無限界廊の異端児
第6話 先生登場・制裁編
見渡す限りのロレイラルの技術によって形成された建造物。
機界の住人たちの郷である『ラトリクス』で、ようやくヴァルゼルドの改修作業が終了していた。
「うっひょーっ! すげ~~~~~~~!!」
強烈な空気の壁に体全体を押されながらも、そのスピード感に感動の叫び声を上げる少年。
「立つのは危険なのであります、大佐殿!」
子供のようにはしゃぐ少年を飛行形態のヴァルゼルドが注意する。
しかし、なんとかは高いところが好きという言葉通り、少年は注意を聞かずに舞い上がっている。
「大丈夫、大じょう―――――――ぁっ」
そして、簡単に予想できた結果になる。
風圧にバランスを崩した少年は、形態変化すると何故か装甲が赤くなるようになったヴァルゼルドの背から転落する。
常人では、とっくに吹き飛ばされるような速度で飛行したいたため、Uターンして拾い上げようにも周囲には、それなりに高い建物が密集しているので、それらを回避しつつ少年が地面にダイレクトダイブする前に落下地点に到達することが出来ない。
「う~む。やっぱり、飛行中は風圧を如何にかしないと難があるな。……でも、風を切る爽快感は捨てがたい」
即死級の高度から落下しているにも関わらず少年が真面目に頭を悩ませるのは、どうにも子供っぽいことである。
命よりも大事なことが、どれだけ気持ち良くヴァルゼルドの背に乗っていられるかという有り得なさ。
いっその事、軽く脳漿をぶちまけてしまえば、少しはまともになるかもしれない。
「と、そろそろ危険だな」
ブチ撒けトマトが完成する数秒前になってようやく少年は対処に動き出す。
もう少し早ければ、ヴァルゼルドを召喚で呼び寄せることも出来たが、スピードに乗っている今の状態でヴァルゼルドの装甲に安全に着地できるとも限らない。
「そんなわけで、――時を翔るウサギさん! 我が身を時の戒めより解き放て!」
少年の真剣なのか、洒落なのか微妙な呼びかけに幻獣界メイトルパのゲートが開き、刹那のうちに少年の身体に淡い緑の光が宿る。
すると、脳漿ぶち撒け5秒前くらいになっていた少年の体が急に掻き消えた。
「う、うおおおをををををっと、っとっとっとっとぉあ!?」
実際には、落下中の少年が近くのビルの壁を滑るように落ちているだけ。
もっともまだ地面に向かっているので、それでは安全といえない。
しかし、今の少年には、落下スピードがとても遅く感じられている。
幻獣界に住まう時兎を自身に憑依させることで、周囲の認識とは隔絶された動きや対応が可能になっているのだ。
少年は、通常と違った時の流れを認識することで落下のエネルギーを殺すための行動を取る。
壁面にできるだけ体を寄せ、両脚で踏ん張るように勢いを削いでいく。
ゆっくりに感じられるといっても身体に掛かる負担はあまり減じていないので、常に持ち歩いている短剣を壁面に刺すことで摩擦を増やす。
が、少年の予想より短剣の切れ味が良すぎたせいで、壁面に素晴らしく綺麗な切れ込みを作るだけで安全な速度にまで減じなかった。
それでもほんの僅かに速度が落ちていることも確かで、地面が近付くにつれて全身のバネを引き絞る。
そして、地面にぶつかる瞬間、
「ドゥデュワッ!!」
憑依召喚による加速を使った跳躍により、壁面を蹴って真横にベクトルをずらし、勢いを殺さずに地面をゴロゴロと転がっていった。
猛スピードで転がる少年は、周囲で作業中の住人たちをも撒き込んで数十メートルほどを薙ぎ払った。
その様は、まるでロードローラーの前の……。
電子音が響き、使い慣れた治療用カプセルのパネルを操作してヴァルゼルドは、治療を受けていた少年を外に出した。
「ふぅ~。予想通りにはいかなかったか」
