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No.3907の一覧
[0] 然もないと [さもない](2010/05/22 20:06)
[1] 2話[さもない](2009/08/13 15:28)
[2] 3話[さもない](2009/01/30 21:51)
[3] サブシナリオ[さもない](2009/01/31 08:22)
[4] 4話[さもない](2009/02/13 09:01)
[5] 5話(上)[さもない](2009/02/21 16:05)
[6] 5話(下)[さもない](2008/11/21 19:13)
[7] 6話(上)[さもない](2008/11/11 17:35)
[8] サブシナリオ2[さもない](2009/02/19 10:18)
[9] 6話(下)[さもない](2008/10/19 00:38)
[10] 7話(上)[さもない](2009/02/13 13:02)
[11] 7話(下)[さもない](2008/11/11 23:25)
[12] サブシナリオ3[さもない](2008/11/03 11:55)
[13] 8話(上)[さもない](2009/04/24 20:14)
[14] 8話(中)[さもない](2008/11/22 11:28)
[15] 8話(中 その2)[さもない](2009/01/30 13:11)
[16] 8話(下)[さもない](2009/03/08 20:56)
[17] サブシナリオ4[さもない](2009/02/21 18:44)
[18] 9話(上)[さもない](2009/02/28 10:48)
[19] 9話(下)[さもない](2009/02/28 07:51)
[20] サブシナリオ5[さもない](2009/03/08 21:17)
[21] サブシナリオ6[さもない](2009/04/25 07:38)
[22] 10話(上)[さもない](2009/04/25 07:13)
[23] 10話(中)[さもない](2009/07/26 20:57)
[24] 10話(下)[さもない](2009/10/08 09:45)
[25] サブシナリオ7[さもない](2009/08/13 17:54)
[26] 11話[さもない](2009/10/02 14:58)
[27] サブシナリオ8[さもない](2010/06/04 20:00)
[28] サブシナリオ9[さもない](2010/06/04 21:20)
[30] 12話[さもない](2010/07/15 07:39)
[31] サブシナリオ10[さもない](2010/07/17 10:10)
[32] 13話(上)[さもない](2010/10/06 22:05)
[33] 13話(中)[さもない](2011/01/25 18:35)
[34] 13話(下)[さもない](2011/02/12 07:12)
[35] 14話[さもない](2011/02/12 07:11)
[36] サブシナリオ11[さもない](2011/03/27 19:27)
[37] 未完[さもない](2012/04/04 21:58)
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[3907] 10話(中)
Name: さもない◆5e3b2ec4 ID:7f8d6cd5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/26 20:57
「はぁ。……大丈夫ですか?」

「……あんま」

「ミュウー……」

「あんな上級召喚術どこで覚えたんですか……。今のウィル君には負担が大き過ぎますよ……」

「……どこで覚えて何に使おうが、僕の勝手です」

「それでこんな風に倒れちゃったら世話がないですっ」

「くっ、屈辱っ……!!」

「もう……。そもそもですよ? 召喚術は決して無理な行使をしてはいけないんです。暴発の恐れがあるって何時も口をすっぱくして教えてるじゃないですか。私が相手だったら良かったものの……いえ、良くないですけど……とにかく、実戦で使ったら取り返しのつかないことになってたかもしれないんです。如何して言いつけ無視したんですか?」

「分の悪い賭けは嫌いじゃない……」

「意味が分からないです……」

「ミャミャー……」

「それに、無茶しないって約束したのにウィル君もう破ってるじゃないですかっ。……いえ、私にも非がありますけど」

「命に代えても倒さなきゃいけない、仇がいたんです……」

「それ私じゃないですか!!」

「にゃー」

「まったくもうっ……」

(こっちの台詞だっつうの……)

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「で……」

「はい? 何ですか?」

「普通にもう結構なんで、止めてもらえますか?」

「もう動けるんですか?」

「…………いえ、無理ですけど」

「じゃあ、まだ駄目です。このまま大人しくしていてください」

「……身が持たないんですけど」

「?? どういうことですか?」

「頭の後ろに感じる柔らかい感触だとか、体温だとか、香りだとか……その他もろもろとにかくヤバイんですていうかホント勘弁してくださいお願いします」

「えっと、先日のお返しのつもりだったんですけど……嫌、ですか?」

「…………モウイイデス」

「?」

(俺ノ寿命、アト幾ラダロ……)

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……ふふっ」




取り敢えず、機嫌は直ったみたいで安心した。










然もないと  10話(中) 「もつれあう真実に頭抱える」










天然鈍感河童娘の精神汚染に晒され、憔悴し続け暫らく。
やっと歩けるまで回復した俺は速攻でアティさんの元から離脱し、今はスバル達と遊んでいる。
マルルゥと約束したしね。なんかもうフラフラだけど、ちゃんと約束したからね。約束はちゃんと守りますですよ?
素でぶっ倒れそうだけどね? ……モウヤメテ、私ノ命ハトックニ(以下略

「兄ちゃん、平気か? 顔色悪いぞ?」

「大丈夫ですか、まるまるさん……?」

「僕達の為に無理しなくていいんだよ?」

明らかに無理した笑みを浮かべていた俺に、子供達が心配そうに労りの声を掛けてくれる。
……くそっ、マジで癒されるっ。泣きそうですよ、ぼかぁ……!

「畜生っ、おみゃーら大好きだっ!!」

「うわあっ!? に、兄ちゃんっ、抱き着くなよ!? 暑苦しいってば!?」

がばっ!とスバルの顔を胸に埋め、つんつん尖った髪をよしよしと撫でる。
よよーと涙を流しながら、世界に光をもたらしてくれる純情存在を敬いまくった。ホント君達はピュアなままでいてください。

「……む~~~~~っ! ヤンチャさんっ、ズルイです! マルルゥにも変わってください!!」

「馬鹿言うなよ!? オイラじゃなくて兄ちゃんに言えっ! ていうか、兄ちゃん恥ずかしいから止めろって?!」

「あははは……」

あー、なんか朝から騒がしかったからマジ救われる。
こういう時間がもっと必要なんですよ、きっと今の僕には。安らぐー。

…………まぁ、「俺」の記憶からすると、この後も一層気の抜けない張り詰めた状況になってしまうのだが。
抜かりは許せなくなる。一つの失敗も禁止事項だ。

せめて、今だけは気を休めておこう。
どう転がるのかは皆目見当がつかないが、如何なる不慮にも対処できるように。

「ウィル、スバル様が嫌がられています。解放してください」

「急に現れるんじゃない、お前」

ビビるだろ。
別に気付いてたけどさ。

「キュウマ!? お前また付いてきたのかよ?! でも今はどうでもいいからウィル兄ちゃんなんとかしてくれー!?」

「はっ。では、ウィル」

「へいへい」

スバルも嫌がっているようなので素直に解放。ていうかそんな嫌でした、スバきゅん?
野郎に抱き着かれてもそりゃ何も嬉しくないだろうけど、本音ちょっと傷付くなー……。
別にそっちのケはないよ? 断じて。

「ぷはっ、助かった……」

「まるまるさん、マルルゥもぎゅっ、ってしてくださ~い!」

「ホントにウィル兄ちゃんに甘えるようになったね、マルルゥ」

ごめん、マルルゥ。体格的にそれは無理だ。
というか流石にそれは不味いから自重しよう。君も立派な女の子なんだしね?

