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No.9676の一覧
[0] 肉体言語でお話しましょ?(異世界召喚系・ヤンデレ+)[鉄腕28衛門](2013/07/10 20:28)
[1] 2話[鉄腕28衛門](2013/07/10 21:06)
[2] 3話[鉄腕28衛門](2009/06/28 03:16)
[3] 4話 修正3[鉄腕28衛門](2009/07/20 22:13)
[4] 5話[鉄腕28衛門](2009/07/19 05:31)
[5] 6話 修正1[鉄腕28衛門](2010/01/04 17:35)
[6] 7話 修正2[鉄腕28衛門](2010/02/19 14:10)
[7] 8話 修正2[鉄腕28衛門](2010/04/04 18:15)
[8] 9話[鉄腕28衛門](2009/12/31 15:08)
[9] 10話 修正1[鉄腕28衛門](2010/02/19 14:11)
[10] 11話 修正2[鉄腕28衛門](2010/02/23 00:55)
[11] 12話[鉄腕28衛門](2010/03/30 18:38)
[12] 13話[鉄腕28衛門](2010/07/03 22:28)
[13] 14話[鉄腕28衛門](2010/08/21 19:40)
[14] 15話 都市名を書き忘れるデカイミスを修正[鉄腕28衛門](2011/02/06 18:35)
[15] 16話[鉄腕28衛門](2013/07/10 21:11)
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[9676] 15話 都市名を書き忘れるデカイミスを修正
Name: 鉄腕28衛門◆a6c5bde7 ID:378a8448 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/06 18:35
 強くなりたい。いいね、分かりやすくて実にイイ。

 思いはすれど顔には出さず、トウガは少年の頼みを了承した。しかし――

「手合わせか。……なんでそんな事を考えた? それに知り合ったばかりの奴に頼むような話でもないと思うが」

「えぅっ? そ、それは……えと、その……」

 ジャンゴはトウガの問いにすぐには答えられなかった。言いづらい、というよりも自分の中で事の起こりを思い出そうとしたゆえ反応だったのだが、多少掘り下げた程度の質問にすぐ答えられないのは同時にこれが計画性の無い衝動的な行動だということも示している。

 どうやら彼の戦い振りを見て「強くなりたい」という思いが先行し、断られた時等の具体的な案もなく来てしまったようだ。利発そうな少年ではあるが歳相応の行動とも言えようか。

「……あの怪物達を前にして……怖くて、身がすくんで、体が動かなくて……」

 ゆっくりと、されど言葉を選ぶでもなくジャンゴは思ったことを一つ一つ口に出していく。内容はトウガから見てどれも特別変わったものでは無かったが、言い続けるうちに情けなさが増していったのか、ひとしきり言い終えた少年の頭はすっかり垂れ下がってしまっていた。

「ジャンゴ、お前年はいくつだ?」

「ぇ……年齢ですか? 先月9歳になりましたけど……ぁ、人間だと13か14ぐらいだそうです」

 想像よりもかなり下の数字に一瞬「9ッっ?」と驚いて目を見開きかけるが、ジャンゴが付け加えた言葉を聞きひとまずその声は押さえ込む。どうやら彼ら獣人は人間の約1,5倍程の早さで成熟するようだ。

 まぁその驚きは置いといて、トウガはごく当たり前だというふうに思ったことを言葉にする。

「人間年齢に換算してもお前ぐらいの年のヤツが争いを怖がんのは普通だよ。そんなに焦る必要はないと思うぞ」

 種族の違い、文化の違いなど自分の感性が普遍のものだと思えるはずも無いのは分かっているが、少なくとも初めて獣人達と出会った時にジャンゴも護られる側として扱われていたのをトウガは見ている。なので彼のそんな考えも特におかしなものではないだろう。

「――始祖返りなんです。僕は、強くなくちゃダメなんですっ」

「始祖、返り?」

「……僕や父さんみたいに獣としての姿を色濃く持った獣人の事です。獣人は姿や能力に多少の違いがあるけど、人類種の中でも人間とはかなり近いって聞きました。けど始祖返りは全く別物……」

 大人達に教わったのだろうか、淀みなく少年は説明を続ける。

「むしろ亜人種の怪物に近い見た目だし、能力も個々によって全然違うそうです。父さんは水系統の魔法に強い適正があるうえ、水の中ならマーマンにだって負けないって言ってましたよ」

 ちなみにこちらでは人間や獣人、会った事はないがトウガが融合した「この世界のトウガ」の記憶により存在だけは知っているエルフやドワーフなど、基本友好的な知的種族全般をさして『人類』や『人』と呼ぶ。そしてゴブリンやオークなど、凶悪な気性を持ちモンスターとも扱われる彼らは『亜人』と呼ばれていた。

 亜人=デミヒューマンは地球のファンタジー物だと人間以外全部が当てはまることが多いようだが、トウガはそんな区別の違いを深く気にすることも無いのであった。

「そいつぁすごいな」

「はい」

 少年は少しばかり誇らしいような返事をする。

 マーマンの水中戦闘力がどのようなものかトウガが知るよしもないが、魚のような移動速度を持つであろう存在に負けないと豪語出来るのは、やはりあのペンギンの姿がゴードンにそれに相応しい恩恵をもたらしているということなのだろう。

 そのうえ陸上でも熟練の戦士に劣らぬ戦いが行えることを考慮すれば、始祖返りという特徴がゴードンに戦闘面での驚くべき汎用性を持たせていると言えそうだった。

「でもそのかわりに父さんは、体力面とウルミの先頭に立つ者としての威厳が足りないのが悩みだってボヤいていましたけどね。初対面の取引相手にはいつも苦労しているみたいだし……」

