それはまるで、温かな太陽のように。
「綺麗……」
現れた蒼色の光輝に誰もが目を奪われた。
透き通り、澄み切っていて、何物よりも尊い。
具現した心の刃が、遺跡深部『識幹の間』を隅々まで照らし出す。
ウィスタリアス。果てしなき蒼。
これまでの鋭く威圧的であった碧光とは異なる、側にいるもの全てを包み込んでしまうような暖光だ。
光の中心にいるアティは眼差しを強く構える。
伸びた白髪に白い肌。そして蒼穹の瞳。
復活を遂げた抜剣者は救世主のごとくカイル達の前に現れた。
「『剣』が復元……!?」
「このような芸当ができるのはっ……ウィゼル!」
激しい交戦の最中、相手陣地に現れたアティの『ウィスタリアス』を見せつけられ、オルドレイクは激憤の表情を見せた。
彼の目が射抜く先、ウィゼルは片目を瞑りこれまで通りの常態を崩さない。
『剣』を復活させた名工は、しばしアティへ眩しいものを見るかのような視線を馳せ、ややあってからオルドレイクに向き直り口を開いた。
「俺は俺の都合で動く。お前の狂気を再現する武器を打つために、こうして用心棒まがいの役目を務めているようにな。それはお前も知るところであろう」
「ぬうっ……!」
淡々としたウィゼルにオルドレイクは声をすり潰す。
彼は突きつけられた利害に一頻り呻いた後、再び前に振り返った。
視界の中心で、アティが静かに口を開く。
「……もう、貴方達に何も傷付けさせはしない」
「小娘がッ……!」
蒼の瞳と闇の瞳が交差する。
膨れ上がる戦意。多くの者が傷付き倒れかけていた筈のカイル達は、一人、また一人と膝を伸ばし立ち上がっていく。向かい合う派閥兵達は眉間に力を込め、脅威足りうる彼等を睥睨した。
たっ、たっ、と。
軽いステップで仲間達のもとにやって来たウィルの登場が、合図だった。
間もなく、一戦を仕切り直す狼煙が両陣営から上がる。
「召喚獣どもを蹴散らせ! 奴等を理想の礎へと変えろっ!!」
『はっ!!』
「みんな、力を貸してください!」
『よしきたぁああああああああああああああああああああああああああああ!!』
(あぁもう勝ったな)
「ぼけっとしてんな、ウィル!」
決戦が始まる。
然もないと 15話「一つの答え、一つの想い」
時間を巻き戻すと、戦端は、遺跡に陣を敷いた無色の派閥をカイル達が襲撃したことで形で開かれていた。
イスラの謀反によりオルドレイクともども痛手を負い、『遺跡』の確保を優先させ中枢掌握に乗り出した無色の派閥。
それをやらせまいと、傷付いたアティを残し自分達のみで勝負に打って出た島の住人勢。
手負いとはいえ大陸で名を轟かすその実力は本物、圧倒的な召喚術を中心に攻め入る無色の派閥にカイル達は劣勢に立たされていた。
が、アティ(とウィルというおまけ)の加入が全てを変わる。
戦況は一変していた。
「はああっ!」
瓦解しかけていたカイル達の陣形は立て直し、怒涛の勢いで無色の軍勢を押し返す。
その先頭に立つのはアティ。『抜剣覚醒・改』を経た彼女の戦い振りは、まさに一騎当千の働きに相応しかった。
「──げっっ!?」
袈裟に振り下ろされたアティの『剣』が派閥兵を捉える。
蒼光を纏う刀身は、相手の構えられた大剣の上から鎧である重装ごとまとめて“斬った”。
肉厚の金属塊がまるでバターのように切り裂かれる。
膨大な威力が付与された魔力斬撃。
魔力が高圧縮された刃はどこまでも研ぎ澄まされ、この世のあらゆる武器と一線を画した切れ味を誇る。太刀打ちできる武具はもう一振りの『剣』を除いて現存しない。
比類のない斬撃をまともに食らった兵士は、しかしその身に切り傷一つとしてなかった。
ウィスタリアスの属性は『守護』、そして『不殺』。
アティの想いが具現した心の刃は敵を傷付けることなく戦闘不能にさせる。
「やぁあああああああああああああッ!!」
前方、数人の固まる敵部隊まで距離およそ十メートル。
アティは距離も詰めず大上段に『剣』を構え、一気に振り抜いた。
弓型を形作る斬撃の大光波が大気の上を滑走する。
眼をあらん限りに剥いた派閥兵達は迫りくる光刃に動きを止めてしまい────爆裂。
蒼光が派手に飛び散り、大の男達はあられもなく中空へ吹き飛んだ。
「す、すげぇ……!?」
アティに率いられる形のカイル達はその獅子奮迅の活躍ぶりに開いた口が塞がらない。
小細工なし、正真正銘の中央突破。
今のアティはまさに蒼光を放つ楔に違いなかった。
