらいで死ぬとか死なないとか解ってしまう。死の気配?そういうのを本当に死ぬ時は感じるからね。こう意識がすーっと失せていく様な。………本当にもう人間じゃないのかもしれない。

兎に角見た目程ヤバイ訳じゃない。滅茶苦茶痛いのは当然だが。アズリアの剣も貫通はしなかったし。脇抉られて剣突き出した時はゾッとしたが。アズリアも俺を殺すつもりは無かったと思う。「レックス」の時は容赦なかったが、今はウィルだし。子供を殺すことはアレはしないと思う。多分な。紫電絶華使ってきたから何とも言えないが。
俺が前に飛び込んできたから加減出来なかったのかもしれない。張り付かれたら苦無持ってた俺が有利だし。ていうか、毒回ってて何であんな動き出来るんだ。普通に無理だろ。化け物か。いや、今更か…。


「………ごめんなさい、ウィル君」

「え………?」

「私のせいで、こんな………!!」

「…………!」

「ごめ、ん、なさいっ……!!!」

目をぎゅうと閉じ、そこから涙を流すアティさん。ぽろぽろと零れる涙が俺の顔を濡らしていく。

………うぐぁ!!違う、違うんですっ!!貴方じゃなくて私が悪いんでございますです!!だから、泣かんといて!!後生や!!でないと、良心が、良心がっ!!

ズッキンズッキン痛む胸を握り潰しながら、アティさんの顔に手を伸ばし流れ出る涙を拭う。指に触れた涙は、ひどく暖かく感じられた。

「………ウィル、君?」

「先生は悪くありません。子供みたいなことやって先生を傷付けた、僕の自業自得です」

「ち、違います!!私がウィル君のこと何も考えずに、色々迷惑掛けて、寂しい思いさせて、傷付けて!………大怪我させて。悪いのは、私です…」

寂しい?ああ、あの夜の事まだ覚えててくれたのか。

「いえ、先生に迷惑掛けたのは僕です。それに怪我だって僕が勝手に捕まったせいですから」

「そんなことないですっ!!私が悪いんです!私がっ!!」

貴方が優しいこと解ってますが、自分を責め過ぎですよ。明らかに悪いのは俺なんですから。

「先生、勘違いしてます。僕は傷付いてなんかいません。あの時は、ただ先生の困る顔が見たくて悪戯しただけです」

「っ!如何してそんな強がるんですかっ!!いつも、いつも、いつもっ!!そうやって何でもない様に平気そうな顔して!!」

何だそれは。強がってなんかないし、それにこの涼しい顔は元々だ。しょうがあるまい。

「何訳の解らないこと言ってるんですか。こういう顔なんだから仕方ないでしょう。人の顔にケチつけないで下さい」

「~~~~っ!!そうやってまたっ!!はぐらかさないでくださいっ!!」

だから何なんだ、それは。いい加減に話を聞けい!

「どんな妄想してるしてるか知りませんが、これが素なんです、素。はぐらかすも何もないです。僕の言葉解ります?」

「も、妄想……!!何でそういうこと言うんですかっ!ウィル君全然可愛くないです!!もっと素直になってくださいっ!!」

うっさい!可愛くないなんて知ってるわ!!素直になるもクソもあるかー!!

「可愛くなる必要なんて何処にでもないでしょう。馬鹿ですか?子供じゃあるまいし」

「ウィル君思いっきり子供です!!完全無欠の子供ですっ!!何ませてるんですか!!ウィル君の方が馬鹿ですっ!!!」

てめっ!!?

「うっさいです。急に騒いで先生の方が子供じゃないですか。精神年齢低い証拠です。五歳児ですか、貴方は」

「なっ、なっ、なぁっ~~~~~~~~~~!!!?」

ふんっ!ざまぁ!!

「自覚があるようで何よりです。もっと「ウィル君なんて枯れてるじゃないですか!!よく変な発言したり、人生に疲れた様な顔してっ!!何悟ってるんですか!?その年でもうお爺ちゃんですかっ!!!」待てーーーーーーーーーっ!!!?」

聞き捨てならないぞ、それはっ!!?誰がジジイかっ!!!


