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No.3907の一覧
[0] 然もないと [さもない](2010/05/22 20:06)
[1] 2話[さもない](2009/08/13 15:28)
[2] 3話[さもない](2009/01/30 21:51)
[3] サブシナリオ[さもない](2009/01/31 08:22)
[4] 4話[さもない](2009/02/13 09:01)
[5] 5話(上)[さもない](2009/02/21 16:05)
[6] 5話(下)[さもない](2008/11/21 19:13)
[7] 6話(上)[さもない](2008/11/11 17:35)
[8] サブシナリオ2[さもない](2009/02/19 10:18)
[9] 6話(下)[さもない](2008/10/19 00:38)
[10] 7話(上)[さもない](2009/02/13 13:02)
[11] 7話(下)[さもない](2008/11/11 23:25)
[12] サブシナリオ3[さもない](2008/11/03 11:55)
[13] 8話(上)[さもない](2009/04/24 20:14)
[14] 8話(中)[さもない](2008/11/22 11:28)
[15] 8話(中 その2)[さもない](2009/01/30 13:11)
[16] 8話(下)[さもない](2009/03/08 20:56)
[17] サブシナリオ4[さもない](2009/02/21 18:44)
[18] 9話(上)[さもない](2009/02/28 10:48)
[19] 9話(下)[さもない](2009/02/28 07:51)
[20] サブシナリオ5[さもない](2009/03/08 21:17)
[21] サブシナリオ6[さもない](2009/04/25 07:38)
[22] 10話(上)[さもない](2009/04/25 07:13)
[23] 10話(中)[さもない](2009/07/26 20:57)
[24] 10話(下)[さもない](2009/10/08 09:45)
[25] サブシナリオ7[さもない](2009/08/13 17:54)
[26] 11話[さもない](2009/10/02 14:58)
[27] サブシナリオ8[さもない](2010/06/04 20:00)
[28] サブシナリオ9[さもない](2010/06/04 21:20)
[30] 12話[さもない](2010/07/15 07:39)
[31] サブシナリオ10[さもない](2010/07/17 10:10)
[32] 13話(上)[さもない](2010/10/06 22:05)
[33] 13話(中)[さもない](2011/01/25 18:35)
[34] 13話(下)[さもない](2011/02/12 07:12)
[35] 14話[さもない](2011/02/12 07:11)
[36] サブシナリオ11[さもない](2011/03/27 19:27)
[37] 未完[さもない](2012/04/04 21:58)
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[3907] サブシナリオ9
Name: さもない◆5e3b2ec4 ID:5419e509 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/04 21:20
「…………」

「…………」

「…………」

困惑を多大に含んだ沈黙が形成されていた。アティとヤッファ、キュウマはそれぞれの顔を見合って珍妙な表情を作る。
場は集いの泉。昨日に起きた異常現象を確かめるため遺跡調査へ赴いたアルディラおよびファリエルの報告を拝聴しようと、アティ達は朝一番に集結していた。
アティと護人以外には誰もおらず揃う者は揃っている。後はアルディラ達の口から直接ことの内容を聞き届けるだけだ……が、しかし既に時間にして一刻、全く進行する気配がない。
原因は、プレゼンテーションを行う筈である彼女達の状態にあった。

「……近接武装はこの際後回し、格納する方向で今は火力の増強を……」

「……ぇ、ぅ」

携帯端末へタッチペンで一心不乱に何事かを打ち込むアルディラ。目の下には隈を溜め口元にはフフフと不気味な笑みが浮かべられている。
顔を俯けながらそわそわと体を揺り動かすファリエル。心なし両の頬をほんのりと染め、時折ちらちらとアティの方に窺い見ていた。
アルディラはともかくファリエルの明らか自分を意識している素振りに、アティは小首を傾げる。

とにかく、先程からこのような有様で状況は動く気配がない。均衡がずっと保たれている。
依然とした静寂。どこか気まずい雰囲気に動けずにいた外野組だったが、とうとう痺れを切らし小さな円を作った。
顔を寄せ合いアティ達はごにょごにょと話し合いを始める。
──二人とも、一体何があったんですか?
──分かりません。
──取りあえず、今のアルディラだけには触れたくねえ。
あーだこーだと意見が交わされるが、約一名の恐怖から来る本音が取り出されるだけで成果はちっとも実らず。
結局、彼女達へ働きかけるしかないと無駄に時間を浪費した結論となり、ワンパターンながらアティが代表してアルディラとファリエルへ「あのー」と声をかけた。
びくうっ、と体を震わせた彼女達は瞳から怪しい色が抜け落ちたり赤く緊張したりと反応様々だったが、一応正気には戻った。会議の開始である。



「静か過ぎる、か」

「はい……」

「確かに不自然ではありますね……」

アルディラ達から事情を聞き、ヤッファ達は眉間に皺を刻んだ。
アティも一抹の不安を感じずにはいられない。封印作業に参加した彼女自身あの時確かな手応えを感じ、だからこそ、「剣」が再び召喚されるその時まで二度と遺跡にまつわる事件は起らないと信じていた。
ことが起きてしまった以上なんらかのイレギュラーがあったということになってしまうが、しかし封印は間違いなく機能し続けているという。
事態は明解、原因は不可解。もはや不自然を通り越して不気味としか形容のしようがない。

「封印は解けていない。これは絶対です。そうじゃなかったら、今頃島に縛られている亡霊達は苦しみに喘いでいる筈だから……」

「仮病を決め込もうが身に余る活力は誤魔化せねえってか」

「では、他に原因が?」

「うーん、見当がつかないですね…………アルディラ?」

話し合いに加わっていないアルディラにアティはどうしたのかと声をかける。
彼女は顎を引いて難しい面相を作っている。深く懊悩しているような暗い陰が入ったその顔を見て、アティは少しどきりとする。

「…………少し、いいから?」

重い響きの前置きが入り、この場にいる全員が口を閉ざして次のアルディラの言葉を待った。

「推測……いえ、私が出した結論から言うわ。……ウィルは、適格者かもしれない」

「…………えっ?」

耳朶をなぞった言葉の意味に、アティは自分の唇から空っぽな反応を落としてしまった。
他の護人達も呆けたように時を止め、すぐに表情を改めアルディラに食ってかかる。

「どういうことだ、アルディラ」

「何を、言っているんですか……!?」

「……どのような根拠をしてそのようなことを?」

説明を求められ、彼女は口を引き結んだ後に応答を作る。
瞳には沈痛そうな光が込められたまま。自らの悩みも断ち切るような雰囲気で口を切った。

「最初に言っておくと、現状を説明出来る原因が一つだけあるわ。いえ、事実まっとうな解答はこれだけしかない……。アティの『剣』に発端がないとしたら、もう一振りの『剣』が遺跡を活性化させる切欠となった」

『!!』

「扉は一つ、『鍵』は二つ……簡単よね。少し考えてみればすぐに解ることだった」

その可能性を考慮したくなかっただけなのかもしれないけど、とアルディラを疲れたように吐き出した。
彼女の纏う雰囲気が核心に迫る予兆を感じさせ、アティは知れず喉を転がす

「ヤッファ、貴方言ったわよね? ウィルがマスターの生まれ変わりじゃないかって」

「お、お前、それをどこで……」

「そんなのはどうでもいいの。とにかく、貴方の思う所の仮定を踏まえてみれば、ウィルが適格者だということは自ずと否定出来ないでしょう?」

目の前の話についていけない。
ウィルが適格者? ハイネル・コープスの生まれ変わり? 自分と、同じ?
初耳である情報と乱れる心境が状況の理解を阻害する。アティは護人達のやり取りを傍観することしか出来なかった。

「実際あの子には曰く付きがあり過ぎる。戦闘能力然り、分析能力然り……本当に才能の一言で片付けられるの?」

「……ただのガキにしては、確かに行き過ぎな所はあるけどよ。だが絶対に出来ねえかと言われれば、そうじゃねえだろ?」

険しい目でヤッファが指摘するのは自分達を使役していた召喚師の一派。機械的と言わざるえない彼等の中には、珍しいと言っても、年端も行かない構成員は確かに存在していた。
無色の派閥、紅き手袋は言うに及ばず、蒼の派閥や金の派閥、騎士、帝国軍人。環境さえ適合すれば何事にも例外はないと、島の外の詳細を知らないヤッファでもそう断言することをした。

「過去の詮索なんざするつもりはねえが、生まれと育ちで素質はどうにでも変わっちまう。信じられないくらいやべえガキなんて俺達の思っているよりそこいらにいる筈だ」

「私は違うかもしれないけど、少なくとも兄さんはそうでした!」

「…………野人二足」

ヤッファの弁を援護するようにファリエルは叫んだ。彼の実兄は言うに及ばず、過小評価している彼女自身も異常とも言える戦闘能力を既に幼少時代から保有していた。
キュウマも何か思いつくことがあったのかぼそりと何かを呟く。それが誰かの耳に届くことはなかったが。
そして、少年の育った環境を少なからず知るアティは、びくりと体を震わす。
ヤッファ達の言うことが荒唐無稽だということを、彼女は知ってしまっている。

「……アティ、貴方はどう思っているの? あの子を指導する教師として、何か思うことはなかった?」

「わ、私は……」

必ずしも、異常だとは言えない。ヤッファ達の言う通り子供の中にはそういった存在がいるのかもしれない。
だが、おかしいと。
少なくとも自分が教師を務める必要はなかったのではないかという、時計の短針と長針が噛み合わないような、時が正確に刻めていないような違和感は、ウィルの能力を前にして幾度となく思ってきた。

「……質問を変えるわ。あの執行過程を抜き去る召喚術を見て、召喚師である貴方は何も感じなかったの?」

「そ、それは……ウィル君が、前の家庭教師の方に教わったって……」

「あんだ出鱈目な召喚術を見せつけられて、そんな法螺(ほら)を鵜呑みに出来るほど私はおめでたくないわ」

「っ……」

「アティ、貴方も気付かない振りをしようとしているだけじゃない?」

────だって。
だって、信じるしかないではないか。例え違和感を拭えなかったとしても、彼がそう言ったならば、その言葉を信じるしかないではないか。
とても勤勉家のマルティーニの嫡子で、親の愛情を深く触れられなかった自分と同じような境遇の子供で。
奇矯な振る舞いをしていつも困らせてくる男の子で、気が付くと一人寂寥を抱えている決して特別なんかじゃない少年で。
そんな彼を。いつも背中を押してくれて、助けてくれて、真っ直ぐに笑いかけてくる、自分の初めての生徒を。
────疑える筈、ないではないか。

「貴方達には言ってないけど、ウィルが『剣』を行使したあの日、通常では考えられないような魔力数値が検出されているわ。この意味、解るわね?」

今まで意識してこなかった事柄に、顔を強引に向けさせられる。
たった一つの懸念が疑念の芽を膨らませ、何をしようとも言われようとも無条件で信じられた仲間──少年のことを、探らずにはいられなくなっている。
それはあの雨の日に袂を分けた黒髪の少女の存在も、大いに作用し助長させていた。

「……遺跡の時も、私が保険として仕掛けた“適格者でなければ嵌らない”ような罠に、あの子は見事に足を踏み入れてきたわ」

その発言に誰もが息を呑んだ。
アルディラは青ざめるアティの方を向き、そして決定的とも言える通告を言い渡す。

「貴方達が乗船して難破した客船。アティ、貴方は発生した嵐に巻き込まれ碧の賢帝(シャルトス)に選ばれた……。じゃあ、もう一振りは? あの場に居て、貴方と同じ資格を持って、そして生き残ったのは誰?」