「天然はやればできる子でした」
澄ました顔を浮かべながらそう口にするウィルは心の中で、うっひゃーマジ楽ー、と拍手喝采する。
絶対安全地帯──アティの影にこそこそ隠れながらサモナイト石を行使する。
「でんちマーン」
『セイッ!』
「あふんっ!?」
血迷った格好で召喚される『でんちマン』の血迷ったサイドチェスト。
『しびれるポーズ』をもろに被視した派閥兵は、無理矢理『麻痺』状態に追い込まれ嬌声とともに撃沈した。
白眼を剥いて倒れ伏す男の後頭部に、ソノラが気の毒そうな視線を送る。
「オイオイオイ! いいのか、すげぇ簡単にここまで来ちまったぞ!?」
「先生さんがとってもとっても凄いのです~!」
ヤッファが叫べばマルルゥが感嘆する。
その光景は圧巻だった。彼等だけでは切り崩せなかった敵前衛の布陣を、あたかも砂の城を崩すように攻め落としてく。
一向はオルドレイク本陣のもとに繋がる大階段をもはや目前にしていた。
「おお、おお! まるで若き日の良人を見ているようじゃ!」
「轟雷の将っ……何度あの背を追いかけ続けたことかっ!」
「父上が……!」
単独先頭で道を切り開いていく白い外套の背に、ミスミ達鬼人族は亡き豪傑の姿を見る。
歓呼と追懐と、憧憬。
過ぎ去った光景に突き動かされる形で彼等の勢いが増した。
槍が飛び刀が振るわれ、斧が奮える。
アティ以外の者達もまた己の力を爆発させ立ち塞がる敵を蹴散らしていく──地味に各々が装備する武器(どれも無限回廊から回収された“曰くつき”)の威力がキラリと光っていた。狸の笑みもまた光る。
鉄砲水を彷彿させる凄まじい攻勢は、頬を痙攣させる無色兵達をいともたやすく呑み込んでいった。
大階段に突入する。
「頼もしいことこの上ありませんが、このまま行けば……!」
「ああ。私が敵の指揮官ならば、必ずここに兵を配置し要撃する!」
空を飛ぶフレイズの言葉に、側にいたアズリアは同意を示す。
段数は何百段とあり、段差自体も丈のある、規模と大きさが尋常ではない大階段。
菫色の大理石で構築された階段は幅が広く遮蔽物も存在しない。階段頂上に“狙撃手”が潜んでいれば、上ってくる敵はまさに狙い放題、格好の的に尽きるだろう。
散見する敵兵を切って捨て、大階段を駆け上がっていくアティ達の視界の中。
ほどなくしてフレイズとアズリアの予感が的中し、敵側が頂上付近で動きを作った。
「矢と、銃!!」
「あら、真っ向からの撃ち合いで私のヴァルゼルドに勝てると思って?」
「アルディーラさん、それ、僕の台詞っす……」
『弾幕展開ッ!!』
雨あられと降りしきる射撃攻撃に、ヴァルゼルドを含めた遠距離組がすぐさま応射。
激しい銃撃戦が繰り広げる。が、敵の手はこれで止まらなかった。
まるで洞窟から蝙蝠の群れが溢れ出すように、階段天辺の奥から数え切れない黒い影が羽ばたいてくる。
「ええっ!?」
「また喚んだようですね、悪魔達を……」
「プライドとか、もうかなぐり捨ててやがんな……」
以前イスラが指揮した時と同じ光景だった。
大量の堕天兵を使役してこちらに送りこんできたオルドレイクに、ウィルは口をへの字にする。
使役もとの召喚師も階段の頂上で待機しているので直接は狙えない。悪魔達を倒そうがまた新たな召喚獣が喚び出され、無限ループ。
悪辣極まる。
無色の派閥はここぞと数の暴力でアティ達を捻り潰しにきた。
「──どいてください!」
しかし、それも今の彼女には通用しなかった。
アティが天を突くように『剣』を頭上に掲げる。
膨大な、それでいて通常の召喚術とは隔たった異質な魔力が収束し……次には、『門』が開いた。
「『送還術』!?」
「おいおい、流石にそこまでは……!」
直径約三十メートル、『喚起の門』とほぼ同等規模の蒼光の渦が中空高く展開された。
異世界から召喚獣を喚び出す召喚獣とは真逆のベクトル。リィンバウムへ現界した使役対象をもとの世界へと“送還”する対召喚術(アンチ・サモン)。
もはやアティの行使したそれは『送還術』と呼べるほどの立派な技術ではなく、共界線を利用して異世界へ通ずる『穴』そのものを構築させた力任せの大技だ。
宙に浮かぶ悪魔達が導かれるように穴という名の『門』へ吸い寄せられ、次々とその身を光の中へ消していく。ともすればそれは堕天使達が救いの光を請い求める、幻想的な光景だった。
響き渡るエコー。
悪魔があっという間に一匹残らず送還される。
