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サモンナイトSS投稿掲示板


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No.36362の一覧
[0] 【完結】サモンナイト3 ~不適格者~[ステップ](2013/12/22 13:20)
[1] 第二話 悩める漂流者[ステップ](2013/01/04 16:33)
[2] 第三話 はぐれ者たちの島[ステップ](2013/02/25 11:19)
[3] 第四話 海から来た暴れん坊[ステップ](2013/02/25 11:20)
[4] 第五話 自分の居場所[ステップ](2013/01/05 23:20)
[5] 第六話 招かざる来訪者[ステップ](2013/02/17 15:03)
[6] 幕間 薬をさがして[ステップ](2013/02/22 03:40)
[7] 第七話 すれ違う想い[ステップ](2013/02/28 20:13)
[8] 第八話 もつれあう真実[ステップ](2013/05/11 12:58)
[9] 第九話 昔日の残照[ステップ](2013/03/11 20:56)
[10] 幕間 ガラクタ山の声[ステップ](2013/03/15 21:53)
[11] 第十話 先生の休日[ステップ](2013/03/20 23:44)
[12] 第十一話 黄昏、来たりて[ステップ](2013/04/20 15:01)
[13] 第十二話 断罪の剣[ステップ](2013/05/11 13:17)
[14] 第十三話 砕けゆくもの 上[ステップ](2013/09/23 14:54)
[15] 第十三話 砕けゆくもの 下[ステップ](2013/09/23 21:39)
[16] 第十四話 ひとつの答え 上[ステップ](2013/10/01 18:24)
[17] 第十四話 ひとつの答え 中[ステップ](2013/10/05 16:46)
[18] 第十四話 ひとつの答え 下[ステップ](2013/10/13 17:38)
[19] 第十五話 楽園の果てで 上[ステップ](2013/12/22 18:04)
[20] 第十五話 楽園の果てで 中[ステップ](2013/12/22 18:04)
[21] 第十五話 楽園の果てで 下[ステップ](2013/12/22 18:04)
[22] 最終話[ステップ](2013/12/22 18:03)
[23] エピローグ[ステップ](2013/12/22 18:03)
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[36362] 第七話 すれ違う想い
Name: ステップ◆0359d535 ID:613dbfd6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/02/28 20:13
 翌日。
 ようやく皆の二、三日酔いも抜けてきた頃。
 学校の授業終了後、俺はまたラトリクスへ来ていた。
 アルディラを訪ねるつもりだったのだが、ふらふら周辺を歩いていた。

 ……考えてみれば、あの場にいたファリエルにまず状況を確認する方が賢明なのかもしれない。
 あの妙な状態のアルディラに対してある意味真正面に対応していたわけだし。
 客観的な情報を得てからアルディラ本人に聴いてみたほうがいいのかもだ
 うん、そうするか。

 思い立ったが吉日、俺はすぐに反転し、

「もしもし……そこのお方……」

 ん?
 聞き慣れない声。

「ここです、ここ!
 このガレキの下にいるのであります……」

 見渡すと、微妙に盛り上がりのあるガレキがあった。
 ……どかすのはできそうだが、さて。

「お前はだれだ」

 アホみたいな問いだが何も分からないのだから仕方ない。
 人語を解するわけだし、いきなり襲いかかってくるような類のものでもないだろうが用心は必要だ。

「これは失礼いたしました。
 本機は機械兵士、型式番号名VR731LD強攻突撃射撃機体VAR-Xe-LD。
 ヴァルゼルド、と親しみをこめて呼んで欲しいのであります」

「お、おう」

 機械兵士?
 それってーと、破壊殺戮の限りを尽くしロレイラルの世界をエラいことにした連中じゃなかったか?
 姿を見ていないせいなのか知らんが、聞いた話と印象が違う気がするが……。
 とりあえず、出してみるか。





