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サモンナイトSS投稿掲示板


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No.36362の一覧
[0] 【完結】サモンナイト3 ~不適格者~[ステップ](2013/12/22 13:20)
[1] 第二話 悩める漂流者[ステップ](2013/01/04 16:33)
[2] 第三話 はぐれ者たちの島[ステップ](2013/02/25 11:19)
[3] 第四話 海から来た暴れん坊[ステップ](2013/02/25 11:20)
[4] 第五話 自分の居場所[ステップ](2013/01/05 23:20)
[5] 第六話 招かざる来訪者[ステップ](2013/02/17 15:03)
[6] 幕間 薬をさがして[ステップ](2013/02/22 03:40)
[7] 第七話 すれ違う想い[ステップ](2013/02/28 20:13)
[8] 第八話 もつれあう真実[ステップ](2013/05/11 12:58)
[9] 第九話 昔日の残照[ステップ](2013/03/11 20:56)
[10] 幕間 ガラクタ山の声[ステップ](2013/03/15 21:53)
[11] 第十話 先生の休日[ステップ](2013/03/20 23:44)
[12] 第十一話 黄昏、来たりて[ステップ](2013/04/20 15:01)
[13] 第十二話 断罪の剣[ステップ](2013/05/11 13:17)
[14] 第十三話 砕けゆくもの 上[ステップ](2013/09/23 14:54)
[15] 第十三話 砕けゆくもの 下[ステップ](2013/09/23 21:39)
[16] 第十四話 ひとつの答え 上[ステップ](2013/10/01 18:24)
[17] 第十四話 ひとつの答え 中[ステップ](2013/10/05 16:46)
[18] 第十四話 ひとつの答え 下[ステップ](2013/10/13 17:38)
[19] 第十五話 楽園の果てで 上[ステップ](2013/12/22 18:04)
[20] 第十五話 楽園の果てで 中[ステップ](2013/12/22 18:04)
[21] 第十五話 楽園の果てで 下[ステップ](2013/12/22 18:04)
[22] 最終話[ステップ](2013/12/22 18:03)
[23] エピローグ[ステップ](2013/12/22 18:03)
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[36362] 第十一話 黄昏、来たりて
Name: ステップ◆0359d535 ID:613dbfd6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/04/20 15:01



 青空学校の授業、

「先生さよーならー。だから本当に見えたんだってば!」

「じゃあなー先生ー。おーし、それなら今から確かめに行こうぜ」

「マルルゥも行くですー」

 は終了して、今は林でアリーゼとの授業中。
 俺vsアリーゼ&キユピーで、相手を捕まえることを目的としたゲームをしていた。

「ほらほら、どうした?
 二人がかりでも俺を捕まえることができないのか?」

「………」

 俺の挑発をアリーゼは冷静に受け流し、キユピーに目で合図を送る。

「キュピー!」

 キユピーが答え、アリーゼと正対する俺の背後に回りこむ。

「お、挟み撃ちか」

 単純だが、2対1の常道手段だ。
 悪くない手だが……、

「てい」

 二人が間合いを詰める前に、俺はすばやく振り返りキユピーへと迫る。
 2対1の状況を作るには二人の呼吸もさることながら、敵との間合いも重要だ。
 それを俺はいち早く壊しにかかる。

 ――――って、キユピーがいない?

「出てきて」

 アリーゼの声に応えて、背後で召喚術が発動する気配。
 反射的に振り返ると……、

「キュピー」

 ……あら?