マルルゥは妖精の中では生まれたばかりという位置づけらしく、身体も能力もまだ小さい。決してこのままという訳ではなく、長い年月と共に成長していくのだ。
妖精っていったらメイトルパの中でも結構な格付けだ。大きくなれば秘める力に劣らず、外見も相当なものになっているハズ。将来超有望なのだから、意中の相手に出会うまでにもっと自分を大切した方がいい。

その時のことを想像すると、娘を送り出す父親というか、まぁ兎に角そんな風な感慨を受けるが、仕方あるまい。
マルルゥの幸せだ、俺が生きているか分からないが、その時は手放しで喜んでやらなければ。

マルルゥの要望は苦笑しながら避け、代わりに頭を撫でてやる。
不満そうにむくれるマルルゥだったが、俺の為すがままに一応は受け入れてくれていた。

「ウィル」

「んっ? なに、僕に用あんの?」

と、まだ側に控えていたキュウマが声をかけてきた。スバルでなく俺に。
何ぞや? マルルゥの頭撫でながら首を傾ける。

「一つ、聞きたいことがあるのですが……向こうへ場所を移しませんか?」

「…………」

顔は平時のものだが、声が普段より幾分か固い。
この場で話そうとしないことからも、その内容がキュウマにとって軽々しいものではないことが窺える。
それも俺に関係してくる内容……とうとう来たか?

「別に僕は構わないけど」

「ありがとうございます。それでは、スバル様、暫らくウィルをお借りします」

「ああ、いいけどよ……」

突然の申し出に納得がいかなそうにスバルは眉を寄せる。パナシェやマルルゥにも似たような顔をしていた。
手をやりながらすぐ戻ってくるからと伝え、俺はキュウマの後を追う。


ユクレスの広場から離れた木々の一角。ヤッファの庵がある森の入口でキュウマは足を止めた。
こいつが尋ねようとしていることは、間違いなく以前の帝国軍との戦闘についてのことだろう。あの際に気が付いた事柄について、疑惑を抱いたか。

黒装束の正体が俺だと結論あるいは確信に至ったっぽいな、これは。
まぁ何時かは来るだろうと予測できていたことだ。動じることはない。
さて、どう往なす……?

「……取り敢えず、これを。先日の折、回収しておきました」

「……ん。ども」

手渡されたのはアズリア撃退へ貢献した投具。パス的な意味合いでキュウマに向かって投じたものだ。
わざわざ黒装束(俺)について仄めかすような前置き。……回りくどい真似を。逃げ場はないと暗に告げているつもりか。

「あの一連の投擲動作、見事なものでした。忍びである自分が思わず目を見張ってしまうほどに……」

「そりゃどーも」

此方を探るかのような眼差しと追及の色を窺わせるような言葉文句。
俺は顔には動揺の欠片も走らせず、ただ応答する。

キュウマを襲ったのが俺だと悟らせるのは、今更バレても島のみんなと関係悪くなる筈ないので別段構わない。本当に今更といった感じだ。
しかし、メンドい。恐らく「俺」と「うんこ」との関係のように発展するだろうから。
奇声あげながら斬りかかれるのは御免蒙りたい。間違っても忍者だから相手すんのに相応の体力消費するし、何よりうざいのだ。

何時ぞやのようにさり気なく尋問を誘導し交わすしかあるまい。
方針を固めた頭で幾つかのパターンを構築し派生させていく。どんな事態にも対応出来るように思考のギアを一段階上げた状態にした。
よっしゃ、バッチこい。

「……ウィル。私の中で一つの疑念が渦巻いています。その真偽を確認しなければ、この身が落ち着かぬほどに」

「それは僕に関係することなの?」

「ええ」

依然俺は澄ました顔をするが、キュウマは真っ直ぐに見詰めてくる。
質問に対して一切変化を見せない俺の態度には動じない。躊躇いなく言い切った。

「単刀直入に聞きます……」

キュウマの目が険しくなる。
来るか……。



「……ウィルッ、貴方も黒装束に襲われたことがあるのではないのですか!?」



………………は?


「男か女か、はたは人間か召喚獣さえかも解らない黒装束。忍びの技を駆使する正体不明の輩……あれの襲撃を被ったことが貴方もあるのではないのですかっ!?」

「…………」

すまん、状況が上手く掴めないんだが……。

「……何故にそんなことを?」

「一重に、ウィルの身のこなしとそこから発せられる殺気……威圧感を感じ取ったからです。あれは貴方の年齢を考えれば、独力のみで会得できるものではありません。指示は仰ぐもしくは参考にした存在がいたに違いない」

うん、まぁ分かる。言いたいことは分かる。理屈もあれだ、別に変な所もない。
だけど……

(俺が当の本人だとは一度も考えなかったのかよ……)

「貴方の異常ともいえる戦闘能力。それもあの黒装束が関わっているということになれば納得がいく。……如何です、違いますか!?」

ちげえ。

「私にはあの黒装束が教えを説くという姿がどうしても想像出来ない。横暴にして傲岸、あれは人の上に立つような輩ではありません」

ひでえ言われようだ。実際、教師やってたんだが……。
それほどキュウマにはインパクトが強過ぎたということか、あの一件は。
上から見下され糞の滝をかまされる……確かに重度の偏見が発生しても可笑しくないかもしれない。

今までの俺に関する懸念が、黒装束という強烈なファクターを通すことにより、キュウマの中ではこれ以上のない解答へ纏め上げ昇華させてしまったのかもしれない。それこそ天啓の閃きレベル、他の可能性は考え付かないほどに。

……まぁ、一度決めたり思ったりしたら、いい意味でも悪い意味でも真っ直ぐだからね、彼。
「うんこ」も目的の為にひたすら突っ走ってたし。「俺」を巻き添えすんのも厭わないくらいに。

「……うんまぁ、間違ってはないよ。はい、その通りです」

「やはり!? ウィルもあの黒装束のことを知っているのですね!」

やっぱりコイツ難儀だと遠い目しながら思いつつ、キュウマの言い分に合わせる。
あちらが勝手に都合のいい解釈をしてくれたのだ、乗らない手はない。

「僕もあの訳の分からない黒装束に奇襲を受けた。当時の僕は十の年にも満たっていなくてね、目の前で繰り広げられるその圧倒的な動きと雰囲気が余りにも強烈に見えた。これを真似ればもっと強い自分になれるんじゃないかと思うくらいに……」