頭上を仰いだ格好で呆然と固まるのは派閥召喚師達。
敵味方問わず召喚師が驚愕する中、ウィルさえもそのアティの破天荒ぶりに目を剥いた。
手が、つけられない。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!』
一瞬の空白が生まれたのも束の間、いち早く行動を開始したファルゼンが、己の巨体を揺るがし大階段を駆け上がる。
鎧騎士は銀色の大剣を後方へと溜め自身を引き絞られた矢に見立てると、はっと意識を取り戻した狙撃部隊達めがけ、その轟撃を解き放った。
吹き飛ばす。
大薙ぎされた一撃が階段頂上に陣取っていた兵士達をまとめて飛散させた。嘘のように人の体が軽々しく宙を舞う。
錐揉みした兵士達が床に叩きつけられるのと同じタイミングで、ウィル達も一気に階段を踏破。
とうとう敵の本陣と対峙する。
「さぁて、追い詰めたわね……」
「最後の戦い、ってね」
スカレールが蛇を彷彿させる不敵な眼光を浮かべ、ソノラがリボルバーに弾丸を装填しながら同調した。
辿り着いた場所はあたかも祭壇のような場所だった。広大な平面空間には荘厳な長柱が数多く並び、遥か奥には『識幹の間』と遺跡の深部を繋ぐ巨大な門が鎮座している。無色の派閥の本隊は門を背にする形でアティ達を待ち構えていた。
島の召喚獣等の瞳に射られる派閥兵達はアティの能力に狼狽えながらも、いまだその戦意を失ってはいない。目には剣呑な光が残っている。
相手は部隊を二つに分けていた。
ツェリーヌが率いる本隊に、ウィゼルの周りを付かず離れずの距離で取り巻く遊撃部隊。
オルドレイクが彼等の最後方で一人孤立しており、全ての味方を己の射程圏に収めている絶妙な位置にいる。
「使い捨ての駒で僕達を足止めして……自分は後ろから好き放題撃ちまくるっていう腹かな」
「おいおい、それ不味くねぇか?」
ウィルの洞察にカイルは顔を顰めた。
島に上陸してから碌な目にあっていないが、オルドレイクの力は紛れもなく世界屈指のものだ。彼の使役する召喚術はカイル達を、ともすれば全滅へ追い込む威力を秘めている。
全ての派閥兵が彼の召喚術の効果範囲内、つまりカイル達が接近し敵前衛と衝突したその瞬間から、弩級の砲撃が間断なく注がれることになる。
死霊の女王ことツェリーヌはその規格外の回復術で戦線を保たせ、更にウィゼル達は遊撃隊として自由に動き回りこちらを撹乱、あるいは此方の打ち漏らしを潰す。
規格外の戦闘能力を持つ三人が作り上げる、強力なトライアングルだった。
正面衝突をするならば甚大な被害を覚悟しなければならない。
「どうするんだ?」
「ここまでくれば作戦も何もないと思うけど……」
「なぁに、こちらには『蒼穹の最終兵器』ことアティ先生がいます。真正面からブッ潰してやりましょう」
「渾名がこれまで以上に物騒な響きになってますー!?」
若干一名の悲鳴が上がる中、泥沼化は避けられないが、やはりアティの力にものを言わせた召喚術の撃ち合いでも敢行するかと。
余り前向きになれない選択肢が、アルディラ達パーティの首脳陣の中で濃厚になってきた頃。
突如、彼等の後方から、遥か高い天井にまで届こうかという鬨の声が轟いた。
「ちょ……嘘!」
「どこに隠れてやがった!?」
アティ達の背後を取ったのは、大階段を駆け上がってくる大人数の派閥兵達だった。
大理石の構造物の影にでも身を潜めていたのか、その数は二十はくだらない。
まんまとかかったなと哄笑するように叫び声を連ね距離を詰めてくる。
「あれだけの兵力をまだ隠し持っていたというのか……」
「いえ、先日の交戦記録を参照すれば、彼等の特徴は登録済みであるキャラクターデータと一致します。100%、無色の派閥が現れた初日、虐殺の被害に遭った方々です」
「何故でしょう、途端に彼等が哀れに見えてきました」
「ていうか、生きてたのか……」
「そうだよっ、あんな死にかけだったのに、もう動けるようになっちゃったの!?」
「ツェリーヌ様の力なら、決して不可能ではないかと……」
「ズリィー!」
復活を遂げた兵達にカイル達は苦い顔をする。
取りあえず足止めとしてウィルがヴァルゼルドに射撃からの迎撃を命じると、それからすぐ、不動だった敵の本隊が前進を開始した。
「挟み撃ちぃ!?」
「まぁ、そうするじゃろうな」
「見事に誘き寄せられたってわけね……」
