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サモンナイトSS投稿掲示板


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No.36362の一覧
[0] 【完結】サモンナイト3 ~不適格者~[ステップ](2013/12/22 13:20)
[1] 第二話 悩める漂流者[ステップ](2013/01/04 16:33)
[2] 第三話 はぐれ者たちの島[ステップ](2013/02/25 11:19)
[3] 第四話 海から来た暴れん坊[ステップ](2013/02/25 11:20)
[4] 第五話 自分の居場所[ステップ](2013/01/05 23:20)
[5] 第六話 招かざる来訪者[ステップ](2013/02/17 15:03)
[6] 幕間 薬をさがして[ステップ](2013/02/22 03:40)
[7] 第七話 すれ違う想い[ステップ](2013/02/28 20:13)
[8] 第八話 もつれあう真実[ステップ](2013/05/11 12:58)
[9] 第九話 昔日の残照[ステップ](2013/03/11 20:56)
[10] 幕間 ガラクタ山の声[ステップ](2013/03/15 21:53)
[11] 第十話 先生の休日[ステップ](2013/03/20 23:44)
[12] 第十一話 黄昏、来たりて[ステップ](2013/04/20 15:01)
[13] 第十二話 断罪の剣[ステップ](2013/05/11 13:17)
[14] 第十三話 砕けゆくもの 上[ステップ](2013/09/23 14:54)
[15] 第十三話 砕けゆくもの 下[ステップ](2013/09/23 21:39)
[16] 第十四話 ひとつの答え 上[ステップ](2013/10/01 18:24)
[17] 第十四話 ひとつの答え 中[ステップ](2013/10/05 16:46)
[18] 第十四話 ひとつの答え 下[ステップ](2013/10/13 17:38)
[19] 第十五話 楽園の果てで 上[ステップ](2013/12/22 18:04)
[20] 第十五話 楽園の果てで 中[ステップ](2013/12/22 18:04)
[21] 第十五話 楽園の果てで 下[ステップ](2013/12/22 18:04)
[22] 最終話[ステップ](2013/12/22 18:03)
[23] エピローグ[ステップ](2013/12/22 18:03)
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[36362] 第五話 自分の居場所
Name: ステップ◆0359d535 ID:bb338046 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/05 23:20

 負けられない戦いってあるよね。

「よっはっほ」

「やるじゃん、先生!」

「待ってー」

「スバルこそ! 俺について来られるとはな!」

「そろそろおいら本気出そうかな!」

「ふ、リミッターを外す時が来たようだな」

「待ってー」

「二人共早いのですよー」

 ゴール!
 スバルは……ち、着いてやがる。

『マルルゥ、どっちが早かった!?』

「同じだったのですよー。二人共がんばったのです」

 ふむ、いくら慣れた遊び場とはいえ、腐っても軍学校仕込みの俺の動きについて来られるとは。
 スバルは将来すげぇ戦士になるかもしれんね。

「先生やるじゃん!」

「スバルこそな!」

 ぐわしっと友情の握手。
 俺達は互いの健闘を讃え合った。

「待って……」

 その後、ミスミさまのところでみんなで菓子食ってたらパナシェに涙目でキレられました。




 パナシェをなだめて、お茶をもらってまったりする。

 御殿はいいとこだなー。景色は綺麗だし、お茶はうまいし、ミスミさまは綺麗だし。
 入り浸ってしまいそうだ。

「そうそう、そなたに頼みたいことがあるのじゃ」

「なんですかミスミさま」

「そなた、学校をやってみる気はないか?」

「学校……ですか?」

「そうじゃ。そなた先生なのであろう?」

 とは言ってもねぇ。
 大勢ではなく単独しか教えたことないし。
 ……あれ、あの授業って教えたウチに入るのか?
 あれれ、俺やっぱり先生じゃないんじゃ。

「どうしたのじゃ? 急に四つん這いになって」

「いえ……ちょっと足が痺れただけです」

「胡座をかきながら痺れるとは、そなたは器用じゃな」

 笑うミスミさまに引きつり笑いでしか返せない俺。

 まぁ、やるだけやってみますか。








 アリーゼの部屋。

「そんなわけで、学校やることになったんだ。
 生徒はスバルとパナシェとマルルゥだけだけどさ」

 俺はミスミさまのところでの話をアリーゼにしていた。
 俺が今現在アリーゼの先生かと言われると疑問符しか湧かないわけだが、一応話を通しておくのが筋ってもんだろう。
 黙々と机に向かっていたアリーゼがちらっとこちらを見る。