「────」

符合、合致、整合、同定。全ての条件が一人の人物に収束され完結する。
頭を過る一枚絵。近くも遠い距離にたたずみ此方に背を向ける少年。機界の夜景の前に立つその姿は、この世界と遊離し切り離されたたった唯一の存在だとでも言うかのように。
様々な色取りに塗られ構築する界というキャンバスの中で、彼を示す一点だけが異彩異色異質を放ち、そぐわない。
一瞬でも浮かんでしまった自分の想像に、アティはぶんぶんと髪を散らしながら首を振った。

「……つまり、アルディラ殿は」

「ウィルの野郎が封印を解いて何かを企んでやがる。そう言いてえのか?」

「……あくまでその可能性もあるって言いたいだけ」

そんな、とアティが体を小刻みに揺らしながら呟く。
アルディラはそんな立ちすくんでいる彼女に気付き、ふぅと息を吐いて首を振った後、苦笑しながら「本気にしないで。本当に、一つの可能性に過ぎないの」と伝えた。
彼女はそこで一気に肩の力を抜いて脱力する

「遺跡の方で紅い柱が上がった時ウィルは私達と一緒に居たし、アリバイはある。それにもし『剣』を隠し持っていたとしても、これまであの子のやってきた行動に色々矛盾が出てきてしまうわ。……まぁ、全てがあの子の計算通りって言ったら元も子もないんだけど」

元はと言えばあの子の言った言葉でこんな発想にたどり着いてしまったしね、とアルディラは言葉を次ぐ。装っていた雰囲気が霧散した。
そこでアティは気付く。先程からアルディラは可能性という言葉を強調し、あくまでウィルがこの一件の犯人ではなく、適格者であるということしか示唆していないことを。
彼女とてウィルを完璧に疑っている訳ではないのだ。ただ────自分の時のような例もあるのではないかと、それを伝えたいのではないか。

「……ウィルは、ウィルだよ。義姉さん」

「……そうね。でも、あの子は私の仕掛けたファイアウォールに干渉してきた。予備知識も無しにそんなことをするのは、絶対に不可能よ」

眼鏡を取り外しふっと息を吹きかけ、またつけ直す。

「ウィルは適格者……これだけはもう動かない」

それだけは忘れないで、と疲れたように口元を曲げて締めくくった。
ウィルは適格者。そしてもう一振りの「剣」を誰かが所持しているという事実。
その後の会議の内容は、アティはもうよく覚えていなかった。









然もないと  サブシナリオ9 「ウィックス補完計画その9」









「一体何がどうなってるんでありまするんでござるのですかああああぁぁっ……!!?」

「ちょっと、いい加減にしてよ……」

机に頭を撃沈させて発狂しまくる。
既に避難場所として定着してしまったメイメイさんの店で、俺は体をねじってひねって頭を抱え押し潰す勢いで錯乱の境地にいた。

クノンに次ぎ、ファリエルまで……っ!?
しかもファリエルに至っては保護者(フレイズ)公認、ていうか狸の背負った薪に兎がカチカチと火打石でファイアーするが如く逃げ道塞いで罠に落とし込んだ感じバリバリ!?
素で俺をフレイムしてモエ殺す気だったのか奴は!? どうでもいいけどシルターンの民話ってエグイ話多いよね?! とてもじゃないがスバルやパナシェに毒の塗り薬渡すとか泥の船乗せて湖に沈めるとか話せねえ!

「って、んな現実逃避してる場合じゃねええええぇぇぇっ……!!?」

(追い出そうかしら……)

ぼそっ、とメイメイさんの方から冷めた呟きが聞こえてきたが、聞こえない、何も聞こえなーいっ!
素で死活問題ですっ、死活じゃないかもしれないですけどしかしそれでもとてもとても大問題ですっ!?
俺クノンにどのツラ下げて会えばいいのーっ!!?

「ねえメイメイはん!? うちどうしたらええんっ、うちどうすればええのっ!? 後生ですから教えてくだはいっ!!」

「なっ、こらっ!? やめっ、は、放しなさいっ?! ちょ、やめいっ!!?」

半分マジで泣きつきメイメイさんに取りつく。服を掴んで引っ張ってくる俺を見て彼女は頬を盛大に痙攣させた。
俺も盛大に本気なのでもうなり振り構わず、ていうかヤケクソになって神の慈悲を請うた。
助けてくださいっ……!

不毛な取っ組み合いは、メイメイさんの肘鉄が俺の頭頂部に叩き込まれるまで続けられた。



「……そんな他人の恋路なんて知らないわよ、先生の好きにすればいいでしょう。そもそも、人の意見に縋りついてこれ見よがしにどうにかしようとなんて、その方がよっぽどあの娘達に失礼じゃない」

「これ見よがしになんてせえへんですよ……ただ状況が打開出来る光明が欲しいですばい……」

「一緒よ」

にべもなく切り捨てられる。
実際返す言葉もない。ことがことなだけに他力本願で済ませようという考え自体終わっている。ふふ、自称女性の味方が笑わせてくれるぜ……。
駄菓子菓子、マジで俺はどうすればいいんだ……。今にも平衡が崩れそうな精神状態、誰かに構ってもらわねばいつか爆破して砕け散ってしまいそうだ。
頭の天辺に巨大なたんこぶを作った俺は深く項垂れる。テーブルの上に座布団を敷き正座する俺にもう何を言っても無駄だと悟ったのか、メイメイさんがその奇行に突っ込むことはなかった。

「はぁ……。貴方のやったことは決して間違ってなかったけど、ただちょっと思慮足らずというかなんというか、とにかく鈍い」

「意味解んないですよちゃんと理解出来る言葉喋ってくださいよメイメイはん……」

「事実よ、事実」

メイメイさんの言葉も、垂れ下がった頭に入らず右から左へ通り抜ける。
自身の口調が意識を離れてずーんと重々しい響きを伴っていた。

「大体、前にもこの場所で聞かせたでしょう? 自分のために親身になってくれる人がいたらころっと騙されるって」

「……そんな感じだったっけ?」

「似たようなもんでしょ」

はん、と鼻を鳴らすメイメイ師。
言外にやってられるかと告げられているようだった。

「本当、『昔』の貴方は何をどうしてくぐり抜けてたのか、実物で見てみたかったわね……」

「何をどうって……」

なにを、どうって…………。

「…………ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「ちょっ?! せ、正座のまま震動するなんて、器用な真似やるんじゃにゃー!?」

ガタガタガタガタッッ、と超小刻みに生命のビートを刻み恐慌の荒波に囚われる。
極力思い出さないようにしていた当時の恐怖体験が超鮮明に蘇った瞬間、心の均衡がついにボキリと折れ、そして絶望の冬が来た。

「お、折れるっ、震え過ぎてテーブルの足折れちゃうっ!!?」

「襲撃勘弁してください改造勘弁してください戦稽古勘弁してください注射勘弁してください乱れ撃ち勘弁してくださいペンタ君勘弁してくだいスヴェルグ勘弁してください紫電絶華許してください…………」




「…………」

ダメだ、これは。
ぶつぶつぶつとトチ狂ったように呟きを紡いで精神崩壊を起こしている狸を見下ろし、メイメイは頭痛を堪えるように片手で米神を押さえた。
既にテーブルの足は四足とも綺麗に根元から破砕しており、もはや床にただの丸板を敷いたような用途不明のオブジェと化してしまっている。
無論、その上には正座のまま震える物体が依然落ち着いていた。

自分がトリガーを引いてしまったことに少しの罪悪感を覚え、取りあえず、メイメイは現実から目を逸らし店のカウンターの方に足を向ける。
幾つもある戸棚の中の一つを空けて、煎餅でも入ってそうな銀箱を取り出し蓋を空けた。中身は既に飽和に達しようかというほどの量の無地の封筒。
「向こう」から送られてきた「メイメイの手紙」である。

「えっと、確か……」

比較的古い方に「レックス」の「島の住人」関連の丸秘エピソードが載っていたような……、とごそごそと漁り、やがて目的の物を見つけ開く。
便箋十七枚にも及ぶ「レックス」の苦難────というか、被害。
届いた当初はびっしりと書いてあるそれに、「『あっちの私』も随分お熱だなぁ」、と流し半分で雑に目を通したのだが、今はちょっと真剣になって視線を滑らせていく。

それは一人の漢の軌跡だった。
もう既にそれだけで伝記にも匹敵しそうな青年の一時(いっとき)の歴史は、濃密な愛と憎しみの感情がスパイラルをなし時には奇天烈(ユーモア)なブラックジョークがピリリとスパイスを効かせるソレ死ってレベルじゃねーぞというような破天荒に和をかけたカタストロフィ叙情詩。
詰まる所、目も当てられない。

漢の体は死と再生で出来ていた。心は疼痛、血潮は胃液。
幾千の戦場を越え山あり谷ありえっちらおっちらだったが、それでも「彼女達」(+「仲間」)のためならと、天罰かまされようが折檻食らおうが理不尽な仕打ちを受けようが、漢は体に鞭打って守ることだけはしようとした。例え胃の症状が悪化しようとも。
故に、その体はシャレ抜きで「剣」で出来ていた。然もあらん。

思わず瞳に影を落として口元を手で覆ってしまう。別に何も知らなかった訳ではないが、改めて確認すると「うわ…」と半開きになった口から嫌な呻吟が漏れ出ていく。
「彼」の場合、女子(おなご)の問題は修羅場云々ではないのだ。そういう次元を超越した、新感覚レヴェルでの死活問題だったのだ。
ダメだった。派手に同情する余地はあっても、その鈍感加減を責めることはメイメイにはもう出来ない。ちょっと、いやかなり「向こうの女性陣」にも問題がある。
元はたどればこの男の空気に当てられた結果なのだろうが、と考えた所でメイメイは再び溜息を漏らした。

こんな先入観があっては、島の住人である彼女達にあからさまな好意を向けられ混乱しない方が、流石に無理な話なのかもしれない。
ちらと闇に没しているウィルを見る。何かを耐えている雨に濡れた哀れ小犬のような姿に、不覚にもその小さな体を抱きしめたくなってしまった。
いかんいかん、と幻覚を払うように頭を振って、再びウィルの側に近寄った。その場でしゃがんで耳に直接ぶつけるように口を開く。

「……あー、先生? 私は貴方達の問題には口を挟めないけど……これだけは言えるわ。貴方は間違ったことだけはしていない」

相手のアクションを待たずに続ける。

「今でこそ先生は悩んでるみたいだけど、あの娘達を放っておいたら、先生は比べ物にならないくらい後悔してたんじゃない?」

ぴくり、と小さな体が震えた。

「女性(おんなのこ)が苦しんでて、何も知らない振りをするの、先生に出来た?」

「…………無理」

返ってきた言葉に「でしょ」と苦笑気味に微笑んでやる。

「だから、良かったのよ。色々付属として、なんか立っちゃったみたいだけど」

旗が、とは言わない。
「……うん」と鈍い反応をしてウィルは丸板を下りて立ち上がる。メイメイも合わせて体を伸ばした。

「ま、男冥利に尽きると思って。一杯悩んで、一杯考えて、それから答えを出しなさいな!」

「……しか、ないのかぁ」

若干途方に暮れたように呟きを漏らすウィルの頭を、メイメイは帽子の上からべしべしと手の平で連打する。
やめい、と弾いてじろりと睨んでくる少年を見て、調子が戻ってくれたかと心の内で安心した。
たまにはいい薬なのかもしれないが、彼はいつも通りがいいと、そんなことを思った。



「それにしても……やっぱり顔なのか?」

「……は?」

「やっぱりこの世は顔でしかないのか? 胡散臭い田舎イモ顔よりまだ品のいい都会フェイスの方が……受けるのか?」

「…………」

「畜生、一人の『漢』としてウィル・マルティーニという小僧に殺意を覚える……」

……馬鹿。
疲れた頭をもう一度抱えながら、メイメイは眼鏡をとって眉間をもみほぐした。













外見はいつも通り、澄まし顔で路程を消化する。
ちょっとアクシデントというか心の平静をすこぶる欠いてしまったが、本日のことを考えるとこんな所で馬鹿している場合はないのである。
今日という日に合わせ、何事にも優先した前もった準備、対策を仕込みに仕込み既に抜かりはないとはいえ、気を緩ませる訳にはいかない。
出だしから躓いてるとか冗談でも幸先悪いのは御免こうむる。
……早朝の戦闘やら衝撃続きの出来事のせいで言うまでもなく寝不足だがな。ていうかぶっちゃけ昨日から一睡も寝てない……。
犬天使ぃいいいいいっ、どうしてくれるんすかぁあああああああっ……!!