 いくらか苦笑混じりに話していたジャンゴだったが、そこでその調子が急に落ち始める。

「……僕にもそういうところがあります。力や素早さは同年代の獣人より数段上のものを持つそうですけど、代わりに魔法の適正が全然ありません――まぁこれは魔法抵抗力の高さの裏返しっぽいんですけど。でも明らかにみんなより不器用なうえ、物覚えも良くなくて……。狼族の始祖返りの特徴だそうなんで、それらにも一応納得しています。でも、ならせめてっ、みんなの盾になれるぐらいの強さを早く身に着けないとっ……!」

 少年の内なる叫び、それに対して男は何と返せばいいのか分からなかった。

 成長すれば強くなるさ、そのように言うのが正しいのか? 昨日自分が現れなければ、少年は己を無力さを骨の髄にまで実感していたかもしれないのに?

 この大地で、強者の可能性を秘めた存在が弱いままだという事が罪と言えるのなら――



「――今までどうやって鍛えてきた? 武器は使うか?」

「っ! 手合わせ、いいんですかっ?」

 傍から見れば、少々特殊とはいえ子供が自分のワガママで知り合ったばかりの大人に面倒を掛けようとしているのだ。落ち着いて考えると嫌な顔の一つもされておかしくは無い。

 だがトウガは特にそんな素振りを出すことなく、さも当然というふうに頼みに応じる姿勢を見せた。

「飯の前に体を動かして腹を空かせるのも悪くない」

「ぁ、ありがとうございますっ。あ、えと、今までは筋力トレーニングとかが大半で、あとこんな事頼んでおいてアレですけど……実践はもちろん人とヤり合った経験はほとんど無いし、得意なんて言える武器もありません……」

「オーケーオーケー、問題無ェからそんな顔すんなよ。ならそうだな…………よし。とりあえず、ひたすら好きなように打ち込んで来い、ジャンゴ。技術なんかよりも、まずはとにかく目の前の敵を躊躇無くブっ飛ばせるようになることだ。加減は必要ないぞ、むしろ俺を殺すぐらいの気迫で掛かって来いっ」





 反則気味な理由で力を手に入れた自分とは違い、一から伸びようとするその小さな芽をトウガは応援したかった。付き合いの長さはとても短いものだし、今後もそれが続くかは分からない。人に喧嘩の仕方を教えたことも全く無い。それでも、彼は思ったのだ。

 ――強くなれ、と。



 ――――――――



 ルセリ・プライマ、彼女は犬族の獣人だ。その外見は他種族である人間から見ても可愛らしいと言えるものだった。子供ゆえの小さな体に付いている頭部の大きな獣耳や尻尾の存在、鼻の形に沿って獣毛があること等はそうした意味でむしろプラスに働いているとすら言えるだろう。

 さらに喜べば尻尾が揺れ動き、悲しめば耳が垂れ下がる。人間にはない分かりやすい細部の反応は本人の意思とは関係なく出る事も多いようで、それを指摘され慌てる姿も見る者を和ませてくれた。

「細部まで動く凝った仮装をした子供」程度に捉えるなら、普段人間以外を目にすることが無く他種族に多少の偏見がある人にも違和感無く受け入れられるのではないだろうか。



 少女は朝早くから姿の見えないジャンゴのことをしきりに気に掛けていた。

「どこ行ったんだろう、……やっぱり探さなきゃ」

 ルセリはジャンゴと同い年であり己が属するウルミの女児の最年長として、決して向いているとは言い難い子供達のまとめ役を、彼と共にこなそうと奮闘する少女といった一面も持ち合わせていた。そして今はそこから来る使命感が、彼女に朝早くから姿の見えないジャンゴを探すという行動を取らせていたのだった。

 行商としてウルミがあちこちに旅をすることには慣れていたが、これまでそれに大きな危険を感じた事は特に無い。大人達はみな頼りになり、死に直面するような事態など想像したことも無いからだ。

 だが昨日は違っていた。家族が傷付き倒れ、普段は穏やかな父や母が険しい顔で声を張り上げるその光景。偶然通りかかった旅の冒険者に助けられなければ、自分達は今頃どうなっていた事か。

 戦闘の恐ろしさを実感したばかりの少女はジャンゴがいないことに大きな危機感を覚えていた。それに脅威から生還した後も少年が悔しそうな、何とも言い切れない表情をしていたのをはっきりとルセリは見ている。一体何故ジャンゴがそんな顔をしていたのか分からないが、最も近しいと言える自分に何も相談しないままなことも心配を加速させていたと言えるだろう。

 ルセリもジャンゴと同様にあまりヤンチャをするタイプではないが、今の少女の心境は自身の「らしくない」行動を止められやしないのであった。



 こっそりと野営地から離れることになんとか成功したルセリはどこを探そうかとしばし思案する。ジャンゴが向かいそうな所、それを考えるがどうにもコレという決定的な場所が思い付かない。

「変な事に巻き込まれてないよね……」

 募る不安に胸中が苦しくなり、わずかに俯くルセリ。トボトボと重い足取りでなんとなく歩を進めているうちに、少女の垂れ下がった大きな耳は聞き覚えのあるよく知った声をかすかに拾い上げる。

「でも、これって……っ!」

 幸運にも自分は、探していた相手を早々に見つける事が出来たようだ。ああ、だがしかしその声は、あの恐ろしい「戦い」を思い出させる激しさを持ち合わせているではないか!