「授業は?」

「ん? スバル達にするのはこの世界のことだよ。
 ミスミさまは先を考えてるんだなぁ。いずれスバル達がこの島を背負って立つ時のために、この世界のことを学んでおいて、俺達みたいに島を訪れる人間と無駄な争いを起こさないように……」

「違います。私の授業です」

「は?」

「………」

 いやいやいや。
 アリーゼさん、この前俺の授業がボロクソに終わったの忘れたんすか?
 っていうか半分くらいはアリーゼのせいだったと記憶しているわけですが?

「もういいです。学校、やったらいいと思います」

 バタンと扉が閉まる。
 キユピーを連れて出ていってしまいましたよ。

 もうね、マジで理解できないよあの娘さん。








 大股で森の中を歩く。
 アリーゼは苛立っていた。

(相談もなしに勝手に決めて!)

 あの人には先生の自覚がない。
 もっと先生だったら。

 先生……だったら……。

 知らず涙が出てきてしまいそうになる。

「キュピピ」

「ありがとう、キユピー。大丈夫だから」

 献身的な護衛獣にアリーゼは感謝する。
 きっとこの世界に来たのが自分だけなら、心細くて潰れてしまっていただろう。
 自分があれだけ焦がれていた世界だというのに。

(でも、先生がいない世界なんて。
 そんなの意味ない……)

 会いたくて。会いたくて。
 必死に探したけれど見つからない。
 それでもあきらめられず今も探してしまっている。

 ……本当は無駄だって薄々気づいている。
 この世界で目を覚まして、あの人を見た時にわかってしまった。



 きっと、この世界に『先生』はいないって。



 それでも、そんなことを真実としたくなくてここを訪れることはできなかった。

「あらー、アリーゼじゃない。どしたの?
 メイメイさんとお酒でものみに来たのぉ? にゃははははは」

 だけど、この世界での私の立ち位置はとても微妙だ。
 まさか私が抜剣者になるなんて。

「お久しぶりです、メイメイさん」

 だから、いつまでも逃げてはいられない。








 青空教室。

 雨降った時どうすんだろう。休みになるんかな。
 なんてどうでもいいこと考えながらでも、授業は真っ当に進んだ。
 スバルとパナシェの言い合いが始まっても目を光らせて収めた

 スバルが悪ガキなのは気づいてたしなぁ。常に意識してればなんかやらかしてもわかるし。
 マルルゥは予想外に熱心だった。3人のウチで一番残念な子だけどな!
 ……努力は認めるよ先生。

「じゃあ、今日の授業は終わり。また明日な」

「よし行こうぜ、パナシェ、マルルゥ!」

「はいです。あ、先生さんも一緒に行きましょう」

 ん、今日の予定は特にないし。
 ……あーでもアリーゼのことはどうすっか……このままだと不味いんだが、打つ手も浮かばないんだよな。

「先生も遊ぼうよ!」

 キラキラと無垢な瞳を見てると断れなくなる。

 まぁ、そのうちいい考えも浮かぶか。








 アリーゼは森の中をさまよい歩く。

 わからない……。
 私、どうしていいかわからないよ。

 メイメイさんに告げられた真実。
 わかってたこと。覚悟してたこと。
 なのにどうして、こんなに苦しいんだろう。

「キュピー……キュピピピ!?」

 キユピー?

