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No.2746の一覧
[0] 無限界廊の異端児(サモンナイト オリ主最強)[もにもに](2011/12/29 00:41)
[1] 無限界廊の異端児 第1話 準備開始・日常編[もにもに](2008/03/12 06:49)
[2] 無限界廊の異端児 第2話 毎日鍛錬・悪戯編[もにもに](2008/03/14 19:45)
[3] 無限界廊の異端児 第3話 召喚事情・大佐編[もにもに](2008/03/14 19:45)
[4] 無限界廊の異端児 第4話 無限界廊・教師と生徒編[もにもに](2008/03/14 19:44)
[5] 無限界廊の異端児 第5話 作戦開始・観察編[もにもに](2008/03/17 17:48)
[6] 無限界廊の異端児 第6話 先生登場・制裁編[もにもに](2008/03/20 05:51)
[7] 無限界廊の異端児 第7話 運命改竄・崖崩編[もにもに](2008/04/17 22:40)
[8] 無限界廊の異端児 第8話 召喚事故・龍姫編[もにもに](2008/04/27 01:14)
[9] 無限界廊の異端児 第9話 不協和音・送還編[もにもに](2008/05/14 23:23)
[10] 無限界廊の異端児 第10話 意味深姫・店番編[もにもに](2008/06/12 20:09)
[11] 無限界廊の異端児 第11話 事件同発・天罰編[もにもに](2008/09/18 22:46)
[12] 無限界廊の異端児 第12話 完全解禁・混沌編[もにもに](2008/09/22 16:27)
[13] 無限界廊の異端児 第13話 汚染増殖・噴出編[もにもに](2008/11/18 22:42)
[14] 無限界廊の異端児 第14話 最終形態・修正編[もにもに](2009/07/16 14:31)
[15] 無限界廊の異端児 第15話 時空干渉・新生編[もにもに](2010/06/27 22:08)
[16] 無限界廊の異端児 第16話 憑依秘奥・轟雷編[もにもに](2010/06/27 22:10)
[17] 無限界廊の異端児 第17話 紅嵐到来・発覚編[もにもに](2010/06/29 02:52)
[18] 無限界廊の異端児 第18話 黄昏無双・降臨編[もにもに](2010/07/06 02:10)
[19] 無限界廊の異端児 第19話 鬼神邂逅・真剣編[もにもに](2010/09/17 00:50)
[20] 無限界廊の異端児  幕間 紅者軌跡・龍姫談合[もにもに](2010/09/21 09:33)
[21] 無限界廊の異端児 第20話 黄昏無双・降臨編[もにもに](2011/05/03 02:20)
[22] 無限界廊の異端児 幕間 終焉拡大・家族再会[もにもに](2011/06/02 09:26)
[23] 無限界廊の異端児 第21話 最終決戦・突入編[もにもに](2011/12/29 00:39)
[24] 無限界廊の異端児 第22話 最終決戦・混迷編[もにもに](2012/12/07 01:56)
[25] 無限界廊の異端児 人物設定[もにもに](2008/06/12 07:39)
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[2746] 無限界廊の異端児 幕間 終焉拡大・家族再会
Name: もにもに◆2285b348 ID:49223a48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/02 09:26





無限界廊の異端児

 幕間 終焉拡大・家族再会







 封印の魔剣が相次いで暴走したことにより、遺跡に封印されていた島の意志・核識がついに目覚めた。怒りと悲しみに満ちたハイネル・コープスの残滓、それが現在の島の意志――ディエルゴ。ディエルゴの意志に呼応し、島全体から亡霊が溢れ出し、悪魔達が住まう霊界サプレスの底をひっくり返したような状態となっていた。
 それぞれの集落で亡霊たちを撃退するのも限界があることは分かりきっていたため、護人たちを筆頭に戦える者達が島中の住民達をカイル一家の海賊船がある海岸へ避難をさせている。加速度的に増加する亡霊たちが島を埋め尽くすのも時間の問題だった