 少女は鼓動が早くなるのを感じながら、居ても立ってもいられず走り出した。









「どうしたどうしたぁっ、もっとガッツを入れてみろ!」

「はいっ!!」

 トウガは選手にパンチを打たせるボクシングのトレーナーような気持ちでジャンゴの相手をしていた。形だけの遅い反撃もたまに見せるがほぼ防御に徹して、とにかく人を攻撃するとはどういう事かを知ってもらうのが一番の狙いである。生きた対象に拳を打ち付ける感触、左右だけでなく前後にも動く相手にクリーンヒットさせる難しさ、当たったと思ったときに避けられ空振りした時の疲労具合、どれもトウガが実戦の中で感じた「やって初めて分かる」ことばかりだ。

 きれいなパンチの出し方ぐらいは先に教えるべきかもしれなかったが、それは必要ないとトウガは考える。自分のような特殊な下地が無い限り本来格闘は非常手段であり、戦闘技術は剣なり斧なりを装備してちゃんとした教師にでも見てもらうのが適切だと思えたからだ。己が教えるべき事は戦闘行為そのものの難しさを体験させ、同時にそれを乗り越える自信を持たせること。

 まぁ結局のところ、トウガも「こうするのが正しい」と断言は出来ないうえ、このような時間が今後どれほど取れるのか分からないのだから仕方が無い。短時間で習うより慣れろを考慮した結果と言えるだろう。



 闘いにおける防御とは攻撃に比べると明らかに技量が要求される事柄である。理由は簡単、防御の基本とは即ち対応力だからだ。攻撃は自分本位の動きでも形になるが、防御は相手の行動に合わせた適切な選択肢を取る判断力、さらにそれを予測しておく洞察力などがなければあまり意味を成さない。これらは経験に基づき高めた技術がなければ期待出来はしないだろう。

 トウガは格闘における指導を特に受けた事がないので、防御の多くはクロスアームブロックなどの固めた腕で被弾部位を覆い、受けるダメージを軽減するという手段を取ることが多かった。受け流したり避け切ったりするならノーダメージで済むのだが、その分難易度が大幅に違うので耐久力に自信がある彼からすればこちらのほうが実用度が高いのである。無論、状況次第でその選択が変わることは言うまでも無い。

 しかし最近はモンスターとの戦闘経験もそれなりに増え、トウガにも彼なりの戦闘感とでも言うべきものが出来つつあった。攻め時、守り時の意識の持ち方、攻守の交代の流れなどがわずかとは言え読めるようになってきていたのだ。そしてそれを活用して、彼はジャンゴの攻撃のいくつかをしっかりとブロッキングし、相手の動きの一つ一つを見極めようとしていた。

 ジャンゴの攻撃はつたないものだったが、こうした事はほぼ初めての経験だと言っていたのだからそれはしょうがない。だが繰り返すうちに、少年は早くも自分なりのコツを掴んだのか仕掛けるパンチの威力と速さを上げていった。

(こいつは驚いた)

 戦士、と呼ぶにはあまりにも未熟だろう。だがトウガには、ジャンゴがすでにゴブリンの雑兵程度の戦力は有しているのではないかと感じられていた。特にその敏捷性は戦闘経験の無い子供のものとは信じがたいレベルにあり、一流の闘士の才覚をトウガに見せ付けるほどである。

 なるほど、これが狼の始祖返りってやつか。ジャンゴは己の不器用さや魔法の適正の無さを嘆いていたが、本人がついでのように言っていた肉体的な強さはそんな軽いモノではなかったのである。薄々トウガも想像していたのだが、少年は戦闘関係に抜群の下地を持っていると見て違いない。「強くなくちゃいけない」という思いを忘れずにトウガと同程度に歳を重ね経験も積んだなら、狼の如き疾さをもって今の彼に匹敵する戦士になる可能性は十分にありそうだった。

 ジャンゴがさらにギアを上げてくるのなら、こちらももう少し反撃に力を入れるかとトウガは考えて――

「ダメだよっ、喧嘩なんかダメェッ!」

 ――突然掛けられた声にビクリと驚き、加減を間違えたパンチがジャンゴに向けて繰り出されるっ!

「あ、マズ」

 かすかに漏れ出た声と共に拳が少年の顔面へと向かう。トウガの手加減無しのパンチがクリーンヒットしようものなら、恐ろしい事態になることは想像に難くない。軽いつぶやきに反して彼の心は激しい警鐘を鳴らし始めるが――なんとジャンゴはそれを正面から見切り、きれいに避けて見せたのだった。そしてそのままバックステップで距離を取り乱入者に顔を向ける。

「ルセリっ、どうしてここに?」

「どうしてじゃないよっ、なんで喧嘩なんかしてるのっ? なんでこんな危ない事してるのっ!?」

「ぇ、や、別に僕らは喧嘩してた訳じゃないんだけど……」

 息を乱しながら駆け寄ってきたルセリを見てジャンゴは大いに驚いた。だがその驚きと先程までの運動による疲れこそ顔に出ているが、自分が極めて危険な状況を迎えていたという意識は特には見られない。どうやら今の一撃もちゃんと認識して避けたようで、先程の一瞬だけ特別な場面だったなどと思ってはいないらしい。

