無限界廊の異端児
第15話 時空干渉・新生編
禍々しく忌々しい絶望のどん底のような悪夢に魘された真樹は、死相が色濃く出た表情で目覚めた。
周りは見慣れたシルターン風の内装と家具、壁に飾られた無限界廊で入手した武具の数々。部屋の隅に追いやられたリィンバウムの学習教材。
史上最悪の悪夢を見たこと以外は、いつも通りの朝のはずだが、真樹は釈然としない様子で布団から出た。
真樹の暮らすメイメイのお店の中にはさまざま施設があり、当たり前だが炊事場もある。
集いの泉から水が引いている井戸から水を汲み上げ、炊事場へと運ぶ。
そこで顔を洗ってようやく眠気が引いてく。
「……おかしい。絶対に何かあったんだ」
いつもと変わらない日常の風景。
しかし、何か物足りないと感じる。
そこにあるわずかな違和感に気付きながら、気のせいだろう、と楽観するほどの鈍感スキルを所持しているような真樹ではないが、何が足りないかは思い出せなかった。
簡単な朝食を作り、いつも通り食卓へと食事を運ぶとそこには見慣れぬ人物が待っていた。
「ほう、この香りは味噌汁とタキウオの塩焼きじゃな」
いつもは真樹の他にはメイメイしかいないはずの食卓に居た人物は、数週間前に出会った龍人の少女だった。
真樹は、その少女の前に運んできた食事を並べると両手を腰に当て、仁王立ちの様相で告げた。
「さあ。飢えた獅子の子の如く貪り食え!」
「ここは、吾の登場に驚くか訝しむかの反応を示すところではないかのう?」
そんなお約束を真樹に求めるのは無意味である。
如何にもな登場の仕方をしたこの龍姫の存在がいずれ自分の前に現れることを予見していた真樹は、目覚めの違和感から予想していたイベントのひとつとして、この龍姫のことを予め思い出していた。
「それはそうと、俺の嫁にならないか?」
突然なプロポーズを敢行する真樹。
時と場所と状況の一切を考えずに行われる真樹のプロポーズは常に失敗し続けている。
メイメイやアルディラ、ミスミ、アティ、アズリアに敢行してきたが、半数からはやんわりと断られ、半数からは鉄槌と共に拒絶されている。
それをこの場で敢行するあたり、いい具合に精神が壊れ始めているのかもしれない。
「ふむ。何の脈絡もむ~どもないが、そのまっすぐさに免じておぬしの想いを受けよう」
真樹も大概であるが、それに応じるというこの少女もまた大概な変人であるのだろうか?
たっぷりと一分は固まっていた真樹はようやく疑問の言葉を絞り出す。
「いや、冗談だよな?」
「おぬしも男ならば自分の言葉に責任を持て。何、おぬしに付ける首輪をメイメイと相談しておったところじゃ。吾自身がその鎖となるのならば間違いもないからのう」
「いや、いやいやいやいやいや。短い人生早まっちゃ行けませんよ、フロイライン」
「ふろいらいん? 意味はよく分からんが、安心せい。おぬしより吾の方が数百倍は長生きじゃ。吾の良き伴侶はおぬしの死後にじっくり探せばよい」
「ありえねー……」
それもまたすごい考えだが、真樹にとっては“首輪”という単語が引っかかっていた。
真樹の師であるメイメイがこの場にいないこと。
朝の不思議な違和感。
そして、本来ならば存在しないはずの龍姫の登場と“首輪”という言葉。
それらを思考の内でまとめた真樹は、とある結論に至る。
それは、メイメイの正体や能力を知るが故に思い至ることのできたこと。
「まさか、アンタら……歴史を変えたのか?」
「何のことじゃ?」
真樹の問いに龍姫は、素知らぬ顔で首をかしげる。
そんな龍姫を睨みつける真樹。
互いに不可視のオーラを纏いながら睨みあう視線と視線。そして、淀みなく動く箸。
龍姫が上品に味噌汁を飲むと真樹がずずずとわざとらしく音を立てて味噌汁を吸う。
龍姫が骨と皮をよけて魚を口に運べば、真樹は骨も皮もとらずに丸ごと焼き魚に齧り付く。
「……馳走になった。なかなかに美味じゃったぞ」
「そりゃどうも」
食後に熱いお茶を龍姫に出した真樹は食器を炊事場に持っていき、軽く水洗いしてから食卓へと戻る。
「……んで、俺は何を自重すればいいんだ?」
すでに自分が原因で超常の存在たちによって歴史が修正されたと確信している真樹は、真剣な表情で龍姫に問いかける。
そんな真樹の表情に龍姫はため息を漏らす。