「ええ、分かります。あれはそれほど常軌を逸している」

なんか自分のことを奇天烈のようなものにでっち上げるのって虚しいな……。

「僕はあれの動きを習得しようと必死になった。それこそ色々な書物も読み漁った。……そこで、あの黒装束の情報を少しだけ知ることが出来たんだ」

「!? そ、それはっ!?」

必死だよ、コイツ。

「……奴の名前は“野人二足”。その粗暴さと長衣から覗けた二本足から命名された正体不明の忍者マスターだ」

「野人二足……!!」

ちなみにヤジンニソクを下から読むと、クソニンジャ。

「逆に言うと、資料にもそれだけのことしか載ってなかった。それだけ得体の知れない相手だということだね。ただ、行動様式としては比較的ニンジャの前に現れることが多いらしい。一説によるとその素養を計り見る為にいきなり襲いかかるだとか……」

「く、詳しく教えてくださいっ!?」


必死と書いてマジになるキュウマ。ずずい、と顔を寄せてくる。
そんなうんこの様を見て、それから少々悪ノリ。あることないこと吹き込んでしまった。

話の影響を受け修行に精進せねばとヤル気マックスになる忍者。
張り切りに満ちて去っていく背中を見て、近いうちにまた現れてやろうかなと少しだけ思った。

忍者マスターと聞いておきながら、忍術何も関係ない銃を目の前でブッ放してやったらどんな顔するだろうアイツ。
……やってみようかしら。













いずこの海岸



「で、イスラはまだ戻ってない訳だ」

「おい、エドッ。イスラさんを呼び捨てにするな!」

「いや、姫サンは階級が一応俺等より下か同じだから。まぁ、寄せ集めの隊だから、やっこさんから出向してきた姫サンの方がどうしても格上な感じはあるけど」

「それでも馴れ馴れしく呼ぶんじゃねえっ!!」

「重症だな……。所でよ、ジャン、前から気になってたんだが、その姫サンってなんだ?」

「あん? なに、お前知らないの?」

「何を?」

「イスラさんへほぼ毎日張り付いてるアズリア隊長のことだよ」

「んなことくらい知ってるよ。病弱だったイスラをアズリア隊長が心配して、ってヤツだろ?」

「それも間違ってないが……現状はそんな生易しいものじゃねぇ」

「……どういう意味?」

「ほら、イスラさん……その、なんというか、か、可愛いだろ? 人当たりいいし、笑顔は可憐だし、それに他にも…」

「年上趣味のベス君が簡単に翻ってぞっこんになるくらいだもんな」

「うるせえっ!!」

「まぁ、とにかくだ。姫サンはベスに限らず隊の中で非常に受けがいい。アズリア隊長も顔では決して負けてはいないが、あの性格だしな。階級とかも色々あるし、わけ隔てなく接してくる姫サンの方が人気は断然高い」

「此処も訳ありの部隊だけど、そこの所だけはホント恵まれてるよな。紅一点ならぬ紅二点、他の隊より絶対俺等の方が士気高いぜ。で、それがどうした?」

「そんな姫サンに魅かれた、少なからず下心を持った野郎共が彼女の元へ近付くってのはどういうことだ? アズリア隊長から言わせれば、溺愛して止まない妹である姫サンの元に、だぞ?」

「…………まさか」

「ああ、アズリア隊長が四六時中姫サンの周囲に目を光らせてんだよ、害虫駆除のために。つうか、もはや守護だなあれは。その姿、姫を守る騎士の如く。そんで最凶の騎士に守られている当の本人についた渾名が、姫」

「料理当番だから、僕もなんとかイスラさんと二人きりを許されたんだよ。“手を出したら殺す”ってありありと睨まれて……」

「マジか……」

「実際、最初に姫サンへ手を出そうとした奴等叩きのめされたらしいぞ。紫電が迸ったらしい」

「どんだけだよ……」

「近くに居るのに、とっても遠い……」

「詩人だな、ベス」

「うはー、納得。確かに姫って言われても違和感ないわ。ていうか、アズリア隊長ハマリ過ぎ……」

「そんなアズリア隊長を慕う人達も根強いみたいだけどね。(ギャレオ副隊長とか)」

「それは当然あるだろ。(ギャレオ副隊長とか)」

「だな。(ギャレオ副隊長とか)」













「また派手にやってるなぁ……」

島の海岸線。
空から降りてくる日の光をはね返しまるで黄金の粒の様を呈する砂浜を、何十人もの人員が掘り返している。
彼等の目的は宝探し。見た目金の砂をほっぽって宝を探すその光景に、少しの苦笑が漏れた。


キュウマとのやり取りを済ませ子供達と合流した俺は、そのまま大蓮の池に移動。
ぴょんぴょんと遊びを興じていた訳だが、そこで鬼の御殿から大移動するジャキーニさん達の姿が目に入った。
そういえばこんなこともあったなと思いながら俺もジャキーニさん達に随伴。彼等が向かったこの浜辺までやってきた。


「ったく、今度は何の騒ぎだと思ったら宝探しかよ。ここまで来てホントこりない奴だぜ……」

「ふっはははははははっ!! なんじゃ、カイル! わし等に遅れをとったことがそんなに悔しいか! 言っておくが一欠けらもお前等にはやらんぞっ! ふはっ、ふははははははははっ!!」

「いるか、馬鹿。島にいる連中を差し置いてふんだくろうとするお前等の気が知れねえって言ってんだよ」

「いいか、野郎共! 気合入れて掘りまくれよ!! こんな機会はまたとないんじゃからなっ!!」

「「「「「「「「「「へい、船長!!」」」」」」」」」」

「聞いてないし……」

「でも、確かにお宝を前にして先を越されるのは悔しいものがあるわねぇ」

ジャキーニさんと子分さん達が砂浜を掘っている姿に、カイル達一同溜息を吐く。
一人はまた違う意味合いの溜息だが。

「蔵屋敷の整理を手伝ってもろうたらひょんなことに宝の地図が出てきたらしくての。もう整理の方も十分じゃったから、出てきたものには好きにしてええ、と言ったらこないなことに……」

「……それって猫糞されたのか、母上?」

「む、むぅ? そういうことになるのか、のう……?」

「ジャ、ジャキーニさん……」

「もう、ヒゲヒゲさんいけないのですよー!」

つまりそういうことだ。
宝の地図を見つけたジャキーニさん達は彼等が言う海の男の本能のままに宝探しへ移行。地図に記されたこの砂浜で“宝”を掘り当てようとしているのだ。
「前回」の経緯を知っている俺としては、まぁご愁傷さまといった感じだが。