「で、お前ガレキの下で一体なにやってたんだ?」

「よい質問であります! 実は……」

 ガレキをどかして出てきた機械兵士に若干びびりながらも、俺は機械兵士――ヴァルゼルドの話を聞いた。

「……つまり、エネルギー切れってわけか」

 本来は光をエネルギー変換できるらしいが、ソーラーパネルが破損するわ、ガレキに埋まるわでどうにもならなかったそうな。

「でもこうして日も当たるようになったし、問題なくなったんだな」

「いいえ! 事態は急を要するのであります!!
 本機の消耗は限界寸前、このままでは、充電が終わる前に機能停止するであります!」

「マジか」

「そこで、僭越ながらお願いがありまして……」





 クノンにバッテリーを借りて戻る。
 クノンと二人でジルコーダに襲われたのが昨日のことなので妙な空気ではあったが、逆に詮索されずによかったと言うべきか。
 俺は、ヴァルゼルドと接してみた結果、ある程度信用してもいい相手だと思っているが、クノンやアルディラ達は自分たちの世界がボコボコになった要因のひとつとも言える機械兵士は警戒するだろうしなぁ。

「……どうだ?」

 ヴァルゼルドの下に戻り、バッテリーを接続する。

「ウマイであります!! 感激であります!!」

 ウマイのかよ。つかテンション高ぇな。
 こいつ本当に機械兵士なのか?
 それとも機械兵士ってのは実はこんな連中ばっかりなんだろうか。
 それはそれでウザい集団だな。

「ごちそうさまでした。ええと……」

「レックスだ。この島で学校の先生をやってる」

「先生……すると、貴方は教官殿でありますか?」

 教官て。

「まぁ、間違いではないけどよ」

 その後、ヴァルゼルドは少し話して休眠状態に入った。
 修復が終了次第稼働可能になるそうな。

 お礼は必ずさせていただきます! って張り切ってたけど……こいつは思わぬ拾いものをしたかもしれん。
 機械兵士なら戦力的に申し分ないし、俺の言うこと聞きそうだし。
 俺GJじゃないですかー? YESYESYES。









 同時刻、森にて。
 アリーゼはアズリアと対峙していた。
 アズリアはアリーゼを見て警戒を強める。

(『剣』を持つ者。できるなら、この場で終わらせてしまいたいところだが……)

 アリーゼの落ち着き払った様子が気に掛かる。
 アズリアとしては不意に遭遇した形だが、向こうは策を弄しているのかもしれない。

(だが私が戦場を把握するため、ここを探索することは一部の者にしか話していない)

 裏切りを考慮しないわけではないが、可能性としては低い。
 とすると。

「確か、アリーゼだったな」

「はい。この間はどうも、アズリアさん」

 偶然敵と合間見えたこの場は、アリーゼにとって危機的状況でもなんでもないということになる。

(……この私が、なめられたものだな)

 アズリアは、熱く、心が燃え滾ってくるのを感じる。
 たかだか子どもとは断じない。『剣』の力は無論だが、アリーゼ本人も並の兵士では及ばないことをアズリアは身にしみて理解していた。

