無限界廊の異端児
第8話 召喚事故・龍姫編
異界情緒溢れるメイメイのお店で、近頃本名で呼ばれることの多くなった名も無き世界からやって来た少年、上杉 真樹が護衛獣であるヴァルゼルドと向かい合って発声練習?のようなことをしていた。
「ひとつ! 変身シーンを邪魔するべからず!!」
「ひとつ! 変身シーンを邪魔するべからずなのであります!!」
真樹の言葉を大声で復唱するヴァルゼルドは、どこかやつれたオーラを纏っている。
機械兵士でありながら、真樹の指導の下でどんどん人間味を身に付けるヴァルゼルドなのだった。
「ひとつ! 必殺技の技名を叫ぶのを邪魔するべからず!!」
「ひとつ! 必殺技の技名を叫ぶのをじゃまするべからずなのであります!!」
それなりに多種多様な商品が店内狭しと陳列されるメイメイの店の置くにある従業員控え室。
そこで数時間もの間、真樹によるヴァルゼルドの教育的指導が行われている。
「ひとつ! 登場シーン及び、その際の口上を邪魔するべからず!!」
「ひとつ! 登場シーン及び、その際の口上を邪魔するべからずなのであります!!」
ひたすら続けられる不毛な教育は、いつかきっと役に立つ……と信じて復唱するヴァルゼルド。
真樹を主人としたことを後悔するわけではないが、自身の進むべき方向性としてこれが正しい事なのかヴァルゼルドには判断が出来なかった。
「よぉぉぅしッ! 以降、登場シーンを邪魔したらご飯抜きだぞ!」
「了解であります、大佐殿!」
機械兵士にご飯を抜くと言っても、それを辛いと感じるようになるのは果たして何年後なのか。
それを本気で言っているあたり、真樹という少年はやはりアホな人種なのだろう。
「ちょっとちょっとぉ~。それだけなら無限界廊でやっちゃってよ~。お客さんが恐がって商売あがったりじゃないのよぅ」
店のカウンターに座っていたメイメイが、振り返って真樹たちに言う。
「いいじゃん別に。どうせお客ったって、アティたちの他には殆どこないし」
「そうなのよね~。この島の人達って、大体が自給自足の生活だし。にゃは、にゃはははっ」
笑い事ではないと思う真樹だが、決してそのことには突っ込まない。
大体、朝っぱらから店主が酔っ払っているというのは、どうなのだろう。
真樹に言わせれば、「商売する気もないのに店を開いている超暇人」とのことである。
そもそもメイメイがこの島に居る理由というのも、この島の遺跡に関わる一連の事件の為なのだ。
この島は、かつて人間の手で『エルゴ』を作り出そうとしたとある召喚師たちの実験場であり、これから起きる事件の舞台でもある。
そうした未来に起こりうる事件。
魂の楽園と呼ばれるリィンバウムの世界全体を巻き込みかねない事象をメイメイは感じ取ることが出来る。
それが、かつてこのリィンバウムが他世界からの侵略を受け、四界を巻き込んだ争乱を『王』とともに駆け抜けた存在であるメイメイの役目。
「それで? 『彼』のことも少年は、知ってたんでしょ」
酔いのためか、ほんのり頬を染めながらも真面目な表情と声でメイメイは、ヴァルゼルドの指導を終えた真樹に訊ねる。
「『彼』って、誰?」
声を出しすぎて喉が渇いた真樹は自前の水瓶から杓子で水をすくって喉を潤しながらすっ呆けたような調子で首を傾げる。
「昨日、この島に流れ着いた『彼』のこと」
メイメイは、殊更口調を強めるようなことはせずに疲れたように酒をちょびちょび飲みながら続ける。
「先生とあの子……これも“運命”なのかしらね」
”これからの流れ”をある程度把握しているメイメイだが、自分では何もしてやれない。してはいけないということに苦悩する。
それは、今までもあったこと。
そしてこれからも続くであろうメイメイの使命。
飲むお酒の量が増えても、遣る瀬無さは一向に和らぐ事はない。
「もう飲むの止めろっての。確かにアティやアイツがこの島にやってきたのは、決まりきっていた“運命”さ」
カウンターに置かれていた『清酒・竜殺し』の瓶を取り上げながら真樹は、お酒の代わりに水の入ったコップをメイメイに渡す。
「アンタの心配事は、必ず解決する。もちろん、俺が関わらなくてもな。あの人達は、十分自分たちで道を切り開いて行ける強さを持ってるから」
「マキ……」
口調は軽いままであるが、真樹の言葉は、メイメイにとって救いとなる。
『王』が守った世界。
この世界は、確かに『王』が守るに値した――守る価値のあったモノなのだと。
「ま、俺が来たからにはもっと楽勝になっちゃうけどな」
メイメイから取り上げた酒と空き瓶を片付けながら自信満々に宣言する真樹。