「はん、やっこさん、今までと違って随分必死そうじゃねえか」
「全くです、最後くらい正々堂々戦えと」
「「「「「だからお前が言うな」」」」」
文字通りアティ達は袋の鼠となった。
逃げ場のない高所地帯、前も後ろも塞がれ身動きが取れない。
今はまだ後方の部隊を何とか押し止めているが、正面の本隊と接敵すればこの状況も容易く崩れるだろう。
もはや窮地に一歩、足を踏み入れている。
「──前進しましょう。僕達も仕掛けます」
そんな中、顔付きを変えたウィルの判断は速かった。
敵の動きを鋭く見据え、決断をくだす。
投じられた声に目を見張るカイル達は、視線を彼のもとに集め、そしてすぐに口を吊り上げて賛同の意を示した。
今日という日までともに戦い抜いてきた彼等の中で、いまさら異議を唱える者はいなかった。
「ヤッファ、今から言うことできる?」
「言ってみな。期待を裏切らねえくらいに、気張ってやるからよ」
口端をあげるヤッファにウィルは頷いて、頭の中で描いた設計図を語った。周囲にも聞こえる程度に声を出す。
ヤッファ以外の者も一字一句聞き逃すまいと耳を貸し、自然と円が作られた。
(……)
切迫しつつある状況の中、簡潔かつ手短に自分の言葉を並べるウィルと、それを聞くカイル達の姿を見渡して……この光景も久しぶりだな、とアティは思う。
ついこの前まで繰り返されてきたものだが、心の迷宮を抜け出した今の自分にとって、酷く懐かしく感じた。
仲間がいる。
アティは目の前の一枚の絵に胸を叩かれ、熱い気持ちに包まれた。白くなった肌を軽く染め、柔らかな笑みを滲ませる。
「先生、なにニヤけているんですか気持ち悪い。夢に出てきそうなんで止めてください」
「あぁ、このやり取りも久しぶりですね本当に懐かしいですエヘヘ私なんだか泣きたくなってきました」
「笑ったり泣いたり忙しい人ですね。拙者失笑」
「あーもうっ本当に懐かしいなぁ!?」
「時間がないんだから止めなさいっ!!」
蒼く輝く瞳からおいおい涙を流すアティにアルディラは一喝。
他方、帽子を失っているウィルの頭に、ふくれたマルルゥはヒップアタックをする。妖精が頭の上に不時着したかと思えば、ソノラ他の視線が束となって教師と生徒の頬をともども抉った。
何故に、とアティとウィルは内心で汗をかきながら顔を無理矢理引き締める。
「……で、ヤッファ?」
「ああ、やれねえことはねぇが……ただ、そうなるとコイツを借りることになるぜ?」
「ふぇ? 何ですか、シマシマさん?」
脹れっ面で話を聞いていなかったマルルゥが、ウィルを見下ろしていた姿勢から顔を上げる。
不思議そうにヤッファとウィルの顔に目を往復させた。
「ん、大丈夫。マルルゥ、頑張って」
「えっ、えっ?」
「何でもねえよ。いいからお前はこっちに来とけ」
「はむぅ!?」
混乱している妖精を右手でモギュッと掴まえ、ヤッファはそのまま自分の肩へ持っていく。
「もう今から仕込む。こっちは任せとけ。だが、流石に後方(あっち)までは届かねえからな?」
「わかってる」
くい、と大階段を顎でさすヤッファにウィルは相槌を打った。
そこで、一部始終を聞き二人のやり取りを見守っていたファリエルが、意を決したように動きを作る。
「ウィル。あの人達は、私に任せてください」
「……いいの?」
「はい。一番私が適任でしょうし……今度は、私がみんなの背中を守りたい」
常に最前線で敵へ斬り込み、背後を味方に守られているファリエルならではの言葉だった。
彼女に触発されるかのように、ミスミが口元に笑みを浮かべ人垣を割り、またフレイズも続いた。
「わらわも連れていけ、ファリエル。この場なら、わらわの風も少しは役に立とう」
「ファリエル様と私は一蓮托生、どこまでもお供します」
「……なら、島の古株として私も格好つけさせてもらうかしら。敵の本隊は任せなさい。試したい召喚術があるの」
「サポートはお任せください、アルディラ様」
「……ウィゼルは、私が討ちます」
「キュウマ、オイラにも手伝わせろよ!」
アルディラが、クノンが、キュウマが、スバルが。
島の召喚獣達が次々と名乗りをあげる。
ウィルは勝手に進んでいく配置付けに嘆息したが、止めようとはしなかった。
「ということは、オルドレイクを相手取るのは我々か……」
「なぁに、そんな大きい体してビビちゃってるの?」
「抜かせ、海賊」
ギャレオとスカーレルの軽口の交わし合い。