「提案があります。私たちと戦うのをやめてください」

 アズリアは、なにを馬鹿な、と言いかけ……、

「なぜだ?」

 アリーゼの真剣な目を見て先を促す。
 どんな考えがあるのか不明だが、なにかしらの情報が得られるならば上出来である。

「言えません」

「話にならんな」

「それでも、私は貴女と戦いたくありません」

「ならば剣を渡せ。それとも今ここで奪ってみせようか」

 アズリアが腰を落とし、戦闘準備に入る。

「先生……レックスさんと戦ってもいいんですか?」

「奴に何を聞いたかは知らないが、こちらはなんの問題もない」

「嘘です」

 断言するアリーゼに、アズリアは僅かに動揺する。

「事実だ。まさかそれを言うためだけに私を待ち伏せしていたのか」

 動揺を悟られぬよう、罠の可能性を探る言葉を返す。
 すると、アリーゼはそれまでアズリアをまっすぐに捉えていた目線を下げた。

「……イスラ……さんは、どうしたんですか?」

「イスラ?」

 アズリアには聞いたことのない名前だった。

「アズリアさんには弟がいませんか?」

「何を言っている。レヴィノス家の後継者は私だけだ」

「……そうですか」

 アリーゼは背を向けて去っていく。

「待て、そう簡単に逃がすわけにはいかん」

 アズリアの言葉にアリーゼは足を止め振り返る。

「私は貴女と戦いたくありません。ですが、逃げるつもりもありません。
 この場で戦うというのなら周りの森からの不意打ちがあっても知りませんよ」

「……いいだろう」

 アズリアは舌を巻く。
 ハッタリの可能性が高いが、目の前の娘は油断ならない。初めて対面した時の頼りなさは一体なんだったのかと問いたくなる。

「今は見逃してやろう。改めて、決着をつけるときまではな……」

「………」

 互いに睨み合い、同時に背を向ける。

(奴に加え、あんな娘までいるとはな) 

 相手に不足はない。
 アズリアは戦いに考えを巡らせ、無意識に拳を握り締めた。








「………」

 船長室には俺、アリーゼ、海賊4人が集合していた。
 狭間の領域に向かう途中にアリーゼに会ったのだが、アズリアと遭遇していたらしい。

 ……奴が無目的に森を散策するわけがない。戦場となる場所の下見だろう。相変わらず糞真面目な奴だ。
 俺はため息をついて事実となるであろうことを告げる。

「近いうちに、下手したら今日明日のうちに、帝国軍と戦うことになるだろうなぁ」

 全員の緊張感がふくれあがる。
 いつかは来るとだれもがわかっていただろうが……。

 緊張と不安を吹き飛ばすようにカイルが言い放つ。

「こっちは望むところだぜ。俺たちはヤードと約束したんだ。二本の剣を取り返してみせるってな。
 帝国軍に奪われるなんて論外だ」

「剣の力は凄まじいです。軍事目的に利用されることは、絶対に避けるべきです」

 ヤードが乗るが、俺はそれに水をかける。

「ところが戦いを望まない人もいるんだよ」

 俺がアリーゼを見ると、海賊四人が困った顔をした。
 アリーゼが戦いに反対していることはすでに皆に伝えてある。
 後に帝国学校へ入ろうとする立場のアリーゼが、堂々と帝国軍と一戦交えるのはたしかに不味い。

 ……いや、すでに一戦やってるけどさ。
 しかし、あれはまだ身を護るため、正当防衛という名の下の不可抗力で終わる話だ。
 だが、今度は正面切って戦うことになる。これはさすがに不味いと思われるわけだが。

 スカーレルがアリーゼに顔を向ける。

「アリーゼの気持ちはよぉくわかるけどね、剣を渡すことは無理よ。だとしたら……向こうとの戦いも避けられないわけよ」

「………」

 これ以上ない正論に全員が沈黙する。

「とりあえず、今夜はもうお開きだ。この件については、また明日話をしよう」

 カイルの言葉で、俺たちは気まずい雰囲気のまま解散した。








 夜、甲板にて俺は月を眺めていた。

 ……戦場の下見をしていた、か。
 まったく、厄介な奴が本気になったもんだ。
 いや、あいつはいつだって本気か。

 物思いにふける俺の背後から扉が開く音。

「先生」

 振り返るとアリーゼ。真剣な表情だ。

「お聞きしたいことがあるんです。
 アズリアさんと、先生は、その……どういう関係なんでしょうか?」

 アズリアとの関係か。
 そういやアリーゼにはおろか、誰にも話してなかったな。

 ……気でも使ってもらってんのかね。
 確かに顔見知りだが、戦うのを躊躇うような相手じゃないから問題ないんだけどねぇ。

「アズリア・レヴィノス。軍学校での同期、つまり同級生だな。
 レヴィノス家は知ってるか?」

「はい。上級軍人を輩出してきた名家のひとつですよね」

「アズリアは本気で上級軍人を目指している。帝国の歴史上前例のない女性の上級軍人をな」

 だれもが認めるだけの優秀な軍人になる。そうならなくてはなんの意味もない。
 いつもアズリアが語っていた言葉だ。
 そして、あいつはその言葉を現実にしてきた。自身の才能と、それを支える途方もない努力をして。