重荷がのっかてる瞼を細く保ちながら、うむぅと唸る。
予想される帝国軍の宣戦布告は午後半ば。正直「記憶」の方は信用し切れなくなっているのでそのまま当てにする訳にはいかないが……アジト周辺にやって来るのはガチと見て問題ないだろう。昨日もそうだったし、島の他の場所は此方の首脳陣(?)が居るのかアズリア達にしてみれば随分不確定だ。
船の甲板で休んでいれば少なくとも寝過ごすなんてことはまずない。
よし、と心の中で頷きカイル達の船へと足を向けた。
軽く横になれば頭も冴えるだろうし……



「ソノラ様、ウィルはどちらに居るのでしょう?」

「だからぁ!? 知ぃらぁなぁいっ、って言ってるじゃんっ!」

……と思ってたんだけどなぁ。
視線の先で向かい合っているクノンとソノラに、つい遠い目をしてしまう。
どうやら、安眠は許されないようだ……。

「もうっ、どうしてそんなしつこいの! あたしそんな信用ない?!」

「いえ、ソノラ様はツンデレなので、私にもデレるまでつれない態度をお取りするのではないのかと」

「スカァーレルゥッ!? 一回と言わず十回殴らせろぉー!!」

包みらしきものを両手に持つクノンと高い声で空に吠えるソノラは何事かを言い争っているようだった。
迂回するのもありなのだろうが……ダメだ、多分ここで逃げたらずっと言い訳をして、きっとクノンにファリエルのことを打ち明けられなくなる。
容易ならないと思いながら、クノンへ真っ直ぐ歩を進めた。そんな俺にソノラが最初に気付き、すぐにクノンも同じ行動に従う。
目が合った瞬間、蕾が開いたように破顔して頬を嬉々の色に染めた。……その微笑みが胸に痛い。

「ウィル、おはようございます」

「……あー、うん、おはよう……」

「……むー」

良心の痛みに耐えながら笑いかけてくるクノンに応答。
何故か口を尖らせているソノラを隣に──悪いが構っている余裕はなく──、俺は取りあえず場所を移そうとクノンを誘い出すことにした。

「えーと、クノン、ちょっと話があるんだけど……ちょっとあっちの方までいかない?」

「本当ですか? 私もウィルに用があったのです。以心伝心というものですね」

それは恐らくないなぁ、と心の底から空笑い。
あっち、と船の更に奥の浜辺へ指しながら、無邪気なクノンの笑みが目に沁みた。

「……あたしも行くっ!」

「ソノラ様、それはズルイです。先程まで紛失した疑惑のある大砲を探しに行くとおっしゃっていたではないですか」

「あたしもウィルに用があったの思い出したの! 待つの面倒だから、クノンの用事終わるまで付いてく!」

「それは、今ここで済むものではないのですか?」

「そ、そうよ! は、半日くらい時間かかっちゃう!」

半日は無理だろ……。
テンガロンハットと看護帽子が衝突し合うすれすれの距離で互いを見据える両者。
ムキになっているソノラと冷静な装いながら若干目を吊り上げているクノンは、対照的なようで似たり寄ったりだった。
頭上で交わされる視線の応酬になんとも気の乗らない顔をしながら、やがてはソノラに諦めてもらおうと声をかける。

「ごめん、ソノラ。後で絶対聞くから、今は勘弁して」

「そ、そんなあたしお邪魔「お願いしますっ」…………わかったわよっ」

言葉をみなまで言わせず頭を下げる。
最後は消え入りそうな声を出す彼女に罪悪感をひしひし感じながら、その場は譲ってもらった。

「すまん。約束、ちゃんと守るから……」

「……エビ沢山ごちそうしてもらうからね!」

「……分かったよ」

それ約束違うだろと苦笑しながら、ぷいっと脹れっ面を背けたソノラを見送る。
船の方へ小さくなっていくテンガロンハットにもう一度心の中で謝ってから、改めてクノンへと振り返る。
渋い顔の俺を不思議なものでも見るかのようにしている彼女の手を取り、引っ張っていく格好で可及的速やかに海岸を目指した。




「……ということがあったのです」

「……そうですか」

浜辺。小波の砕ける音が耳の裏に吐息を届けて、むず痒い。
本格的に砂浜が広がり出す一歩手前の土手に腰を下ろし、クノンへ今日一番にあったことを伝えた。
包み隠さず伝えるのは自分で言ってて結構な羞恥だったが、クノンにどんな顔をさせてしまうのか考えると気が気ではない。
情けないことに視線を海の方角へ固定させたまま、クノンの反応を待った。

「……ウィルは、ファリエル様のことをどう思っているのですか?」

「……僕は」

来た、と一瞬でも思ってしまった。一番聞かれて困る質問だった。
どう思う、と聞かれれば、抱いているのはきっと好意だ。
「レックス」の感情を抜きにしたって、いや関係ない、俺(ウィル)はファリエルのことを少なからず想ってる。
同情とか憐憫から派生している感情なのかもしれないが、それだけで片付けられるものでは決してないと、そう思う。
ただ、線引きが利かない。想うってことの量とか丈とかはきっとフレイズともタメをはれる筈。でも、その肝心の中身の色がはっきりしない。漠然とした想いが袋の中で持て余すようにたぷんと音を立てて波打っていた。
恋というものでは、ない。一貫した愛かというと、それもまた少し違う。
放っておけない、というのが恐らく表すにはぴったりで、今までの行動理由もそれだ。

自分のことながらはっきりしない。優柔不断極まり過ぎると、胸の内で垂れまくった。クノンのいる手前そんな醜態する訳にはいかなかったが。
恋愛感情──相手を追いかける強烈な好意ではなく、手放したくない好意──見放したくない好意だ。
卑怯だと思いながら、そう結論を出す。

「……僕は、ファリエルのことは、好きだよ。クノンと同じくらいに」

でも、と一息。
傷付けるのを覚悟の上で、言う。

「今クノンに感じてる好意より、もっと……ちゃんと異性に対して感じるものだと、そう思う。……いや、きっとそうなんだ」

はっきりと大気に打った。胸の吐露を。
クノンに向ける感情と恐らく土台から違う。クノンより身近に感じていなかったために、基礎の上に成り立つその想いは近しい者に抱くものとは違う、遠い相手に焦れる思慕の念へと昇華してしまっている。
以前期待させるようなことをほざいときながら、でも告げた。
偽ることも、誤魔化すようなことも、彼女達に真摯に向き合うなら、それはきっとしてはいけないことだ。

「…………きっと、ショックです」

俺と同じでよく自分でも整理出来ない、けれど質と意味が全く異なる迷いの言葉。
覚悟しておきながら胸の奥が筆舌尽くし難い渦を巻いたが、あぐらをかいている脚に手の爪を食い込ませ、耐える。
力を入れている前歯に更に力ませ、下唇が突き出るほど噛み締めた。

「言いたいことは多々ありますが……一度、ファリエル様と正面を切って話をしたくなりました」

…………む?

「僕じゃないの……?」

「私には、ウィルに何を言えばいいのか分かりません」

責めればいいのではないのだろうか。
クノンの思うまま、しっちゃかめっちゃか。

「ウィルの行いでファリエル様を助かったのだと思われます、私と同じように。そしてその結果、ファリエル様はウィルのことを慕うようになったのだと思います…………私と、同じように」

俺の心情を悟っているのかいないのか、以前にはなかった色ある黒の瞳を海原に馳せて、クノンはゆっくり言葉を唇に乗せる。
細く吹いた潮風が彼女の髪を軽くさらい、色素の薄い横顔が日の光に濡れた。

「もしウィルがファリエル様を助けなかったとしたら、それは、私からすればずっと人形のままでいたということと同じです。……今なら解ってしまう。それはきっと、恐ろしいことです……」

崩して座る自分の脚に視線を落とし、眉もまた悲しそうに曲がる。
俺は目を見開きながら彼女の言葉に聞き入っていた。

「……ウィルのやったことは間違っていません。私が否定させません。だから、感謝することはあっても、責めるなどということはないのです。……それに、例え他の誰かにその行為が向けられても、私はきっと嬉しくなって得意になります」

顔が俺の方を向き、笑った。


「同じような私(だれか)を助けてくれて、ありがとう、と」


…………畜生、何で俺がフォローされてるんだ。
混じりけなしのその本物の笑みに、申し訳ない気持ちと感謝の気持ちが等しく溢れてくる。
彼女の優しさに胸が痛み、そして抗いようもなく温かくなってしまった。
俺はその感情を誤魔化すため、あたかも今の言葉を告げたクノンに意地悪するかのよう、自虐的な文句を持ち出した。

「……でもさ、クノンにしてみれば……裏切りもいい所だろ? あんな口上切っといて、自分で言うのも救えないけど、不誠実過ぎるだろ……」

「そうでしょうか?」

くい、と小首を傾げたクノンは、容易く俺の弾劾申請を切って捨てた。

「未だ感情初心である私ですが、他人から好意を寄せられることは、とても嬉しいことだと思います」

例え誰であろうとも自分を好きになってもらうのは基本的に喜ばしいことなのだと。
笑みを継続しながら彼女は付け加える。

「好きになってもらうおかげで、自らも相手のことを好きになることが出来るのではないでしょうか」

────アティ様のように。
そう口にし、羨望の眼差しで目を細める。

「そしてその好意を拒むことは、とてもつらいことだと思います。こんな私でも、それは勇気のいることだと思います」

だから、とまた笑う。

「大丈夫ですよ。私は、ウィルのことが好きです」

……優しさが痛い優しさが痛い優しさが痛い優しさが痛い優しさが痛いぃっ……!!
クノンの言っていることは恐らく真理だ。そして、無垢である彼女でしか多分言えないことだ。
俺が逆の立場だったとしたら、絶対にそんな綺麗なこと言えない……。

がっくりと項垂れ、肺の中身全て吐き出すように重い溜息。
答えは出せずともけじめだけはつけようという心算が、粉々に打ち砕かれた。もう自分を卑しめることも彼女を傷付ける真似を働くのも、この笑みの前では不可能だ。
そんなことはないと看護され、抵抗してもふわりと軽く往なされてしまい、最後には大丈夫だと耳元で言い聞かされるように抱きしめられる。

……ちくしょうぅ、悔しいぃ。胸から込み上げてくるこの熱が悔しいぃっ……!
このままでは、隣にいるこの白衣の天使を、素で好きなってしまう。

のろのろと顔を上げ、彼女を見る。
真っ直ぐに此方を見つめている柔和な瞳は、目が合うと嬉しそうに再び微笑みかけてくれた。


「それに、私もウィルに好きなってもらえるよう、頑張るのですから」


「……ぁ」

──でも、俺頑張るから。
──君のことちゃんとした“好き”になれるよう頑張るから。
想起されるのはあの日の一幕。
自分が彼女に伝えた偽りなかった言葉。

「…………」

……ああ、と。
健気過ぎる、と。
こんちくしょうと、そんなことを心の中心で叫びながら、自分でもどんな顔をしているのかよく分からない笑みを、彼女に向けて作った。



「それでは、私の用事も済ませたいと思います」

「……うん?」

くるりと空気を一変させるようにクノンが心なし嬉しそうに告げた。
そういえば用事あるとか言っていたなと、ぼんやり思いながら何やら包みから取り出しているクノンを見守る。
脇に置いてあった風呂敷包みを自分の膝の上に置き、彼女ははらりとそれを解いてみせた。

