朝。カーテンを透過してくる日光を瞼に受けて意識が覚醒する。
昨日早めに寝たせいか頭は起きる準備万端であり、いつものように2度寝を要求しようとして来ない。
俺の意思的には習慣的に2度寝に走りたいのだけれど、意思の上位存在な本能さんが起きろというのなら仕方ない。
鼻で思いっきり息を吸い込み肺で欠伸に精製して口から吐き出す。
さてと起きる―――前に、この目の前で眠っている女の子は何なんだろうか。
「むにゃむにゃ」
「……」
白い髪と同じ色をした睫を揺らして女の子は実に幸せそうな表情で寝ている。
漫画的な寝言を吐いては猫のように背を丸め、俺の首に巻きつけるように乗せている右腕の角度を変える。
気付けば腹の上に重みがあり、視線だけをそっちに寄越してみれば案の定女の子の右足が乗っていた。
思わず口端が引き攣る。呆れで。
顎を寄せれば口付け出来そうなくらいに顔を寄せてくる女の子はまったく無防備で、警戒心を微塵も感じさせない。まぁ寝ているから当然か。
改めて見てみると、整った顔立ちが嫌でも目に入ってくる。
どこがどう、とまでは詳しく表現する語彙が乏しいので説明できないが、強いて言えば2次元染みているという感じか。
……難しい言い回しなんて考えなければ『美しい』とか『可愛い』とかで済むんだけどな。
とまぁそんな感想を漏らす暇は無い、あるけど無い(モノローグ中はDIO様の時止め並みに時間の進みが遅いのだ。あんだけ走ってたのに2秒しか経ってないのはおかしいですよDIO様)。
端的言えば体の一部がピンチだ。
当然、下半身的な意味ではなく上半身的な意味でつまりは腕だ。
何故だか女の子が枕にしているのは俺の右腕だ。そして右肩から先の感覚が、無い。
後は分かるな。
試しに右腕を挙手させてみると見事に真っ青だった。いつから寝てたんだよコイツ。
というか枕にすんな。
「ムニャム―――」
「ドスコーイッ!!」
俺は怒りに身を任せ左手でツッパリを繰り出して、ベッドという土俵から女の子を突き落とした。
天使な寝顔な女の子がベットの影に消えたすぐ後に落下音が耳に届いた。ついでに「ほわぁっ!?」て叫び声も聞こえた。だからルルーシュかお前は。
長らく血流を悪くしていた影響か、女の子の頭が離れた途端に鋭い痛みが右腕全体を駆けた。
血が巡っている証拠だから仕方ないと割り切り、腕の機能回復に向けて手の平をグッパと開閉する。
右腕全体から痺れが消え去った所らへんでベットの端に2つ手が掛かった。無論女の子のだ。
ダースベイダーのテーマでも聞こえてきそうな感じでゆっくりと女の子の頭がベットの影から上がってくる。
そして顔半分、鼻筋の部分が見えた所で女の子の浮上は止まった。
女の子は半目で俺を睨んでくる。俺も半分嘲笑を込めて睨みかえした。
「お尻打った」
「さいですか」
「お嫁いけない」
「お前どんだけひ弱なんだよ」
「責任取って婿に貰らわれてもらう」
「俺が貰われるとか斬新すぎます」
「結婚はいつでもフレッシュ」
「だったらバツ2とかバツ3とかのフレッシュ具合はヤバいな。軽くキまってるんじゃね?」
「恋は新鮮」
「その先の愛は陳腐だけどな」
「過程は大事」
「行き着く結果は全て同じじゃん」
「結果には過程が残る」
「そんなのフラガラックでアンサラーしてあげます」
「ゲイボルグで迎撃します」
会話の間にベットから起き上がって洗顔を済ます。歯磨きは朝食の後だ。
いつかに買った料理本を手にとってパラパラと捲り、今の冷蔵庫の中身を思い浮かべる。
冷蔵庫君と相談を終えて目に付いたページにドッグイヤーを施す。
野菜入れから半分に切ってラップで包んであるキャベツを取り出し、とりあえず千切りにする。
「なになに、なに作る気」
「サンドイッチ風サンドイッチのサンドイッチ和えのサンドイッチ添え」
「まるでサンドイッチのバーゲンセール」
「ミキサーにかけるのがポイントです」
「最後に飲み物になるんですね。わかります」
「そろそろお前も包丁ぐらい覚えたほうがいいと思うので、ここのキャベツ君を切らせてあげます」
「作画崩壊ですね。わかります」
包丁を反転させて差し出すと女の子は素直に受け取った。
しかし受け取ったはいいが持ち方が……なんつーか鷲掴みなんだよな、以前やらせた時はこの時点で恐怖を覚えてやめさせた。
見よう見まねな猫手をして女の子が右手でキャベツを押さえる。
そして明らかに大降りに包丁を持ち上げ、振り下ろした。
ザンッ! て音がした。マジでザンッ! て音がした。日本刀で人を斬ったような錯覚すら覚える聞きなれない音だ。ちなみに『斬』っていう神漫画がありましたが打ち切られました。
見ると包丁は見事にキャベツの半分らへんで刺さって止まっていました。
これは……女の子大丈夫か?
