無限界廊の異端児
第17話 紅嵐到来・発覚編
かつて、無色の派閥という召喚師の集団がとある目的のため、この島に建造した莫大な魔力を生産する施設と、それによって起動する【喚起の門】。無色の派閥にとって、その施設と門は副産物でしかなかった。この島に四世界からさまざまな召喚獣を喚び寄せ、共存できる環境を築き上げたのは彼らにとって前段階でしかなかった。無色の派閥が達成しようとした真の目的、それは人の手で界の意志を作り出すことだった。
リィンバウムとそれを取り巻く四世界の形ある全てのモノは、界の意志から別れて生じており、遡りきれないほど別れてしまった現在でもすべてのモノは見えない力で界の意志と繋がり、その影響を受けている。無色の派閥はその見えない力の繋がりを共界線と名付けた。それを支配することにより、世界そのものを自由に操作することが可能となる。
人の意志をもって界の意志に成り代わるという理を覆すための方法を、無色の派閥は模索していた。その過程で実験施設として作られたのがこの島だった。
研究は着実に完成へと向かっていたが、ある問題によりその目的は達せられなくなる。
共界線と名付けられた見えない繋がりは、一方通行の道ではなく、影響を受けるモノと界の意志との間で、常に思念を循環し続けているものだった。生き物だけでなく、植物、鉱物に至るまであらゆるモノから送られてくる莫大な情報の奔流。そのすべてを同時に把握することは、人間には不可能だった。共界線に接続する装置の制御中枢である「核識」となるために何人もの召喚師が実験に挑み、犠牲となっていた。
しかし、そんな中、限られた時間ならば「核識」として完全な力を発揮し得た召喚師が、たった一人だけ現れた。
その召喚師の名は、ハイネル・コープス。現在の四人の護人たちと深い関わりのある男だった。無色の派閥の幹部たちは、そんなハイネルの存在を危険視し、嫉妬と畏怖の念を募らせることとなり、ハイネルの命諸共、全てを抹消するという強硬手段に打って出た。例え、自分たちが作り出した力だったとしても、それが自分たちの思い通りにならず、たった一人の召喚師のモノとなる。無色の派閥がそれを看過できるほど柔軟な体勢の組織ではないのは過去も現代も変わらない。
地上の楽園たり得るこの島を心から愛していたハイネルは、この島とそこに暮らす召喚獣たちのために「核識」となり、無色の派閥に抵抗する道を選んだ。
限界を越えて力を酷使し続けたハイネルは、魂の限界を迎えつつあった。さらに戦いの最終局面で無色の派閥が投入した二振りの魔剣。『碧の賢帝』と『紅の暴君』に力を封印されたことでハイネルの抵抗は完全に抑えられ、永劫の眠りへと堕とされた。
ハイネルが施設と共に封印された後、護人となると決めたアルディラ、ヤッファ、キュウマ、ファリエルは生き残った施設の機能を利用し、召喚術を身につけると共に無色の派閥が残した研究成果をもとに儀式で心身を強化改良することで、この島に限定して構築された共界線から魔力を引き出す術を学び、その範囲内でのみ護人たちは抜きんでた戦闘能力と不老に等しい寿命を得た。その力を用いて戦後の島をそれぞれの集落に分け、各集落をそれぞれの護人が守護するという現在の形が出来上がった。
核識として封じられたハイネルを解放するために動いていたアルディラ。それを止めようと動いていたファリエル。二人の思いはどちらも心の底からハイネルを愛しているからこそであり、言葉の上では封印の鍵である『碧の賢帝』に選ばれ、ハイネルと同じく核識となりえる資質をもったアティの決断に任せると言ったアルディラとファリエルだったが、どちらも他人の決定に素直に従うことができるのならば始めらか拗れることなどなかった。
すべてを知ったアティは、二人の気持ちを聞き、自ら考えて答えを出した。どちらの願いが正しくて、どちらの願いが間違っているなどアティでなくとも決められない。
しかし、現実は答えを惑わせるほど曖昧な決断を受け入れてはくれなかった。
「封印をしましょう。遺跡を復活させるのは、やっぱり危険すぎます」
アティの言葉にアルディラが目を見開き、ファリエルが少し悲しげに目を伏せた。
「アルディラ、ごめんね」
かつて、ハイネルと将来を誓い合っていたアルディラ。そのことを知ったアティは悩んだ。本当ならばアルディラの願いを叶えてあげたい。それによる代償が自分一人で済むのなら躊躇せずに核識となってハイネルを解放しようとしていただろう。しかし、その方法によって起きるであろう問題は、アティ一人に背負えるほど小さなものではなかった。自分のことより、他の誰かのことを大切にするアティは、アルディラ一人の願いを叶えるために他のみんなを危険に晒すような選択はできなかった。
