無限界廊の異端児
第5話 作戦開始・観察編
島の緑豊かな森の中を闊歩するひとつの影。
鬼妖界特有の着物を纏う10代半ばの少年。
腰には刀を差し、大きめポーチのような物を腰巻にして、手には1mほどの禍々しい装飾の錫杖を持っている。
島の殆どの地域を自分の庭のように歩き回っている少年にとってその格好は、普段通りとはほど遠い。
それは明らかに、少年が秘密で修行をしていた無限界廊に挑む際の戦支度である。
戦支度といっても、傍目には山歩き程度の装備に護身用の武器を携帯しているといったところだろう。
事実、この島で少年の本当の実力を知っているのは彼の一応の師であるメイメイと相棒であるヴァルゼルドだけである。
すでに夕刻も過ぎ、太陽が水平線に沈み森の中は薄暗く、慣れない者ならば迷ってしまうような時間帯。
夜の山道を一人歩きするには適さないが、少年にとっては、それほど苦にならない。
「さて、あっちではおっぱじめたようだな」
浅い夜の静けさを裂くように森に木霊する剣戟と爆発。
あきらかに戦闘行為が行われている。
「この方角は……ラトリクスの近くだな」
予想していたことではあるが、少年はその戦闘に参加することはない。
今、少年が関わるとこの島に流れ着いたリィンバウムの人間たちと島の住人の友好関係のきっかけがなくなる可能性があるので手出しはしない。
「おっと……あそこだな」
大勢の人間が動く気配を感じた少年は、木々の影に姿を隠しながらその方角に望遠鏡を構える。
「ぉぉぉぉぉぉぉ!! さすがラトリクス製。バッチシ見えるぜ<パシャッ>。アルディラさんは、いい仕事してるなぁ。いろいろと」
自分用に望遠鏡を作成してくれたアルディラに心の中で感謝する少年。
レンズの向こうには、屈強な男たちがひしめき合うように隊列を組んで待機している。
先の戦闘の音を聞いて数名がその方角に出て行ったが、目的の人物はまだその場に留まって話し込んでいた。
「アズリアにギャレオは、作戦会議かな?<パシャッ>。出て行った奴らは、ビジュを連れ戻しに行かせたんだろうけど」
彼らは、リィンバウムに存在する勢力のひとつである帝国に所属する軍隊。
先日、島に流れ着いた女教師とその連れや一緒に流れ着いた海賊たちと同じく、この島に彼らも辿り着いていたのだ。
一部隊ほぼ全員が同じ場所に流されるというありえなさではあるが、そこら辺は気にする意味がない。
少年にとって重要なのは、彼らがこの島に来たという事実を確認すること。
「さ~て、後はジャキーニたちをボコってジルコーダを退治すれば、皆仲良しになれるな<パシャッパシャッ>」
数日後に控えているであろう戦闘に備え、少年はそそくさとその場を後にする。
懐には、今し方撮ったばかりの写真が数枚仕舞いこまれた。
ラトリクス周辺での戦闘の後、アルディラから話を聞いた少年はサプレスの『狭間の領域』に来ていた。
昼間でもあまり太陽の光が差し込まないその場所は、夜になると途端にざわめき始める。
サプレスの住人たちが暮らすこの場所は、夜に活動する者たちが多い。
慣れない内は、根が小心者である少年もビクビクしていたが、今では隣を半透明の存在が通り過ぎてもまったく気にしない。
時折、すれ違う住人たちと形だけの挨拶を交わし、少年は領域の最奥にある瞑想の祠までやって来た。
「止まりなさい。こんな夜更けに何用です」
少年の前に突如現れたのは、天使のフレイズだった。
彼は、このサプレスの住人たちが暮らす場所を守護する護人ファルゼンの参謀的役割を担っている。
少年は「秘書みたいなもんだろ?」と言って、フレイズは「ヒショとはどういうものなのですか?」という問答をしたことがある。
その時、少年がいきなり噴出して腹を抱えて笑いだし、少年の邪な感情を読み取ったフレイズと一戦することになったりもした。
幸いなことに当時の少年は本気で弱かったのでフレイズにこってり絞られるだけですんでいた。