「先生は、アズリアさんのこと、どう思っていたんですか?」

「うーん」

 一言では言い表せない。
 奴は常に強気で、向上心に貪欲で。
 俺に対してあれこれ言ってくることもあった。
 正直ウザいと思ったことも一度や二度じゃないが……。

「嫌いでは……なかったな」

「………」

「あいつはいつだって真剣で、尊敬できる人間だ。いろいろと話してみたかったこともある。
 結局その機会は来なかったけどな。
 俺は陸戦隊、アズリアは海戦隊に配属されてそれっきり。俺は配属されてからすぐにやらかして軍を辞めたからな」

「軍を辞めるときに……」

「ん?」

「会わなかったんですか?」

 不意に記憶が鮮明に蘇る。
 アズリアが俺を睨みつけて……、

「あいつに聞いたのか?」

 野郎、変なことアリーゼに言うんじゃねぇよ。
 俺はきまりが悪くて頭をかく。

「本部に辞表出した帰りに偶然出くわしたよ。ボロカスに怒鳴られたなぁ。
 『勝ち逃げなんて絶対に認めない!』ってさ。
 あいつは馬鹿だ。逃げる俺が何に勝ったって言うんだよな」

「先生……」

「それよりもだ、アリーゼはどうして帝国軍と戦いたくないんだ?」

「え……それは」

「軍学校に入る際に不利になるかもしれないってのはわかるけどよ」

 それだけが理由とは思えない。
 そも、アズリアと一対一で交渉できた時点で、軍学校は喜んでアリーゼを入校させるはずだ。
 あそこはなんだかんだで実力第一主義だからな。

「アズリアに対して随分興味を持ってるみたいだし。
 戦いたくない理由にも関係してるんじゃないのか」

「……先生は、戦ってもいいんですか?」

「いい悪いの問題じゃない。あいつはやると言ったらやる女だ。奴以上の有言実行者を俺は見たこと無いぞ」

「いいんですか?」

 ん? アリーゼ、なんか妙に頑固だな。

「そりゃあいつの実力は身にしみてるし。避けられるなら避けたいけどよ。現状ではどうにもならないって」

「私が聞いているのは、先生にとって大切な人かどうかという意味です」

「な……」

 一瞬冗談かと思うが、アリーゼさんはマジ顔である。

 奴が大切だ? そんなもん考えたことすらないぞ。

 思わず呆然とする俺にアリーゼは、

「だから、私は戦いたくないんです。
 私は納得できないままに流されて戦いたくはありません」

 そう言って、船内に戻っていった。
 アリーゼの後ろ姿を見送って、その言葉を反芻する。

 ……流されて戦いたくない、か。








 翌日早朝、船外にて。
 帝国軍の使者、アズリアの名代として、副隊長であるギャレオが宣戦布告にやってきた。
 軍人特有の、挑発と大差ない降伏勧告の後、戦闘場所を指定。悠々と去っていった。
 海賊連中はメンツを潰されたからと戦る気満々。
 今度はアリーゼも積極的に止めようとはしなかった。
 ようやく避けられない戦いであることを理解したのか、あるいは何か考えでもあるのか。
 どちらにしろ、俺もやりたいようにやるとしよう。

「戦う前にアズリアと話をさせてくれないか」

「え?」

 アリーゼが俺を見る。
 カイル達は顔をしかめる。

「先生よ、俺たちは海賊だぜ。それがここまでコケにされて……」

「黙ってられないのはわかる。だけどよ」

 俺はアリーゼを見て、

「あの布告はだれに対して行われたものだ?」

 む、と海賊たちが沈黙する。

 帝国軍は……アズリアは、アリーゼ宛てに戦いを申し込んできていた。
 常識で考えたら、ありえない行為だが、だからこそアズリアは油断ならない。
 あいつは正しく本質を捉えている。
 俺たちにとっての最重要人物は、間違いなくアリーゼだ。