 アリーゼが顔を上げると、いつの間にか幾人もの帝国兵が囲んでいた。

(ギャレオさんと……)

「どうしますか、隊長?」

「武器を下ろしてやれ。子どもにそこまでする必要はあるまい」

(アズリアさん) 

 先生の、たぶん親友だった人……。

「私は帝国軍海戦隊所属第6部隊隊長、アズリア・レヴィノス。
 私達と共に来てもらうぞ」








 船にて。

 アリーゼがまだ帰ってきてない。
 おまけに帝国軍がウロチョロしてるのを見た、と。
 たっぷり子ども達とはしゃぎまくった後、帰ってきた俺に飛び込んできた情報がそれだった。
 念のため、俺達は全員で捜索に出ることとなった。

 さて厄介なことになりましたねー、ははは。

「レックス……レックス!」

 この声は、ファリエル?

「アリーゼのこと聞きました。今フレイズが上空から探しています。
 きっとすぐに見つかります! だから安心してください!」

 ありがたいねぇ。本当にいい娘さんだよファリエルさんは。

「レックス? ……どうしてそんなに落ち着いてるの?」

「いや、だってアリーゼさんだし。
 俺よりよっぽど強いんだぜ? 帝国兵がどうこうできる相手じゃないって」

 アズリアだけはその限りではないが、それでも逃げることくらいわけない。

「なに……言ってるの?」 

「だから、ぶっちゃけそんなに心配する必要はないんだよ。
 ファリエルも、今はその姿辛いだろ? でーんと構えてていいって」

 そう言う俺にファリエルは目を丸くして、

「……思わなかった」

 ん?

「そんな人だって、思わなかった!!!」

 ファリエルが俺をおもいっきり睨む。
 そんな顔もかわいいなぁと、うっかり和みそうになる。

「あの剣は、心を依り代とするんです!
 アリーゼの顔見てないんですか!?
 ずっと! ……ずっと、迷子みたいな目をしてるじゃないですか……。
 あんな状態で、まともに剣を使うことができるわけないんです」

「………」

「貴方は、アリーゼの先生じゃなかったの……?」

「………」

 それ以上ファリエルは何も言わず、あさっての方へ飛んでいった。

「なんだそれ」

 次から次へと、わけわかんないこと言わないでくれよ。
 ファックだぜ。








 竜骨の断層。

「いい加減にしやがれ、このクソガキが!!
 何を聞いてもだんまり決めやがって。
 痛い目見ねぇとわかんねぇか? あァ!?」

「やめろビジュ。相手は子どもだぞ」

「副隊長殿は、そうおっしゃいますがねェ……」

 ビジュはアリーゼを顎で示し喜悦し叫ぶ。

「喋らねェ以上は身体に聞くしかないでしょうが!?」

「いや、その必要はない」

(アズリア、さん)

「お前が戦ったのがこの娘であったとして、だ。
 今この娘からはお前の言っていたような力は感じられん。
 お前もそれを理解しているから、今も強硬な手段に出ていないのだろう」

「ちッ!」

「『剣』を持っている様子もない。
 ならば誇りある帝国兵として、節度ある態度を取れ」

「……わかりましたよ!!」

 ビジュはアリーゼから離れ警戒に当たることとした。
 アズリアはアリーゼを横目で見て、ギャレオに小声で指示を出す。

「警戒は怠るな。剣の力があったとはいえ、ビジュを圧倒した者だ。
 子どもと侮るなよ」

「はっ!」

 アズリアはゆっくりと歩き出す。

「貴様なら必ず娘を助けに来るだろう」

 偶然、あの船で見つけた姿。
 確かにこの娘を追って、海に飛び込んでいった……。

「早く来い……レックス」








「先生こっちだよ! この向こう側にいたんだ!」

「さんきゅーな、パナシェ。悪いがこのこと皆にも伝えてくれ」

「うん!」

 パナシェが走り去るのを確認し、俺は現状を見極める。

 竜骨の断層と呼ばれるこの場所。
 三段階の断層に分かれており、一番下の階層には剣士三人が周囲を警戒。
 中段には召喚士、弓兵。
 一番上に召喚士と銃兵が3名ずつ。加えて部隊を率いているであろう者が二人。そして、