「勝手なことほざくなっ!!俺は枯れてなどいないっ!!眼科行けっ、眼科っ!!」

「生憎私の視力は両方2,0の超正常ですよーーーーーだっ!!眼科なんて行く必要全くありませんっ!!」

「じゃあ眼鏡なんて持ってんなっ!!意味ないだろっ!アホかっ!!痴呆かっ!!頭の病院逝けっ!!!」

「なあっ!?失礼なこと言わないでください!!伊達に決まってるでしょう!?私はボケてませんっ!!」

「嘘抜かすな、この天然っ!!いつもいつも見当違いなこと言いやがって!こっちの身になってみろ!!」

「それはこっちのセリフですっ!変なことばっかり言ってるのはそっちじゃないですか!!変態ですかっ!!!」

「変態言うなっ!!この天然鈍感河童娘っ!!!」

「私の方が年上ですっ!!!」

「年増っ!!!」

「こらーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!」





「……………何だ、アレ」

「先生と、ウィルね……」

「私達、相当焦って此処に来たよね……」

「ええ、相当心配しました……」

「それでアレ……?」

『………ムゥ』



「俺が悪いっ!!!」

「私ですっ!!!」

「俺っ!!!」

「私っ!!!」

「俺っ!!!」

「私っ!!!」

「ぬ~~~~~~~~~~~~~~!!!!」

「う~~~~~~~~~~~~~~!!!!」

「この分からずぅ………………ぅあぁ」

「え?…え、ええっ!?ウィ、ウィル君っ!!?」



「倒れたな」

「倒れたわね」

「バッタリだね」

「バッタリです」

「見事にね」

『………ムゥ』



「血が足りねぇ…………」

「あわわわわっ!!!だ、大丈夫ですかっ!?」

「ピコリットの群れが見える………」

「ちょっ!?シャレなってないですっ!?ウィル君、気を確かに!!?」



「帰るか」

「そうね」

「賛成~」

「ではいきましょう」

「無駄に疲れたわ」

『………ムゥ』




「はは、アリーゼ、今逝くよ……………そして俺を許してくれ…」

「ダメですよっ!!?何懺悔してるんですか!?…ウィル君?ウィル君!?ダ、ダメですーーーーーーーっ!!!?」

















「じゃあ、ウィル君は平気なんですね?」

「はい。まだ貧血の症状が見られますが、それ以外は何ら問題はありません。傷跡も残ることはないでしょう」

「はぁ。良かった。ありがとうございます、クノン。助かりました」

「感謝は不要です。私は、その為に在るのですから」


以前と似たようなやり取りをして苦笑してしまいます。
フラーゼンであるクノンのとって当たり前のことかもしれませんが、私にとってはいくら感謝しても足りないくらいです。
もう一度クノンにお礼を言い、ウィル君の病室へ向かった。

リペアセンターへ来るのは今日で2回目。最初は迷った此処の構造もようやく慣れてきました。そういえばあの娘は大丈夫でしょうか?少し心配です。後でもう一度見に行きましょう。

ウィル君が倒れた時は本当に焦りましたけど、無事で良かったです。
本当に一安心。でも、危なかったのは事実。むしろよくあんな状態で無事でいられたのが不思議です。後遺症もないだなんて。
やっぱり、「剣」のお蔭なんでしょうか?一瞬でこそ治療は無理でしたけど。ウィル君倒れるまでピンピンしてましたし。………ウィル君の底力の様な気がしてきました。何故か否定が出来ません…。

それにしても、あそこまで誰かとムキになって大声出し合ったのも久しぶりです。何だか可笑しい。その相手がウィル君だなんて。私達、似た者同士なのかもしれません。ウィル君は否定しそうですけど。………ふふっ、有りえますね。

さて、もう寝ちゃったでしょうか?