「奴の性質はわかってるつもりだ。何を話しても恐らく戦いにもつれ込むだろう。
 だが、話をすることで不利になることはない」

「……わかったよ」

 カイルが両手を挙げる。
 無事承諾は得られたようだ。

「ってことだ。アリーゼも奴に言いたいこと言ってやれ」

「先生……」

 アリーゼがかすかに笑う。

 さて、方針は決まったし、風雷の郷に行っておくか。







 暁の丘にて。
 広大な平地が広がり、奥にはなだらかな丘のある場所だ。

「アルディラ、体は平気か?」

「ええ。クノンと一緒に薬を採ってきてくれたんでしょう。ありがとう」

「どういたしまして」

 アルディラの様子は至って平常どおり。
 崩した調子も戻っているようで、操られてるような素振りもない。
 頼もしいアルディラ姉御状態らしい。

「みんな悪いな。厄介ごとにつき合わせて」

「カマワヌ……コレガ、ワレラノツトメダ……」

 ファリエルが答える。
 集落のはぐれが狙われた時点で、護人として帝国軍は警戒すべき相手だろう。
 剣と島の関係は根深いようだし、帝国に剣を奪われることは放っておくことはできないだろうしな。

 俺たちは護人を連れ、帝国軍に相対する。
 ちなみにキュウマとヤッファは警戒のため集落に待機してもらっている。
 アズリアに限ってないとは思うが、あのビジュとかいう奴に裏をかかれて集落を襲われたらシャレにならんし。

「来たか」

 二十を超える兵士を従えたアズリアが言う。
 斧兵、槍兵、弓兵、召喚士、と相変わらずバランスのいい下っ端を伴い、自身は後方待機。横にはギャレオ。
 定番中の定番の陣形だった。
 やる気満々の当人たちを前に、俺は切り出す。

「アズリア、話をしないか」

「話すことなど何もあるまい。
 それとも、そこの娘と同様の話をするつもりか?」

 アズリアが鼻で笑う。
 貴様に限ってそんなことはありえないだろう、と。
 さすがアズリアさん、わかってるねぇ。

「その通りだ」

 だからこそ、俺は嬉しいよ。

「……なに?」

 お前の戸惑う顔が見れて。

「俺たちは戦いを望まない。
 アズリア、剣のことをお前はどれだけ知ってる? 剣は単純に力が得られるだけのシロモノじゃないぞ」

 む、とアズリアが一瞬沈黙する。

 ……この程度の言葉でアズリアが黙るとなると、帝国側は剣については、ほぼ何もわかっていないということか。

「よかろう。そこまで言うなら聞いてやろう」

 島が召還術の実験場であったこと。
 無色の派閥が剣を扱い切れずいたこと。
 島のはぐれ召還獣は、戦いを望んでいないこと。
 それらを説明する。

「なるほど」

 アズリアが俺の話を聞き終え、俺をにらみつける。

「しかし解せんな。その話のどこに貴様たちとの戦いを避ける要素がある?
 無色の派閥すら扱いあぐねた凄まじい力を宿す剣と、あらゆる世界に通ずる召還の門。
 帝国にとって、この島と剣は有益であることは間違いない。
 今の話のどこに戦いをやめる要素がある?」

 獰猛な、今にも襲い掛かってきそうな表情。
 貴様が無用に情報を提供するとは思えん。いったい何を考えている? とでも言いたそうだ。

「まさか、私に島の事実に対する哀れみやいたわりの感情でも期待していたのか?」

「まさか」

 俺は苦笑する。
 帝国魂一直線のアズリアを説得するには帝国の益を交渉材料にするしかない。
 言われるまでもなく理解してるよ。

「ならば……」

「こんな理由で、お前と戦いたいとは思わない」

「……は?」

「それだけだ」

 アズリアが呆けた顔で俺を見る。
 その顔が見れただけでも、この話は無駄じゃなかったかね。

「……ふざけるな」

 マジなんだけどなぁ。
 まぁ、アズリアの尺度ではふざけてるとしか思えんだろうが。

「言いたいことは終わりか?
 ならば、始めるぞ」

「アズリアさん」

 完全に戦る目をしているアズリアに対して平然とアリーゼが言う。

 ……前から思ってたんだが、アリーゼさんは度胸ありすぎじゃないっすか?
 普通、アズリアのあの空気感じたら、大の大人でもびびりそうなもんだが。事実、アズリア率いる兵隊の中には顔引きつってるのいるし。
 本当に、いったいどんな人生送ってきたんだろうねぇ。