 俺の目の前に、というか身体にキユピーがすりついていた。
 胸にはキユピーの体温。若干人肌よりも低いそれは、気温高めのこの島ではいつまでも触っていたくならんでもない。

「捕まえました」

 いつの間にかアリーゼが俺の袖をつかんで、にっこり笑っている。
 キユピーが俺に接触した瞬間に勝負は決していたようなものだが、アリーゼに関してはほとんど気配を感じなかった。

「うーん、さすがに難易度が低すぎたか」

「そんなことありませんよ。きっと同じ手は二度と先生には通用しないでしょうし」

 今起こったことは、前後で俺を挟んだ際、俺が背後のキユピーを狙うと踏んで、振り返るタイミングに合わせてキユピーをアリーゼが送還。
 すぐさま、俺の背後にキユピーを召喚し直したということなのだが。

「戦いでは、だいたいその一度の手があれば十分だ。
 頭と技能が揃ったいい作戦だった。完敗だよ」

 そもそもアリーゼの行ったことは言うほど簡単ではない。
 アホのような召喚スピードと、相手の行動を読む力、それを実行する洞察力と冷静さ。
 どれもずば抜けたものでなければ実行できるもんじゃない。
 そして、なによりも……、

「アリーゼって、比較的だれとでも息が合ってるけど、キユピーとの連携はぴかいちだなぁ」

「えへへ」

「キュピー」

 照れるアリーゼと当然だと胸を張るキユピー。
 なるほど、いいコンビだった。








 帝国軍との決戦まで、まだ余裕があった。
 というわけで、船外にてオウキーニが新作料理を調理しているとカイルに聞いてやってきたわけだが。

「おぉう……」

「……うぅ」

「とれたてピチピチのタコを、鮮度を生かし調理した一品……、
 『タコ刺し』や!!」

 ドヤ顔のオウキーニと、ドン引きの俺とアリーゼ。
 目の前には生100%の状態で切り刻まれたタコ一匹。
 ビクンビクンッ、と動いています。

「あわわわわわわわわ!?」

 涙目になるアリーゼ。
 完全におびえ、俺の背後に隠れる。
 ちなみに、俺もタコとは若干距離をとっていた。

 あんなスプラッタでシュールな光景、直視できるかい。

「おおー!?」

 なぜかノリノリのカイル。
 さすが海賊である。恐ろしい胆力だった。
 
「どれどれ……」

 な……!?

「食った……だと……!?」

 驚愕する俺を無視して、カイルの顔がほころぶ。

「おっ、こりゃなかなかイケるなぁ。
 塩加減の中に微妙な甘みが……」

「タコ本来の味や」

「待て待て待てい!
 だからって生のまんまで食う必要ねーだろ!?」

「ゆでダコは固くて食べづらかったんですわ。しかし、これはいけるやろ」

 にっこにこの笑みを浮かべたオウキーニが、タコ刺しを持ったまま俺とアリーゼをロックオンする。
 俺の背後に隠れたアリーゼはタコにおびえ俺の服を掴み、決してタコを見るまいとぎゅっと目を瞑っていた。