「ふふふ……やっぱり、そういう答えになるのよね」
「アルディラ……」
「封印なんて、絶対にさせないわ!」
アティが苦悩の末に出した結論も最も愛する者の復活を願うアルディラにとって受け入れることができ
るはずがなかった。一度はアティの言葉に従うと約束するも、たとえ融機人だったとしても愛という最も強く、最も危うい感情を抑えることができなかった。
「なんと言われたって、こればっかりは納得できないッ! 私が護人になったのは、帰ってくるあの人の居場所を守るため。この島も、私自身も存在する価値なんてありはしないわ!!」
「義姉さん……貴女は、そんなにも兄さんのことを……」
自身の行動が間違っていると理解していても感情を抑えられず、涙ながらに抵抗しようとするアルディラの姿にファリエルが哀しげな言葉を投げかける。
「どうしても封印を行うというのなら……私を倒しなさい! 私を壊しなさい! 壊して、全部……終わらせてよぉっ!」
周囲の哀しげな視線に自分の行為の愚かさを理解し、それでも止まらない叫びに魔力が反応し、無差別にまき散らされそうになる。
「申し訳ありません、アルディラさま」
「……っ!」
今にも魔力の衝撃波が放たれようとした瞬間、いつの間にか集いの泉へとやって来ていたクノンが泣き叫んでいたアルディラの頬を打った。
「いい加減になさい、アルディラさま!」
始めて聞くクノンの強い口調にアルディラも一瞬、呆気にとられ、荒れていた魔力も終息していった。
「忘れてしまったのですか? あの方が最後に何を望んで眠られたのかを……」
諭すようなクノンの言葉。その言葉でアルディラは、かつて戦いに赴くハイネルが笑顔で願ったことを思い出す。
< 生きて、幸せになって、この島を笑顔で満たして欲しい。君が……みんなが笑っていてくれることが
僕にとって、一番うれしいことなんだ >
その言葉は、ハイネルの夢そのものだった。
それはどれほど時が過ぎようと、どれほどの哀しみに苛まれようとも決して忘れてはならない“記憶”だった。
それを願うだけでなく、それが必ず叶うと信じていたハイネルの笑顔をアルディラは昨日のことのように鮮明に思い出した。
クノンの説得により現実を受け入れたアルディラは、アティやファリエルと協力して遺跡を封印することを決めた。
やはり、心残りはあった。それでもハイネルが望むモノは、かつて束の間の幸せを得ることができた過去ではなく、これから始まる未来を幸福なモノへとしていくことだと悟ったアルディラは、ハイネルを語り、アティの身体を乗っ取ろうとした遺跡に宿る意思に抗い、その封印を行った。
気持ちの整理ができるのはまだまだ先になるだろうが、過去に縋っていたアルディラもようやく、ハイネルの願った未来へと続く一歩を踏み出せるようになるだろう。
「って感じのノーマルエンドも悪くはないと思ってたりするわけなんだがな」
アティたちが拠点であるカイル一家の海賊船に戻り、帝国軍の挑戦を受けているのと時を同じくして、『碧の賢帝』に封印された遺跡の内部に潜伏していた真樹は招かれざる客に囁きかけた。
「……そんな曖昧な終わり方、誰も望んでなんかいないんじゃないかな?」
真樹の言葉に若干の驚きを感じながらもいつも通りの笑い顔で応える少年、イスラ。後ろにはフードを深く被った二人組を従えていた。その装いから紅き手袋の関係者であると真樹は当たりをつけた。
「ま、そりゃそうだ。一番それを望んでねえ奴がここに来てるんだしな」
他人をあざ笑うかのようなイスラの笑い顔を真似たような笑顔で真樹は挑発するが、本家本元のイスラに通じた様子はない。
「仲良しこよしの仲間にしては、案外強かだね。君の方が僕なんかよりよっぽど諜報員に向いてるんじゃない?」
「無理無理。お色気誘惑に一発で引っかかる俺を諜報員として使おうって阿呆な組織があったらぜひ入ってみたいね」
「ははは、やっぱり君はアティたちとは違うね。君さえ良ければその阿呆な組織に推薦してあげてもいいよ?」
本気かどうかわからない軽い調子でいうイスラに真樹はとても魅力を感じていた。メイメイと謎の龍姫に“キョセイ”されてしまった真樹だったが、その心の奥底にあるエロ道はなんら陰りを見せていない。
その証拠にミスミとスバルがケンカした際にわざわざアティに対面する位置に移動して寝ころんだのも正座をしているアティのミニスカから溢れる瑞々しい太ももと秘密の隙間を存分に堪能していた。メイメイと龍姫のこともあり、自重している真樹であるが、完全なエロ抜きはできなかったのだ。