「覚えておいてください。今はそれで十分です」

「黙れッ! 子供の戯言に付き合うのは終わりだ!
 総員、攻撃開始! 今より、この者たちを帝国の敵とみなす!!」

 アズリアの号令で、戦いの火蓋は切って落とされた。








 みんなには事前に作戦は伝えてある。
 前線にはカイル、ファルゼンが当たる。

 「ちぃっ!!」

 カイルが槍兵の攻撃をガードする。
 間合いが遠くてカイルの攻撃は届かない。
 敵の前衛のメインは槍兵。斧兵もいるが、中距離からの攻撃ができる槍兵は、こちらの前衛にとっては面倒な相手だ。
 強引に接近しようとしても、先に相手の一撃をもらう可能性が高く簡単に詰められるほど敵は鈍くない。単純に相性が悪い。
 だから、学習してもらおうか。

「ドリトル!」

「タケシー!」

「シャインセイバー!」

 カイルと中間距離をとっていた槍兵に向かって、アルディラ、アリーゼ、俺が召還術を乱打する。
 たまらず倒れる兵士A。
 そいつを見向きもせず、行軍する俺たち。目指すはアズリアの撃破のみ。軍人相手には指揮官さえ倒せば残兵は戦いようがなくなる。
 まぁ、その指揮官が武闘派すぎるという話なわけだが。

「アリーゼ!」 

 キンッ、と甲高い音を立てて、ファリエルの鎧に弓矢が当たる。
 遠距離からのアリーゼに対する弓攻撃をファリエルが庇う。

「ファルゼンさん!?」

 アリーゼの心配する声に対し、

「問題ナイ」

 敵を見据えたまま、タフガイのごとく平然と答えるファリエル。
 中身とは裏腹に、相変わらずのたくましいボディである。
 ほかにも何発か矢が飛んでくるが、物ともせず突き進む。
 決してすばやい動きとは言えないが、あの巨体が並みの動きをすればそれだけで脅威だ。

「ハァッ!!」

 間合いを詰められた弓兵がファリエルの剛撃で昏倒する。

「俺も負けてられねぇな!」

 カイルが斧兵に詰め寄り、接近戦を開始する。
 相手もそれなりにできるようだが、カイル相手では分が悪い。二、三発もらってあっさりと沈む。

「槍兵! あの二人の進撃を止めろ!!」

 アズリアが叱咤し二人を囲もうとするが、奴等の間合いの中距離になった瞬間を見計らい、

「ベズソウ!」

「シシコマ!」

「シャインセイバー!」

 瞬時に吹き飛ばす。
 ぶっ飛んだ味方を見て、残りの槍兵が後ずさる。
 さすがに気づいたのだろう。自分たちが狙われていることに。

 このまま押し込みたいところだが……、

「シャインセイバー!」

「アアアアア!?」

 帝国兵の召還術がファリエルに突き刺さる。 

 野郎! いずれ召喚兵で対処してくることはわかっていたが、想像以上に動かすのが早い!
 ……アズリアの指揮は、やはり伊達じゃねぇな。

 ファリエルの魔法抵抗力は正直紙同然。すでにレッドゾーンだ。
 続く詠唱に入る兵士達。
 ファリエルが引いても合わせて詰められたら間違いなくやられる。
 回復も間に合いそうにない。

 だがしかし。

 俺は地を思い切り踏みしめ、後衛の位置から一直線に召喚兵の目前に飛ぶ。

「なに!?」

 動揺する召喚兵に縦斬り。ファリエルをやってくれた分をしっかり返す。

 ……アリーゼを走らせてる間、俺も遊んでたわけじゃないんですよ。

 スキル、ダッシュ。
 直線上でここの地形のように段差が少なければ、それなりの距離を一瞬で詰められる。
 慌てて近くの召喚兵が俺に向かって召喚術を放つ。

「ノロイ!!」

「……甘い」

 その一撃を魔抗状態でしのぐ。
 ダメージは入るが、大したものじゃない。
 動揺せずに、俺じゃなくファリエルに放たれていたら本当に危なかった。

 さて、これで舞台は整った。
 後は頼んます。








(今動かねば、瓦解する)