「……おにぎり」

「はい。ただいまオウキーニ師匠から様々なことを指導してもらっているのですが、これもその一環です」

確か……お笑いを教えてもらってるんだっけ? 人の感情を効率良く学ぶために。
……「レックス」の時、胸部にかまされた突っ込みは渾身の一撃だったな。「なんでやねん!」という叫び声が「フルパワー!」とそのまま脳内変換出来た……。ちなみに全治三日。
その後もどういう経緯をたどり進化したのか定かじゃないが注射での『ツッコミ』も披露されたし……おっと黒歴史、今こんなことを思い出すってのは無粋ってもんだろ、フフ……。

翳りの入った笑みをするのを止め、クノンに食っていい? と視線で確認。どうぞと勧められるまま手に取りひょいと口に一口。
「以前」にはこういうことしてもらったことはないな、と少し思い出しながらもぐもぐと白米を味わう。
ごくり、と嚥下。

「……美味しい」

「良かったです……」

思わず漏れた呟きに、視線を俺の口元に傾けていたクノンはほっとしたように安堵する。
初めての試みでありながら完全自作だったらしい。「まだまだありますよ?」とどこかうきうきしているクノンを見て、ちょっと微笑ましい感情が先だった。
にしても……

「クノン、やるなぁ……。普通に美味しいよ。うん、いい塩梅」

やはり調味料とかでも適量計るのは朝飯前なのか。
怪我の処置だけでなく服用する薬も扱うエキスパート看護婦なだけに、と塩と海苔の味がする指を舐めながら思った。
と、クノンは何かを思いついたように、此方の顔を覗きこむように首を下に傾けた。

「惚れ直してもらっても構いませんよ?」

「…………」

……苦笑する。
クノン、そこはきっと悪戯っ子みたいな笑顔をして言う所だ。
そんな綺麗な、満面の笑顔で言う言葉じゃない。

空と海の青に映える、その透き通った純粋な笑みに指摘を入れてやる。
む? と白磁のような滑らかなほっぺを触ったり軽く伸ばしたりして不思議そうに目を円らにする彼女を見て、今度は声を上げて笑った。


波が静かに引いて、また押し寄せてくる。耳をくすぐる波音は既に心地良いさざめきへと変わっていた。
俺達は、それこそ単純に、おにぎり片手に笑い合っていた。













カランコロン、と。鼓膜を包み込むような鐘の音が甲高く響き、授業の終了を告げた。
すっきりとした蒼穹と強い日差しのもと、解散を告げられた子供達がぱっと集まり小さな円を作る。
どこかへ遊びに行く打ち合せでもしているのだろうか。私はぼんやりと子供達の動きを目で追う。

「浜辺へ行くみたいですよ、スバル達」

「……ウィル君」

「何でも、パナシェが海で見たっていう船を確かめにいくみたいです」

そうですか、と気の抜けた相槌を打つ。
私の隣にやって来たウィル君を見てから、もう一度スバル君達の方に取り留めなく視線を飛ばした。

「何だか、いつにも増してふにゃけた顔してますね」

「……いきなり失礼なこと言わないでください」

そもそもいつにも増してってどういう意味ですか、と目をじろりと向けて問い質す。
肩を竦めるウィル君は普段の佇まいを崩さず、「そのままの意味です」と言ってのけました。
それなら、と私は眉を立ててウィル君に噛みつく。

「ウィル君だって、授業中に船を漕いでたじゃないですかっ。教わりにきたマルルゥに怒られて叩き起されたくせにっ」

「うっ……ぼ、僕にも体調が万全じゃない時だってあります」

「なら、私にもぼうっとしちゃう時くらいありますっ」

べぇっ、と両目を瞑りながらウィル君に舌を出してやる。
それを見たウィル君は頭を手で押さえながら「ガキか……」と唸るように呟いた。
私はふんっと憮然とした表情を作ってそっぽを向いた。

「…………」

だけど、そんな尖った顔持ちもすぐに曇っていく。
集いの泉で交わされた話の内容が、耳にこびついて離れない。
すぐ隣にいる彼のことで頭は一杯になってしまっていて、こうしている今も不機嫌な感情を媒介にしなければ、落ち着いて会話することも出来なかった。
何を迷うことがあるのだろうとそのように一笑に付すべきなのに、思考の流動は止まる気配を見せない。
疑っているのか、ウィル君を。
……心の中で頭をもたげるのは、確かな自己嫌悪だった。

「……先生。真面目な話、いいですか?」

「! ど、どうぞ……?」

先程とは異なる硬質な声音が背中にかけられ、私は反射的に肩を力ませる。
首だけひねると、ウィル君がいつになく真剣な表情で此方を直視していた。

「さっきの話掘り返しますが、水平線に船影を見たと、パナシェはそう言っていました」

「……そう、なんですか?」

「そうなんです。……もしですよ? もしパナシェの言ってることが本当だとすると、今日中にでも、外部の人間が此処に足を踏み入れるかもしれません」

「……え?」

「端的に言ってしまえば、僕達にとっての“外敵”がやって来る可能性があるということです」

「────っ!!」

パナシェ君の言う分には信じられなかっただろう言葉が、彼が指摘した途端、一気に現実味を帯びた。
その声音に含まれる響きはどこか確証に固まっている気がするのは、単なる私の気のせい?

「あくまで“パナシェの話を真に受けたら”という前提です。あの子の勘違いかもしれないですしね。……ただ、島を覆う結界がなんたらって言うのも、昨日あんなことがあったんです、碌に作動していないなんてことも考えておいた方がいいと思います」

息が、思わず止まる。
あくまで可能性に過ぎない話が、果たしてこうもつらつらと紡がれるものなのか。
脳裏を掠めるアルディラの仮定。ウィル君は適格者で、そして私達に隠れて何か暗躍して──。
不安を集積する胸が動揺に揺らいだ。

「あんま言いたくないですけど、帝国軍の援軍とかだったりするかもしれません。状況が状況ですし。……もっとタチの悪い輩の可能性も無きにしも非ず、ですけど」

それは予想? それとも確信? ウィル君の中では、決まっていること?
口内まで上り詰めた言葉の欠片は、唇からこぼれて音になることはなかった。
本能が出かかる問いを喉に留める。

それに、そもそもおかしいではないか。
仮に、本当に仮に、招かざる客の来訪がウィル君の意図する所であっても……私にこうやって警告として伝える意味がない。
何か目的あっての行動だとしても、過程と結果の間では明らかに破綻を起こしている。

ありえない。馬鹿げている。たまたま重なっている事態が妄想に拍車をかけているだけ。理性は私の考えを切って捨てる。
だから、これは勘違い。ウィル君はパナシェ君の言葉を等閑にしない上で進言してくれている。
島の未来を案じてくれているからこその意見だ。

「まぁ、その逆も然りですね。ちょっと大袈裟に過ぎるかもしれませんけど、頭に入れといてみんなにそれとなく呼びかけておいても…………先生?」

「…………」

なのに、強張った体はすぐに緊張から解放されることはなく。
自分でも目も当てられないほどウィル君へ狼狽を呈することになった。

「あ、あの……あくまで根も葉もない考えなんで、そんなガチに受け止めてもらわなくても……」

「……そっ、そうですよねっ……」

「い、いや、全く取り合ってもらえないのもそれはそれで問題なんですけど……ただ心構えは作っておいて欲しいというか…………なんと伝えればええねん」

「…………」

なんだろう。酷く、噛み合っていない。
私と彼の間にある隔たりを否が応にも見せつけられている気分。
頭を抱え込んで小さな呟きをこぼすウィル君を見下ろしながら、私は一律でなくなった心臓の活動を胸の上から押さえる。

ウィル君を、信じられていない。

自分の生徒を少しでも疑ってしまっている己自身が堪らなく嫌な人間だと感じられて。
戒めるように、唇へ歯を立てた。







胸にわだかまる感情を拭えないままその場はお流れになり、私達は船へと向かっていた。
予定通りなら次はウィル君の個人授業……けれど、正直何をすればいいか分からない。
ちらちらと、肩を並べている横顔を何度も窺う真似をしてしまう。
彼の方は私と違い先程のことをさして引きずっていないようで、いつものように前だけを見て歩みに勤しんでいた。

「先生、唐突ですけど聞いてもいいですか?」

「えっ、ぁ、はい……」

視線を動かさず問いを投げかけてくるウィル君。
何だか胸の中を見透かされているような錯覚を味わってしまい、どうにも生気のない声を返してしまう。

「前に言いましたよね。誰にも傷付いてもらいたくない、解り合おうとすることを止めたくないって。あれ、何でです?」

「何で、って……?」

淡々とした語調とまた質問の内容もあって、私は面を食らう。
いつもと変わらないウィル君の少し砕けたような調子に、一時とはいえ安堵が胸を占めたせいもあるかもしれない。

「頭の中も年中平和な先生が、それこそ既に手遅れな超生粋ド級の平和主義者ということは僕も知る所ですが……」

…………けなされてますか、私?

「……先生がそうまで言葉でぶつかろうとする理由を知りたくて。まぁ、言いたくないなら結構です」

困惑する私を置いて、さも軽い調子でウィル君はそう言葉を続けた。
藪から棒にどうしてそんなことを、と内心怪訝には思ったけれど、何かしていないと思考がどんどんと泥沼にはまってしまいそうなので、今は優先してその問いに答えることにする。

……私が、言葉を振るおうとする理由。

それは、過去があるからだ。
紅く染まった視界に、失われていく温もり。
狂ったように溢れてくるのは笑声と落涙で、認められない現実を前に鋭い耳鳴りが激しく響き渡っていく。
全てが暗転して次に待っていたのは、茫漠とした暗い暗い闇の世界。周囲を取り囲む常闇に委ねるように身を任せ、生きるという意味を放棄した。
そして、そんな閉じた世界に幾度となく、諦めることなく響いてきた、私の名前を呼ぶあの人達の言葉(こえ)。

あの過去を経て、今の私が在る。
笑えるようになったのも、軍学校を目指したのも、医学や召喚術を学ぼうとしたのも、全部。

全容を語るのは、はばかれた。
場の雰囲気を必要以上に暗くさせるのは明白で、ウィル君にも気を使わせてしまう。
……いえ、自分本位な理由、ただ私が言いたくないだけだ。
口にしてしまうことで直面する心底の爪痕に向き合いたくないのだ、きっと。
今までそうしてきたように誰にも何も明かさず、身に付けた笑形で胸の奥の一番脆い部分を覆い隠そうとしている。
頑なに語ろうとしない自身の心の動きに嫌気が差しつつ、結局、その決定に逆らうことの出来ないままあったことを断片的にぼかして伝えることを決める。
ごめんなさいと声にならない声で呟いて、私はウィル君に口を傾けた。