 うまく避けてくれたことに安堵しつつ、トウガはジャンゴの才能に感謝するのだった。



「何したのっ? 一緒に謝るから、私も謝るから。許してもらおうよっ」

「あー、ルセリ、ちゃん? さっきのは喧嘩とかじゃなくてね――」

「ごめんなさい! ジャンゴがお兄さんに何をしたのか分からないけど、怒らないでくださいっ!」

 目撃した光景が不味かったのかもしれない。まぁ大人の獣人よりも大きなハイオークをブっ飛ばす打撃が当たりかけたのだ、それを見ればジャンゴが何かやらかして、怒りの鉄拳を向けられているように思えなくも無い。ましてや争い事にまるで無縁そうな少女からすれば尚更だろう。

 どう説明したものやらと考えて頭を掻くトウガに更なる声が掛けられる。

「ルセリもそこら辺にしときなさい。二人とも困っちゃってるでしょ」

「あ、母さん」

「お母さん……」

 声の主はジャンゴ達のウルミの《母》であるマデリーンだった。その半人半馬の背に小さな子供を乗せてゆっくりと近付いてくる。

「まったく、朝早くから黙って抜け出して何をやっているのかと思えば……」

 彼女に言われ、ジャンゴとルセリはシュンとしてしまう。見たまんま親に怒られる子供達といったその有り様に、トウガはクスリと少し笑ってしまっていた。

 二人が小言を聞かされる中、急にマデリーンの背に乗っていた子が下に降りたいと彼女に伝える。どうしたの?、と言いながらも脚を折り畳み姿勢を低くするとその子は彼女の背から飛び降りトテトテ歩き、ジャンゴとルセリの手を掴んで引っ張り出した。

「にーちゃ、ねーちゃ、おぁか、すいーたぁ」

 どうやら空腹に耐えかね早く戻りたいと言っているようだ。先程までの空気もなんのその、小さな子供の素直な言葉は偉大である。同時にジャンゴの腹の虫が大きく鳴り響き、場の空気も一変してとりあえず戻ろうという事になったのであった。



 両手で兄と姉を引っ張り先頭を歩く小さな子供、その子の後ろを歩きながら、所々言いよどみつつもジャンゴがルセリに事の説明をしていた。そしてさらにその後ろでは彼らを見守るようにトウガとマデリーンが並んで歩いている。

 現れたタイミング的にマデリーンはルセリと共に来たのかとトウガは思っていたのだが、話を聞くと少女が黙ってウルミから出るところを彼女が見つけ、娘の行動に興味を持ったマデリーンは気付かれないようにその後をつけていたらしい。背中に子供を乗せていたのは……何故なのだろうか?

「うちの子が迷惑かけたね。ジャンゴもルセリも、親に内緒で他所様の世話になるなんてとても褒められたもんじゃないけれど、……自分で考えて自分で決定する子供の姿は、知らないうちに一つ成長したんだってふうにも思えて少しばかり嬉しいよ。礼を言わせてもらうさ」

「はぁ」

「でも、あの子がそこまで悩んでいたとはねぇ。見抜けなかったことも、真っ先に相談したのが親でも兄弟達でもなかったってことも、ちょっとだけ悔しいかな」

 トウガから見てマデリーンは驚くほど身長が高い。さらに今はその姉御気質とでも言うべき性格も合わさってかとても大きく、それにとても力強く見える存在感を放っていた。

(いや、少し違うか)

 そうした外から見える特徴のせいもあるが、まず第一に子を思う親の強さ。そう考えた方がしっくり来るだろうか。

「……ジャンゴは肩書きだけで言えば大きなものを背負ってる。ウルミの誰も気にしちゃいないけれど、獣の始祖返りってのは最強の戦士でなければならないって風潮もあってね。他のウルミからしたらあの子は次の《父》になって当然みたいにも思われてるんだ」

「?、それならジャンゴが強くなりたいってのも知ってたんじゃないんすか?」

「正直言うと、薄々は分かっていたよ。ただ、まだ焦る程の事でもないと思っていてね……。親としてアタシもまだまだってところか、まったく」

「ぃや、ぇーぁーだ、大丈夫ですよ、あいつすごい才能ありますって。知り合ったばっかのヤツが言うのも何ですけど、相手した俺もビビリましたよホント」

 姿形で彼らに血の繋がりが無い事は容易に想像が出来た。親としての経験が不足しているという自虐もそう間違ってはいないのかもしれないが、それを言うわけにもいかないトウガはお茶を濁すような事を口にする。もっともジャンゴの才能云々については、トウガ自身の感想を嘘偽り無く伝えているのだが。

「アンタ程の戦士の口からそう言われると嬉しくなるね、ありがとう。……ダメだねぇ、昨日のバカ騒ぎが抜けてないのか何だか口が軽くなり過ぎだよ。アンタからすればまるで自分に関係無い事言われてどうしろと?、って感じだろうに。ゴメン、忘れとくれ」



「バカァっ、強くなりたいならお父さんや皆に頼めばいいじゃないっ」

「いや、それは……その……」

 口論、とまでは言わないが、少年と少女の話は中々終わりそうになかった。気心の知れない、しかも多少恐ろしい印象すらある人物に頼る必要は無いと考えるルセリと、家族にこそ言えない、そして畏怖にも似た尊敬を持った存在に相手してもらってこそ意味があると考えるジャンゴ。

 男の子の意地によりはっきりと説明出来ない少年の心境を、年端もいかない少女が読み取れるわけも無いのでしょうがない状態でもあった。

「アンタ達、そこらへんにしときなさい。あんまりウルミの恥を外に見せるもんじゃないからね」

 溜息をつきながらマデリーンは子供達を諭した。特にキツい口調で言ったわけでもないが、トウガの目が向けられている事をすっかり失念していたルセリはそれに気付くと顔を赤くして押し黙ってしまう。ジャンゴの方はと言うとむしろルセリの追求が収まってホッとした様子であった。