「さ、先生らもおひとつ……」

「ば、てめぇ! そんなもん持って近づくんじゃねぇ!?」

「そんな遠慮せんでも……」

「おま、おま!! 本気で嫌がってるの気づけや!?」

「うめぇのになぁ」

 マイペースにタコをつまんで食い続けるカイル。
 やはり海の男は一味違うのだろうか。

「先生、好き嫌いはよくねぇぞ」 

「そんな次元の話じゃねぇ!
 動いてるの食うとか。つかそれ以前に見た目が怖すぎるわ!!」

「ダメでっか……?
 これでも、高級料理のひとつなんやけどなあ」

 高級料理が必ずしもすばらしいものではない、という好例だな!
 高いってのは結局、供給側の問題であることが多いし。

「ぴくぴく動く様子が新鮮な証拠で、食欲をそそると思うたんですけどなあ」

「それが一番の問題だろ!!」

 ダメだ……、オウキーニの感覚が理解できん……。

 脱力する俺にひっつくアリーゼ。
 もぐもぐとタコ刺しを食い続けるカイル。
 そして、

「負けまへんで……」 

「は?」

「こうなったら意地や!
 一料理人として、誇りと使命をかけて」

 ぎゅっと拳を握り締めるオウキーニ。

「誰もが喜んで食べる究極のタコ料理を作って見せますわ!!!」

 きっぱりと宣言するオウキーニ。料理人としての熱い魂が感じられる。
 背景に、ざっぱーんッと波がぶつかり合う大荒れの海が見えた。

「目が、燃えてる……」

 アリーゼは頬をひくひくさせて、謎の生き物を見る目で呟く。
 無駄にレアな表情だった。

「やりまっせえ~!!」

 覇道を驀進するがごとく、オウキーニのいらん情熱が爆発していた。








 ユクレス村の畑にて。
 怯えるアリーゼは宥めて船で休ませ、気分転換にユクレスまで来たわけだが。

「わはははははっ!
 どうじゃ、どうじゃ? この見事に育った野菜の数々は!?」

「……うん、うまい」

 もぐもぐと手近のトマトをもぎって食う俺。
 相変わらず、ジャキーニのおっさんの手をかけた野菜は最高だった。

「わははははっ、そうじゃろそうじゃろ!」

「もう海賊やめて農家にでもなっちゃえよ」

「う……」

 ぴたりと、硬直するおっさん。

「イヤじゃぁああぁあ!? ワシは、ワシは海に帰りたいんじゃ~~!!」

『せ、船長!?』

 いつものジャキーニの錯乱に、部下の海賊達が動揺する。

 別にそこまでイヤがらんでもねぇ。
 実にもったいねぇ。この味は帝国を、いや、世界をうならせる味だろうに……。

 いつものアホなやり取りを見て、笑いが漏れる。
 いい感じに肩の力が抜けてきた。
 そろそろ行くか、と思っていたところで声をかけられる。

「おう、受け取れ」

 ジャキーニのおっさんが持っていたナウバの実をいくつか手渡される。

「あんた、好物じゃろ。小さい嬢ちゃんにも、渡してくれ」

「ああ。ありがとな」

「圧勝してくるんじゃぞ!」

「任せろ」

 互いに、にぃっと笑う。

 さて、そろそろ準備しますかね。








 夕闇の墓標。
 はるか昔には神殿でも建てられていたのか、今は朽ち果てた荒野となっている。
 ところどころに残るひび割れた巨大な石が廃墟としての存在を示す唯一の証拠だった。
 陽が沈むには今しばらくの時が必要だった。

 高所に帝国軍が陣取っている。
 対する俺達も、それぞれの配置につく。
 その中で、俺とアリーゼが前に出る。
 それに応えるように帝国兵達の中央から、一人の女が割って前に出てきた。 

 帝国軍海戦隊第6部隊隊長、アズリア・レヴィノス。
 奴に与えられた任務は、剣の奪還。
 だが、その剣はすでに遺跡の封印に使用されていた。

「よぉ、アズリア」

「………」

「いよいよどん詰まりのところまで来ちまったな」

 斥候を放って、俺達のことを監視していたのであれば、遺跡を、島を簡単に手に入れられるような代物でないことは十分想像がつくだろう。
 おそらく、帝国の手に余るものである、ということも。

「お前も面倒な立場になっちまったもんだな」

「戯言以外に言うことはないのか」

「さてな。お前の顔を見たら、言うことなんかなくなっちまったよ」

 こいつは、すべてをわかった上で、あえてそれを兵士達に話していない。
 任務が成功しようとも、その成功が困難を伴うものであるにもかかわらず、帝国に利するものである可能性は低い。
 そんな指揮をどん底にまで叩き落すようなこと、アズリアの立場では言えないだろう。

「そうか。ならば、もうよいだろう」

 アズリアが下がろうとして、
 
「アズリアさん」

 アリーゼが言う。

「私は、勝ちます。必ず」

「……こちらの台詞だ」

 目を合わせ、火花を散らせる。
 互いの陣へと戻り、そして。

「総員、戦闘開始!」

 ギャレオの号令で、戦いの火蓋は切って落とされた。








 限られた空間で所狭しと立ち回る。
 幅が二人分しかない場所で、白兵戦をしかけるのはファリエルとカイル。
 二人にはいつもどおり、最前線で突破口を開く役を頼んだわけだが。