「そう、ですね。ちょっと長くなりますけど…………私小さい頃、一時期自分の殻の中に閉じこもっていたことがあったんです」

「……」

その理由を言及されることはなかった。
彼の心遣いに感謝しながら、あの時の記憶を思い浮かべていく。

「きっと、その時の私は周囲を拒絶してて……何を言われても無関心でした」

いや、事実、あの時の私は死んでいた。
膝を抱えうずくまり、全ての事柄を意識から取り除いていた。
けど……

「……そんな私に、ずっと語りかけてくれた人達がいたんです。いっぱい、いっぱい。たくさん、たくさん。めげずに、あの人達は私に言葉をかけてくれたんです」

空っぽだった私の中身が、少しずつ、けれど確かに満たされていった。
葉から滴り落ちる雨滴のように音を立て、次第にそれは胸に込み上げてくる何かに変わった。

「嬉しかった。私を呼び続けてくれる声が。私が、私であることを忘れてしまわないように、何度も届いてきた村のみんなの言葉が……」

そして、今の私がいる。

「その時、思ったんです。強い力っていうのは、どんなものでも打ち負かしてしまうけど、」

絶望の淵からでも手を伸ばして引っ張りあげてくれた、村のみんなのように。

「想いをこめた言葉の持つ力は、そうやって打ち負かされたものを、より強く蘇らせることが出来るって」

あんな人達のようになろうとする、今の私が。

「…………」

「だから、ですかね。打ち負かす力じゃなくて、解り合う力でみんなを守りたいってそう思うのは」

言い終えた後に大きく一息を入れる。
知れず、自分の想いを打ち明けることをしていた。
何故だろう、という疑問は。きっと隣に居るのが彼だからだ、という答えですぐに埋められた。
視線は前に、歩く足はそのまま。涼しい風が私達の間を流れていった。穏やかな空気に包まれた、声の生まれないこの時間が、どこか神聖なものに感じられる。
肩を並べたまま、歩き続けていく。
時間にすれば大して経っていない共有された無言の時は、やがてすぐ側で呟かれた一言で姿を消した。


「カッコいいですね」


その言葉を合図にするように、彼の方を向く。
頭一つ高い視点からは目元は窺い切れないが、その下にある口端は、うっすらと緩やかに曲がっていた。


「先生みたいな天然記念物、そうはいませんよ」


黒の髪が揺れる。
導かれるように、深緑の双眸が私の顔を見上げた。


「……ええ、カッコいいです」


いつか見た、彼の本当の素顔。
唇にささやかな微笑みを滲ませ、瞳が優しい線に縁取られている。
────出来るなら、その気持ち、先生は忘れないでください。
顔を前に戻しそっと風に消したその言葉は、けれど確かに私のもとに届いた。

(…………ぁぁ)

どうして彼のことを疑ってしまうのか、その感情の本質をはっきりと悟る。
怖いからだ。
怪しいからとか、裏切られるとか、そういうことじゃなくて。
もっと純粋に。
失うことが。消えてしまうことが。自分の前から居なくなってしまうことが。
此方に背を向けて、手の届かない距離に行ってしまうことが。
怖いんだ。
ちょうど、機界の夜景からなるあの絵を眺めた日と同じように。
大切なものを失うことを、とても恐れている。

「…………」

切り離せなくなった日常の一部。かけがえのない存在。
答えはきっとそれだ。彼に寄せる信頼の証として、もしかしたらという可能性が産声を上げる。とても恐ろしい仮想を抱かずにはいられなくなってしまう。
側に居て欲しい。こうして、ずっと隣で肩を並べ続けていたい。
だから、疑って、疑って、疑って。
その心の内を知ろうとする。どこにもいかないということを、確かめようとする。
この懐疑の心は、一番深い所で抱いている願望の裏返しだった。

「……先生?」

立ち止まる。放っておけばすぐ俯いてしまう顔を我慢し、前を向く。
最初から分かっていた。何にせよ、胸が破裂しそうなこの情緒を解消する方法は、一つしかないと。
答えを、聞く。
彼しか知らない本当を、聞き届ける。
鼓動の音が聴覚にへばりつき全身を犯す。不定期な音響の連続は、時間を積むごとに度を失っていく。
決断を前にして感じるのは恐怖だ。隠しようもない。心の内で顎をもたげている空想が現実に直結した瞬間、張り裂けんばかりのこの想いは、きっと音を立てる間もなく瓦解してしまう。
最悪を迎えた後を想像し、その際に虚ろと空くだろう喪失感が鮮明に胸へと焼き付いた。

「……っ」

わななく胸を退ける。行為の中断を呼びかける音の震えを一思いに振り払った。
今逃げれば私はずっとこの先に進めない。彼に、一歩も近付けなくなるだろう。
ウィル君への信頼を嘘にしないためにも、ぐらつく不安に決着をつけるためにも、踏み込まなきゃいけない。
震える呼気を強引に抑え込んだ。指に僅かも入らない力を込めて、精一杯の拳を作る。
ぐちゃぐちゃな思考は風に乗せる問いをまだ用意しておらず。言葉は形になっていなかった。

でも、迷っている時間は既に残っていない。

振り返り、不思議そうに私を見つめているウィル君に、揺れる視線をぶつけた。
いつかよりずっと近い距離、けれど未だ埋まらない私達の距離。
想いを代弁する言葉は定められないまま。
手の届かない場所にいる彼に、声を伸ばした。



「ウィル君は、ウィル君ですか?」



舞い上がった風に乗ったのは、そんな言葉だった。













「ウィル君は、ウィル君ですか?」

「──────」

────言われた。
アティの顔を見つめていたウィルはその言葉を聞いて、一瞬時を止めた。
視線の交差。震える蒼の瞳と凝結する深緑の瞳が真っ直ぐに混じり合い、暫時の時間が流れていく。
お互いの間で吹き上がった風は、やがて収まっていった。
心の臓に打ち込まれた楔は最初こそ貫いた衝撃を体中に伝播させたが、核心に触れられただけに止まり、被害を広げることはなかった。
頭の冷めた部分が、切迫し硬直した体を常日頃の外観へと、相手に気取らせることなく巧妙にシフトさせる。
顔は平時のまま、胸中ではほんの僅かな動揺を背負い、ウィルはややあって、言った。


「違うって言ったら、どうするんですか?」


心の隅で何かが疼いたが、それだけで済んだ。
顔色一つ変えないウィルは愕然と目を見開くアティから目を逸らさず、自己を客観的に分析する。

自分(ウィル)は、ウィルか。

正直、ようやく訪れたかとさえ思う。
この話題はいつか問い詰められるのだろうと、ウィルになったあの日から確信に近いものを抱いていた。言及は、逃れられないだろうと。
自分は「自分」であって、今はウィルという少年に限りなく近しい存在に成り変わっていたとしても、本当の本物じゃない。
自分とすげ替えられる前の、本当のウィルを唯一知る彼女から疑いを抱かれるのは…………恐らく必然だったのだ。
問いに問い返す形で、気付けばウィルはアティの反応を確かめるようにそう口にしていた。
ぐっ、と決壊しそうになる蒼の瞳。打ち震える水面が虹彩をぐにゃりと曲げ、彼女の眦に水滴が溜まり出す。

「…………どう、しましょうか」

「……」

長い沈黙を経てアティは揺れる声音をこぼした。
とても困ったような、本当に寂しそうな、眉を一杯に下げた笑みにならない笑みを浮かべながら。
俯き加減になった顔の横で鮮やかな赤い髪がさらと流れる。
胸を往来する幻痛にウィルは静かに奥歯を噛み締めた。

「……何マジになってるんですか。冗談で言ったんですから、そんな反応されても困ります」

そもそも要領を得ないこと言わないで下さい、と言い捨てて、ウィルは顔を前に戻し歩みを再開させる。
彼女の問いの真偽も、自分のこの感情にも、答えを出した所で意味はない。
そう断じて振り払うように話を切った。いつもの調子で常の自分を演じる。

「…………」

「…………」

アティは後ろで立ち止まったまま。付いてくる気配がない。
唯一、背中に縋りついている果敢なげな視線の存在だけは知覚出来た。

晴れ渡る空はひたすら青かった。抜けるような色がどこまでも続き、ウィル達を見下ろしている。
靴が土を噛む乾いた音が響いていく。隣には誰もおらず、ぽっかりと穴が落ちていた。
そのまま独りで先に進もうと前へ前へ足を動かしていく。
動かして動かして動かして、動かそうとして。
そして、それが出来たらどんなに楽なのだろうと、縫い止められたように立ち止まっている足を見やって、思った。

「……先生」

「……?」

視線の遥か先に見える海と空の混ざる一本の境界線を見つめながら。
理不尽だ、とこんな境遇に追いやった界に愚痴を吐いた。

「信じて貰えないかもしれないですけど……何言ってんだこいつって思うかもしれないですけど……」

信じられない現実を語った所で何も解決しない。告げるべき本当がない。
不条理極まる状況に嘆くことしか出来ない中、ただ一つだけ伝えるために。
首だけをひねり、依然立ち通している彼女を瞳に収めた。



「『俺』は、此処のみんなが大好きです」



一つだけ伝えられる真実は、それだけだった。


「貴方みたいなまともな志なんてありません、でも……」

「此処にある今は守りたい」

「貴方と同じように、大好きなみんなが笑っていられる今は、守りたいんです」


一気に喋り、そして眉根がすぐに苦渋の念で崩れる。
弁明になっていない弁明。言い訳じみている己の自己満足に、嫌悪感が雪崩のように押し寄せて募った。
こんな言葉を誰が信じるのだと余りの馬鹿馬鹿しさに肩を落とし、ウィルはきまり悪そうに視線を切ろうとする、


「…………」


────その正に寸前、視界の奥にある彼女の目が、前触れなく涙をこぼした。

「!!?」

ぎょっと目を剥き、戻しかけた首を反転、あたかも振り向きざまに二度見するようにアティへもう一度視線を飛ばす。
体も回してアティと向き合う格好になるが、円らな瞳からはぽろぽろと際限なく滴が溢れていく。次には、くしゃっ、と丸みを帯びている顔が幼い子供のように歪んだ。
事態の把握はまるでかなわなかったが、高確率で自分の言動が彼女を泣かせたというリアルに、ウィルの胸が盛大にぎゃあーっ! とわめいて軋む。
胸部を両手で押さえて体をくの字に曲げそうになった。

他方、そんな慌てふためく少年を置いてアティは頬を伝う涙を片手でぐしぐしと拭い。
ぎゅっと唇を引き結んでウィルの方に歩み寄って来た。
肌には赤い涙の痕が残るが、眉尾は斜め上を向いて勇んでいる。巡る巡るアティの表情の変化に、どこか凄みのある歩行。迫力あるそれらを前にしてウィルは反射的に逃げ腰になってしまった。

「────ウィル君」

「は、はいっ」

風を切る前進は目の前で止まり、ウィルは情けない声を絞り出す。屹立する赤い壁は真っ直ぐに自分を見据えている。
アティは自分の顔を見上げる呆然とした視線には意を介さず、すかさず腰を折った。

「ごめんなさい」

「…………はっ?」

ぽろりと落下し地面を転がったのは疑問の音だった。
ウィルは眼前に突きつけられる形となった白帽子に目を丸くする。

「疑って、ごめんなさい」

「……え、えっと」

なんのこっちゃ、と。
正直な感想はその七文字の羅列だった。視界を覆う白一色は微動だにしない。
疑う、というのはウィルが本物云々ということだろうか。しかしどうも聞く限り脈絡がないような感じが地味にあるような。
いまいち要領を得ないウィルだったが、わざわざ自主的に蒸し返したい話題ではなかったので、釈然としたものを感じながらも場の空気に素直に流されることしにした。

「い、言ってることはよく解りませんけど……だ、大丈夫です、気にしないでください……」

「……はいっ」

かき消えそうな細い声に伴うのは震えと、喜びの感情か。
ゆっくりとアティが上体を戻すと、そこには一筋の涙とともに浮かぶ爽快とした笑みがあった。
起き上った反動で目元から離れた数粒の涙適が宙を舞い、日の光を反射してきらきらと彼女の顔を照らす。
次にはほっそりとした指で目尻に残る滴を拭い落とし、興盛、弾けるような飛び切りの笑顔が作られた。

(────んなっ────)