「所でカイル、先生は? 船の方にいると思ったんだけど?」

「ああ、オウキーニが準備したタコを見たら顔を青くしてな。ほれ食えと言って迫ったら泣きながら逃げちまった」

「何やってんだ、あの人……。ていうかお前も女性が嫌がることすんなよ」

「ウィル、アティさんに対して貴方がそれを言いますか……」

「いやぁ、あの美味さを食いもしねえで嫌がるってのはちょいと気に入らなくてよ」

ヤードが何か言ったがスル―。最初の方は確かに楽しんでたが、最近はあの天然にストレス発散しないと割に合わなくなってきた。許容範囲だろ。
ていうかアティさんタコ苦手なのか。河童娘であるあの人がタコごときを嫌がるなんて驚きだ。
こう、川で仕留めて普通に焼き食いしてそうだが。いや、タコは川では取れないか……。

「本当に大丈夫やろうか? 地図の方にも死の呪いなんて物騒なこと書いてあるっちゅうのに……」

『今の所、付近に異常は見られませんが……』

オウキーニさんは不安な表情を隠すことも出来ずジャキーニさん達を見守っている。一方でヴァルゼルドが頭を巡らせながら周囲の警戒を払っていた。
外見モノホンの地図に記されている、「我らの誇りに手を出す輩に死の呪いあれ」的な言葉にオウキーニさんの心配は鰻登り。
彼は先程まで必死に俺達へ説得するよう求めてきたが、まぁ大丈夫じゃね?みたいな軽い反応にあしらわれた。ジャキーニさんだし別段平気だろと根拠のない理屈で。

何かあったら俺達がなんとかすると言って取り敢えず納得してもらった。
念の為に、ラトリクスで専用の武器作ってもらってたヴァルゼルドも呼んできた訳だし。

子供達も付いてきてしまったのが少しの懸念材料だが、カイル達とミスミ様、俺とテコ&ヴァルゼルドにジャキーニさん達もいる。戦力としては十分だろ。


「……ねぇ、ウィル」

「ん? 何、ソノラ?」

「あの後、クノンとは……どうなったの?」

「……それを此処で聞くか」

「だ、だってさ……」

突然のソノラの問い掛け。正直、あまり触れて欲しくないものなので顔を顰めてしまう。
少したじろぐソノラを視界に収めながら内心で溜息を吐き、ファリエルにそうしたように説明してやった。

「責任は取る、って……ウィルはそれでいいの?」

「言い方が変だったかもしれないけど、そんな義務みたいなもんじゃないよ。……少なからず、僕もクノンには魅かれてると思うし」

「…………」

「で、何でそんなこと聞くのさ? 恥を飲んで語った僕としては要説明してもらいたいんだけど?」

「えっ!? ぁ、あっははははははははっ!!」

興味本位でほじくり返しやがったのかと、どぎつい視線を送って真意を尋ねる。
ソノラは顔に赤を浮かべながら笑ってもみ消そうと躍起になっていた。やっぱりか貴様。
くぬやろー、と歯を剥いて威嚇の姿勢を見せてやる。噛みつくぞお前っ。

「何の話をしておるんじゃ、そなた達?」

「な、何でもないからっ!? ミスミ様が聞いてもなんも面白くないしっ?!」

「面白くないとか、じゃあ聞くなよ……。まぁ確かに、余り詮索して欲しい物じゃないですね」

ひょい、と割り込んできたミスミ様にソノラは慌てながら両手を左右に振る。俺の言葉も受け、ミスミ様は「何じゃ、釣れないのぅ」と口を尖らせた。
こんな仕草が様になっているご婦人はこの人だけだろう、と改めて苦笑を浮かべた。

「……で、でも実際さぁ、あれ本当に宝の地図なの!? なんかジャキーニ達が手を出したって時点で胡散臭いんだけど?!」

強引な話題転換。明らかにはぐらかそうとしているが、追及しないでやろう。
今は大目に見てやる。

「間違いなく本物。地図に記されていた海賊旗のマーク、あれ、帝国の手を散々煩わせた『巻きヒゲ』のシンボルなり」

「う、嘘っ!?」

「それは真か?」

驚きの声をあげるソノラと目を見開くミスミ様に一つの頷きを返す。
そこで同時にあがった歓声。目を向ければ、ジャキーニさん達が次々と宝箱を発掘していた。

「な、何でウィルはそんなこと知ってんの?」

「ウィル・マルティー二の名は伊達じゃない」

「訳分かんないし……」

「じゃあ、あれには本当に財宝の類が納められておるのか?」

「さぁ、どうでしょう?」

ジャキーニさんが喜々とした笑声をばら撒き、宝箱を開ける指示を出す。
砂浜に転がる薄汚れた宝箱は、一種の念のようなものを取り巻いていた。

「さぁ、って……地図は本物なんでしょう? だったら中身も……」

「金銀財宝という保証はないよね。まぁ、何かが入ってることは否定しないよ。……“本物”だから、死の呪いが掛けられるほどの大切な物があるんだろうし」

「「!!」」

俺の発言に二人が目を剥く。すぐさまジャキーニさん達の元に視線を戻した。
前触れを察知したのか、ヴァルゼルドが瞳を発光させ宝箱へ注意を注ぐ。


「宝も“本物”なら、呪いも“本物”だっていう話」


そして、爆発。
宝箱の封が切られた瞬時、中から紫紺の光と煙が発生する。間をおかず晴れ渡っていた空に暗雲が立ち込み、異常な空気が形成された。
伴い、襤褸けた衣装を纏う亡霊達が姿を現す。

「う、うひぃいいいいいいいいいっ!!?」

「ヴァルゼルド」

『了解!』

絶叫をあげるジャキーニさんに剣を振りかぶる海賊の亡霊。
させぬとばかりに、ヴァルゼルドの長距離射撃が亡霊の頭を撃ち抜いた。

「……あのさぁ、解ってたんなら先に言っといてくれる? 心臓に悪いんだけど」

「てへ」

「茶目など見せるな、気色悪い……」

「ぐふっ!? ふ、普通に胸抉られたでおじゃる……!」

胸をおさえ唸る俺を尻目にカイル達が一斉に動き出す。
向かうは海賊の亡霊達。彼等の眠りを妨げたことに詫びをしつつ、もう起きることがないようにと拳を構える。
闘気と魔力が発散した。

「じゃあ、行くか」

「ミャミャ!」

『イエス、マスター』

あの海賊達の想い、費やさない為にも。




「兄ちゃん! 母上!」

「そこにいろ、スバル! そなたが出る幕ではない!」

勇み出ようとするスバルをミスミ様が一喝。その場で縫い止まっているよう声を張り上げた。
納得がいかないのだろう、ミスミ様のそれに対しスバルは顔を歪め不服を表している。