 ……アリーゼ。

 どう見ても気力があるようには見えない。

 一体何があった? 剣を使ったのか? だがそれにしては帝国兵に動揺がまったくない。あのアリーゼさんに出くわして平然としてられるわけがない。

 ってことは。

「ファリエルの言い分が当たってんのか……」

 ふざけんなよ。
 だから言ったじゃねぇかよ。俺は心の機微に疎いってよぅ!

 誰にともなく胸中で全力で愚痴る。

 アリーゼにいつ危害が加えられるかわからない。
 一刻も早く飛び込むべきであった。
 だが、その決断を鈍らせる要因が残っている。

 ――アズリアが見当たらない。

 奴一人で戦況はいくらでもひっくり返される。
 その程度の実力をあいつは持ってる。
 前線に立つのか、指揮官に徹するのか、それとも身を隠しここぞという時に姿を表すのか。
 せめてそれだけでも見極めないといかんのだが。

 ……糞が。

「アズリアアアアアアアアアアアア!!!」

『!?』

 帝国兵が一斉に俺を見る。
 それを一切無視して俺は声を張り上げる。

「相変わらず男っ気があるのかないのかわからんな、お前は!?
 この中にお前の意中の人間はいるかあああああああ!?」

 俺の発言に、部隊内に一気に動揺が走る。

 ふっ、やはりな。あの顔にコロっといく馬鹿軍人くらいいると思ったぜ。
 お前がいくら規律規律言うたところで、男ってのはこんなもんだ。
 わかっていても本能に逆らうのは難儀なのだよ。

 帝国兵の間にはあっという間にピンク色の空間が生まれた。
 そして。

「貴様ああああああああああああああ!!!」

 ああ、懐かしい声だよアズリア。出てきてくれてありがとう。これで懸念がひとつ消えた。

 俺が最高の笑顔でアズリアを迎えると、奴はぐぬぬと顔を歪ませる。

「相変わらずのようだなぁレックス!」

 そりゃこっちの台詞だよ。どんだけ真っ直ぐなんだアンタは。

「く……まぁいい。貴様とは私が直接話そうと思っていたんだ。
 おとなしく投降して剣を渡せ。悪いようにはしない」

「魅力的な提案だなぁ」

 可能であれば是非そうしたいところだ。
 だが現実は、あの剣持ってるのは俺じゃない。
 アリーゼは剣の使用ができない状態っぽい。ゆえに渡したくても渡せない。
 そんなん正直に話したらアリーゼがどんな扱いを受けるやら。

「ならば……」

 だが今は少しでも時間を稼がなければ。
 じきに、パナシェが皆を呼んできてくれるはず。そうすりゃ、アズリアの立ち位置を確認できた今、いくらでもこの状況をひっくり返せる。

「ふざけんなよ」

 あ。

「人質取りながら交渉とは見下げ果てたぜアズリア」

 バッカだなー。

「そんなヤツの言うことを、俺が信用するとでも思ってんのか。おめでてーな」

 この状況で挑発してどうすんだよ……。

「てめぇら全員血祭りだ。棺桶の準備でもしとけ」

 でもしょうがねぇか。
 だってこいつら見てると苛ついて、ムカついて仕方ねぇんだもんよ。

「ぐっ……」

 アズリアが慌てて剣を構える。
 いつもの鬼気迫る感覚がない。
 人質うんぬんで動揺したんだろう。

 ……相変わらず精神的に不安定な部分は残ってんのか。
 そんな甘さは、いつか命取りになるぞ。

 俺は剣を構え詠唱を開始する。
 アズリアさえ倒せばあとは烏合の衆。どうにでもなる……はず……だと信じたい。

 とにかくサイは投げちまったんだ! やるしかねぇ!