気負うどころか全く緊張していない彼等の姿に、ウィルはもう何も手回しする必要がないことを知る。
最後に、いつかと同じように、そっとアティの方を見上げた。
蒼い瞳と目が合うと、彼女はウィルにだけわかるように、ふっと微笑みかける。
ウィルもまたほんの少し相好を崩した。
「……これ終わったら、またみんなで鍋を囲みましょう」
「……うん!」
◇
激しい銃撃が止まった。
場所は大階段。派閥兵の進行を阻んでいた弾幕が途切れ、晴れて行動の制限から抜け出せる。
彼等は保険だった。
自らも大怪我を負い私兵をことごとく損耗させたオルドレイクが、アティが来る前からカイル達を警戒し、密かに潜ませていたもしものための保険。
復活した抜剣者の乱入という予想外の流れとなったが、何はともあれオルドレイクの必勝の策はここに作動したのである。
後方からの襲撃で浮き足立つアティ達を追い詰め、本隊との連携により一網打尽。
目下邪魔であった弾幕はもうない。後はもう機械的に与えられた任務を遂行していくだけ。
その筈だった。
「か……風っ!?」
止んだ銃弾の雨の代わりに、風が吹き寄せていた。
階段を上る派閥兵にとっての向かい風。頬を殴る強烈な風圧が彼等の進行を大いに鈍らせる。
風が、まるで生き物のように体へ絡みついてきた。
(す、進めんっ……!?)
気を抜けば階段から足が離れそうだった。
芋虫のように縮こまり、派閥兵達は段差に這うような格好を取る。
余りにも不自然な風向き。遺跡内部というこの人工的な空間ではあり得ざる風の猛威だ。目を細くして大階段を見上げた派閥兵の一人が、両手で印を結び風を呼ぶ鬼人の姿を捉える。
部隊の進行が完全に止まってしまった中。
ぐわっ、と上空の空気が引き裂かれたかのように大きく揺らいだのは、それから間もなくのことだった。
『──────』
派閥兵達の二度目の戦慄。
巨大な影が、頭上から降ってくる────。
『ムゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!』
轟音が大階段に炸裂した。
隕石のように落下してきた白銀の鎧、ファルゼンが派閥部隊の前方に着弾する。
数えきれない大理石の破片。階段の最上段から飛び降りた騎士は派閥兵もろとも足場を爆砕させる。
先頭にいた仲間達が衝撃の余波により拡散していく光景に、後続の者達は頬を引きつらせることしかできなかった。
落下地点の中心で、膝を折った騎士がゆっくりと立ち上がる。
一緒に持ち上がった兜の奥で、紫紺の双眼が淡く輝いた。
「つ……潰せぇえええええええええええっ!?」
誰かが叫ぶ。
大階段の最下へ派手に叩きつけられただろう仲間を頭から忘却し、眼前の死神を退けようと大声を張った。
人三人分はある敵の巨体によって幾分か風は遮られている。行動は可能だった。
まだ二十を超える兵力差で畳みかけようと、最前列の数人が一斉にファルゼンへと飛びかかる。
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
が、呆気なく彼等の目論みは粉砕された。
剛腕から放たれた大斬撃が、向かってきた兵四人、まとめて吹き飛ばす。
ドカァンッ、と馬鹿げた音が鳴り響いた。
「!?」
『オオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
初撃に続く第二の攻撃が派閥兵を喰らう。
防御に構えられた斧ごと筋骨たくましい偉丈夫が銀剣で弾かれ、カウンターを試みる槍兵もあっけなく衝撃に殴り飛ばされた。
後手に立たされた敵の完全な無効化。防御も反撃も許さない。
『絶対攻撃』。
剛腕剛剣から繰り出される怪物じみた一撃が、理不尽の塊となって兵達を蹂躙する。
「か、構えろ!?」
「撃てぇっ!!」
後方の召喚師と射撃武器を持つ兵の悲鳴が重なった。
十分な間合いを残し、かき集められた重火力が解き放たれる。
一斉射撃が剣を振るっていたファルゼンに見舞われた。取り残された兵達も巻き添えにしながら、凄まじい遠距離攻撃が叩きこまれていく。
放たれる銃弾に矢、召喚術は巨大な的へ立て続けに命中し、次々と敵の鎧が飛んで砕け散っていく。それでも彼等は決して手を止めようとしなかった。
鼓膜を聾する砲声が幾重にも反響し、やがて膨大な粉塵が舞い上がって辺りを充満する。相手の姿が完全に視界から消えた。