 子供達のそれぞれの反応に軽く微笑みながら彼女は言葉を続ける。

「さっ、早く戻らないと朝ご飯無くなっちゃうよっ。ほらほら、急いだ急いだっ」

 トウガにも声を掛けてからマデリーンは軽く進み、先頭を進んでいた幼子を担ぐとヒョイと背中に乗せて駆け出した。子の方も慣れたものなのか慌てる様子も無く、むしろキャイキャイ笑ってすらいる。

 頭から抜け落ちていた朝食のことを思い出したジャンゴの腹が、賛同するかのように再びグゥ~と大きな音を響かせる。ルセリはそんな彼に「しょうがないなぁ」とわずかに呆れた顔をするが、自身も食い気が刺激されてきたのか母に追い付こうとジャンゴと並び走り出した。







 互いに慣れている様子のやり取りを眺めているトウガ。特に少年と少女、二人のその距離感に彼の興味はそそられていた。

「元気だねぇ。そういや家族って言っても血の繋がりはないんだから、あの二人は幼馴染でもあるんだよな。……可愛い幼馴染か、ぁー羨ましい」

 まったく、そんな仲良さそうなとこを見せ付けてくれるなよなぁ、【叩きのめして、苦痛に歪む顔を眺めながら呪い殺したくなるじゃないか】

(――――ッッ!? 今な、にをっッ!!?)

 トウガの心が驚愕に染まる。突如湧き出てきた異質な感情、それは彼自身がとても信じる事が出来ないような代物だった。

 トウガはどちらかと言うと和を好み義理人情を貴ぶ(とうとぶ)男である。それは彼本来の気質なのかもしれないし、そうであろうとする自分が好きなだけかもしれない。人の心は複雑なモノ、恐らくはその両方を併せていると見るべきだろう。

 どちらにしろ彼は己の性格が、特に嫌っているわけでもない誰かの幸せを強く妬んだりしないものであることを把握していた。もちろん人である以上、機嫌が悪い時にそうした考えを持つことがあるのは重々理解しているが、今のはそんな生易しい感情ではなかったのだ。

 憎悪、憤怒、嫉妬、とにかくネガティブな何かが平穏だった心を黒く塗り潰しかける。トウガは胸に手を当てると見開かれた目を閉じ、前の一行に気付かれないように乱れた呼吸を落ち着けるための静かな深呼吸を繰り返した。

「……ぉぃぉぃ、マジでリスクがあるんか? 勘弁しろよ、クソッタレが」

 彼の悪態は誰か特定の人物に対してのもの等ではなかった。魔力ブースターとそれを利用した異常戦闘力、極端にメリットのみが目立つその能力に、トウガが知らないだけで多少のデメリットが存在していたとしても決しておかしな話ではない。昨晩も自分の能力の不透明さに頭を悩ませていた彼は、突拍子もない考えかもしれないがその問題と突然起こった不可思議な出来事に何かしらの関連があると思ったのだ。無論、事実は闇の中だが。

 まぁ要するに、「このままこれといったリスクが無ければオレ感激」といった淡い期待が消え去ったことに、トウガの口から文句が漏れ出たのである。

 息を整えると、ごくわずかな時間でトウガの心に穏やかな流れが戻ってきていた。本当に短い間のことだったのだろうが、思い出しただけでイラついてくる。俺があんな……ッッ!!!

 認めたくない己の異常に対する怒り、ムカつきが込められてトウガの拳が強く握られる――が、それも再び行った深呼吸とともにゆっくりと解かれていった。

「はぁぁ……、こいつぁ裏が深そうだ」



 ――――――――



 人数が大幅に増えたトウガの旅は喜ばしい事に順調に進んでいった。まぁ順調とはいえモンスターとの遭遇などが全く無かったというわけではないが、オークの群れに比べれば危険性は低い敵ばかりである。

 そしてトウガにはそんな旅の行程よりも、自身の変調が気になって仕方が無いのであった。アレ以後特には何も起こっていないが、奥歯にステーキの筋が引っ掛かったような微妙すぎるむず痒さが残ってしまっている。

 一日二日と経つと少しずつ神経の過敏さも身を潜めていったが、そういう時に限って障害というヤツはやってくるのだ。トウガは心身共に落ち着ける時間はまだ先である事を理解するのであった。



 ウッドゴーレムが顔面を狙って腕を振り回してきた。その一撃をスウェーバックで上体だけ仰け反らせ避けると、トウガは拳を強く握り締める。そして上体を元に戻す勢いを拳に乗せて右のロングアッパーを敵の顎に叩き付けると、さらにパンチのコンビネーションを続けざまに仕掛けていった。

 まず前進しながらの左のリードジャブで間合いを調整し、さらには伸ばした左腕を「く」の字にまで戻し固定すると、それを腰の回転で強力な首刈り鎌へと変化させる。鋭いレフトショートフックは木偶人形の頭部を刈り取り、頭を失ったゴーレムはフラフラとよろめいた後力無く倒れ込んだ。しかしこれで油断するようでは命取りに繋がると、トウガは今後も心すべきであろう。

 わずかに間を置いて、次の一体が横から不意打ち気味に襲い掛かってきた。反応自体は出来ていたが意外に速度のあるゴーレムの攻撃にトウガは防御を失敗してしまい、彼の両肩に激しいビンタのような二つの振り下ろしが打ち付けられてしまう。

「っが……痛ェよ、こんのスカタンがぁっっ!」

 攻撃を喰らってしまったが、それに押されてしまうわけにはいかない。両肩に置かれたウッドゴーレムの両腕を逃がさないように鷲掴むと、トウガは軽く頭を引いて歯を食いしばり――呼吸を止めた後一気に前頭部を突き出したッ!