「ちっ」

 敵のメインの戦力である槍兵に対して苦戦を強いられている。
 その理由は単なる武器の相性差だけではない。

「……っこのぉ!!」

 ファリエルの剛剣をまともに食らい吹き飛ぶ帝国兵。
 通常であれば戦力外通告確実の一撃だがしかし、攻撃を受けた兵士はむくりと立ち上がり、すかさずファリエルに対し槍による刺突を仕掛けてくる。

「そんな!? どうして!?」

 どうにか防御し応戦するも、兵士に阻まれ進撃することができない。
 その間にも、槍兵の後ろに控える弓兵や、高所に位置する弓兵たちの矢にアルディラやヤードたち召喚師たちが晒される。

「くっ」

「エンジェルミスト!」

 アルディラが矢を受けたところで、アリーゼがキユピーによる召喚術を発動させ回復する。
 今のところこそ直撃はもらっていないのでどうにか支えられているが、それも時間の問題だ。
 帝国の弓兵はある程度バラバラに打ち込んでいるため今は凌げても、一人を集中的に狙われたらいつ倒されてもおかしくない。
 それをしない理由は、帝国側の犠牲を出させないため。
 弓隊を一直線に並べるには危険が伴う。
 万一前衛が突破されたときに矢面に立つのが一人では左右から襲われてしまい、あっという間にお陀仏だ。
 かと言って兵をギリギリまで詰めれば、

「第三陣、前へ! 第二陣、退け! 一陣は部隊の穴を埋めろ!」

 アズリアの指揮により動くことが困難になる。
 だからこその膠着状態。
 ソノラも負けじと撃ち返すが、決定打には程遠い。

 土台を召喚して直接高所にいる弓兵に襲撃をしかけることは可能だが、別ルートを構築され挟み撃ちとなるようなことは確実に防ぎたいはず。アズリアならば、槍兵や斧兵を潜ませてる可能性がないとはいえない。
 もしも土台を使って登る最中に狙われたら、高所の不利をもろに受けて一撃死すら考えられる。
 リスクを考えたら、今はまだ実行に移すべき時ではない。

 結局はアズリアがいつ兵を仕掛けてくるのか。
 その瞬間を見極め対処する後手の方策が、現状考えうる最善だった。

 ……くそっ。

 俺は後方から乗り出し、最前線へと繰り出そうとして、

「馬鹿野郎!」
 
「ぐぇっ」

 ヤッファに首根っこを掴まれ静止を余儀なくする。

「お前の出番はまだ先だろうが。今は無駄な体力使うんじゃねぇ」

「そうは言うけどよ……」

 侮っていたつもりはなかったが、正直、正面からやり合ってここまで苦戦するとも思っていなかった。
 今頃になってようやく気づく。
 奴らが、帝国側が本当に本気であるのだということに。
 奴らが、死力を尽くしてきているのだといういことに。

 アズリアの指揮も的確だ。
 一進一退の部隊は、カイルやファリエル達に攻撃を仕掛けつつ、アルディラ達の召喚術の範囲には入らないよう常に移動し続けている。
 アルディラ達が無理に距離を詰めようとすれば、逆に接近されカイル達を抜けて槍兵の餌食になりかねない。
 そしてなにより、