 アズリアは戦況を把握していた。
 数の上で上回っていた戦力差が、ひとつ、またひとつと詰められていく。
 なによりも槍兵の動揺が激しく、部隊が正常に機能していないのが痛かった。
 彼らが陣形を正しく組んでいれば、いかにレックスがダッシュをしようとその眼前に立ちはだかることができただろう。

「まったくもって、嫌らしい戦いをしてくれるな、お前は」

 賞賛とあきれを込めつぶやく。
 これ以上、指揮に徹しても状況が好転することはないだろう。
 以後は自身の力を示して、兵を鼓舞するしかない。

「ギャレオ! 出るぞ!」

「はい!!」

(前線にいる二人は槍兵と召喚兵に当たらせ、後方の召喚士たちには斧兵と弓兵で圧倒する)

 そのためには、まずは召喚兵をなぎ倒していくレックスをアズリアが止めなくてはならない。

 だがしかし。

 ギィン!!

(速い!?)

 前線へ向かおうとするアズリアはその足を止められる。

「ほう、妾の槍をこうも簡単に受けるとは」 

 落ち着いた雰囲気の中に狂暴な闘争心が見え隠れする。

(不味い!? この者の相手をしている場合ではないというのに!!)

「相手にとって不足なし。
 白波風の鬼姫ミスミ、これより参戦仕る」

 構えた槍がアズリアの胸に向けられる。
 隙のない構え。初めて見た相手だが、間違いなく強敵だとアズリアは歯噛みした。








 俺は三人目の召喚兵を斬り伏せる。

 ミスミさまはうまくアズリアと戦りあっている。
 序盤は戦いに参加せず、アズリアに横撃をかけるためずーっと大回りしたところで伏せてもらっていた。
 混戦状態になったところで本格的に近づいたため、ほとんど補足されなかったようだ。
 いくらアズリアと言えど、ミスミさま相手では分が悪い。あの槍捌きで専守防衛されれば苦戦は必須。
 ギャレオに対してはスカーレルとソノラが連携してあたっている。
 指揮官を欠いた帝国軍はすでに烏合の衆と変わらない。

「勝負あったな」

 俺は最後の召喚兵を斬り伏せた。








 アズリアの動きが止まった。

「負けたのか……」

 槍兵が機能せず、自身が抑えられている間に、勝負は決着していた。

「なんじゃ、もうやめるのか?」

 ミスミはつまらなそうに槍をおさめる。
 通常であれば、アズリアは戦いの大勢が見えようと簡単にあきらめるような人間ではない。

(完全に上を行かれた……)

 敵は剣を温存したまま勝利した。
 どれだけ奮闘しようとも、もはや勝敗は動かない。
 そしてなにより、レックスが立てたであろう作戦に定石のみで当たった自分の指揮官としての能力差がアズリアの心を折っていた。

 レックスが悠々と近づいてくる。

(強敵をお前とアリーゼだけと思ったのが、間違いだったのか)

 個々の能力に圧倒された。
 そして信頼感に裏打ちされた連携力も備えている。

(無策で勝てるような相手ではなかったということか)

 今更のようにアズリアは悟った。
 何もかもが遅……

「……っ!?」

 レックスと自分、どちらが発した声だったのか、アズリアは反射的に横っ飛びをする。
 その前方でレックスも同様の行動を取った。
 刹那。

 ドゴォォォォォォォン!!

 大地に大穴があく。
 アズリアの背後からの砲撃だった。








 やってくれるぜ、まったくよぅ!

