無限界廊の異端児
第3話 召喚事情・大佐と少佐編
延々と続く無限界廊をひたすらもぐり続けた名も無き世界から来た少年は、ようやくあることに思い至った。
無限界廊は、回門の間、機界の間、鬼妖界の間、霊界の間、幻獣界の間という五つの戦場が順番に現れる。
四界に現れる対戦者は、それぞれの世界の住人と極稀に紛れ込んでいる特典付きのユニットたちだ。
しかし、回門の間に現れる幻影の戦士たちは、見た目は、人間である。
「ここは、試練の場だったよな……」
少年の一応の師であるメイメイは、そう言っていた。
それはつまり、試練を受けているのは少年の方だけではないのではないか?
「てぇと、俺が倒しちゃった相手は、試練を越えられなかったってことになるのかな?」
少年が倒してきたのは、その殆どが自分より弱い相手である。
島の住人たちには、だまって無限界廊で修練を積んでいる少年には、一緒に戦ってくれる仲間がいない。
そのため、無限界廊では、一対多数の戦闘が基本となる。
そんな状況で同等の力を持つ相手と戦った場合、……勝てるわけがない。
相手が特殊な攻撃をしてこない最初の頃は、ギリギリ勝つ事はできていた。
しかし、無限界廊をさらに奥へと進むことで、対戦者たちも遠距離攻撃や召喚術を多用するようになって来ていた。
今の状況では、どうしても格下相手に経験値を稼ぐしかないのである。
「ししょーは、手伝ってくれないしな~」
ぼやきつつも少年は、手にしていた刀で階段を上ってくる対戦者たちを斬り倒していく。
常に自分に有利は場所取りを心掛ける少年の攻撃に文句ひとつ言う事もない幻影の戦士たち。
もし、彼らの正体が少年の予想通りであるのなら、少年の戦い方はとても卑怯なものである。
「でも、俺だって引けないんだよな。っと」
戦士系の対戦相手の後方で召喚術を使おうとしている召喚師に気付いた少年は、自身も異界の友に呼びかける。
「来たれ、聖盾の守護天使! ……………あれ?」
いつもならば、少年の呼びかけに異界の存在が応答してくれるはずのタイミングで手ごたえがまったくなかった。
「ロティエルさん? お~い、天使ロティエルさ~ん! ……今、沐浴中? そうなんですか、あ、はい――うぎゃっ!!」
少年が最後に見たのは、暴走召喚によって魔力を限界以上に注ぎ込まれた鬼神の斬撃だった。
少年が目覚めると、何某かの機械の中だった。
カプセルのようなものに入れられているらしく透明なガラス?に遮られた向こう側は良く見えなかった。
「お目覚めでありますか、大佐殿!」
側に控えていたらしい、機械兵士が心配そうに少年を覗き込む。
「あ、おはようヴァルゼルド。修理は全部終ったのか?」
機界の住人たちが住まう集落『ラトリクス』。
ここの住人は、護人であるアルディラ以外、すべてが機械の身体で出来ているが、島でもっとも医療技術の発達した場所でもある。
機械の修理でも、生物の治療でもなんでもござれな技術を有しているものの他の集落の住人はあまり頼ろうとしない。
もともと他の集落には、それぞれの世界にあった医療というものもあるので、高度な機械文明に頼るような自体もほとんどなかった。
まあ、ラトリクスの住人はほとんどが会話機能を付与されていない者たちばかりであるので、薄気味悪く感じている者が多いようだった。
「はい。アルディラ殿とクノン殿が尽力してくれたおかげで、9時間と43分前にすべて完了したのであります」
ラトリクスでも数少ない通常の言語による会話が可能な機械兵士、ヴァルゼルドが言う。
「おお、そかそか。ちゃんとお礼は言ったか?」
「もちろんであります、大佐殿。もちろん、大佐殿にも感謝しているのであります」
ヴァルゼルドは、ラトリクスのスクラップ置場に故障して野ざらしになっているところをラトリクスを見学していた少年が発見したのだ。
それぞれの集落での問題は、その集落の護人が対処するので、少年は、ラトリクスの護人であるアルディラに彼のことを話した。
始めは、機械兵士であるヴァルゼルドの修理に難を示していたアルディラだったが、少年のある提案によって修理を請け負った。
「あら、もう目が覚めたのね」
医療用カプセルの中に横たわる少年が、ヴァルゼルドと会話しているのに気付いたここの主が現れた。
「まったく。どんな無茶な修行とやらをしているか知らないけど、自分の身体は大事にしなさい。貴方は、彼と違って首だけになったら直せないんだから」
少年が入っているカプセルの枕元?辺りにあるパネルを操作しつつ、少年の体調を確認するアルディラ。