「大佐殿。あの落下速度では、落下のエネルギーを生身で相殺するのは不可能であります」
心配するヴァルゼルドの声にもどこか呆れが含まれている。
少年は、昔見た作品でサムライが刀を使って落下速度を和らげるというシーンを見ていたため、それを再現しようとしたのだ。
しかし、そんな無茶な着地を敢行した少年は、数時間ほど超技術による治療を受けることになった。
「ちょうど良い時にお目覚めになりましたね」
治療を終えて、体の調子を確かめるように軽い体操をしていた少年に背後から声がかけられた。
「あ、クノン。いや~、最近治療速度が上がったよな?」
「それは、大抵、一日か二日置きにここを利用する患者ができたためと思われます。そこにあるポッドも、そのどうしようもないヒモ男専用に改良を加えましたので、その人物に限り、生きてさえいれば大抵の負傷は完治させることができるようになっております。もっとも、このラトリクスで治療を受けるナマモノはお一人様だけなのですが」
無表情で、マシンガンの如く早口で喋りきったクノン。
「あっはは……」
「………………………」
「いつもいつもお世話をかけて申し訳ありませんでした。以後、クノン様のお手を煩わせる事のないよう善処いたしますです」
自分のせいとはいえ、毒の塗られた鋭い棘のような単語が含まれるクノンのセリフに、少年は半笑いで誤魔化そうとしたが、無表情&無言のクノン・フェイス+クノン・アイのダブルアタックに姿勢を正し、畏まって謝罪する。
本来であれば、クノンはアルディラの専属なのだが、いまでは少年の専属ナースのようなことになっている。
それに文句を言うクノンではないのだが、破天荒で無茶ばかりする少年の治療には辟易しているようでもあった。
「……まあ、いいでしょう。それより、アティ様にご挨拶を」
「ん?」
少年とクノンの微妙に盛り上がった会話をポケッと見ていたアティ。
そんなアティにようやく気付いた少年は、まじまじと彼女の身体を見詰める。
「あ、あの初めまして。私は、アティといいます。あの……ヨロシク?」
瞳孔も開ききった物凄い視線が自分に突き刺さっていることにアティは、無意識のうちに両腕で胸部を隠す。
「んんんん、π!!!!」
「ひゃあ!?」
いきなり少年がわけの分からん言葉を叫んだことに驚いたアティが尻餅をつく。
「アティ様、お怪我はございませんか?」
「あ、いえ大丈夫です」
無表情なクノンが手を差し伸べるが、アティはその手を借りる前にさらに強力な眼力、いや闘気、いやさ神気を感じ取った。
「………………ハォワァイティ!!!」
「はひ?」
再びわけの分からない奇声を上げる少年にアティも唖然とするしかなかった。
すると少年の行動の意味を理解しているクノンは、すぐさまアティを少年の視線から庇う。
「お仕置きですの時間です」
「ミギャッッッッッッッ!?!?!?!?!?」
アティを前にして普段の奇行を上回るアクションを起こす少年に、クノンの「骨が透けて見える」くらいの電撃攻撃が炸裂した。
「ヴァルゼルド。その生ゴミを処分場に運搬しておいてください」
「り、了解でありますッ! クノン殿!!」
何故かクノンは、少年より上位に位置づけられているためヴァルゼルドは、その指示に従い、怯えの混じる上ずった声と敬礼で応え、少年を担ぎ上げる。
急いで扉から出て行こうとしたヴァルゼルドだが、律儀にアティの横を通過する時に立ち止まって一礼する。
「本機はこれで失礼させてもらうのであります。非常に慌しくて申し訳ないのでありますが、正式なご挨拶はまた後ほど」
「あ、はい」
ビシッと敬礼するヴァルゼルドの鋼の手が担いでいる少年のドタマに激突したが、アティはあえてツッコミは入れなかった。
ここでそれを指摘するのは、意味がないと本能で理解したのだろう。