 俺は前方、丘になった場所を見据える。

「イヒヒヒヒヒヒッ!」

 得意気に笑うチンピラ一名、他お供数名。

 ビジュの野郎、姿が見えないと思ったら……。

「やるようになったなアズリア」

 大砲の援護があれば、いくらでも戦況は変化する。
 もっとも、タイミングが遅すぎるが。

「ち、違……」

 アズリアは言いかけた言葉を飲み込む。

 ……なるほど、アズリアの作戦ではないようだ。
 てめぇら弱者だろと煽った宣戦布告をして大砲は使えねぇだろうな、アズリアの性格では。

「感謝してくださいよォ、隊長殿。
 俺のおかげで、あんたは今逃げることができるんだからよォ」

 大砲を連発しながら、ビジュがニヤニヤと笑う。

 ……感謝も糞も、てめぇ今俺とアズリアまとめて吹き飛ばそうとしたじゃねぇか。
 この組織力のなさが攻める隙ではあるが、そのせいで今の窮地を招いているとは皮肉なもんだ。 
 さて、どう対処しようか……って。

「ブラックラック」

「ギャァアアアアアアアアアアアアアア!?」

 紡がれた召喚術がビジュ、その他の兵を吹き飛ばす。
 やったのはアリーゼだった。
 いつの間に接近したのか、アリーゼは残りの大砲兵も召喚術で圧倒していった。








 夜、浜辺にて。
 俺は深夜の散歩とシャレこんでいた……って、単に寝付けないから暇つぶしをしてるだけです。

 結局、ビジュはやられはしたが、奴の大砲の援護により帝国軍は撤退戦を強いられることなく退却に成功していた。
 こちらとしては帝国軍を退かせられれば目的は達成されるのだが、アズリアがこれで終わるとも思えない。
 このまま戦いを続けても互いにジリ貧になるだけだ。

 ……どうにかして落としどころを探しておかないとな。

「レックス」

 思案していたら、ファリエルがふわふわと隣に浮いていた。

「おぅ、今日はありがとな。アリーゼを護ってくれて」

「いいえ、そんなの、たいしたことじゃないですよ。
 仲間を守るのは当然のことですって」

 ファリエルは笑って言うが、いかに強力な防御ができようと文字通り矢面に立つのは並みの人間にできることではない。

「それに、ほらっ?
 昼間の私って、頑丈なだけが取り柄でしょ?」

 なに言ってんだか。

「ファリエルだったから、あの作戦を実行できたんだ。それだけじゃなく、周囲を見て仲間を庇うなんてなかなかできることじゃねぇって」

「おっ、おだてたって、なんにもでませんよ。ホントですよっ!?」

 事実なんだがなぁ。これ以上言うと照れ隠しに怒られそうだが……。

「ぷくく」

「なな、なんで笑うんですか!?
 もぉ……」

 ファリエルの反応に自然と笑ってしまう。
 これだけ反応がいいと、ついつい構いたくなってしまう。
 嫌われたくはないんで、この辺で今日のところはやめておくけど。

「そういや、召喚術を受けた傷は平気なのか?」

 ファリエルは霊体の割りに、めちゃくちゃ魔法抵抗力ないからなぁ。
 物理特化の幽霊って今更ながらに謎な存在だ。

「はい。狭間の領域でゆっくり休みましたから」

「そっか」

「今日は、もっと激しい戦いになると思っていました。
 アリーゼが剣を使わなくてすむなんて思わなかったなぁ」

「……ああ。みんなががんばってくれたおかげだな」

 言いながら、俺は今日の戦いを振り返る。
 自然、表情が険しくなる。

「レックス?」

「……ファリエルはおかしいと思わなかったか?」

「え? なにが?」

「その……」

 最後にビジュその他を吹き飛ばしたアリーゼ。
 あのタイミングであれだけ接近するのは、不可能に近い。
 もし可能だとすれば、それは剣を使っての高速移動。あるいは……。

「アリーゼは、前もってビジュの大砲に備えていたんかね」

「そんな。いくらなんでもそれは読めないと思いますよ」

 苦笑するファリエル。
 そのとおりなんだが、もう一点、気になることがある。

 ……アリーゼは、召喚石ブラックラックをどうやって手に入れた?

「レックス?」

「なんでもない。そろそろ寝るわ」

「はい。おやすみなさい」

 ファリエルと別れ、俺は船に向かって歩き出す。
 遺跡のこと、剣のこと、アルディラのこと、それに加え新たな悩みが生まれそうだった。







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