だが、それ以降フレイズは、少年のことをどうも好きになれずに居た。
「おこんばんわ。って言ってもここの人達は、夜の方が普通だろ?」
「よい子は寝る時間ですよ」
「じゃあ別にいいじゃん。俺、いい子じゃないし」
「ああ。そういえばそうでしたね。では、悪い子はお引取り下さい。ファルゼン様は、現在休息中なのです」
不敵に笑いあう少年と天使。
この島に召喚されてから少年を時たま観察していたフレイズは、少年が異常な速度で成長していることに気付いていた。
見た目の容姿は、まあ普通通りに成長しているのだが、魂の輝きが以前よりも格段に強くなっているのだ。
天使であるフレイズには、そのことが手に取るようにわかるのだが、数ヶ月前からその輝きがぼやけてよく見えなくなっていた。
強い魂の輝きには違いないのだが、どれほどの強さなのか判然としないのだ。
フレイズが普段見かける少年は、『風雷の郷』や『ユクレス村』の子供たちやここのマネマネ師匠と遊んでいるところくらいである。
彼らと遊ぶ少年は、特段目だったところはない。
強いて言うなら子供たちに下品な言葉を教えてしまっているところは、たびたび注意されている。
しかし、精々悪ガキと言った程度の日常を過ごしている少年が、どうやって魂を鍛えているのかは分からなかった。
不思議な力を持つ占い師のメイメイのところに居候しているからかとも思ったフレイズだったが、それだけでは説明がつかない。
とにかく、あらゆる方面で珍妙なことをする少年をフレイズは警戒するしかなかった。
「さあ、早くお帰りなさい」
突き放すフレイズの言葉を少年はまったく気にせずフレイズの横を通り過ぎる。が、
「お待ちなさい」
すぐフレイズに前をふさがれる。
「やっぱだめか。まあアンタでもいいや。コレ、彼女に渡してよ」
そう言って少年が懐から取り出したのは、不思議な呪文が刻まれた宝石だった。
「これは……サモナイト石ですか?」
「違う違う。これは、うちのししょーに頼み込んで作ってもらったもんなんだ。これがあれば魔力の回復が早くなる」
少年から宝石を受け取ったフレイズは、確かにそこから柔らかくも力強いマナがあふれ出しているのを感じ取った。
「なるほど。月のマナと近しい力が溢れてきます」
「さっきの戦闘で消耗したんじゃないかと思ってね」
視線で祠の奥を示して言う少年にフレイズは首を傾げる。
「まさか、ファルゼン様のために?」
ほとんど会ったこともなく、会話などまったくしたことのないファルゼンのために宝石を持ってきた少年の行動にフレイズは首を傾げる。
「なんだよ。そんなに以外か?」
「正直、信じられません。何か裏があるのでは?」
「即答かよ! しかも疑うなよ! それでも天使かアンタ!」
これは少年の普段の生活態度が原因なので、このような評価を受けても仕方がない。
「私は、戦闘属性ですので。……しかし、お心遣いは感謝します。メイメイさんにも改めて御礼に伺いましょう」
「はいはい。ししょーには酒でも持ってけば十分だろ」
最低限の礼儀を持って言うフレイズに用事の済んだ少年は、踵を返す。
「これから、今日みたいなことが増えるかもしれんけど、あんま無茶すんなよ!」
去り際に少年は、肩越しに後を向いて叫んだ。
もちろんそれはフレイズに向けられたものではない。
瞑想の祠で先の戦闘での消耗を回復させるために休息している護人のファルゼンへの言葉。
去っていく少年の後姿を見送ったフレイズは、ふとある違和感を思い出した。
「……「彼女に渡してくれ」? ……まさか、ファルゼン様のことを」
少年は、ファルゼンと一度も会話した事がなかったはずである。
少なくとも副官としてファルゼンに付き従ってきたフレイズは、少年がファルゼンの正体を知るような出来事は確認していない。
「まったく何をしようとしているのかさっぱりわかりませんね。あなたは」
少年のことを好きになることはできないフレイズだが、彼が悪人ではないことは理解していた。