────なんでこのタイミングで。
至近距離から放たれる邪気一切ない笑みに、胸が一層たじろぐ。灯った笑顔には先程までの翳りは欠片も存在せず、密かに潤んでいる瞳は慈しみの光に溢れている。
破壊力はもはや語るまでもなく、こんな状況でもなければすぐにでも卒倒してしまいそうだった。

「…………ぃ、いいんだったら、も、もう、行きましょぅ……」

「そうですねっ」

顔全体に集まる赤熱を感付かれないようぐるっと速やかに回転、アティに背を向けて船への進路へ復帰する。
弾んだ声はいそいそと進む自分の体にすぐ追い付き、白の外套が隣に並んだ。
嬉々を微塵も隠そうとしない彼女は、前を見続けている。

「…………」

一体何が、と色んな意味で荒れ狂う胸中、ウィルは努めて冷静であろうとする。
隣接する赤姫はまるで蛹から生まれ変わった蝶のように存在感を撒き散らしており、ついさっきまでの雰囲気と一転したその姿に、冴えた頭もこの時ばかりは予想を成り立たせることが出来ない。
熱が引く頃には落ち着くようになったウィルだったが、首を傾げるのは止められなかった。

「ウィル君」

「……ぁ、はい」

呼ばれた声に顔を上げる。
アティはウィルの方を見ることせず、視線を正面に置いていた。

「手を、繋ぎましょう」

「…………」

ぽかん、と空白を維持したのは、一瞬だけだった。
口元を綻ばせる横顔を見て、真っ直ぐに前だけを見つめている瞳を見て、心が透明になった。
視線を下げれば裾から覗く小さい手が、自分のことを仰いでいる。

「……」

迫力もなく強制もしていないアティの願いに、ウィルはただ何となく手を差し出した。それが正しいことのように思えた。
そっと開いた手の平に自分のものを重ねる。肌と肌が触れ合うと静かに相手の指が閉じ、伝わってくる温度と一緒に包み込んでくる。ウィルもその動きにならった。

「…………」

「…………」

漂ってくる木々の匂いが肌を洗う。二つの影が進む道は太陽の光に歓迎されていた。
指を添えながら、二人隣り合って歩いていく。不思議と心には波紋一つ広がらず、脈動は繋がっている彼女の音と同調して一つのものになっていた。
甘酸っぱいだとか、こそばゆいだとか、そんな野暮な空気はなく。
ただただ静かに、そして何より自然な光景だった。

「私も……」

「……?」

囁くような言葉は、再び現れた風に乗って空に上がった。


「……此処のみんなが、大好きです」


────ウィル君も。


「…………」

青空に溶けた最後の言葉に、緊張しなかったとは言えば嘘になるが。
彼女らしい、と。そう苦笑とともに出てくる思いが、ウィルの感想を占めた。
きゅっ、と相手の指が此方の手を抱くように握った。

やられっぱなしは性に合わないと、からかい文句の一つでも言ってやろうと口を開きかける。
そして目を瞑り浅い笑みを浮かべた所で。



『しょうこりもなく何しに来やがったゴリラァアアアアアアアアアアアッ!!!』

『貴様ぁああああああああああああああああああッッ!!?』

『ちょっ?! ぎゃ、ギャレオッ、使者なのに戦っちゃだめぇー!?』



雄叫びと怒号と悲鳴が、彼方から響き渡ってきた。

「「!」」

弾かれるように互いの顔を見合わせ、次には駆け出す。
見晴らしのいい草原を踏破して巨石が露出し始める岩浜地帯へと。視界の横に海原を置きながら、軽く弧を描く経路でアジト近辺にたどり着く。
全景となって現れるのは海賊船を背後にとるカイル達と、彼等と相対するギャレオとイスラの姿だった。

木材、生ゴミ、サモナイト石。それぞれを投擲姿勢で構えるスカーレルとソノラ、ヤードを後衛に、カイルが前に出て拳をバキバキと鳴らしている。
ギャレオは稲妻のような青筋を米神に形成し今にも殴りかからんとする態勢。そんな彼の大木のような胴体に両手を回してしがみつき、必死に押し止めようとするのはイスラ。
場は一触即発の空気を滞留させていた。

「はっ、女の二の腕振り払えねえなんざ、その猿みてえな筋肉はかざりかゴリラァ!」

「ねぇ、ちょっとソノラぁ。なんか酷く鼻につく清潔臭の欠けた獣臭さがしない? ……ゴリラみたいな」

「あたしはナウバの実(=バナナ)の匂いがするなっ! ゴリラが食べたみたいな!」

「ふふっ、ソノラさん。獣は亜人と比べて限りなく知能指数が低いですからナウバの実の皮を剥くことすら不可能です。……そう、ゴリラのように」

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」

「だめだってえっ!!? ……お、お姉ちゃんに言っちゃうよ、副隊長?!」

「奴等は隊長の顔に泥を塗ったあッ!!」

「塗ってないよ!?」

もうっやだぁーッ!? と少女の涙の叫びが周囲に木霊する。この場で誰が一番不幸か傍目で理解出来る光景だった。
「あいつ等ギャレオの弄りが神懸ってやがる……」とウィルは微妙な顔をしながら遠目で彼等の動向を観察する。
そこまで二日酔いの一件を根に持っているのかと、自分が発端なだけに、茶褐色の帝国巨人に対して良心が呵責された。
ひとまず、醜い闘争から目を離し辺りを窺う。どうやら他の仲間はまだ駆け付けていないようだった。

「イスラさん!」

と、アティが声を張り上げ彼女のもとへ近付く。自然、ウィルも従う形となった。
はっとするイスラはアティの方を振り向く。その瞳がアティのことを女神のように見つめているのは、ウィルの気のせいか。

「来たね! もう遅いから待ちくたびれちゃったよっでも許すよっ!」

「は、はあ……」

難儀だ、と瞳をきらきらさせるイスラを前にウィルは半目。

「イスラさん、貴方達がいるってことは……」

「そうだよ、最後の決戦(デート)のお誘い。────ねっ、そうだよねえっ、ギャレオッ!!?」

「ぉ、おおぅっ……」

言い聞かせるかのようにギャレオへと吠えかかるイスラ。
余りの迫力にギャレオの目に理性の光が戻った。カイル達もつられてびくつく。
きらきらをギラギラに変えた瞳がやがて瞬きを数度、再びアティ達に向き直り、ギャレオ達に見えない角度でこれ以上のないくらい安堵の表情を少女は作り上げる。
抜剣者が苦労するのはデフォルトかぁ等とウィルが思っていると、イスラは面構えを一新。人を小馬鹿にするような空気を纏い、いつぞや見た不敵な笑みを構築した。

「宣戦布告ってやつだよ。私は別にこんなことしなくてもよかったんだけど、副隊長がどうしてもって言うから」

「…………」

「お姉ちゃん、本気だよ。蹴りをつけるって。降服させるとかそんなんじゃない、殺しにい、くぅ…………」

イスラの発声が、何故か萎んでいく。呆けたように目を丸くし固まった。
うん? とその様子に首を傾げるウィルが彼女の視線を追うと、そこはアティとウィルに挟まれている間隙。早い話、未だがっしりと掴み合っている手と手があった。
そういえば繋いだままだった、と他人事のようにその映像を脳内に投影していると────びリっ、と。
空気が確かに震撼した音とともに、凄まじい凶気がウィルの身に喰らいついた。
う、ん…? とその大気の豹変に頸椎を錆びれさせるウィルが視線を戻すと、そこには、氷のような冷たい微笑を浮かべたイスラの姿が。


「…………へぇー、見せつけてくれるじゃん」


────ぞっ、と。
ついこの間まで聞き慣れていた少女のボイスが、ウィルに尋常ではない怖気を喚起させた。
えっ何ぞコレ、と胸中全く穏やかでない感情が発生するのを覚えながら、無意識の内に冷たい汗を湛える。心のどこかで警鐘が盛大に猛り狂った。
正面のイスラは猫のように目を細め、手を繋いでいるウィルとアティを見据えていた。勿論、曲線を描いている唇に反してその眼はこれっぽっちも笑っていない。
口元に現れている薄い薄い微笑が、頭の裏に灯っている第六感をじりじりと焦がしている。

「で、何? “随分”仲が良いみたいですけど、自慢でもしてるんですかぁ?」

随分、の辺りがやけに強調された発言が、怖い。
見つめている────いや睨みつけている瞳が、縮めた瞼の奥でだんだんと血のような紅い光彩に侵食されているのをウィルは幻視する。
彼女の後ろでソノラが剣呑な雰囲気を纏い出し、カイル達とギャレオが戦きながら後退したのも視界に入った。
少年は体内で肺が喘いでいるのを感じ取り、隣にいるアティは少女の変化に対してぽかんと小首を傾けた。

「………………先生、手を、放してください」

「えっ、どうしてですか?」

「イヤ、どうしてって……」

理由なんてない。だが、手を繋いでいる理由もない。
第六感が告げるままに連結部分を緊急パージしようと試みるウィルだったが、天然の壁に阻まれる。
ていうか空気を読めよ、と不思議そうに此方を見ている童顔教師にウィルは言ってやりたかった。
無駄に終わるヴィジョンが鮮明過ぎて、すぐに実行する気になれなかったが。

「ここですよ~~!! にこにこさん達が来てるのですうっ!」

そして、畳みかけるかのように。
森の奥からユクレス村出身の妖精さんの声が聞こえてきたかと思うと、島の住人勢がこぞっと木立を抜けて照りつける太陽のもとに出現した。
イスラ達を、いやウィルとアティを包囲する形で。
全視線がウィル達のもとに集束する。

『……………………………………………………』

「…………」

「……ウィル君?」

此処はホームの筈ではないのか、とウィルはそんなことを考えた。
余すことなく戦闘メンバーが全員集合する中、およそ全方位に対の瞳が散乱し、針のむしろを現在進行形で維持させる。

「でさぁ、どうするの? 殺るの、殺らないの?」

────イスラさん、それは。
ニュアンスが違うのではないか、とウィルは音になることない抗議を挙げる。
そして、目は細めたまま無表情で尋ねてくるイスラに対し、アティは毅然と顔を上げて立ち向かった。

「受けますよ」

「ふぅん、往生際いいんだ」

「はい。解らないことは沢山あるけど、今やることだけは分かっていますから」

「……隣にいる貴方の生徒さんは違うみたいですけど?」

そこで俺に振るか、と憮然と視線を送ってくる少女にウィルはぎぎぎと首を横に回す。
というよりアティとイスラの会話上で致命的な齟齬──戦闘行う上での「動機」の差異──があるような気がしてならなかった。
アティはウィルを一瞥してから、手を握る力を強くする。



「────私はっ、ウィル君のことをもう誤解なんてしない! ウィル君の想いを教えてもらったから!!」



ゴウッッ!!! と。
少女の背後で灼熱の業火が具現を果たした。

えええええぇぇえええええええええええええぇっ!!? と心の内から絶叫したウィルは、第六感が引火し爆ぜた瞬間を境に、手遅れながら迸るほどの身の危険を感じ始めた。
紅のオーラが少女の全身から立ち昇る。相貌は完全無欠に無表情。無慈悲にウィル達に向けられる双眼だけが燃え盛る激情をメラメラと宿していた。
何が原因で何でこうなったとかは、目の前の魔王によってもはや考える余裕がない。


「私とウィル君の気持ちは一緒です!」


周囲。
ソノラが眉を震わせて今にも銃(エモノ)に手を伸ばしそうだったり。クノンが何を考えているのか解らない目でじっとウィル達を直視していたり。ファリエルがどこか寂しそうにちらちらと見つめていたり。マルルゥが物欲しそうな顔で唇に指を当てていたり。

アルディラは白い眼を向けていたり、ミスミはふむぅと手を顎にそえながら「やはり若さか……」などと呟いていたり。
カイル達はギャレオと仲良く甲板まで撤退し、キュウマは冷えた体をさするスバルを連れて空蝉の術、逃げ遅れたヤッファは自らにセイレーンを行使し意識を絶った。
最後に、犬天使が殺意溢れる視線をウィルの後頭部にブチ刺していた。




「私達は、絶対に負けない!!」




絶対宣言。
帝国軍の挑戦状に対するその返答が、何かもっと別の、まるでこの場にいる者達への「宣戦布告」に聞こえてしまうのは、気のせいなのだろうか。
様々な思念で渦を巻くアジト近辺。ぎゅうと握り締めてくる柔らかい手が、第一級危険指定の代物のような気がした。


────なに、コレ?