「まさか郷を捨てておめおめと逃げることになるとは」

 島の住人を避難が完了した段階で海賊船の一室に集まった面々は深刻な表情で顔を突き合わせていた。

「仕方ねぇだろ。今の状況じゃあ立て篭もって戦うにしても分が悪過ぎる」

「ヤッファの言うとおりだわ。核識が完全な形で復活していたら島にいる全員が意識を乗っ取られていたはずよ」

「そうですね。……核識が目覚める前に封印の魔剣を二本とも破壊したから核識も不完全な形で復活することになったんだと思います」

 無色の派閥とイスラとの戦いが終わった後、ヴァルゼルドと共に住民の避難を手伝っていた真樹は住民達の避難が完了すると瀕死の状態で辛うじて意識を保っていたイスラを拉致して姿を消してしまっていた。現在の状況を招いた張本人でありながら事態を収拾することなく姿をくらませるなど無責任にも程がある。
 無色の派閥の始祖たちは、世界に存在する全ての事象・存在とエルゴを繋げていると言われる不可視の魔力の繋がりである共界線クリプスを支配することで界の意思エルゴに成り代わり、全世界を支配しようと考えていた。その実験場たるこの島の核たる意識である核識は、刻一刻と共界線から送られてくる膨大で様々な情報を瞬時に分析し、即座に対応できるほど強い精神力と魔力を兼ね備えた人物だった。護人のアルディラとヤッファを護衛獣として召喚したファリエルの兄であるハイネル・コープスがその核識である。
 核識は島の中に存在するものであるならば生き物だろうと無機物だろうと共界線を経由して自由に操ることができる。大昔に無色の軍勢を島から追い出したハイネルは、島そのものを変幻自在の武器として使役した。しかし、その代償としてハイネルの精神は核識としての負荷に耐え切れず崩壊していった。島全体で行われた血肉を削る戦いに倒れていく者たちの痛みや悲しみ、怒りや恨みといった感情だけでなく、焼かれる木々の呻きや砕け散る大地の苦しみさえ我が身のことのようにすべてを受け止めながら戦うにはハイネルという男は優しすぎた。無色の始祖たちが持ち出した封印の魔剣に倒されるより先にハイネルの精神は取り返しがつかないところまで崩壊していた。

「そんな壊れてしまった兄の精神を核にした怨念の結合体。それが、おそらく今の遺跡に宿った意志の正体なのでしょう」

 現在の状況や魔剣の意志に触れていたアティの証言をもとにアルディラやファリエルはそう結論付けた。

「ハイネルの抜け殻を被った怨念たちが遺跡の力で復活しようとしてるってのかよ」

 護衛獣としてだけでなく、気の合う友人としてハイネルを知っているヤッファは苛立たしげに拳を叩いた。

「ディエルゴの“ディ”は、王国時代の言葉で“否定”や“対立”の意味を持つわ……“界の意思エルゴではない”、さしずめ“界の意思エルゴの敵対者”ということね」

「“狂った島の意思エルゴ”と考えるのが、一番理解しやすいですね。きっと……」

 護人たちの説明を聞き、カイルたちは騒然となった。
 これから自分達が対処しなくてはならない問題の根源が世界の意思だというのだ。途方にくれてしまうのも仕方がない。
 しかし、ここで手を拱いていてはディエルゴが完全に復活してしまう。この島に住まうものたちに残された時間は一刻の猶予もない状態なのだ。

「状況を打破する方法はただ一つ。遺跡の中枢部、核識の間に乗りこんで核識の玉座に巣食っているであろうディエルゴを叩いて再封印をすること」

 それは昔に無色がハイネルを封じるときにとった作戦と同じだった。護人たちには複雑な思いがよぎるもこれが一番効果的な方法であることに変わりはない。それが島を救う唯一の方法なのだ。

「しかし、肝心な封印はどうするのですか? 封印の魔剣は二振りとも砕けてしまっている。しかも、現在の魔剣所持者たちは揃って行方知れず……」

 ヤードの指摘にカイル一家も護人たちも顔を顰める。
 現在の異常事態を正すために必要な鍵である魔剣を保有し、単純に戦闘能力という面でも一番必要な存在である真樹は、誰に告げることもなくイスラを連れて消えた。フレイズやマルルゥなどの空を飛べる者たちで捜索を行っているものの亡霊たちで溢れ返っている現状では発見も難しい。ようやく分かり合える可能性を得たイスラが命に危険が残る状態でいなくなっているため、アズリアもギャレオと共に捜索に出ているがやはり亡霊たちの存在が捜索活動の障害になっている。