「まったく。どれが本当のおぬしなのじゃろうな」
暴走した真樹がお馬鹿な珍事件を引き起こしたその尻拭いのために多大な労力を払った自分たちの苦労はなんだったのかと龍姫はさらに深いため息を漏らす。
「とりあえず、この島の騒動に区切りがつくまで不埒な行動を慎むようにしろ。吾から忠告できるのはその程度しか――って、をい!」
真樹の行動は早かった。
龍姫が言葉を終えるより先に天井の枠に荒縄を引っかけ、端に輪をつくりそれに自分の首を刺し込んでいた。
「俺からエロ成分を抜いたらおが屑しか残らない。そんな自分は見たくないんだ!」
真樹は泣いていた。
龍姫も泣きたい気分になった。
「このような阿呆を吾たちは頼りにしようとしておったのか……」
真樹のエロ暴走により、アティやその仲間たちに多大な心的被害が起こったことで時間を巻き戻すしかなくなった。
それを行った龍姫とメイメイは、その力を随分と失い、メイメイに至っては力が回復するまで集いの泉の底に作った結界の中で療養中である。
「……仕方あるまい」
そろそろ真樹を見捨てようかとも考えた龍姫だったが、メイメイの頑張りを無駄にするわけにもいかない。
「これは最後の手段だと言われておったが……(もぞもぞ)」
冷徹な微笑を浮かべた龍姫は、深く入っている衣装のスリットに腕を差し込むことで真樹の視線を釘付けにする。
「な、何をされようと俺のエロは奪わせないぞ! を、をれは一時的な快楽のために未来のエロを捨てるような現金な♂ではない!」
龍姫の艶めかしい表情と妖しい動作に両目をギンギンに血走らせながらも拒む真樹の言葉には、何の説得力もない。
が、真樹の期待した展開に行く手前で龍姫は手を出して、何かを真樹に投げてよこした。
「ほれ、ありがたく拝領せい」
「ん? こ、これは……!?」
ひらひらと舞い降りた一枚の布きれ。
きわどい角度と面積、高貴な紫にひかえめながらも美しい金の刺繍が施された布地。
「こここっ!」
真樹は奇声を発した。
「ととり、取りあえず落ち着くんだ俺! ひ、ひ、ふー、ひ、ひ、ふー………装着!! たら~ったら~!!」
取りあえず落ち着くことができずに混乱する真樹は、龍姫から受け取った布を頭部に装着した。
真樹は布を装着した頭を振り乱しながら不思議な踊りを踊った。
「すぇええええええええいッッッ!」
「ぐふぉあっ!?」
龍姫の見事な延髄蹴りが真樹を捉え、撃沈した。
倒れて痙攣する真樹の後頭部を踏みつけた龍姫が素晴らしい笑顔で囁く。
「それを自重しろといっておるのじゃが?」
「イェス、マム」
死んでもおかしくないような蹴りを受けた真樹もまた素晴らしい笑顔で屈服した。
踏まれることを嬉しいと思ってしまいそうになるひと時だった。
本日の真樹のパラメータ
Lv.99
クラス-四界の統率者
攻撃型
横・短剣(千斬疾風吼者の剣)、横・刀(銘刀サツマハヤト)、横・杖(怨王の錫杖)、投・投具(柳生十字手裏剣)、射・銃(NC・ブラスト)
MOV7、↑6、↓6
耐性-機・大、鬼・大、霊・大、獣・大
召喚石6
防具-兜(純白のトライアングル)
特殊能力
誓約の儀式(真)・全、送還術
見切、俊敏、先制、闘気、バックアタック、ダブルムーブ、勇猛果敢、心眼、絶対攻撃、狙い撃ち
異常無効<狂化・石化・沈黙・麻痺>、アイテムスロー
サルトビの術、居合い斬り・絶刀、抜刀術・驟焱、フルスイング・改、ストラ、バリストラ、
憑依剣、煩悩封印
特殊武装-縦・刀(神刀・布都御魂)
召喚クラス-機S、鬼S、霊S、獣S
護衛獣-ヴァルゼルド
装備中召喚石
機神ゼルガノン、ヴァルハラ、天使ロティエル、聖鎧竜スヴェルグ、龍神オボロ、ジュラフィム
オリ特殊能力解説
<主人公>
誓約の儀式(真)・全‐誓約者と同じ召喚法。
送還術‐召喚術をキャンセルする。誓約に縛られていない異界の存在ならば強制的に元の世界に送り返すことができる。
居合い斬り・絶刀‐距離・高度の射程が大幅に延長された居合い斬り。
抜刀術・驟焱‐抜刀と同時に前方を炎で範囲攻撃。
フルスイング・改‐横切りタイプの攻撃力が1.5倍になる。
憑依剣-武具に異界の力を憑依させる憑依召喚術の発展技術。
煩悩封印-真樹の潜在的な欲求を強引に封じ込めることにより、シリアス戦での出力3割増。ギャグ戦での出力3割引?