お酒を取り上げられたメイメイは、カウンターの上に頭を乗せながらそんな真樹の後ろ姿をぼんやり眺める。
その背は、自分のそれより低く、どう贔屓目に見ても頼もしくは見えない。
しかし、出会った当初よりは、確かに成長しており、上手くはいえないが何かを託せるのではないかと思わせるようになっている。
「……ねえ、若人。ご褒美、欲しくない?」
「メイメイのご褒美、ね。何、エロいこと?」
それなりに真面目な話だったのだが、場の空気と言うものを一切合財気にしない真樹は、やはりちゃらんぽらんな思考をそのまま口にした。
メイメイも真樹が見た目通りの年齢であると思ってはいないが、見た目が少年な真樹のエロ思考には違和感を感じずには居られない。
「そんなわけないでしょ、おバカ」
「なんだよ。俺にとってのご褒美っては、エロいことだぞ?」
真樹も言葉通りに期待していたわけではないので、適当な調子で対応する。
自分よりも未来を詳しく知っていて、尚且つそれらを覆そうとしている真樹は、メイメイにとって不思議な存在だった。
メイメイの苦悩を知っても、ただ頷いただけの少年。
これまで誰にも知られることもなく世界を見守り続け、流れ続ける時の中をひとり歩んできたメイメイ。
誰かのためにしてきたわけではなく、自らの意思で選んだ道。
そのメイメイの在り方をただ「いいんじゃねえの?」とやはり軽い調子で肯定した異世界から現れた少年。
それまで背負って来たモノが無くなったわけではない。
しかし、ちっぽけな少年が現れてから少し、ほんの少しだけ背負ってきたモノを重たいとは感じなくなっていた。
「そういうのは、大人になってから」
「心は大人だけどな……」
すでに島中で噂されている公然の秘密を呟く真樹。
身体が成長したら本当にエロいご褒美を強請るつもりなのかもしれない。
「ちょっと、そこで待ってなさいな。すぐ持ってくるから」
そう言ってメイメイは、いつの間にか壁に出来ていた扉に入っていった。
メイメイの店で暮らし始めて数年が立つ真樹だったが、そんな扉は一度も見たことが無かった。
不思議に思った真樹は、その扉を開けようとしたがどうしても開く事ができなかった。
開かずの扉というものを開けてしまいたくなるのは当たり前。
戦闘では扱いきれない斧アイオーンを装備して扉を叩き壊そうとしたり、出来もしないピッキングを試したり、ヴァルゼルドのドリろッ!を試したりしたが扉には傷一つ付かなかった。
無為に全力を出し切った真樹が、とうとうヴァルハラを召喚しようかと考えていたところ、タイミング良くメイメイが店に帰ってきた。
「……何をしていたのかにゃ?」
「いや、ちょっと……ていうか、普通に入口から戻ってくるってどうよ」
確かに摩訶不思議な扉に入っていったはずのメイメイは、ひとつの小包を抱えて、お店の入口から普通に入って来ていた。
「そんなのはどうだっていいの。いいからその魔力をさっさとしまって頂戴」
ヴァルハラを呼び出すために充填していた魔力がそのままだったので店内もそれなりに緊迫していた。
メイメイに注意された真樹が魔力を落ち着かせると張り詰めていた空気が一気に沈静化し………無かった。
突如として響き渡る轟音と共に店の天井をぶち破って何やら降って来たようであった。
「ごほっ、ごほっ……んもぉ! あれほど召喚術を使う時は集中を乱しちゃ駄目だって教えといたでしょーが!」
「あ、あはははっ、やっちゃったぜ」
召喚術の練習中には、何度も失敗したことのある真樹だったが、流石に使おうとしていた魔力が膨大なだけにその余波もそれなりに強力なモノだった。
最早、店内はしっちゃかめっちゃかである。
普通に片付けるのであれば商売を再開するのに数ヶ月は掛かりそうな壊れ具合。
しかし、それを半日で修理してしまうのもメイメイの乙女のヒミツに含まれるので利用客が困ることはない。
「まったく、ここまで壊すのも久しぶりねぇ」
「あはは……」
つい数十分ほど前にあった真面目な空気は、完全に消え去り、メイメイはため息混じりに壊れた店内を眺め、真樹は乾いた笑いで誤魔化す。
「まあ、仕方ないわね。ほら、これを持って無限界廊にでも行ってなさい。その間にちゃっちゃと修理しちゃうから」
「ホント、面目ない。…ってこれ何? ……刀?」
何やらワケの分からない呪文がビッシリ書かれた小包をメイメイから受け取った真樹は、手に取った物の形で中身を予想する。
「そ、シルターンに伝わる由緒正しい名刀なんだから大事に使ってよね」
どこか名残惜しげな、それでいてどこか嬉しそうな笑顔で言うメイメイ。
そんなメイメイの言葉に真樹は、
「マジで? マジでッ!? いいの!?」
