「男の子ってどうやったら出来るんだろうな」
「知らんがな」
冷えた麦茶を求めてリビングに入ったら、父さんが遠い目をしながらそんなことを聞いてきた。
ちょっと落ち着けよ。一応思春期ですよ私。
いやまぁ、今日は母さんが検査の日だってことは知ってるから、お腹の赤ちゃんの性別が判ったんだなぁと予想は付くんだけどね。
携帯電話片手に悟りでも開いたかのような表情で外を眺める父さんを見てると、なんだか哀れに思えてくる。
気持ちは分からないでもない。
一家は現在4人姉妹な訳で、女5人に男1人な家庭な訳で、私はその長女な訳で、親戚もほぼ女な訳で。
父さん激しく息が詰まってるんだろうなぁ。
私じゃ、どうしようも出来ないんだけどさ。
冷蔵庫からパックの麦茶を取り出してガラスのコップに注ぐ。
麦茶の透明感のある茶色は、夏の暑い日だとすげぇ美味そうに見える不思議。
麦茶で満たしたコップ片手に、座布団に胡坐を掻く父さんへと近寄る。
「おらっ、腕っ、邪魔っ」
ゲシッと座るのに邪魔な腕を蹴り掃って、父さんの膝に腰掛ける。
いくらかお尻をズラしてベストポジションを見つけてから、父さんに背中を預ける。
やっぱり落ち着くなぁ。
「で、女の子だったの?」
「まぁ……うん。……嬉しいけど、複雑な気持ちだ」
なじるためにあえて聞くと力ない返事が返ってくる。
そりゃあ父さんだって親なんだから、男の子な我が子とキャッチボールなんて夢もあるんだろう。
真相がどうであれ14歳の私には到底理解出来ない気持ちなのは確かだ。
それでも溜息は吐かないあたり、女の子が生まれるっていう覚悟はしていたんだろう。諦めとも言えそう。
まぁ私としても、妹達にしても、今頃男の子が生まれられても困るんだけどね。
だって男の子が生まれたら、父さん絶対息子を贔屓するだろうしさ。
ただでさえ父さん母さんにベッタリなのに、そうなったら私達の立場が無くなっちゃう。
「いいじゃんハーレムじゃん羨ましがられるじゃん」
「母さん以外全員と血繋がってるんだけど。それってハーレムって呼ばないだろ」
「でもご近所じゃ美人一家として評判だよ」
「父親として誇らしいだけだから、誰も嫁にやる気ないから」
「うわ実の娘に独占欲とかキモイ」
「親心って言えよ!」
「でも実は誰とも繋がってない、とかそんな話あるかも知れないじゃん?」
「それは父さんにショック死しろって言ってるのか」
「流石にそれは困るなぁ」
「だろ」
「お小遣い貰えなくなるし」
「泣きたくなるな」
「嘘うそ、お父さん大好き」
「気持ちが篭ってなくても嬉しくなってしまう親心は複雑だなぁ」
お腹に手をまわされてギュウってされる。ぐへ。
いや本当に大好きですよ? 面と向かって訂正するのは恥ずかしいから言わないけど。
ゴールデンウィークには車借りて遠出してくれるし、夏休みには宿題手伝ってくれるし、クリスマスには毎年くっそバレバレなサンタの格好で夜中にプレゼント届けてくれるしエトセトラエトセトラ。
良い父さん持ったなぁって思うよ本当。
毎回イベントの後、すごいダラけるけどさ。私もダラけるんだけどね。
臭いこと言ったせいか「お父さん大好きー」とか「お父さんと結婚するー」とか言ってた過去が頭に浮かんでくる。
すぐさま膝に顔を埋めて必死に恥ずかしい過去が過ぎ去るのを待つ。
ああそんな過去もありましたね私。
あの頃は純粋無垢でしたね私。
ちょっと落ち着けよ私。
「……気分悪いのか?」
背中から父さんが声をかけてくる。
そっと背中を摩ってくるのやめてくれませんかね。恥ずかしい過去がモリモリ浮かんでくるので。
「そういえばさ、父さんって母さんとどうやって知り合ったの?」
気持ちを切り替えようと父さんと母さんの馴れ初めを聞く。
かなり思いつきだったけど、ちょっと良い質問したなと思ったり思わなかったり。
なにしろ母さん10台で私を生んだって話だ。そりゃあ何か運命の出会い的なものがあったんだろう。
若気の至りとか言われたら聞かなかったフリするけど。
「ん? なんか、おにぎりお供えしたら家に押しかけてきた」
「……」
なんか、あからさまな嘘を吐かれた。
後を向いて父さんの顔を見ると、平然とした顔でとぼけている。
「私、彼氏出来たんだ」
「えっ!?!?」
ちょっと頭にきたので私も嘘を吐き返すと、玄関の扉が開く音が聞こえる。
「ただいまー」とお母さんの声が聞こえ、続けて妹達が「ただいまー!!」と声を重ねて家中に響かせてくる。
母さん達を迎えに行くついでに後を振り返ると、父さんはヤムチャみたいな格好で床に倒れこんでた。
なら嘘なんか吐くなと思いました。まる。
一応思春期ですよ私。心無い嘘には傷ついたりもします。
「母さんおかえり」
「ただいま~」
「お姉ちゃんただいまー!」
「ただいまー!」
「いまー!」
玄関へ行くと母さんは妹達の靴を脱がせてる最中だった。
私も母さんを手伝って妹達3人の靴を脱がしてやると、3人ともすぐさまワイワイとはしゃぎながら2階に上がっていく。
いつも通り、おままごとでもしに行ったんだろう。
私と妹達はちょっと歳が離れているからか、遊びの種類が噛み合わないのが最近の悩みだ。
流石に14にもなっておままごとは、ねぇ? 漫画とかアニメとか、そういうのを勧める訳にも行かないし、うーん。
妹達との関係に頭を悩ませていると「留守番ありがとね~」とお母さんがほっぺにキスをしてくる。
暑いのが嫌だから留守番なんか平気なんだけど、褒められると嬉しいので黙っておく。
「お父さんは? 起きてる?」
「父さんならリビングで寝込んでるよ」
「え? 寝込んでるの?」
「母さんとの馴れ初め聞いたら「おにぎりをお供えしたら、家に押しかけてきた」とか嘘吐いてきたからさ、彼氏が出来たって私も嘘ついてやったらそうなった」
「……あー、んー……まぁいっか、お父さんだしね」
「だよねー」
2人であはははと笑いあう。
お母さんはなんかちょっと無理してるっぽかったけど、お腹に赤ちゃん居るし仕方ないか。
けどもう3回目になるけど、お母さんの大きなお腹を見てると生命の神秘とか、そんなものを感じる。
私もここから生まれたんだなぁ。とか思ったり。
ちなみに三女と四女は双子だ。
ポンポンとお母さんのハリのあるお腹を撫でてから抱きついて、お腹に耳を当ててみる。
トクントクンと何かが鼓動する音が聞こえてくる。
「また妹が出来るんだ」
「……お母さんがんばって元気な赤ちゃん産むから、お姉ちゃんもがんばってね」
「うん」
家族が増えると思うと嬉しくなってくる。
でも母さんからの愛情も父さんからの愛情も、また少し減っちゃうと思うと悲しくなる。
そんな私は一応思春期です。
△▽
MVPは女の子。
多分逆レイプ。その後も多分かなり献身的だったと思われる。
娘は、髪は黒の目は赤、目付き主人公の容姿女の子。
家族でオセロが出来そうな感じ。