 ヅヅ! グヅ……

 妙に乾いた音が響き、低い唸り声を上げる木偶人形にたたらを踏ませたその攻撃は、何ともまぁ見事な「頭突き」であった。むしろパチキ、チョーパンとでも言った方が似合うかもしれない気合の一発である。

 そして彼の攻勢はまだ続いている。頭突きとともに手を離し間合いが広がるのを確認すると、彼はステップインしながら右脚を大きく蹴り上げ敵の胸板を踏み抜くような重いキックを喰らわせたのだ。前進する力をそのまま蹴り飛ばす事に転換したような重量感たっぷりの一撃、ダッシュハンマーキックとでも言うべきだろうか。単純だが、だからこそ堅実な威力を生むであろうと思われる蹴りだった。



「ダブルッ、ファイアウェイブッッ!!」

 ユナの腕が地面を擦るように振り上げられると彼女の目の前に小さな火柱が出現する。そして追加でもう一方の腕も同じ軌道を描くと、小さな火柱は出力を増して前方の敵目掛けて走り出した。以前トウガとの闘いでも使ったことがある炎の魔法だが、あの時とは違いデーモンの力は使えないので詠唱、大きなモーション、それなりの魔力消費と色々面倒が増えている。しかし人間の姿のまま力量を上げるという目標があるユナからすれば、それらは決してただ不都合なだけでは無いのであった。

 地を駆ける炎の固まりはウッドゴーレムに当たると激しく燃え上がり敵を焼き尽くしていく。弱点をついた見事な攻撃は、それを傍目で見ていた者に新たな奮起を与えたりもしていた。

「こっちも負けてらんないね、まだまだ行くよっ!」

 トウガと多少距離を取ったところでユナやゴードン達も戦闘を繰り広げていた。とはいえウッドゴーレムの集団に遭遇するのは嵐や雷雨に見舞われたのと同じようなものであり、言わば自然災害の一種である。以前のオークなどとは違い大した目的も無く、しばらくしのぐ事が出来れば問題無いと判断したゴードンの指示により、彼らのほとんどはゴーレムを馬車や子供達に近付かせない程度に牽制するのに終始していた。

 ユナやマデリーン、他にも数名が前に出て積極的な殲滅をしているが、彼女らも比較的余裕のある立ち回りを心掛けており、複数を相手取った戦いはしていない。ただ一人、トウガを除いては。

(どうしたのじゃ、トウガ。妾の目には、そなたが荒れておるように見えるぞ)

 トウガが率先してモンスターハウスに挑むことはさほど珍しい光景ではない。これまでも何度か見てきているし、プライマというウルミの一団も加えた場合の彼の立ち位置を考えてもそれほどおかしくは無いだろう。

 だがその相も変わらぬ荒々しい戦い方が、今回は何だか溜まった鬱憤を晴らしているようにも感じられ、ユナにはどうにもそれが気になってしまうのである。超人的なパワー主体なのはいつも通りだが……、ほら、ちょうど今、敵を頭上に担いだその姿も――。



「う゛る゛お゛お゛お゛ッ!!」

 木偶の首と股間をがっちりロックして地面と水平に持ち上げたトウガは、先程蹴り飛ばした一体の上に狙いをつけ思いっ切り投げ落とした。ミチミチと音が聞こえてきそうなほどパンパンに膨れ上がった腕が行う一投は、ゴーレム同士のぶつかり合いも加え大きな衝撃となって周りに響きわたる。

 これはボディスラムというプロレスにおける基本的な投げの一つだが、単純な内容に反して落とし方次第で威力の調節が出来るなど使い勝手も悪くない技である。そしてとにかく腕力を誇示するようなその技の有り様は、もし純粋な観客がいたならば十分な興奮と高い爽快感を与える事だろう。

 そしてトウガはそこから間を置かず、大きく跳躍して空中で両膝を抱え丸まろうとする。重なりながらもまだ動きのある二体のウッドゴーレムにトドメを刺すべく、フライング・ダブルニードロップで追撃を行うつもりなのだ。回転まで加えた人間砲弾は確実な致命打になるに違いない。

「――ッッァァアア!!!」

 雄叫びを上げながらトウガは目標の真上に爆撃落下する。大地を揺らし舞い上がる砂埃、ゴーレムを完全に押し潰した見事な攻撃だったと言えよう。

 しかし、だがしかし何という事だろう。たった一つ、ある一点だけがその完成度にケチを付けてしまっている! 威力、スピード、状況判断、そういったものでは無い。ただ一つのミスっ、それは――――尻から落ちてしまった事だった。

 痛すぎる失敗っっ! これではフライング・ダブルニードロップではなくダイビング・ピーチボンバーではないか、技そのものが変わってしまっているっ。どうやら回転の勢いを計算しきれず、着地の瞬間の体勢を間違えてしまったようだ。