「ウィル君?入っていいですか?」

………返事がしない。やっぱり寝ちゃったのかな?

「入りますよ、ウィル君」

自動に横へ扉がスライドし、中に入る。今はもう夜で電灯がついていないこの部屋も暗くなっています。
窓から入る月明かりで、そこまで暗い訳ではないんですけど………って、いない!?

「ウィ、ウィル君!?」

空のベッドから目を離し部屋を見渡す。何処かに隠れているのかと窺いますが、病室である此処に隠れる場所なんてある訳がなくて……。
さあっと、顔から血の気が引いていった。




「アルディラッ!!!」

「アティ?如何したの、そんな慌てて?」

「ウィル君が、ウィル君が部屋に居ないんです!!」

「!ちょっと待って。今館内の捜索するから」

冷静にアルディラは機械と向かい合い操作していく。いくつものモニターが浮かび上がり、至る箇所の映像が映っては消えていきます。
アルディラがまだリペアセンターに居て助りました。クノンはあの娘の治療もあるので負担は掛けられません。
それよりも、ウィル君は何処へ行ってしまったのか。傷は治っていても、安静にしなければいけないのに。

不安と焦燥に駆られる。まだ見つからないのか。無事なのだろうか。
此処に危険はない。それは解っているのに、不安で不安でしょうがない。心臓が痛い程に胸打っている。
怖い。理屈抜きで、私は彼が居ないというだけで恐怖を感じている。

無残にも斬りつけられるその瞬間。岩に叩きつけられ動かなくなる有様。血に濡れ、まるで死者の様に目が伏せられているその姿。

あの時の光景が浮かび上がってゆく。失ってしまうのではないのか。消えてしまうのではないか。彼はこのまま、私の前から居なくなってしまうのではないか。
恐れている。こんなにも私は恐れている。彼が居なくなってしまうことを。彼の声が聞けなくなることを。感じられなくなることを。

私は、大切なモノを失うことを恐れている。


「……!居たわ」

「っ!!何処ですかっ!?」

「此処の屋上。でも、如何してこんな所に………………って、もう行ったの……?」







階段を駆け上がる。息が乱れるのに構うことなく、屋上へ続く段差を跳ぶ様に上っていく。
如何して屋上に居るのか。今は理由なんてどうでもいい。

屋上への扉の前で少し躊躇し、けれどもすぐにノブに手をかけ回す。
ギィと音を立て扉が開くと、視界に広がるのは人工的な灯りからなる機界の夜景。


そして、背中を向け佇む彼。


いつもと何も変わらないその背中が、今はひどく遠いモノに感じられた。



「……………先生」

「……………はい」

振り向く彼に、相槌を打つ私。
奥にいる彼と、私の今いる場所、それが私達の間にある距離の様に思えて、切なくなった。

彼の元へと向かい、肩を並べる。顔を向き合えたまま、お互いの瞳を見詰め合った。


「…………心配かけちゃいましたか?」

「はい。心配、しました………」

そうですかと呟き、彼は私から視線を外す。
言いたいことがあった筈なのだけれど、言葉は出てこなかった。
月を見詰める彼の目には、何が映っているんだろう。

「何をやってるんですか、こんな所で?」

「月を見上げながら、恒久的な世界平和について考えていたんです」

前と同じ様な問答。でも、今度は、


「何を、考えているんですか?」


近付く。彼へと。1歩、踏み出してみる。

此方を向いて、目を見開いて私を見上げる彼。
そのまま暫く見詰め合い、やがてまた彼は顔を月へと戻す。

「昔のことを、考えてしました」

「マルティーニのお屋敷のことですか?」

「…………………周りに居た人達のことです」

何か違うのだろうかと思ったけど、追求はしなかった。

「一緒に居た時は解らなかったけど、会えなくなって解りました。どのくらい自分がみんなを必要としていたのか。自分にとって掛け替えのない人達だったのか、ようやく解りました」