「武芸のくし――誓約――召喚」

手元にある「武芸のくし」を獣のサモナイト石と用いて誓約の儀式を執行。
召喚光と共に顕現した「風薙の戦斧」をスバルの元に放った。

「えっ?」

「パナシェを一人にしてやるなよ、スバル」

目の前に突き立った斧にスバルは瞠目。そして、俺の言葉にピクリと肩を震わした。

「スバルゥ……」

「戦いに飛び込むのと同じくらい、誰かを側で守ることは大切だと僕は思うよ」

「…………」

「パナシェを守ってやれ」

暫らくの沈黙。
だがやがてスバルはキッと顔を上げ目の前の斧を取り、「ああ!」と力強く頷いた。

「兄ちゃん、母上、頑張れ!」

「任せろ」

「母に心配など無用じゃ、スバル!」

スバルとパナシェの激励を背に受けながら駆け出す。
前方では亡霊達とカイル達の激しい組みあいが繰り広げられていた。

「すまぬな」

「?」

「スバルのことじゃ。わらわだけではああまであの子を言い聞かすことは出来んかった」

戦場から目を逸らさずミスミ様は言葉を零す。
その瞳に浮かぶのは、僅かな寂寥か。

「……まぁ、あれです。男の子の気持ちは男の方が良く分かるってヤツです。ミスミ様が気に病む必要はないですよ」

「……そうかの」

「というより、そんなうじうじ悩んでるのはミスミ様らしくないです」

鳩が豆鉄砲を食らったように、前を向いたままでミスミ様は目をぱちぱちと瞬いた。
此方に目をやってきたので、俺は肩を竦めて薄ら笑い。違いますか? と視線で彼女に尋ねてやった。

「豪胆、っていう方が似合ってますよ。ミスミ様には」

「…………」

足を進めながら視線を交わす。
ミスミ様はそれから一笑、頬を緩め嬉しそうに表情を形作った。

「似たようなことを言われたわ……」

「はい?」

「ふふっ、言うことだけは瓜二つじゃな」

俺から目を剥がし前へ直るミスミ様。
風に飲まれた静かな言に俺は首を傾けたが、ミスミ様はなんでもないと笑みを浮かべながら首を振る。

「なに、気にするでない。そなたが良い男(おのこ)だと褒め称えただけじゃ」

「はは、よく言われます」

「あっははははっ! 言ってくれるな!」

堪らないというように笑い上げつつ、ミスミ様は手で印を構築。
目にも止まらない速さで指が術の基礎を編み上げ、そこに通された魔力が風の流れを周囲に生み落とした。

「どれ、ならばわらわの気性を見せてやろう!」

「どうぞ遠慮なく」

「召鬼・風刃!!」

放たれた風の刃が亡霊達に喰らいつく。
風圧も乗せられたそれに耐えることが出来ず、亡霊達は千切れ吹き飛ばされていった。

『オオオオオオオオオオッッ!!』

「疾ッ!」

風刃と共に飛び出した俺はそのまま群れる亡霊達に接敵。
投具を撃ち出し、片手に持ったパレリィセイバーで斬りかかった。
雄叫びごと彼の霊を両断する。

『グウウウウウゥ……!』

確かな手応えを得るが、斬られた側から相手の肉片が大気に散り、そして霊体が蒸発するかのように消え失せていった。
少なからず心を揺さぶる果敢ない光景。今度は執念に囚われることなく還って欲しい、と柄にもなく祈りを捧げた。

気持ちを切り替え周囲を見渡す。数は遥かに此方が不利。「以前」より数が多くなってくるのは錯覚だと思い込む。
だが数で劣ろうが、個の力は比べるまでもない。連携すれば数の暴力は容易に覆せる。

「うおおっ!? く、来るなや、貴様等!? そんな大勢で卑怯じゃろ!?」

「「「「「「「「「「せ、船長ーっ!?」」」」」」」」」」

「あ、あんさーんっ!!?」

「たかられとる……」

と、耳に飛び込んできた叫びに顔を向ければ、そこには亡霊達に囲まれているジャキーニさんと子分のみなさんの姿が。
結構ホラーな亡霊に腰が引けている。うーん、あの人達はダメか、やっぱり……。

「ソノラ、ヴァルゼルド、援護お願いします!!」

「もうっ、海賊なら卑怯とか言う前に張り倒しなさいよっ!!」

『弾幕展開!』

ハンドガンと大口径の銃砲が火線を連ねた。
音を突き破り空気を穿つおびただしい弾丸。次々と撃ちこまれた鉄の雨が炸裂を重ねる。

「スカ―レルさん、遊撃をお願いします!!」

「しょうがないわね!」

砂を蹴り上げスカ―レルが亡者の群れに肉薄。
振るわれる銀孤が的確に亡霊達を捉えていく。彼方の注意をジャキーニさん達から引き離した。
スカ―レルに亡霊達が群がろうとするが、華麗なステップを踏んで一対多数の状況を作り出さない。うん、戦い慣れてるね。

「そんな動きじゃアタシは捕まんない、わ、よ……」

スカ―レルの動きが言葉と共に鈍る。
突然の事態。笑みと一緒に余裕の色を浮かべていたオカマから表情が落ちていく。
遂には、顔が焦りにありありと染まっていった。

「スカ―レルッ!?」

「ヘイ、スカちゃん。そんなヘボイ動きじゃ捕まっちゃうZE」

「ア、 アタシもよく分かんないのよ!? 全力で動いてる筈なのにっ……?!」

ああ、パ二くってるパ二くってる。

「何が起きてんの!?」

「ソウカ、ワカッタゾ! アレハ亡霊達ノ呪イダー!!」

「の、呪い!? ていうか何で棒読み?!」

むらむらと押し寄せてくる亡霊達。オカマは必死に後退している。
通常より五割切ったのろくさい動きで。

「呪いだとしても何でスカ―レルだけっ!?」

「あのお姉言葉が気に食わない!!」

「ウィルの個人的な意見聞いてないから!?」

「冗談はさておき……恐らくはあのオカマっぽい振る舞いが亡霊達の癇に障ったんだ!」

「さっきとあんま変わってない?!」

「嘘でしょ!?」と続けながら銃を連射しまくるソノラ。
うん、勿論嘘。犯人は…………俺だったりする。

「積年の恨み、ここでは晴らさでおくべきかっ……!!」

どうせ面白可笑しく人を話のネタにしてくれっちゃったんだろう、なぁオカマ? 人の気持ちも知らないでよ。
……テメ―だけは絶対許さねぇええええええええっ!!!