「そうねえ。正当な適格者の手元に魔剣が戻っても、今の先生たちに戦わせるのは少し酷でしょうし……マキとイスラを探すしかなさそうね」

 重い沈黙が続く室内でスカーレルはため息混じりに壁向こうの部屋にいるアティたちを気遣うように言った。
 現在、隣の部屋には先の戦いで戦闘不能な状態で置き去りにされていた紅き手袋の暗殺者の二人が寝かされている。真樹の圧倒的な力の前に叩き潰されたことで心身ともに疲弊しきった彼らの看病についているアティとアリーゼもまた精神的なショックを受けており、すぐに戦場に立てる状態ではなかった。

「んもぉっ! こんなときにあの変態はどこいっちゃてんのよ!」

 逼迫した現状とアティたちの気持ちを考えると真樹の身勝手な行動がどうしても許せないソノラがみんなを代表して雄叫びを上げた。






 ソノラの雄叫びを壁越しに聞いた隣室の面々は、このままではいけないと思いつつ動けないでいた。
 二つ並んだベッドには、紅き手袋の暗殺者である【紅の兇刃】の称号を持つ赤髪の青年とその教え子にして相棒である【紅の射ち手】の称号を持つ金髪の少女が寝かされている。少女の傍には鬼妖界シルターンの住人である火焔妖が浮いており、アリーゼの護衛獣として契約した天使の子供であるキユピーと「ビービー」「キュピキュピ」言いながら戯れている。緊張した様子で見詰め合っている主人たちと違い、護衛獣たちはすぐさま意気投合していた。

「え、えっと……身体は大丈夫ですか? ……ベル、フラウ、ちゃん」

「問題ありませんわ、お姉さま」

 アリーゼにベルフラウと呼ばれた少女は“お姉さま”という部分を強調するように素っ気無く答えた。

「先生と違って、わたくしのフォイアルディアは擬似的な魔剣。ですから、たとえ砕かれてもキルスレスほど使い手に影響はありませんの。不愉快なことですけれど、あの化け物にも手加減されていましたからわたくしの方は、少し休めば大丈夫ですわ。……先生の方は、そうもいかないようですけれど」

 そう言いながらベルフラウは隣のベッドに寝かされたまま目覚めない赤髪の青年に視線を向けた。
 眠り続ける青年の傍らには、アティが腰を下ろしている。目覚めぬ青年の手を優しく包み、その温もりを確かめるように閉じられた瞼の端からは涙が零れていた。

「……レックス、兄さん。良かった……生きていてくれて、本当に良かった」

 アティは何度も確かめるようにそう呟き続けていた。
 無色とイスラとの戦いが終わり、ディエルゴが復活したことで亡霊たちが溢れ出した丘から撤退する中で真樹が一緒に連れてきた紅き手袋の暗殺者を見たアティは、幼い日に生き別れた兄の面影を赤髪の青年に見た。船まで撤退した後、意識を取り戻したベルフラウにその素性を尋ねたところ、驚くほど素直にレックスの正体をアティたちに話した。レックスは、幼いアティを故郷の村人たちに預けて旅に出たアティの実の兄であること。レックスの方は、イスラを通して早い段階からアティが実の妹だと予感しており、でき得る限り争いを避ける為にイスラと同時期に島へ流れ着いていたにも関わらず、オルドレイクたちが島に到着するまで隠れていたこと、影ながらアティの様子を見守っていたこと、などなど聞いてもいない部分まで事細かに語った。

「レックスさんが先生のお兄さんなのはわかったけど……ベルフラウちゃんは、どうしてわたしのことをお姉さまって呼ぶの」

 目覚めぬレックスの手を握るアティの様子に話しかけることができないアリーゼは、初対面のはずの自分を姉と呼ぶベルフラウに質問した。レックスの素性は事細かに話したがそこから先のベルフラウについてはまだ何も語っていない。アリーゼの問いにベルフラウはキユピーと戯れていた火焔妖を招きよせ、腕置きの様に胸元に抱きしめてため息混じりに話を始めた。

「帝国のとある街に大層なお金持ちの商人がおりましたわ。今からほんのすこし昔、その商人のお家に待望の子供が生まれましたわ。けれど、御産に立ち会った産婆や使用人たちは、とても恐ろしいモノを見てしまった。その生まれたばかりの子供は、二人……片方はとても元気の良い赤子だったそうよ? その元気な赤子には、“アリーゼ”という名が与えられ、その商人のお家で大切に育てられました。――では、残ったもう片方の子供は、どうなったのでしょうね?」

