ビジュが悠然とこちらへ向かって歩いてくる。
「嘆かわしいですねェ。
隊長殿は帝国軍人の魂を忘れてしまったんですかァ?
ク……ヒャハハハハハハハハハハ」
仲間割れ、にしては不自然すぎるタイミングだ。
一体何があるっていうんだ?
つーか、こいつ、そもそも戦いに碌に参加してなかったよな。
アズリアの隣にいたギャレオは、ビジュの態度に真っ先に反応した。
「口を慎め、ビジュ!」
「ハッ! ……役目も果たせない番犬が喚くんじゃねェよ!!」
「なっ!?」
「はっきり言わねぇとわからねえのか?
手前ェらの指揮に従うのはうんざりだってよォ!!」
ビジュが目を見開く。
完全に瞳孔が開いていた。
「ここからはなァ、言葉なんか必要ねェ。
力だけで、ねじ伏せて決着をつけるだけだ。
単純明快だろう?
く、クククククヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
……なんだこいつ。おかしな奴だってのはわかってたが、狂っているような人間だったか?
「馬鹿を言うな、ビジュ」
アズリアが前に出てビジュの狂気に対抗する。
「貴様だってわかっているはずだ。我が軍の戦力はすべてこの一戦に費やした。
これ以上、戦いを続けていくことは不可能だと!」
「それは、隊長殿の部隊の話でしょう?」
……おいおい、まさか。
「こっちの戦力は傷ひとつ負っちゃいねェよ……ついさっき到着したばかりだからなァ」
ちっ。
その場にいる全員の動揺が明確に伝わってくる。
帝国軍には急な事実による戸惑いと援軍が来たという歓喜、対してこちら側は死力を尽くした戦いからの連戦をするかもしれないという焦燥。
確定的なことはまだ不明だが、なんにしろ、この空気はまずい。
心身共に疲労しているのに、弱気なままで戦闘に入ったら勝ち目どころか撤退すら危うい。
俺は、あえて余裕の表情でビジュに向き合う。
「到着って、島の外から来たとでも言うのか?」
「その通り。貴様らはもう終わりだよヒャハハハハ!!」
「島の周りには結界があるじゃねぇか。
あの嵐を泳いで渡ってきたってのか?」
「ハッ! あんなものとっくに消えてなくなってんだよ!」
……消えただと? いつの間に消えたっつーんだよ……。そもそもなんでビジュがそんなことわかってんだ?
いや、今考えるのはそこじゃない。
ビジュが妄想を広げてるのでなければ、確実にこの島についてわかっている者が来てるってことだ。
そいつらは偶然たどり着いた俺たちとは違う。
明確な意思を持って、この島を訪れる者。
帝国軍の増援であればアズリアが知らないはずがない。
考えれば考えるほど、そんな奴らは、そんな組織はひとつしかありえねぇ……。
猛烈に嫌な予感が渦巻く俺をよそに、アズリアが叫ぶ。
「ならば……、ならば今の死闘にはなんの意味もなかったというのか!?」
「隊長殿ォ。負け戦に意味なんてあるわけないじゃないですか」
ビジュはきっぱりと言い切る。
その後方から、黄昏の空の下、黒い影がいくつも、整然とこちらへ向かって進行していた。
帝国軍がざわめき、黒い影に向かいよろよろと歩いていく。
援軍が来たと、もう一度戦えると。
一度は屈したと折れていた心をよみがえらせていく。
「まずいぞ……あれだけの新手、今のわらわたちには抑えきれぬ」
ミスミさまが言うのも無理はない。
が、抑え切れませんでした、という話で終わらせるわけにはいかない。
「希望としては、うまく撤退したいところですけどね……」
そういうわけにも、いかないだろう。
もし戦闘になり撤退戦をした場合、より最悪な結果を招きかねない。
奴らの目的に予想はつく。
向こうを退かせない限り、島の連中に対して何をするかわかったもんじゃない。
アズリアのような手段を選ぶ指揮官は、はっきり言って異端なんだ。
ましてや、奴らがそんな甘い連中だとは思えねぇ。
思考を巡らせている間に、黒い影はその姿をはっきりと視認できるまでに近づいてきていた。
……やっぱり、どうみても帝国の兵じゃねぇ。
周囲を視線だけで確認する。
黒い影――黒ずくめの連中に最も近いのはビジュ。
次いで帝国兵達が位置し、そこから少し離れた場所にアズリアやギャレオや俺、ミスミさま。そして仲間たちが低所にいる。
「アズリア」
「違うぞ……」
俺の呼びかけと、ほぼ同時にアズリアが言う。
「そいつらは、帝国の兵士じゃないっ!!」
え、と帝国兵たちの動きが止まる。
「用意」
黒ずくめの連中の中で、ただ一人紅い服を着た黒いマフラーの女が静かに言う。
周囲にいた黒ずくめの人間が一糸乱れずに構えた。
「いけ」
「シャアアアアアアアアア」
女の合図を皮切りに、黒ずくめ達が一斉に吼え、疾った。
事態を読み込めていない帝国兵に黒ずくめ達が襲い掛かる。
アズリアが叫んだ瞬間から俺は全力で走っていたが、到底間に合うタイミングではない。
この状況で帝国兵が襲われればパニックは必至。
すでに気力体力の尽きた兵達を葬るのは、容易だろう。
……全員が助かるのは無理だな。
思考は当然の結果に帰結する。