少年とヴァルゼルドが退室した後、数秒間思考が停止していたアティは、困ったようにクノンに問いかける。
「あの。今のお二人は、どういった方たちなんですか?」
「非常に有害な単なるナマモノとその護衛獣を務める機械兵士のヴァルゼルドです」
「な、なまもの……ですか?」
クノンの容赦ない言葉にアティも異論を挟めそうもなかった。
「お人形さーん。さっきエロエロさんをロボさんが運んでましたけど、また何か悪い事でもしたんですかー?」
微妙な空気にあったリペアセンターに妖精のマルルゥが、あまりに的確なあだ名を口走りながら入ってきた。
「えろえろさんって。あ、あの子が例の……」
マルルゥのセリフに憶えのある名が出た事でアティは、わなわなと震えだす。
「そうですよーっ! エロエロさんが、先生さんみたいな格好の人は『せくしぃ~』とか『むっちん』とか『ぜったいりょういき』とか『お~ばに~』とか『じょきょうし』って言うんだって教えてくれたのですよー」
無邪気に言うマルルゥにアティは、つい先ほどスバルやパナシェといった子供たちにそれらの単語を連呼された羞恥を思い出し赤面する。
いくつか知らない単語も混じっているが、そこに込められたニュアンスは理解できたアティは、生まれてこの方感じたこともない感情に打ち震える。
「ゆ、許せません。子供たちにそんな言葉を教えるなんて!」
温厚で礼儀正しいアティにしては非常に珍しく激しい感情が生まれていた。
それは、無自覚のうちに手にしたロッドをブンブンと素振りさせるほどのものだった。
本日の主人公パラメータ
Lv.57(測定外)
クラス-覚醒のセクハラナイト
攻撃型-縦・短剣(千斬疾風吼者の剣)、横・刀(銘刀サツマハヤト)、横・杖(怨王の錫杖)、投・投具(柳生十字手裏剣)、射・銃(NC・ブラスト)
MOV7、↑5、↓5
耐性-機・中、鬼・中、霊・小、獣・小
召喚石5
防具-着物(ウラシシュウ)
特殊能力
誓約の儀式(真)・全、送還術
見切、俊敏、威圧、イーグルアイ、バックアタック、ダブルムーブ、アイテムスロー・強
サルトビの術・落、居合い斬り、フルスイング、ストラ、バリストラ
召喚クラス
機S、鬼S、霊S、獣A
装備中召喚石
ヴァルゼルド、ヴァルハラ、天使ロティエル、ジュラフィム、クロックラビィ
本日のヴァルゼルドのパラメータ
Lv.48
クラス-鋼鉄の銃士
攻撃型-突・ドリル(勇者ドリル)、射・銃(NC・ブラスト)
MOV5、↑4、↓4
耐性-機・大
召喚石2
防具-装甲(ヴァテック125)
特殊能力
スペシャルボディ、威圧、放電、衛星攻撃・β、浮遊、潜水、匍匐前身、ダンボール、ドリろッ!、モード・チェンジ!
召喚クラス
機A
装備中召喚石
ドリトル、反魔の水晶
オリ特殊能力解説
<主人公>
誓約の儀式(真)・全-誓約者と同じ召喚法。
送還術-召喚術の前身となった正しき術。相手の召喚魔法を強制的にキャンセルする。
イーグルアイ-その眼が捉えるのは、男のロマン。チャンスがあれば、色と柄もチェック。使用後、高確率で瀕死状態になる。
アイテムスロー・強-6マス先までアイテム使用が可能。ただし、隣接していると対象にダメージと与え、アイテムが壊れる。
サルトビの術・落-下段にのみ高さを無視した移動が可能。ただし、着地後、数ターン移動力低下。
居合い斬り-見よう見真似の居合い斬り。
フルスイング-横切りタイプの攻撃力が1.2倍になる。
<ヴァルゼルド>
匍匐前身-+2踏み台設置(移動可)
ダンボール-身体に合った特大の段ボール箱に入る(移動不可)。敵味方問わず注目を集める。
ドリろッ!-直線3マスに突進攻撃
モード・チェンジ!-陸海空全てに対応した形態に変形可能。