 腰を落とし、一気に間合いを詰めようとしたところで警告される。

「おっとォ! こっちにゃてめぇの言った人質がいるってことを忘れてんじゃねェ!」

 声の主に視線を向けると、下卑た笑みを浮かべる軍人。

 ……ちっ、アズリアぁ、部下の教育がなってねぇぞ。

「せっかく捕まえたんだ。こういう時こそ利用しなくちゃねェ?」

「こ、子どもを離せ、ビジュ! 命令だ!!」

「ヒヒヒヒ! 残念ながらそれには従えませんねェ」

「貴様ァ!!」

 チンピラの傍にいた大男が切れる。
 よっしゃ! がんばれおっさん! そいつにその規格外の拳ぶちこんだれ!

「手を出せばガキを殺すぜ?」

 んな……。

 チンピラは静かに言った。それが返って本気であることが明確に伝わる。

「俺はこのガキに借りがあるんだよ。だがお優しい隊長様はこいつに手を出すなと言う。
 ならせめて、こいつに関係のある奴をぶちのめさなくちゃ気がすまねェだろ?
 ヒヒヒヒヒヒヒ!!」

 はいはい。

「ほら、これでいいんだろ」

 俺は剣を無造作に放り投げる。

「イヒヒヒヒ。素直じゃねぇかよッ!!!」

「ぐぅぅぅ!?」

 チンピラの召喚術が俺に炸裂する。

 ……この野郎、ただの屑かと思ったら基礎はできてんじゃねぇか。結構キクぞこれ。魔抗しててもきついな。

 チンピラを睨みつけようとして、その隣にいるアリーゼと目があった。
 アリーゼのくちびるが動く。

(どう……して……?)

 戸惑いの表情を浮かべるアリーゼ。

 ……ホント、どうしてなんだろうな。俺もわかんねぇよ。
 もっとスマートに助けるつもりだったのにな。

 思わず苦笑してしまう。
 それをチンピラに見咎められてしまう。

「てめぇ、余裕あるなァ。おい」

「そうでもねぇよ。ガチでやってお前を3人程度のしてやれるくらいのことしかできねぇって」

「ヒヒヒヒ。その減らず口、今すぐ塞いでやるよォ!!!!」

 チンピラの召喚術が再度俺を直撃する。

 ……やべぇな。さすがに連打で食らったらもたねぇぞ。

「そらそらそらァ!! さっきの余裕はどうしたんだよォ!?」

 さらにもう一発。

 まったく清々しいほどの糞野郎だぜ。そこに痺れも憧れもしないけどな。

 アリーゼが覇気のない目で俺を見る。

(に……げ……て…………)

 はぁ、と思わずため息を吐いてしまう。

 これでもまだ気が付かないとは、よっぽど鈍感なんだろうなぁ。
 いや、これまでの俺の行いのせいか?

 また苦笑してしまう。
 ホント笑えるぜ。

 あ、チンピラの眉がピクピクしてる。
 気にすんなよ。お前の召喚術はマジで効いてっからよ。

「死ねエェェェェェッ!!!」

 召喚術発動。命中。
 とうとう俺は膝をつく。

 やべぇな……意識保つのがやっと……。

 チンピラの詠唱は続いていた。








『アリーゼ、あなたは確かに跳躍してきた。それは保証する』

『でもね、まったく同じ世界に戻ったわけではないの。
 だってそうでしょう? 同じ環境で同じ人がいたところで、それでは同様の事態が繰り返されるだけ。
 望みは達成されない』

『だからこの世界はあの世界とは異なってしまった。
 その代表例がアリーゼ、あなたと先生。
 特に先生は『先生』とは明らかに違う個性を持ってるわ。性別だって変化してる』

『アティとレックスは別の存在なの。そしてアティはこの世界には存在しない』

『でもね、レックスはアティと同じ存在でもあるの。レックスはアティの可能性のひとつなんだから』

『結局はアリーゼ。あなたが自分にとっての答えを見つけなくてはいけないのよ』








(わからないです。メイメイさん)

 答えなんてわからない。
 あの人の笑顔が、全然違っているのに、『先生』と重なる。
 わからない。わからない。

 でもたったひとつだけ、今ははっきりしてる。

 あの人は私の、

「せ…………」

 私の、

「くだばれえェェェェェェェ!!!!」

 私の!