大階段中程の地点を、もうもうと白煙が覆い尽くす。
「……ぁ」
転がった呟き。
視界が晴れていく。
霧散していく煙の中心に立つのは、紫紺の光を全身から放出する、輝かしいまでの白銀の鎧だった。
『フゥウウウウウウウウウッ……!』
抉られ、破砕し、亀裂の入った箇所が見る見るうちに修復していく。
今も鎧から立ち昇る光の粒子は、一人の少女の魔力だった。
自身のマナを燃やし治癒効果を発動させる────『再生能力』。
もう何度目とも知れない戦慄が派閥兵達を襲う。
いくら叩こうが斬りつけようが壊れない。彼等の目にはその銀騎士は不死身の存在として映った。
こちらの攻撃は意味をなさず、相手の攻撃は防げず。
『死神』という言葉が、絶望の感情とともに彼等の脳裏を等しく駆け巡る。
「ここから先は、一歩も通さない……!!」
可憐な少女の声が猛々しく大気を打ち、騎士は大剣を振りかぶる。
峻烈な剣舞が派閥兵の群れをかき分けていった。
既に戦意を半ばまで折られた兵達はなすがまま蹴散らされていく。
やがて後方より絶叫があがったかと思うと、射撃部隊が上空から天使に奇襲されている瞬間が目に入った。
──もう、終わりだ。
響き渡る咆哮。翻る巨肢。止まらない剣の激流。
目前に迫る巨影を前に、残る兵達はそう悟った。
◇
「うし、おっぱじめるとするか」
時は遡り、ファリエルが大階段で暴れる数分前。
ヤッファは口を動かすと静かに立ち上がった。
「準備はいいな、マルルゥ」
「はいですよ~! マルルゥ、とっても頑張りますよー!」
宙をくるくる回りながらマルルゥは朗らかに笑う。
「ったく」と耳の裏側をかきながらヤッファはぼやいてみせたが、すぐに自分自身も笑みを作った。
ルシャナの花の妖精は笑みをこぼした後、すっと目を瞑って両手を掲げる。
やがて緑光が彼女の周囲を取り巻きだし、その光に誘われるかのように碧色の鉱石がふわふわと浮かび上がった。
マルルゥの頭より大きなサモナイト石が、突き出された細い腕の先で浮遊、静止する。瞬く間に石は鮮やかな発光を始めた。
上級召喚術が行使される中、ヤッファはその大きな右手をがしっとマルルゥの頭の上に置いた。
まるでボールを掴むような扱いに、マルルゥの結わえられた髪がくいっと持ち上がって無言の抗議を示してくるが、笑みを浮かべ無視をする。
サモナイト石にこめられていく妖精の魔力に同調させるように、ヤッファは自分のものを手の平から送った。
溶け合って爆発的に高まっていく獣属性の魔力に、サモナイト石が発火する。
「いくですよぉー!!」
「おう、ぶちかませ!」
二つの魔力の融和。
『協力召喚』だ。
「出てきてくださ~いっ!」
マルルゥの喚ぶ声が弾け、サモナイト石から溢れ出た巨大な緑光が膨れ上がる。
次の瞬間、一匹の召喚獣が光の膜を破って現れた。
美しい翡翠色の毛皮を持つ四足獣は、首をぶるっと震わせた後、天井に向かって清い鳴き声を打ち上げる。
メイトルパの聖獣、『ジュラフィム』。
荘厳な鐘の音のような、あるいは森と自然が紡ぐ声音のような、生命力に溢れた緑の歌が『識幹の間』を満たしていく。
瞬間、緑光がぶわっと拡大した。
アティ達も、向かってくる無色の派閥も包み込む光の円柱。ジュラフィムは最後にキュルと高く鳴き、前足を地から離して後ろ足立ちをする。
上方へ振り上げた前足をぐぐっと溜め、一気に、大理石の床へ叩きつけた。
木の根が、天を衝く。
『聖獣の怒り』。
ジュラフィムの上級召喚術。
大木と見紛う巨大な緑根が地響きともに床から勢いよくせり上がった。
更に一本では止まらない。
次々と次々と生えては伸び、あたかも槍衾のように突き出されていく。
根の槍群は無色の派閥を中心に形成され、敵の陣を縦横無尽に裂く。
その光景を空から俯瞰すればすぐにわかっただろう。オルドレイク達の陣が、空高く突き上がった何本もの木の根によって、綺麗に“三等分”されたことを。
動揺がひた走る中、無色の派閥は部隊を散り散りにされた。
「もう俺達はここから動けねえからな……」
巨大な衝立が佇立する光景を前に、ヤッファは呟いた。
今も召喚術を行使し続けているヤッファとマルルゥは動くことはできない。行動可能になるには召喚術を解かなければならないが、それではこの地形効果が失われてしまう。
敵を瞬間的に分散するという役目を負ったヤッファ達の仕事はここまでだ。
「さっさと終わらせちまってくれよ?」