「往け! 帝国兵の誇りを見せろ!! 勝利を収めるのは我々だ!!」

 おおおおおおおお、と応える帝国兵一同。

 アズリアの檄で、こいつら冗談抜きに強くなってる。というか、これは……。

「応援、が帝国兵全員にかかってやがるな……」

「あの女の力か? どれだけ天井知らずのサポートなんだよ」

 俺の呟きにヤッファがあきれたように言う。

「さてね。アズリア自身、兵士をサポートしていることに無自覚っぽいのがな」

「ガス欠は期待できないってことか」

「無限に可能なわけではないだろうが、向こうの気力は充分。
 このまま言ったらジリ貧でこっちがやられる」

「なるほどな」

 ヤッファが俺の肩を叩く。

「いつまでも前を嬢ちゃん達に任せるわけにも行かねぇか」

「……頼む」

「おうよ。
 キュウマ! いっちょ派手に暴れてくるか!」

「承知」

 二人の護人が疾る。

 ……見送るだけってのは、性に合わないんだがな。

 今はヤッファの言うとおり、出るべきときではない。
 アズリアは未だ指揮のみに集中しているが、奴が動きだしたときに対処できる戦力は不可欠。

 なんてことは、わかっちゃいるんだがな。

 剣戟音が増す最前線を睨みつけ、俺は機をうかがい続ける。








(やはり、そう簡単にはいかんか)

 指揮を執りながら、アズリアは頭の片隅で判断する。
 敵は高所からの攻撃も、ものともせず応戦している。
 かろうじて均衡を保てている状態だが、奴らが犠牲を省みずに突撃を敢行してきた場合は、こちらも相応の覚悟をしなければならない。

「おおォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!!!」

「かまいたち!」

 カイルとファリエルが下がり、雄叫びにより凶暴化されたヤッファと、ミスミの召喚術による憑依効果により攻撃力が増したキュウマが槍兵に襲いかかる。
 敵からの圧力が増す。
 このままでは遠からず瓦解するのは間違いない。

「全隊、下がれ!!」

 指示を飛ばすと同時、アズリアは地を蹴る。
 ごくり、と唾を飲み込み、逸る気持ちをどうにか抑える。

(一気に押し切る!)

 アズリアは走りながら剣を抜いた。








 ヤッファとキュウマのおかげで帝国兵は後退を余儀なくされた。
 しかし、こちらの被害も無視できるものではない。

「悪いな」

「後は頼みます」

 目を見張るような突破力を見せた二人だが、集中的に反撃を受け今は戦えるような状態ではない。

「任せろ!」

「ボコボコにしてきます!」

 カイルとファリエルが応え、天然の石の階段となった狭い足場を駆け上がる。
 階段の先は開けており、総力戦にはもってこいの場所だった。
 カイルとファリエルの後を他の仲間も追いかける。
 戦況が大きく動いた。

 ……来やがった!

 アズリアが高所より舞い降りてくるのが視界に入る。
 その姿を見失わないよう、奴の動きに合わせて俺も移動を開始するが……、

「………」

「……?」

 アズリアと目が合った瞬間、奴は嗤った。
 奴は視線を動かし、最前線、カイルとファリエルを捉える。

 瞬間、猛烈に嫌な予感が背を駆け抜けた。

「カイル! ファリエル! 戻れ!!」

 反射的に叫ぶが、二人は反応できていない。

「弓兵!!!」

 アズリアの指示に、後退していた弓兵が反転し、一斉射撃を開始する。
 出鱈目に放たれた矢だが、雨のように降り注ぐ矢にカイルとファリエルが足を止める。

 間をおかず、死角より数名の帝国兵が姿を現し、

「撃て!!!」

 アズリアの短い号令に、詠唱を完了させていた召喚師達が応える。

『シャインセイバー』

 打ち砕け光将の剣。

 帝国兵にとって馴染み深すぎる召喚術を唱和し、輝剣は雨となってカイルとファリエルに降り注ぐ。
 目を見開くカイル。硬直するファリエル。
 二人を倒すには十二分すぎる召喚術が襲い掛かる。