少し心配になって腰を曲げて女の子の顔を覗き見た。いつも通りな無表情な女の子だった。
「か~な~しみの~向こ~う~へ~と~」
女の子がいきなり歌い出した。ダメだったらしい。額に大粒な汗が浮かび始めるのが見て取れた。
「あ~はいはい分かった分かった。分かったからその包丁下ろせ」
ぷるぷると震えながら女の子が包丁を両手に構えてこっちを向いてきたので多少焦る。
左手の人差し指から赤い血が溢れてきているのが分かる。相当痛いらしい。気を紛らわすためかはわからないけどまだ欝ソングを歌っている。
そりゃあ人参切るときに使った皮むきでも、ああなるんだからなぁ。
俺は薬を纏めて入れている棚から絆創膏と消毒液を取り出して女の子の腕を取る。
戻ってくる頃には床に数滴血が垂れていた。噴出している指は既に血塗れだ。
消毒するにも絆創膏貼るにも一度血を落とさないとダメだ。台所の蛇口を捻って水を吐き出させる。
「痛いぞ」
「うん。貴方がしてくれるなら耐えられる」
「なんという愛の告白。これが本番なら間違いなく惚れている」
「惚れて」
「好きだ……と見せかけてドーンッ!」
「ギャーッ!」
手を引っ張って流れる水にその指をつっこむ。ビクンと腕が跳ねた。
顔を見るとめっちゃ涙目だった。紛らわすためなのか、女の子は二の腕をグイグイと抓っていた。
水から指を離れさせてみる。
幸いなことに傷は浅い。だけど出血のほうが中々だ。これじゃ絆創膏つけてもすぐ剥がれる。
「出血収まるまで吸っとけ」
「吸って」
「アホか」
「痛い。傷口突っつくな」
「もうお前邪魔だからテレビでも見とけ」
女の子に治療道具を渡して今へと追いやる。しばらくしてテレビの雑音が聞こえてきた。
俺が楽をするためにも順を追って教えないとダメっぽいな、今度は切り方からちゃんと教えてやることにしよう。
女の子の血が付いた部分のキャベツを捨てて千切りにする。半分ほど残してまたラップで包んで冷蔵庫へと戻す。
しっかしなぁ、こんな切って挟むだけの料理なんて料理本に書かなくていいと思うんだよね。
教えてもらわなくてもできるっちゅーねん。
本が指示すると通りにパン半分にしてキャベツとその他切った食材詰めてマヨネーズ塗って切って、はいお終い。
レパートリーが1つ増えたけど、正直増えてもあんまり嬉しくないなサンドイッチ。
居間にサンドイッチを持って行くと、女の子はシュンとした表情で指を咥えて仮面ライダーを見ていた。もう今の仮面ライダーどんなのかわからんわ。龍騎までは覚えてるんだけどな。
サンドイッチを乗せた皿をテーブルの中心へと置き、定位置へと座る。
少々不恰好なそれを手にとってしばらく眺めた後に食べる。うん、普通に美味い。普通に。
モシャモシャと2口で完成。
2つ目に取り掛かるが女の子は視線を向けただけで手に取ろうとはしない。
「食わないのか?」
「わたし料理上手にならない」
「……そりゃまぁ得手不得手はあるわな。俺も教えてないし、あむあむ」
「傷つくってばっかり」
「ゴクンっと。人って拍手するだけで手の平の毛細血管千切れるんだぜ。知ってた?」
「悔しい」
「悔しいと思えるんなら上手くなるんじゃね。出来ないからもうしないってより全然マシだわな」
「今すぐ上手くなりたい」
「……何? さっき俺が邪魔って言ったの真に受けてんの?」
「……10分1くらい」
「せめて2分の1にしろよ。どんだけなんだよお前」
「ドジっ子と料理出来る子どっちがいい?」
「ドジっ子はリアルに居るとムカつくってこなたが言ってた」
サンドイッチを1つ取って女の子の口元へと運んでやる。
女の子は1口齧った後、自分で手に持って咀嚼し始める。「美味しい」と言われた。
「というわけでこれから料理出来る子目指します」
「ぜひ食べた人が口からビームを吐き出せるようになるまで頑張るんだぞ」
「わたしは美味しんぼ派」
「どうせ海原雄山がツンデレってことぐらいしか知らないんだろ?」
「なぜわかるのか」
「俺もそれぐらいしか知らないから」
「わかった。貴方もツンデレだからだ」
「俺はツンデレじゃないから」
なぜかヴェルダースオリジナルのおじさんが脳裏をよぎったがすぐさま振り払った。
完食して食器を台所へと運ぶ。
うん。複雑な工程を挟まないから食器洗う手間省けるな、サンドイッチ楽でいいかもしれん。
まぁ洗うのは女の子だけどな。
「今日は大学あるの?」
「日曜だから無いな」
「バイトは」
「今日は休みだな」
「じゃあ1日ゆっくり出来る」
「そだな」
「1日一緒に居られる」
「そだな」
「嬉しい」
「そだな……って、は?」
「暇つぶしが出来る」
△▽
書いてる自分がイチャついてる2人にイラついてるってどういうことなの。
2人の背丈的な物
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader1064366.jpg
ちょっと修正上げ。右手の人差し指→左手の人差し指