 丸めた膝を両腕で抑えていた為、膝ではなく尻から落ちたその姿はまさに体育座り。ゴーレムの残骸の上に鎮座する肉厚な戦士の雄姿、すんげぇカッチョワリィ。









 体育座りのまま佇むトウガに、一息つきながらユナが近付いて来た。見た限りでは先程彼が仕留めたのを最後にモンスターの湧きは納まったようだ。

「お疲れ様じゃな、トウガ」

「ああうん、そうねー」

 何だか遠い目をしつつ、彼は首だけ動かして答える。実のところ、ユナの感じた事はおおよそ当たっており、トウガは戦闘のある程度をストレス発散のような感覚で行っていた。少しずつとはいえ溜まっていたイライラを知人にぶつけるほどトウガは精神的に未熟なつもりはないが、先程のような戦闘ならば話は別と思ったのだ。大した脅威ではなかったとはいえこの行い、進歩の無い男である。

 しかし戦闘の終了を迎えた事によりいくらか頭の冷えた彼は、先程までの自分の行動を軽く振り返り、今はその反省をしている最中なのであった。

(何やってんだろね……ったく)

 ついでに言うと、ニードロップの失敗で素晴らしい状態になってしまった気恥ずかしさも幾分あったのだが……コレに関しては取り立ててトウガが思うような滑稽なモノを見る目は周りに存在しなかったりする。

 そもそもトウガがバトルで繰り出す戦闘技法は、この世界の住人から見てほとんどが風変わりなモノに見えるのだ。打撃の分かりやすい技あたりならともかく、投げを含んだ『魅せる』技術体系のアーツの数々はハッキリ言って異質としか言いようが無い。けれどもそれらを使い凶悪なモンスターを撃退する彼の姿を知っている以上、トウガの技は彼らに「動作はともかくこの男が戦ううえで有用なのは間違いない」と認識されていたのだ。

 その結果、桃尻アタックも失敗ではなく元からこういう技であると思われ、敵を倒す破壊力は十分だったので「変わったモーションだな」程度に受け取られていた。

 この事実にトウガが気付いたなら、ギャグが失敗しただけでなくそもそもギャグを出した事自体に気付かれてすらいない芸人のような、ひどく切ない気分になっていたのかもしれない。



「目的地を前にして足止めを喰らうとはな。しかしアンタらのおかげで大した怪我人も出ちゃいない、今回も礼を言わせてもらおう」

「えーあー、はい」

 獣人達の長であるゴードンが声を掛けてくる。ほどほどに気が晴れたトウガは頭を切り替えよいしょと立ち上がると、軽く返事をしながらゴードンが口にした「目的地」に目をやった。

 大きな港を持ち、物資の流通の多様性により活気に溢れているという巨大都市「ケルエル・ベルネス」。都市と呼ばれはするが実際その大きさは大国に勝るとも劣らない。商人だけでなく珍しいアイテムを求める旅人や、いわく付きの品を売り捌こうとする冒険者など人の出入りには事欠かないらしい。

 ゴードン一行には交易の為という分かりやすい理由があったのだが、ユナとレシャンがここを選んだのはその都市としての在り方ゆえの雑多さを狙ったからであった。多少いかがわしい人物も多く出入りしている都市ではあるのだが、その分そうした影が自分達に対する追跡の迷彩になるだろうという考えだ。

 見方によっては逆に当たりを付けやすそうとも思えるかもしれないが、そこから細かい場所を割り出そうとすればその出費は他の街等よりも随分高くなるのは間違いない。つまり、それらも含めての予防線なのだ。まぁもう気にする必要は薄いのかもしれないが、一応これが彼女達の逃避行の総仕上げというわけである。

 なおレシャンは姪のカースを解くアイテムを求めてこの都市を訪れたことが何度かあり、ここでの立ち回り方もそれなりに分かっているとの事だった。

「済む所と付き合う相手を選べばいいの、それだけよ」



 目で見えていたとは言え、それは日本の都会等とは比べ物にならないぐらい見渡しやすい地形のおかげであり、目的地に着くまでトウガはまたしばらく馬車で揺られていた。そして外壁に設置された関所が確認出来るぐらいに近付いてから、レシャンとゴードンはそれぞれの集団の代表として都市に入ってからの行動を互いに確認する。

「俺達は大人数だからな、まずは留宿所で場所取りだ。そっちも似たようなもんだろ?」

「ええ、まぁそうなんだけど……」

 留宿場とは都市の内部に設けられた専用キャンプ場のようなところである。宿を取るには荷物が多く管理が厳しい、住居の購入を検討していてもすぐに出来るわけではない等の理由から、主に自前の馬車等を持つ外からの来訪者用に作られている場所だった。ごく普通の広場に過ぎないので野宿とあまり変わりは無いが、食べ物や水を買って来れる点と簡易便所の存在、そしてモンスターがいない事だけでもその価値は高いだろう。ただ盗人など外とは違う別の注意事項も当然あったりはするのだが。

 ゴードンは広く場所を取る必要があるのでその料金の事や、そもそもそれだけの固まったスペースが現在あるのかなどを気に掛けているようだったが、レシャンはそれとは少々風向きの違う事を考えていた。

(ユナちゃん、彼に説明しているのかしら……)

 彼女の心配はトウガがどう動くのか把握していなかった事にある。ユナからは彼の生活の面倒を見ると聞かされており、二人の仲を進展させたいレシャンはそれならばと良い考えを持っていたのだが……肝心のトウガが何だかそれを聞いてないような気がしてしょうがない。

 獣人達とも普通に係わりを持っていた分、レシャンが見る限りでは二人の話す時間は明らかに減っていたように思えるのだが、それが関係しているのではないか。そして案の定……







 通行料や冒険者の認識プレートなどの提示を済ませ、無事に都市の中に入り一団が留宿場に馬車を進ませる途中、トウガは自分の荷物をまとめるとユナと手綱を握るレシャンに声を掛けた。