報復は十倍返し。俺の逆鱗に触れたことをくたばって後悔しやれや。
俺があのオカマにしたことは「スライムポッド」による憑依召喚。動作、移動距離、素早さを著しく低下させる阻害の召喚術だ。
あのオカマが敵に飛び込んだ瞬間に高速召喚。逃げたくても逃げれぬ状況を作り出した。
ふははははははははっ、絶景じゃ絶景じゃ。

「一体どうした!?」

「ス、スカ―レルがよく解んないけど呪いにかかったらしくてっ!?」

「それならば、わらわが祓いの印で……!」

「グラヴィス」

ジオクェーイク。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああっ!!!!??」


頭上からデカハンマーを何度もかまされる亡霊達とオトリもといオカマ。
広域攻撃にオカマ中心一帯が飲み込まれ、煙がもわもわと立ち昇る。オール昇天。

「自分を犠牲にするなんて……何て健気な奴っ!!」

「………………」

「……ウィル、お主」

「言ってました、スカ―レル。『アタシを踏み潰してでも前に進みなさい』って……」

何やってんだお前、という目を横に流しながら捏造話をでっち上げる。
素晴らしい囮だったスカ君。実にいい仕事をしてくれた。いや囮からの大規模召喚術、ホント懐かしい。これ病みつきになるのよね。

咎めの視線に構わずそのまま戦闘続行。
スカ君のおかげで亡霊達は大分減った。この分ならいけるだろう。
何人抜きをしているのか分からないくらい暴れまくっているカイル。派手な音を撒き散らすヤードとマルルゥ。って、マルルゥ何時の間に……。
目が眩むほどの召喚光に汗を流しながら、取り敢えず心配はないようだと付近の亡霊に向き直る。このまま押し切れるか……。

「せいやぁ!」

「おりゃっ!!」

普段はあれだが、オウキーニさんとコンビ組むと途端に動きが良くなるジャキーニさんも奮闘を続けている。
オウキーニさんも視野が広い。ジャキーニさんのサポートなんて完璧だ。
実際あの人達強いよな、普通に。なんか場の雰囲気で簡単に片づけられてるけど……。

「召喚。闘・ナックルキティ」

「ふんっ! ……む、なんじゃこれは? ち、力が湧き上ってきちょるっ!!」

「あ、あんさんの身体から光が薄らと……!?」

「こ、これは……遂にわしの時代が来たんかーーっ!!?」

ジャキーニさん達の所から一気に相手を畳みかけようと、憑依召喚によるドーピング。
当の本人は激しく勘違いしているが、とにかく馬力が相当跳ね上がっている。相手を蹴散らすのは容易くなった。

「ふはははははははっ!! 最高じゃ、最高の気分じゃ! わしの剣よ、光って唸れぇえええええええええっ!!!」

「「「「「「「「「「行けえ、船長ー!!」」」」」」」」」」

「あ、あんさんっ、調子乗ったらあかんてーっ!?」

ばったばったと亡霊達を薙ぎ倒していくジャキーニさん。オウキーニさんの戒めの声も届いちゃいない。
実際、討ち漏れがあってカイル達にツケが回っている。逆効果だっただろか……。

うーむ、だがあの暴れっぷりは目を見張るものがある。
超強気になるとあそこまで力を発揮するとは……ジャキーニさん、ちょっと見直したぜ。

「むっ! 貴様が親玉かあっ!!」

『ウオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

「今のわしに勝てると思うなやーッ!! いくぞおっ! ――――――あっ!」

『…………フンッ!!』

「ごぼいっ?!!」

「あんさーんっ!?」

ダメだった。瞬時に幻滅だった。
馬力すごくても頭のほう供なってなかった。一撃で吹っ飛んでる。「ごぼい」ってなんだよ、「ごぼい」って。

オウキーニさんのストラの治療を受けてるジャキーニさん尻目に亡霊達の頭目を見やる。
縁がボロボロの黒の外套を羽織った幽霊キャプテン。頭に被った海賊のハットは血に汚れ、二刀流である対のサーベルが不気味な輝きを帯びていた。
記憶が正しければ、あのキャプテン「幻実防御」出来なかったか? 霊体がよく所持している「抵魔の領域」のスキルも。

召喚術は不利か。カイル達も先程のツケにより此方に手が回りそうもない。
やはりここはジャキーニさん達に気張ってもらおう。落とし前をつけるという意味も兼ねて。……決して楽しようとか思ってないヨ?

「オヤビンッ! ここで海の漢っぷりを見せつけてやってくだせえっ!!」

「「「「「「「「「「頑張れ、船長!!」」」」」」」」」」

「ちょ、お前等っ!?」

「来るでえ、あんさん!」

『ハアアアッ!!』

「って、うおおおおおおおっ!!?」

俺に誘導された子分さん達の声援を浴びながら、ジャキーニさんとオウキーニさんが幽霊キャプテンとの戦闘に突入した。
すっかり勢いが衰えてしまったジャキーニさんとはいえオウキーニさんとの二人がかり、だというのに相手はそれを難なく捌ききっている。器用巧みに操る二本のサーベルがジャキーニさん達の攻撃通過を許可しない。
疾風のように翻り剣と拳を弾き飛ばし、そして反転、暗い光沢を放つ双牙がジャキーニさん達に襲いかかった。

「ぬうっ!?」

「うぐあっ!!?」

「! オ、オウキーニッ!?」

「「「「「「「「「「副船長ーっ!?」」」」」」」」」」

「きさまぁ!!」

『オオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』

腕を浅く斬られ膝をつくオウキーニさんの姿にジャキーニさんが激怒。
これまで以上の動きで相手に飛びかかるが……敵も強い。ジャキーニさんの剛撃を的確に往なしている。

強固な盾にもなる一対の細剣。攻守を同時に可能としている。
……「以前」より遥かに強いように見えるのは、もはや気のせいではないのだろうか。

「はぁ、はぁ……」

『フウウウウウウ……』

距離を開け向き合う両者。
ジャキーニさんは息を切らし、更に身体のあちこちに切り傷がある。対して相手は目立ったダメージは見られない。

ジャキーニさんの旗色は悪い。
……が、既に幽霊キャプテンはチェックをかけられている。その位置はもはや地雷原、ジャキーニさんの手の中だ。
キャプテンは忘れている。ジャキーニさんは決して一人で戦っている訳ではないのだと。