考えうる最善は、何人かの帝国兵を犠牲にし、できるだけこちらの態勢を整え、戦える者だけで対処する。
奴らを指揮するものを倒せば、おそらくは退いてくれると思うんだが……。
俺は拳を握り締め、弱気に陥りつつある思考に叱咤する。
可能な限り最善を尽くす努力をする。
まずい状況のときこそ、一秒でも早く動かなければ、振り返ったときに後悔が雪だるま式になって積み重なる。
乱れ遺された石を飛び越えながら、俺は周囲を見渡す。
紅い女は後方に位置したまま戦況を見守るつもりのようだった。
とすると、ある程度の数の黒ずくめを倒しながら突破してたどり着かなくてはならない。
死闘を繰り広げた帝国兵がそれをできるはずもなく、さりとてこちら側もそこまでの気力があるとは思えない。
それでも可能性を求めるならば、帝国兵との共闘のみ。
アズリアが、帝国兵達が、文字通り決死の覚悟で立ち上がれば、望みは繋げられる。
……アズリア、お前が立ち上がるには何人必要なんだ?
数秒後には死んでいくであろう帝国兵の数まで、試算する気にはなれなかった。
「シャアアアアアアアア」
「な……?」
手近にいた帝国兵に向かい疾走する黒ずくめ。
その手に握り締められた短剣は、間もなく帝国兵の身体に突き立てられるだろう。
帝国兵は、まさか自分が狙われるとは思っていなかったようだ。
困惑と驚愕の表情を混合させ、迫り来る死の刃に備えることはできなかった。
「避けろ!!!」
アズリアの叫びは、露と消える。件の帝国兵に動きはない。
しかし、それに応えるように、少女の声が響いた。
「ホーンテッド船長」
轟。
突如、虚空より巨大な船が召喚される。
船には海賊旗がかかげられており、その船体を引きずって高速で進行する。
土やら木やら石やらを轟音とともに蹴散らしながら爆走する船。進行方向には黒ずくめ達。
避けることも身構えることすらできず、問答無用に迫る船になす術もないまま轢かれた。
轢いた船は、役目は終わったと言わんばかりに余韻も糞もなく虚空へと消える。
残されたのは豪快に抉られた大地と、倒れ伏す多数の黒ずくめ。
……えーっと?
あまりの出来事に、素で走っていた足が止まってしまう。
目の前で起こったことを理解しようと脳がフル回転している間にも、少女――アリーゼの召喚術は続く。第二の船が出現し、再度黒ずくめ達を蹂躙していった。
叫び声ひとつ上げることすらできず、半数以上の黒ずくめたちが地に伏す。
残った黒ずくめたちの脳裏には?マークが乱舞していることだろう。
俺だってそうだ。意味がわからん。
「ホーンテッド船長」
ダメ押しの三発目。
「……!!!」
本能のみの行動だろう。船の走行線上にいた黒ずくめ達は必死の形相で逃れようとしたが、船は無慈悲に通過する。さりげなくビジュも轢かれていた。
そして、激走した船が送還された場所には見覚えのありすぎる男達がいた。
「ギャーッハッハッハ!! 見たか!! これがワシらの力よ!!!」
『へい、船長!!!!』
得意になって腕を組む髭のおっさん。
どう見てもジャキーニのおっさんだった。
「あんさん、わいらはまだサポートしただけでっせ」
「ふん。ワシらが協力したからこそ、あれが喚べたのだろう。だったらそれはワシらの力と同じじゃ。
だいたい……」
おっさんが剣を抜き、構える。
「すぐにワシら自身の力も見せ付けてやるんじゃから、変わらんじゃろ」
「あ、あんさん……!」
「全員突撃じゃあああああああああ!!! ギャーッハッハッハッハッハッハ!!!!」
『船長おおおおおおおおおおおお!!!』
一丸となって動き出す海賊たち。
黒ずくめたちが慌てて応戦するが、多勢に無勢。
一人の攻撃をかわしている間に、もう一人からあっさりぶん殴られ、別の者から蹴られ、やがては数人でボコボコにされる。
一人、また一人と倒れ、あっという間に立っている者は海賊のみになった。
「どうじゃ、これがワシらの力よ!!!!!」
『へい、船長!!!!!!!!』
「あんさん……! 輝いてまっせ……!!」
好き放題やらかして、テンションMAXの海賊達。
周辺にはボロカスにのされ、ズタボロになった黒ずくめのみなさん。
激しすぎる状況変化に、俺の脳がようやく追いついてきた。
……動きを見た感じ、あの黒ずくめ達って結構な手練だと思ったんすけど……なんとなく、気の毒だ。
どうでもいいことを考えながらジャキーニのおっさんのところへ走る。
「おう、見たか! ワシらの活躍を!!」
「見たっつーかなんつーか。とりあえず物凄い光景だったわ」
「嬢ちゃんもどうじゃ!?」
アリーゼがこちらに向かって歩いて来ていた。
その後方からカイル達も追いついてくる。
「大活躍でしたね。
全部ジャキーニさんたちのおかげです」
「そうじゃろ、そうじゃろ!!」
笑い合うアリーゼとおっさん。
なぜだかその顔を見て、俺はアリーゼが別次元の大人の階段を上ってしまっているように思えた。
アリーゼさん、人を使うの上手くなっちゃったなぁ……。
教え子の成長を喜ぶより先に、随分タフな娘になってしまったことにホロリと涙が流れそうになってしまいました。
(なによ……あれは…………!!)