 やられる。

 誰もがそう思いながらも、僅かの間ではどうしようもなく。
 そして――――




 キユピーがファリエルに体当たりを敢行し共に範囲外へと逃れ、

「ビットガンマー」





 アリーゼが召喚術を発動させる。
 同時、帝国兵の召喚術がカイルを貫いた。

「おおおおおおおおおおおお!! ……お?」

 視界を埋め尽くすような幾本もの輝剣がカイルを貫いたが、それだけだった。
 ――ガンマバリア。
 ビットガンマーによる召喚術のひとつで、その効果は一度だけ召喚ダメージ又は遠距離攻撃を無効化する。

 ……アズリアの完璧な部隊練度が仇になったのか。

 通常、一度のみの召喚術無効化だが、正確すぎる一斉射撃によりそのすべてを無効化されたのだろう。

 なぜ自分達の召喚術が通じなかったのか混乱する帝国兵。
 対するこちらも、事態がわからず一瞬の空白が生まれるが、

「っせい! やぁ!!」

 アリーゼが召喚師に剣による接近戦を仕掛け、次々と倒していく。

「……なんだかよくわからねぇが、今がチャンスか!!」

 カイルが追い、ファリエルたちも次々と帝国兵に戦いを仕掛けた。
 その脇を俺は抜ける。
 後ろを確認すると浮き足立っていた帝国兵も、ギャレオの号令の下、即座に立ち直り応戦を開始した。








「アズリア……」

「………」

 俺とアズリアが対峙する。
 アズリアが剣を構え、

 ギィィィィン。

「……何のつもりだ」

「ふ。前回の続きといこうではないか」

 ミスミさまがアズリアの横から攻撃を加え、不敵な笑みを浮かべる。
 一度間合いを取り、再び槍を突く。

「なに!?」

 しかし、ミスミさまの槍は虚空を突くのみ。
 アズリアは紙一重で槍をかわし、距離を詰め反撃を試みる。

「くっ……風刃!!」

 詰められた距離に動揺しながらも、ミスミさまは周囲に風の刃を発生させ、アズリアを切り刻む。

「温い」

 気合一閃。
 アズリアは風の檻を抜けて剣を構え、ミスミさまの胸を貫かんと迫る。

 させるかっ!

 俺はミスミさまの前に割って入り、その剣を正面から左へと弾く。

「……やはり、私の相手は貴様だな」

 アズリアが獰猛に笑う。
 俺が受けることを予想していたのだろう。
 つばぜり合いに移行し、力押しをして互いに後ろへと飛ぶ。

「先生……」

「ミスミさま、離れていてください」

「しかし!」

 専守防衛ではいざ知らず、ミスミさまが倒すつもりでの攻撃を仕掛ければ、アズリア相手では分が悪い。
 今のようにカウンターを取られるか、下手をすれば先を制されやられかねない。
 風刃による援護は、アズリアの速さを考えると厳しい。
 俺もアズリアも接近戦を得手とするので、下手をすれば巻き込まれかねない。
 ミスミさまならそのくらいのこと重々承知だろうが、やられっぱなしでは腹の虫が収まらないのだろう。
 だが、今はそんなわがままを聞いてられる余裕はない。