 まるで他人事のように語るベルフラウの言葉にアリーゼは今にも泣き出しそうな表情になり、レックスの傍らに腰掛けるアティもまた今は目を開き、ベルフラウの話に静かに耳を傾けている。

「“アリーゼ”じゃないもう片方の赤ん坊は、生まれたときから生きているのが不思議なほどに生気のない死んでいるみたいな赤ん坊でしたの。産婆と使用人たちは普段から良くしてもらっている商人のマルティーニ夫妻にいつ死んでしまうとも分からない赤子が生まれたということを知らせることができませんでしたわ。幸いなことにそのとき生まれた子供は二人。使用人たちは話し合いの末、後から生まれてきた死人のような赤ん坊のことはマルティーニ夫妻に知らせず、別のお家に預けてしまうことにしたのですわ」

 それが自分である、とベルフラウは詰まらなそうに言いながらアリーゼを見た。
 アリーゼはそんなベルフラウの視線から逃げることもできず、今にも零れそうな涙に瞳を潤ませていた。

「そ、それじゃあ……ベルフラウちゃんは、本当に――」

「先生が直々に調べてくださいましたのよ。個人的には、その赤ん坊がわたくしだと信じていますわ。誤解がないように言っておきますけれど、いまさら親元に帰りたいだとか、勝手に親元から引き離されただとか、そんなつまらないことで両親やお姉さま、当時の使用人たちを恨んでいるということはありませんから、そのつもりで」

 ベルフラウにとってレックスと出逢えたことがすべてであり、その要因となった過去を不幸だと思うようなことは一切なかった。
 気にしないというベルフラウの言葉を得ても、聞かされた内容が内容だけにアリーゼは複雑な思いだった。アティと共にこの島へやってくるまで自分の境遇を籠の中の鳥であるかのように思っていたアリーゼは、血を分けた双子の妹が自分とは比べモノにならないほど辛い道を歩んできたことを知り、自分がどれほどの幸運の下にあったのかを理解してしまった。アリーゼとベルフラウは、文字通り鏡合わせの存在だった。奇しくもアティとレックスという兄妹にそれぞれ師事することになり、このような騒乱の中で再会した。どこまでが偶然で、どこまでが必然だったのかは誰にも分からない。
 しかし、確かに別たれたはずの、出逢うことなどありえないはずの彼女らは出逢った。互いの存在など知らずに生きていくこともできた。けれどレックスの生存を知ったアティとベルフラウの存在を知ったアリーゼは何かを償わなくてはいけないと感じていた。両親を失って精神的に危険な状態だった幼いアティを支え続け、アティが立ち直った後は過酷な復讐の道を歩み続けたレックス。後に生まれ、病弱だったという理由で両親に知られることもなく別の家に里子に出され、そこから血塗られた道を歩むことになったベルフラウ。辛いと思っていた自分達の人生よりも過酷な道を歩んできた兄妹たちに自分達が何をしてあげればよいのか分からなかった。
 そのような思いが表情に出ていたのかベルフラウからため息混じりに二人の考えを否定した。

「わたくしたちに同情しているのでしたら見当違いですわ。わたくしは貴女方に償いを求める為にわたくしたちのことを話したわけではありませんの」

 そう言いながらベルフラウは部屋を見渡し、さらに精神集中を行い付近に存在する魔力を索敵すると再びアティとアリーゼに視線を戻した。

「先ほどお話しました通り、わたくしの名は先生につけて頂いたものですの。ですのにあのマキという殿方は、名乗ってもいないのにはっきりとわたくしのことを『ベルフラウ』と呼んでいましたの。……先の戦闘での理不尽なまでの力といい、一体何者ですの?」

 島の遺跡で始めてあったときから自分やレックスのことを理解していた素振りだった真樹の存在がベルフラウにはどうしても腑に落ちなかった。
 真剣な眼差しで問いかけてくるベルフラウにアティもアリーゼも戸惑うように互いを見やり、申し合わせたように首を横に振った。