ヘイゼルは動揺を抑えきれず、無意識に後ずさりをする。
墓標のように立っていた石柱は消え、荒野と化した大地で自分の部下達が横たわっている。
油断をするつもりはなかったが、大した任務ではないと片隅に考えていた。
死力を尽くし戦う力もロクに残っていない帝国兵を掃除する。
数分もあれば大地に紅蓮の華が咲いているはずだった。
ヘイゼルは拳を握り締め歯軋りをする。
(どうする……まだ後方に兵は残っている……召喚師達と連携すれば…………)
しかし、召喚師達は自分の兵ではない。
果たして自分達の失態の尻拭いをするための協力をするだろうか。
「な、なんということ……」
隣にいる白衣の女――ツェリーヌがよろめく。
今は驚愕に心が占められているだけだが、いつ自分達の無能さを呪うものに変わるかわからない。
(やはり、私達だけでどうにかするべきね……)
ここで手を借りれば、自らの立場を危うくするだけ。
雇われの身である自分達は自らの価値を行動のみで示さなければならない。
役に立たぬものは切り捨てられるだけだ。
決死の覚悟を決め、殺気を放つヘイゼルに壮年の侍が言う。
「これ以上犠牲を出すつもりか」
「ウィゼルさま……」
「奇襲をかけるつもりが、逆をやられた。
すでに奴らの心に乱れはない。闇雲に行ったところで返り討ちに遭うのが関の山だ」
「ですが!」
「お前達は使い捨ての駒だ。だが奴とて、使い捨てる前に犬死させるのはよしとせんだろう」
ウィゼルが静かに前に出る。
荒野に倒れ伏す部下を目線で示し、
「残る者のみ回収して下がれ。
……ツェリーヌ」
「は!? ……な、なんです!?」
「駒を増やせ」
言い捨ててウィゼルは音もなく歩き続ける。
視線の先には、雇われの暗殺者達を苦もなく片付けた召喚師の姿があった。
侍の風貌をした壮年の男とマフラー女、加えて白衣の女がこちらに向かってくる。
「……刻まれし痛苦と共に汝の名すべき誓約の意味を悟るべし。
霊界の下僕よ……愚者共を傀儡しその忠誠を盟主へと示しなさい!!」」
白衣の女の詠唱から召喚術が発動する。
「これは……!?」
誰の声か、ひょっとしたら俺自身の声か。
眼前に転がっていた黒ずくめ達がゆらり、ゆらりとその半数ほどが無造作に立ち上がる。
その動きはひどく不安定で、いつ倒れてしまってもおかしくないように思えた。
「回復した……だと……あの一瞬で……!?」
「いや、それにしちゃ様子がおかしい。ありゃどっちかというと呪術に近いものだろう」
キュウマが漏らした言葉に、ヤッファが忌々しそうに顔をゆがめる。
「悪魔を死者の身体に巣くわせて、その肉体を操るって術はあるんだがな……おそらくそれを強引に生者に対して執行するよう術式を変えていやがる」
立ち上がった黒ずくめ達の目は幽鬼のように色がない。その目が何を見ているかまるでわからない。
「通常は悪魔を召喚した代償にその死体を喰われて送還される。
だが奴らは肉体よりも魂をより好む。
これの場合では魂か、その双方を代償とするだろうな……」
「そんな……あの人たちって自分の仲間じゃないの!?」
ソノラが怯えと困惑をあらわにする。
「違うわよ」
スカーレルが一歩踏み出す。その目は覚悟を持って外道の召喚術により動く黒ずくめ達を捉える。
「仲間、なんかじゃないわ。あれは単なる駒のひとつ。動かなくなるまで使って、終われば野ざらしにされるだけ。
こいつらにとっては当たり前のことよ」
「スカーレル……?」
冷徹な言葉に、ソノラの動揺が膨れ上がる。
「標的を殺すためなら手段を選ばない。命さえ武器にする。
それが、紅き手袋の暗殺者よ」
「お前、なんでそんなこと知ってんだよ……?」
「……ふふ」
ソノラとカイルの視線を受けてスカーレルは苦笑する。
スカーレルのとなりにいるヤードは沈痛な面持ちで俯いていた。
「アアアアあああァァアあぁぁぁあああああ」