上級召喚術の制御に振り回されるマルルゥが「あわわっ」と目を回す中、魔力を放出するヤッファはその場であぐらをかく。気だるげに親父臭く、笑みを浮かべながら。
仲間に、ひいては同じ護人に向けられた言葉は、風に乗って宙を舞った。
◇
「そんな……貴方っ!?」
突如として作り上げられた壁に、ツェリーヌの喉は震えた。
『聖獣の怒り』は彼女が指揮する本隊をすっぽりと取り囲むように発動しており、オルドレイクはおろか比較的近くにいたウィゼルの姿も巨大な木の根によって阻まれている。
まるで天然の檻だ、向こうを視認することができない。
部隊の分散に伴った各個撃破。敵の狙いは明白だった。
自分達の目論みを引っくり返す荒技にツェリーヌは言葉を失い、夫を遠くへ隔てた樹根の連なりを見上げながら、数瞬の間その場で立ちつくしてしまう。
彼女の動揺が兵達にも伝わり混乱を招いた。
「自分のことを捨て置いて気遣える伴侶がいるなんて……妬けるわ」
「!」
投じられた声にツェリーヌは振り返った。
大きく距離が離れた地点、部隊と対峙する形で機界の融機人(ベイガー)と、彼女に付き添うように看護用人形(フラーゼン)がいる。
ツェリーヌは目を見開いた後、すぐに視線を険しくする。
「いますぐこれを解きなさい、獣(ケダモノ)よ! 私はあの方の側を離れるわけにはいかないのです!」
「……貴方には悪いけど、嫌な気分ね。まるで鏡を見ているみたい。ほんの少し前の自分を見ているようだわ」
語調を激しくするツェリーヌと対照的に、アルディラは冷淡な眼差しで淡々と喋った。
怪訝そうな顔をするツェリーヌを無視して彼女は言葉を継ぐ。
「一つ聞きたいのだけど、貴方はその思い人に愛されている?」
「なっ……!」
「気を悪くさせたらごめんなさい。ただ、貴方の一方通行になっていたとしたら、同じ“女”として少し見過ごせそうにないのよ。……そう、言うことを聞くだけの人形に成り下がっているのなら、尚更」
その瞳に一瞬だけ哀れみさえ覗かせたアルディラに、ツェリーヌは愕然とした後、すぐにその雪肌を真っ赤に染めた。
彼女が滅多に見せない激情の色。
ツェリーヌにとって最大級の侮辱をされ、唇が自制を忘れてわなわなと震え出す。
「このッ、無礼者ッ!! 私とあの方の愛を土足で踏み荒らすなどっ……疑うなんてっ、恥を知りなさい!」
「……」
「どの口が愛などと語るのですか!? 我々に使役されるだけの存在がわかった風な口を利いて、おこがましい!」
常の口調を乱してツェリーヌはアルディラを非難する。
一流召喚師の家系に生まれた矜持が召喚獣に諭されるなど許容できなかった。
何より一人の女として、何にも代え難い誇りを汚されたことが、我慢ならなかった。
「妻が夫に尽くすのは当然のこと、見返りを求めようとする時点でお前は腐敗している! 汚らわしいっ、無償の愛を抱けずして何が伴侶か!」
「……そう、貴方は強いのね」
「黙りなさい! 召喚獣風情が語らう愛などままごと、所詮、己を喚び出した召喚師の情婦にでも成り下がったのでしょう!」
軽蔑の視線を隠しもしないツェリーヌに、アルディラは無表情のまま、ゆっくりと瞳を閉じた。
何を言い返すわけでもなくその場で立ちつくし、数秒。
やがて瞼を薄く開いて、もう一度ツェリーヌと視線を合わせた。
「そうね、野暮な質問だったわ。ごめんなさいね、貴方達の愛に茶々を入れて」
「……?」
「わかっていたわ、あの男と貴方が愛し合っていることは。科学的根拠なんていらない、一発よ、だって私も女ですもの」
「なに、を……?」
「意外だったのは、貴方が道具として利用されることも受け入れていることかしら? 今の私には、貴方のそれは自己陶酔にしか見えない……なんて言ってみるけど、ふふっ、ただの負け惜しみかしら? 貴方の言う通り、私の方がつまらない女なのかもしれない」
自嘲の香りを臭わせながらアルディラは薄笑いをした。ツェリーヌは打った変わった態度に疑念を隠せない。
そして繰り広げられる異次元(おんな)の会話に、派閥兵達は緊張した面差しで、固唾を呑みながら見守っていた。
──ツェリーヌ様マジパネェっす。
──いやあのベイガーさんも負けておらぬ。
「あまり真に受けないでちょうだい。大したことじゃないの、少し貴方にちょっかいを出したかっただけ」
「……」
「ええ、そうよ。これはただの、愛せる相手がいる貴方への────嫉妬ですもの」