返答来る筈もない質問を、冷や汗ダッラダラで呟き。


────修羅場って言うのよ。


律儀に返ってきた誰とも知らない疲れた声に、意味も解らないまま泣きそうになった。














ウィル(レックス)

クラス 熟練剣士 〈武器〉 縦、横×剣 縦、横×杖 投(Bタイプ)×投具 〈防具〉 ローブ 軽装

Lv19  HP173 MP245 AT93 DF57 MAT111 MDF76 TEC170 LUC4.4 MOV3 ↑3 ↓3 召喚数3

機B 鬼C 霊C 獣A   特殊能力 ユニット召喚 ダブルアタック 隠密 待機型「魔抗」 アイテムスロー(破)

武器:晶霊剣 AT110 MAT5 TEC5 LUC5 CR10%  (苦無 AT92 TEC12 LUC5)

防具:empty

アクセサリ:手編みのマフラー 魅了無効 DF+5 MDF+4


12話前のウィルのパラメーター。
TECが(略。DFの伸びが致命的になってきている。防具も身につけていないためギャレオの太腕一本でも叩き込まれれば瀕死は免れない。でも彼とは相性いいので多分問題ない。TEC的な意味で。数々のイヴェントこなし過ぎてとある能力値に大きな修正が加えられている。「過去」に返り咲いたというか返り萎れたというか、とにかく先の将来を予兆するかのような数値である。

晶霊剣はファリエルからのプレゼント。以前もらったアクセサリのお返しとのことで見ててこそばゆい光景が広がったが、柄の先端にルアー(魅了を解呪する)がお守り代わりに取り付けられており、それを発見してしまったウィルは汗を流した。フレイズが幽霊以外に魔が差さぬようにと独断で仕掛けたらしい。ちなみに剣は天使のものと色違いのペアルック。フレイズのがファルゼンverで、ウィルのがファリエルver。二本合体させると運命を両断するツインブレードになったりはしない。

霊属性の異性に惚れやすい疑惑が浮上している。教え子だったり幽霊だったりIf自分だったり。アレは例外。
その体質があらゆる厄介事を招き寄せるのは自明と書いてデフォルトだが、案外自ら禍根を作っているケースも多かったりする。また、元来の不幸補正により敵が強くなるのも然もありなんであるが、レックス時におけるクリア特典で敵の難易度(センリョク)がウルトラハードになっている。ウィルもそれを薄々感付いているので、他の事柄より優先してニート対策に余念がないらしい。




本編とは直接関係ないが、補完の意味合いを兼ねて「レックス」の歩んだ軌跡を公開。
今回は12話。


雨ザーザー降り寄せる深夜、赤いのベッドの中でうーんうーんうなされていると、突如入室してきたフレイズに叩き起こされる。ベッドから転落し「何事!?」と混乱しているといつになくマジな天使に付いてきてくださいと静かに告げられた。フレイズが部屋を出ていった後、ドアの鍵を閉めベッドに潜り込む。女傑との戦闘で心身磨耗したヘタレは相手にするのも面倒だと完全惰眠の構えだった。二分後、羽ばたいて窓を突き破ってきた天使に強制拉致、狭間の領域まで嵐の中をすごいマニューバしながら高速飛行した。

中々他では味わえないスリルをたらふく食わされた赤いの、九割キレながらフレイズに食ってかかる。が、天使もそれに負けず劣らずリアル真顔。鋭い眼光に尻込むレックスは、彼からファリエルの幽体にまつわる話+この場に誘拐された訳──君のせいでうちの可愛い娘が危険に首を突っ込んでいる。何とかしろ──を聞き、何とかしろも糞もないだろ、と素直に理不尽な要求を嘆く。ファリエルを変えたなど自覚もないし戦場で盾になってくれとお願いしたこともない。冤罪だよと高らかに叫びたかったが、護衛獣としての天使の心情をこの時ばかりは僅かに理解し、「無理」と正面切って返事で拒絶、そしてガチンコ勝負に突入した。
従者の意地と女性の意思を尊重する意志がぶつかりあって男の戦い。最初こそは得物を使って剣舞を繰り広げていたが、いつしか拳の応酬となる。魔晶の大地からマナを汲み上げた天使の魔力ナックルはすこぶる痛く、しかし負けじとカイル仕込みの喧嘩拳を叩き込む。ボロクソになる両者だったが、勝負の分かれ目は数えるのも億劫となっていた凶悪な殺人技の被害回数。超速接近からの斬影拳を打ち込み、ひるんだ所をほぼ投げ技に近いジャーマンスープレックスでフレイズをマットに沈めた。「あの娘が戦場に飛び込もうが、これからも守ってやりゃあいいじゃん」の発言がキーだったのかもしれない。僅差で勝利。

首が変な角度になりつつも起き上ろうとするフレイズ、肉の殴打の音を聞きつけて飛んできたファリエルに大泣きされる。何やってるのと物を通過する拳で幾つも胸を叩かれ、自分のことばかりではなくフレイズ自身も大切にしてと呂律が回らない言葉で怒られた。天使も涙流す。ハイ俺邪魔ー、と空気に追いやられたレックス、感動シーンの脇ですごすご帰っていく。殴られ損かよ畜生と文句垂れながらも微妙に笑ってた。怪我は道中に抜剣して完治。

翌日。船まで来た天使に頭下げられる。ハイハイで済ませ終了。こっそりフレイズの好感度が上昇した。天使戦線加入。
その後ファルゼンにも会いに来られ、少し会話。フレイズのこと話したり今までの苦労を聞いたり。もっと早く会えていたら何か違うことがあったのかと、透明なマナを纏う鎧を見つめながら思った。


帝国軍なんとかしないと俺の安寧訪れんなー、と昨日のこと思い出しながら不気味に笑う赤いの、授業を終えた後に痛む胃を手をやりながらラトリクスに赴く。ヴァルゼルドそろそろ自分を守ってくれないかなぁとスクラップ場に足を運ぶと、いきなり狙撃された。「ヲイッ!?」と頬掠めた鉛玉に悲鳴を上げつつポンコツと強制戦闘。
デュアルセンサ赤くさせ精密射撃してくるヴァルゼルドに、遠隔操作されるボクスやフロット等を蹴散らす傍ら抜剣することを躊躇ってしまう。召喚術ぶちまかそうが銃を離さない。大声の説得もガン無視され汗を流している内に、やがてアルディラとクノンが援軍。二人の助けを借りてポンコツに肉薄し零距離召喚で装備装甲ごと吹っ飛ばした。

謀反か貴様と詰め寄るとなんか謝罪され、サブユニット取り付けて欲しいと頼まれる。そうしたらお前消えんだろバカチンと切り捨てて、「修理してやるから待ってろ」と、悲痛そうな顔をするアルディラを無視して、ヴァルゼルドを中央管理施設にリアカーで運搬。が、途中で再び暴走。折れた足引きずりながら緩慢な動きで此方に掴みかかろうとするヴァルゼルドを眼前に、無表情でアルディラを見つめると、目を伏せられ首を横に振られた。
レックス前髪で目元を覆いあらん限りに手を握りしめた後、渾身の拳打をヴァルゼルドの顔面に叩き込む。そっと近付いてきたクノンに取りにいっていたサブユニットを手渡され、装着。ライトグリーンの瞳が、ノイズ混じりの発音で感謝の言葉を言ったような気がした。
独りたたずむ背中を見て、アルディラが慕情を抱いたのもこの時。

見晴らしのいい崖の上に座りこみ海を見る訳でもなく眺めるレックス、涙は出てこなかった。シリアスな雰囲気に主要メンバーが木の陰から窺うが、普段の調子で絡むこと出来ず見守る格好となる。いつもより小さく見える背中に瞳を揺らすアリーゼ、意を決して歩み出てぺたんと隣に腰を下ろす。海鳥の鳴き声が響く青い海原を正面にしながら無言を重ね、おもむろにレックスが「世界ってやっぱ理不尽だ」とぽつりとこぼす。アリーゼ何か言おうとするが言葉にならず、ややあって、「それでも先生は、頑張ってます」と慰めにもならない、けれど偽りない本心を語る。情けない姿を晒そうが救えない行動を取ろうが、守るという一点だけは何にも譲らなかった教師の手を生徒そっと握る。
「ありがとうございます」と告げられたアリーゼの言葉が、機兵のものと重なり、日差しに照らされる赤髪がそっと俯いた。
教え子の頭ぐしゃぐしゃ撫でて赤いのその場から撤退。他メンバーが急いで森の中に隠れる中、頭を両手でおさえる生徒はその後ろ姿を見続けていた。

ぼけぇーっと無為に時間を過ごす赤いの、プリティ植木鉢頭にかぶりながら船の甲板でごろごろと意味もなく転がっていると、ギャレオとイスラの最終決戦の通達が。正対するカイル達のボルテージが上がっていく中でレックス船の上からぼーっと一部始終眺めるだけで、とにかく覇気がない。ガスの抜けた風船レックスの状態に、カイル達あれ抜きで蹴りをつけると方針を決めるが、いつのまにか臨戦態勢に入っている青年の姿にぎょっと驚愕。みんな集めといて、とふらふらしながら指示を出す後ろ姿に何とも言えない不安を覚えつつ行動を開始する。アリーゼ教師の後に付いていこうとするが、その隠密能力で姿を見失った。妙な胸騒ぎ。

決戦、夕闇の墓標。ギャレオの涙の懇願に行動を自重する構えのアズリアだったが、戦闘が始まった瞬間その敵の大攻勢に喉を鳴らす。此方の手の内を読み切ったかのような戦術展開に絡め手を用いた計略。障害物の多量さや段差と高低差の激しい墓標内で、帝国軍の気付かない抜け道たるルートが押さえられおり、後衛前衛関係なく部隊が一掃されていく。各個撃破されていたかと思えば味方の布陣は既に虫食いだらけとなっており、アズリア戦線の後退を指示。そこに輻射波動ならぬジオクエイク。「剣」により島の情報を掌握したレックス、地盤の悪い地形条件を利用、読み取ったピンポイントにグラヴィスを打ち込んで人為的な土砂崩れを激発。土砂岩石に呑み込まれ或いは退路を断たれ、アズリアとギャレオを除く全部隊壊滅。ビジュも巻き込まれた。
立ち尽くすアズリア達のもとに近付く茜色の影二つ。レックス、VAR-Xe-LDにギャレオの相手を指示、剣を抜いて単身アズリアに斬りかかる。マジモードの元帝国軍陸戦隊に戦姫も超本気、衝突。何発も鳴り響く乾いた銃撃の音を背景に、八つ当たりレックス剣を振りまくる。何合も打ち合い火花を散らし続け互角の勝負を繰り広げた。
交わされる一進一退だったが、体格および性別から来る体力差を狙った長期戦によりアズリアの切れが鈍り、もはや食らいまくって知りつくしている紫電絶華をわざと隙を見せることで誘発させ、その格段に遅くなった必殺を完璧に見切りカウンター、撃破。
最後まで敵わなかったと澄んだ笑みでこぼすアズリア、終わりにしてくれと望む。剣の切っ先を突き付ける青年をみなが固唾を呑んで見守る中、レックス、鞘に得物戻して「するか馬鹿」とひねくれ顔でプイとそっぽ向く。カイル達一気に脱力しやがて笑い合い、アリーゼも涙目で口元押さえながら笑った。
そして、黄昏が来る。