数々のセクハラ発言や下品な言動、オッサンのような性格とやっかいな人間ではあるが、もしかしたら……。
「私の買いかぶりでしょうね」
悪人ではないが、善人とも言い切れない。
それ以上の評価をフレイズはまだもてなかった。
居候している店に少年が帰りつくとそこの店主が店先に倒れていた。
「お、お酒。美味しいお酒ぇぇぇぇ」
少年は、普通に素通りして自分の分の夜食を作って食べた。
「ししょー。明日までに干からびないようにね」
明日には、この島に流れ着いた運命を動かすせくしぃ~女教師、アティと出会うことになるメイメイ。
美味しいお酒を飲むために水分を断って数日。
結局は、ただの水で喉を潤す事になると知りつつ少年はメイメイをそのまま放置して寝る事にした。
「さぁてと。あとは、どこで登場するかだな。う~ん、決めポーズとか考えとこうかな~」
というように暢気なことを考えながら眠りについた少年。
「う~ん。そういえば俺の本当の名前って何だっけ?」
無限界廊で繋がっているどこかの世界。
「ちょっとムガムガ。あの変なヤツに美味しいアイテム持って行かれちゃったじゃないの!」
「ムガムガ!」
「うっ、それはそうなんだけどさ~。ていうか、アイツって何なの? あの人が監視してる見たいだけど、やりたい放題じゃない」
「ムガムガ~」
「そうね。しばらくは、無限界廊での仕入れは諦めるしかないわね。はあ~」
「ムガ~」
ちょっと繋がってるかもしれないどこか。
深いため息が繰り返されていた。
本日の主人公パラメータ
Lv.55(測定外)
クラス-無界の剣術師
攻撃型-縦・短剣(千斬疾風吼者の剣)、横・刀(銘刀サツマハヤト)、横・杖(怨王の錫杖)、投・投具(柳生十字手裏剣)、射・銃(NC・ブラスト)
HP460 MP610 AT420 DF390 MAT515 MDF490 TEC300 LUC100
MOV6、↑5、↓5
耐性-機・中、鬼・小、霊・小、獣・小
召喚石5
防具-着物(ウラシシュウ)
特殊能力
誓約の儀式(真)・全、送還術
見切、俊敏、威圧、バックアタック、ダブルムーブ、アイテムスロー・強
サルトビの術・落、居合い斬り、フルスイング、ストラ、バリストラ
召喚クラス
機S、鬼S、霊A、獣A
装備中召喚石
ヴァルゼルド、ヴァルハラ、天使ロティエル、ジュラフィム
本日のヴァルゼルドのパラメータ
Lv.45
クラス-ガーディアン(まだ改修中)
攻撃型-突・ドリル(勇者ドリル)、射・銃(NC・ブラスト)
HP500 MP200 AT440 DF450 MAT180 MDF125 TEC130 LUC75
MOV4、↑4、↓4
耐性-機・大
召喚石2
防具-装甲(ヴァテック125)
特殊能力
スペシャルボディ、威圧、放電、衛星攻撃・β、浮遊、匍匐前身、ダンボール、ドリろッ!、モード・チェンジ!
召喚クラス
機B
装備中召喚石
ドリトル、反魔の水晶
オリ特殊能力解説
<主人公>
誓約の儀式(真)・全-誓約者と同じ召喚法。
送還術-召喚術の前身となった正しき術。相手の召喚魔法を強制的にキャンセルする。ただし、超遠距離やSランクの召喚術は防げない。
アイテムスロー・強-6マス先までアイテム使用が可能。ただし、隣接していると対象にダメージと与え、アイテムが壊れる。
サルトビの術・落-下段にのみ高さを無視した移動が可能。ただし、着地後、数ターン移動力低下。
居合い斬り-見よう見真似の居合い斬り。
フルスイング-横切りタイプの攻撃力が1.2倍になる。
<ヴァルゼルド>
匍匐前身-+2踏み台設置(移動可)
ダンボール-身体に合った特大の段ボール箱に入る(移動不可)。敵味方問わず注目を集める。
ドリろッ!-直線3マスに突進攻撃「『ドリルは、男のロマン』とのことですが、○ッパイミサイルは違うのですか?」byクノン
モード・チェンジ!-陸海空全てに対応した形態に変形可能。「要望通り、変形後には装甲が赤くなるように調整しました」byクノン