地の底から響いてくるような唸り声をあげ、黒ずくめたちが襲いかかってくる。
「このッ!!!」
爪を装備していた黒ずくめの一撃を慌てて迎撃し、後退して間合いを取る。
……まずいな、思った以上に敵の動きが速い。
今のコンディションじゃ苦戦程度で済むかわからんぞ。
「シャインセイバー!!」
輝剣で黒ずくめを怯ませ、動きが止まった隙を見逃さず即座に接近し斬り伏せる。
目の前の敵を倒したことを確認し周囲を伺うと、あちこちで剣戟音が響いていた。
アリーゼとアズリアが共に戦っているのが目に入る。
「アズリアさん、兵を下げてください」
「あ、ああ……全軍撤退! 動ける者は負傷者に手を貸せ!!」
アズリアの指示に呆然としていた帝国兵が動き出す。
前方の三人は、まだこちらに仕掛ける素振りはない。
黒ずくめの連中は今のところ、どうにか抑えられている。帝国兵は気力のみで動いておりその移動は見る影もないが、撤退は問題なく終わりそうだ。
「ジャキーニさんたちも」
「む、むぅ……」
アリーゼに言われ、ジャキーニも納得こそしないが、海賊たちを引き連れて下がり始める。
さきほどは不意打ちと数の暴力で黒ずくめたちを圧倒したが、もともと地力が違いすぎる。この状況では、足手まといになりかねない。
「そらよっ!!!」
カイルの拳が黒ずくめの顔面を打ち抜く。もんどり打って動かなくなる黒ずくめ。
カイルが次の標的を探し突進していく。その顔には疲労の色が濃い。
他の仲間も似たような状態だ。
くそ、劣勢になる前に術者である女をどうにかしたいところだが……。
「………」
なんすかあの侍ジジイは……。ただ突っ立ってるだけなのにプレッシャーが半端ねぇんですけど。
結構な距離があるっつーのに、一足一刀の間合いにいるように思えるぞ……。
「おい、レックス。なんだよあれは……この威圧感……普通じゃねぇぞ……」
「……同感だ」
ヤッファの言葉に、俺は背中に嫌な汗をかきながら答えることしかできなかった。
(どういう、ことだ……)
西日を一身に受け、オルドレイク・セルボルトは目の前の光景に疑問符しか浮かばない。
あたり一面には帝国兵の屍と恐怖に怯える島の召喚獣ども。そして、新たなる世界を創造する無色の派閥の当主たる自分を出迎える同士達。
そうして高らかに宣言するのだ、始祖の残した遺産である門と剣を継ぐためこの地へと来たことを。
「……それが、どうしたというのだ、この有様は……」
オルドレイクの自問に、周囲に控える精鋭たる召喚師たちは答えることができない。この状況に至る経緯を想像することができなかった。
あたり一面に倒れているのは紅き手袋の暗殺者たちのみであり、それを首領であるヘイゼルや他の暗殺者が回収している。
場にいる帝国兵はわずかに二名。それもビジュの報告から、部隊を率いる隊長と副隊長に合致する。残る者は島の召喚獣たち。
立っている暗殺者たちの動きを見るに、ツェリーヌの禁呪により使役していることにオルドレイクは気づく。
当主たる自分を迎える舞台が整っている様子は、まるでない。
(…………む?)
視線を感じる。
島の召喚獣たちの中に一人、オルドレイクを真っ直ぐに見る者がいた。
明らかに子供である娘に、オルドレイクは怪訝な表情になるが、
(……なるほど、あの者か)
すぐに思い至り深い笑みを浮かべる。
のどの奥底でくつくつと嗤い、オルドレイクはゆっくりと歩を進めた。
……うん?
気づくと、戦闘の気配が消えていた。
黒ずくめたちは周囲に陣取り、夕陽の向こう側、自分達がやってきた方角を見て直立している。
「馬鹿な……直々に現れるなんて……」
ほどなく、召喚師たちを引き連れた男がこちらに向かってくるのを見て、ヤードは顔色を失った。
「なるほど、あいつがそうなのね」
ヤードの様子を見てスカーレルが平坦な声で呟く。
「控えなさい! 下等なるケダモノどもよ!