そんな真樹が思い描くのは、イスラの誘いに乗った自分の妖しい蜜色の未来。
「……素晴らしい」
「………」
とてつもなくだらしない表情になり、「デヘヘ」という気色の悪い笑い声を洩らす真樹にさすがのイスラも引いていた。
「先ほどから黙っていれば、いったい何を遊んでいるつもりですの?」
「あ、遊んでいるつもりはないよ。ちょっとした言葉の駆け引きさ」
真樹の本性の一端に直接触れてしまったイスラが引き攣った笑みで苦しい言い訳をする。
「こんな気持ち悪いゴミと会話するだけ、時間の無駄ですわ。さっさと目的を達して戻りますわよ」
イスラに対して尊大な物言いをするのはフードを被った二人組の小さな方だった。声色からまだ年若い少女であると真樹は判断した。その声と口調にどこか聞き覚えがあるように感じ、涎を拭きながら真樹は首を傾げた。
「ん~? なあ、イスラ。その偉そうな嬢ちゃんって紅き手袋、てかオルドレイクお抱えの暗殺者かなんかなのか?」
「「!?」」
妙な既視感を与える少女の正体が気になった真樹は知っている情報を惜しげもなく発揮し、イスラに問う。
真樹の言葉に驚きを隠せず、イスラと少女がそれぞれ武器を取って構える。
「……こいつ、いったい何者ですの?」
「僕が知ってるのは、この島の遺跡に召喚された名も無き世界の住人で軟派な性格だけど、武芸も召喚術も尋常じゃないくらい強いってことくらいだよ」
少女の問いに応えたイスラの評価に真樹は照れた様子で頭を掻きながら体をくねくねさせる。
「そんなに褒めてもお前の尻は貰えないぜ? いくら女顔でも♂とナニする勇者にはなれないんだ。許してくれ」
「ぅっ……」
真樹の行き過ぎた勘違いによる返答に鳥肌が立ってしまうイスラだった。
そんな様子を見せられ、肩を震わせていた少女から大きな魔力が発せられた。
「く、このナマモノ! わたくしが黙らせて差し上げますわ! いきますわよ、オニビ!」
「ビービビー!」
吹き荒れる魔力の風に呼応するように輝き始めるオニビと呼ばれた鬼妖界シルターンの召喚獣である火焔妖が輝きだす。
真樹にとってこの程度の魔力は何ら脅威に感じることはない。今の真樹と対等に渡り合うには、メイメイクラスの特殊な術者か、封印の魔剣を持つアティだけである。そんな真樹を驚愕させるほどの実力は、この少女にはない。しかし、従える召喚獣と吹き荒れる魔力の風によりフードがおろされて露わになった顔を見てしまった真樹は、遺跡復活の阻止という当初の目的を失念してしまった。
そして、そこに小さな隙が生まれる。
時を同じくして、アティたちの前に封印したはずのシャルトスが舞い戻り、遺跡から血のように紅い輝きが天へと立ち昇るのを確認することになる。
後日、調査のためアルディラとファリエルが遺跡を訪れると凄絶な戦闘があったことを物語るように数々の破壊痕が残る一画の隔壁にめり込み、服装のみがボロボロになりながらもぐっすりと眠る真樹だけが発見され、遺跡の封印が解けたという確証は得られなかった。
本日の真樹のパラメータ
Lv.104
クラス-四界の統率者
攻撃型
横・短剣(千斬疾風吼者の剣)、横・刀(銘刀サツマハヤト)、横・杖(怨王の錫杖)、投・投具(柳生十字
手裏剣)、射・銃(NC・ブラスト)
MOV7、↑6、↓6
耐性-機・大、鬼・大、霊・大、獣・大
召喚石6
特殊能力
誓約の儀式(真)・全、送還術
見切、俊敏、先制、闘気、バックアタック、ダブルムーブ、勇猛果敢、心眼、絶対攻撃、狙い撃ち
異常無効<狂化・石化・沈黙・麻痺>、アイテムスロー
サルトビの術、居合い斬り・絶刀、抜刀術・驟焱、フルスイング・改、ストラ、バリストラ、
憑依剣、煩悩封印
特殊武装-縦・刀(神刀・布都御魂)
召喚クラス-機S、鬼S、霊S、獣S
護衛獣-ヴァルゼルド
装備中召喚石
機神ゼルガノン、ヴァルハラ、天使ロティエル、聖鎧竜スヴェルグ、龍神オボロ、ジュラフィム
オリ特殊能力解説
<主人公>
誓約の儀式(真)・全‐誓約者と同じ召喚法。
送還術‐召喚術をキャンセルする。誓約に縛られていない異界の存在ならば強制的に元の世界に送り返すことができる。
居合い斬り・絶刀‐距離・高度の射程が大幅に延長された居合い斬り。
抜刀術・驟焱‐抜刀と同時に前方を炎で範囲攻撃。
フルスイング・改‐横切りタイプの攻撃力が1.5倍になる。
憑依剣-武具に異界の力を憑依させる憑依召喚術の発展技術。
煩悩封印-真樹の潜在的な欲求を強引に封じ込めることにより、シリアス戦での出力3割増。ギャグ戦での出力3割引?