「先生ええええええええええええええええ!!!!!」

 発動。
 ビジュの目の前にキユピーが召喚され、ぶちかましを入れる。

「ひぎゃぁ!?」

 ふっとぶビジュ。
 同時にレックスが意識を失って倒れる。

「召喚術だと!?」

 驚愕するギャレオ。
 アズリアの言を疑ったわけではなかったが、完全に予想外だった。
 詠唱が速すぎる。

「先生……ごめんなさい……私のせいで」

「よくもッ!? よくもよくもよくもおおおお!!!」

 詠唱を開始するビジュ。

(うるさいです)

 それよりも先にアリーゼは抜剣、即座に召喚術を発動させる。

「タケシー」

「がァァァァァァ!?」

 ゲレレサンダー。
 召喚ランクが異なるとはいえ、ビジュが今まで召喚していたものと同じ召喚獣とは思えないほどの威力。
 しかし、その本領は相手に与える状態異常効果にある。
 マヒ。
 移動が最低レベルになり、攻撃、命中、回避が困難となり、そして

 ――召喚術封印。

 ビジュは詠唱を無効化され、スキだらけの身体をアリーゼの前に晒す。

「終わりです」

 袈裟斬りに斬られ、ビジュはその場に崩れ落ちた。




(なんなのだあの娘は!?)

 アズリアは背中に冷たい汗をかいていた。

 ビジュは不心得者とはいえ、その実力は私も認めている。
 それをこうもあっさりと……。

「ギャレオに忠告したのは私だというのにな」

 これまでの召喚術の発動で、この場所は他の者達にも気づかれていたのだろう。
 あちらの援軍が迫ってきている。
 このまま戦っても総崩れになるのは明白だ。

「総員、ビジュを救出! 退くぞ!!」

 命令と共にアズリアはアリーゼに突進し剣を振るう。

 一撃! 二撃!! 三撃!!!

 いずれもあっさりとガードされるが、あくまでこれは時間稼ぎ。

 ビジュが担がれたのを確認し、アズリアはアリーゼから間合いを取る。
 完全に相手の実力を見誤った。言い訳のしようがない圧倒的な敗北だった。

「だが、次はこうはいかんぞ。
 帝国軍人の威信にかけて、その剣は必ず取り返してみせる!」

 倒れ伏すレックスを一瞥し、アリーゼの行動を警戒しながらアズリアは撤退した。








「……うぅん」

 ゴンッ。

 痛ッ!?
 え? めっちゃ痛ッ!! なんだこれ!!

 突如俺を襲う謎の頭痛。後頭部がエマージェンシーだぞこの野郎。
 俺は即座に体制を整え、周囲を見回し……、

 見回したが、いるのはアリーゼのみ。

 ん?

 なんか知らんがアリーゼさん、正座しながら自分の頭をポカポカと叩いてますが。
 それは私の知らない儀式かなんかでしょうか。

「あー、その、アリーゼ大丈夫か?」

 主に頭の中身的な意味で。

「わ、私は大丈夫です!!
 そ、それより……先生はどうなんですか? 召喚術で回復はしましたけど、痛くはないですか?」

「後頭部以外は平気だな」

「ぅぅぅぅぅぅ、ごめんなさい……」

 なぜか謝るアリーゼ。

 俺寝返りでも打ったんかね。その拍子にあの岩とかにぶつかったとか。
 それでアリーゼはそれを防げなかったとかで勝手に落ち込んでるとか?
 うわ、ありそー。

「ちぇい!」

「痛っ」

 アリーゼのデコに軽くチョップをかます。

「なにするんですか!」

「だってアリーゼが謝るからさ」

「はい?」

「謝るのは俺だろ」

 アリーゼに向き直って頭を下げる。

「ごめんな。俺はずっと一緒にいたのに、アリーゼのこと全然わかってなかった。
 剣の力がアリーゼにあってさ、勝手に最強だって思ってた。一人でも大丈夫だって、思ってた」