酷薄だった眼差しが、押し殺した声とともに鋭く吊り上がる。
そして次の瞬間。
アルディラの背後、控えていたクノンから、辺り一帯を光で埋め尽くす強力な青球が発生した。
「──────」
「後は、そう、ただの時間稼ぎだから」
異界の扉が形成される。
アルディラに気を取られていたツェリーヌは、水面下でゲートを構築するクノンの存在を察することができなかった。
「準備が整いました、アルディラ様」
「ごくろうさま。じゃあ、行くわよ。散々のろけてくれたあの女をスクラップにしてやるわ」
「かしこまりました」
もはや私怨を覗かせながらアルディラはキッと眦を決した。
ばっと杖を持つ左手を水平に構え、光の粒子をまき散らすゲートに己の魔力を装填する。
ツェリーヌは顔を引き攣らせた。
彼女をして莫大だと思わせる魔力量があの光のゲートにつぎ込まれている。
予想されるはSクラス。最上級召喚術。
自分の迂闊さを呪うと同時に、ツェリーヌは己が実現できるうえでの最高強度をもって対魔力の護法を組み上げる。
そして、予想していたものと別ベクトルの修羅場に突入したことに、兵士達は涙目になった。
──ツェリーヌ様もうヤバイっす。
──やはりあのベイガーさんは死神であった。
「来なさない、『ゼルガノン』」
暁望の大機兵がゲートをくぐる。
二機。規格外の大きさを誇るスリムな機械兵士と、重戦車と見紛うような人型砲台。
対照的な二体の召喚獣は背中から高熱の粒子を放出し、一定高度で浮遊している。
今や巨大な影と重圧が、派閥の本隊をまるまる覆っていた。
メタリックシルバーの全身装甲。ツェリーヌ達の首を仰がせるその総身は何も語らずとも無機質な威圧感を振り下ろしてくる。霊界や鬼妖界とはまた別種の神々しさが、そのアーマーの上で輝いていた。
そして冷たい金属の中で生きる、意志に満ちた機械仕掛けの瞳。
それは一人の天才が己の技術の粋をつぎ込んだ結晶だった。
『機神ゼルガノン』。
型式番号ZLG-0666。名匠ゼルが作り上げた機界の決戦兵器。
それぞれ独立したウェポンユニットによって近中遠全ての距離に対応するツガイの召喚獣は、ロールアウトした兄弟機の中でも殊更特異性を誇っている。
この機体の真髄はオールレンジ対応などというセコイ売り出し文句などではなく、そう、“合体”である。
瞳が眼鏡の奥で光り、アルディラは腕を空高く伸ばし「パチンッ!」と親指を弾く。これ以上ないドヤ顔で。
二体のゼルガノンはそれに反応し、ブースターを咆哮させ一斉に上空へ飛び上がった。『識幹の間』の天井を破壊し、夕暮れに濡れる茜色の空へ躍り出る。
青い二本の閃光が螺旋を描き、装甲が外れ展開する音。
機体内部の連結ユニットがせり上がり、謎の引力が働いて互いのボディを引き寄せ合う。
ところ変わって、遥か上空で輝き出す眩い閃光にウィルは遠い目、その隣でヴァルゼルドが敬礼を送る。もはや何も言わないクノンはしずしずと主人の背後で頭を下げていた。
そしてとうとう、合着。
鉄と鉄が噛み合う大音が響き渡り、大機兵の名に違わぬ巨身機士が完成した。
派閥兵達はアホのように口を全開。
「────イクセリオン」
『Understand』
肩部に付属している細長の外套をはためかせ、機神は虚空に手を伸ばした。
すぐに黄金の粒子が集結し始め、それは一本の巨剣となる。
振り下ろされれば一撃で大地を割る神剣、ゼルガノンはその柄を持って大きく振りかぶった。
魔力が爆発する。
「召喚獣ごときが、何故ここまでの術をっ……!?」
ツェリーヌが初めて戦慄した声をこぼした。
アルディラは至極真面目な顔をして、一声。
「愛(ロマン)の力に決まってるでしょう」
ハイネル涙目。
「『神剣イクセリオン』」
機神の投剣が撃ち出された。
大気に大穴をぶち開けて突き進む天剣に、派閥兵達の顔にはっきりと死相が浮かんだ。
猛烈な勢い、神速。
回避は許されなかった。
極厚の極剣の切っ先が銀の光粒をこぼしながら迫りきて、風の遠吠えを上げる。
すぐに、大爆砕。
世界が輝いた。
「────ぁ」
張り巡らされた結界を跡形もなく破壊される中。
ツェリーヌの意識は光の波に呑みこまれた。
「こんなところね」
そして、形成された特大規模のクレーターを眺める機婦人たる彼女は。
背後に従者、頭上に巨身兵を伴いながら。
美しい所作で自分の髪をかき上げるのだった。