この御方こそ、お前達召喚獣の主、この島を継ぐために起こしになられた無色の派閥の大幹部、セルボルト家のオルドレイク様です!!」
白衣の女が男を讃え俺達に一喝する。
「無色の……派閥……」
呆然と呟くアルディラ。
「どうして……なぜ、今頃になってこの島に……」
ファリエルが絶望と困惑をない交ぜにする。
男はそれを特に気に留めず、醜悪に歪んだ笑みを浮かべ尊大に言い放つ。
「我は、オルドレイク。無色の派閥の大幹部にしてセルボルト家の当主なり……。
始祖の残した遺産、門と剣を受け取りにこの地へとまかりこした」
無色の派閥。
召喚師を頂点とする世界を作るため、暗躍する破壊者たち。
かつて……この島を作り上げた召喚師たち。
……予想通りだが、まさか派閥の頭が来るとはな。
連中が本気っていうのはぞっとしねぇぜ。
数は大したものではないが、その分精鋭が揃っていると思って間違いない。
「ウィゼルよ、貴様がいながらこの失態はなんだ」
オルドレイクが侍ジジイに問うと、ジジイはにべもなく返す。
「お前にそのようなことを言われる筋はない」
「ウィゼル! 当主に向かって不遜な……!!」
白衣の女がジジイに食ってかかるが、オルドレイクがそれを手で制する。
「貴方……?」
「くくく。よもや貴様ですら手を焼くとはな。それでこそ、このような辺境まで来た甲斐があるというもの」
「……気を抜かぬことだな」
「忠告痛み入る。くくくくく」
オルドレイクが俺達に向き直る。
「さて、まずは剣のほうから受け取ることとしようか」
「………」
オルドレイクの視線が真っ直ぐにアリーゼを捉えている。
アリーゼはそれを無言で受け止める。
……ウィゼルとかいうジジイも半端なかったが、このロンゲのおっさんも普通じゃねぇな。
さすがは無色の派閥の大幹部ってとこか。名ばかりの野郎じゃねぇ。
なによりもその圧倒的な魔力量。傍目で見るだけでも単なる召喚師のそれとは比較にならないと嫌でもわかる。
「お前が、そうだな……」
オルドレイクがアリーゼに向かって一歩踏み出した。
アリーゼは向かうことも下がることもせず、視線を外すこともなくその場に留まり続けている。
いくらアリーゼさんと言えども、こんな奴相手に剣なしでやり合うのは自殺行為だ。
俺は二人の間に割って入ろうとして……、
「……ずっと、待っていました」
呟いたアリーゼの手が虚空に手を伸ばす。
……って、まさか…………!?
「このときを」
アリーゼは虚空から出現したシャルトスを掴み、オルドレイクに肉薄してその身を彼方に吹き飛ばした。
「貴方!?」
愛する妻、ツェリーヌの悲痛な叫びによりオルドレイクは意識を取り戻した。
(……くくくく……これほどとは、な)
気を失ったのは一瞬だったのだろう。
その身は宙を舞っている最中であり、全身に渡る痛みにより瞬時に意識が覚醒する。
(あのような小娘ですら、この力とは…………計り知れぬな、始祖の遺した剣の力は!)
オルドレイクは身を翻し着地する。
ツェリーヌは安堵の息を漏らし、ウィゼルは片目を瞑ったまま鼻を鳴らす。
「………」
蒼白とも言えるまでに変化した抜剣者は、無言のままオルドレイクに向き直り即座に向かって来た。
「く……くくくく」
「………」
抜剣者の一撃を剣により防ぐ。
ただの一撃を受けるだけで、これほどまでに押された経験など、オルドレイクの記憶にはない。
(ウィゼルのような技巧はないが、すべてを圧倒する力……これこそ我が求める物よ!)
連撃を見舞われる中、オルドレイクはそのすべてを受け流す。
「……!!!」
無表情だった抜剣者に焦りが生まれる。
より力を込めようと大振りになった瞬間に、オルドレイクがカウンターを叩き込む。
「!?」
抜剣者はシャルトスにより受け止めたものの、威力に押され後ろに下がる。
「どうした? それで、終わりか?」
安い挑発に抜剣者は憎悪を滲ませ、絶叫を上げた。
「ああああああアアアアアアアアあああああああァァァアぁぁぁぁァァァああああああああああああああ!!!!」
アリーゼの全身を乗せた一撃にオルドレイクが再度吹き飛ばされるが、その顔には余裕の笑みが浮かんでいる。
……なんなんだあのおっさんは。
傍目に見てもアリーゼが押してるのに、どうしてあんなに、愉しむように戦ってやがるんだ。
表情だけ見ると、必死の形相をしているアリーゼの方がよっぽどピンチに見えるぞ。
見た目や肩書きに似合わず、意外と戦闘狂なのか? とてもそうは思えねぇけどよ。
なんにしろ、できることならこのまま押し切って倒しておくにこしたことはない。
頭目がやられれば向こうも引かざるを得まい。
俺はアリーゼに加勢しようとするが、
「………」
ウィゼルが進行方向に姿を現し、俺は反射的に足を止める。
右ではマフラー女がカイルに仕掛け、左ではミスミさまと白衣の女が睨み合いをしている。
他のみんなは黒ずくめや召喚師に行く手を邪魔されていた。
アリーゼは召喚術も駆使し容赦なくオルドレイクを攻撃している。
このまま行けば一人で決着をつけられそうだ。
「爺さん、こんなところで俺と睨めっこしてていいのか?