「言ったでしょ? 少年にご褒美あ・げ・るって。アタシのお古だけど、それでも良いならね」
「感謝感激恐悦至極の雨霰ッ!! ついに俺にも曰くあり気な特別剣がッ!! よっしゃァァッ、さっそく無限界廊に出発だ! 遅れるなよ、少佐!!」
「た、大佐殿! 待ってくださいであります!!」
ご褒美の刀を受け取って予想以上に有頂天になった真樹を見送るメイメイは、真樹が片付けていたお酒を再び取り出して飲み始めた。
「今のあの子になら扱えると思うけど……。あの子のいい加減なところがうつちゃったのかしら」
まるで『風雷の郷』のミスミが、息子であるスバルを見ている時のような表情のメイメイは、ただただお酒を楽しみ続ける。
飲む量こそ微々たるものだが、真樹の成長を思い浮かべながら飲む酒は、少しばかり違った味わいがあるようにメイメイは思えた。
「けほっ、けほっ」
「……にゃ?」
お酒を飲み始めたメイメイを他所に、お店が勝手に修繕されていく中で誰かが咳き込む声が聞こえてきた。
周囲に散っていた真樹の魔力の残滓が薄れていくと次第にまったく別の気配が色濃くなっていく。
「こ、この気配はもしかして……」
真樹ほどではないが、飄々として何事にも適度に動じない胆力を持つメイメイがかなり困った顔で大穴の開いていた天井の真下辺りの瓦礫の山を見る。
「けほっ、斯様な屈辱は生まれてこのかた始めてじゃ」
煙が晴れ、瓦礫が勝手に修復されていく中、つい先ほどまで店内には存在しなかったはずの誰かの姿が見えてくる。
「や、やっぱり……」
「まったく、魂の楽園と呼ばれたリィンバウムも世知辛い世の中になったものじゃな。……ん?」
衣服に付いた埃を軽く払いながらブツブツ言っていたその誰かは、自分を見つめる視線に気付き、メイメイを見つめ返した。
「……なんじゃ、いきなり何処に呼び出されたかと思うたら、メイメイではないか。久しいな」
シルターン様式の着物を纏ったその人物は荘厳な雰囲気をも纏っていた。
濡れ絹のような深い艶のある長い黒髪に、純然たる力を秘めた鋭い瞳。
その人物の顔立ちや着物は、シルターン出身の特徴を多く持っている。
そして、メイメイと同じ特徴がその者にはあった。
美しい黒髪から覗く立派な角と長い耳。
「マキのおバカ……」
それだけ呟いたメイメイは、途方に暮れてしまった。
本日の真樹のパラメータ
Lv.81
クラス-黄昏の魔剣師
攻撃型
横・短剣(千斬疾風吼者の剣)、横・刀(銘刀サツマハヤト)、横・杖(怨王の錫杖)投・投具(柳生十字手裏剣)、射・銃(NC・ブラスト)
MOV7、↑5、↓6
耐性-機・大、鬼・大、霊・中、獣・小
召喚石6
防具-軽装(英傑の鎧-軍装ver)
特殊能力
誓約の儀式(真)・全、送還術
見切、俊敏、先制、闘気、バックアタック、ダブルムーブ、勇猛果敢、心眼、絶対攻撃、狙い撃ち
異常無効<狂化・石化・沈黙>、アイテムスロー
サルトビの術、真・居合い斬り、フルスイング・改、ストラ、バリストラ、憑依剣
特殊武装-神刀・布都御魂
召喚クラス
機S、鬼S、霊S、獣S
護衛獣召喚石(固定)
・ヴァルゼルド
召喚魔法名
ユニット召喚:参戦:C:いつでもどこでも「カモン、少佐(ヴァルゼルド)!」
スパーク:攻撃:C:放電の強化版
衛星攻撃・β:攻撃:B:範囲攻撃
第二兵装:防御:A:協力召喚によって機界ロレイラルからヴァルゼルドの追加兵装を召喚。対物・対魔法シールドを展開。
第三兵装:攻撃:S:協力召喚によって機界ロレイラルからヴァルゼルドの追加兵装を召喚。極太レーザーで薙ぎ払う。
装備中召喚石
機神ゼルガノン、ヴァルハラ、天使ロティエル、聖鎧竜スヴェルグ、龍神オボロ、ジュラフィム
本日の???のパラメータ
Lv.32
クラス-龍姫
攻撃型-縦・刀、投・投具
MOV3、↑3、↓3
耐性-鬼・大
召喚石3
防具-着物(ドラゴンチャイナ-アレンジver)
特殊能力
誓約の儀式・鬼、送還術、眼力、心眼
召喚クラス
機C、鬼S、霊B、獣B
オリ特殊能力解説
<主人公>
誓約の儀式(真)・全-誓約者と同じ召喚法。
送還術-召喚術の前身となった正しき術。相手の召喚魔法を強制的にキャンセルする。
真・居合い斬り-見よう見真似の居合い斬り。本家本元にも引けを取らない威力に成長。
フルスイング・改-横切りタイプの攻撃力が1.5倍になる。
憑依剣-武具に異界の力を憑依させる憑依召喚術の発展技術。
オリ武器解説
<神刀・布都御魂>
パラメータ変化
AT:200 MAT:280 TEC:50 LUC:50 CRT:30
備考
鬼属性憑依剣攻撃力2倍。
メイメイが愛用していた刀。鬼妖界シルターンのエルゴの加護を宿している。