「そんじゃ俺は自分の宿を取りに行くよ。拠点が決まったらまた顔出しに来るからそんときゃヨロシク」

「…………何じゃと?」

「あぁレシャンさん、報酬は落ち着いてからでいいですよ。今回けっこう台所事情が大変だったみたいだし」

 どうも彼らの意志の疎通は取れていなかったらしい。ユナは一応とは言えトウガに「住む所の面倒を見る」と宣言しており、同居的な意味で今後も距離が近いからこそ彼との時間が減ってもそれほど気にはしていなかったのだ。

 しかしトウガの方は彼女とは違う考えを持っていたようで、住居の面倒云々のセリフはとりあえず覚えているが、それはそうした施設への口利き、紹介といったふうに思っていたわけである。

 これに関してはどちらが悪かったかとは判断しづらい状況と言えるだろう。ユナの方は一杯一杯になりながらもなんとか口にできたような言葉だったので、それ以上の確認は酷としか言いようが無い。

 だがトウガも彼女の言葉の意味を捻じ曲げて理解したとは言い難く、むしろ親戚でもない若い女性二人の家族の片方から「面倒を見る」と言われて、それを「一緒に住む」と解釈する方がヤバイ気がしないでもない。仮に現代日本でそんな状況になったなら、まずは不動産や良い物件の紹介などを期待するべきではないだろうか?

 そしてそのうえで彼は、自分達も新しい住まいを探さなければならない二人にさらなる世話を掛けるより、己の宿ぐらいは護衛も終わり身軽になった自身の足で見つけようと思ったのだった。つまりユナやレシャンの事を考えたからこその行動なのだが……何という皮肉。ついでに言うと、生活面で世話になりっぱなしの男より評価上がるんじゃね?、とか思ってみたり。ほとんど逆効果みたいになってるが。

 結果的に妙なズレが生まれてしまっていたが、この話で誰が悪いのかなどと決めるのは少々ナンセンスと言わざるを得ない。まぁ哀しいすれ違いはよくある話である。



「ゴードンさん達にも挨拶しておくか。じゃ、またねー」

 自分の荷物を持ちトウガは馬車から飛び降りる。何と言えばいいのか分からないユナは、それを半分呆けながら見送った。トウガが見えなくなった後、二呼吸ほど間を開けてから彼女はコテンと横に倒れ込んでしまう。

「……よかったの?」

「いいわけあるくわぁ~」

 何と表現すべきか、少女のぬるい雄叫び?であった。

(そりゃの、妾だってちょっとはおかしいと思ったんじゃよ? スムーズにいき過ぎるなぁーとかアレとかコレとかソレとか。でもよりにもよってこんな寸前で言わんでも……のぅ)

 不貞腐れるように形の良い眉を歪めるユナ。今から追いかけてトウガに文句の一つでも……言えたならこんな事にはなってない。惚れた弱みにしても度が過ぎるかもしれない事はユナ本人も一応分かってはいるが、素の状態の彼女にトウガの行動を否定するような考えは口に出来やしないのだ。

(少しでも嫌われたら……。ふん、怖いモノを怖いと思ぅて何が悪い)

 そうじゃそうじゃ、と自分なりに納得した彼女は、寝転んだまま馬車の外に顔を向けトウガの背中を捜した。

(お、目標発見…………アレ?)



 頼りになる戦士の背中。そんな彼に近付いて、けっこう派手な服を着たオネーサンがその腕を引っ張り、それなりに派手な建物の中に消えていく。そんな光景が見えちゃって。

 アレ? これってそれってもしかして? ――アレ?

 ――――ふ、ふふフ、そうか。貴様、妾の元から出て行った(大げさ)トウガを狙って……っッッ!!!

 みなぎるパゥワーッ、溢れる闘気ッ。立てよ乙女っ、これより開かれるは女の聖戦っ、ジハードなりッッ!!!







 トウガの行動を否定したくないと思った彼女がこのような考えを持つのはおかしいのだろうか?

 いいや、何も間違っちゃいない。だってこれは『無理に連れて行かれたトウガのため』なのだ、そうだろう?

 ……屁理屈ここに極まれり、などと考えてはいけない。結局、これも惚れた弱みゆえ、である。

 問題があるかどうかは――――ユナがどう動くか次第だ。



 ――――――――



 お久しぶりでございマッスル、約半年振りの15話です。作者は年末になるにつれリアルが忙しくなるので遅くなりました。遅筆がデフォルトなのも変わっていませんが……。そして今回も描写は少々長ったらしいです。あとユナがオチ要員になりつつあるパターンもどうにかしたいです、反省。

 ダイビング・ピーチボンバーはにわのまこと先生のTHE MOMOTAROH(ザ・モモタロウ)の技ですね、本来はローリングアタックみたいな使い方ですが。そこまで有名な漫画ではありませんけども、個人的には格闘、ギャグの両面でトップクラスに好きな作品です。特にもんがー大好き。

 種族の定義について出ましたが、このお話では人類や人という言葉は人間のみを指しているのでは無く、人間はあくまで数の多い一種族に過ぎないという扱いです。ニンゲン、ジュウジン、エルフ、ドワーフなどと書くと分かりやすいかもしれませんね。

 あと元々あった厨二的な最強系のノリに加え「内なる変化」みたいな厨二成分を増す要素も加わりました。ただ少しネタバレすると、これが直接主人公のパワーアップフラグであったりはしません。なのでそういった期待をされた方がいたならば申し訳ない、とだけ……。


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