あんたんとこの大幹部さまがやられちまうぜ?」
「ならば、お前が焦る必要はあるまい」
平然と正論を言い放たれる。
……くそ、ダメだ。何故ダメなのかはわからんが、このままは不味い。直感を超えて確信的に不味いことがわかる。
無色の連中は誰一人としてオルドレイクの加勢に行く素振りを見せていない。
俺達を奴に近づかせないように、その露払いをしているだけだ。
つまり無色の連中にとっては、オルドレイクに対して助けは必要ないってことになる。
「いいから……どけよ!!!」
剣を構え、踏み込み、ウィゼルに全力の一撃を叩きこむ。
「………」
軽々と受け止められ、返す刀で右手首を狙われる。
剣が通過する寸前にどうにか腕を引っ込め、俺は全力でバックステップを踏む。
……怖っ!! 一合だけでやられるところだったぞ!?
背中に嫌な汗がどっと流れる。
技量がまるで違う。正面から行って倒せるような相手じゃねぇぞこいつ。
どうする。どうすりゃいい。
俺の召喚術じゃ、こんな化け物相手には目くらましくらいにしかならねぇし。
「剣の力、存分に理解した」
オルドレイクの声が俺の思考を中断させる。
その全身は傷だらけで、まともに立ってるのが奇跡に見える。
対するアリーゼは、肩で息をして額に汗をにじませているが負傷している様子はない。
「いかな小娘といえども、生身で立ち向かうには少々骨が折れるようだ」
「……はぁはぁ…………」
「くくくく」
嗤うオルドレイクに、アリーゼは剣を握り直し召喚術を発動させる。
「ブラックラック!!」
「ぬぅ……!?」
ブラックラックによる一撃、召喚術封じを内包する「黄泉の瞬き」をまともに受ける。
これで奴は召喚術を使えなくなるはず……。
――――――――――――――――――――――――ドクン。
突如、世界が鳴動する音がした。
同時に視界が白光で包まれる。眩しさに眼前の敵の存在を忘れ、反射的に目を閉じてしまう。
「くくくくくははははははははははははははは」
白光は一瞬でおさまり、男の哄笑を合図に目を開ける。
男は白く染まっていた。
その手に持つのは剣。
アリーゼとの攻防で使用していた剣とは異なる。
……まさか、あれは。
心臓が激しく動き始める。
剣を持つ手に必要以上の力が入る。加減が出来ない。
「紅の暴君(キルスレス)!?」
ヤードが驚愕の声を上げる。
「馬鹿な……どうして…………」
絶望を滲ませ嘆くヤード。
「おい、ヤード!! なんだよあの剣は!!! あれじゃまるで……」
「アリーゼの剣……シャルトスと同質のものってことかしら……」
「う、嘘でしょ!? 嘘だよね、ヤード!!!」
海賊達の問いにヤードはうなだれたまま答えることが出来ずにいる。
オルドレイクは圧倒的な魔力を放ちながら、アリーゼに向かい悠然と歩き出す。
「娘よ。剣の力、その身をもって味わうがいい」
「くっ……!!」
アリーゼは剣を構え再びオルドレイクに突進する。
「ふん」
「!?」
アリーゼの渾身の一撃を、オルドレイクは苦もなく平然と受けきる。
動揺し硬直するアリーゼに対し、オルドレイクの剣が無造作に振るわれる。
アリーゼはその剣を受けるが、威力を殺しきれず後方に吹き飛ばされる。
「……ッ!!」
墓標のように遺された石に背中からぶち当たる。
倒れることこそなかったものの、抜剣は解かれ、シャルトスは虚空に消える。
膝はがくがくと震え、その瞳に当初の力はない。
「ほう、今の一撃を耐えるとは。単なる剣の器というわけでもないということか」
オルドレイクは愉悦し、アリーゼに向かった。
(すばらしいな)
オルドレイクは心躍らせていた。
キルスレスを解き放ったことで負傷はすべて消え去り、身体は想像以上の動作を可能にさせる。
目で追うことすら困難だったアリーゼの動きが、手に取るようにわかった。
(この力を持ってすれば、我の望みも……む?)