淡々と言葉が紡がれていくけれど、でもそれには彼の想いが確かに込められていて。

「それが、堪らなく悲しい」

いつかの姿が、ぴったりと重なった。



「スカーレルが言ってました。ウィル君は、時々自分やソノラ達を寂しそうに見てるって」

「……………マジですか?」

「マジです」

参ったと苦笑する彼。窺うことの出来る瞳には、確かに哀愁が見て取れた。

「カイル達、似てるんです。みんなと。本当にそっくりで、みんなと重ねて見ていたんですね」

「………私は、全然気付きませんでした」

「アティさんみたいな変人は居ませんでしたから。誰かと重ねて見ることはなかったんですよ」

誰が変人ですかと文句を言い非難の視線を向ける。
彼は口元に笑みを浮かべ私の視線をさらっと流します。本当にいい性格しています。

暫くして前へと歩き出し、私から彼は離れていく。

「でも、先生のことを羨ましく思っていたかもしれません。先生の立ち位置を、みんなに笑いかけられるその場所を」

「それは………」

「解ってます。みんなは僕にも同じ様に接してくれますから。だから、これはただの我が侭なんです。今自分には無いモノを欲しがる、子供の我が侭です」

今も彼は私から離れていき、距離は更に伸びていく。
その間にも彼の独白は続き、私の胸の中へと染み渡っていく。

「先生の言ってたことは当たっています。僕は寂しく思っていました。みんなが僕のことを知らないことを。僕は独りぼっちだっていうことを」


「…………ええ。僕は、寂しいです」



彼がどんな顔しているのか、背を向けれている私には解らない。
何を見て、何を感じ、何を思っているのか。私には解らない。

ただ、ずっと前に居る今の彼の姿は、偽りのない、彼の想いだと解った。


「私じゃあ、貴方の寂しさを癒せることは出来ませんか?」

歩み寄っていく

「私じゃあ、貴方を笑顔にさせることは出来ませんか?」

距離が無くなっていく。

「私じゃあ、貴方の助けになることは出来ませんか?」

やがて、お互いの距離は零になった。


振り向く。視線が絡み合う。そして、瞳に映っているモノは、私だった。


「嬉しかったですよ」


「先生が、僕を見てくれるって言ってくれて。1人じゃないって言ってくれて」


「独りぼっちの僕に、居場所をくれて」



「――――俺は、嬉しかった」



「だから、ありがとう」


頭を下げる彼。笑っていた彼。私を映していた彼。本当の、彼。
胸が高鳴った。


――――嬉しかった。













「先生?」

「……………!は、はいっ!!な、何ですか?」

「何呆けちゃってるんですか。やっぱり、頭の病院行った方が」

「馬鹿なこと言わないで下さいっ!!」

「行った方がいいと思いますけどね」

「私は変人じゃありません!って、そうです!!ウィル君、何やってるんですか!?怪我してるのにこんな所に来て!」

「いいじゃないですか別に」

「ダメです、寝てなきゃ!行きますよ!!」

「え、ちょ、ちょっと!?な、何引っ張ってるんですかっ?!離してください!?」

「嫌です!目を離したらまた何処かふらふら行っちゃうんですから!!このまま連れて行きます!」

「しません!しませんから、離してくださいっ!?手を離してっ!!?」

「いけません!部屋まで連行します!」

「馬鹿抜かすなーーーーーっ!?やっぱ、病院行けーーーーーーーーっ!!!この鈍ちん!!」

「に、鈍っ!?私はそんなトロくなんかありませんっ!!!」

「違ぇーーーーーーーー!!!?鈍すぎるわっ!!この天然悪魔っ!!ええい、離せっ!!!」

「ちょ、ちょっと暴れないで下さい!!というか、悪魔って言わないで下さいっ!!?また誤解されるじゃないですかっ!!」

「いいから、離せーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!」







澄んだ夜空に浮かぶ満月。
その月の下、離れ引き寄せる2つの影。
暗闇の中に浮かぶ淡く青白い光りの相が、彼と彼女を照らしていた。


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