 実際剣の力は凄まじい。きっと戦闘に関してはアリーゼ一人でも平気な部分は多々あるだろう。
 それでも。

「剣を使わなくてもアリーゼは強いしさ。俺なんかが、先生やってていいのかなって思ったんだ。
 そうしたらアリーゼがひどく遠く思えてさ。はは、ファリエルに超怒られたぜ」

 あれは効いたなぁ。
 チンピラの召喚術の100倍は痛かった。

「強くなんか……」

 アリーゼの声に俺は顔をあげる。

「私は、強くなんかありません!!!」

 アリーゼの真っ直ぐな気持ちを少しでも受け取れるように。

「ずっと、あなたを見ないで私は……八つ当たりばかりして」

 アリーゼの言葉を一言足りとも聞き逃さないように。

「怖かったの……だってあなたを認めてしまったら、本当に消えてしまうんじゃないかって。
 そんなこと関係ないってわかってたのに!!」

 理解できなくても俺は一言一言を噛み締める。

「ワガママだってわかってたのに。でも!!!
 でも会いたかったんです……うぅ……もう一度笑って欲しかったんです……ぅ……」

 泣きじゃくるアリーゼ。

 なるほどね。 

「それが、『先生』なわけだ」

「!?」

 アリーゼが目を見開く。

 いくら俺でも気づく。
 なにせ素直なアリーゼが、俺に対してだけは反抗的で、俺のことを決して先生とは呼ぼうとしなかったからな。

 アリーゼの卓越された召喚術。体術も並じゃない。
 それはそれは立派な先生だったんだろう。
 俺じゃあ逆立ちしても敵わないんだろうなぁ。

 でもさ。

「今はこんな先生で我慢してくれよ」

 俺はニッと笑ってアリーゼの頭を撫でる。
 これで少しでもアリーゼの寂しさが消えればいいと思いを込めて。

「う」

「?」

「うわあぁぁぁぁぁああん!! 先生!! せんせえぇぇぇぇぇっ!!!」

「おっと」

 全身でタックルしてくるアリーゼをどうにか支える。

 ……まさか俺がアリーゼに胸を貸すことになるとはなぁ。

「ははは」

 アリーゼには悪いが笑ってしまう。
 昨日の俺に見せてやりたいよ。んで叱ってやりたい。
 生徒をちゃんと見ろよってな。




「うう、恥ずかしいです……いっぱい泣いてしまいました」

 盛大に泣いてすっきりしたのか。
 そう言うアリーゼの顔は晴れ晴れとしていた。

 つか、夕日の中を手つないで歩くのは恥ずかしくないんだろうか。
 ちなみに俺は恥ずかしい。

「それでだな。授業のことなんだけど」

「あ、それは……」

「アリーゼに合った内容、ちゃんと考えてみるよ。やりたくないなら無理強いはしないけ……」

「やります!」

 食い気味だよこの娘。

「やります!」

「ほどほどに期待して待っててくれ」

 俺なんて授業なしなんて言われたら天国だったのになぁ。

「先生は」 

「うん?」

「やっぱり『先生』に似てる気がします。
 あ、ごめんなさい! 気を悪くしましたか……?」

「いや。むしろ光栄だね。
 それに俺もさ」

 俺も、アリーゼにあいつを見てる部分があったんだろうなぁ。

「俺もアリーゼと同じようなことしてたかも」

「私、だれかに似てますか?」

「似てるような似てないような?」

「なんですかそれ。でもわかります」

 二人で屈託なく笑う。
 繋いだ手の温もりと、そこから伝わる確かな絆。
 今はただ、それが素直に嬉しかった。



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