「終わったら、一杯やりましょう」

「……むぅ。約束じゃぞ」

 不満を残しつつも引き下がるミスミさま。

 言いくるめた俺が言うのもなんだが、ミスミさま、あっさり乗りすぎです。どんだけ酒好きなんですか。

「……私を目の前にして、余裕だな」

 アズリアの殺気が妙にギラついて感じる。

 正直に言うと、あんまり正面からはやりたくないが仕方ない。
 剣を構え、精一杯不敵に笑ってやる。

「こいよアズリア。叩き潰してやる」

「ほざけ!」

 アズリアの爆発に似た踏み込みにより、互いの距離が零になる。
 突きを防ぎ、頭上からの一撃を防がれる。
 剣と剣がぶつかり合い、幾度も火花が散る。

「あの召喚術をやり過ごされるとはな。さすがに舌を巻いたぞ!」

 帝国の召喚師達によるシャインセイバーを言っているのだろう。

 俺だってびっくりしたわ。

「だったらもっと動揺しやがれ! 即座に立て直しやがって!」

「絶対、という言葉はない。万が一防がれることも念頭には置いていた。
 しかし、まさか無傷とはな。さすがに兵の動きの乱れは止められなかった」

「その隙に完全に乱戦になった。高所というアドバンテージは存在しないぞ。いい加減あきらめやがれ」

「互角になっただけだ。貴様を倒し、私が戦況は覆してみせる!」

 アズリアが退き、わずかに間合いを取る。
 刹那、チリチリとアズリアの周囲が燃え上がる錯覚を引き起こす。
 俺はぐっと下腹に力を込め、負けじと気を高める。

 ――――来やがれ。

「奥義、紫電絶華!!!」

 アズリアの姿が消える。冗談のようなスピードで俺に迫る。
 凶悪なまでの連続突きが襲い掛かってくる。
 俺の技量でこの技をすべてかわすのは不可能。
 最小の動きで、高速の突きを払い、かわす。

「ちぃッ!」

 腕に、脇に、足に、アズリアの剣がかすり続ける。
 どこまで集中して急所を避けるか。
 この技への対処は、ただそれだけ。
 アズリアの体力の限界を超えた嵐のような連続突きが終わるのを待つだけだ。
 そして、技が終わる一瞬の隙をついてカウンターを叩き込む。
 無論言うほど簡単ではない。
 紫電絶華は一撃がすべて必殺。わずかなミスが命取りになる。
 数秒とも数刻とも言える体感時間が過ぎ、

 ……そろそろか。

 アズリアの瞳を冷静に見据え、紫電絶華の終わりを悟る。
 この程度の負傷であれば、返す剣でアズリアに致命傷を負わせられ……

「はぁぁあああああああああ!!!」

 わずかに、突きの力が弱まったのを打ち消すかのように、アズリアは雄たけびを上げる。

 ……この野郎! 連続だと!?

 すでに限界であったはずの連続突きに、さらなる力が付与される。
 正確無比であった突きが荒々しいものに変わり、俺の防御を打ち砕かんと襲い掛かる。

 ――貴様を必ず倒す。

 アズリアの声なき声が聞こえた。
 突きを払う腕に僅かに痺れが生じてくる。

 ……受身じゃやられる!

「おらぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 即座に突く剣の軌跡を予測して、半ばあてずっぽうに全力を込め払う。
 果たして、アズリアの剣はその手から離れた。
 剣は空を舞う。
 長いような短いような時間が過ぎ、やがて地に突き刺さった。

「………」

「………」

 互いに見合う。
 アズリアは驚愕し、何が起こったのか理解できていなかったようだ。
 それでも徐々に現状を把握し、自分の剣を見て、すべてを悟り笑みを浮かべた。

「完敗だ」

「……アズリア」

「紫電絶華を破られたのだ。さすが、としか言えん」

「こっちだってギリギリだった」

「貴様はいつだってそう言って勝利していた」

 マジだってのに。

「だが、悔いはない。
 我らは……私は、最後まで軍人として戦えたのだから」

 カイル達の方を確認すると、おおよそ決着がついていた。
 アズリアは大きく息を吸い、吐く。

「レックス。勝者の役目を、全うしてくれ」

 アズリアが俺の剣を見つめる。
 俺はそれに応えて、剣を上段に構えた。







 レックスが剣を構えた。

(……終わるのか)

 アズリアは己を断ち切る剣を見つめる。

 今までの自分は立ち止まることなく走り続けてきてきた。
 前だけを見つめ、家を継ぐことだけを考え、誰のためでもなく自分のためにすべてをかけてきた。

 周囲に反対するものは数多くいた。
 他人だけでなく、親戚すらも、女だから、というただそれだけで、自分を評価してきた。
 それらをすべて跳ね除ける、力が、強さが欲しかった。