そんなアルディラの言葉に笑顔で頷く。
「あはっ。今日も表現がエグイですね、アルディラさん」
無限界廊という不思議空間で鍛錬を積む少年は、負傷するといつもラトリクスで治療を受ける。
名も無き世界から召喚されたため、全属性の召喚術を行使する資質をもつ少年だが、その中で一番相性の良い属性が、ロレイラルだった。
機械を修理する事も、生身の人間を治療することも大差ないレベルのあるこの集落で、治療を受けるのは少年だけである。
霊界の集落である『狭間の領域』でも治療を受けた事のある少年だが、やはりラトリクスの治療の方が馴染むとのことだった。
因みに、少年の生活範囲は、風雷の郷とラトリクスが8割以上を絞めている。
たまには、幻獣界の集落である『ユクレス村』でスバルやパナシェ、マルルゥなどと遊んだり、『狭間の領域』でマネマネ師匠と勝負したりしているところを目撃されているが、それらはかなりレアなことだった。
この島に少年が来てからすでに1年近く経ち、それなりに友人もできていた。
今現在、お友達ランキング1位は、食事をたかりに行ったついでに遊んでいるスバル。
出会った頃は、ほとんど変わらない年頃だったが、今では若干、少年の方が年上に見え、スバルの兄貴分的立場に為りつつあった。
そして第2位が、マネマネ師匠。
少年が、口に含んだ水を飲んだフリをして吐き出したことで、始めて真似を失敗してからマネマネ師匠のマネマネ魂が燃え上がっている。
この島に来てから一番長く一緒にいるはずのメイメイは、師匠という立場であり、保護者のような存在でもあるためお友達とは、少し違う。
そんな少年のお友達第3位になりつつあるのが、機械兵士のヴァルゼルドだった。
本来の彼には、感情を再現できる機能は搭載されていないのだが、故障によるバグであり得ないはずの人格が形成されていた。
機械であるのに寝ぼけたり、ネコが苦手だったり、エネルギー補給を美味しい美味しいと絶賛したりと豊富な感情を有している。
それは、アルディラの付き人である医療看護用自動人形のクノンに不思議な感覚を与えるほどであった。
その人格がバグである以上、正常な機能を取戻す上で、その人格が不具合を起こす危険性があり、いずれは消さなくてはいけない運命だった。
しかし、名も無き世界から来た少年の提案により、それは免れることになった。
そも人格が形成されたということは、そこに思考するための信号が行き交っており、それらの信号をバグ情報ごとデータ化してバックアップを取った。そのデータをアルディラが解析し、一時的に分解して、システムに不具合を起こす部分のみを修正し、再び構築することで、ヴァルゼルドの人格を残したままシステムに適応できるように調整することができたのだった。
生物よりは、魂を情報化し易いロレイラルの住人ならではの処置だった。
こうしてヴァルゼルドは、今の状態になった。
人格データからバグと取り除く作業に数ヶ月掛かったが、これでヴァルゼルドも正式に少年の友達ランキングに追加された。
それまでは、画面越しに会話していたが、やはり身体のある方が気分的にも良かった。
「ん~ぁっ! いや~、死ぬかと思った」
カプセルからようやく出られた少年は身体を伸ばして、身体全体の調子をみる。
「修行もほどほどにね」
「男には、やらねばならぬ時があるのですよ」
アルディラの心配する言葉に、少年はえらく渋い顔になって声を低くして妙なことを言い出す。
いつものことなので、アルディラも気にしない。
少年が、初めてラトリクスを訪れた際に、クノンに対して「○ッパイミサイルはでないの?」などと口走った時には、アルディラもフルパワーで人生初のツッコミを入れる羽目になった。
それ以降、少年のセクハラ発言をクノンが修得していく様に頭を悩ませるアルディラだったが、以前よりクノンの感情表現が豊かになったことは喜ぶべきことだった。
因みに、ヴァルゼルドが少年のことを大佐と呼ぶようになったのは、以前の治療した時、勝手に医療用カプセルを出て素っ裸でシャドーをしていたところをデータ化されていたヴァルゼルドにカメラを通じて目撃された少年が、苦し紛れに言った言い訳によるものだった。その後、少年を治療する際にはひとりで外に出られないように拘束具をつけることにアルディラは決めた。
「はいはい。あ、そういえば、ヴァルゼルド。貴方、この子に相談事があるんじゃなかったの?」
修行によってボロになっていた着物を着替えた少年が、カプセルから出てくると今思い出したかのようにアルディラが言った。