「はぁ、はぁ…………ふっ、わしの勝ちじゃ」

『……?』

不敵の笑みと共に為された宣言に、幽霊キャプテンは疑念の色を浮かび上がらせる。
それを見てジャキーニさんは更に笑みを深め、そしてキャプテンの背後へ視線を送った。

「やれえっ、オウキーニッ!!」

『!?』


そう、即ち挟み撃ちからの奇襲。


『ヌウッ!!』


幽霊キャプテンが迎撃せんと一気に旋回。そして、


『ナッ!!?』


誰もいなかった。




「ふっはははははははははははっ!! 馬鹿めッッ!!!!」




真の一撃。
ガラ空きとなった背に、卑怯なにそれ食えんの?と言わんばかりの砕撃が見舞われた。


『ガッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!?』


深緑の輝き。
激上した威力をもってして、ジャキーニさんの剣は一撃のもとに幽霊キャプテンを葬った。

お見事。




「海賊がどうこう言うもんじゃねえけどよ……」

「きたなっ……」

「誉められるものではありませんね……」

「いやー、惚れ惚れする程のお手並み。拙者感服」

「兄ちゃんは節操を持とうよ……」

「ふははははははははっ!! 勝利じゃ、勝利じゃ!!」

「「「「「「「「「「へい、船長!!」」」」」」」」」」



「これは……」

「血染めの、海賊旗」

「……あの人達の誇りってヤツですね」

「そうみてえだな……」

『物であっても、意志は生きるのですね……』

「あやつ等もまた、武人じゃったか……」

「どうするのですか……?」

「……ふんっ、陸の上にコイツがあったって意味がないじゃろう!」

「あんさん……」

「海原を進み、潮の風に煽られる……それがコイツの本懐じゃ」

「……だな」

「連れてけや、カイル。わしの船はまだ動きそうもないからの」

「ああ、任せろ」


「……ジャキーニさん、すごいね」

「ああ、あの人は滅茶苦茶カッコ良いぞ」

「うん、僕初めて知った……」

「そっか」




「……あんた達もこれで満足か?」







――――ありがとう――――













いずこの海岸



「でも実際のところ神経質過ぎね、アズリア隊長? 心配なのは分かるけどさ、此処は軍所だぜ? 部隊の連携円滑にする為に気安く交流するのも当たり前じゃないか?」

「でも、アズリア隊長もイスラさんも、なんてたってレヴィノスの家の出だからな。嫌でも敏感になっちゃうんじゃないか?」

「……小耳に挟んだんだがな、」

「「うん?」」

「信憑性には全く欠けるんだが…………姫サンには付き合ってる男がいる「なぁにぃーーーーーーーーーーーっ!!?!?」うおっ!?」

「お、おいっ、ベスッ!!?」

「嘘だろう!? 止めてくれっ、ジャンッ!!?」

「ちょ、お前、落ち着けっ……!?」

「頼むから嘘と言ってくれぇえええええっ、ジャンッ!!!」

「ジャンは根拠ねえって言ってんだろっ!? 静まれ、馬鹿!!」

「はぁ、はぁ、はぁ…………ご、ごめん、ジャン。取り乱しちゃって……」

「い、いや、気にしてないから安心しろ。…………んじゃあ、話してもいいか?」

「ああ、頼む」

「…………」

「これはアズリア隊長最初の犠牲者の奴が言っていたらしいんだが……『貴様か、あの娘を誑かしている不届き不埒下種下劣汚濁汚泥唾棄腐食下半身野郎はっ……!!!!!』……って言われたらしい」

「「………………」」

「アズリア隊長の目、光が一切ない黒で覆われてたらしいぞ……」

(どうなったんだ、ソイツ……)

(ていうか取り敢えず生きてたことの方が驚きだよ……)

「実際ソイツは錯乱状態で身体の方も目が当てられない状態だったから、口にしたことが本当だとは言い切れんのだが……他の犠牲者も似たような感じらしい」

「……イスラが誰かと付き合ってることを何らかの方法で知ったアズリア隊長は怒り狂い、彼女に近寄ってくる野郎を根こそぎブチ殺しまくってる、それが真実ってことか?」

「しかも、その不届き不埒下種下劣汚濁汚泥唾棄腐食下半身野郎はこの隊にいるってこと?」

「移ってる移ってる、移ってますよベス君。まぁ、確証はないんだがな。でも、異常なまでのアズリア隊長の反応を考慮すると……」

「…………」

「…………」

「…………」

「オイ、てめーら。何さぼってんだ。何処であの女隊長が見てるか分かんねえぞ」

「あっ、隊長」

「ども、隊長」

「俺達に何か用ですか、隊長?」

「……てめーら、言ってんだろ、俺は隊長の職なんて就いてねえ。いい加減止めろ馬鹿」

「いえ、俺達は貴方に付いてくって決めましたからね」

「イスラさんが切れた時のあの手並み、本当すごかったです!」

「俺達はビジュ隊長に救われましたから。俺達の中では貴方は間違いなく隊長ですって」

「……ちっ、めんどくせえ野郎共だぜ」

「ははっ、まぁいいじゃないっすか。所で、俺達になんか用ですか? 隊長のことだからただ来ただけじゃないんでしょう?」

「い、いや、特にこれといった用もないんだけどよ……」

「「「?」」」

「…………あー、イスラはどうしたんだ? あいつも調理当番だっただろ?」

「えっ? あ、ああ、何か用があるとか言って何処かに走っていったらしいですけど……」

「ああ? 何やってんだ、アイツ……」

「「「…………」」」

「ちっ、ったく……」

(おい、まさかビジュ隊長も……)

(この人、そういうキャラじゃなくね……?)

(残酷非道突っ走る人だしね……。あ、でもあの時の一件で少し丸くなったのかも)

(昔は真面目で実直な人だって聞いてたしなぁ……)

(もしそういうことだとしたら、イスラとんでもねえな。隊長も落とすのかよ。姫ってより魔女だぜ……)

(いや、どちらかというと魔王……)

(口を慎め。お前等、潰すよ?)

(怖いから本当に止めろよ……)

「おい、何コソコソしてんだ、てめーら」

「い、いえ、ちょっとですね……」

「ええーと、あー……そ、そうえいえば、知ってます? アズリア隊長がイスラの彼氏を探してるって話? 今、隊の間で持ちきりなんですけど?」

「……ちょっと詳しく聞かせろ」

(決まりか……)

(隊長、今日からあんたと僕は敵同士だっ……!)


『お前は一体何を考えてるんだ!』

『えー、ちょっと位いいじゃん。偵察だよ、偵察』


「「「「んっ?」」」」

「単独行動は控えろ! 隊長に言われたばかりだろう!」

「お姉ちゃんは過保護すぎるんですー。それに言われたことだけをするだけじゃ出世出来ないよ? ちゃんと隊の実になることなんだから、ギャレオ副隊長殿の器量で見逃してよ、ねっ?」

「だめだ、規律を乱すことは許されない!」

「ぶーぶー」

「イ、 イスラさん!?」

「と、ギャレオ副隊長?」

「なんか口癖移っちゃったな……。あ、ベス君。ごめんね、勝手に押しつけちゃって」

「いいいい、いえっ!? そ、そんなっ……」

「で、何してるんで、副隊長? そんな薄汚い手でイスラの首根っこ掴んで持ち上げて?」

(まんま子猫だな……。ていうか、めっちゃ和む……)

「上官に対する口の聞き方ではないな、ビジュ……」

「こいつは失礼しました。ただ事実を申し上げただけなんですがね……」

(い、いきなり喧嘩腰……)

「ちょっとー、どうでもいいけど下ろしてよー。それともうちょっと仲良くしなよ、とばっちり全部お姉ちゃんにいくじゃん」

(お前が原因だ、お前が……)

「ほら、イスラもそう言ってることですし、さっさと下ろしてあげたら如何で? 副隊長の腕は窮屈らしいですぜ? そんなぶっとい腕してまるでゴリラ「ふんっっ!!!」ぶげらっ!!?」

「わあっ!?」

「「「た、隊長ー!!?」」

「もう一度ソレを言えば……次はないぞ」

(な、なにがあったんですか……)

(なんで立ち去ってく背中があんな悲しいんだ……)

「た、隊長!? 大丈夫ですかっ!?」

「あ、あの野郎、こ、今度会ったらっ――――」

「もう、あっぶないなぁ。ビジュ平気? 生きてる?」

「――――……………………」

「ちょっと、ビジュー? しっかりしなよー」

(た、狸寝入り……)

「はぁ、しょうがないなぁ。誓約の名の下において命じる……ピコリット」

(隊長ーーーーーーーーっ!!! なぁにイスラさんに介抱されやがってんですかぁアンタァアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!?)