イスラの高笑いから出現し始めた軍勢、殺戮開始。
アズリア呆然とする隣でレックス誰よりも早く再起動、敵勢力不明ながらカイル達に迎撃を号令。が、瞬時にその選択が下策と悟る。余りに特化された殺傷能力と根本的に違い過ぎる戦闘に対する心構え、連戦で消耗している味方には荷が重過ぎる云々を越えた生命の危機。また一つと散っていく帝国軍の命に濃密な死の気配を嗅ぎ取り、喪失したヴァルゼルドの一件も手伝って仲間を失うまいと心に刻むレックス、帝国兵を囮にした総撤退を断行。アズリアの部下を切り捨てた。
隣で叫ぶ元同僚には此処から離れるよう伝え、戦場に飛び込んだ。

抜剣覚醒から敵兵士が作成する包囲網に風穴を開けカイル達に逃走を促す。広がる地獄絵図にアリーゼ含めた子供達を率先して戦場から追いやるよう言い渡し、自らは暴れまくる。白髪鬼、人外の力で孤軍奮闘。サーチアンドデストロイ。暴走召喚で砕け散ったサモナイト石は数知れず。少数精鋭で殿をするカイル達の力もあって敵勢力を激減させるが、ジジイの極速の居合斬り+法衣妻の死霊召喚にとうとう進撃歯止め。抜剣解ける。オイ冗談じゃねーぞ、とその人並み外れた力に自分のこと棚に置きながら戦慄。
限界、と悟り、未だ帝国軍勢残っているも離脱しようと構える。が、瞳が捉えたボロボロの体で戦っているアズリアの姿に、目眩に似た殺意を覚え全身に鞭打って急行。敵数名蹴散らしてたどり着いた頃には帰り血やらなんやらで互いに血まみれ、激昂して掴みかかるも、部下残して逃げられる筈がないと怒鳴る女傑に目をかっぴらく。苦渋にぎりぎりと切歯した後、エゴと理解しつつボディブロー、意識刈り取って今度こそ撤退する。が、マフラー暗殺者の凶刃に行く手を阻害。退路断たれた。
マジのマジのマジでマズイと頭の裏で鳴り散らされる超警鐘に体が発熱し、汗が頬を下る。四肢の明らかな機能低下に素であかんと胸中で呟いた。

肩に担いでいるコレだけでも何とかならんだろうかと後ろ向きな考えを抱いたそんな時、生徒の叫びが耳朶を叩く。はっと振り向くと、アリーゼがはらはらと落涙しながら震え、それでも此方を気丈に見据えていた。両手を組んだ祈祷の構え。少女の頭上に現れた巨大な召喚光がマナを発散させ、キユピーの「ホーリィスペル」発動。
圧倒的な魔力放出。姿を現した天使による光の翼と浄化の風が敵味方関係なく怪我を快癒させる。天聖母のキャパシティをも越えた上級召喚術に、光の光景からなる蘇生一歩手前レベルまでの治癒効果に、誰もが動きを止め放心した。そんな中、赤いの「キユピー、ただのピンク色のまんじゅうじゃなかったの…?」と可憐過ぎる小天使の姿に間抜け面で口を全開にした。一人だけ着眼点違った。スーパーアリーゼ、レックスの傷が癒えたのを見届け力尽きる。

ぱたりとアリーゼが倒れるのを見て正気に戻るレックス。カイルが生徒連れていくのを確認し、今しかないと全快した体を躍動させ尻尾巻いて逃げ出すが、強烈な召喚術が進路上に炸裂。慌てて背後を顧みると、大層な杖持った眼鏡にロン毛の召喚師が。法衣妻──ツェリーヌさんが高らかに自分の夫オルドレイク氏を紹介。「無色の派閥」というフレーズに、島の歴史からして薄々感付いてはいたが赤いのうげっという感想止められない。そしてべっぴん妻もらった勝ち組を心の底から憎んだ。とにかくこっそり去ろうとしたが、「抜剣者(おまえ)だけは見逃せん」とジジイが許してくれず。ですよねー、と空笑い。無色の始祖についてやら島の全てを貰い受けるやらぶちぶち演説するのをたった一人で聞き流し、どうにかならんかなこの状況、と起死回生の一手を高速思考とシミュレーションで模索。と、おもむろに、ユーが適格者かとニヤニヤしながらオルドレイクが接近。「剣」の力を見せてみろ、と言い油断しまくっているその姿に、好機、と判断する。トリガー・オフ。ロン毛、赤いのが水面下で必殺の準備をしていることに気付かない。
理不尽な仕打ちやらべっぴん妻を見せびらかす眼鏡の所業やらにイライラが募っているレックス、生き残るためにもコイツをブチ殺しても構わんのだろう? と憎しみ一割嫉妬九割を糧に、一度は破られた「剣」の魔力をリチャージ。カルマルートも真っ青なハイ出力にハイネル本気で制止を促すが、逆に共界線から魔力を汲み上げるポンプ媒介として利用される。死にかける。ハイネル破滅フラグコンプリート。

依然調子乗って間合いを詰めてくるドレイクさんに対し、「く、来るなぁっ!」と赤狸怯えきった三下役を演じ標的を確実に射程距離内に誘い込む。主演男優賞なみのその迫真の演技にジジイもといウィゼルも騙された。哀れな羊の皮被った血に飢えたオオカミレックスの姿に、声を上げて嘲笑するオルさん、デスラインに足を踏み入れた瞬間、世界が爆ぜた。
アズリア担いだまま白いの、牙突エヌマエリシュ。光速極光ガトリングドライバーに、ロン毛空を翔ぶ。ツェリーヌは絶叫し、ヘイゼル以下は滝汗。海にドボンッと立った縦長の水柱を見ながら、ああいう傲慢ちきが相手なら何とかなるかもしれないと白狸密かに思った。
取り乱した健気妻が全部隊に夫の救出を命じたので、ウィゼルとか除いて誰もいなくなる夕闇の墓標。じっと見てくる爺の視線を極力シカトしつつ戻って来たカイルと一緒に生き残った帝国兵を回収。ニート連中戻ってこない内にその場を後にした。ようやっと撤退。ちなみに、レックスの中で窮地を救った天使アリーゼの好感度が激上する。でも無自覚。

夜会話。浜辺付近で弔いの火が昇るのを見上げる。アリーゼのベホマズンで殆どの帝国兵が助かったとはいえ、拾えなかった命もあった。ままならないとレックス圧倒的な暴力による不条理に敗北感噛みしめながら目を瞑り、やがて腰を上げ、視線の先で炎の前に立ち続ける背中に歩み寄る。
顔を火に照らされるアズリア、涙が出てこないと振り向かずに告げる。昼間の自分と丸っきり同じ彼女にレックス顔を曇らし、泣け、と一言。アズリアの肩が震えるのを前に、こいつは自分のように神経太くないと腐れ縁の付き合いから忠告。一人で溜めこむのはしんどいと昼間の経験から知るレックス、「じゃないとお前が壊れる」とそのように伝えた。ゆっくり振り向き頬に涙の一線を走らせる女傑の姿に、赤いの不覚にも胸を打たれる。噂のギャップ萌えかと己の邪念を誤魔化し、「じゃ、じゃあ思う存分泣いてください」と直ちに去ろうとした所で、涙腺が決壊したアズリアに抱き着かれる。「────」と凍結するレックス、脳裏を過るのは意外にある胸の感触やら思いのほか柔らかくしなやかな体の温もり、ではなく。圧倒的な走馬灯。去来する過去の映像に終止符を打たれた刹那、胃が断末魔の声とともに爆散した。もはやアレを体が徹底的に受け付けられないよう改造されていた。
ぼたぼたと口から滴る赤い生命の水。吐血。喀血。口内を支配する甚大な鉄の味覚に、赤いの口周りに血化粧して真顔で時を止める。頭上から降って髪を濡らす水分をレックスの涙と勘違いしたアズリア、一緒に泣いてくれていることにぐずと鼻を鳴らし更に縋りつく。ゴパン、と酷い音を立てて、血の飛沫が弔いの空に花を咲かせた。
その影で、シスコン弟がすんごい目で慌てる姉に介抱される赤いのを睨みつけていた。イスラ激震フラグその2が立った。


一命を取り留めた赤いの、何故死にかけたのか理解していない女傑と微妙な距離を保ちながら話を交わす。リペアセンターに行きたかったが、傷心の女性を放っておく訳にもいかず本当に頑張って心のケアに努める。軍学校のマシな思い出やらマシなエピソードやら語る内にアズリアさんも少し笑うようになり──記憶の大半が襲撃しかない赤いのは反比例して具合が悪くなり──、ぽつぽつとレヴィノスの家の事情やらイスラのことを話し始めた。召喚呪詛ねぇ、とイスラにかけられた呪いや無色との現協力関係の背景を大まかに知り、あいつも不幸なのかと少し同情。で、どうすんの? とイスラの対処を尋ねる。顔を暗くさせるアズリアだったが、そこで本人登場。

嘘なのか本当なのか解らない恨み言を連ねて始末しに来たと告げられ、自嘲するアズリアは弟の言う通り命を差し出そうと歩み寄っていく。が、「それ違うだろ」とレックスに襟掴まれ首絞め、ぐいっと引き寄せられリターンされる。偶然に赤いのへ体を預ける格好となった姉の体勢にイスラ青筋。胃の痛みを我慢しつつ、アズリア死んでもイスラの自己満足で終わるだけと指摘。モミアゲの言うことなんかきな臭いなと内心思いながら、面倒臭い今の状況何とかしてから姉弟の問題に蹴りつけろとアズリアに言い聞かせた。あと簡単に死ぬとか言うなと鉄拳。額を打たれたアズリア、煩悶しながらも涙ながら笑ってみせた。蚊帳の外のイスラ、イライラが頂点に達する。
超嫌味ったらしく二人ともお熱いようでと皮肉を吐き捨てると、アズリアは俯いて紅潮、赤いのは「はぁっ!?」と怒りを滲ませる。というか、自分の苦労知らずに何知ったかこいている貴様と素で泣いて切れる。自分自身に匹敵しそうな絶望のオーラ背負う漢の姿にイスラ後退。だが次の瞬間に言われた「そもそもお前が貧弱(モヤシ)だからアレが軍学校来て俺の前に現れたんだろうがっ!」の文句が逆鱗に触れる。引き連れていた無色兵を入れて開戦。アズリア赤くなったままで外界の変化に気付かない。
醜い不幸自慢が剣戟の音と一緒にぎゃーぎゃー繰り広げられていたが、女傑やっと意識を取り戻し参戦。軍学校伝説の赤と黒のコンビネーションに無色兵なす術なく完膚無きまでにボコボコにされる。腹をさする相方従えた黒いのにたじろぐイスラ。
最後、今はまだ死ねないと決意新たにする姉の凛とした姿に、弟は鼻を鳴らし捨て台詞を残して、どこか寂しそうにまた満足そうに去っていった。

アズリア、島の陣営に加わることを宣言。戦力面では嬉しい限りだが体調面では果たしてといった感じのレックス、引きつった苦笑いを浮かべながら承認する。差し出された手を逃げ腰ながら掴み、色んなことを含めてありがとう告げられる。実は初めてである握手と感謝の言葉の両方に目を丸くさせた後、あぁこんな顔も出来るのかとそんなことを思った。


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