あきらかに不自然なことだが、それはそれで、少年もツッコミを入れる事はない。
「え、何?」
「いえ、あの、その……」
モジモジと大きな身体をガチガチ言わせながら口ごもるヴァルゼルド。
はっきり言って恐ろしさすら感じる仕草だが、少年は必死に堪えて言葉をまった。
「じ、自分を大佐殿の部下にして欲しいのであります!」
「はへ? いやいや、部下ってそんな物々しい。友達でいいじゃん」
決死の覚悟を決めていたらしいヴァルゼルドの言葉に、力の抜けた少年は軽い調子で言う。
「いいえ、大佐殿! 自分は、大佐殿に一生憑いて行きたいのであります!!」
「憑いてって、おいおい。というか、一生って言われても絶対ヴァルゼルドの方が長生きだと思うけど……」
やけに熱血モードに入っているヴァルゼルドに目を点にして呆然とする少年。
中々進まない話にアルディラは、苦笑しつつヴァルゼルドに助け舟を出した。
「彼はね、貴方の護衛獣にして欲しいって言ってるのよ。貴方、ロレイラルと相性が良いからちょうどいいんじゃない?」
「いや、それはすごく嬉しいけど。なんだか上下関係な感じがしない?」
堅苦しい関係が苦手な少年は、護衛獣という肩書きに首を捻る。
「貴方って変なところに拘るのね。それなら別にパートナーとでも置き換えればいいじゃない」
「おお。アルディラさんからそんな言葉が聞けるとは!?」
手を打ってなるほどと頷く少年の言葉にアルディラは一瞬ムッとなったが、まあ注意したところで治るようなものでないので諦めた。
ヴァルゼルドは、少年の答えを今か今かと待ちわびている。
「それじゃあ、お願いしようかな」
「は! 大佐殿のお役に立てるように頑張るのであります!!」
少年の言葉にヴァルゼルドは、ピロリロピリリと嬉しそうな電子音と共に叫んだ。
「ふ、これからキミは、少佐だ。敵から隠れる時は、ダンボールを使用し、グラビア写真を見つけたら匍匐全身をせねばならぬぞ」
「了解であります、大佐殿ぉ!」
ここに、ヴァルゼルド少佐が誕生した。
本日の主人公パラメータ
Lv.39
クラス-無界の剣術師(裸な大佐)
攻撃型-縦・短剣(魔眼の短剣)、横・刀(テンセイ)、横・杖(聖光の杖)、射・銃(コードリボルバ)
HP370 MP410 AT220 DF180 MAT310 MDF230 TEC175 LUC90
MOV5、↑4、↓4
召喚石4
防具-着物(ウラシシュウ)
特殊能力
誓約の儀式(真)・全、送還術
見切、俊敏、威圧、バックアタック、ダブルムーブ、アイテムスロー、的外れ
サルトビの術・落、身代わりの術・嘘、居合い斬り・不、フルスイング、ストラ、バリストラ
召喚クラス
機S、鬼A、霊A、獣B
装備中召喚
ヴァルゼルド、機神ゼルガノン、狐火の巫女、天使ロティエル
本日のヴァルゼルドのパラメータ
Lv.24
クラス-守護機兵(潜入少佐)
攻撃型-突・ドリル(スクリーマ)、射・銃(セブンシールズ)
HP231 MP108 AT141 DF137 MAT64 MDF60 TEC88 LUC60
MOV3、↑2、↓3
召喚石1
防具-装甲(ゴードアス115)
特殊能力
スペシャルボディ、眼力、放電
召喚クラス
機C
装備中召喚
反魔の水晶
オリ特殊能力解説
<主人公>
誓約の儀式(真)・全-誓約者と同じ召喚法。
送還術-召喚術の前身となった正しき術。相手の召喚術を強制的にキャンセルする。ただし、超遠距離やSランクの召喚術は防げない。
サルトビの術・落-下段にのみ高さを無視した移動が可能。ただし、着地後、数ターン移動力低下。
的外れ-距離が離れると間違った対象に命中する可能性大。
身代わりの術・偽-身代わりと入れ替わって攻撃を回避できる……わけではない。身代わり(盾)で被ダメージを減らす。
居合い斬り・不-見よう見真似の居合い斬り。鋭く素早い攻撃が……できる時もある。
フルスイング-横切りタイプの攻撃力が1.2倍になる。
オリ召喚石
<主人公>
ヴァルゼルド-護衛獣の誓約を結ぶことで修得。
召喚魔法名
ユニット召喚:参戦:C:いつでもどこでも「カモン、少佐!」
スパーク:攻撃:C:放電の強化版
衛星攻撃・β:攻撃:B:範囲攻撃
第二兵装:防御:A:協力召喚によって機界ロレイラルからヴァルゼルドの追加兵装を召喚。対物・対魔法シールドを展開。
第三兵装:攻撃:S:協力召喚によって機界ロレイラルからヴァルゼルドの追加兵装を召喚。極太レーザーで薙ぎ払う。