アリーゼの前に赤い髪の青年が現れる。剣を構えこちらを静かに見据えている。
(こやつ……ウィゼルと相対していたはずだが…………?)
果たして、そちらに目を向けるとウィゼルの太刀が召喚獣ポワソを両断していた。
「ち……手を抜きおったな。ウィゼルよ」
ウィゼルはオルドレイクの部下というわけではない。
あくまで剣客という立場であり、互いに利用する間柄である。
それゆえ、その実力はオルドレイクすら認めるものであるが、同時に過度な働きを期待することもなかった。
(大方、召喚獣をけしかけその隙にこちらへ来たのだろうが)
並みの召喚獣であれば、ウィゼルは即殺し青年の行く手を阻んでいただろう。
少なくともウィゼルの一撃に耐え切る召喚獣を呼び出し、攻防の隙を見てこちらに移動したことになる。
無論、ウィゼルが本気になれば青年を止めることなど造作もないだろうが、もともとウィゼルは積極的に戦いをする性分ではなかった。
(さて、この者も我の力は見ておるはず……単なる愚者か、あるいは……)
青年に向かい神速の剣を振るう。
青年が反応している気配はない。間違いなく剣は青年を真っ二つに両断する軌跡であった。
「ぬ?」
しかし、それは実現することなく露と消える。
何者かによる剣の突きを受け、キルスレスの辿る軌跡はずらされていた。
「……ぐっ!?」
隙だらけの身体に一撃を受け、オルドレイクは後退を余儀なくされる。
油断していたとはいえ、抜剣していない状態で受けたら致命傷になりえたかもしれない。
「あれで無傷たぁ……おい、アズリア、どうすんだよこれ」
「ふん、詮無きことを言うな。叩き潰すのみだ」
「……漢らしいこって」
軽口を戦い合う男女。女は確か帝国軍の隊長であった。
「貴様ら……」
剣を持った自分であればたやすい相手。
しかし、帝国の犬や単なる召喚師に一瞬でも遅れを取った事実は消えない。
オルドレイクは集中し魔力を解き放つ。
「失せろ!!!」
悲鳴を上げることすらできずに、レックスとアズリアが吹き飛ばされる。
「先生!? アズリアさん!!」
アリーゼの悲鳴に、二人はボロボロになりながらも起き上がり応える。
「……大丈夫大丈夫…………心配すんなって」
「まだ、だ……」
互いに目は輝きを失っていない。
オルドレイクはそれを興味深く思った。
「手習い程度に学んだ貴様らの召喚術では、我らには遠く及ばぬ。
あがくだけに苦しむだけだと、なぜ理解しない?」
「生徒がやられるのを黙って見てられるわけねぇ……だろ!!」
レックスが疾走し、その脇にはアズリアも追従する。
「……愚者であったか」
オルドレイクは呟き、剣を構えた。
……糞が。
「やはり、こんなものであったか」
俺は地に伏しオルドレイクに見下ろされていた。
アズリアもやはり俺と同じように倒れている。
オルドレイクの召喚術を正面からまともに食らったのだ。死なないだけでも、よくやったと言えるだろう。
……あの馬鹿、男を庇って攻撃される女がいるかよ……。
オルドレイクの足がアリーゼに向く。
多少の時間を稼ぐ間に、アリーゼの体力も少しは回復している。今なら再度抜剣することも可能かもしれない。
しかし地力の差が埋まるわけではない。二人の実力差は火を見るより明らかだ。
何の対策もなく戦っては、先の二の舞にしかならない。
「待てよ……おっさん……」
だから俺は立ち上がる。
敵うことのない相手とわかっていても、素通りさせることなんてできねぇ。
「先生……」
涙を浮かべ、アリーゼがか細い声で呼びかけてくる。
聡いだけに俺とオルドレイクじゃ勝負にならないことくらいわかっているんだろう。
それだけじゃなく、その後に控えるアリーゼ自身とオルドレイクとの勝負も。
「おとなしく、地べたにはいつくばっていればよいものを」
冗談じゃねぇ。
……だが、実際打つ手がないのは確かだ。
こんな凶悪な野郎、仲間が全員束になってもどうにかできるかわからん。
まともにやりあって勝負になるはずがない。
どんな姑息な手でもいい。奴を倒すのは、この際あきらめる。
どうにか退かせることさえできれば……けど、どうすりゃいいってんだ。
オルドレイクが眼前にせまってくる。
その手に持つ剣は死神の鎌となんら変わりない。
「……あれば」
「ぬ?」
「私に……もっと…………力が……あれば…………」
――――――抜剣。
「あなたを、倒す、力が……力が…………力がちからがチカラガアアアァアアアァァァあぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああァァァァアアアアアあああああああああ」
アリーゼから暴走する魔力がほとばしる。