「な、何者と言われても……」

「私たちも詳しくは知らないの。喚起の門の暴走で名も無き世界から召喚されて、メイメイさんが面倒を見ていたらしいんですけど……」

 それなりに付き合いのあった、というか何度も絡まれていたアティにしても真樹があれほどの戦闘力を持っていたことは信じられず、ただの変態少年という印象しかなかったほかの者達にしても、先の戦闘には驚かされていた。アルディラやファリエルの話では、その力の片鱗は見せていたそうだが、どこであれだけの力を手に入れたのかは知り得ていなかった。

「あれほど強大な魔力は裏の世界でも聞いたことがありませんわ。名も無き世界から召喚された者はあれほどの力を持っているのかしら? ……そんなはずありませんわね。あれほどの化け物が当たり前のように存在する世界なんて薄ら寒いですわ」

 ベルフラウは自ら口にした推測をすぐに否定した。アティたちもそれには同意している。
 真樹の強さを自分達の尺度で考えても答えは出ないとアティたちもすでに諦めていた。

「貴女たちも知らないというのであればご本人に確かめるしかありませんわね。あの方から有益な答えが頂けるとも思いませんけど」

 ため息混じりに言うベルフラウにアティとアリーゼも互いに顔を見合わせ、いい笑顔で突拍子もない大嘘をベルフラウに聞かせる真樹のおちゃらけた姿が目に浮かんでいた。

「それで? 外は非常事態のようですけれど……貴女たちの最高戦力はどちらにいらっしゃいますの?」

 戦場で倒れた後、海賊船に運ばれてから一歩も外に出ていないはずのベルフラウだが、隣の部屋から聞こえる話し声や外の魔力を感じることで大体の状況を掴んでいた。そして、魔剣がレックスとアティの手から消えた今、現状を打破できる可能性があるのは真樹だけだということも知っていた。これから対処しなければならない存在は、無色の派閥など比べ物にならないほどの脅威であり、封印の魔剣を持つ者がいたとしても打倒できるかどうかも定かではない。ディエルゴという怪物を打倒するには、それと同等以上の化け物の力が必要であり、それは真樹をおいて他にいない。

「呼ばれなくても現れて、自分勝手に場を引っ掻き回して笑いながらみんなを助けてくれる……変わったところも多いですけど、マキ君はきっとみんなを助けてくれますよ」

「アリーゼ?」

 なにやら遠い目をして微笑むアリーゼの言葉にアティが呆気に取られたように頭を傾げる。

「だって、最近は先生たちにえっちなこともしてないじゃないですか。きっと改心したんだと思います。えっちじゃないマキ君なら信じられますよ。ね、先生?」

「そ、そうです、ね?」

 まるで真樹が羨望の的であるかのように語るアリーゼに若干の危機感を感じるアティだった。
 帝国軍に囚われていた竜骨の断崖での出来事からアリーゼは真樹に対して自分の理想を被せて見ているところがあり、エロ成分が薄まった真樹に少なからず憧れ始めている状態のアリーゼに対し、直接的な被害を受け続けていたアティはいまだに真樹のことを変態少年という色眼鏡でしか見れないでいた。しかも、現在では手の付けようがない強大な力を持った変態にランクアップしているので次に真樹が暴走したら自分だけでなく、島中の女の子の貞操も危ないと危惧している。そのような中で大事な教え子が第一の毒牙に掛かってしまう可能性があるのは温厚なアティでも許せないことである。島の騒動が解決しても真樹の騒動がなくならない限り、アティに安寧の時は訪れないのである。
 夢見る乙女な表情のアリーゼとその姿に頭を抱えるアティを無表情に眺めるベルフラウ。微妙な空気が立ち込め始めていたところに大きな揺れが襲った。

「じ、地震?」

「これは……すごい魔力の脈動を感じますわ」


 ぐるるウォォォォォォァッ!!


「「「っ!?」」」

 大地を揺るがす咆哮は、先のディエルゴの雄叫びと同じものだった。
 しかし、今度の咆哮からは復活の歓喜も世界への憎悪も含まれない、ただ苦痛と恐怖が入り混じった悲鳴のように感じられた。

「せ、先生……もしかして」

「はい、たぶんマキ君が戦っているんだと思います。私はみんなのところに行きます。アリーゼはベルフラウちゃんと兄さんをお願い」

「わ、分かりました。先生もお気をつけて」

 何の知らせもない事態の急変にアティも状況把握の為に動き出すしかなかった。
 隣の部屋からも慌しい動きが感じられ、それが船全体に広がっていた。
 いよいよ事態は佳境へ向かって動き出す。





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