(ば、馬鹿っ!? 落ち着けっ!!?)

(離せぇえええええええええええええええええええええっ!!!!!)

「早く起きなよー」

「………………」












「お願いします、私と一緒に遺跡へ行って貰えませんか?」

集いの泉。
お馴染である海賊メンバーに俺とテコ、ヴァルゼルドの前でアティさんが頭を下げる。
彼女が頼み込んでいる内容は遺跡の内部調査。この島に関する真実を知りたい、アティさんはそう言っているのだ。

俺達が海賊の幽霊達を相手にしていた同刻、アティさんはファリエルが喚起の門にて鎮めの儀式をしていた所を目撃したらしい。
儀式の反動で倒れたファリエルをフレイズと共に狭間の領域へ搬送。そこで尋ねた島の亡霊達の件、返ってきた答えはアティさんの持つ「剣」に全て集約されているということだった。

島の根幹から力の一端を引き出すという「剣」、囚われている死者の魂、そして結界が張り巡らされ封印も施された島そのもの。
散りばめられたピース、見えてこない真実の全貌。「剣」をめぐり殺し合いを演じた彼女達を止めるために、理解して踏み込むために、アティさんは全てを知りたいと言う。
何も知らないで相手を傷付けてしまうより、全てを知った上で自分が傷付く方がいい、と。

幽霊騒ぎも放って置けなかったとはいえ、ファリエルの方に手を回せなかったのは痛い。
「ヤッファ」の時がそうであったように、彼女の方も穏便に済むものではなかっただろう。あの「タフガイ」だったらまぁそこまで気にしないのだが、女性に苦しい真似をさせてしまったのは普通に悔やまれる。謝るのも傲慢だが、すまんファリエル。

そして、同時に確信した。「俺」の記憶はもうほとんど役に立たない。「俺」の時は、確かに幽霊達を供養した後に「ヤッファ」の鎮めの儀式の現場に出くわした。
時間の経過が掌握しきれない。このままではいずれ大ポカかましてしまう。正直キツ過ぎるが、とにかく急事には早目の行動で順々に対処していくしかないだろう。


取り敢えず、後悔と反省はこの辺で。今は目の前の事態に集中だ。
遺跡進出。「俺」の時とほぼ同じ道程。……まぁ、「俺」の時はこのままじゃ島から出られないから仕方無しにって感じだったが。間違ってもアティさんみたいな綺麗なものじゃない。

しかし、本当に彼女をあそこへ連れていってしまっていいのか?
この通過儀礼を行わないと何時まで経っても前に進まないのは分かっている。今頃、無色の連中が海を渡りこの島へ向かっているかもしれない。身内に爆弾を抱えて奴等と相対するのは無謀、時間がないのは事実だ。

だが、一向に拭えぬ不安。
アルディラの思惑。理知的であり完璧な彼女が、どれほどの狂気を孕み、また周到な計画を用意しているか解らない。アティさんを、一体どんな危険な目に陥れてしまうのか。

これまでアルディラの説得も考えていたが、出来なかった。相手の胸の内も知らず此方の言い分を押しつけて説得など不可能。柄でもないし、それにあの狂気に染まった瞳には全て呑み込まれるような気がした。
手段を選ばず行動を起こしたとしても、無駄。監禁の類はただの問題の先延ばしというように、それらの行為を実行してしまえばアルディラが孤立するだけで、根本的な解決には至らない。俺達の間に深い溝を残すだけだ。
そこへ狙い澄ましたかのような無色到来……冗談じゃない。

今日という日が、全てを上手く進める契機になるのは確実。これを逃したら、果てして事態は収集がつくのか見当がつかない。
ベストを望むのだとしたら遺跡に向かうべき。見通しの効かない不安要素があったとしても、「記憶」の通りに事を進める。それが、最善。


「私達の目的も『剣』の処分ですからね。アティさんの申し出を断る理由はありません」

「それじゃあ……」

「ああ、手を貸すぜ」

ヤードが奪った「剣」にまつわる経緯と目的、事情を打ち明けカイル達はアティさんの話に賛成した。彼女達の利害は一致しているのだから当然だ。
もう遺跡に乗り込むのはほぼ確定。だが、一向に俺の迷いと雑念は晴れない。
今日ほど、「レックス」の記憶を持っていることを恨んだ日はなかった。

「ありがとうございます! あっ、ウィル君はどうですか?」

「…………」

ここで俺が反対した所で貴方達は遺跡へ向かうんだろうが。俺の意見の是非に意味はない。
了承を得た余韻で顔が笑っているアティさんを見て、腹が立ってきた。俺が必死こいて思考を巡らせているというのに、当の本人はどうしてこんな能天気なのか。

荒唐無稽なことをいっているとは解っている。だが、そう思わずにはいられない。
彼女の為に躍起になっているというのに、彼女の心配をしているというのに、彼女に傷付いて欲しくないと思っているというのに。

彼女の笑顔を守りたいと、そう思っているのに。




「ウィル君?」

「…………」

此方を見詰め押し黙っているウィルに、アティは首を傾げる。
何時も身に纏う雰囲気と、何かが違った。

「どう、したんですか?」

「…………」

疑問を投げかける。普段のウィルらしくない態度に、アティは僅かに戸惑いを感じる。
深緑の瞳が常時の色をかなぐり捨て、真剣にアティを見据えていた。それはまた何処か怒っているようにも見えて。
少し、胸が痛くなった。

「……勝手にしたらいいじゃないですか。どうせ僕が何言っても聞かないんでしょうから」

「ウィ、ウィル君……?」

「ええ、別に僕も反対はありません。それが妥当でしょう。…………ええ、一番妥当だ」

棘のある言葉。反対しないという音には、まるで無理矢理抑えつけたような響きが含まれている気さえする。
何故か、胸が苦しくなった。


やがて「先に行く」と言いウィルは集いの泉を後にする。
カイル達は疑問符を浮かべながらもその背に続き、はっと気付いた所でアティも慌てて彼等を追った。
揺れる瞳で、先頭にいるウィルに焦点を合わせながら。

徐に、此方を省みる深緑の瞳。
先程とは打って変わった申し訳なさそうな光。どうすることも出来ない自分自身に対し、此方へ許しを乞うような、そんな光。


「………………」


何故そんな目をするのか。
逸らされた瞳はもう見えず、此方に背を向けたウィルは何も言ってくれない。



開けた距離。埋まらない溝。語ってくれない背中。



震えるほどに、胸が寂しくなった。


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