かつてないほどの力が渦巻くのを感じた。
……なんつう魔力……これが、剣の力なのか。
悪魔のように顔を歪ませるアリーゼ。
呆然と、俺は立ち尽くすことしかできない。
「……すばらしい。解き放たれた魔力が心地よく吹きつけてきおるわ」
オルドレイクは臆することなく、笑みを浮かべる。
「その力、われにもっと見せてみよ!!」
平然と接近するオルドレイク。
アリーゼは一直線にオルドレイクに向かう。
「あああああああああああ!!!」
「ぐはっ……!!」
アリーゼの一撃に、オルドレイクは後方に吹き飛ばされ、片膝をつく。
「……ふ、ふふはははははははははは!!!」
不敵に笑って立ち上がり、なおも近づいてきた。
「ウバワセナイ………………ナニモ……」
「やってみせよ……」
暴走するアリーゼに相対するオルドレイクを、壮年の侍が制する。
「ウィゼル?」
「退け、オルドレイク。これ以上の挑発は剣そのものを破壊しかねんぞ」
「む……」
逡巡し、オルドレイクが剣を下げる。
「いいだろう。楽しみは後日までとっておくとしよう」
悠然と立ち去っていくオルドレイク。無色の派閥に連なる者達がその後を追う。
「マ……テ…………」
あっさりと背を向けたオルドレイクを、アリーゼが追撃しようとして、
「ダメです!」
「……ふぁ……………り……える………………」
「これ以上は……ダメです……お願いアリーゼ……」
ファリエルは霊体のまま、アリーゼの行く手を遮る。
霊体であるファリエルであれば、アリーゼがその気になればいくらでも突破できてしまう。
……もしものときは俺も身体張ってでも止めねぇとな。
激しく気の進まない覚悟をしたところで、アリーゼは抜剣を解いた。
「賢明な判断だ」
最後まで残っていたウィゼルが背を向ける。
「ふははははははははは…………あっはははははははははははははははははははは!!!」
黄昏の中、いつまでも抜剣者の哄笑が響いていた。
夜、甲板にて。
アリーゼは夜空を見上げていた。
となりにはキユピーがいる。
声をかけようとしたが、アリーゼの背中を見て一瞬言葉が出てこなくなった。
小さい。細い。
この島に来てすぐの、いつかの夜を思い出してしまう。
とてもじゃないが、無色の派閥の大幹部を相手に立ち回っていた者と同一人物には見えない。
「キュピピ」
キユピーが俺に気づいて、浮遊したまま向かってくる。
アリーゼは振り返らなかった。
俺はキユピーを肩に乗せて、アリーゼの隣に並ぶ。
「星、見てたのか?」
「はい」
「綺麗だけど、今日は冷えるぞ」
上着を脱ぎ、アリーゼの肩にかける。
「……ありがとうございます」
アリーゼが小さな声で礼を言い俯く。
「あの剣……」
「………」
「オルドレイクが持っていたなんてな。厄介なことこの上ねぇ」
「……はい」
「わかってたつもりだったんだけどな、剣が凄まじい力を持ってるのは」
間近で、アリーゼが使う剣を何度も見てきた。
しかしそれはあくまで味方として使われてきたもの。
悪意ある力として向けられて、ようやくその本当の恐ろしさを実感した。
「でもよ、あのおっさんくらいどうにかしてみせるからさ。アズリア率いる帝国軍ですらなんとかなったんだからよ。
無色のひとつやふたつ……」
「大丈夫ですよ、先生」
俺の気休めをさえぎり、アリーゼがこちらを向いて微笑む。
「私が止めます。全部終わらせます。
悲しいことも、怖いことも、全部」
「アリーゼ……」
「それが、この剣を持った私の役目だと思います」
役目だ? そんなもん関係ねぇだろ。たまたま剣に捕捉されちまっただけだろうが。
「……ッ」
反射的に口から出そうになった言葉を飲み込む。
アリーゼに必要なのはもっと違う言葉だ。
しかし俺の頭は空回りするばかりで、何も浮かんでこない。
「早く……休めよ。身体冷やして風邪ひくなよ」
結局、俺はそんなことしか言えなかった。
(あ……)
レックスはアリーゼの頭を軽く撫でて、船内に戻った。
「………」
しばらくして、アリーゼは自分の頭に手を置く。
触れた指先には、かすかだが確かな温もりがあった。
「守れた……のかな……」
自然に言葉が漏れる。
勝利とも敗北とも言えない結果。
予断を許さない現状。
それでも、島のみんなも、アズリアも、ギャレオも、帝国の兵も、
(先生も……)
皆、平穏無事とは言えないが、生きている。
最悪のシナリオだけは避けることができたはず。
しかし、アリーゼの胸にはほとんど達成感がない。
戦いは何も終わっていない。
(みんなが、ずっと笑顔でいられるように。
そうですよね。先生……)
満点の星空を見上げる。
ずっと見続けていたくなるような穏やかな光だとアリーゼは思った。