(……貴様の剣で終わるのならば……悪くない)

 そして、レックスに出会った。
 ライバルと言ってもいい相手は初めてだった。
 姑息な手をつかったと思ったら、真っ向勝負で叩き潰されたこともあった。
 強かった。
 そのくせ、戦いが終わると、馬鹿みたいに無防備な表情で話しかけてきたりした。
 理解できなかった。
 無神経だと思った。
 でも。

(嫌では、なかった……)

 レックスの剣が動く。
 アズリアは瞳を閉じた。








「聖母プラーマ」

 剣を下げた俺の周囲に召喚術が展開される。
 刺傷だらけの身体を癒していく。
 目を開け、馬鹿みたいにぽけーっと俺を見るアズリアの傷も癒していく。
 そして、役目を負えた召喚獣は送還された。

「……なんのつもりだ」

 ぎりっ、と歯を食いしばり俺をにらみつけるアズリア。

 相変わらず、おっかねぇ女だ。

「俺は俺の傷を癒しただけだ。
 たまたまお前がその範囲にいただけだよ」

「ふざけるな。私に生き恥を晒せと言うのか!」

「お前が勝手にそう思ってるだけだろ。とにかく俺は知らん」

 言い切って、俺はそっぽを向く。
 自分でも言ってて苦しすぎる言い訳だ。

「レックス……頼む」

「……?」

 一瞬、だれだ? と思ってしまった。
 俺にとってのアズリアはまさしく軍人の鏡だった。
 弱気な態度は見たことがなかった。
 それをすべて打ち消す程に、アズリアの発した声は弱々しかった。

「兵の疲労は限界まで来ているのだ。
 慣れぬ孤島の暮らしと、任務と、戦いの重圧。
 だからこそ、最後の望みをかけて死力を尽くしたのだ。
 それが潰えたのならば、せめて軍人らしく戦いに死なせてくれ……」

 アズリアが懇願している姿を見るのは初めてだった。

 ……ったく、馬鹿野郎が。

「断る」

「レックス!」

「生き恥すら晒せずに消えちまった野郎がいるんだよ」

 胸にある、機械兵士のかけらを握り締める。

「そいつを殺したのは、俺だ」

「……レックス」

「だから、俺はお前を殺さない。
 死にたいなら、一人で勝手に死ね」

 言って俺は剣を納める。
 アズリアの視線から逃れるように、俺は横を向く。

「でも、まぁ。どうせなら生きてる方がいいだろ、って思うんだが」

「……私は……」

「迷うくらいなら生きておけ。死ぬのはいつでも出来るんだからよ。
 それに、島を出るくらいは協力してやるから」

「………」

「だから、生きろよ。アズリア」

 それきり、互いに何も発さない。
 吹く風とそよぐ草木の音だけが響く。

 ふと、あさっての方向を見つめるアリーゼに気づく。
 事態の推移を見守ることもなく、警戒しているような雰囲気だった。
 
 警戒?
 一体何に対して……?

 脳裏に浮かんだ疑問は、小さな笑い声にかき消される。

「……ふ」

 いつの間にか、アズリアが表情を和らげていた。

「なんとも強引な論理だな。
 軽薄な貴様にはめずらしい」

「悪いかよ」

「ふ」

 鼻を鳴らし、アズリアは立ち上がる。
 その顔には先程までの陰りはなかった。
 アズリアは離れて事の推移を見守っていたギャレオの正面に立つ。

「すまん、ギャレオ」

「隊長……」

「私は部下たちに、軍人としての死よりも生を与えたいらしい。
 身勝手を笑ってくれ」

「いいえ! 自分は、けして……けして……!」

 二人のやりとりを見て、俺は大きく息を吐いた。

 ……どうにか、無事に切り抜けられたか。

 肩の荷が下りて、ついでに腰も下ろそうかと思ったときだった。

「ヒャハハハハハハハハハハ」

 チンピラの笑い声が響いた。





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